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鬼の人と血と月と 第3話 「活動」

絶過現希さん

鬼の人と血と月と 第3話 です。

2014-12-31 17:19:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:537   閲覧ユーザー数:537

第3話 活動

 

 

 

 

 

モノクロなセピア色の世界…

そう、ここは統司の夢の中

そして相変わらず、顔の見えない小さな巫女が、数人の“人の様なもの”達と共に森の中を歩き続ける。

しばらく歩き続けると、巫女たちは森を抜け 集落の様な所へと出る

そこには複数の“人の様なもの”達が呻(うめ)き彷徨っている、

その様子は、もがき苦しんでいるというより、今にも暴れだしそうな様子だった

その様子を見て 小さな巫女は、閉じていた口を開き 歌を奏で始める

何を言っているのかは、夢であるからなのか、分からないが、

夢の主である統司には、その歌声はどこか懐かしく、とても気が安らいで感じた

そして巫女の歌を聞いていた、呻き彷徨っていた“人の様なもの”は落ち着いた様で、巫女と一緒に着いていたもの達と同じ位に平静を取り戻した

そして、空には丸く真っ白な月が輝いていた…。

 

昼休み…

昼食を終えた統司は、窓から外をボーっと見ながら、今朝見た夢を断片的に思い出していた

悲しい夢は全て同じ世界であった、ここに来てから、夢の事を覚えている様になり、日にちが経つごとに夢ははっきりと覚えている様になっていた。

昔は1年に1度位だったものが、ここに引っ越してからは多いペースで見ている

だが、最近落ち着いてきたのか、少し間が空いて夢を見る、

しかしペースが早いことには変わりないが

…もしかしたらここの“鬼”の話と夢は何か関係してるのではないだろうか?

 

帰宅部に入ってから2週間程経ち、日付は5月へと変わっていた

それこそ最初の1週間は、真面目に部室で待機していたが、他の部員は来ることは無く、蒼衣に付きあって共に帰宅するようになってから、次の週には部室に行くことは無くなっていた。

「統司君!」

ボーっとしていた統司は、背後からの恵の声に気付きそちらに顔を向ける

「ん、北空か、どうした?」

『えっと、帰宅部の活動があるから放課後は部室に集まって、って一応水内先生からの伝言ね』

「ああ、分かった」

『それじゃ伝言は伝えたし、用はそれだけ、それじゃあまたね』

用だけ伝えると恵は去って行った

 

『よう、北空に話しかけられてたけど、どうしたんだ?』

統司に話しかけてきたのは、顔の半分が隠れるほどの長い前髪の男子だった。

名前は藤盛風(ふじもりふう)牙(が)、転校してきた統司に気さくに話しかけてきた、趣味や話が合い、クラスの中では初めての男の友人だ、ちなみに蒼依とも仲が良い

「放課後、部活の呼びだしだよ」

『そっか、そういやお前 鬼焚部だったな』

「よく覚えてるな…、ってか言ったっけ?」

『確か1度だけな、鬼焚部って結構有名だし、それなりに話は耳に入るよ』

そしてしばらく藤盛と話し合っていると、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響く

『っと、もう時間か、そんじゃまたな』

藤盛は席へと戻ると、統司は次の授業の用意を始める

 

