「あ~、金がねぇ」
矢崎雪春は残高が3桁しかない通帳を睨みながらぼやいた。
「世の中不況って言っても、雑用の仕事はそこかしこにあるもんだがな」
応接用のテーブルに足を掛け天井を仰ぐ。
「今時、何でも屋ってのは流行らんのかね?」
報酬さえ貰えればどんな仕事もする、矢崎はそんな仕事を生業としていた。
結構後ろ暗い仕事もしていたが、成功率が低い為法的機関も無視を決め込んでいた。
「自分の能力を棚に上げて、仕事に不満を言うのは関心しません」
矢崎の前に湯気が立ち上るカップが置かれる。
「来客にコーヒーを入れさせるなんて、あなたの品位が疑われます」
「悪いな、双波」
全く悪びれた様子もなく矢崎が返した。
双波と呼ばれた女性は全身をピシッとした黒いスーツで包んでいる。
セミロングの黒髪、切れ長の目と大きめな眼鏡は見るものに冷たい印象を与える。
「あなたが仕事をえり好みせず、且つ成功率が70%を超えれば仕事は山ほどあるんですが」
矢崎はバツが悪そうにカップに口をつける。
「そう言うな、双波が来たって事は何かしら依頼があるんだろ?」
双波はとある大財閥の顧問弁護士をやっている、その際に法的に問題のある案件などを処理することもままある事だった。
そういった自身の手には負えない案件は矢崎を始めとした何でも屋等に依頼し『なかったこと』にしてもらっていた
「あなたに仕事を回したくはないのですが、適任者が居りませんゆえ」
懐から一枚の写真を取り出した。
「殺しか?」
「いえ、あなたが人を殺せない『甘ちゃん』であることは知ってます」
矢崎は黙って写真を手に取る。
「ガキじゃねぇか」
写真には年のころ7~9歳の女の子が写っていた。
「あなたにはこの子の父親になっていただきます」
「はぁ!?」
「特殊な事情のある子でして、一般家庭に預けることもできないのです」
「だからと言って、子供なんて扱ったこともない俺に預けるのもどうかと思うんだが」
「なら、依頼を拒否しますか?私は多少の失敗は目を瞑りますが、やる前に無理といった人間には二度と仕事は回しません」
それを言われると矢崎は辛かった、依頼達成率3割を切る矢崎が今まで生きて来れたのは双波のこういうところにあるからだ。
「・・・報酬は?」
「この子の養育費とあなたの当面の生活費を用意します」
それだけ言うと双波は殺風景な部屋の扉の前に立ち、呟いた。
「それから、今度私を呼び捨てにしたら報酬は私の犬の餌代になりますので」
こうして矢崎の23年間の独身生活が終わりを告げた。
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オリジナルに挑戦しました、しっかりと練って面白いと誰かに言わせたいですね。
タイトルの由来は続きをあげてくうちに気づいて貰えるかと