No.752254 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第六十五話2015-01-18 15:54:53 投稿 / 全16ページ 総閲覧数:5086 閲覧ユーザー数:3652 |
五胡との戦いから二十日が過ぎた。
俺達は戦いが終わってすぐに洛陽に戻り、命に報告をした。空様がいなくなった話を
聞いた時にはさすがに衝撃を受けた表情を浮かべていたが、皇帝としての戦後処理に
追われてその話は一旦置いておかれていたのであった。
(ちなみに今回戦った五胡の部族達は、こちらの味方をした部族の説得を受けて全員が
洛陽へ謝罪に訪れ、命は漢と二度と戦わない事・味方の部族同様に交易関係を持つ事
を条件に全てを水に流したのであった)
その為というだけでも無いのだが、戦勝記念の宴が今に至るまで開かれずに来ていた
りする。しかし表向きにはそれに対する不満も無く此処まで来ていた(一部の酒飲み
からは少々不平的なものもあったようではあるのだが)。
そしてこの日、北方で戦後処理に当たっていた義真さんと葵さんが洛陽に凱旋してき
たのを一つの区切りとして、ようやく宴が開かれる事となったのである。
「それでは、この度の戦勝を祝して…乾杯!」
『かんぱ~い!!』
王允さんの音頭で皆の声が唱和する。それと同時に宴が始まり、そこかしこから皆の
話し声が聞こえてきたのであった。その皆の声もこれまで続いた戦乱からようやく解
放された安堵感からか、何処となく軽やかな物に聞こえていたのであった。
「さあ、今日はジャンジャン飲むでぇ~!!」
「当然、無礼講よね!今日は朝まで飲むわよ~!!」
「そうじゃそうじゃ、ドンドン酒を持って来い!!」
「ふむ…これだけの酒があるのだ、今日は楽しめそうだな!極上メンマも喜ぶというも
のだ!!」
当然、一番喜んでいたのは酒飲みな方々だったのはご愛嬌というやつではあるが。
「一刀、此処にいたのね」
「うん・・・ああ、華琳か。どうした?」
宴の場から少し離れた所にいた俺を見つけた華琳が話しかけてくる。
「どうしたじゃないわよ。あなたが戦の最中だから後でちゃんと話すって言ってたから
待ってたのに、今になるまでまったくその話が無いからこっちから聞きに来たんじゃ
ないのよ!」
後で話す事…ああ、そうか。戦が終わった後で俺の出自についての話をするって言っ
たんだったな。
「そうですよ、一刀さん。約束はちゃんと覚えていてもらわないと」
その後ろにはちゃっかり月も来ていたりする。
「確かに自分からそう言った以上はちゃんと守らないとダメだな…実はな」
俺が話をしようとしたその時…。
「華琳様~、きょんにゃひょこりょでにゃにをしてひるのれすか~?(訳:こんな所で
何をしているのですか~?)」
場の空気を破壊するかの如くにほろ酔い状態の夏侯惇さんがやってきて華琳に話しか
けてくる。
華琳も『何も今来なくても』という感じの表情をしていたが、夏侯惇さんが事情を知
らない以上、祝いの席でむげに冷たく追い返すわけにもいかず、少し困った感じで対
応していた。
「これは仕方ないですね…一刀さん、お二人の邪魔をしてはいけませんから私達は場所
を移しましょう」
そう言いながら月はそっと俺の右手を握ってその場を離れようと俺を促すが、華琳が
素早く空いていた俺の左手を掴む。
「月…抜け駆けしようったってそうはいかないわよ?」
そう言われた月は少し残念そうな顔をする。
「あら、華琳さん、抜け駆けだなんて人聞きの悪い。第一、夏侯惇さんはどうされたん
ですか?あれだけ酔っておられるのであれば、ちゃんと介抱とかしてあげた方が良い
のではないのですか?」
「いえいえお気遣いなく。彼女は寝てしまったので、風邪だけひかないようにはしてお
いたから大丈夫よ。オホホホ」
「そうですか、それは、ざn…良かったですね~。ウフフフ」
二人はそう言って笑いあっていたが…全然、眼が笑ってないんで、めっちゃ怖いんで
すけど。
「まあ、それに関してはとりあえず置いておくとして…一刀にはちゃんと答えてもらわ
ないとね」
「そうですね、後の事はそれからという事ですよね」
二人はそう言うと俺の方に視線を向ける。結局、こっちに話が戻るのか…仕方ないか。
俺は観念して息を一つ吐いてから襟を正す。
「実を言うと俺は、というか厳密に言うと俺と及川はという事になるんだが…」
そして、俺はこの時代よりおよそ1800年程未来から来た事を二人に話す。二人は俺が
話している間、ジッと俺の眼を見つめていたが、さすがに1800年先の未来という話に
は驚きを隠せずにいたのであった。
「なるほど…それじゃ、一刀は本来この時代というか世界がどうなるか、私達が何をし
たのかをそもそも知っていたという事なのね?」
華琳の質問に俺は頷きで返す。
「ただ、この世界は俺達が知っていたのとは色々と違いがあったから、必ずしもそうな
るとは限らなかったという事は言えるのだけどね」
「どう違うのです?」
「例えば、俺の知識では董卓は暴君だったんだよ。自分の武力を背景に皇帝を我が物と
して国政を壟断してね。それで袁紹や曹操が中心となってそれを討伐しようと出来た
のが反董卓連合だ。しかし、今此処にいる月は、それとはまったく正反対の優しい女
の子だった。だからあのまま行ってても反董卓連合なんて出来なかった可能性はあっ
たって事だ」
「へぅ…そんな、優しい女の子だなんて、一刀さんったら///」
…何だか月は違う所に反応しているような気がするのは気のせいか?