…霧海宅

家事を一通り終えた統貴は、テーブルでコーヒーを飲みながら、ノートパソコンを開きディスプレイと向かい合っている

…ピンポーン

不意にチャイムが鳴り、統貴は玄関へ向かう

扉を開けた先には滴が立っていた

「お、いたいた、なんか暇になっちゃってさ、せっかくだからお隣さんと親交を深めようと思って、お邪魔だった?」

『いや、大丈夫ですよ、どうぞ上がって下さい』

「そいじゃ、おっ邪魔しまーす」

家を観察している滴を後ろに、統貴はリビングへ誘導すると、台所へ向かう

「コーヒーで良いですか?」

『あ、大丈夫、砂糖とミルク多めでお願いね』

滴はテレビの傍のソファに腰掛け、相変わらずと部屋を観察している

コーヒーを淹れ終えた統貴は、カップを持って行く前にテーブルの上のノートパソコンを閉じ、ソファのミニテーブルにカップを置く

「どうぞ」

『ん、ありがとうございます』

そして統貴はテレビの向いのソファに座る

2人はコーヒーに一口飲んだ後、滴は睨むかのように統貴をジッと見つめる

「えっと、どうかしましたか?私の顔に何か…」

『いやぁ、やっぱり誰かに似てる…、というよりどっかで会ったような…』

苦笑する統貴を少しの間見つめると、滴は考えるポーズをする

「うーん、どっかで…、えーっと…? …あ」

何かを思い出したかのような表情をすると、今度は統貴から顔をそむけてぶつぶつ言いながら考え始める

「あー、えーっと?って事はー?もしかしてー…、よし」

何かを確信したかの様な表情をすると、滴は統貴と向かい合い、喋りだす

「ハハハ…、あ、あのさ、もしかして…、もしかして“トウちゃん”!?」

ほんの少し間が空き統貴は考え始める…

「あ、えっと…、なんだか懐かしい感じの呼ばれ…」

そこで言いかけると、統貴の表情はガラッと変わる

「えぇ!? まさか…、その呼び方…、って事は、まさか“シズ”!?」

『あ、そうそう!その呼び方!そうだよ、あの“シズ”だよ、懐かしいなぁその呼び方…』

「あれから何年って事になるんだろう、えっと…30年位ぶりって事になるかな」

 

幼いころ、短期間だったが統貴は、この町にいた事があった

その時に近所で、少し年上の少女といつも一緒に遊んでいた事があった

それが、幼いころの「滴」である、“シズ”というあだ名で滴はいつも統貴と遊んでいた

しかし大概は、幼いころの滴はおてんば娘で、林や川などいつも統貴を振りまわしていたが…

 

「いやぁ、本当に懐かしいね…、30年か…」

そこまで言うと滴は苦笑する

「嗚呼、もうこんなオバサンになっちゃって…」

『ははは、それ言ったら俺もオジサンじゃないか、まぁ実際そうなんだけどな』

「あんまり笑い事じゃないよ…、結婚して娘もいるとしても、乙女に歳は大問題だっての」

『…それ、突っ込むところ?』

2人はまた、コーヒーを一口飲み、滴は再び話を始める

「あ、そういえば、トウちゃんの奥さんってまだ合ってないんだけど…、どうなの?」

『どうなのって…、ああ、妻は今仕事で海外に赴任していて、しばらくはこちらに来れないみたいなんだ、多分あと数カ月は会えないかな』

「へぇ~、トウちゃんの奥さん、すごい人なんだ、ねぇねぇ、海外ってどこに行ってるの?ってかどんな仕事してるの?」

『海外と言っても、あちこち飛んでるから分からないな、仕事は…実はあんまり知らなくて、外資系…だった…かなぁ?』

「へ~、…って事は家事は全部トウちゃんがやってるってこと?ってかトウちゃん主夫なの?」

『ああ、そうだよ、…って言っても、完ぺきに出来てるかはわからないけどね』

滴は部屋を見回し、言い返す

「いやいや、十分出来てるよ、寧ろ私より上手いかも、いいなぁ…私の旦那、ちっとも手伝ってくれないんだもん、まぁ恵が手伝ってくれてるから、特に心配ないんだけどね」

滴は表情をコロコロと変えながら話し続ける

「…あれ、奥さんがそんなに帰らない…って事は…、トウちゃん、“あっち”の方はどうしてるのさ?」

『あっち?』

統貴は首をかしげる

「もう、いい大人なんだから、言わなくてもわかるでしょ?…で、どうなのさ」

統貴は察したのか、苦笑して答える

「あー、ははは、別に、どうにも」

そう聞くと滴はかなり驚く

「えええええ!…ってことは大分ご無沙汰なの?」

『…ってことだね、はは』

「人肌恋しくなったりしないの?トウちゃんは?」

『いや…別に、慣れてるからさ』

滴はポーズを決めて、言い返す

「良かったら、いつでも相談乗るからさ…」

『勘弁して下さい』

統貴が即答で返すと、滴はむっとした表情になって言い返す

「そんなにオバサンの私には、色気がないと言ってるのかい?」

滴は胸を強調するかのように腕を組み、怒りながらも統貴に詰め寄る

統貴は苦笑しつつも、滴と距離を取って答える

「あ、いや、俺には奥さんいるし、ってか シズも旦那いるでしょうが」

統貴の答えに渋々元の位置に戻りブツクサ言う

「結局、色気に対して否定しないのかい」

『あ、いや、昔に比べたら本当に成長したよ、見違えたよ、だってシズが言いだすまで分からなかったし』

「うーむ、なんだか腑に落ちないが、まぁ許しましょうか」

そして、何気なく滴は時計を見て、時間に気付く

「ありゃ、もうこんな時間か、そろそろ帰るとしますかな」

『あ、玄関まで送るよ』

「そんじゃ、また明日ー」

滴は笑顔で手を振ると家から出て行った

そして統貴は一息つく

「また明日…か」

統貴は昔の事を思い出した、いつも滴と別れるときに言っていたのと全く同じだった事を

統貴はソファに背を持たれて呟く

「全く…変わってないな シズは、相変わらず大変な人だ」

さてと、と立ち上がると、いつの間にか飲み干されてたカップを片づけ始める

そこで、何か思ったのか統貴は動きを止める

「あれ?なんで“あの時”俺はここを離れなくちゃ行けなくなったんだ?」

 

