No.74878

隠密の血脈

うえじさん

バトルロイヤル的隠密のバトル!
でもまだバトルシーンには行きません。

2009-05-22 00:40:29 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:541   閲覧ユーザー数:523

第1話「鮮血の入学式」:1

 

 夢を見た。

それがどんな夢でどんな内容かは分からなかったけど、とても悲しくとても寂しかったのは理解できた。たくさん人がいて、どの人も感情というものを排除した状態で佇んでいる。

「…………」

 何かを話している……

 何を話していうのだろう。視界は利かず意識も朦朧。かろうじて聴覚が申し訳程度に働いているといった状態だ。内容こそ聞き取れないものの、話す声からは何も感じない。いや、感じ取れないように話している。感情など不要なもの、そう示すかのように話す声は機械的であり無機質。事務的報告ではなく本当に機械が人口音声で話すような空寒さが感じられる。

「~~~~」

 別の人の声が聞こえる……

 その人はなんの躊躇もなく己の感情を発している。口という器官を通して今感じられる全てを発散しているようだ。

 短くも異質な会話らしきものは終焉を迎える。闇にこだまする最後の言葉は決心の証。静かにだが重く、厳粛に。肌を刺すは無数の剣。ありとあらゆる官能器官に突き刺さる氷の咎。それで朦朧としていた意識が砕け散る。

否、正常であったのなら人格すら破壊されていたであろうその視線、声色、意志はこの場に紛れ込んだ「俺」という意識を排絶したのだ。

 意識が砕ける。闇の中に四散しては混ざり溶け込む。

 

――あぁ……――

 

 薄れていく意識は最後まで安らぐことはなく。

 

――なんて……――

 

 異様な夢から覚める気配を感じ。

 

――懐かしいのだろう……――

 

 ついに眠りに落ちた。

 

「起きなさ~い。ウラハ~~!」

虚ろな意識が覚醒を始める。宙に霧散した微かな意識が体に収束し、確かな形を成して現実に戻される感覚が全身にじわじわと回っていき、頭も少しずつ働き出す。

「ん~~……」

「ほ~ら、いつまでも寝てるんじゃないのよ、ウラハ!」

「ん~~……」

 母ちゃんの声が聞こえる。きっと起こしにきてくれたのだろう。

「あと……5分……」

 いつもならすぐに起きられるのに今日に限って眠気がとれないでいる。なぜだ?

「ウラハ、あんた今日高校の入学式だからって張り切ってたでしょう?」

「……?」

 入学……式?

「ま~た夜遅くまで準備だのなんだのしてたのかしら?」

 きなしか母ちゃんの声に笑みが含まれてる気が……

「…………」

 そこでやっと意識が鮮烈に稼動した。

「し、しまった~~~~~~~~~!!!」

 

 

 あぜ道を走る。

ただひたすらに何も考えず。闇雲に、ひたむきに、ただ目的地へと邁進することだけを心に刻み走り続ける。

おろしたての服では走りづらく、新品のローファーを泥で汚れてしまったが、走る速度は落とさない。体力が急速に削られようともその足を止めることはせずに走り続ける。信ずるべき一つの思いを胸に、僅かな後悔と膨大な不安に苛まれながら……

「あ~もう、なんで俺はこうも馬鹿なんだ!」

 誰もいないあぜ道で声を大にして叫ぶ青年が一人。薄緑がかった綺麗な白髪を肩口まで広げるように無造作に伸ばし、純粋そうな丸々とした瞳に左目の下の泣きボクロが印象的な、どこか少年のようなあどけなさを想起させる容姿だ。

「しょうがないよウラハ君、目覚まし壊れてたんだからさ。ウラハ君が気にすることは全然ないよ」

 そういって共に走りながら励まし続けるのは艶やかな、しかしどこか無造作な印象も受ける黒髪を腰下まで伸ばし、穏やかな優しいまなざしのおっとりとした様相の女の子。二人は共に遅刻を埋め合わせるように走り続けていた。

