No.747314

鬼の人と血と月と 第1話 「転校」

絶過現希さん

都会育ちの高校生の少年「霧海統司」は自身の療養の為に、父親が幼い頃に世話になった田舎、山の真っ只中に位置する「神魅町」に引っ越すこととなる。 
霧海統司の療養とは、幼少期からたまに"黒い人影のようなもの"が見える事と、時折とても悲しい気分になる"記憶に残らぬ夢"を見る事の治療であった。 

やがて霧海統司は、町にただ一つの巨大な高校「魁魅高等学校」に転入する、しかしそこで"ある事実"を説明される。
それは神魅町の人間は全て、鬼と人間の間の種族「鬼人」であること、そして彼等、特に未成年の子供は稀に暴走することがあり、それを静める活動を目的とした部活「鬼焚部」があると…。

続きを表示

2014-12-31 17:14:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:410   閲覧ユーザー数:410

 

第1話 引越

 

 

 

 

 

高速道路を1台の車が走ってゆく

 

車の中にいる少年は、この春から転校する。

 

少年には 正確にはわかっていないが、精神的な病気があるようだ。

少年に心当たりがあるとすると

「たまに黒い人影のようなものを見かける」

「朝 目が覚めたときに悲しい気分になっている“不思議な夢”を見る」

この事が多分症状なのだろう。

後者の“夢”について少年は、夢を見た事は覚えているが、何故か内容は覚えていない。

とても強い印象を少年は受けていたのにも関わらず…。

少年はその病気の療養の為に 田舎へと転校するのだ。

 

車は高速道路を下りて更に走り続ける

 

引越し先は、少年の父がほんの一時期 住んでいた場所で、中々良い所だと言っている。

また、通う学校は、町の方に 新しい校舎が建っているとも言っていた。

ここらで少年について紹介しよう。

 

名前は「霧(きり)海(うみ)統司(とうじ)」

外見に関しては、身長160cmと高校生としては低く、顔つきは童顔である。

声も高めであり、統司がいつも外出すると、年齢未満に、特に中学生に見られてしまう事を、“やや”悩みとしている。

紹介していても分かるが、他者からそう見られるのは仕方ないだろう。

・・・ただ、年齢以上に見られるよりはマシである。

性格に関しては、少年自身はそんなつもりはないが、“根は真面目”である。

趣味は音楽やゲームと、世間一般的な高校生と同じである。

このような趣味の為、欠かさず携帯ゲームや音楽機器を“常備”している。

勉強の成績は普通だが、運動に関しては大が付くほど得意としている。

ただ、めんどくさいと思う為、休みまでやろうとは思わない。

・・・紹介はこの位としよう。

 

高速道路を降りてから2時間後

「そろそろ引越し先の町に入るぞ」

車を運転しながら話しかけてきたのは統司の父

 

名前は「霧(きり)海(うみ)統(とう)貴(き)」

統司から見たら、明るくて穏やかな性格である。

 

「これからはこの神魅(しんみ)町が地元になるんだ」

・・・と、統貴は運転しながら統司に話しかけてくる

統司は、ふぅん と、適当にあいづちをうつ

…正直これだけではどう返せばいいか分からない

 

そこから更に2時間車を走らせる

途中 かなり荒れ地を通ったり、森の中を走っていた。

道は把握しているらしく、完全に任せっぱなしだが、ここまで時間がかかると道に迷ってるのではないかと、統司は心配になってくる。

・・・無論、道に迷った なんて事は無いのだが。

ふと、統司は窓から景色を見ていた。

・・・なるほど、確かに見事な田舎だった。

外は田んぼや畑、木造の一軒家だけだった。

統司が景色を見ていた時、統貴がこんな事を言い始めた

「これから住む町には、昔から、僕が幼い頃ここにいた時より前から“鬼”が住むという言い伝えがあるんだ。」

 

それから1時間後、

「そろそろ家に着くぞ~」

・・・と統貴が言ってから5分程、車はようやく止まった

 

統司は車から降り、そして背伸びをして 空を見る

時間はもう夕方近くだった。

新しい家は、田舎にはあまり似つかわしくないコンクリート製の一軒家だった。

統司は、この家はどうしたのかは、あえて聞かなかった。

 

