No.746701

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-12-29 00:11:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1087   閲覧ユーザー数:1044

 

 

 

 story60 激戦の末に・・・・

 

 

 

 そうして時間は過ぎ、夕日が登って空はオレンジ色に染まってきた。

 

 

 そんな中、黒森峰のフラッグ車を討ち取ったあんこうチームのボロボロとなったⅣ号が回収車に乗せられて運ばれてきた。

 

「帰って来たか」

 

 頭に包帯が巻かれ、左腕を包帯で巻いて首に提げていた如月がⅣ号を見る。

 応急処置が施されたが、最悪左腕の骨が折れている可能性があるという。

 

「・・・・激戦だったな」

 

「はい」

 

 如月と早瀬が後ろを振り向くと、激戦の末に撃破されてボロボロになった戦車もあれば、初参戦からここまで意外にも撃破されず生き残った九七式とE-100を仕留めた十二糎砲戦車が格納庫にあり、主要メンバー以外の整備部が早速自走出来るまでの応急修理を施していた。

 そしてクマチームの五式中戦車も、車体や砲塔に砲弾が掠れた跡が多く残っており、激戦を物語っていた。

 

「・・・・でも、本当に、本当に、今でも信じられませんよね」

 

 震えた声で早瀬が呟き如月が「あぁ」と短く返す。

 

「あの黒森峰を倒し、しかも優勝した。復活してすぐで初出場の私たちがですよ?」

 

 鈴野も声が震えていたが、何とか平然を装うとしていた。

 

「世の中、誰も予想もしない展開だってありうるのが勝負の世界だ」

 

「そうですよね。賭け事だと、大穴クラスですよ」

 

「かもな」

 

 

 

 そうしてⅣ号から降りた西住達はみんなを見ると、緊張のあまり足元がおぼつかない西住は倒れそうになり、みんなが寄り掛かろうとするも、何とか踏ん張った。

 

「・・・・この戦車でティーガーを」

 

 西住達は後ろのボロボロのⅣ号に振り返って見つめる。

 

「えぇ」

 

「お疲れ様でした」

 

「おぉ」

 

 それぞれが呟き、頭を下げたり、Ⅳ号を撫でたりする。 

 

 

 

「西住」

 

 と、生徒会の三人が西住の前に立つ。

 

「今回の件、感謝に絶えない。・・・・・・本当に、本当に・・・・・・ありが・・・・」

 

 河島は最初こそ普通だったが、徐々に声が震え始め、遂には感極まって大きな声で泣き出す。

 

「桃ちゃん泣き過ぎ」

 

「柚子ちゃーん!!」

 

 小山が河島を宥めようとするも、河島は小山に抱き付く。

 

 

 

「西住」

 

 と、如月は西住の前に来る。

 

「如月さん」

 

 西住は如月の姿を見て、表情に少し不安な色が浮かぶ。

 

「・・・・頑張ったな」

 

 如月は微笑を浮かべる。

 

「い、いえ。如月さん達が敵戦車を多く引き付けてくれたから、レオポンチームとゾウチームの皆さんが長く耐えれたんです」

 

 謙遜気味で西住は言う。

 

「我々はお前の指示に従ったまでだ。お前はフラッグ車と一対一で戦い、勝利を勝ち取ったんだ」

 

「・・・・・・」

 

「きっとこれで、お前の母親も少しは見直すだろう」

 

「如月さん・・・・」

 

 最初は戸惑うも、西住は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 メンバーが色々と話している間、西住と如月はある人物の所に向かっていた。

 

 

「お姉ちゃん!」

 

 みほはガレージに撃破された自身の搭乗戦車のティーガーを見つめていたまほの元に向かう。

 彼女の後に付いて来ていた如月は少しその後ろで様子を見守った。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 二人はしばらく何も言わずにただお互いの顔を見つめた。

 

「・・・・・・優勝おめでとう」

 

 そしてまほが先に口を開き、微笑を浮かべる。

 

「完敗だな」

 

「・・・・・・」

 

「西住流とはまるで違うが、みほらしい戦いだった。とても私には真似できないな」

 

「!わ、私は、みんなに助けて貰っただけだから!」

 

「・・・・そうか。みほは見つけたんだな。自分の戦車道を」

 

 と、まほは優しい笑みを浮かべる。恐らく妹にしか見せない、次期西住流師範の顔なのだろう。

 

「みほは、それでいいんだ」

 

「お姉ちゃん・・・・」

 

 

 

「翔」

 

 と、次にみほの後ろで見守っていた如月に目を向ける。

 

「出来れば、お前と一戦を交えたかったな」

 

「私も出来れば、な」

 

 お互い不敵な笑みを浮かべ、如月が近づくと右手を差し出し、まほも右手を差し出して握手を交わす。

 

「まぁ、戦車道を続けていれば、次に対決できる日は来るだろう。その時にな」

 

「あぁ。楽しみにしている」

 

 

(それと、斑鳩の事だが・・・・・・すまないな)

 

(気にするな。ある程度は早乙女から聞いている)

 

 と、みほに聞こえない程度に小声で会話を交わす。

 

(それで、やつはどうするのだ?)

