No.744529

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-12-20 00:05:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:716   閲覧ユーザー数:690

 

 

 

 story58 迷い

 

 

 

「どうだ?」

 

 そうしてキツネチームは破壊されたリヤカーへと戻ってきて、赤城が周囲に散らばった砲弾を確認している。

 

「徹甲弾と榴弾が一発ずつ残っている。それ以外は使えそうに無い」

 

「大幅に減ったわね。まぁ、最初から持てる弾は少ないけどさ」

 

 瑞鶴は赤城と協力して榴弾を持ち上げて、砲塔内に運び込む。

 

「でも、たったこれだけで、どうにか出来るでしょうか?」

 

 原田の表情には不安の色が浮かぶ。

 

 当たり所によっては確実に撃破できるが、弾種が違うとなれば話は別になる。

 

「弾の残りや、どうにか出来る出来ないは関係無い。我々は、最後まで役目を全うするだけだ」

 

 篠原が乗り込むと、瑞鶴と赤城が徹甲弾を持ち上げて砲塔内に運び込む。

 

 

『クマチームからキツネチームへ!』

 

 と、如月からの通信が入る。

 

『これから我々が言う地点に向かい、砲撃を頼む!』

 

「了解!すぐに向かいます!

 聞いての通りだよ、みんな!」

 

「あぁ」

 

「了解!」

 

 そうしてキツネチーム十二糎砲戦車は残り少ない砲弾を回収し、すぐに如月から言われた地点に向かう。 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 次々と黒森峰の戦車から砲弾が放たれ、ポルシェティーガーとフェルディナントに襲い掛かる。

 

「くぅ。さすがにきついか」

 

「・・・・・・」

 

 二輌は黒森峰の砲撃を強固な装甲で防ぎながら砲撃をし、一輌を撃破するも、向こうはうまく動いて装甲に角度を付け、砲弾を弾いたり、砲弾を二輌に着弾させて衝撃で砲身を揺らして砲撃を逸らしたりしている。

 

 ポルシェティーガーは車体正面と砲塔正面が黒焦げ、左側の転輪と履帯が破壊されている。

 フェルディナントはポルシェティーガーより攻撃を受けている為か、両側の履帯が破壊され、黒焦げと歪みが目立ち、防楯部が歪んでいる。

 

 フェルディナントが放った砲弾がヤークトパンターに向かっていくが、車体を斜めにして傾斜した装甲と合わせてフェルディナントの砲弾を弾く。

 

 直後に黒森峰側が一斉に砲撃し、ポルシェティーガーとフェルディナントに襲い掛かる。

 

「・・・・参ったわね」

 

「えぇ。さすがに、足りなかったか」

 

 と、佐藤(姉)と黛の視線の先には、徹甲弾と榴弾が一発も残っておらず、煙幕弾しか残ってない砲弾ラックがあった。

 

「ゾウからレオポン。そっちの現状は?」

 

『砲弾の残りが少し心持たないかな。それとエンジンが少し怪しくなってきた』

 

「そう。こっちはもう煙幕弾しか残ってない」

 

『そっか。そりゃ困ったもんだねぇ』

 

「普通なら、ね。でも、私達の目的はあくまでも、ここを死守する事よ」

 

 ゾウとレオポンの目的はあくまでも大洗と黒森峰のフラッグ車同士の決着が付くまで、入り口を死守する事にある。

 仮にやられたとしても、改修されるまでの時間を稼げる。何より回収班は撃破された黒森峰の戦車や、マウスの回収に手間取っているはず。

 

「まだやられるわけには行かないわ!弁慶の仁王立ちの如く、ここを死守する!」

 

「了解!」

 

 佐藤(姉)と黛は煙幕弾を装填し、直後に放たれてティーガーⅡに着弾し、煙幕を張る。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 四式と三式、九七式は後退しつつ一斉に砲撃をするも、E-100の装甲に阻まれて弾かれる。

 

「くそぉっ!!このガチタンがぁっ!!」

 

 青嶋が引き金を引いて砲弾を放つも、E-100の装甲に弾かれる。

 三式と九七式も砲撃をするも、火花を散らして弾かれる。

 

 直後にE-100が轟音と衝撃波と共に砲撃し、四式と三式の間に着弾し、衝撃波で二輌は一瞬浮かび上がる。

 