周りはどんなものかと辺りを見回す、

隣の家まで2,300mありそうだ。

・・・にしてもさすが田舎、かなり静かだ。

 

統司は ふと気付く、何か“黒い人影のようなもの”が視界を通り過ぎた気がする。

統司は小走りで 人影らしきものの行った道へ追いかけると、

家の裏の方にあった竹林へと続いていた。

 

入って少し奥の方へ行き、辺りを見回す。

すると、背後に気配と共に足音が立つ。

その音に振りかえるが、振りむいた時には遅かった。

 

「ウグッ!?」

 

男子高校生に羽交い絞めにされていた。

 

「人質ミ~ツケタ」

「グゥッ!」

 

本当に人間か? 様子がおかしい、いや異常とも言える。

精神が錯乱してるのか、それとも本当に気が触れてるのか、呼吸が乱れながらもケケケと高笑いをしている。

特におかしいのはこの腕力だ、羽交い絞めしているその腕が ギリギリと身体を締め付ける。

正直、統司はなんとか呼吸を出来るのが精いっぱいで、逃げ出せる程の余裕が無い。

 

なんとか耐えていると、どこからか少女の声が聞こえる。

「いた!あそこにいる! 人質を抱えているわ!!」

すると、竹林の奥から3人の高校生が現れる。

 

「え?あの子誰?ここらじゃ見ない顔だ。」

背の高い少女は、なんだか戸惑っていたが、すぐに気を取り直して

「とにかく、今すぐ人質を放しなさい!」

 

どうやらこの高校生を追って来たらしい、

一緒にいる2名の男子の制服から察するに、同じ高校のようだ。

統司は何も出来ない以上、耐えながら今の状況を考えていると。

 

「ケケケ、馬鹿カ オ前ハ?  言ッテ“ハイソウデスカ”ト 放ストデモ 思ッテルノカヨォ!!」

その言葉に 陽気な雰囲気の高校生が

「言うとおりにすぐ放した方が良いぜぇ? 今なら“更生”だけで勘弁できるから、ちょっと痛いけどそれで帳消しなんだぜ?」

・・・と緊張感をあまり感じない口ぶりで交渉する。

しかしそんな会話に逆上して

「ウルサイウルサイ、ダマレェ! モウドウニモナラナインダヨォ!」

逆上した勢いで高校生の腕がより強く締め付け、統司はうめき声を上げる

「ウグゥ!」

 

大柄な男子はやり取りを見た後に、少女に指示をする

「そうか、なら仕方ない、かなり痛くなるが更生としよう、 北空(きたぞら)!」

北空と呼ばれた少女は、左手に持っていた木刀を構えながら、

「はい! 分かりました先輩!」

と答える、しかしその行動に

「オット! 下手ニ動クト コイツガドウナッテモイイノカ?」

高校生はそう言いながら、絞めていた右腕を緩めたと同時にその手で統司の首を掴む

「ッ!」

高校生の強い力で首を絞められると、統司は息もできなくなる。

「くっ!」

少女はこの行動にうろたえるが、構えを解く。

「・・・分かったわ」

…と言い返す、そして高校生は

「ケケケケケ、ヨウシ ソノママ家ニ帰リナ!」

 

高校生は少し気を緩め、羽交い絞めを再び始める。

そして統司は「え?」と、茫然していた。

それは統司も油断していたという事だった

 

「グアァッ!」

突然 高校生のうめき声と共に、右に吹き飛ばされる様な感覚を感じる。

どうやら後ろから回り込んでいた仲間が、高校生の左脇腹を強く蹴り込んだからだった。

「クソガァ!」

そういいながら高校生は統司と共に後ろに振りかえると、

そこには 生真面目そうな高校生の少年が、ボクシングのような構えをしていた。

そして少年は ニヤリと笑う。

「!? クソォ!」

高校生は何かを悟ったのか後ろに振り返ると

 

「はぁああああああ!!」

少女は既に 木刀を構えながらこちらに走りこんでいた。

そして、高校生の頭部に木刀の一太刀が入る。

 

