ポケットモンスター、略してポケモン。
人と共に生きるポケモンもいれば、森で過ごし、空を舞い、荒野を駆け、水中を泳ぎ、洞窟の奥地などでひっそりと暮らすポケモンもいる。
そんなポケモン達に対し、旅団メンバー達はどんな反応を示すのだろうか―――
支配人の仲間達が経営する、ポケモン育て屋の庭にて…
「「「「「可愛いぃ~…♪」」」」」
「シャワァ…?」
支配人に案内されて育て屋までやって来たディアラヴァーズ一同は、人魚みたいな特徴を持ち合わせた水色のポケモン―――シャワーズに魅了されてしまっていた。シャワーズのその円らな瞳にハートを撃ち抜かれたのか、皆してシャワーズを全力で抱きしめて可愛がり、シャワーズは不思議そうな表情で首を傾げている。
「俺の主力ポケモンであるシャワーズだ。どうだ? なかなか可愛いだろ」
「最っ高! こんな可愛いのがいるなんて、私達も知らなかったよ~!」
「さて、そんなお前達にもっと可愛い奴等を紹介してやるよ」
支配人が口笛を吹く。すると…
「「リ~ル~♪」」
「「ガウッ!」」
「ニャア~…♪」
「コ~ン!」
「ブ~イッ♪」
近くの池からは丸い青色の鼠ポケモンのマリルやルリリ、小さな犬小屋からは灰色と黒色の毛を生やした子犬ポケモンのポチエナ、オレンジ色の毛を生やした子犬ポケモンのガーディ、木の上からはピンク色の猫ポケモンのエネコや、赤い子狐ポケモンのロコン、茶色の毛が生えた可愛らしいポケモンのイーブイなどが、支配人の口笛を聞いて一斉に飛び出して来た。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「か、可愛いです…!」
「ほらほらおいで~♪ 可愛がってあげるよ~♪」
可愛らしいポケモン達を前に、ディアラヴァーズ一同も完全にメロメロ状態のようだ。一同は分かれてそれぞれのポケモンを可愛がり始め、離れた位置では支配人とディアーリーズがそれを眺めている。
「凄いですね。僕達の知らない世界で、こんなに不思議な生物がいたなんて…」
「ポケモンってのは色々と謎が多い生き物だ。まだまだ俺達の知らないポケモンだって、違う世界に存在してるかも知れねぇ。調べてみるだけでも本当に面白いもんだぜ」
「へぇ~……そういえば支配人さん」
「ん?」
「ブゥ~バァ~…」
ディアーリーズは赤と黄色の模様を持ったポケモン―――ブーバーンが大事そうに抱えているケースを指差す。
「…さっきからあの赤いポケモンが持ってるのって、もしかして卵ですか?」
「あぁそうだ。見てみるか?」
ブーバーンが抱えていた卵入りのケースを支配人が受け取り、それをディアーリーズに渡す。ポケモンの卵を見るのは初めてだからか、ディアーリーズは「おぉ…!」と声を漏らしながら純粋無垢な目で卵を見据えていた。
「どうだ?」
「…本当に凄いですよ。卵の中から、新しい命の鼓動が感じ取れます」
「だろ? せっかくだし、お前にこの卵をやろうか?」
「え、良いんですか?」
「あぁ。ただし、その卵から新しく孵化するポケモンだって、ちゃんとした命を持ってんだ…………勝手に逃がしたらどうなるか、分かってるよな?」
「分かりました、充分に分かりました、だからそんな怖い顔でこっち見ないで下さいお願いですから!!」
口は笑みを浮かべつつ目は笑っていない支配人に対し、ディアーリーズは冷や汗を掻きつつも了承する。普段なら冷静に返すところなのだが、支配人の背後に見えているドス黒い邪龍のオーラを感じ取ったのか「これはしっかり了承しないとマズい」と判断したのだろう。ポケモンの事になると何時でもマジな支配人である。
「まぁ、分かってくれれば問題ない。ところで、俺もそろそろ聞きたいんだが…」
「おぉ~何だこの可愛い生き物達は!!」
「ピカピカッ♪」
「ピチュ~♪」
「プ~ラ♪」
「マ~イ♪」
「あぁ、天国だな。白蓮と蓮にも、この尻尾をモフモフさせてやりたいところだ…」