6時間目が終わり、数名の生徒が授業内容に関して聞きに行く

アオイせんせーと、生徒たちが呼ぶ声が聞こえるが、統司は聞き流しバッグに荷物を纏める

しばらくすると、ホームルームのために水内先生が教室に現れる

「特に連絡は無し、以上」というたった一言でホームルームが終わり、放課後を迎える

ホームルームが終わるな否や、恵はそそくさと教室を出て行った

「さてと…」

統司はイヤホンを首にかけ、バッグを背負うと教室を出る

その際に藤盛が「じゃあな また明日」と挨拶をしてきたのを統司も「またな」と一言返す

足早に出て行った恵とは別に、統司はのんびりとしたペースで教室を出て歩き出す

行先は管理等の3階、鬼焚部の部室だ

HR棟から管理棟に移動する際に後ろから蒼衣が声をかけてきて、共に部室へと入る

「こんちわーっす」

と、扉を開けると、既に部員は揃っていた、但し“一人”を除いて

「おお、よく来たよく来たー!」

月雨が笑みながらヒョコヒョコと手を振る

「月雨先輩、お久しぶりです」

『あー、名字で呼んだーっ、私の事は“ツーノ”って呼んで良いってばー』

統司があだ名で呼ばなかった事に、月雨は不機嫌そうに反論する、すると統司の後ろにいた蒼衣が挨拶する

「あ、ツーノ先輩お久しぶりっす」

『むっ…、“先輩”が余計だけど、まぁ良しとしましょう』

蒼衣に標的が変わったと判断して、統司は椅子に座るが、月雨は目標を戻し、逃がすことはなかった

「ほら、霧海君も、ツーノって、…さんはいっ!」

目標が戻ってきたのに統司は驚き、口ごもる

「え!?あ…、えっ…と、ツ、ツーノ、先輩…」

『君も先輩ってつけるの?も~っ!』

統司の返答に、月雨は不満そうな顔をし、統司は苦笑する

その様子を見ていた、大柄な高校生、鬼焚部の部長である詩月は、クスリと穏やかな表情で、月雨をなだめる

「そこまでにしないか月雨、みんな困ってるじゃないか」

そう言うと月雨は反論をする

「だって鬼央ー、私は霧海君が、早く皆に慣れる様にちょっとしたスキンシップを取ってただけだもん」

『ほら見ろ、魁魅だって呆れてるぞ?』

部室に入ったときから、さり気無く微かに挨拶をした以外は、黙々と読書をし続けていた魁魅、小さくため息をついた

「月芽君も―?うー…」

周りの様子を確認した月雨はしょぼくれ、その様子を見た蒼衣は話し始める

「あ…、ってか先輩、詩月先輩は呼ばなくて良いんですか?」

だが蒼衣の言葉は地雷か何か踏んだ様で、月雨はやや怒りながら反論する

「鬼央と月芽君は真面目っ子だから良いの!!」

『俺と霧海は真面目じゃないのかよ…』

その言葉に蒼衣はやれやれと呆れるが、詩月がまた月雨をなだめ、月雨は「うーっ」としょぼくれる、

そして統司は部員の一人がいない事を思い出して、話始める

「そう言えば先輩、北空はまだ来てないんですか?」

月雨は“先輩”という呼び方に反応して、涙目ながらキッと睨んでこちらを振り返るが、詩月が後ろから無言でプレッシャーを与えてきた事に感じて、ケロッと明るい表情に変わる

