No.743658

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-12-14 23:56:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:744   閲覧ユーザー数:718

 

 

 

 story57 挑発

 

 

 

『こちら6号車ティーガーⅡ。八九式に用水路に落とされました(涙』

 

『こちら7号車ティーガーⅡ。同じく用水路に落とされました(涙』

 

『こちら――――』

 

 と、次から次へと撃破されたと報告が来て、斑鳩は苛立ちを募らせ、ギリギリと奥歯を噛み締めていた。

 

(使えないカス共が。たかが最弱の日本戦車にドイツ戦車で敗北を喫するなど)

 

 舌打ちをして貧乏揺すりが強くなり、装填手は不安の色を表情に浮かべる。

 

 

『こちら20号車。大洗の戦車を一輌撃破しました。これより殲滅に入ります』

 

「そうか。徹底的に殺れ」

 

『Jawohl(ヤヴォール:了解』』

 

 

(ようやく来たか。これで大洗も終わりだな。例え大型イ号車と言えど、もう攻撃には耐えられまい)

 

 口角をニヤリと上げ、キューポラの覗き窓から追撃している五式を見る。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「アヒルチームがやられたか」

 

 レーヴェから放たれる砲弾をかわし、近くのコンクリの塀に着弾して破片が五式に襲い掛かる。

 

(ここまでウサギチームがエレファントを、刺し違えてヤークトティーガーを撃破。そしてアヒルチームとネズミチームがキツネチームと共同してティーガーⅡ二輌撃破。そしてタカチームとアリクイチームがラングとヤークトパンターを撃破。これであと七輌)

 

 しかし作戦はこれから最終段階に移る。

 

(みほ・・・・うまくやれよ)

 

 内心でそろそろ例のポイントに着いているであろう西住を心配する。

 

 

 

 

 

 Ⅳ号は追撃を受けながらも例のポイントに近付きつつあった。

 

「間も無くHS地点!レオポンさん!ゾウさん!今何所ですか!」

 

『こちらレオポン。HSに入りました』

 

『こちらゾウ。同じくHSに入ったよ』

 

「0017に移動してください!」

 

『はーい』

 

『さぁ、最後の仕上げよ!』

 

 

 と、レオポンチームポルシェティーガーとフェルディナントが目的ポイントへと向かう。

 

 

 

 

 少ししてⅣ号は校舎へと入り、黒森峰のフラッグ車であるティーガーⅠが続いて中に入ると、その直後にポルシェティーガーとフェルディナントがその入り口を車体で塞いだ。

 

 構図的には、斜めに車体を傾けて少なくとも装甲厚を厚くする傾斜装甲の原理を生かした『昼飯角度』をポルシェティーガーが取って入り口を塞ぎ、薄い車体側面装甲の大半をフェルディナントがカバーすると言う形になる。

 

「え?」

 

 一瞬その光景に戸惑うが、その直後にポルシェティーガーとフェルディナントが砲を追撃してきた黒森峰の戦車に向け、一斉に放った。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 レーヴェが放った砲弾を五式は左へ曲がってかわし、主砲を三連射するもレーヴェの正面装甲や曲面を持つ砲塔に弾かれる。

 

「やはり正面からは分が悪いか」

 

 空薬莢が薬室から排出されてトレーに乗せていた砲弾を薬室に装填し、キューポラの覗き窓を覗く。

 

 直後にレーヴェが砲弾を放ち、五式の砲塔側面を掠る。

 

 

「だが、そろそろだろう」

 

 と、如月は砲弾ラックよりある砲弾を取り出す。

 

「そろそろアレを始めるぞ。早瀬。ジグザグで走行して煽れ!鈴野は砲塔に集中して撃て!」

 

『了解!』

 

 早瀬は五式を蛇行させつつ、如月はトレーにあの砲弾を置き、一発を抱える。

 

 直後に装填していた徹甲弾が放たれ、レーヴェの砲塔に着弾するも、曲面部だったので弾かれる。

 

