No.74364

真・恋姫無双~魏・外史伝~4

第二章・後編、完全版が出来ました。急いで、投稿したので誤字脱字あるかもしれません・・・。未完成版を読んだ人も、もう一度見直して頂ければ幸いです。追伸:来週の土曜日(5/30)に学校の試験があるため、来週は投稿が遅れると思います。ご了承下さい。

2009-05-18 22:33:38 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:12956   閲覧ユーザー数:10481

第弐章~擦れ違う運命・後編~

 

 

  

  「そっか、華琳達も蜀に来るのか。」

  「そうなのです~。」

  風が乗っていた馬に乗せてもらい、その代りに俺が馬の手綱を持って、馬を操る。久しぶりの

 乗馬に緊張したが、幸い馬が大人しく、素直だったので、問題無かった。ちなみに風は俺の目の

 前にちょこんと乗っている。二人の話だと、俺がいなくなった後、魏・蜀・呉は年に1回、互いに国

 の繁栄のため、技術・知識を提供し合いつつ、親睦を深める意味も含めた立食「パーティー」が催し

 ているらしい。今年は、蜀の劉備さんが主催で、華琳や孫策さん達が蜀の成都に来るそうだ。

 で、風と稟は、華琳の命で蜀へ先行して、華琳達を迎え入れるための下準備をするべく、道案内兼

 護衛役の趙雲と途中で合流し、成都に向かっていた。そこで俺が賊に絡まれているのを見かけたの

 だそうだ。

  (あの時も、華琳より先にこの3人に最初に会って今回もそうなのだから、ある意味、華琳以上の

  縁で結ばれているのかもな。俺達は・・・。)

  「?どうかしましたか?」

  「ああ、また助けられたなって思ってさ。趙雲さんには本当、感謝してもしきれないくらいです。」

  「ふぅむ、北郷殿がそう仰るのでしたら成都に着いた暁には・・・。」

  「俺に出来る範囲内であればいくらでもお相手しますが・・・。」

  「むむむ・・・、お兄さんが言うととても厭らしく聞こえますね~。」

  「・・・・・・。」

  今までの俺なら、そこで突っ込む所だが、さらにややこしくなるのを経験上分かっているので下手に

 発言しないように心がける。

  「ハハハハ、成程成程・・・風は北郷殿と私が仲良くするのが面白くないようですな?」

  「風は、稟ちゃんの様な変態さんでは無いのですよ。」

  「ちょっと風!それは私が変態だと、そう言っているのですか?!」

  顔を赤くして、風にツッコミを入れる稟。そしてそれを楽しそうに見る趙雲さん。やっぱり仲が良いな、

  この3人。

  「まぁ・・・、先ほどの賊。自分が出しゃばらずとも北郷殿だけで事足りていたようで、余計な事

  をしたと思っているのですがな・・・。」

  「余計な事だなんて・・・、そんな事ありませんよ。」

  俺は強く否定する。

  「おやおや、随分と謙虚な御方ですな。初対面の人間を真名で呼んだ世間知らずの貴族の御子息と同一

  とは、信じられませんなぁ・・・。」

  「ぐ・・・。」

  さりげなく、俺が過去に負った心の傷を抉る趙雲さん。真名の習慣を知らなかったとは言え、

 今思い出しても、自分でも情けなくなる話である。

  「星ちゃん、あまりお兄さんをイジめてあげないで下さい。こう見えて、意外に繊細なのですよ~。」

  風がフォローに入ってくれる。

  「おっとこれは失礼。これ以上からかうと、北郷殿の前に風を怒らせかねませんな。」

  そう言って笑って誤魔化し、馬を少し先へと進ませる趙雲さん。

  しかし、あの人も不思議な人だな。華琳とは違った意味で恐ろしい・・・。

  「お兄さん?」

  そう言って俺の腕の裾を引っ張る。もしかしてやきもち妬いているのかな・・・、

 それを聞くのは野暮だろうから・・・。

  「悪かったよ、風。」

  「?」

  「久し振りに会ったのだから、もっといろいろ話を聞かせてよ。」

  そう言いながら、風の頭を軽く撫でる。

  「あ・・・。」

  少しこそばゆいのか、頬を赤らめる。

  「もちろん、君もね。稟」

  少し後ろを行く稟に呼びかけ、馬を速度を調節して、稟の横に並ぶ。

  「え・・・、一刀殿。」

  「というか、稟。お前、眼鏡はどうしたんだ?向こうに忘れてきたのか?」

  今まで気になっていたので、ツッコミを入れる。まあ、伊達眼鏡ってわけじゃないのだから

 忘れるという事は無いのだろうが・・・。

  「・・・やはり、変ですか?」

  「はぁ・・・?」

  何が変なのだろうか、眼鏡無しもそれはそれでありだと思うけど?