「あ、恵ちゃんはまだ来てないよ?どうして?」

『いや、俺より先に教室出たんで、いるものだと思ってたんで』

そこまで話すと部室の扉が開く

「遅れてすいません、もう集まって…ましたね」

現れたのは不在だった、恵だった

「あ、久しぶりー恵ちゃん!」

そう言うと北空に寄っていく

「お久しぶりです月雨先輩」

恵がそう呼ぶのを聞いて、「結局ほとんど呼ばないんすか…」と統司は呟く

「相変わらず恵ちゃんは可愛いなぁ!」

と言いながら、鞄を下ろした恵に、月雨は横から抱きつく

「わぁっ!?もう、先輩ったらまた抱きつく―」

その様子を見ると、その身長差からまるで姉妹の様である

「そして…、良いスタイルだなぁ」

そう言いながら、顔をお腹に擦り寄ると、手がだんだん上の方に来たのを、恵は両手とも押える

「先輩も、いつもより可愛いですよ」

そういうと、恵は月雨の頭を撫でる

「本当!?私可愛い?」

恵は「うん、可愛い可愛い」と、完全に子供をあやすかのように月雨を扱う

「どこ行ってたんだ、北空?」

ふと疑問を統司は投げかけた

「あ、ちょっと剣道部にね」

鬼焚部は活動が不定期である為、部活動や委員会との掛け持ちを許可されている、そのため詩月や魁魅も委員会・生徒会に掛け持ちになっている、但し部活動の場合、所属ではなく仮部員の様なものとなる

 

しばらく統司は音楽を聴きながらボーっとしていたが、ふと気付いた事を、月雨に質問する

「そう言えば先輩、今日は何で集まったんですか?」

『? あー、そっかそっか、まだそんなに慣れてないし分かんないよね、ってか今日が初めてか、…霧海君は鬼焚部の活動内容分かってるかい?』

「あ、はい、水内先生から入る前に教えて貰いました」

『うん、じゃあ今日は満月の日なんだよ』

「満月…ですか、あ…」

活動内容と満月である事で、統司は理解した

「なるほど、わかりました、それで集合って事ですか」

『おお、霧海君は頭の回転が速いね、…で、私たちは6時頃までここで待機、もし暴走しちゃった人が現れたら、遂に活動開始って事』

「そうですか、ありがとうございます」

月雨が説明し終わると詩月が話に入る

「いや、本当に霧海は理解が早い、本当に外からの人間とは思えない位にだ」

『いえ、そんなことありませんよ』

「いや、案外そうでもない、地域で幼いころから刷り込まれてるが、大人になって疑問を覚えて反対を起こす者も僅かだがいるからな」

『そうなんですか?』

「まぁ本当にごく一部だ、今は大分落ち着いてるがな」

そんなことを話していると、早めの足音が近づいてくる、その音に気付いたのか、皆の顔が険しくなる

そして部室の扉が激しく開き、水内が現れる

 

「皆ちゃんといるか?お、霧海もちゃんといるな、…対象が現れた、場所は病院から3キロほど離れた場所にある駐車場付近だ、幸いな事にまだ大した被害はない、粛清になる前に速やかに準備してくれ向かってくれ」

そう言うと、部の皆はそれぞれ、各々のロッカーを開け、荷物を整理し始める

「統司君、一応これ、持ってて」

そう言うと、一本の木刀を統司に渡す

「あ、うん、ありがとう」

統司が返事をすると、恵は二コリと笑うだけで返事を返さない、ロッカーの中が少し見えるが、何本もの木刀が入っていた

棒立ちになっていると、水内が話しかける

「あー、忘れてた、ロッカーは早いうちにちゃんと用意しとくわ」

…と、水内はやや申し訳なさそうに頭を掻きながら統司に言う、

そして支度が終わったであろう蒼衣が、統司の肩に手を乗せる

「これから荒事になるから、少し荷物は身軽にしておけよ?あ、携帯は持っとけよ?」

その言葉に統司はある程度の荷物をバッグに入れる

身につけてるのは、携帯とウォークマン、そして先ほど渡された木刀だ

空を見るとすっかり夕暮れだった

「よし、準備は良いみたいだな、それじゃあ、活動開始!」

水内の一言で、月海以外の皆が部室を飛び出す

統司も遅れないように皆の後を追う、そして部室にいる月海は「気を付けてー」と声をかける

後ろから恵が走って来て、統司に声をかける

「統司君は今日が初めてだから、私が近くにいてサポートするね、分からない事があったら私に聞いて」

と、統司を安心させるために恵は声をかける

 

「発見場所はここか」

水内が指示した駐車場に付くと、詩月が指示をする

「まだそんなに時間はたっていない、悲鳴なども無い様だ、路地裏にいるかもしれない、見つけ次第月海に連絡を、全員散会!」

そう言うと詩月と魁魅、蒼衣はそれぞれ別の方向に走り出す、蒼衣はやや小走りだったが

「それじゃあ、統司君私たちはここを中心的に向こうを探そう」

そう言うと恵は歩き出す

 

