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IS×SEEDDESTINY~運命の少女と白き騎士の少年

PHASE-03 嵐の前触れ

2015-01-08 23:57:27 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2223   閲覧ユーザー数:2141

人生というものは、よくわからないものだ。

例えるとするなら、学生時代に優秀な成績をおさめた学生が社会の冷酷さに打ち砕かれ、犯罪に手を染めたり、逆に劣等生と蔑まされた生徒が何らかのきっかけで社会に貢献したりとそのときそのときでは思いにもよらない出来事が未来で起きることもある。

俺━━━織斑一夏もその一人である。

ある日突然、それまで平穏無事は日常生活を送っていたはずの俺が、何の因果か高校受験会場で本来乗れないはずのマシーンを起動させたり。

強制入学されたマシーンの専門学校では謎の無人機や悪の組織なんていう漫画やアニメにしかでてこないような敵と命懸けで戦う羽目になったり。

挙げ句の果てには異世界に飛ばされて今では二人の妹(ここ重要!)と傭兵をしながら世界中を旅している。

 

そして今回はというと、お世話になったある人物に呼び出されて宇宙に来てみれば二つ下ほどの少女に押し倒されたと思いきや少女の胸をがっしりと掴み、これまた何の偶然か少女も俺の息子を握り締めていた。

━━━はっきりと言って、こんな出来事を想像できる奴って未来予知か妄想力が半端ない奴くらいだと思う。ちなみに、あの平手打ちからしばらくしないうちに人が相当集まってきていたので、俺は急いであの娘の手を引いて妹たちとともに緊急離脱。現在は人気のないカフェに逃げ込んできたところだった。いやはやほんと、人生ってなにが起こるかわからないから面白いと思ったり、退屈だと感じるときもあるんだよなぁ。

 

━━━さて。

 

「すみませんでしたっ」

 

コーディネイターの国にしては珍しい木造のカフェにて精一杯の土下座をかます傭兵歴一年半の俺。

その向かいに座る少女と、それぞれの隣に座る双子の妹たち。これらを併せて傍から見れば、子供持ちの旦那が妻に非礼を詫びているようにしか見えていないだろう。

でも断じて違う。二重の意味でそれを認めてしまったらいろいろと不味い。……おもに俺が。

 

「あ、あの……顔を上げてください。非なら私にもありますから……」

 

対する少女━━━シン・アスカはというと、先程の行為が尾を引いているのか、未だに表情は硬く、そして赤かった。

思い返してみても、あれはいただけない出来事だ。若さ故の過ち、なんて冗談が効くはずもない。もう過ちは繰り返さないと誓った己自信にぶん殴られたい気分だ。

 

「お客様。コーヒーとミルク、オレンジ二つをお持ちいたしました」

 

と、そこへウェイトレスがタイミングを計ったかのように颯爽と現れると、それぞれの前に入るだけ入って何も頼まないわけにはいかないと注文した飲み物が配られていく。

 

一瞬だけ、助かったと思っている自分がいたが、次の瞬間に見えたウェイトレスの表情に硬直してしまった。

要約すると、━━━痴話喧嘩は余所でやってくれ━━━とのことらしい……大事なことなので言っておきたいが、俺と彼女はそもそも交際すらしてない初対面だし、隣の双子も妹であって娘では、ナイ。

ふと見ればシンの方もなんとなく表情を読みとったのか顔はさらに赤くなっていた。そりゃぁあんな事があった後に夫婦と勘違いされたらショックだよな。これは完全に、俺の選択ミスだ。

 

「……ほんとごめん。気分悪くさせたよね」

 

昔からこの手の事には疎いって遠回しに言われてきたけど、ほんとだよな~。過去に戻れるなら中学生時代辺りの自分にマシンガンぶっ放したい気分だ。━━━そんなことしたら死ぬだろなんてツッコミは勘弁してくれ。

 

「えっ?いえ、そんなことは……」

 

慌てふためきながら懸命に言葉を模索するシン。

なんていうか、始めてみるタイプだからか新鮮に感じるな。きっと普段は真面目でいい娘なんだろう、それがちょっとしたきっかけでこうして知人からすればお宝ものな表情を拝めるというのは、なんだかちょっと得した気分だった。

 

(っていやいやいや!出会って間もない女の子に何考えてんだ俺は!?)