 

 

 

「ふん。そんなへなちょこ砲でこのレーヴェが倒せるか」

 

 キューポラの覗き窓を覗きつつ、直後にレーヴェから砲弾が放たれ、五式の砲塔側面の掠りつつ予備履帯を吹き飛ばす。

 

「ちっ!何をやっている!図体でかい的にも当てられんのか!貴様は!」

 

「す、すみません!」

 

 砲手はすぐに狙いを修正する。

 

 と、五式の砲塔が動き、レーヴェに狙いを付ける。

 

「無駄だと分かって――――」

 

 

 

 

 直後に五式から放たれた砲弾はレーヴェの砲塔に着弾した瞬間、大量の黒い液体が出てきてレーヴェの砲塔とキューポラの覗き窓を多い尽くす。

 

「なっ!?」

 

 斑鳩は一瞬驚いて後ろに少し仰け反る。

 

「しゃ、車長!黒いナニカが付着してスコープが!?」

 

「くそっ!小癪な真似を!」

 

 視界を奪われたので、すぐにハッチを開けて立ち上がり、上半身を外に出す。

 

 

 バシャッ!!

 

 

「ぶっ!?」

 

 と、出た瞬間斑鳩は正面から黒いペイントを受け、前面真っ黒に染まる。

 

 

 

 状況を説明すると、砲塔に直撃したペイント弾が破裂してペイントが飛び散り、同時に斑鳩が外に出てきたので、その飛び散ったペイントが斑鳩に襲い掛かり、真正面から黒いペイントを受ける事になってしまった。

 ぶっちゃけ、出なければ良かったじゃん・・・・・・って感じだ

 

 

 

「なんだ・・・・これは」

 

 自分の前面とレーヴェに付着した黒いペイントを見ると、斑鳩は震えがどんどん大きくなり、拳を握り締める。

 

「汚れた血の分際で・・・・この私にこの屈辱・・・・」

 

 ガリッと歯軋りを立て、レーヴェの天板に右手で作った拳を叩き付ける。

 

「殺す!殺してやる!!」

 

 怒りの篭った目で五式を睨みつける。

 

「撃てっ!!撃ちまくれ!!その後に川へ叩き落してやる!!」

 

 咽喉マイクに手をつけて乗員に怒鳴りつけると、レーヴェから砲弾が放たれるが、その衝撃波で斑鳩は一瞬仰け反る。

 

 

 

「どうやら、効果は絶大だったな」

 

 前面真っ黒な斑鳩の反応を見て、如月は確信を得る。

 

 今まで挑発をしていたが、そう簡単に釣られるほど向こうは甘くは無い。

 

 だが、自分の乗車に、更に自分にあんな事をされたのなら、プライドの高い彼女にとっては屈辱以外の何も無い。

 更にそれが見下して汚れた血と罵っている如月であるのなら、効果は倍増になる。

 

(だが、五式の砲では、例え後ろを取ったとしても撃破は難しい。いくら相手が激昂して冷静さが欠けているとしても)

 

 

 だからこそ、今の状態であればレーヴェをある地形に誘導できる。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 四式の近くの建造物が粉々に吹き飛ばされ、その衝撃と破片が四式に襲い掛かる。

 

「のわぁぁぁぁぁっ!?」

 

 車内は衝撃波で揺さぶられ、中島は背中を砲塔内の壁に背中を打ち付ける。

 

 

「くそっ!聞いてねぇぞ!あんな戦車があるなんぞ!」

 

 二階堂が愚痴りながらキューポラの覗き窓の向こうには、巨大な戦車が砲をこちらに向けていた。

 

 

 マウスに匹敵する巨大な車体を持ち、曲面した車体側面を持ち、主砲身はマウスより短いが、その口径はマウスを上回る。

 

 

「・・・・・・『E-100』」

 

 ボソッと、高峯はその戦車の名を口にする。

 

 四式と三式、九七式は一斉に主砲を放つも、E-100の強固な装甲の前に火花を散らして弾かれる。

 