「コォ~ン♪」
「ふむ、このヘドロには、数種類の毒素が一つに調合された状態で含まれている、と。これはなかなか興味深いですねぇ…」
「ベェ~トォ~…?」
「そぉれ、取って来-い!!」
「ガウッ!」
「ふむ、仕事が楽で良いですねぇ~」
「メェタッ!」
「…何故こうなったし」
「「「~♪」」」
「おいコラ、俺の分まで喰ってんじゃねぇぞテメェ…!!」
「カ~ビ~…?」
「何この子達、可愛過ぎるじゃない!? 悔しいから全力で愛でてやるわ、これって負けかしら!?」
「フィ?」
「―――何でお前等までここに来ちゃってんのかなぁオイ!?」
黄色い鼠ポケモン―――ピカチュウやピチュー、そしてそれぞれ「+」と「-」の記号がある鼠ポケモン―――プラスルとマイナンを全力で愛でているkaito。金色の狐ポケモン―――キュウコンの尻尾に顔を埋めて、幸せそうにしているげんぶ。毒々しいヘドロポケモン―――ベトベトンのヘドロを勝手に調査し始めている竜神丸。通常の飼い犬の如く、ガーディにボールを取って来させているロキ。鋼のボディを持ったポケモン―――メタグロスにパソコンの作業をさせているデルタ。何故かゴーストタイプのポケモン達に懐かれ群がられてしまっているUnknown。まん丸に太っているポケモン―――カビゴンと何故か大食い勝負をしているZERO。ピンク色の猫又らしいキュートなポケモン―――エーフィを抱き締めたまま、全力で頬をスリスリしまくっている葵。
一同の存在に対し、支配人は全力で突っ込みの声を上げる。
「まぁアレだ、普通にポケモン達を可愛がっている連中はまだ良いさ!! だがそこの竜神丸は何を勝手に毒の調査をしとるか己は!? デルタさんも確かにメタグロスはスーパーコンピューター並の頭脳持ちだけど、自分の仕事くらい自分でやってくれよ!! そしてZEROはZEROで何でカビゴンと大食い勝負始めてやがんだ!? しかもよりによって育て屋に置いてあった食材まで食い荒らしてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
「あ、突っ込みお疲れ様で~す」
「「「「「お疲れ様で~す」」」」」
「ッ~~~~~~~~~~~~~~~~…!!!」
(…マジでドンマイです、支配人さん)
どれだけ突っ込もうがマイペースに返事を返すだけの一同に、支配人は苛立ちのあまり壁を何度も殴り始める。最近はaws以上に苦労人と化しつつある支配人を見たディアーリーズは何となく申し訳なく思ったのか、帰る前に何か育て屋で仕事を手伝う事を決意したのは言うまでもなく、支配人の胃がどれだけストレスでマッハな状態なのかをよく表している。
しかしそんな支配人の胃は、更に痛めつけられる事になる。
-ガシャァァァァァァァァァァンッ!!-
「「「「「!?」」」」」
突如、育て屋の食糧庫から何やら大きな破壊音が聞こえてきた。突然の破壊音に一同は何事かと振り向き、支配人は青ざめた表情をしたまま頭を抱える。
「おいおい、またやらかしてんのかアイツは…」
「アイツ等?」
「あぁ。うちは育て屋だ、だからトレーナーのポケモンを預かって世話をしてるんだが……ちょっとばかり、問題児な奴等を預かっていてな」
その“問題児”達が暴れている、食糧庫前では…
「ドッサァァァァァァァイッ!!!」
「ドォラァァァァァァァァッ!!!」
長いドリル状の角を持った犀のようなポケモン―――ドサイドンと、鋼のボディを持った怪獣のようなポケモン―――ボスゴドラの2体が大喧嘩をしていた。2体が大喧嘩をしている所為で周囲の被害は相当大きく、特に食糧庫は完全に潰れてしまっていると言っても過言ではないくらいだ。それにも関わらず、2体は周囲の被害など知った事じゃないとでも言うかの如く大喧嘩を続けている。
「ちょっと、ドサイドンにボスゴドラも!! 喧嘩は止め…」