 

二年前から大分変わってしまったんだなぁと先ほど述べたが、途中で話の路線が逸れてしまうこの癖は健全なところからまだまだ織斑一夏は変わりきっていないことに気づき、嬉しさ半分の虚しさ半分でコーヒーを胃に流し込んだ。

夏音も夏恋も、出されたオレンジジュースを美味しそうにのどを潤していき、シンは気を紛らわそうと女性にしては豪快にミルクを飲み干していった。

 

その後、なんでか知らないけどいつの間にか注文されてたのか、少し値の張るパフェを仲良く完食した夏音と夏恋によって、俺の財布にいたはずの諭吉は一葉と少々の小銭に早変わりしていた。一度文句を言ってやりたいと思ってたが、店の名前が@クルーズと聞いて悔しいが納得せざるを得ないのだと思い知らされた。

 

 

財布の中で『諭吉さんが一人いなくなりましたね~』と野口×四人。『『『まったくだよ~』』』と福沢×八人。『あれ?俺ってば場違い?』と樋口一人がくだらない会話をしている中、俺たちは店を出た後にシンは友人と合流するため、俺たちは本来の目的地へと向かうために別れ、再び三人で歩き始めた。

で、今はアーモリーワンの中でも特に賑わいを見せている施設━━━平たく言えばザフト軍の軍事工廠内にいた。場所はだいたい第二区画周辺、地図には居住区と記されている所だろうか?街中の道中にて呼び寄せた人物から遣いを頼まれてきたらしい部下らしき人物に連れられて訪れたのだが、その当人は仕事が残ってるからと簡易的な地図を手渡してそそくさとその場を離れてしまい、今現在こうして歩き回っているのである。

 

「また道に迷わないといいね、おとうさん」

 

右手を柔らかい左手で握ってくる夏音が唐突にそう言いだした。

ご存じの人も多いだろうが、俺はかつて二年前に試験会場を間違えて盛大に道に迷った男だ。

それはこの世界に来てからも健在で、ある時は街に下るはずが隣に建っていた地球連合軍の違法施設の中心部に颯爽と登場し、またある時は初めて乗り込んだ新造艦のブリッジに向かうはずが艦長室にたどり着いたり、なんてことはよくある出来事だった。

 

「そうだな~。あと、おとうさんはやめなさい」

 

大事なことなので俺と二人の関係はあくまで兄と妹であって、父親と娘の関係ではない。だというのに、この二人は出会い頭からの懐き具合のせいなのか、未だに俺のことを“おとうさん“と呼びたがる。人によっては大喜びするんだろうけど、俺はそっち系では、ナイ。

 

「ぶー、頑固さんだね!」

 

「だめ、なの?」

 

ぶーたれる夏音と、潤んだ瞳で上目遣いに見上げてくる夏恋。いくらロリコンでもない一夏だったとしても、思わず可愛いなぁ~と口に出してしまいそうになってしまう。

 

「……はぁ、ダメなものはダメ」

 

「あう……」

 

「けちー」

 

しょんぼりする二人には悪いけど、俺だってこの年でロリコンと認めて社会的に死にたくなどない。そんなことで死ぬくらいなら事故死の方がまだマシだ。もちろん、あくまでもマシなだけで志願はしないがな。

 

「やれやれ……えーと、あれ?これ、どうやってあっちに渡るんだ?」

 

いかん、妹たちに言ってしまった手前、迷子になるわけには行かないのにもう迷子になりかけてる。

というか、なんてわかりにくい構造をしているんだこの軍事工廠は。設計はどこのデザイナーがやったのか知らんけど真剣に、迷路ですと言われても素直に信じ込んでしまうレベルだぞ。なんでこんなにわかりにくい上に各所に案内板の一つもないのか。簡易地図だけじゃわからんぞ。

 

「……………………」

 

十八歳になっても迷子。━━━駄目だ。恥ずかしすぎる。穴があったら入りたいくらいだ。

 

「おとうさん?」

 

ジトーッと見上げてくるマイシスターズに、冷や汗をかく一夏。この絵も端から見ればなんとも情けない光景なのだろう。

 

「いや、まだだ織斑一夏。まだ迷子と決まったわけじゃあない、れれれ冷静になれ」

 

「その名言がでてる時点で冷静じゃないよね~」

 

「おとうさん、しっかり」

 

片や無慈悲で鋭すぎるツッコミで痛めつけ、片や胸の前で『むんっ』と拳を握り、愛らしく癒される応援を送るマイシスターズ。こんなことなら夏音に回した金の半分くらいを夏恋に渡しておくべきだったか……

━━━ええい、こうなったら次に出会った人に道を聞くしかない!問題ない。こういう時に俺の運命力は飛躍的に爆発し、ある程度は思っていたような展開になるんだからな!