「ふ~ん…それで!?例えばその知識とやらでは曹操はどうだったの、曹操は!?」
そして華琳は何だか不機嫌そうな顔でそう詰め寄って来るのだが…俺、何か彼女の気
に障るような事を言ったか?
「ほら、一刀、曹操はどうだったの、曹操は!?」
「分かった、分かったから…それで、その後には各諸侯がそれぞれ覇を競う時代が来て
曹操は勝ち残って大陸の過半を制する国を造ったんだよ」
かなりはしょった話になってしまったが、あまり細かい話をするときりがないし、仕
方がないよね?
「へぇ…過半、ねぇ?それじゃ他は誰が勝ち残ったの?」
…ええーっ、そこまで聞くのか?
「それ以上は秘密って事で…『妾もそれを聞きたいのぉ』…命、何時からそこに?」
「おや、気付いていたと思っておったのじゃが?それとも華琳と月に挟まれて鼻の下を
伸ばす事に一生懸命になって妾の事など眼中に無かったという事かの?」
「いや、その、眼中に無いなんて事はまったく…」
俺が話を終わらせようとした所に命が現れる…あれ?
「そういえば、華琳は命に何時真名を預けたんだ?」
「この戦の始まる前位にね。これからも漢王朝に変わり無い忠誠を誓う証という事でね
…でも、一刀の話だと本当は私は漢に忠誠を誓わなかったようね」
「そのようじゃな…そうじゃ、漢がどうなったのかも聞きたいのぉ。妾はどうだったの
じゃ?やはり皇帝という事で結構頑張ったんじゃろう?」
命はそう眼を輝かせながら聞いてくるのだが…どうしよう?はっきり言っちゃっても
良いのかな?『少帝劉弁は董卓にいいように担がれてあっさり殺された』と言ったら
どうなるんだろう?しかもその董卓も眼の前にいたりするし。
「さあ、どうなんじゃ?」
「ええーっと…その、何と言えば良いか…実の所…」
・・・・・一刀、説明中・・・・・
「何じゃ、その劉弁の扱いの低さは!?」
「…いや、俺にそう言われてもどうしようもないんだけどね」
説明を聞いた命は憤懣やるかた無しといったような表情で喰ってかかってくるのだが
…此処にいる命には関係の無い話なんだからそこまで怒らなくても良いんじゃないか
と思わないでも無い。
「なるほどね…確かに漢があのままだったらそうなるしか無いでしょうね」
「そうですね…でも、そちらの私は本当に暴君なんですね」
月は少々沈んだ顔をしていたが、何だか華琳の顔は『出来ればそっちになっていれば
良かったのに』といった感じに見えていたりする。
「まあ、此処にいる皆にはまったく関係の無い話だし、この話はこれまでって事で」
「確かに、起きもしない話を何時までも引っ張っていても仕方無いわね」
「そうですね。実際、漢も命様もこうやって健在なわけですしね」
「そうじゃの。折角の祝いの席じゃ、まずは今を楽しむ事にしよう」
三人はそう言ってようやく話を終わらせてくれた…しかし。
「それじゃ一刀、行きましょうか?」
そこでいきなり華琳がそう言いながら自分の腕を俺の腕に絡めて来た事によって一瞬
にして命と月の表情が変わる。
「待て、華琳。お主は一刀と何処に行こうというのじゃ?」
「そうですよ。それに…今、華琳さんが行こうとした方向は宴の会場と違う方向のよう
に見えたのは気のせいじゃ無いですよね?」
「あら、そうだったかしら?…オホホホホ」
「そうですよ、酔っていらっしゃるのですか?…ウフフフフ」
「そうじゃ、間違ってはいけないな…ハハハハハ」
…何だろう?表面上は笑いがあふれた微笑ましい光景に見えるんだけど、多分十人中
十人が今の状況を怖いと思うような気がするのは俺の気のせいでは無いと思うのだが。
「まあ、このまま此処にいても仕方無いのは確かですし…参りましょう」