「くそぉ!ここまで来て!」

 

 青嶋は愚痴りながらも引き金を引き、四式の主砲から砲弾が放たれるも、火花を散らして弾かれる。

 

「だが、こいつをHS地点に向かわせるわけにはいかねぇ!特攻してでも足止めするぞ!」

 

「了解!」

 

 

 

「くぅ!これは色々とまずいデスネー!」

 

 直後にE-100が砲弾を放ち、九七式の横のコンクリートブロックに着弾して破片を吹き飛ばし、九七式に襲い掛かる。

 

『タカ!アリクイ!こうなったらこのデカブツをこのまま足止めだ!あいつの足を壊せ!』

 

「あ、足を壊せたって・・・・」

 

「でも、やるしかありません!」

 

 榛名は榴弾を薬室へ装填する。

 

「せめて、履帯だけでも!」

 

 霧島はE-100の履帯に狙いを定めて引き金を引き、砲弾を放ってE-100の履帯に着弾して爆発する。

 しかし履帯はびくともしない。

 

「硬いデース・・・・」

 

 金剛は息を呑む。

 

『広いところにこいつを誘き出す!付いて来い!』

 

 と、四式は砲弾を放ちつつ後退する。

 

「四式に付いて行ってクダサイ!」

 

「はい!」

 

 比叡はギアを入れ替えてアクセルを踏み、九七式を後退させる。

 

 それに続いて三式も後退する。

 

 直後に四式の砲塔側面に取り付けた発煙弾発射機より煙幕弾を放ち、煙幕を張る。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 パンターⅡは逃げた十二糎砲戦車を探していた。

 

「やつは近くに居るはずだ。確実に仕留めるぞ」

 

「ですが、かえってこちらが返り討ちになる可能性が・・・・」

 

「心配は無い。やつにはもう手も足も出す手段は無い」

 

「え?」

 

 パンターⅡの言葉に、装填手は首を傾げる。

 

「やつの弾薬庫はさっきのリヤカーだ。それを潰した上で、やつはミスショットをした。つまり、もうやつには持ち弾は無い」

 

「な、なるほど」

 

「なぁに。さっきのお返しだ。じわじわ攻めた上で、叩いてやる」

 

 くくく、と車長は静かに笑う。

 

 

 

 しかしその直後に、左の丘から何かが勢いよく下ってきた。

 

「っ!」

 

 それは探していた十二糎砲戦車であった。

 

「敵接近中!」

 

「うろたえるな!やつには弾は残ってない!落ち着いて狙え!」

 

 車長の指示で、車体をゆっくり旋回しつつ砲塔も一緒に旋回し、狙いを定めると砲弾を放つ。

 

 十二糎砲戦車は右へと旋回して砲弾をかわすと、砲塔をパンターⅡに向け、砲塔側面にある発煙弾発射機より煙幕弾を放ってパンターⅡの上で破裂して煙幕が降り注ぐ。

 

「ちぃ!無駄な抵抗を!」

 

 パンターⅡはすぐに煙幕から出て追いかけるが、砲塔後部の扉が開いて篠原が出てくると、発煙筒をパンターⅡへ放り投げる。

 発煙筒は勢いよくパンターⅡの砲塔前面にぶつかるとそのまま真下に落ち、煙を放つ。

 

「っ!発煙筒の煙で視界が!」

 

「構うものか!後退しつつ機銃で位置を探れ!」

 

 パンターⅡは後退しながら右へ車体と砲塔を旋回しながら車体正面の機銃を放つ。

 

 直後に砲弾が放たれるが、十二糎砲戦車とは別方向に飛んでいく。

 

 

 その間にも篠原は自らの能力を発揮して放り投げる発煙筒を次々と正確にパンターⅡの車体上部に落としていく。

 

(時間を稼がなければ・・・・)

 

 砲弾は今手元に無いが、砲弾が無くなったと言う訳ではない。

 