おっと、いいところにドアが。しかも都合良く人の気配を感じるぞ。ちょっと入りますよ?

心の中で一方的に言い終え、部屋の中に入る。まず目に入ったのは大きめのベッド。それが二つ並んでいる。そこいらのビジネスホテルより遙かに良い品物なのは間違いない。こう、見ているだけでふわふわ感が醸し出されている。これが一般のものとの、格の違いというやつだろうか。そういえばIS学園の寮もこんな感じだったな~。いずれにせよ軍属万歳。ついでに国立万歳。

するとなにを思ったのか、夏音は背中に背負っていたリュックを放り投げると早速ベッドに飛び込んだ。

 

「ふわぁ~!もふもふだぁ~」

 

「おねえちゃん、かってに入っちゃだめだよ」

 

ここまでの道のりが道のりなだけに、疲労がたまってしまったのだろう、一目散にベッドへと飛び込んだ夏音を咎めようとする夏恋だが、その実ベッドに飛び込みたいのはこの娘も同じなのだ。必死にこらえようと握り拳にしておるのがその証拠だ。

━━━ここ、たぶん軍属の人の部屋なんだよなぁ。無人じゃないのは気配で分かってるから、早いとこ退出しないと面倒ごとに……

 

ガチャ。

 

━━━ガチャ?

 

はて。ドアはさっき開けて入ってきたばかりだから、今またその音が聞こえるのはおかしくね?あ、部屋の主か。

 

「んー、誰かいるの?」

 

奥の方から声が聞こえた。ドア越しなのだろう、声に独特の曇りがある。ついでに言うと、どこかで聞き覚えのあるような、少女の声だった。━━━ん?

 

「またルナ?それとも今度はメイ?どっちでもいいけど、勝手に部屋に入るのはやめてよね」

 

━━━なんか、すごく、嫌な予感が、こう、足下から、ぞわぞわと。

 

「おとうさん、今の声って……」

 

「っ!二人とも、急いでここから出るぞ!」

 

もし俺や夏恋の聞き間違えじゃなかったらこの状況は不味い!とにかく非常に不味い!場合によっては銃殺なんてあり得るし良くても檻にぶち込まれかねん!!

 

「だいたい、私の部屋に来たってなにもな━━━」

 

「━━━ア゛ッ」

 

ベッドの中でぐっすりと眠り掛けていた夏音を引きずり下ろしてから部屋を退出しようとしたものの、時すでに遅し。部屋のドアノブに手をかけようとした直後に、彼女は現れた。

 

「えっ…………?」

 

シャワー室から出てきたのは、今日出会ったばかりの少女━━━シン・アスカだった。

今し方までシャワーを使っていた。そしてシャワー室から出てきた。どうやら脱衣所は洗面所と兼ねているタイプらしい。そして相手が友人かなんかだと思ってそのままの格好で出てきたのか、シンはその身体にバスタオル一枚を巻いただけの姿だった。

白いバスタオルの面積はいろんな意味でギリギリで、その端から下は瑞々しい太ももが露出している。シャワーを浴びていたのを証明するように、つぅっ……と水玉が脚線を滑り落ちる。健康的な白さを持った肌が眩しい。

その上のくびれた腰はよく鍛えられた身体であることをタオルの上からでも感じさせた。引き締まっていて、それでいて女性のラインを主張している。

タオルを押さえている手の下では、大きすぎるわけでも小さすぎるわけでもなく、程良い大きさを持つ胸の膨らみが見て取れた。一度触ってしまっておきながらなにを言うんだと言われるだろうが、今まで出会ってきた女性の中でぶっちぎりに集中してしまった。この破壊力は、大きさで勝る箒や山田先生以上だ。これが以前イライジャ・キールの言っていた、“美乳“という奴なのだろう。━━━以上、〇.三秒の思考世界終了。