そして月も何かをアピールするが如くに空いている俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
「あら、月までそんな事をしたら一刀が歩きにくいんじゃないかしら?」
「そうですね、華琳さんが手を離してくれればちょうど良さそうですけどね」
二人はそう言いながら俺を挟んで氷の笑みを浮かべていた…このままでが俺の心臓ま
で凍り付きそうな気がする位の。さらには…。
「二人とも、皇帝の命令じゃ。すぐに一刀から離れよ」
「あら?命様は確か宴が始まる前に『今日は無礼講だから、身分に遠慮するな』とか仰
ってましたよね、華琳さん?」
「ええ、確かに私もそう聞きましたよ?まさか、皇帝陛下程の御方が自分のお言葉をお
忘れになるなんて事はありませんよね?」
命が介入してきてその場の混沌さが増す…ううっ、誰か助けて!結構本気で!!
「一刀さん、此処にいたんですか!?」
そこに輝里が息せき切ってやってくる。
「どうした、何かあったのか?」
「良いからお早く、こっちです!皆様、少し失礼いたします!!」
そのまま有無も言わさずに俺を引っ張ってその場から走り出す。これは本当に何かあ
ったという事か?
しかし良く見ると何だか輝里の顔は笑いをこらえているように見えなくも無い…これ
はまさか?
そして何やら命達が向こうで騒ぎ始めたが、輝里はもう振り向く事も無く俺を連れて
その場を離れていた。
・・・・・・・
「ふぅ、此処まで来ればもう良いでしょう」
しばらくして輝里が足を止めたのは宴の席から結構離れた所の庭にある東屋であった。
「それじゃ、やっぱり…」
「はい、一刀さんが困っておられたようなので」
「あんなに切羽詰まった顔をしていたから、本当に何か事件でも起きたのかと思ったよ」
「ふふ、なら私の演技もなかなかな物だという事ですか?」
輝里はそう軽口を言いながら可愛らしくポーズを取ってみたりするが…お世辞抜きに
本当に可愛かったりする。
「とりあえずはありがとう。でもあんな逃げ方をしたんじゃ三人に後で怒られそうだけ
どね」
「そうなりそうだったら、また私が何か良い策を考えておきましょう。何せこの徐元直
は北郷様の軍師ですから」
此処まで茶目っ気たっぷりに言う輝里も珍しいな…実際、多少は酒も入ってはいるよ
うだけどね。
「でも本当に輝里がいてくれたからこそ、俺もやってこれた所もあるしね…何時も雑用
みたいな事をほとんど押し付けていたりしたし」
「良いんですよ、誰かがそういう事をやらなければ政という物はすぐに立ち行かなくな
ってしまう物ですから…でも」
「でも?」
「もし、それで…ほんのちょっとでも申し訳無く思っていてくださるのでしたら…ええ
っと、その…ご褒美とか、欲しいです」
ご褒美?…確かに此処まで頑張ってくれた輝里にお礼的な何かをしてあげられる事に
何も問題は無いのだが…何をしてあげたら良いのだろう?一応、本人に確認してみる
事にしよう。
「何か欲しい物とかあるのか?俺で贈れる物なら喜んで贈らせてもらうけど?」
「それは、本当ですか?」
「うん、本当」
「もうその言質は取りましたからね?今更撤回は無しですよ?」
「うん、分かった」
何を望んでいるのかは分からないけど…俺に出来る事ならこの際何でも叶えてやる事
にしよう。
俺はそう心に決めて輝里の次の言葉を待っていたが…輝里は何だかモジモジしたまま
なかなか話を切り出そうとしない。
「…どうした?何か難しい事か?」
「いえ、その…難しいというか、心の準備を整えてるというか…」
そしてまた何だかモジモジし始める…どうしたんだろう、そんなに頼みにくい事なの
だろうか?