「ッグウウウウウウウウ!!」

流石に 頭部に手痛い一撃を受けた高校生は、羽交い絞めを解き頭部を抑え悶える。

勢いよく放り出された統司は、陽気な高校生に受け止められた。

高校生に羽交い絞めされた状態で振りまわされていたため、統司は激しくせき込んだ。

「君、大丈夫か? うわ 本当に見ない顔だわ・・・ なんか巻き込んですまねぇな、・・・っつか 俺のせいで余計に苦しんだんだけどな・・・。」

なんだか突っ込みたいところだが、統司は咳き込みが治まるのを感じた後

「・・・いや、助かったよ。」

と礼を言う、それに陽気な高校生は言い返す

「いやいや、巻き込んだのは俺らの方だし、すまねぇな。」

巻き込んでしまった事を自覚してる様だ、しかしまた礼を言っても繰り返しになるので統司はここらで留めておく。

ふと、統司は戦ってる行方を見る

 

戦ってるのは少女だけのようだ。

高校生はまだ悶え苦しんでいた、少女は攻撃せず 高校生に向けて木刀を構え続けている。

「グウウウ、 ・・・ックソガァアアア!!」

苦しんでいた様子から、急に姿勢を変え、少女に向かって掴みかかるように襲いかかる。

しかし少女は紙一重で避け、高校生の背後から木刀の柄頭(つかがしら)で後頭部を殴る。

 

そして高校生は気を失い、倒れこむ。

 

こうして騒々しくも事態を解決した。

 

大柄な少年は倒れた高校生を担いで竹林の中へと戻って行った。

それと生真面目そうな少年も共に戻っていく。

そして統司はボーっとしていると、戦っていた少女が座り込んでいた統司の方へ向かってくる。

「君、大丈夫? 私たちはすぐ戻らないといけないの、 それじゃあね!」

そそくさと言った後、くるりと方向を変え、竹林へ走って戻って行った。

陽気な少年もそれに続いて、

「んじゃあ 俺も戻らんと、じゃあなーっ!」

少女にワンテンポ遅れて、少年も竹林へと戻って行った。

 

そして静かな竹林に、統司一人だけが残る。

 

まだボーっとしてるのか、それともまだ信じられないのか、無心で家へと戻る。

竹林を出ると、太陽は 完全に沈もうとしていた。

 

統司の事を探していたのか、家の外で統貴が待っている。

統司を見つけるな否や、統貴は話しかける

「お、いたいた、どこ行ってたんだ、探したじゃないか。」

「ん?あ、ああ、ちょっと辺りを周っていたんだ」

流石に今起きた事を説明できるわけがなく、統司は適当に答えた

「・・・そうか、着いたばかりだから そんなに周る時間はなかったろう?それに長い時間車の中にいたから疲れてるだろう、寝てなかったみたいだし」

統司の事を心配している様子だが、いつもの様に構わずに突っ込む

「それだったら父さんの方がずっと運転してたし疲れてるだろ」

後部座席を常に確認してたのか、不注意だな ・・・とはあえて突っ込まなかった

的確に突っ込まれて、統貴は笑いながら答えた

「はは、そう言われればそうだね、それじゃ中に入ろうか、統司の部屋は2階の階段近くだ、大きな荷物は業者が既に運んであるから、他に段ボールに入れた物は今夜と明日片付けよう」

そう言いながら、2人とも新しい家へと上がる

 

 

・・・晩飯として蕎麦を食べた後、統司は 適当にリビングでだらけた後(のち)に 部屋に戻り、段ボールの中の物の配置をする。

・・・と言っても普段使うノートパソコンや携帯機器など設置した後は、小物などの家具を配置した位だった。

途中、統司はふと思い出すように、統貴に“ネット”が繋がっているか聞きに行くが、統貴は「たぶん大丈夫」と答えた

「…その言葉信じるぞ?」と呟きながら統司は部屋に戻る。

 

部屋に戻った統司は しばらくすると、何気なく窓を開け、空を眺める。

流石田舎、空は雲一つ見えない夜空だった。

空には見事な満月が浮かび、星がきれいに瞬いてる。

 

無意識に溜まっていた車の中の疲労と、夕方の騒動の疲労のためか、統司は 大きく欠伸をする、そして同時に疲れを感じる。

明日は朝から出かけるらしい、統司は早めに寝ることにした。

窓を閉め、電気を消してベッドに入る。

 

