「え~と。つまり、お前は恋人と生き別れてしまい。7年かけてやっと会うことができたが、その恋人は他の男と結婚していて、なおかつ子供まで授かり幸せになっていたと?」
結婚していたかは知らないが。
「……まぁ。そうなるな」
俺は今、成都の酒場で酒を飲んでいる。
白い鎧を身につけ、赤い髪をポニーテールの様にまとめたとても人のよさそうな顔をした女性に愚痴を溢しながら、という情けない有り様ではあるが。
「そ、そうか……」
掛ける言葉がみつからないのか、苦笑いを浮かべながら酒を勧めてくる。
「まぁ、飲めよ。ここは私が奢るからさ」
「……悪いな」
俺はあの後、すぐに洛陽を離れこの成都に来ていた。
ただなんとなく来たわけではない。目的は7年前の終端の地、大陸を統一した覇王にさよならを言ったあの場所だ。そこで気持ちの整理をつけたかった。
すぐに気持ちを切り換えることなんてできやしないが、来て良かったと思っている。
あの場所で自分を見つめなおし、なおかつ目の前の女性に愚痴っていたら結構前向きに考えられるようになってきていた。
たまたま店で知り合ったのだが、この女性には感謝せねばなるまい。
「……ありがとな」
「ん、なんだよ、いきなり?」
「いや……初対面の人間の愚痴なんて聞いてもらったからさ」
「いいさ。人間、生きていれば愚痴を吐きたい時もあるだろう?
……私だって……その……いろいろあるしな……」
この人もいろいろ溜まっているようだ。
「なら、今度は俺が話を聞こう」
「え!?い、いや……しかし……」
「君に話を聞いてもらって少し楽になったからね。こちらもなにか返したい。話を聞くことくらいさせてくれないか?それで少しでも君の気が晴れるのならば、こちらとしても僥倖さ」
「そ、そうか?……う、う~ん………それじゃあ、その言葉に甘えさせてもらおうかな」
「それで?上司とうまくいってないとか?」
「え、え~と……そーゆーのじゃなくてさ。……私、みんなに普通とか、影が薄いだのとさんざん言われるんだ。……この前なんか、ずっと隣にいたのに、『おや、そんな所いたのですか?』なんて言われてさ……私、そんなに影薄いかな?………てゆうか普通なのに影薄いってなんだよ?それ、もう普通じゃないじゃん!並以下だろ!!大体あいつらが濃すぎるから、私が―――――――」
「……………」
よほど腹に据えかねていたのか、女の愚痴は終りがみえない。
……今夜は長くなりそうだ。
……………………………。
……………………。
「いやぁ~。なんか悪いな、最初はお前の話を聞くつもりだったのに。後半は、ほとんど私が喋っていたようなものだったからな」
「かまわないよ。俺も君には散々愚痴を吐いたからね。お互い様ということにしておこう」
二人で店を出た頃には、もう夜が明けていた。
「おっ、朝日だ」
声につられて顔をあげる。
見上げた空は、昇り始めた太陽によってとても美しく輝いて見えた。
新しい一日の始まりだ。
(俺もここで新しく始めよう)
朝日を眺めていたら、そんな気持ちが湧いていた。
華琳への未練はある。
だが、洛陽で見た彼女はいい顔で、笑っていた。幸せになっていた。
今更逢って、どうするのだ?
『北郷一刀』は、彼女にとってもはや過去、思い出の人物だろう。
「……7年か……」
7年という歳月を今、とても重く感じる。新しい恋を見つけるには、十分過ぎる時間だろう。
彼女はもう、新しい道を歩いているのだ。
ならば、俺も……。
もう元の世界、俺の生まれた世界には戻ることなんて出来ないだろう。
だけど、俺はこの三国志の世界に来ることに迷いはなかった。
華琳達に逢いたかった。もちろん、それもある。だが、それがすべてではない。
以前に、この世界にいたとき、俺は『生きていた』
生きるということの尊さ学び、元の世界では感じることができなかった、生きているっていう実感を得ていたのだ。
生きている実感が味わいたくて、俺はここに戻ってきたのだから。
準備も抜かりはない、以前に自分に足りないと思ったものは完璧とは言えないがある程度は手に入れた。この世界の天才軍師と呼ばれた者たちには及ばないとしても、一人前と言えるだけの智謀はあると自負している。武芸だってそうだ。
もう見ていることしかできなかった。無力な小僧ではない。
天の御遣いという肩書きだって、もう必要ない!
「俺は、この世界で己が力で生きてやる!俺の目指す道を、駆け抜けてみせる!!」
「な、なんだ……?」
「……いや、なに……ちょっとした決意表明かな」
「は?……ま、まぁいいか………それより、今更なんだが、お互い自己紹介がまだだったな。お前、名前はなんていうんだ?」
俺は、初めてこの世界に来た時のことを思い出し、咄嗟にこう答えていた。
「……俺は………戯志才………真名は一刀だ」
………つづく!!
あとがき。
一刀、カッコイイじゃない……。
自分的にはそう思うのですが、皆さんはどう思いましたか?
これから、カッコイイ一刀を活躍させていきたいです。
②は成都からのスタートですが。
一刀、洛陽から逃げたんです。キャラが変わったように微笑んでいる華琳を見るのが、いたたまれなくて……へタレたんです。
戯志才、偽名です。
『北郷一刀』と名乗ると、華琳の耳にはいるだろうと思い咄嗟に名乗ったんです……ヘタレですね。
でも、真名は一刀。
これから、真名を知られるたびに「お前、天の御遣いと同じ名前だな~!!」って言われます。本人だとは気付かれません。
今回で、原作キャラとの絡みを書くことができました!
前回は、おっちゃんとしか話していなかったので……。
自分では、キャラの通りにできたと思うのですが……誰だかわかったでしょうか?
これから、どんどん原作キャラを出していきたいと考えています。
長くなりましたね。最後に、
あとがきまで読んでくださった方、ありがとうございました!!
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魏ルートアフターです。
しかし、華琳様の扱いは酷い……過去の女&出番なし!!
華琳様大好きな方は注意!
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