暗い路地を2人は歩く、辺りにいないか気を立てて

「ここら辺はいないみたいだね、もう少し向こうへ行こうか」

そう言い、恵は走り出し、統司はそれを追う

路地裏に入り、十字路に当たった、建物に囲まれているため、最早陽が無く真っ暗である

突然恵の携帯が鳴りだす、相手は月雨だった

「もしもし」

『恵ちゃん、鬼央、詩月が見つけたけど逃げられたって、たぶん恵ちゃんの方に逃げたかも』

「わかりました、気を付けて探します」

携帯を閉じてすぐに恵は何かに気付いたのか、木刀を構え、小声で統司に話しかける

「気を付けて、いるかもしれない、統司君も構えて、戦う心構えをしていて」

十字路の壁に隠れ、様子をうかがう、そして恵は一人で確認しに行く

木刀を両手で構えながら少しづつ歩いていく

暗い路地の中心に、“黒い人影のようなもの”が見える

そして互いが“敵”を認識し、戦いが始まる

「てぇっ!」

恵が木刀を振るうが、敵はそれを避け、爪を立てて引っ掻こうとする

しかし、恵もそれをかわし、木刀で敵を攻撃する

木刀の先が脇をかするが、敵は怯まず反撃に出る

敵の反撃に恵は木刀を構えるが、攻撃した敵の手は、木刀に当たり、鍔迫り合いの様な状態になる

しばらくその状態が続くと、敵は後ろに下がり、距離をとる

時間も遅くなったのか、街灯が灯り、敵の姿が現れる

その姿は、短髪の男子高校生だった

ただし、暴走している為、雰囲気や挙動は人とは全くの別物だが…

お互いがしばらく向かい合うと、ふと統司の方に視線が向いた気がした

そんな事を思った瞬間に、敵は恵へと走り向かう

恵は迎え撃つかのように、間合いに入った瞬間に木刀を振るう

「せぇぇやぁぁああ!」

しかし、敵は横に飛び退き、恵の攻撃は空振る

すると敵は、電柱に置いてある空のポリペールを片手で持ち上げ、恵に投げつけた

「くっ!?」

恵は防ぐことが出来ず、直撃してしまう

よろめいた恵から、敵は再び間合いを取る

敵の動きが止まると、空気が変わり、敵の方へと流れていく

背筋が凍る様な、それでいて生温かく蒸し暑く感じる様な、異様な空気

「グゥアアアアアアアゥッ!!」

敵がうなり声を上げると、その両手が黄色い炎に包まれ、手のひらに現れる

異様な炎が現れたと共に、敵はその炎を恵へと投げつける

「キャアッ!」

両手から放たれた二つの炎を、恵は木刀で振り払うが、炎に一つが木刀をすり抜け恵へ衝突する

「くっ、このぉっ!」

黄色い炎に恵は全身を包まれるが、木刀を大きくふるうと、一瞬で炎は消える

しかし、振るった瞬間に敵は距離を詰めていた

恵はすぐに木刀を構えるが、木刀を掴まれてしまう

そして敵は恵の木刀を持ったまま恵を蹴り飛ばす

「キャアッ、ゥグッ!」

勢いよく飛ばされた恵は壁に叩きつけられる

木刀はまだ敵の手に握られたままだ

「あ、くそ…っ、木刀が…」

敵は掴んでいた木刀を、まるでゴミのようにそこらに捨てる

統司は、恵が危ないと感じ、助けに行こうとしたが、敵は恵に追い打ちをかける事も無く、統司が動き出す前に、こちらに振り返る

統司はそれに気付き、木刀を構える

そして敵はこちらに走り、向ってくる

統司は木刀を握りしめ、間合いに入ったと感じ横に片手で振るう

…が、敵は統司の振った木刀を踏み台にして、統司を飛び越した

統司はバランスを崩すが、その勢いのまま後ろに振り返る

それと同時に敵はこちらに走って来る、そして殴りかかろうとする

ワンテンポ遅れた統司は、直感で振ったのでは間に合わないと感じ、とっさに木刀を突き出す

…強い衝突感が、木刀を通して伝わってくる

木刀の突きが、敵の腹部をとらえていた

敵は間合いを取り、当たったであろう腹部の場所を抑え、呻く

統司が戦っていた間に、恵は体制を整え、木刀を拾い上げる

すると敵は挟み撃ちになっていた事に気付き、2人と睨みあう

しかし睨みあっていたのもつかの間、敵は塀に乗って飛び去ってしまった

飛び去った後、統司は恵に走り寄る

「大丈夫か!?」

恵は構えを解くと、「ケホッ」と むせ、返答する

「あ、うん、大丈夫、それよりも…」

そう言いながら、恵は携帯を取り出し、コールする

「あ、先輩、発見地点の6時の方向の路地裏で対象と遭遇、交戦しましたが逃げてしまいました、行先は砂利道の方だと思います、引き続き追います」

月雨に連絡したのだろう、電話を終えると統司に話しかける

「さ、私たちも後を追うよ」

そう言うと逃げた方向に走り出す、すぐに統司も走り横に並ぶ

追いかけながら恵は統司に話しかける

「もし君がいなかったら、私 危なかったと思う、助けてくれてありがとう」

言い終えると、統司にニコリと微笑む

「あ、うん、…ってか、礼を言うなら終わってからだろ?」

『うん、そうだね、それじゃ早く捕まえようね』

そして2人は走り、後を追う

 