  「実は今、『こんたくとれんず』をしているんです。」

  「コンタクト・・・レンズ?!あの、度の入った膜状のもの目に入れる・・・

  あのコンタクトレンズか?」

  「はい、真桜が開発したものでして、その実用試験を兼ねて私が使用しているんですが・・・。」

  「一年の歳月をかけてついに完成させた自信作らしいゼ。」

  「おおーーホウケイ、ただいるだけの存在では無かったんだな。」

  「はぁ・・・、お兄さんと会ってすっかり忘れていました。」

  「そういうのは自分で言わない。」

  確かに、真桜にコンタクトレンズの話をした事があった気がするな。

  「使い心地はどうなの?」

  「そうですね、目に入れるのには少し抵抗がありましたが、使ってみると、着けている感が

  ありませんし視界も良好で、悪くはないです。眼鏡をかけていないのに眼鏡をかけた時と

  変わらないのは少し不思議な感じがしますが。」

  「そうなのかぁ・・・。」

  あいつ、とうとうそこまでの技術を身に付けてしまったのか。真桜、なんて恐ろしい子!

  「でも、コンタクトにした方の稟はそれはそれで有りだと思うよ。」

  「ほ、本当ですか・・・!?」

  「そりゃもちろん。な、風、ホウケイ!」

  「はい~、全くお兄さんの言うとおりですよ~♪稟ちゃんは元が良いんですからもっと自信を

  持つべきです。」

  「それであと鼻血癖が無ければ良いんだがナ♪」

  「うぅ・・・。」

  「こら、ホウケイ!本当の事でも今はそれを言う所じゃないですよ!」

  「それ、フォローになっているのか・・・?」

  その後も、3人(+α)でこの空白の2年間を埋め合わせるかのようにお互いの事を話した。

 俺が消えた後、皆はどうしていたのか?元の世界に戻った俺がそこで何をしたのか?そんなこんなと

 話しても、話題が途切れる事は無かった・・・。

  

  それから2日後、俺達はようやく成都に到着した。2年前よりも人が増え、町も大きくなっている。

 店の軒先には、真桜が作ったと思われるカラクリが見受けられた。城の方に向かう途中で、趙雲さん

 がとある店の主人から小柄な壺を受け取っていたが、何が入っていたのだろう?後で聞いてみよう。

 城の近くまで来ると、俺達に気づいたのか大きく手を振る人がいるのが分かった。

  「星ちゃ~ん、お帰り~。道中何もなかった?」

  「ただ今戻りましたぞ、桃香様。その事なのですが、実は面白いモノを拾ってきましたよ。曹操殿に

  贈る品としては申し分ないかと。」

  俺は物ですか、趙雲さん。それはないっすよ~・・・。そんな心情など知らない彼女は、俺を劉備さん

 の前に連れて来る。

  「どうも・・・。」

  「あれ、あなたは確か・・・。」

  「俺の事覚えているの・・・?」

  彼女と直接会ったのは、董卓連合の時と、三国連合結成時の祝いの時ぐらいしかなかったが・・・。

  「ええ・・・と」

  「でしたっけ?」

  「北郷ね!北・郷・一・刀!!お寺じゃないから!!」

  前にもやったぞ、このベッタベタなやりとり!?

  「あはは、やっぱり北郷さんだ~~♪」

  そう言って、劉備さんは舌を出して笑っている。これはこれでちょっと可愛いかも・・・。

  「お兄さん・・・。」

  「一刀殿・・・。」

  そう思っていると、二人に呆れた顔で見られる。顔に出ていたのか?

  「北郷殿は隠し事は得意では無いようですな?」

  「ほっといてください!!」

  

  ・・・この時の俺は、まだ知る由もなかった。

 この後に、俺が背負う『逃れようのない運命』が待っている事を・・・。

 

  それから1週間後・・・、予定通りならば、今日の夕刻に華琳達が成都に到着する。もうすぐ会えるんだ。

 皆、きっと怒るだろうな?それとも泣いて喜んでくれる?それともすんなりと・・・。そんな事を考える

 一方、心のどこかで皆に会うのを躊躇っている俺がいる・・・。劉備さんから「自由に使って下さいね」、

 と案内された来客用の部屋の寝台の上で、腕を枕に横になっていた。もう昼は過ぎていたが、何故か食欲が

 湧かなかった。何することもなく、左手を天井向けて掲げていた・・・、そんな時だった。

  