 

(策は早乙女が練っているはずだ。こちらの心配は無い)

 

(そうか)

 

 

「・・・・・・」

 

 如月とまほの二人が小声で何かを話してみほは首を傾げる。

 

 

「・・・・西住みほ」

 

 と、みほの元へ逸見が現れる。

 

「逸見さん・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 逸見は睨むようにみほを見ているが、諦めたかのように俯く。

 

「・・・・認めるわ」

 

「え・・・・?」

 

「あなたの戦車道は本物で、あなたは隊長の格だわ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・嫉妬していたのよ。あなたの才能に。何であなたみたいのが副隊長で、隊長の隣にいつも立つのか・・・・それが羨ましくて、憎かった」

 

「・・・・・・」

 

「でも、今なら分かるわ」

 

「・・・・・・」

 

 と、逸見は頬を赤くしてそっぽを向く。

 

「・・・・あなたが戦車道をやめなくて・・・・・・良かったわ」

 

 震えた声で彼女は絞るようにして言った。

 

「逸見さん・・・・」

 

 

「・・・・でも、次は、負けないからね」

 

 と、いつもの調子に戻った彼女はキッとみほを睨みつけるように見るも、みほは臆する様子を見せない。

 

「はい!」

 

 みほは笑みを浮かべ、明るく返事を返す。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 その後優勝した大洗女子学園の表彰式が行われ、メンバー全員が集まった。

 

『優勝!大洗女子学園!!』

 

 アナウンスで再度大洗女子の優勝が伝えられ、みほが優勝旗を両手に持って掲げた。

 その際バランスを崩しそうになるも、如月が左肩を持って支えた。

 

 

 

「おめでとう」

 

「おめでとうございます」

 

 その光景を見ていた聖グロのダージリン、オレンジペコ、セシアは静かに拍手をして優勝を祝う。

 

 

「Congratulation(おめでとう)!!」

 

 同じくサンダースのケイとアリサ、ナオミの三人も拍手を向けていた。

 

 

 ブラーヴォ

「Bravo!!(見事だ)!!」

  ブラビッシモ

「bravissimo!(とても素晴らしいです)」

 タンティ アウグーリ

「Tanti auguri!(おめでとうございます)」

  ケ・ベッロ

「Che bello!(凄いぜ)」

 

 アンツィオ高校のアンチョビとカルパッチョ、パネットーネ、ペパロニも声を出して祝っていた。

 

 

ハラショー

「Хороший.(素晴らしいわ)!!」

パズドラヴリャーユ

「Поздравляю.(おめでとうございます)」

マラヂェーツ

「Молодец.(お見事です)」

 

 プラウダ高校のカチューシャ、ノンナ、ナヨノフがそれぞれ賛美の声を上げる。

 

 

「・・・・凄い、凄いよ、みほ」

 

 中須賀は立ち上がり、震えた声を漏らす。

 

「やっぱり、あんたは凄いよ」

 

 その目には薄く涙が浮かんでいた。

 

「さすがね。圧倒的な性能差と錬度を予想も付かない戦術で覆した。誰にでも出来ることじゃないわ」

 

 神楽はフッと笑みを浮かべると、みほの隣に立つ満身創痍の如月を見る

 

「おめでとう、翔」

 

 ボソッと呟くと、神楽は席を立ち上がり準備に取り掛かる。

 

 

 最後の仕上げの為に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 会場から少し放れた丘の上で、大洗女子の表彰式が行われている中、西住しほは静かに拍手を向ける。

 

「奥様・・・・」

 

 その後ろから家政婦の菊代が声を掛ける。

 

「・・・・・・」

 

 西住しほはモニターに映る、仲間と勝利を分かち合うみほを見つめていた。

 

「これから、西住流にも新しい風が吹くのかしらね」

 

「・・・・・・」

 

 例え歴史ある伝統だとしても、いつかは新しく生まれ変わる。そうやって伝統と言うものは残っていくのだから。

 

「古きに囚われていては・・・・駆逐されるのかしら・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 今後の西住流のあり方を考えていた西住しほに、菊代は口を開く。

 

「それでも・・・・・・伝統を守り続けていくのでしょう?」

 

「・・・・・・フッ」

 

 菊代の言葉に対して、軽く微笑む。

 

 例え時代の流れに逆らおうとも、伝統あるべきものを簡単に変える事は、継承者として許されることではない。

 なら、自分は自分の道を、貫き通すだけ・・・・・・

 

「帰るわよ」

 

「はい!」

 

 二人は夕日が傾く中、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 額に包帯を巻き、焔は如月とみほを見つめていた。

 

(仲間の絆と、信頼、か)

 

「・・・・・・ふっ」

 

 軽く鼻で笑い、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 


 
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