 

きょとんとした顔のシン。きっと俺たちもきょとんとしているだろう。全世界きょとん選手権予選、開幕だ。

 

「い、い、いちか……さん?」

 

「や、やぁ……」

 

俺がうなずくと、ボッと頭を真っ赤にするシン。そりゃあ、まあ、シャワーから上がってすぐに異性がいたらそうなるだろう。俺でも反応&対応に困ること必至だ。

 

「っ……!?み、見ないで!」

 

「わ、悪い!」

 

慌てて顔を横に逸らす。ちらっと見えた横目の視界では、シンが身体を隠すように(あるいは守るように)タオルできつく自分の身体を抱きしめている姿だった。……押し上げられて逆に見えてしまった胸の谷間が、俺の心臓をひときわ強く脈立たせる。

 

「な、な、なんで、あなたが、ここに、いる、の……?」

 

ギギギ……という音が聞こえてきそうなほど、ぎこちない動きで俺に尋ねてくるシン。

 

「いや、えーと……アハハ」

 

ほんと、なんでだろうなー。ちょっとここまでの経緯を纏めてみよう。

 

シンと別れた後、案内役として合流にきたザフト軍兵士に連れてかれて、この軍事工廠までやってきた。

軍事工廠から先は案内する時間がないからと簡易地図を受け取って指定の場所へ向かう。

しばらくしたら迷子……に、なりかけてた!!(必死)

なんとか迷子、になる前に(必死)明確な場所を知っておこうと誰か話を聞いてもらえる人を捜す。

人の気配を感じる部屋を発見。話を聞いてみよう!

部屋に入ったはいいものの、影は見えなかった。強いて言うなら軍属の待遇すげぇ。

と、思ってたらシャワー室から女子の声!?やっべ早く逃げねぇと!!

だけどもう手遅れ。シャワー室から出てきた女子、シンと遭遇。全世界きょとん選手権予選、開幕。

お約束の赤面&ラッキースケベ自覚タイム。

 

━━━ほんと、何だって今日の俺はこんな目にばっか遭遇するのやら……これが弾だったなら大喜びものだっただろうに……。

 

「━━━とりあえず、着替えたいだろうから出て行くね」

 

「うぇっ?あ、はい……」

 

このままバスタオル一枚のままにさせておくのとあれだと思って夏音と夏恋の手を引っ張ってシンの部屋(二人部屋かもしれないけど)から退出する俺たち三人。

 

ガチャ。

 

ドアノブが閉まったのを確認。同時に俺は相対する壁に背中を預ける。

 

「はぁ~~~っ」

 

激しい後悔と、自身に対する嫌悪感が渦巻く。どうして俺はこんなことをやらかしちまうのかね。

でも、二度に渡るセクハラ行為に平手打ちだけってのは優しい方なのかもしれない。試しに周りの女子でシュミレートしてみよう。会って間もない間柄で、一回セクハラ(不可抗力)してしまった後に再びやらかしてしまうというシチュエーション。

 

━━━箒の場合

『何だ貴様、今度は斬られたいの か!』

 

ぎゃー!

 

━━━鈴の場合

『何よアンタ、蹴られたいわけ?くたばりなさいよ、この!』

 

ぎゃー!

 

━━━セシリアの場合

『これだから島国の蛮人は……消えなさい』

 

ぎゃー!

 

━━━ラウラの場合。

『知っているか?人間は首を切断しても十分近く生きていられるということを』

 

ギャー!

 

━━━シャルの場合。

『……………』

 

ギャー!

 

ほら、全然違うだろ?

 

「……どうぞ」

 

「あ、うん……」

 

しばらく経ったところで扉は開いた。ドアを開けたシンは、ザフトの軍服を身に纏っていた。すぐに着られる服がこれだったのだろう。実際、大急ぎで着たのか、ベルトの位置が若干ずれているように見える。

 

「それで、どうしてここに?というより私の部屋に?」

 

「俺を呼んだ人がここにいるんだけど、迷子になる前に位置情報の再確認をと思って部屋に入りました。反省も後悔もしています」

 

今ならトリプルアクセルDOGEZAでも何でもできそうなくらいだ。なんなら、左右DOGEZA・振り向きDOGEZA・歩きDOGEZA・立ちDOGEZA・めくりDOGEZAもやってやりたいところだ。

 

「なんて顔しているんですか……」

 

「?」

 

生まれつきの顔をしてるんじゃないのか?まさか俺の背後に金の虫、もしくは守銭奴と呼ばれた極東の生徒会会計のスタンドでもいたのか?