「つうか蘭も遅れてるの分かってたなら先行ってればよかったのによ」

「あはは、別に私は遅れても大丈夫だよ。ウラハ君と一緒に登校したかったし」

あたり一面田畑だらけの土地を疾風迅雷のごとく駆け抜ける二人。賑やかに朝の空気を大いにかき乱している彼らは車と並走するような勢いで一本道を行く。

「高校の入学式ってのに……前の夜から完璧に準備してたのに……くそう」

 そう、唯一のミスがあるとすれば夜遅くまで作業をしてしまったことだ……

「別に高校っていっても皆知ってる顔だよウラハ君?」

 そう、周囲を山で囲まれ、一帯が農業地帯にあるこの土地はある種結界に近い状態にある。

そんな状態の土地では出て行く者こそいれど、やって来る酔狂な輩はあまりいない。

よって、過疎化の深刻な昨今では高等学校までほとんど見知った連中と過ごすことになる。

「綾人君から聞いた話じゃ外から来る子もいないし、中学と変わんないらしいよ?」

「だけどさー、蘭~~、せっかくの入学式だぜ? 気持ち的にもこう……こみ上げてくるものがあるじゃんさ」

「そう。わたしは全然これっぽっちもないけど?」

「えぇ、うそ~~ん!?」

「だって、どうせ学校に行ってもウラハ君と綾人君姉弟と一哉君しか話し相手いないし、特に変わったことなんてないでしょ?」

そういって首をかしげる黒髪の女子、雛罌粟 蘭。これはなんともいただけない。

「んな寂しいこと言うなよ蘭……。俺頑張って友達作り励んでんだからさ……」

 幼稚園時代から通算4勝しかしてない……つまり4人しか友達つくれてないのが実態だが。

「わたしはウラハ君がいれば全然寂しくないよ」

そう微笑む姿は心からそう思っているものだとわかる。だからだろうか、言われてほんのりと照れくさく思ってしまったのは。

「やめてくれよ蘭。なんかはずいじゃん」

 そういって頬をかく仕草をとるも、素直に蘭の顔が見れないでいるあたり純情さがよくわかる。

「ふふ、ウラハ君顔赤いよ?」

「わ、ばかつつくな!」

 あたり一面田畑しかないなか、二人の周りに甘いヴェールが展開しだした。幼馴染の特権なのか、ことあるごとにスキンシップが止まないでいる。いや、この場合はちょっかいといった感じのものだが。

 甘い空気はだだ漏れながらも充満して……

 

「……何……新、学期…、から……いちゃついてん…………だよっ!!!」

「!?」

 いきなりの不意打ちに二人とも思わず足を止め振り返る。

心臓が止まりそうな程の衝撃にあたふたする二人。顔が真っ赤になる心葉とは対照的に蘭はどこか苛立たしげな感がある。

そして目の前には息も絶え絶えの少年の姿が。

「おま……え、ら。速過ぎるだ……ろ……」

 よっぽど無理をしたのか、なかなか顔を上げずに息を切らし続けている。

「あ、綾人君?」

あまりの様子に蘭も心配がる。無理もない、彼は中学校まで陸上部で活躍してきたバリバリのスポーツマンなのだから。

ある程度落ち着いたところで口を開く。額に汗して肩で息をする美男子は思い切りふてくされた顔で二人を睨んでいた。

「お前ら、高校生活初日だってのにいちゃついてんじゃねーよ。せっかく追いついたのに話しかけづらいこと烈火の如しだぞ!」

「あわわ、別にいちゃついてなんか……」

「なんだ綾人、お前も寝坊したのかよ?」

(見事に質問を無視してくるなーウラハは……)

蘭が一人で顔を赤らめているのを尻目に率直な感想が先立ったウラハに海藤綾人も半分呆れ気味だった。

「……」

 もちろん残りの半分はウラハの反応に意気消沈した蘭を笑うことだ。

「俺はてめーらと一緒に登校したかっただけだよ。一人でこの道いくのも退屈だからな。」

「ほう、泣けること言ってくれるね~」

「ははは、数少ない親友だからな。惚れんなよ?」

「ははは、一言多いぜこのやろう」

 お互いに悪態をつきあいながらも笑い合うウラハと綾人。このような会話に花が咲くのも仲のいい証拠であり、実に微笑ましい光景である。ただ蘭はじ~っと恨みがましい目で綾人を見つめているが。

(ちぇっ……いいところだったのに。空気読んでよ綾人君!)