「…ええっと、その、ですから…そ、そうだ!一刀さんの欲しい物とかが良いです!!」
…何だそりゃ?俺の欲しい物が良い?一体輝里が何を言いたいのかが良く分からない
のだが…それじゃ、とんでもない事を言ってみようか?でも、いきなりこんな事言っ
たらドン引きだろうけど。
「そうだな…俺は今無性に輝里が欲しい」
俺は精一杯きりっとした顔をしたそう言ってみる。此処で輝里が引き気味になった所
で『…っていうのは冗談だけどね』とおちゃらけてその場を誤魔化せば何とか…俺が
そう考えていたその時、
「…私で良いのなら喜んで。本当はそれをお願いしようかどうか迷っていたんですけど
…そんな事言ったらはしたない女だって軽蔑されちゃうかなって…でも、一刀さんが
私を求めてくださるのなら…」
…どうしよう。これは冗談じゃ済まされないぞ。そういえば五胡との戦が始まったか
ら有耶無耶になっていたけど、あの時も確か輝里の部屋でそういう事になりかけてい
たんだった。よし、周りに誰もいないみたいだし…いっちゃえ!
「輝里…」
「一刀さん…」
輝里は潤んだ瞳で俺を見るとそっと眼を閉じる。俺は引き込まれるように彼女の唇に
自分の唇を重ねる。
「くちゅっ、ちゅぷっ、れろっ、ぷはっ…一刀さん、一刀さん…ちゅっ、くちゅっ」
そしてどちらかといういう事も無く互いの舌を絡ませる激しい物となっていく。当然、
そんな状況で俺の身体…下半身の一部が反応しないはずもなく、ズボンの中で段々と
主張を強めてくる。輝里も良いって言ってるし…もう止めないからな!俺はそう決心
して輝里とさらに密着しようと手を伸ばしたその時…。
「ふにゃ~ん…」
「はうぁ!?ダメです、お猫様、折角の場面で…え、ええっと、その、べ、別に覗き見
しようとかそんなんじゃなくってですね………ごめんなさい、お邪魔しました!!」
近くの草むらから猫の鳴き声が聞こえ、我に返った俺達がそっちを向くと明命が慌て
ふためいた様子でその猫を抱えて風のように走り去って行った。
「……………とりあえず皆のいる所に戻ろうか?」
「……………そうですね」
当然、そんな状況で続きというわけにもいかず、俺達は戻っていったのであったが…
そこまでの道すがら、輝里は俺の手をしっかり握っていたのであった。
(あともう少しだったのに、また…でも、まだ勝負はこれからです!!)
輝里のその心の声が聞こえる事も無かったのであった。
そして二日後(次の日はほぼ全員が二日酔いでダウンしていたので休みだった)。
玉座の間には主だった者全員が集まっていた。
「それでは改めて…皆、この度は良く戦ってくれた。これで五胡と我らが事を構える事
もほぼ無くなったと思って良いであろう。本来ならば此処で皆に褒賞と言いたい所な
のじゃが…」
命はそこまで言って少し言いよどむが、迷いを振り切るように頭を振ると再び話し始
める。
「皆も分かっている事と思うが、今回は外から来た敵と戦って退けたに過ぎぬ。そして、
昔と違って洛陽もそんなに余裕のあるわけでもない。それ故、皆の働きに見合っただ
けの褒美を与える事が出来んのじゃ…じゃが、このまま褒美も無しにするというわけ
にもいかん。そこで済まぬが褒美に関してはしばし待っていて欲しいのじゃ、与える
だけの物が出来ればすぐにでも用意する。じゃから、この通りじゃ!」
そう言うと命は玉座を下りて頭を下げようとするが、それを月と麗羽が押し留める。
「離せ二人とも、これはこっちからお願いする事じゃ、妾が頭を下げて当然の事じゃろ
うが!」
「いいえ、例えそうであっても陛下にそれをさせるわけにはまいりません」
「月さんの言う通りですわ!どうかご自重を!!」
しばらく三人の押し問答が続いたが、月と麗羽が命を説き伏せて不満気な顔の命を再
び玉座に座らせる。そして…。
「皆さん、今の陛下のお言葉の通り、この度の戦での褒賞をすぐにはお渡し出来ません。
その責任はひとえに政を預かる相国たるこの私の不徳の致す所です。不満はございま
すでしょうが、しばしの延期をお願いいたしたく…この通り、お願い申し上げます!」
そう言って月が皆に頭を下げる。それを見た命はますます不満そうな顔をしていたが、
月としては皇帝たる者が頭を下げるべきではなく、代わりに臣下たる自分が頭を下げ
れば良いという考えなのだろう。現代人の俺からしてみれば、少し分かり辛い論理で
はあるのだが…。
そして、月が頭を下げたまましばらくの時が流れた後…。