 

「えー、こほん。ようするに迷子になったから案内して欲しい、と?」

 

「うん。迷子になってないけどそれ以外は概ね合ってる」

 

「うわぁ……」

 

ああ、今おれ超大人気ない視線を受けてるよ。しかも発信者はマイシスターズ。ほんと失敬な妹たちだ。俺が迷子じゃないと言ってるんだから迷子じゃないというのに……

 

そう注意してやろうと思っていた矢先に、軍事工廠中に警報が鳴り響いた。

一般人でもあからさまに理解できる、明らかな緊急事態。

続いて鳴り響く爆音。距離は遠からず近すぎず、といったところだろう。つまり、ここは危険ということだ。

急いでここから脱出を。口を動かすその前に今度はポケットの携帯端末が室内に鳴り響く。こんなときに、と思いながら取り出すと発信者欄を見ると同時に理解した。

 

━━━どうやらお仕事の時間のようだ。

 

「はい」

 

『久しぶりだな』

 

端末の向こうにいるのは四十代手前に入った頃合いの男性の声。彼こそが自分をプラントに呼び寄せた人物だ。名前等の詳細についてはまた後日。

 

「ああ、久しぶり。一応話は聞いておくけど、依頼は撃退か?」

 

『察しが良いな。が、撃退はしてほしくはないな。なにせ相手は鹵獲機だからな』

 

なるほど……と一夏は納得した。つまり、今警報ならしている元凶と言うのは、ザフトが開発した新型のモビルスーツで、一夏にはその鹵獲をして欲しいということなのだろう。できなければ最悪の場合は破壊といったところだろう。撃退は考慮しない方が良さそうだ。

 

「報酬は?」

 

『そうだな……プラント時代の二倍と、それから新品の高性能モビルスーツ一台なんてのはどうだ?』

 

「乗った」

 

今ある愛機も愛着はあるし、性能も悪くはないが、如何せんガタが来始めていた。ここらで一度乗り換えようとは思っていたので、有り難く思った。

 

『成立だな。じゃ、頼んだぞ黒銀(くろぎん)

 

黒銀(くろぎん)。傭兵の中で本名を明かさずに活動してきた俺のコードネームのようなものであり、同時に二つ名でもある。由来は、今の俺の機体から取られたという。

 

「さて、それじゃあシン」 

 

「えっ?はぁ……」

 

話についてこられなかったシンは困惑顔でこちらに振り返る。

それに対して俺は至極真面目な顔つきで口を開いた。

 

「ちょっと俺に付き合ってくれないか?」

 

もちろん案内的な意味で、と付け加えるのは忘れない。

 

 

「ショーン・アハト並びにデイル・カフカのゲイル、発進準備完了しました!」

 

そのころ、戦闘区域より離れた第七区画では明日進水式を迎える予定だった新造艦“ミネルバ“が配備されたモビルスーツの発進準備を完了させているところだった。

 

「ザクは搬入途中のトラブルが原因で使えないけど……シンはまだ帰ってきてないの? 」

 

メイリン・ホークの連絡に、艦長席に座る女性、タリア・グラディスはそう返した。いつでも発進できるようにと乗り手を残して整備を終えた飛行機型のモビルアーマーが格納庫からのモニターに移る。

 

「通信、とれません!三機のうちどれかが通信ケーブルにダメージを与えた模様!」

 

「やってくれるわね……!」

 

各隊員が所持している通信端末用のケーブルをやられたとなれば通信は機体と艦、それから施設内の固定通信装置に限られてくるが、おそらく何本かはやられてると見て間違いないだろう。

 

「増援要請はまだだけど、もうじき来るはずよ。それまでにシンを呼びかけてちょうだい。もしかしたら何らかの手段で通信できるかもしれないわ」

 

「了解!」

 