(ふはは、恋路とは得がたく失いやすいものと知るのだな、お蘭よ)

ウラハを挟んで蘭と綾人の脳内言語が交わされていた。爽やかな笑顔で蘭をおちょくるあたり、大人びた美貌に見合わぬやんちゃさが伺いとれる。

なんにせよ、朝の山間地には男女三人の笑い声が高らかに響いていた。

 

「……ウラハはもう行ったか?」

影が喋る。ウラハが玄関を鬼のような形相で出て行った後のこと。十数分過ぎた後、気がつくと彼女はいた。気配など当然なくいつからそこにいたのか、心葉が出て行く遥か前からそこにいたようにも思えるほど存在そのものが不確定な女性。

いや、女性というにもその容姿はあまりに凛々しく美男にとれる。そんな朧のような女性は淡々とアカネに問う。

「ええ。丁度出て行ったわ。あなたのその能力もなかなかに不便なものね?」

「ああ、これだけは唯一の欠点でな……」

影は言葉とともに徐々に姿を形成していく。まるで幽霊であるかのごときその存在感は気がつくと人のそれと変わらなくなっていた。

スーツ姿の凛々しい美女。全身黒衣に包まれた容貌は一部の隙もなく、その美貌とは裏腹に温度を感じさせない無機質な表情を固めている。

「完全超人の異名を持つあなたの汚点といったところかしら、ナギナギ?」

「いや、もともと我々は人にも劣る『欠陥種』だ。むしろ無いほうがより人らしいというものさ」

「うふふ、ナギらしい強がりね、でもそこが可愛いところでもあるのよね~?」

「ふぅ、いくら経験を積もうとお前には敵わないな、アカネ」

 リビングまでの短い廊下を二人はゆっくりと進む。

つかの間の会話がどちらとも無くでてくる。ごく一般的な、なんら違和感も問題点も挙げられないほど普通の友人同士の会話。この会話だけでも二人がどれだけ親しいか伺えるが、今この状況ではそれすらも悲壮に感じられる。それほどまでに今という均衡はいっぱいに張り詰められていた。

「あなたが『それ』を使ってまでここに来たってことは……ついに動き出したの?」

「……あぁ。それも急を要する事態だ」

いすに腰掛けるナギ。テーブルにはあらかじめ申し訳程度の紅茶とバームクーヘンが一欠けら。

しかし二人の間には既にそれらはインテリアとなんら変わらない存在となっている。いすに座ったナギも、その向かいに立つエプロン姿のアカネも、お互い見向きこそしないが既に彼女らは話に集中していた。

「奴らはこの町へ来ているらしい」

 ただ一言ナギは告げる。

「朱山に?」

「あぁ、急速にこの土地へ向かう者たちが全部で2名確認できた」

「……交戦ってわけでは……ないわね」

「今の状況ならばいつでもナツメとリリーを呼べる。この人数での本格戦闘はありえないだろう」

「なら……」

「そう。告げに来ただけだろう。奴らの頂点にはおそらくあの二人がいるだろうからな」

 互いに言葉が交わされる。しかしお互いに質問や疑問は投げかけていない。あくまですべて分かった上で確認しているのだ。

「なので昨晩、急遽アオイに召集をかけた」

「!?」

 一瞬言葉につまる。自分の予測と反するナギの言動、そしてそれが意味することの重大性。即座にアカネの現状分析に大きな改変を加えた。

「まさ…か……?」

 そう、アオイを呼ぶことの意味。その意図を察してしまった。

「時間的にはあと数分で到着予定だ」

 アカネの顔が青ざめていく。

「ナギナギ、あなた全部知って……」

 そしてそこから徐々に怒りの色が見え始める。

「アオイちゃんを呼ぶくらいならあたし達で仕留めるまでよ」

「無理だ。奴らは二人だけではない。おおよそ私たちが妨害のため向かえば『別』の奴らが止めるだけ」

「わかってたならなんでナツメちゃんとリリーちゃんを呼ばなかったの……?」

「あそこにもここと同じように接近者を確認できた。あからさまなけん制だろうが、それでもあの家を空けるわけには行かない。近隣に居るものたちはみなそういう状態だ。完全にこちらが後手にまわされたというわけだ」