統司は今日の夕方の出来事を思い返しながら、疲れによって現れる睡魔に誘われ、 静かに夢へと落ちてゆく・・・。

 

 

モノクロなセピア色の世界。

小さな巫女が、人の様なものと共にいる。

視界は離れて見ていたが、急に ズームするかの様に巫女へと注目する、

しかし、顔は暗く見えず、微笑した口元しか見えない

 

リーーーーーッ、リーーーーーッ、リーーーーーッ。

 

目覚まし時計の音で統司は目が覚める。

時計を確認する、針は8時を指していた。

 

目に涙が薄く浮かんでいた、統司はなぜだか悲しい気分を感じていた。

夢を見ていた…気がする、ほとんどモノクロなセピア色の夢だった。

思い出してみるが、ワンシーン位しか思い出せない。

 

(あれは…、白と小豆色の服の女性、いや少女だった…かな。)

 

身体を起こし、背伸びと欠伸を続けざまに行う。

夢の内容を思い出そうとしながらボーっとしていると、ガチャっと扉の開く音が聞こえる。

 

部屋から出て階段を下りると、統貴が外から帰ってきたようだ。

 

「おお、起きたか、おはようさん。朝食を食べたら、9時には出るからな。」

そういえば 色々周るところがあるんだったと、統司は思い出す。

 

朝食を食べ、統司は部屋に戻り、部屋着から外出着に着替える。

そして手慣れた様子で 音楽プレイヤーのイヤホンを首から下げ、

ウエストバッグに携帯ゲーム機を入れ、

携帯と財布をズボンのポケットに入れて、1階へと降りる。

 

1階のリビングに行くと、統貴が話しかけてきた

「統司、家のカギを渡しておくよ、予備として2本な。」

そう言われて統司は鍵を2本受け取る、

再び部屋に戻って1本を机にしまい、また1階へと降りる。

そして時間は9時を回り、2人は家を出た。

 

2人はまず最初に隣の人に挨拶をしに行く、

・・・挨拶と言っても、近くには2,300mの所に一件だけだった。

 

ほんの少し歩いた後、隣人の家の前に着いた。

統貴がインターホンを鳴らすと、女性の「は~い」という声が聞こえる。

少し待つと、まだ若そうな女性が現れた。

 

女性が現れた事を確認し、統貴は挨拶を始める

「初めまして、隣に引っ越してきた霧海統貴と申します、隣は息子の統司です。」

統司は「どうも」と軽く会釈する。

「妻は訳あって仕事でまだ帰ってこれない状況ですが、これからどうもよろしくお願いします あとこれ、つまらないものですがどうぞ。」

そういい、統貴は女性に 持っていた箱を渡す

「あー、わざわざすいませんね、私は北空(きたぞら) 滴(しずく)と申します、ちょっと私以外 みんな出かけてしまって今いないんですよ、あとで挨拶に行かせますんで、すいませんね、どうもよろしくお願いします。」

普段からこんな感じなのか、少し大きめの声で滴は挨拶を返す

「いえ、お構いなく、それにこれから出かけるので夕方までいないんですよ、それでは 失礼します。」

挨拶を済ませて、立ち去ろうとした統貴を、滴は引きとめる。

「あ、ちょっと待って下さい。」

「? どうかしましたか?」

引きとめてきた滴に、不思議そうな顔をして統貴は聞き返すと、滴はほんの少し統貴の顔をジッと見る、それからこんな事を言い始めた

「えーっと、どこかでお会いした事ありましたっけ?」

表情には出ていないが、統貴は少し驚く、そして言われた事について少し考えてから言い返す

「えっと…、特に面識はなかったと思いますけど…。」

それを聞くと、後頭部を掻きながら滴は笑って言い返した。

「あはは、気のせいみたいですね、すいません初対面なのに」

「い、いえ、気にしないで下さい、それでは失礼します」

統貴は苦笑しながら言い返し、2人は離れた

 

北空と言った女性に、統貴は“適当な性格”の印象を感じた、

(・・・にしても“北空”か、まさか・・・ね。)

一度家まで戻り車に乗り込む。

 

統司は車に乗り込むと、首にかけたイヤホンを耳に着け、音楽プレイヤーを起動させる。

運転席の扉が閉まり、車が発進する。

北空家の前を通ると、短い時間だったが 滴がこちらに笑顔で手を振っていた。

 

 

音楽に耳を傾けながら、統司は窓から景色を眺める。

まだ見慣れないが、なんて事は無い田舎の景色。

暇だったからか、統司はふと昨日の事を思い出す。

(あれも夢だった…、ということはない…よな?)