「っ!」

 

 高峯は表情を歪めるも砲弾を装填し、青嶋が引き金を引いて砲弾を放って履帯に直撃させるも、火花を散らして弾かれる。

 

 ここまで何発もの榴弾や徹甲弾をE-100の履帯に砲撃するも、破壊される感じが無い。

 

 直後にE-100が轟音と衝撃波と共に砲弾を放ち、一直線に三式の車体正面に着弾し、車体が浮かび上がって後ろに思いっきり吹き飛ばされた。

 

「っ!」

 

「三式が!」

 

 二階堂はキューポラの覗き窓から覗き、家に突っ込んでひっくり返り、全体から黒煙を上げて車体底部より白旗が揚がる。

 

「アリクイチーム!大丈夫か!」

 

 しかし、二階堂の呼び掛けにアリクイチームからの返答は無かった。無線機をやられたか、最悪乗員全員が衝撃で失神しているかもしれない。

 

「くそがっ!なんて野郎だ!」

 

「・・・・化け物が」

 

「・・・・・・」

 

 四式と九七式は広場へと出て、すぐに方向転換して前進する。

 

 

 E-100も広場へと入り、二輌に迫る。

 

「どうするんっすか、リーダー?砲弾の残弾も、残り僅かっす」

 

 中島は殆ど残っていない砲弾ラックを見る。

 

「・・・・万事休す」

 

「・・・・・・」

 

 

『こっちも砲弾は残り少ないデース』

 

 タカチームの金剛より無線で報告があり、二階堂は息を呑む。

 

「ここまでか」

 

 二階堂は最後の抵抗として、突撃を考えようとした。

 

 

 

 

 しかしその瞬間E-100の砲塔後部に砲弾が直撃する。

 

『っ!!』

 

 二階堂達はE-100の後ろを見ると――――

 

 

 

『お待たせ!!オイ車の応急修理完了!!』

 

 と、履帯といくつかを応急修理したクジラチームのオイ車がこちらにやって来た。

 

「クジラチームのオイ車っす!」

 

「やっと来たか!」

 

 一瞬希望が見えたが、三枝は冷静になった思い出す。

 

「だが、オイ車にはマウスとの戦闘時の損傷が多い。E-100とまともに戦えるとは――――」

 

 

「倒さなくていいんだよ!!やつを足止めさえ出来れば、それでいい!」

 

「まぁ、今の私達に出来る事って言えば、これしかないな」

 

「そうっすね」

 

 中島は苦笑いを浮かべる。

 

「よーし!野郎共!!突撃だぁ!!」

 

『オォッ!!』

 

 三枝はアクセル全開で四式を全速力で飛ばしてE-100へと走っていく。

 

 

 

「ワタシタチも突撃ネー!比叡!」

 

「了解です!とことんやってやりますよ!!」

 

「喧嘩上等じゃぁ!!ぶち込ましたる!!」

 

「な、何でスイッチが入っているの!?」

 

 金剛が言い放つと比叡はギアを最大にしてアクセルを踏み込み、霧島はなぜか裏スイッチが入り、それに榛名は戸惑う中、九七式も四式に続いてE-100へと向かっていく。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 市街地から出た五式は執念に追撃するレーヴェに向け砲弾と三連射するも、車体正面や砲塔の曲面部に着弾して弾かれる。

 

「やはりやつは私を撃破しようと無我夢中になっているな。周りが見えていない」

 

 いつもの斑鳩であれば途中で誘き出されていると気付くだろうが、如月に受けた屈辱に怒り心頭になっている為、周りが見えていない。

 

 

「如月さん!そろそろ例の地形です!」

 

 と、早瀬の報告を聞き、如月はキューポラハッチを開けて外に出る。

 

「・・・・・・」

 

 目の前には左には急斜面の丘と、反対側には斜面の崖に、一昨日と昨日の大雨で増水して水位が上がり、流れが早くなった川がある道があった。

 しかし道幅は狭く、重戦車が辛うじて一輌通れる広さしかなく、ここに入れば回避行動は出来なくなり、撃破される危険性が極めて高い。

 

 だが、その代わり右は遮蔽物が全く無い為、隠れる事ができず、完全に無防備となる。

 

「そのまま突っ込め!」

 