「っ!!!」

 その瞬間、強烈な威圧がナギを襲う。感情を殺しきれず、思いを抑えられずに漏れ出た怒りはナギに正面からぶつかっていく。その怒気は常人であれば気がふれて卒倒する程であり、微かに周囲の壁面やインテリアが戦慄いたようにすら感じられる。

だがナギはなおも無感情に喋り続ける。ただ機械的に、冷たく、味気もないほどあっさりと、ただ今ある事実を語り続ける。

「混乱と戦場の支配するなか、大多数を護りながら勝てる……いや、護りきれるほど奴らは脆弱ではない」

静かだが重い言葉。アカネに対してのみ告げられる残酷な現実。どうあがこうとも、ナギの発言はまったくもって正しいのだ。それが分かるが故に気持ちが抑えきれないでいる。

が、そんなことで理性は外れない。彼女の心は揺れはすれど動くことはない。かつて完全に感情を支配する法、隔離する法、消去する法まで体に刻み込んでいる彼女たちは単なる感傷で判断を鈍らせることはない。

「……わかってるわナギナギ。ごめんなさい、ちょっと平凡に慣れすぎたみたいねあたし」

「いや、悪いことではない。むしろそれは我々にとっては望むべきことだ」

「そういってくれると助かるわ……」

 そこで完全に殺気は消えてなくなった。はたから見ればただの早朝の団らん風景そのものだろう。

「だが、もうあまり時間がない。おそらく奴らはウラハのいるべき場所へ向かっている」

「今回の場合なら準備は軽めでもよさそうね」

「あぁ、だが油断は出来ない。奴らはウラハと蘭だけ『辛うじて』だろう……」

 そう、今回は奴らの『挨拶』に過ぎない。過ぎないからこそ今回の作戦は後手に集中しなければならないのである。

 最悪中の最善。それが今回の作戦の最重要点。

 全ての計画を練り直し、試行錯誤の末に決定、暗記、確認、再編成を瞬時に行う。

ナギとアカネは一瞬の空白の後、家を出て裏山へと続く道を人知れず走り抜ける。もうそこに人らしき気配は微塵もなく、そこにあるのは無機質な風の流れだけで……

 

 

 入学式に間に合うという目標は捨てた一行は、のんびりとあぜ道を歩いていた。

朝の澄んだ空気は気分を一新させ気分を高揚させてくれる。ただあぜ道を歩んでるだけでも十分に充実した時間を過ごせるというものである。

「しっかし、お前らを見てると本当自信無くすよな~。」

 なんの前振りもなしにぽつり、と呟く綾人。

「何言ってんだよ、お前は程の容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群と才色兼備なやつはそうたくさんいないぜ?」

「そうだよ。綾人君、女子にも人気あるじゃない。贅沢はよくないよ?」

「そりゃどうも。」

 無駄に四字熟語使ったりと、なんか妬みにしか聞こえないのは俺の気のせいだろうか……?

「まぁ、そりゃ他の奴よりかは少し秀でてるかもしれねーがよー。お前らの身体能力の高さにゃあ正直、陸部としてのプライドが挫かれそうだぜ……」

 そういうとばつが悪そうに鞄を振り回す。

 陸上800m走のエースを中学3年間保ち続けた男にはそれは認めるに易いことではなかった。

「んなこと言ったってしょうがねーだろ?こりゃ生来の体質みたいなもんなんだからさ。」

「んー、あたしも……かな?」

 あ~あ、はっきりと言ってくれるぜまったく。そういうのがいちいち傷口広げるっつーのによう。

俺も才能があると自負してるし、練習や体力づくりも人並み以上に頑張ったと言える。実際、県大会にも入賞したしスポーツ推薦だってたくさん来た。……ま、こいつらと離れんのが嫌だから全部けったけどな。