陽がまもなく沈む頃、川と林の間に挟まれた砂利道を、一人の少女が帰路につく

その少女は、髪をポニーテールに結び、大きな丸メガネに眠そうな、虚ろな眼で、淡々と前を向いて歩き続けている

その様子は、夕暮れであるに関わらず、とても暗い雰囲気であった

…ガサッ

少女は物音が聞こえたのか、足を止める、しかし表情は眉一つ変えず、辺りを見回す事も無く、ただ歩みを止めた

少し経つと、ガサガサと林から、暴走した少年がゆっくりと現れる

お互いが睨みあうかのように見つめ合う

しかし少女は、その様子を見ても一切表情が変わる事はない

すると少女の後ろから恵と統司、そして途中で合流した魁魅が後ろから走って来る

「あ、いた!あそこだ!」

声を上げたと同時に、少女の存在に気付く

恵達が近づく事に気付いたのか、敵の気配が荒立つ

「危ない、早く逃げて!」

恵が声を上げるが、聞こえていないかのように、少女は鞄をゆっくりと地面に置き、そして少女は何かをつぶやく、

そしてまた空気が変わり、風の流れが少女と敵の方へとながれる

背筋が凍る様な、それでいて生温かく蒸し暑く感じる様な、異様な空気が

そして“少女”は淡々と呟いた

「イグ・ニス、ファト・トゥス」

それは何かの呪文だったのか、両手から青色の炎が現れる

その炎は色は違えど、敵が出したあの炎だった

そして少女は投げつける様な動きはせず、敵へ向かうように炎へ指図する

青色の二つの炎は、徐々に速度を増し、敵に衝突する

その瞬間に敵は青く激しく燃え上がった

敵はその炎に抗って暴れる、そして2,3秒経つと炎は消滅した

少女の攻撃に怒り狂い、少女に向かって走り出す

恵達は走ってすぐにでも助けようとするが、互いの距離では間に合わないだろう

しかし、少女は今までの表情からほんの一瞬だけ、睨む

たった一瞬だったが、その目つきは恐ろしく憎悪を感じる様なものだった

敵はそれに感づき、少女の手前で横に飛び退く

そして敵はそのままこちらに向かってくるが、またも横の林へと逃げてゆく

敵の思わぬ行動に「あっ」と恵は驚く、そして少女の事が心配で少女の事を見るが

「ボサッとするな、被害が出る前に追うぞ、話は後だ」

と、魁魅の一言で、恵と統司は後を追った

少女は鞄を拾い上げ、敵の逃げた方向を見つめる

そして間もなく、詩月が合流する

詩月は走ってきながらも、一連の状況を見ていた為、少女の事が気になり、ほんの少しの間少女の事を見ていた

しかし少女は向き直し、何事も無かったかのように今までの表情で歩き始める

それを見ると、詩月は再び敵を追う

そのほんの少し後に、詩月を見つけ追ってきたであろう蒼衣がやってくる

蒼衣は、その場から立ち去る少女に少し気になったが、詩月を見失いそうになり、すぐに後を追う

 

