No.743753

真・恋姫†無双~比翼の契り~ 二章第三話

九条さん

二章 群雄割拠編

 第三話「歳不相応な少女」

2014-12-15 18:16:10 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1354   閲覧ユーザー数:1204

「ま、こんなものか」

 

「こっちも終わったぞ」

 

 門のある右手側を除いて立っている者はいない。さっきまで鳴り響いていた剣戟や怒声などの喧騒もなくなり、本当に城門前の通りなのかと思うほどの静けさがあった。さっきまで大立ち回りしていたのだから仕方のないことでもあるが。

 

「……任務完了」

 

「敗残兵の始末も完了っす!」

 

 剣に付着した血を拭っていると、愛李と想愁が街の掃討にあたっていた梟と共に合流した。

 

「ああ、お疲れ様」

 

 想愁には手を挙げて応え、その手はそのまま撫でやすい位置にあった愛李の頭に乗せた。

 身なりに気を使わない愛李は激しい運動で乱れた髪を整えることはしない。だから、元の髪型を意識しながら手櫛で梳き、ついでに整えた髪型を崩さないよう頭も撫でた。

 報告のためにキリッとしていた表情は途端に砕けふやふやになり、目は開いてるのか怪しいほどに細められ撫でられるがままになっている。

 あまり甘やかすのもどうかと思うんだが、皆この顔を一度でも見るとやめられなくなるんだよな。普段とのギャップが一種の癒しを生んでいるというか……。

 

 一通り愛李の撫で心地を堪能し終え一つ頼み事をした俺は、例の孤軍奮闘していた少女がいるほうへ向いた。

 それまで安心したような表情をしていた少女は、俺の視線に気付くと表情を消そうとした。凄い今更だけどな。

 

「なぁ」

 

「……何?」

 

 受け答えも最初のときと同じ。これが素じゃないのはさっきの表情で分かる。むしろ背が低いというのに努めて背伸びをしている姿が可笑しく見えた。本人に言うのは失礼だろうから思うだけに留めるが。

 

「名前、なんて言うんだ? 君……なんていうのも失礼だろ?」

 

 最悪答えてくれなくても長老辺りを呼んできてもらえればそれでもいいが。

 なんとなくだが、これぐらいの知恵というか意図は分かると思う。そこまで愚かな子に見えないから。

 ただ、今は意地みたいなものが先行してるだけのように見える。

 

「……私の名は太史慈。字を子義。あなたは?」

 

 太史慈……ね。さしずめ孔融には何か恩でもあるのかね。

 

「俺の名は司馬朗だ。つかぬことを聞くが、この街の長老には会えるか?」

 

 長老と聞いて少女はわずかに視線を後ろにやった。そこにはいまだそのままで放置されている少女の仲間と思わしき兵がいるだけだ。

 

「……長老も勇敢な私の兵達も、皆私を除いて死んだ。今この街で最も権威を持っているのは孔融様であろうが、戦闘が終わったのにも関わらず城から出てこないということは、すでに街を脱出したのかもしれぬな。であれば次に権威があるのは私、になるだろうか」

 

 そうか、長老は街の為に死んだか。さぞ立派な最後だったろうな。

 そして目の前にいる者は、実質的な代理とはいえ将ではなく街の長殿、というわけか。ならばそれなりの対応をするべきか。

 

「なら太史慈殿、街にも幾人かの生き残りがいる。その者達の為にも仮設の天幕を設置しようと思うのだが如何か?」

 

「え? ああ、迅速に用意できるのなら頼む」

 

 いきなり口調を変えたから面食らったのか表情が素に戻っていたな。

 

「……残念ながら我らに用意できる数は限られている。足りない分は街の者達から借りたいと思うのだが」

 

「そうか。街の者には私から交渉しよう。これでも顔は広い、それにいらぬ誤解を生まなくてすむだろう」

 

 ……やはり頭は回るようだな。

 

「天幕が完成し落ち着き始めたら彼らの墓石を立てよう」

 

 彼らと言って視線を向けたのは太史慈の後ろにある亡骸達だ。

 勇敢に戦った、だけじゃないだろう。太史慈がどれだけ彼らを大切に思っていたかはさっき一瞬だけ見えた表情だけでも分かったつもりだ。

 

「……頼む」

 

 その一言にどれだけの想いが詰まっていたのかはさすがに分からないが、感情を隠していた少女が初めて涙を見せた。

 ……弱者に厳しい世界は、なんともやるせないな。

 

 