「……なんつって」

「ん?」

「あ、いや?なんでもねえ、話戻すぞ!」

 んなことはいくら俺でも言えねえわな、はは。

 まぁなんにしても、小さい頃から喧嘩だって負けたことねえし足だって早かった。それが自信でもあったし誇りでもあった。

でもまぁ、こいつらに出会ってその自信も砕けたけどな。

「お前らいったいどういう身体してんだよ、たいした筋トレしてるわけでもねーんだろ?」

「うん、してねえよ?」

「あたしも。」

ケロッと言いのけるウラハと蘭。本人達からすれば本当に天性のものなのだししょうがないんだろうが、こちらとしてはそれが羨ましかったり贅沢すぎるとか思ってしまうんだよな。

「こちとら陸上に青春費やしてんのに、お前らに追いつけなかったってのはショックだったんだぜ?」

「え?」

一瞬何のことだが判断しかねた。しかし先のことを思い出すと何もいう言葉が見当たらなかっただろう。綾人もあまり思い出したくないのか、どこか言いにくいような感じだ。

「さっきよ、お前らがめっちゃ全速で走ってんのを見かけてよ……。追いついて声かけてやろうと思ったんだよ。」

 自身は800m走のエースだからこその余裕と意地があった。

800m走という競技は全力で走りきるスポーツである。己を極限まで追い込み、減速することなく走りぬく。酸素の欠乏など関係ないと走りぬき、筋肉の疲労など無視して駆けぬけ、体の悲鳴を押しつぶして一身風となる。

それは毎回己との葛藤であり限界への挑戦である。妥協など許されぬからこそ、常に苦痛との紙一重拙戦だからこそ走りきった後の感慨はえも言えぬ快感なのである。

 それが彼の最も誉とする誇りだからこそウラハ達を追いかけた。最初はただ後ろから脅かそうという彼らしい悪戯心であったが、それ故に走り出してから後悔することとなる。

「こちとらペース配分もできないくらい全力で走ったのによー、5分たってもなかなか差が縮まなくてよー……」

「……」

「やっと追いついたと思ったら、お前ら息一つ乱さず会話に花咲かせてよー、あげくにほっぺたつんつんとくらぁ、さしもの俺だって心が折れるっつの!」

 口ではそう言ってはるが、ほっぺを膨らましてぶつくさ言うのは綾人の友人を想う表れだからであろう。あくまで文句をたれるだけで、決して相手を責める口調ではない。

 だからこそか、今の発言には二人とも動揺を隠せなかった。

 顔を赤らめてあわあわ言う二人を見たて綾人は少し気分が晴れた。

「まぁ別にウラハならまだ我慢できるがよー……」

 そう言うと視線は蘭に。

「な、なに?」

明らかに不満そうな顔をする綾人。

「お前がウラハと同じポテンシャルっつうのは許せね~な~」

「べ、別にいいでしょ、別にこれも天性のものなんだから!」

 蘭にしてみればさしてたいしたことないことだが、男として、スポーツマンとして、何より綾人自信として努力もしていない一般素人に負けるのは悔しいことであろう。ましてや負けず嫌いでこの種目に挑戦しただけにその嫉妬心は炎のように激しい。

「いずれは絶対に抜いてみせるぜ……」

「まぁ、挑んでくるならいつでも受けてたちます、予定がなければ」

「……それはいつでもじゃないぜ」

 こういったところで綾人も脱力。幼馴染であるが故にこういった和やかな空気が実に心地よいもので……

 

 朝のあぜ道をゆったりと進む。もはや急ぐことをあきらめた。

「ふわ~あ、しっかし眠いわ~」

「なんだよウラハ、お前今日入学式だっつうのに夜更かししてたのかよ?」

「いや~それが準備やら何やらで手間取って……」

「……」

 ウラハの鞄を見る。明らかに何も入ってない感じの薄さだ。

「それ何が入ってんの?」

「え~と、筆箱だけ!」

 元気だけはいい。

「お前ってなんでそう天然なとこがあんだろうな?」

「別に俺は天然じゃねえよ!」

 とか言いながらも軽く焦ってるあたり、自分でもだいぶ自覚しているのだろう……

 そんな切ないことを思う二人であった。

 


 
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