「了解!」

 

 早瀬はアクセル全開で飛び出し、そこへと入る。

 

 

 

「逃がすな!追え!!」

 

 あの後顔だけを拭いた斑鳩は怒声を上げて操縦者に命令を出す。

 

「ですが、あの地形では遮蔽物が無いので逃げ場がありません!」

 

「これでは右から狙い撃ちされる恐れが「それがどうした!!」っ・・・・」

 

 装填手が言い終える前に斑鳩が怒声を上げる。

 

「あの狭い道に入ってしまえば、もうやつに逃げ場は無い!飛んで火に入る夏の虫とは正にこの事だ!」

 

 もはや周りが見えていない目でキューポラの覗き窓から狭い道に入った五式を見る。

 

「追え!!追え!!」

 

 斑鳩の強引な命令に、怯えながらも操縦手は五式を追い掛け狭い崖道へと入る。

 

 

 直後にレーヴェが轟音と共に砲弾を放つが、道がかなり凸凹していたので砲身が上下に揺れ、そのまま五式の砲塔天板を掠りながら通り過ぎる。 

 

「ひぃ!」

 

「まだだ。まだ引き付けろ。キツネチーム!」

 

 神経を逆撫でる音に耐えながら、如月はキツネチームに通信を入れる。

 

『こちらキツネチーム!五式とレーヴェを確認した!』

 

「狙えるか!」

 

『もちろんだ。弾は榴弾を使用する!』

 

 そうして通信を切ると、轟音と共にレーヴェが榴弾を放ち、五式の砲塔に破片が降り注ぐ。

 

「っ!」

 

 鈴野は引き金を連続して三回引き、榴弾を三連射するもレーヴェに弾かれて二発が右の崖に着弾して爆発する。

 

 

 

 そうして中央まで進んだ所で、レーヴェが放った砲弾が五式の左側履帯に着弾して破壊される。

 

『っ!?』

 

 その勢いで五式は川の方に進んで落ちそうになるも、早瀬がとっさにブレーキを踏んでギリギリの所で止まる。

 

「足を止めた!そのまま突っ込め!川に叩き落としてやる!!」

 

 そのままレーヴェが五式へと突っ込んでいく。

 

 

 

 

「雫!」

 

「っ!」

 

 市街地の高台から狙いを定めた篠原は撃発ペダルを踏み、轟音と衝撃波と共に榴弾を放つ。

 

 大きく弧を描きながら榴弾はレーヴェに吸い込まれるように着弾し、爆発を起こした。

 

「っ!」

 

 如月はキューポラから外に出て、舞い上がる砂煙を睨む。

 

「やったか・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂煙が晴れると、そこには履帯と転輪の一部が破損して動きを止めているが、白旗が揚がっていないレーヴェが居た。

 よく見れば十二糎砲戦車が放った榴弾はレーヴェの少し下に着弾し、クレーターが出来ていた。

 

「なっ!?」

 

「そんな・・・・」

 

 双眼鏡で弾が外れた事に、瑞鶴と瑞鳳は目を見開く。

 

「不覚」

 

 篠原はガリッと歯軋りを立てる。

 

 

 

 

「くっ・・・・」

 

 目の前には動きこそ止めているが、撃破されていないレーヴェが健在していた。

 

「最後の最後で・・・・」

 

 如月は奥歯を噛み締め、レーヴェを睨む。

 

 

 

「・・・・ふ、ははは」

 

 レーヴェの車内で、着弾時の衝撃でキューポラに頭を打ち付けた斑鳩は一瞬思考が停止したが、少しして静かに笑いを上げる。

 

「どうやら、運は私に味方したようだな!」

 

 額から血を流しながらも、斑鳩は覗き窓から身動きが取れない五式を睨む。

 

 

 そうしてレーヴェの砲塔が旋回し、砲口が五式へ向けられる。

 

「・・・・・・」

 

 如月は覚悟を決め、目を閉じる。

 

「終わりだぁ!!如月ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 斑鳩が叫ぶと、砲手が引き金を引く―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、その瞬間レーヴェが立ち止まっている箇所が突然崩れた。

 

『っ!?』

 

 そのままレーヴェは崖に落下し、その際に砲弾が放たれ、五式の砲塔後部の角に着弾する。

 その衝撃で、ギリギリの所で止まっていた五式もまた崖へと滑り落ちる。

 