もう日は完全に沈み、林の中は真っ暗となった

3人はすぐに、立ち止まっている敵を見つける

敵はこちらに気付き、すぐにこちらを向く

少し経つと詩月と蒼衣が駆け付ける

蒼衣はずっと走りっぱなしだったのか、金属バットで支えながらゼェゼェと息を荒げる

そして詩月が合流した共に、統司・恵・魁魅の3人は囲う様に横に分かれながら敵に向かう

統司や少女の攻撃、そして逃げ回っていたことで、敵はいくらか弱っていたようだった

しかし敵は真っ先に、グローブだけの魁魅の方へ飛びかかるが

魁魅はその攻撃を受け止め、素早く腹部にフック、ニーキックを続けて繰り出し、敵を蹴り飛ばす

「グァッ!」

敵は受け身を取ると、次は恵の方へと走り寄る

「とぉッ!!」

しかし敵の攻撃を恵はギリギリでかわし、一閃の如く、剣道の形で胴を決める

「ギッ!?」

敵は腹部を押さえよろめく、

…が、それでも倒れることなく、耐える

敵は意識が無い事に加えて、怒り狂っており、その矛先は3人の内の残り、統司に向いた

「ァァァァァアアアアアアッ!!」

統司は敵が向ってきた事に驚いたが、距離は離れていた為、戦う心構えをする、それと同時に敵の力が残り僅かである事も考慮して

…統司は片手で木刀を構える

そして敵の動きに合わせて反撃をする

敵はひどく弱っている為、その動きは鈍いものだった、そのため統司でも、見極めるのは至極簡単だった

それは統司が運動を得意としていたからかもしれないが

まず向ってきた時の攻撃をかわし、腹部に1撃

そして振り返り、攻撃してきた時に切り上げ、腕に1撃

そして木刀を両手で握り、振りかえりざまに 肩に1撃を与える

最後の1撃を除き、1撃の威力は軽いものの、度重なるダメージで弱り切っていた敵には、その連撃で僅かに残っていた力は奪われ

意識を喪失し、倒れる

 

「ふぅっ…」

統司は軽く息を吐き、木刀を握っていた右手の平を覗き込む

人を殺めた訳ではない“はず”だが、まだ手には衝撃の感触が残っており、やや痺れている

決着がついた事を認識すると、遠くで見ていた詩月が、倒れている少年に近づき様子を確認する

その様子を他の部員は心配そうに見つめる、無論それには止めを刺した統司も含んでいる

そして…

 

「心配ない、もう気絶して暴走も治まった」

と、詩月は告げ少年を担ぎあげ、結果を携帯で報告をする

詩月の報告を聞くと、一同は安堵の息を零す

「それじゃ、学校に戻るぞ」

詩月の一言で皆は歩き始める

「おつかれさん、転校生!」

蒼衣は金属バットを担ぎながら、片方の手で統司の方に手を置く

「おつかれさま、統司君」

蒼衣が口を開いた後に、恵も続けて声をかける

「ああ、おつかれさま」

統司は2人に対して軽く返答する

「初めてにしては上出来だ、よくやった」

…と、魁魅も素っ気ない態度のまま統司に声をかけ、メガネの位置を直す

「そうだな、初めてにしては良い動きだった」

詩月は魁魅の発言に共感して統司を誉めるが

「そういえば蒼衣、お前は何か働いたのか?」

…と詩月は冗談交じりで蒼衣に質問する

「ええ!?このタイミングに言いますか!?俺だってそいつ探してたじゃないですかー、…見つからなかったけど」

蒼衣の返答に詩月は「フッ」と笑い、それに続けて周囲はクスクスと笑い始める

「あ、そういえば、あらためてお礼するね、さっきは助けてくれてありがとう」

さっきの事を思い出したのか、恵は統司に礼を言う

「ん、おう、どういたしまして」

統司が返答すると、恵はニコリと笑顔を返す

林を抜けると、空は陽が沈み、すっかり暗くなってしまっていた…

 

部室に帰ると、月雨が笑顔で迎えた

「みんな、お疲れ様」

『ん、今日も活動ごくろうさん』

水内もいつもの様子だが、どことなく清々しい感じで、部員に労いの言葉をかける

「先生、この少年は保健室に?」

詩月は気絶した少年を担いだまま水内に質問する

「ん?…まぁいつも通りに」

水内はどこか投げやりな返答を返すと詩月は保健室へ向かう

「あ、私も行く!」

月雨は声を上げると、トトトッ、と詩月に付いていく

「あ、お前らもこれで活動終了や、支度が終わったらさっさと帰ってよし」

水内はそう告げると部室から出てゆく

ふと、思いついた事を統司は口に出す

「そういえば月雨先輩って、いつも詩月先輩とくっついて…ってか一緒にいますね」

その発言に恵は答えた

「うん?そりゃだって、あの二人は幼馴染ですから」

なぜか嬉しそうな声色で恵は喋る

「幼馴染?確か…詩月先輩って月雨先輩より一つ上だったような…」

『いや、一応ここ田舎の方だし、家ぐるみの付き合いだから、幼馴染って扱いがここらはよくあるの』

なぜか田舎アピールしつつも、僅かに興奮しながら恵は答え続ける

「あ、そういえば…この木刀借りたままだった」

統司はふと思い出し、返そうと木刀を差し出すが

「あ、それは貸したままで良いよ、…ってかあげる、助けてくれたお詫びって事で」

と、恵は木刀を受け取らず、統司はそのまま持つ事になる

とりあえず統司は、自分のロッカーが無い為、適当な隅にたてかけて置く

「ん?助けたって、転校生が?…スゲェじゃん!俺なんて戦うのが精いっぱいだってのに」

と、突然蒼衣が話に入って来るが、

「そもそもお前は、まともに戦った事があるのか?」

と、魁魅が棘のある言い方で突っ込む

「うるせー、俺だって本気になれば、たった一人で暴走した奴を静めてやんよ!」

蒼衣は反論するが、魁魅は蒼依に対して

「それで本末転倒に鳴らなければいいがな」

…と微笑しながら言い返す

蒼衣はこの言葉に黙りこむ

恵は「あはは…」と苦笑していたが統司は疑問を感じた

4人は支度を済ますと、指示通りに帰路に着く

 