 

車を走らせ約1時間、最初に来たのは病院だった。

 

統貴が受付を済ませ、音楽を聴きながらしばらく待っていると

「霧海さん、霧海さん…」

とアナウンスが流れる、

イヤホンを外し、2人は指定の部屋へと入る

 

ガラリと扉を開けると、そこにはまだ若い女医が座っていた。

「どうぞ座ってください、これから君の担当医となります咲(さき)森(もり) 静(しずか)といいます、よろしくお願いします。」

統貴と統司は、指示通りに椅子に座り、統貴は挨拶を返す

「こちらこそ、息子がお世話になります。」

静は軽く会釈すると、サクサクと話を進めていく

「とりあえず今日は挨拶だけとしますね、一応資料は届いております、これからは月1度 診療に来てください、まぁ なにかございましたら私を呼んでください、基本的にはここにおりますので。」

それに統貴が言い返す。

「わかりました、これからご迷惑かけますと思いますが、どうぞよろしくお願いします。」

「それでは、次回の診療は来週、学校の帰りにでも寄ってください。」

「分かりました、それでは失礼します。」

そう言い、2人は会釈すると部屋から出ていく。

 

統司はほとんど相槌だけで全く喋る事はなかった。

診療を済ませ、病院から外へ出る。

 

病院から出た統司を、昨日の騒動の時にいた 大柄な高校生が、その姿を目にする。

「む、彼はあの時の…。」

 

統司は再び車に乗り込み、イヤホンを着け、次の場所へ向かった。

10分程走らせ、着いたのは学校だった。

“魁魅(かいみ)高等学校”

今度から通う、新しい高校だ

 

学校に入る前に統司はイヤホンを外し、校内へと入る。

その際に、この学校の高校生とすれ違う

生真面目そうな高校生は、睨むような目つきで統司の姿を目にする。

統司は彼の姿に気付かなかったが、彼は昨日の騒動の時にいた 少年だった

 

学校に来て統司は気付く、昨日の事が本当の事だとしたら、

昨日の学生達は、この高校にいる人たちだったと…。

 

受付で用件を話し、ほんの少し待つと、職員室へと誘導される。

 

職員室へ入ると、気だるそうな女性の教師が出迎える。

「あー、こっちに来てくれますか?」

教師は奥の面会室へと誘導し、ソファーに腰掛ける。

「どうもどうも、今度君のクラスの担任となる水内(みなうち) 薫(かおる)と言います、

どうもよろしくお願いしますー。」

水内の独特の話し方に、少々戸惑いながら、統貴は挨拶を返す。

「どうも、よろしくお願いします。」

「いやなに、ここいらじゃ転校生なんて来ないもんで、君には注目させてもらうよ?」

突然話を振られ、統司は苦笑する。

2人に構わず、水内は勝手に話を続け始める

「クラスの割り振りは明日の始業式に発表するから、生徒には分からないんだけど、君は転校生で結局初日の朝は職員室に来てもらうから、今言ったってあんま変わらないんだわ、・・・あーすいません、お父様がいるのにいつもの喋り方で喋ってしまったわ。」

その発言に微笑しながら統貴は言い返す

「ハハ、いえ、別に構いませんよ。」

ゴホンと咳払いをして、水内は口調を変えて話し続けた。

「あー、そうですか。とにかく明後日、朝は職員室に来てくださいね。」

統司に向けて話していた事に気付き、統司は一言で返す

「あ、ハイ、分かりました。」

統司が言い返した事を無視するかの様に、構わず統司の姿をジッと睨み、

「・・・にしても、学校に私服で そんな状態で挨拶に来るとは、君もなかなか度胸があるねぇ。」

とニヤリと笑いながら水内は言う。

  

統司は苦笑していたが、心の中では

(首からイヤホンを下げていた事を忘れていたが、

私服に関しては、引っ越したてでどんな服装で来いと。)

…と突っ込んでいた。

 