 太史慈が天幕用の布などを住人達から集めてくれたおかげで仮説天幕の設置は予定よりもスムーズに進んだ。夜までかかるだろうと予想していた作業は日が傾き始めた頃には終わり、眺めの休息を取ってから今は炊き出しの準備をしている。

 むしろ彼女が言った顔が広いという言葉はもっと誇張してもいいぐらいだった。太史慈に付き添って回収に向かっていた想愁から、ほとんどの住人が太史慈様が必要というのならといった感じで設置に必要な物をわけてくれたのだという。

 彼女の容姿と、どう見ても背伸びにしか見えない行動は、街の人々にとても親しまれているものだった。だからだろうか、力仕事であっても女の人が、小さな子供であっても率先して作業を手伝ってくれていた。

 

 結果的に街を助けたのは俺達だが、そのことを知っているのは実際に梟の手によって助けられた者達だけだろうに。太史慈様が手伝っているから、あの子が許した人なら悪い人じゃないと、俺達を見てもなんら顔色を変えずに手を動かす住人達を見て、最初こそ警戒心を露わにしていた詠でさえ今は住民や梟に別け隔てなく次の作業の命令を下していた。詠の生き生きとした姿に月も笑顔で手伝い、その笑顔に華雄も奮戦もとい尽力していた。

 

 

 城門前の大通りから離れ、二つ隣の人通りの少ない裏通り。俺と太史慈、茉莉の三人で作業をしていた。

 

「こんなもんでいいか」

 

「そう、ですね」

 

 大きめの石を二十数個置き掘った土を固め直す。最後に茉莉が持っていた花を添えて完成。

 茉莉とともに立ち上がり後ろに立っていた太史慈に場を譲る。俺達にとって勇敢な兵達の墓石でしかないが、太史慈にとってはそうではないから。祈るにせよ何か言葉を掛けるにせよ、俺達は場違いでしか無い。

 

「……済まない」

 

 立ち去るとき聞こえた言葉は俺達に向けて言ったのか死者への手向けか、確かめるような真似はしなかった。

 

 

 

 翌日、孔融殿が帰還した。

 今回の働きに関して何か恩賞を渡すという要件で城に呼ばれたが丁重に辞退させてもらった。

 何よりも民とともに動いている太史慈を見た孔融の目が気に食わなかった。太史慈も気付いていたようだが黙殺していたようだし、俺がなにか言う問題ではないが嫌な感じはした。

 そして俺達はまた出立の準備を始めている。

 太守が戻ってきたのなら俺達がいる必要はない。なにせ孔融が連れてきた兵達がいるのだから。

 ここが平時であれば、あと二日ほど休息を取り次の街に行く予定だったが、俺達が厄介になる余裕は今のこの街にはないだろうしな。

 

 もとより旅の身。手持ちの物は少ないから準備は早く終わった。

 あとはまたしばらく徒歩の道中になる、なんてことを考えていたら街の正門で太史慈が待っていた。

 

「少しだけ、いいだろうか」

 

 自意識過剰じゃなければ真っ直ぐに俺だけを見据えていた。もしくは俺達全員だろうか。対応するのは俺でいいのか確認のために皆のほうを向くと、太史慈が何か大事な話しをしようとしていると雰囲気で察したのか頷きをもって返された。

 恋は意味が分かってないのか首を傾げるだけ、華雄も皆が頷いているから自分も頷いとこうみたいな雰囲気だったが。

 口調は……普通でいいか。

 

「少しだけなら」

 

 皆と少し離れた場所で太史慈と向かい合う。

 なんとなくだが、これから話される内容には察しがつく。茉莉が色々と話していたようだからな。主に孔融に関して。

 

「……司馬懿殿の話は本当なのだろうか。孔融様が――」

 

「それは自分自身の目で確かめた方がいい。君は孔融、殿の部下であり将なんだから見極める時間はたくさんあるだろう?」

 

「あの方は我が母の恩人だ! そのような話は嘘だと信じたい……」

 

 信じたい……か。なにか思い当たる節はあるみたいだな。

 表向き良君に見えるだろうな。税率も高くなく、政策もどれもが良心的だ。公にはなっていないが痩せ細った体をしているため外に出ることはほとんどなく、領主でありながらその姿を見た者は数少ない。

 孔融の姿を知るものは腹心中の腹心しか知られていない。例え()()()()()()気付かれることはない。

 これらの情報を踏まえ少し考えてみればわかることだ。一人では立てないほど痩せ細った人間が、どうして他人の世話などできるのだろうか。

 では、太史慈の母が見た孔融は本物の孔融だったのだろうか……。

 