「はい、分かりました。元々、向こうが私達の家を奪おうとやってきたんですし、それ
から守るのは当然ですもんね。それに対して褒美だなんて求めちゃダメですよね」
一番最初にそう言って来たのは劉備さんだった。その劉備さんの意見に皆が一斉に同
調し始める。
「皆さん…ありがとうございます!」
「すまぬの、本当に不甲斐ない皇帝で申し訳無く思っておる…」
命も月もそう言いながら涙目になっていたのであった。
・・・・・・・
そしてそれから一刻後。
その場に残っていたのは、命と月と俺だけになっていた。
「月も一刀もご苦労じゃった。本来なら妾が行くべきじゃったのだがな」
「良いんですよ、命様。その為の『相国』なのでしょう?」
「俺だって『衛将軍』なわけだし、軍を率いて行くのに何の問題も無かったんじゃない
のかな…それとも単に命が自分で行きたかっただけか?」
俺がそう言うと、命は図星をさされたような顔をする。
「本音を言うとそうなのじゃ…本当にいっそ妾も母様みたいに皇帝をやめて一部将とし
て行ければと思った位じゃ」
そこで空様の名前が出た事で俺も月もそれ以上言葉が出なくなってしまう。
「…ああ、すまぬ。母様がいなくなった事で二人を責めるつもりなど毛頭無い。母様に
は母様なりの考えもあったのじゃろう」
「しかし姉様、このまま母様を放っておいて良いのですか?」
そこに奥から現れた夢がそう問いかけてくる。夢がそう聞くのも当然で、命は空様が
いなくなったのを聞いてからこれまで、まったく捜索の指示を出していないばかりか
夢や王允さんが捜索の指示を出そうとするのを止めてまでいたからだ。
「良いのじゃ、さっきも言ったとおり母様には母様の…」
「それはもう何回も聞きました!だからと言って『はい、そうですか』と簡単には言え
ません!!母様がいなくなったのですよ、それをそう簡単に…」
「ならば聞くが…どう探させるのじゃ?『李通』という武将がいなくなったから皆で探
せと言うのか?特徴などあの何時もの兜位しか無いぞ。しかもおそらく既に兜は外し
ておろうしの…下手に素顔の特徴を言えば、それこそ母様の素性を言ってしまう事に
なっていらぬ混乱が起こるだけでは無いのか?」
命がそう言うとさすがの夢も言葉を詰まらせる。確かに空様の素顔の特徴を知らせれ
ば『劉宏』を知っている人間は不思議に思う可能性もある。しかもそれが皇帝や皇族
の命でという事になれば余計にだ。既に『劉宏は死んだ』という事になっている以上、
今更『実は生きていました』などというわけにもいかないのも事実だ。
「すまぬ、夢。本当は妾も探したいんじゃが…今はただこうして帰って来るのを待つし
か無い。堪えてくれ」
「分かりました…そこまで姉様が考えておられたとは知らなかったとはいえ、勝手を言
って申し訳ありませんでした」
「良いのじゃ。妾は気にしてない、じゃからもうお前も気にするな」
命はそう言って夢の頭をそっと撫でる。こうして見ているとやはり命はお姉さんなん
だなぁと感じる。
「…一刀、今何か失礼な事を考えていなかったか?」
「いえいえ、そんな事は決して」
「…まあ、良い。というわけで母様の事はこれで終いじゃ、良いな?」
『はいっ!』
「とは言っても、あの母様がその辺で野垂れ死にするなど想像も出来んがのぉ…今頃何処
かで元気に山賊狩りでもしてそうじゃがな」
命はそう言って笑っていた…しかし、何処となくそれが空元気に見えたのは、決して
気のせいでは無いような気もしたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
少し投稿が遅れて申し訳ございません。
一応、今回は五胡との戦いの後日談をお送りしました。
輝里はまたお預けになってしまいましたが…まあ、まだ
まだこれからって事で一つ(オイ。
とりあえず次回からはしばらく拠点的なお話をお送りし
ますので…誰の話からにするかは未定ですが。
それでは次回、第六十六話にてお会いいたしましょう。
追伸 劉焉が死んだ事に対する鈴音の思いなども拠点
の中でお送りする予定ではありますので。
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お待たせしました!
今回は五胡との戦いのその後の
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