失礼します、と挨拶して職員室から出る

職員室を出たその時に、統司の後ろ姿を、北空と小さな女生徒が目にする。

「あ、あれって・・・」

「あれってもしかして、昨日の話の・・・」

 

再び車に乗り込み、次は市街地へと向かう。

 

 

駐車場に車を止め、デパートへと入る。

とある階に、制服を取り扱ってるコーナーがあった。

ちらほらと家族が見える、恐らく今年入学する子だろう。

 

1時間程採寸をし、身の丈に合った制服を購入する。

どうやら統貴があらかじめ連絡を取っていたようで、後は正しいサイズの制服を選ぶだけだったようだ。

 

デパートのレストランで2人は昼食をとり、

その後、デパートの中を少し周っていた。

その際デパートにいた統司の姿を、私服の陽気な高校生が目にする。

「ん?確かあいつって・・・気のせいか?」

 

駐車場に戻り 車に乗る、そして車は発進する。

統司は来たときのように、着けたままのイヤホンから流れる音楽に身を任せる。

約15分後、大きな本屋へと到着する。

 

ここへは、授業に必要な教科書を買いに来たわけだ。

教科書を用意するのに時間が少しかかると店員が告げると、統司は暇を持て余し 広い本屋の中を歩き回る。

 

雑誌を眺めている統司の姿を、”怪しげな分厚い何かの本”を片手に会計に向かう、長髪の 綺麗な少女が見かける・・・。

 

統貴の元へ戻ると、丁度会計を済ませた頃だった。

車へ戻り、家へと向かう。

 

再び、約1時間かけて家に着く。

夕方に帰る…と統貴はさっき言っていたが(隣人に対してだが)、まだ夕方には早い時間だった。

部屋に戻ると、まだ荷物を片づけていなかった事を、段ボールを見て思い出す。

一度ベッドに倒れこむ、そして少し経ち、統司は荷物を片づけ始めた。

 

時間は過ぎ時計の針は5時を示しており、いい具合に日が傾いていた頃

ピンポーン。

と家にチャイムが鳴る、統貴に任せていたが、少し経つと「統司」と呼ぶ声が聞こえた。

統司は階段を降りると、玄関に少女が、見覚えのある少女がいた。

 

「あ…。」

予想外の人物に思わず少女は驚く

「ん?どうしたんだい?」

驚く様子に統貴は聞いてみるが、少女は平静を取り戻し、挨拶を始める

「い、いえ、なんでも…。 えっと、隣に住む北空滴の娘になります    北空(きたぞら)恵(めぐみ)と申します。 どうもよろしくお願いします。」

「ハハ、わざわざすまないね、どうも、霧海統貴です、こいつは統司といいます。今度2年生の学級に転校するんだ。 恵ちゃんは何年生なんだい?」

再び予想外の事に驚き、また落ち着いて話し始める

「え、そうなんですか!? あ…、えっと私も2年生なんですよ、同じクラスになれたらいいですね。」

恵は統司に向かって微笑みかける。

不意の人物、不意の笑顔に、予想できず思わず言葉を失ったが、落ち着いて言葉を返す

「あ…、ああ、うん、よろしく。クラス、一緒だといいな。」

統司の言葉に安心感に近いものを感じ、思わず笑みをこぼす

「えへへ、ではこれで失礼します。」

「わざわざどうも、近いけど気をつけてね。」

恵は笑顔で礼をして、玄関から出る。

 

統司は少しの間 頭の活動が止まっていたが、すぐ動き、部屋の片づけの続きをする。

 

夕暮れの道、家まで差ほど距離は無いが、恵はゆっくりと歩きながら呟く。

「統司君かぁ…、まさか引っ越してきたお隣さんだったとはなぁ、一緒のクラスになれるといいなぁ…。」

 

荷物の片づけは夜になる前には終わった。

1階へと降り、夕食を取る。

しばらくくつろいでいると、統貴は時間を見て、「そろそろか、」と呟き電話をかけ始める。

それに気付くと、統司は電話の相手に見当がついた。

統貴はしばらく話しこむと、統司を呼ぶ。

統司はそれに返事を返し、電話を変わる。

 

「もしもし。」

「もしもし、どうやら元気みたいね。」

穏やかな女性の声が返ってくる

 