ルナマリア・ホークとレイ・ザ・バレルのザクが動かせる見込みがない以上、現状でミネルバの中だともっとも頼りになるのは例の三機と共に開発されたアレに乗るシンのみだ。

“ジン“や“シグー“があの様では、おそらく二人の“ゲイツ“も似たような結果に終わりかねないだろう。

 

「あっ、艦長!バギーが一台こちらに向かってきます。子供を乗せているみたいですが……」

 

副長席に座るアーサー・トラインが、やかましい声を上げたかと思いきや途端にこちらの顔色をうかがうようにボリュームを下げる。

 

「避難させてる暇はないわ!このまま収容して!」

 

「りょ、了解!」

 

親指の爪をかじりつき、タリアは副長と強奪された三機に苛立ちを覚えながら今後の対策を思考した。

なお、あの三機をどこの誰が強奪したかに関しては、だいたいの目星がついていたためか、考えようと脳を動かそうとする気も起きていなかった。

 

 

「姫をシェルターへ!」

 

最初の衝撃から立ち直ると、デュランダルはまず随員にそう指示した。それに従って一人の兵士が「こちらへ!」と先に立つ。アスランは呆然と立ち尽くしているカガリの肩を抱き、すばやく彼のあとに続いた。

 

「なんとしても押さえるんだ!ミネルバにも応援を頼め!」

 

さすがにデュランダルもすぐに落ち着きを取り戻し、事態の収拾にかかっている。その通る声を背中に聞きながら、アスランは走った。

瞬きほどの間に、工廠は火の海と化していた。三機のモビルスーツの圧倒的な能力を前に、アスランも苦い思いになる。おそらくあれらは、かつて自分の搭乗機だった“ジャスティス“の流れを汲んだ次世代機に違いない。

先導されてアスランとカガリは格納庫(ハンガー)の間を走っていた。が、建物の陰をでたところで、アスランは足を止める。ほんの十数メートル先でモビルスーツ同士が戦闘を繰り広げていた。モスグリーン色の新型機“カオス“がビームサーベルを抜き放ち、“ジン“の機体を貫く。それを見て取ったアスランは、カガリを引きずるようにして建物の陰へ飛び下がる。爆発が起こり、反応が遅れた先導の兵士が、あっという間に炎にのまれる。

 

「こっちだ!」

 

案内人を失ったいま、アスランはできるだけ戦闘区域から離れようとカガリをうながしながして走る。が、彼らの退路を阻むように、四足歩行モードの黒い機体、“ガイア“が道路の向こうから躍り出た。それを空中から“ディン“が狙い撃ちし、二人の目前に巨大な穴を穿つ。アスランは車の陰に飛び込み、カガリの上に覆い被さった。流れ弾が当たったらしく、建物の壁が崩れ、轟音とともに破片が道路に降り注ぐ。

 

「なんで……!?なんで、こんな……っ!」

 

アスランの腕の中で、カガリがやりきれない思いを吐き出す。

“ガイア“が跳躍し、空中で“ディン“と交錯する。と、見るや、ガイアの背中にあった二枚の翼が展開し、発せられた光刃がすれ違いざまにディンの装甲を両断していた。

落下してきたディンが格納庫の屋根を突き破り、中で激しい爆発を起こす。爆風は物陰に隠れた二人をも襲い、アスランはとっさに自分の身体でカガリを守る。建物の破片を振りまきながら、何かが道路に倒れ、その衝撃で身を寄せていた車両がわずかに跳ね上がった。

 

「アスラン……!」

 

カガリがアスランの身を気遣って声を掛け、アスランは安心させるように微笑みかける。

 

「大丈夫だ」

 

だが破片が直撃しなかっただけでも幸運だったのだ。なんで、こんな!━━━と、アスランもどうしようもない苛立ちを込めて考えた。どうしてよりによってこんなところへ、自分たちは来てしまったんだろう?