「…………もし、もしもその話が本当だったとして、それを知った私はどうしたらいい。恩人と思っていた人が虚影だったとして、その後は何をすればいい!?」

 

「太史慈殿。まだ司馬懿の話が本当だと決まったわけじゃない。その情報はあくまでも我らが朝廷に仕えていたとき偶然に得たもの。真偽の程は確かめていない不確かな情報だ」

 

「……だが、話したということはそれなりに確かな情報なのだろう?」

 

「だからこそ自身の目で確かめたほうが良いと言っている。そしてもし真実だったとして、この先進む道がわからなくなったときは俺達を頼れ。道ならいくらでも示してやるさ」

 

 まるで口説いているかのようだな。言っていて恥ずかしくなる。

 羞恥を耐えるだけで太史慈ほどの猛将を落とせるのなら道化でも何でも演じてやるがな。

 手応えは五分。茉莉は確実に落とせますね、なんて言っていたが。

 

「……分かった。司馬朗殿達はこれからどちらへ向かうのだ?」

 

「俺達はこのまま青州を抜け徐州へ入ろうと思っている」

 

「徐州、噂に聞く劉備殿のところか」

 

「ここにまで噂が聞き及んでいるのか」

 

 最後に得た情報は二月も前の情報だ。噂であってもどんなものか気になる。

 

「ああ。反董卓連合軍が解散してほんの数ヶ月だというのに、徐州からは良君だという評判ばかりだ。実際大した手腕だと思う。政略的なことは詳しくは分からないが、短期間であそこまで人心を掌握できるのは生来の人柄の良さなのだろうか。商人達も徐州は犯罪も少なく過ごしやすいと聞いている」

 

「そうか。太史慈殿は徐州へ行ってみたいと思うか?」

 

「……私には孔融様がいるからな」

 

 ああ、言い方が悪かったか。確かにそういう意味にも受け取れるな。

 

「すまない。そんなつもりで聞いたわけじゃないんだ。ただの興味本位なだけであって、不快にさせたなら謝る」

 

「こ、こちらこそ勘違いをしていたようで申し訳ない」

 

 復興作業のときも時折こういったポカをやらかしていたな。必ず歳相応の表情になるから見ていて面白い。本人はそれどころじゃないぐらいテンパっているみたいだけどな。

 若干の気まずさはあるがこれぐらいでいいだろう。いい加減愛李あたりが様子見をしてきそうだしな。

 

「そろそろ俺達は行くよ」

 

「ああ。……助けてくれてありがとう」

 

 最後は小さな呟きだったがちゃんと聞き取った。詠よりは素直なのかね。

 

「ふふっ。じゃあ次に逢う時まで、またな」

 

「……また」

 

 小さく胸の前で振られた手に背を向け、大きく手を振って返す。

 きっとまた逢う。そんな予感を抱きながら俺達は街を後にした。

 

 

 

【あとがき】

 

 皆様、夜分遅くにこんばんは。

 九条です。

 

 なんとか奇跡的にほぼ一週間で一話更新ができていて、やればできるじゃないかと驚愕してます。

 たぶんゲームとかしてなければもう一話ぐらい書けてそう、なんて言うのはダメですよ?

 

 新キャラ「太史慈」登場です。ロリきょぬーの大人な女性(笑)な娘です。

 真名は今回出さないことにしました。ええ、今回「は」出しません。

 

 次は主人公じゃない視点の話でも盛り込んでみようかと(思ってるだけ

 どうするかは正直まだ決めてません。

 でも馬家のアノ人とか幽州の滅ぼされちゃった方とか書いておこうかなと考えてるのは確かです。

 

 

 IS観ました。

 突っ込みどころは多かったですね、うん。アレを観た後だとウチのヒロインが全員チョロインさんになりそう。

 アニメーションを見てアルペジオに近いもの(立体感?)を感じましたね。

 悪い作品じゃないと思いますが、自分の作品には影響させないようにしなければ……。

 

 ジャンプSQで連載していた「紅」を久々に読み返したらオリジナルの作品を一つ書きたくなりました。

 箇条書きで色々と書いていたらそれだけで一万字……。

 整理が苦手な自分はまたボツ作品にしそうです。

 

 

 クリスマスネタはどうしようかな~と。書いても仕上げられる自信がが。

 もしかしたら……あるいは……前向きに書こうとは思っています。

 あまり期待はせずに……。

 

 

 それではあとがき長すぎぃ! とか言われそうなのでぶった切って

 また次回まで (#゚Д゚)ノ[再見!]


 
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