「ドッサァイ!!!」
「あぁーれぇー!?」
「フィアちゃーん!?」
「ドォラァッ!!!」
「ッ…駄目、抑え切れな……あうっ!?」
「ユイちゃん!? くそ、一体どうすれば…!!」
2体の喧嘩を止めようとしたフィアレスがドサイドンの
「支配人さん、あの2体って…!」
「ドサイドンとボスゴドラだ。あるトレーナーから預けられたんだが、レベルが高い上に凶暴性も高い、しかもレベル関係なしにお互いの仲も悪いと来たもんだ!! おかげでどんだけうちは修理費がかかってる事か―――」
「ドッサァァァァイ!!!」
「ドラァァァァァァ!!!」
-ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!-
「ごはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「「awsさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」」
「おぉ~これまた凶暴そうなポケモン達だねぇ~」
「興味深そうに見学しとる場合か!? アイツ等を止めようって気持ちは無いのか!!」
「うん、あると言ったら嘘になるね!」
「親指立てて威張るような事じゃねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そう言っている内に、ドサイドンとボスゴドラの破壊光線を喰らったawsが吹っ飛ばされてしまい、ディアーリーズとルカがawsの名を叫び、kaitoは暇そうに2体の喧嘩を眺めている始末。早く2体を止めなければ、更に被害が大きくなってしまう事は明白である。
「あ、支配人さん!! 助けて下さい!! あの2体、全然言う事を聞いてくれなくて…」
「くそ!! シャワーズとメタグロスは他の皆が構ってる最中だし……仕方ない!! リザードン、ヘラクロス、ボーマンダ、ギャラドス!! 4体だけですまんが、アイツ等を何とか止めてくれ!!」
「リザァーッ!!」
「ヘラッ!!」
「「グォォォォォォォッ!!」」
支配人はすかさず自身の主力ポケモン達をモンスターボールから解き放ち、2体を止めるべく動き出す。しかし支配人の主力ポケモン達を持ってしてもドサイドンとボスゴドラの喧嘩は止まらず、リザードンはボスゴドラの怪力を取り押さえるのに精一杯で、ヘラクロスはドサイドンの
「くそ!! これだから厄介なんだよ、レベルの高いポケモン育てるのは…!!」
「支配人さん、僕も手伝います!! せめてあの2体の動きさえ止める事が出来れば―――」
「あ、馬鹿!? よせディア!!」
卵入りケースをラヴァーズに預けて来たディアーリーズが駆け出し、ドサイドンとボスゴドラに向かって強力な冷気を放つ。しかし…
「ドラァッ!!!」
「え…ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」
「「「「「ウルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!?」」」」」
「あちゃあ、だから言ったのに…」
ドサイドンにはいくらか効果があったものの、ボスゴドラの方は全く動きが止まらないまま、ディアーリーズをアイアンヘッドの一撃で沈めてしまった。ボスゴドラは鋼タイプなのだから、ディアーリーズの氷属性の技もほとんどダメージは無かったのだろう。
「きゅぅぅぅぅ~…」
「くそ、ディアは完全にノックアウトしちまってるし、このままじゃ―――」
「困っているようだな」
「!?」
そんな時、救世主は現れた。
「団長!? どうしてここに…」
「外出から戻って来たところでな。たまたま近くを通っていたところで騒ぎを聞きつけたのだ……ふむ」