しかしこうなった以上、カガリをなんとしても守らなければ。彼女は自分にとってかけがえのない存在であり、それ以上に、これからのオーブには必要な人なのだ。

アスランは狂おしい思いで辺りを見回し、そして、路上に倒れた機体に気付いた。さっき見た新型━━━“ザク“だ。破壊された格納庫から飛び出したものらしい。アスランは一筋の光明を見いだしたような思いになる。

 

「来い!」

 

彼はカガリをうながしてそちらに駆け出した。幸運にも仰向けに倒れたザクのコックピットは開いていた。

 

「乗るんだ!」

 

「え……!?」

 

戸惑うカガリを抱き上げて、アスランは開いたコックピットハッチから身をくぐらせる。すばやくシートに着き、彼は慣れた動作で機体を立ち上げ始めた。頭上でハッチが閉じる。

 

「おまえ……?」

 

カガリが不安げに身を寄せてくる。

アスランがモビルスーツに触れるのは、さきの大戦以来だ。できれば二度と触れることがなければと思ってきた。それを知っているカガリは、だからこそアスランの気持ちをお慮るのだろう。だがアスランは短く吐き捨てる。

 

「こんなところで、きみを死なせるわけにはいくか!」

 

この状況では、ここ(・・)の方がむしろ、外よりマシな避難場所だ。幸い、ザクはどこにも損傷が無さそうだった。操縦系統も旧型とは異なっているものの、大方見当がつく。操れないことはないだろう。

エンジンが滑らかな駆動音を伝え、モニターに光が入る。アスランは状況を掴むためにザクの身を起こさせた。胸の排気口から発せられた排気が噴き出し、機体の上に積もっていた瓦礫がバラバラと落下する。

が、その動きが敵の注意を引いてしまったらしい。開けたばかりの視界に、こちらに向き直るガイアが映った。

━━━しまった!

ガイアがビームライフルを構える。アスランは考える間もなくレバーを操作し、ペダルを踏み込んでいた。ザクがスラスターの噴出とともに横へ飛び退くと、放たれたビームが背後の壁を灼いた。着地の足で踏み切り、アスランは敵機へ突っ込む。そのスピードにガイアは虚を突かれたらしい。ザクのショルダータックルをまともに受けて、背後に吹っ飛ばされる。

予想以上のパワーと機動性だ。自分も背後に飛びすさりながら、アスランはこの新型機の性能に内心舌を巻いた。しかし敵機はそれで引き下がってはくれなかった。今度はビームサーベルを掲げて迫る。アスランはすばやく武器を探り、肩に装着されたシールドからビームトマホークを抜き放ってこれに応戦した。下がりながら敵機のサーベルをシールドで受け、ビームトマホークを振り下ろす。ガイアもシールドでその刃を受け止めた。

 

「くっ……!」

 

アスランはなんとか敵をかわして後退するタイミングを探った。カガリを守るためと思ってこの機体に逃げ場を求めたのだ。勝つためではない。

だがガイアはまるでムキになったように、しゃにむに打ち掛かってくる。逃げる隙など与えてくれそうにない。となれば、戦って勝ち取るのみだ。

決意を込めてモニターを睨み付けたアスランの耳に、さっき聞いた言葉が蘇った。

 

━━━争いがなくならぬから、力が必要なのです……。

 

 

一夏は駆けていた。軍事工廠の第七区画と呼ばれる区域の入り組んだ通路を、右へ左へと駆け抜けていく。

先頭にはシンが先導するように走り出している。夏音と夏恋は、あの後シンの友人たちに避難を任せている。ここに来ているのは依頼を受けるためで、シンはその案内人だ。

ここに来るまでに、すでに数台のモビルスーツが破壊されている光景を何度も見た。

シンから聞かされていた情報を頼りにするならば、おそらくは奪取されたのであろうあの新型モビルスーツ━━━“カオス“、“アビス“、“ガイア“によるものだろう。“ジン“や“シグー“ではどうしようもないと戦場の状況からみて間違いないことから、二人は三機に気付かれないよう第一区画からここ 第七区画まで時には遠回りをしながらたどり着き、一夏は宇宙への排出用ゲートを開こうとパネルを操作していた。

ここへくるまでにいくつもの死体を飛び越えてきた。その全てがあの三機による破壊 行動によって荒らされ、一目でそうとわかるほどの無惨な死に様だった。例え乗り手が感情を持つ人間であろうと、その延長線にあるモビルスーツも所詮は機械の塊であり、その先にある痛みも命の重みも感じたりはしないのだろう。

あらがう術も持たず、助けを求める声も届かず、蹂躙されたことは想像に難くなかった。

 