電話の主は、統司の母「霧海癒(ゆ)唯(い)」

現在 海外へ単身赴任している為、しばらくはこちらに帰る事が出来ない。

正直 統司は、自分の母であるのに関わらず、落ち着いて過ごしていた記憶が余り無い

至って真面目な性格で、よく電話で話してるのにいつも心配してくる。

統司はそこまで心配は掛けてないと思いたいが、田舎に引っ越す位だから自分でも心配になる。

 

「ところで、統司はそっちの印象はどうなの?」

さっそく引越し先の事を、癒唯は聞いてくる

「あー、うん、良いとこだと思うよ、田舎だから空気は良いし、学校の方は街になってるから都会にいた時と同じ位住みやすいと思うよ。」

統司は正直に思っている事を話す。

「そう、良かった、お父さんが引越し先にそこを勧めてきてね、話に聞く昔とだいぶ変わってるから、お母さん結構心配だったのよ、でも統司が気にいってくれてるなら良かったと思う。」

「気にいったかどうかはまだわかんねぇよ、まだ来て二日目だし、あー、強いて不満を言うなら、家の近くにコンビニとかが無いこと位かな?」

癒唯の発言に、いつもの様に突っ込み、軽くおどけてみる。

「ふふ、そりゃ一応田舎ですもの、コンビニはそんなにないわよ、しかも田舎だと24時間やってる訳じゃないみたいだしね」

癒唯は統司のボケに慣れた様子で返す、統司はそれに対して話を続けた

「あ、そういわれりゃそうだ、聞いた事がある、24時間やっても無駄だとか。」

「そうそう、早くそっちに慣れなさいね、お母さんまだ何カ月か海外にいるからまだそっちに帰れないのよ、それじゃあ今日は早くて もう少ししたら仕事に向かわないといけないから今日はおしまい、何か話す事はある?」

そそくさと癒唯は話す、統司は少し考えて言い返す

「ん~、今は特に無いかな、父さんに代わる?」

「最初に話したから特に無いかな、お父さんは無いか聞いてみて」

統司は「父さん、話す事ある?」と聞いたが、統貴は「無い」と返してきた、

「話す事は無いってさ、あー 話す事思い出した、えっと明日から学校に通う事になってる …位かな」

統司が返した言葉に、時間が迫ってるのか癒唯は一言で返した

「あら、そうなの、新しい学校 頑張ってね。それじゃ、バイバイ。」

統司は「じゃあなー」と言い返すと電話は途切れる。

 

時間を見ると 九時頃だった、まだ時間があるから 統司はリビングで再びくつろぎ始める

…気付くと結構な時間だった、歯磨きなどを済ませて2階の自室へ戻った。

 

部屋は前の家の内装と変わったが、無意識に同じ様な配置をしていた。

明日から学校だ、鞄は以前使っていた黒のボストンバッグを用意し、その中に最低限の用意をする。

ふと、統司は壁にかかっている新しい制服に目をやる

男子の制服はブレザースタイルだが、驚く事に女子はセーラースタイルだった。

(普通は男女共にブレザーか、学ランとセーラーの組み合わせだと思っていたが…)

 

統司は何気なく窓を開け、窓から半身を出す。

柔らかくて涼しい、春の風が吹き抜ける、

空は 星が輝き、満ちた月が光り 照らす、とても綺麗だ

 

その頃…、

恵もカーテンを開け、窓越しから空を眺め、呟く。

「きれいな夜空だなぁ、…さて、もう少ししたら寝るかなっと」

そして再びカーテンを閉める。

 

なんだか疲れたのか眠気が襲う、時間を見ると日付が変わっていた。

今日色々周って疲れたのか、それとも昨日のつかれが残ってるのか、ただ単にまだここに慣れてないだけか…。

 

考えていると、再び眠気が襲い、統司は大きな欠伸をする。

明日から学校だし、もう寝ておこう。

 

窓から身体を戻し、窓とカーテンを閉める、

電気を消し、ベッドに潜り込む、

 

…そういえば、統司は結局夢の事は思い出せず、もう完全に忘れてしまった。

 

 

 

そして、波乱に満ちた学校生活が始まる…。

 

 

 

 

 

1話 終

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択