下駄箱を出て4人は歩き出す

今日の事を振り返ると、統司は何気なく思いついた疑問を聞く

「そう言えば、皆はどうして鬼焚部に入ったんだ?」

『鬼焚部に入った理由?』

「…というよりも、鬼焚部に入れられた理由とか」

恵と蒼衣はそれを聞いて考える、そしてめぐみが口を開く

「う~ん、本当の理由は聞かないと分からないけど…、多分理由としては…、1年生の頃は私、剣道部に入ってて、ある大会で私優勝したの、よく考えたらその後だったかなぁ…、水内先生に鬼焚部に勧められたのは、引き続き剣道も続けて良いって言ってたし」

『つまり、実力で推薦されたってこと?』

統司のその答えに「たぶんね」と恵は返す

「魁魅は?」

と聞くとほとんど即答で答えた

「俺は理事長の息子という立場上、鬼焚部に所属することになった、趣味でキックボクシングをいくらか嗜んでいたから、活動に関しては問題は無い」

魁魅はこちらを見る事はなく、淡々と説明した

「家柄ってことか…」

統司は呟くが、魁魅は無表情で淡々と歩く

「…で、蒼衣は?」

必然的に順番は蒼衣へと変わる

「え!?あ、俺?あー、えーっと…、内緒って事で…」

忘れたという訳ではなく、蒼衣は秘密という事にした

…が、その答えに軽くため息をつき、口を開く

「教師の中に、『アオイ』という名字の女性教師がいるだろう、あれは…」

その発言に蒼衣は慌てて止めようとする

「ばっ!てめっ!言うなっての!」

しかし構わず魁魅は「あの教師は…」と話し続ける為

「わ、わかったよ!わかったから!自分で言うからもう喋るな!」

と、蒼衣は観念した

「はぁ…、理由ね…、俺も正確にはわかんねぇけどタイミング的には、…こいつが言ったけど、あの先生は俺の姉なんだよ…」

『え…、あ、姉!?って…実の?』

「おー、マジの姉貴だよ…、んでさ、今はどっか行っちまったけど、ある野郎…、仮にT先…、Tだとしよう、Tが俺の姉貴を襲ってたのを丁度見たんだよ…、そんで姉貴を助けようと思ったら…、恥ずかしい話、暴走しちまったんだよ、Tを殴ろうと思ったら意識がぶっ飛んで、で気付いたら朝で、学校の保健室に寝てたって訳」

そこまで言うと蒼衣は深くため息をつく、その事を思い出したのか、恥ずかしいからか

「でも、暴走した時の蒼衣君は本当に強かったよ、私じゃどうにもならなかったもの、…結局部長が戦って、ようやく静まったんだけど、すごく良い勝負してたよ」

恵はしみじみと話す

「ああ、あの時の蒼衣は強かった、恵と互角に渡り合っていたよ、ただ、満月だったから部長の方が上だったがな」

…と、魁魅もその時を思い出して話す

「おう!おかげで起きたら全身に激痛が走ったぜ!」

と、自信満々に冗談を言う

思わず恵と統司は大きく笑う

「まぁ、結局実力だってことなのか?」

『さぁな、そういや…鬼焚部に入ったのはお前が入る何か月前だったな』

「2か月前だ、あれは2月の事だ」

「ふぅん…」

そして話しているうちに校門を抜ける

「では、またな」

…と魁魅は簡単に挨拶すると去ってゆく

3人はそれぞれ挨拶を返す

 

3人はバス停でバスを待つ

すっかり暗くなってしまって、わずか2人だが先にバスを待つ生徒がいた

バスの中で他愛もない雑談をする

ふと、統司は窓から空を覗く

空には丸く満ちた月が昇っていた

…これから毎月、こうして鬼焚部の活動があるのだろう

満月の日に、暴走した鬼人を静める活動を…

統司はそんな事を思いながら、話し続ける蒼衣に軽く返答する

そして、忘れていた肩に掛けたイヤホンを着け、到着するまでの間音楽に耳を傾ける

統司の初陣は、無事に終わったのだった

 

 

 

3話  終

 


 
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