 一旦隠れた際、赤城を戦車から下ろし、破壊されたリヤカーへと向かわせて、砲弾を持ってくるように言っていた。

 煙幕を張り続けているのは、それを悟られない為である。

 

(赤城・・・・間に合ってくれよ)

 

 息を呑みながらも、発煙筒の先端を捻って放り投げ、パンターⅡの車体上部に落とす。

 

 

 直後にパンターⅡから放たれた砲弾が十二糎砲戦車の至近に着弾し、その衝撃で車体が揺れて篠原は倒れそうになるも、車内に戻りつつ耐える。

 

「くぅっ!」

 

 原田はギアを入れ替えてアクセルを踏み、全速で後退する。

 

 するとパンターⅡが前進したところで、パンターⅡの砲身と十二糎砲戦車の砲塔後部が衝突し、強引に突破する。

 

 パンターⅡはすぐに砲弾を放つが、十二糎砲戦車とは違う方向に砲弾は飛んで行った、

 

 

「っ!」

 

 すると、パンターⅡの後方より、重い十二糎砲の砲弾を抱えた赤城が走ってきていた。

 

「赤城が来た!原田!」

 

「はい!」

 

 原田はすぐに赤城へと方向転換しつつ、篠原が発煙筒を三本同時に放り投げてパンターⅡの周囲に落として視界を徹底的に奪う。

 

 

「くそっ!しつこいやつだ!」

 

 全く視界が取れない状況に車長は苛立ちを込み上げる。

 

 直後にパンターⅡの砲塔に何かがぶつかり、パンターⅡはすぐにその方向に車体と砲塔を旋回して砲弾を放つ。

 

 履帯が壊れない程度に全速で走り出し、十二糎砲戦車を追いかける。

 

「!見つけたぁっ!」

 

 ちょうど煙幕が晴れ、十二糎砲戦車の姿を確認する。

 

「随分と手こずらせてくれたわね」

 

 指の骨をポキポキと鳴らし、車長は口角を上げる。

 

 パンターⅡはすぐに十二糎砲戦車へと向かっていく。

 

 すると向こうも動き出し、パンターⅡへと向かっていく。

 

「っ!敵戦車が突っ込んできます!」

 

「万策尽きて特攻か。だが、無駄な事だ」

 

 と、装填手が砲弾を装填すると、操縦手がパンターⅡを停車させ、砲手が十二糎砲戦車に狙いを定める。

 

「照準良し!」

 

「まだだ。ギリギリまで引き付けろ」

 

 車長はキューポラの覗き窓を覗き、タイミングを見計らう。

 

 

「・・・・撃て!」

 

 車長の指示と同時に砲手が引き金を引き、パンターⅡの主砲から砲弾が放たれる。

 

 

 

「っ!」

 

 原田はとっさに左のレバーを倒して左へ曲がり、砲弾の軌道は右にズレて砲塔右側面を抉って擦れる。

 

 その間にパンターⅡの目の前でブレーキを踏み、数十センチの距離まで接近して停車しつつ砲をパンターⅡに向ける。

 

「はっ!砲を向けたところで、弾が無いのに何が出来る!」

 

  

 と、直後に彼女が目にしたのは、十二糎砲戦車の砲から放たれる閃光だった。

 

 

 放たれた砲弾はパンターⅡの正面砲塔基部に着弾し、白旗が揚がる。

 

「・・・・・・え?」

 

 車長は何が起きたのか、理解する前に衝撃が車内に襲い掛かった。

 

 

 

「もうこちらには弾が無いと高を括ったのが、最大に失敗だったな」

 

「だね」

 

「慢心、ダメ、ゼッタイ」

 

 深くゆっくり息を吐き、篠原は背もたれにもたれかかる。

 

「だが、まだ我々にはやる事がある。急いで使える砲弾を回収する。最後までメンバーを援護する!」

 

「はい!」

 

 十二糎砲戦車はすぐに破壊されたリヤカーへと向かっていく。

 

 

 

 

 


 
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