駆けつけた救世主―――クライシスは暴れているドサイドンとボスゴドラを見ながら少しだけ考える仕草をし、そして一歩ずつ歩み出す。
「ちょ、団長!? 危ないですって!!」
「何、心配はいらん。何とか私の方で手懐けてみよう」
そしてクライシスは暴れている2体のいる方向へと歩いていく。
「グルァッ!?」
「ギャラァッ!?」
「ドッサァァァァイ!!」
「ドラァァァァァッ!!」
「ちょ…むぎゅっ!?」
リザードンやギャラドスすらも押しのけ、見事に支配人の主力ポケモン達を退けてしまったドサイドンとボスゴドラ。ルカまで踏みつけられてしまう中でも未だに喧嘩を止めようとせず、そのまま喧嘩を再開しようとした2体だったが…
「そこまでにしたまえ、お前達」
たった一言。
そのたった一言によって、喧嘩はピリオドを打たれる事となる。
「「―――ッ!!?」」
2体の喧嘩を止めようとして歩み寄って来たクライシス。その姿を見た瞬間、先程までの凶暴性は一体何処に消えてしまったのか、ドサイドンとボスゴドラは急にガタガタ震え始めた。
「ここで喧嘩をしては周りに迷惑だ。何か不満があるなら、私がその不満を全て受け止めてやろうじゃないか」
クライシスはニコニコとした笑顔をしたまま両腕を広げ、2体に優しく語りかける。しかし、2体は彼に対する恐怖心を拭えそうになかった。何故なら…
「どうした、遠慮する事は無いんだぞ?」
2体の視界には…
「さぁ、私に思いっきり飛びかかって来い。全力で受け止めてやる」
とてつもなく邪悪な猛獣、そのドス黒いオーラを纏ったクライシスが映っているのだから。
「「―――グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!」」
「え、ちょ…ぬぉわっ!?」
突然、鈍重な筈のドサイドンとボスゴドラが猛スピードで駆け出し、クライシスの横を大きくカーブしてから支配人の下まで走って来た。そしてそのまま怯えた様子で支配人の背後に隠れ、頭を押さえたままガクガク震えてしまっている。
「…えぇっと、どういう事?」
「な、何だか怯えてるみたいですが…」
一部始終を見ていた一同を代表し、ハルトとルイが支配人に問いかける。
「…ま、実に単純な話だな。
「だ、団長を?」
「あぁ~…分かる気がするわ、その子達の気持ちが」
アキはうんうんと頷く。彼女もかつては召喚したモンスター達がクライシスに怯えて逃げ出してしまい、自身もクライシスに対する恐怖で失神してしまった事がある為か、今の2体の気持ちが簡単に分かったのだろう。
「えぇっと……取り敢えず、事態は解決したって事で良いのか?」
「良いんじゃないか? ただ、さっきからずっと突っ立ってる団長が気になるが…」
その後…
「―――支配人さんの話では、その喧嘩で暴れていたドサイドンとボスゴドラは無事に素直な性格になり、元のトレーナーの手持ちへ戻ったとの事です。育て屋の修理費はこちらの方で支払ったので、一応は解決したと見て問題は無いでしょう……って、聞いてますか? 団長」
報告書を片手に報告する竜神丸だったが、彼の目の前では…
「…なぁ、竜神丸よ……私は一体何がいけないのだろうな……私はただ、純粋に可愛がってやりたかっただけなのだがなぁ…」
机に頭を突っ伏したまま負のオーラを放ちつつ、珍しく落ち込んでいるクライシスの姿があった。
「…取り敢えず、その無駄に動物を恐怖させる威圧感をどうにかした方がよろしいかと」
「あぁ…そうだな……私は何時まで経っても動物を触れないのだな……フ、フフ、フフフフフフフフフフフフ…」
(…うん、駄目だこりゃ)
その後もしばらくの間、クライシスが元気を取り戻すのには時間がかかった模様。
判明したクライシスの弱点:動物を触りたくても触れない事(動物がクライシスを怖がって逃げてしまう為)
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