「掴まれ!」

 

 如月はとっさに叫ぶと、早瀬達は身近にある物にしがみ付き、五式はそのまま川へと崖を滑り落ちていった。

 

 

 

 

 ―――――が、滑り落ちる崖の途中に出っ張った岩に五式が引っ掛かり、衝撃と共に動きを止めた。

 

「っ!」

 

 その衝撃で如月は右へと飛ばされ、左腕を壁に打ち付ける。

 

「う、ぐぅ・・・・」

 

 運悪く側面ハッチの軸に打ち付け、激しい痛みが襲う。

 

「・・・・っ。レーヴェは」

 

 痛みを堪えてキューポラから上半身を出して外を見る。

 

 

 レーヴェは崖を滑り落ちるが、途中で岩に引っ掛かって横転し、その勢いのまま転げ落ちていく。

 

「・・・・・・」

 

 如月が見る中、レーヴェは崖の下まで転げ落ち、増水した川に少し浸かってようやく止まった。

 転げ落ちてボロボロになったレーヴェは、直後に砲塔から白旗が揚がった。

 

(キツネチームの一撃は、無駄に終わっていなかったのだな)

 

 二日連続で降った大雨で地面が若干緩み、更に十二糎砲戦車の榴弾が着弾して爆発して出来たクレーターによって地面の強度が無くなった上でレーヴェの重量で地面が崩れたのだろう。

 

(まぁ、結果オーライか)

 

 五式は辛うじて撃破されず、川に落ちることは無かったが、ここから自力で移動するのは現状では不可能だった。

 しかし、それと引き換えにして、レーヴェを撃破する事に成功した。

 

 

「っ・・・・!」

 

 と、如月の左腕から激痛が走って表情が歪み、血が滲み出る。

 見ると徐々に如月の顔色が悪くなり、呼吸が荒くなる。

 

 如月は痛みを堪えるように、額を天板に付け、歯を食いしばる。

 

「・・・・・・!」

 

 激痛に耐えて如月が顔を上げると、レーヴェに異変が起きる。

 

 

 

 レーヴェの車体が徐々に川へと沈み始めている。

 

「レーヴェが!」

 

 車体のハッチを開けて出てきた早瀬がレーヴェの異変に気付く。

 

 

 すると沈み始めるレーヴェからは乗員が四人出てきて逃げ出した。

 

「まずい。増水した川で、このままじゃ水没する!」

 

「・・・・・・」

 

 ふと、坂本はある事に気付く。

 

 

「如月さん。レーヴェの搭乗員って、五名でしたよね?」

 

「それがどうした?」

 

「・・・・さっき出てきたのは、四名だけです、よね?」

 

「っ!」

 

 如月はレーヴェを見る。

 

「じゃぁ、中にはまだ人が!?」

 

「助けずに見捨てたって言うの・・・・」

 

 鈴野は逃げた四人を睨む。

 

「・・・・・・」

 

 恐らくレーヴェに取り残されているのは、斑鳩だろう。

 

 彼女が出てきてないとなると、恐らく気を失っている可能性がある。

 

 

「・・・・・・」

 

 このまま放って置けば、彼女は確実に水死してしまう。

 

 そう思った瞬間だった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――あんなやつ、放って置けばいい――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、如月の脳裏に、悪魔の囁きの様にその言葉が過ぎる。

 

 

 

 確かに斑鳩を助ける道理は無い。

 

 

 今まで如月や両親へ嫌がらせをしてきたのは斑鳩家であり、何より焔は如月にとっては大切な親友のみほに、一生癒える事の無い心の傷を負わせ、精神崩壊寸前まで陥れた。

 

 

 今の如月の中には、彼女を助けなくても良い、むしろ死ねば良い、と言う悪の自分。

 

 

 もう一方は、例え憎む相手でも、人の命が失われようとしているのだからと助けなければならない、と言う善の自分。

 

 

 

 その間にも、レーヴェはどんどん川へと沈んでいく。

 

 

(くっ・・・・)

 

 

 左腕の激痛で考えが疎かになるも、彼女は歯軋りを立てる。

 

 

 

 

 果たして、彼女の答えは――――

 

 

 

 

 


 
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