「同じだ……」

 

赤茶けた大地も、この宇宙に浮かぶ金属とカーボンに囲まれた場所も。

 

「何にも変わっちゃいない……」

 

人の命がなぶられ、削られ、喪われていく。

誰も心の奥底では戦いなんて望んではいないのに、戦いが人を呑み込んでいく。

 

「あの時と、同じだ」

 

では、何にも知らない糞餓鬼だった頃の自分と、今の自分は果たして同じだろうか?違いがあるとすれば、やはりそれは力と……戦う覚悟だろうか?それとも━━━いや、もうやめておこう。

一年前、傭兵活動から半年が過ぎた頃に締結されたユニウス条約によって、世界は変わると思っていた。変わるものだと願っていた。それは大きくなくて良い、ほんの小さな兆候で良い。その変化をつぶさに見たいがために、一夏はあえて拠点にしていたプラントに残らずに、地上へと足を踏み入れた。世界各地を旅して回り、かつて目覚めた戦地を訪れ、この世界の故郷ともいえる地を歩いた。

だが、そこで目にしたものは思っていたものとは違うものだった。

 

締結前よりあった、前大戦勃発のきっかけとなったコーディネイターとナチュラルの相互差別問題。

 

肝心のこれが一切解決されていなかったせいで、今もなお各地で小さな小競り合いが続いている。血で血を洗い流し、憎しみの炎は依然と尽きることなく燃え続けている。

どうしてこうも世界は憎しみあい続ける?

戦いをやめられないでいる?

人は、なぜ血を流し続ける?

なぜ。

どうして。

 

それとも、これが世界の答えだとでも言うのか?

 

戦いこそが世界の意志だと?

 

「納得できるか。くだらねぇ……!」

 

こんな歪んだ世界が、間違っていないなんて事を。

では納得できないなら、どうする?

決まっている。全力で立ち向かうまでだ。

何度でも。

何度でも。

理不尽な差別も。

争いだけを望む世界も。

パネルの操作が終了し、ゲートに向かう。アーモリーワンの宇宙港に隠してあったアレは、すでに自動操縦(オートラン)させてある。今頃はもうこのブロックの外に到着しているはずだ。シンから受け取っていたザフトのヘルメットを被り、バイザーを下ろす。

 

「一夏さん……?いったい何を……」

 

背後に回っていたシンが、不思議そうに尋ねてくる。

 

「ヘルメットを」

 

「え?あ、はい……」

 

言われてヘルメットのバイザーを下ろしたシンを確認して、一夏は宇宙空間と第七区画を隔てる隔壁を解放した。左右に開いていく隔壁の隙間からブロック内の空気が流出していく。 その向こうにあるのは宇宙空間━━━ではなかった。

そこに待っていたのは、どことなく強奪された三機のモビルスーツと似通ったフェイスマスクとV字のアンテナを持ったモビルスーツだった。その色は闇よりも黒い漆黒に染まっており、その身に宿す強大な力とは裏腹にどこか美しく思わされた。

地球連合軍がザフト軍のジンに対抗するため、最初に開発したモビルスーツの一つ、“GAT-X105 ストライク“。それを独自にジャンク屋が改良を加えていったことから俺はストライクMk-IIと呼んでいる。

 

『こ、これは……』

 

通信スピーカーからシンの声が聞こえた。ノーマルスーツが連絡しあうときの一般回線のものだ。

 

『一夏さん。あなたは、いったい……』

 

「俺、か……」

 

一夏は振り返り、驚愕に目を見開いたシンと向き合う。

 

「今の世界ならどこにでもいる、ただの傭兵だよ」

 

 

どうでもいいかもしれませんが、今日はわたくしめの誕生日です。

プレゼントは少々のお金とマイシスター(下の方つまり天使)との添い寝だぜヒャッハー!

理性が飛ばないかすごく不安だけど心をVPS装甲にして耐え抜いて見せます!

次回こそは、戦闘させます。なんか更新遅れた上に戦闘なくてホントすみませんでして……。

あと、なんで書きづらい妹たちを入れたかというと、一夏の保護力?とのちのシンを加えた一家のほのぼのを書くためです。ちなみにイメージは艦これの電と雷です。口調が似てないのはゲームやってないからです。


 
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