No.751730

旅路の果てに ―一刀と華琳 外史二人旅―

十狼佐さん

昔の黒歴史作品を見て赤面。よくもまあこんな茶地なモノをドヤ顔で載せてたなと。あんなのは小説ではなく、ただの箇条書き文章です。

別サイトで投稿している小説のネタ探しとインスピレーションを求めてこちらに少しだけ復帰することにしました。
更新は亀ですし、執筆のリハビリも兼ねています。

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2015-01-16 02:24:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6122   閲覧ユーザー数:4932

 

「さようなら……誇り高き王。さようなら……寂しがり屋の女の子」

 

 曹魏千年の繁栄を願い、民の安全のために大陸に覇を唱え乱世を駆け抜けた覇王・曹操。中華大陸が魏によって統一され、今より泰平の世が始まらんとする祝勝大宴会が行われている最中。天の御使いである北郷一刀と、魏の覇王である曹操こと華琳。

 華琳は振り向かない。一刀が背中を見ているが、覇王は泣くまいと必死に涙を堪えている。

 

―――そしてついに一刀の体が消えて無くなった。

 

 

 

 

「―――え?」

 荒野。目の前に広がるのは只々殺風景な荒野だ。空は晴天で太陽も高い。気候も今は丁度良く、木陰があれば昼寝するのにそう苦労はしないだろう。

 問題なのは、所々傷が入り、何度も補強したと思われる聖フランチェスカ学園の制服に身を包んだこの青年―――北郷一刀だ。

「あ、れ? 俺は……」

 あまりにも頭痛が酷く考え事が纏まらない。頭が割れそうな程の激痛が走る中でも、一刀はただ最愛の主である少女の事を思い浮かべていた。

「う、うぅ……か、華琳……」

「何かしら?」

「あ、頭が割れるように痛い。うぅ……」

 あまりの痛さに真面に喋る事が出来ず、ただ呻くだけしかない一刀。そんな一刀を傍から見つめる少女の顔は、どこか喜色を帯びており、涙さえ流れている。

「我慢しなさい。民はそれ以上の苦しみに耐えていたのよ?」

 少女も最愛の人に呼び掛ける。それだけで一刀の痛みは和らいでいった。

 数分後。ようやく頭痛が治まった一刀はゆっくりと立ち上がる。そして荒野を見つめながら最愛の人の名を口に出す。

「華琳……」

「何かしら?」

「え……はい?」

「元気そうね一刀」

 訪れる静寂。耳が痛くなるほどのソレは、一刀の驚いた声によって終了した。

「か、華琳! 華琳なんだな!? 逢いたかった……逢いたかったよ……」

 一刀が華琳に抱き付き、彼女もそれに応じる。最愛の人が目の前に。自分の腕に中に居るという感覚は、国や時代が違っても、変わらなく素晴らしい事なのだろう。

 

 

情報整理というのは大切だ。戦いは情報を制した方が勝者となる。すなわち、消えた筈の一刀と覇王である華琳が再開できたという、この意味不明な状況を何とかしなければならない。

「俺は、あの時意識が無くなって……気づいたらこの荒野で酷い頭痛に襲われて……」

「気づいたら、か。その様子だとそれ以前の記憶は私たちが別れた時の所で止まっているのかしらね。私はあの後宴に戻り、寝台に入った所までは覚えているわ」

「とすると、殆ど時間軸は変わらないのか」

「何らかの意思が働いたのか、偶然か。ともかく貴方とまた逢えて良かった。私の覚悟が一瞬で無駄になったけどね」

「はは……ごめんな」

 

 暫く雑談しあった後。華琳はふと視界に有ってはならないものを捉えた。

「あれは、黄巾賊!?」

 華琳の台詞に驚いた一刀もそちらの方へ視線を向ける。

「嘘、だろ? 俺ら……逆行でもしてるのか!?」

 黄巾賊は二人を見つけることなく、ただ遠くを通り過ぎて行った。その規模はおおよそ100人程度。一中隊規模の行軍など恐ろしくはないのだが、如何せん二人では対処できない。二人はそのまま黄巾賊を見つめていた……。

「仮説だけど、もしかしたらただ時間が巻き戻っているだけじゃないのかもしれないわね。この世界にはもう一人の私がいるかもしれないわね」

「えっと、何でそう思うんだ? ってか華琳が二人か……うわぁ」

「後でお仕置き。それはそうと、あの先には、初めて貴方と出会う前に、私が命令して作られた街道があるのよ。当初あそこに街道を牽いても利益となるものが無いと秋蘭に言われたのだけれどね」

「あ、華琳の見通しで利益が出ると判断して作ったから。それが見えなかった人が街道を作ろうとは思わないって事か」

「そういう事。でもさっきの賊たちはこの先の街道とか言ってるのが聞こえたからね」

 一刀は華琳の相変わらずの能力の高さに舌を巻く。自分では絶対に届かない遥か高みに居ると思いきや、一刀の前では寂しがり屋の女の子。一刀は華琳にベタ惚れであるし、逆も然り。

「ちなみにその街道は何を運ぶために作ったんだ?」

「閨で使う性具」

「それ利益か!?」

 

 

「じゃあ華琳はそのまま曹操って名乗る訳にはいかないのか」

「まぁ真名だけ気を付ければいいでしょう。そうね……なんて名乗りましょうか」

 生まれてから曹操、軍を率いるようになって孟徳と名付けてから、真名を除けばそれ以外の名前持っていない華琳は、いい名前が思い浮かばない。

「思いつかないなら『扶桑』ってのはどうだ?」

「あの東方のはてにある巨木の事?」

「え、木だったのか……。じゃなくて、扶桑ってのは……うーん。俺の住んでいた天の国の別名なんだよ」

「扶桑、ね。それで行きましょうか」

 そして次に問題になるのは字だ。成人した男性が―――この世界では女性だ―――が他人に呼ばせるために使う名前なのだから、それなりの名前を用意しなければならない。

「ラオウとか……すいません」

「真面目に考えなさいな。……あぁそうだわ。『北曹』と名乗りましょう」

「ほんそう? 聞いたことないな」

 華琳は微笑を浮かべると、名前の説明に入る。

「そのままよ。北郷の北と曹操の曹をそれぞれくっ付けただけ」

「あぁ……そういうのでもいいんだ」

 嬉しいがちょっとビームとか出せそうな名前を思い浮かべていた一刀は密かに肩を落とした。だが結局は惚れている華琳には何も言えない。というより嬉しがっている一刀であった。

「他に直すべき点はあったかしら?」

 そういわれて改めて華琳の格好を見る。服装は後で買えばいいとして、問題はただ一つ。それさえ見れば曹操と分かってしまうそのチャームポイントであった。

「華琳。その髪型は流石に隠し通せない」

 それを聞いた華琳は髪留めを外す。するとあれだけくるくるウェーブが掛かっていたのに、重力に逆らうことなくスッと真下に伸びる髪。忽ち長髪の少女になった。

 

 

 

「色々と調べて回りましょうか。これからまたよろしくね。一刀」

「こちらこそ。今度こそ傍から離れないと誓って生きるよ。華琳」

 

 
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