  「あのぅ・・・、北郷様。いらっしゃいますか?」

  おどおどした小声が扉の外から聞こえてきた。

  「あ、ちょっと待ってて・・・。」

  そういって、寝台から降りて扉に向かう。

  「今、開けるよ。」

  ゆっくりと扉を開くと、そこに今でいうメイド服を着た小さな女の子が立っていた。そして、その子の

 手には、芋の煮っ転がしのような食べ物が添えられた皿があった。

  「あ、あの・・・、北郷様。まだお昼食をとられていませんでしたよね?もしよければ、余り物で作った

  のですけどお召し上がりになって下さい。」

  そう言って、皿を俺に差し出す。わざわざ俺のために作ってくれたのか・・・。なら、断るわけには

 いかないよな。

  「ありがとう、月ちゃん。俺なんかのために変な気を回させちゃって。」

  「へぅ・・・、そんな。」

  月ちゃんの頬が赤くなる。

  「そういえば、今日は1人かい?詠ちゃんだったけ・・・、あの子。」

  普段、二人一緒にいるので、少し気になったため、聞いてみた。

  「詠ちゃんですか?今、恋さん達と一緒に街に買い出しに行ってますが・・・。」

  恋とは、呂布の事だろう。城の中で、よく動物たちとじゃれ合っているのを見かけるけど・・・。

  「そっか、ゴメンね。忙しいのに時間をとらせちゃって。」

  「へぅ・・・、そんな事は・・・。あ、食べおわりましたら扉の側に置いておいて下さい。では、

  失礼します!」

  そう言い終えると、逃げる様に向こうへと走って行ってしまった。・・・食欲はないけど、仕方がない。

 芋を口に含む・・・。お?出汁が芋にしっかり染み込んでて、軟らかさも丁度いい。ぱくぱくと食べていく。

  月ちゃんと詠ちゃん・・・、反董卓連合の時、洛陽で俺が保護した少女達だ。あの時は、劉備さんの所に

 引き渡したため、その後どうなったか分からなかったけど、話に聞くと劉備さんの所で侍女として働いていた

 らしい。今回、俺の世話役を担当してもらっているのが、後で劉備さんから聞いた話では、俺の世話を買って

 出てくれたそうだ。あの時の恩返しのつもりなのだろうか?月ちゃんは、さっきの感じ通りのおっとりとした

 いい子で、何かと世話を焼いてくれる。詠ちゃんは、月ちゃんと全く正反対の性格でいわゆる・・・

 「ツンツンツン子」だ。あの子も俺の世話役なのだが、どうも良く思われていないのか。月ちゃんと仲良く

 していると、彼女を俺から遠ざけようとする。でも彼女の言う事には極端に素直。月ちゃん曰く、「詠ちゃん

 も、あの時の事は本当に感謝しているんですよ。だから、世話係も自分から進んでなったんですよ。」

 もちろん、当の本人は完全否定したが、その噛み噛みな喋り方に、思わず笑ってしまった・・・。まあ、

 その時の詳しい話は、また別の機会という事で。

  

  皿の料理も空っぽになり、また暇になる・・・。今日は風と稟は共に、華琳達を迎える準備で大忙し・・・。

 どうしたものか・・・。まぁ、部屋にいても仕方がないので、少し外を見て歩こう。

 そう思って、窓の外を見ていると、

  「ん、あれは・・・?」

  見覚えのある2人の少女に、窓越しに声をかける。

  「2人とも、そんな大きな籠を背負って何処にいくの?」

  「あ、北郷の兄ちゃん!!鈴々達はねぇ、これから山に山菜を採りに行くのだ!」

  「山菜採り?」

  「はい、今日の食事会に山菜料理を出そうかと思いまして。今の時期、山に行けばたっくさんの

  山菜が採れるんです!」

  張飛ちゃんの説明に、補足を加える諸葛亮ちゃん。そんな2人が少し微笑ましくなる。

  「あ・・・。」

  今一瞬、そんな2人の姿が・・・季衣と流琉の姿が被る。

  「どうしのだ?」

  「う、ううん・・・何でもないよ。」

  「ふう~ん・・・。」

  その大きな瞳は、俺の表情を捉える。まるで俺の心を透かすかのように。

  「そ、そうだ!張飛ちゃん、俺も・・・俺も山菜取りに付いて行っていいかな?!」

  誤魔化すように、慌てて話題を変える。

  「んにゃ、もちろんなのだ!!なっ、朱里?」

  「はい、もちろんです!」

  「よし、じゃあちょっと待ってて。すぐ支度するから。」

  そう言って、大急ぎで服を着替える。曹孟徳が成都に到着する三刻前の出来事であった。

 

  成都の裏に位置する山。俺と張飛ちゃん、諸葛亮ちゃんは山菜採りに坂道を登っていく。

 坂道に関係なく、張飛ちゃんはどんどん先へと上っていく。元気だな~。

  「あの~、北郷さん。」

  「ん、何?」

  張飛ちゃんの元気な姿に和んでいると、諸葛亮ちゃんが呼びかけて来た。

  「どうして・・・、私達に付いて行く気になったんですか?」

  「え・・・?」

  「あ、いえ・・・、北郷さん一緒に行きたくないって意味じゃなくてですね!

  ええ・・と、今日は華琳さん達が来る日じゃないですか?」

  「・・・そう、だね。」

  「予定ではあと数刻で到着します。なら、北郷さんは城で華琳さん達を

  待っていた方が良かったのでないのかなって思うんです。北郷さん、もしかして

  華琳さんに会うのが怖いんですか?」

  「ッ!!!」

  さすが伏龍・諸葛孔明・・・、核心を抉る一言に言葉を失う。

  「にゃあ、北郷の兄ちゃんは曹操のお姉ちゃんに会いたくないのか?」

  「いや、そんな事は・・・。」

  張飛ちゃんのその大きな瞳に、再び捉えられる。もう隠しきれない・・・か。素直に、口が開く。

  「会いたい・・・、すごく会いたい、皆に。でも、心の何処かで会うのを躊躇っている自分が

  いるんだ。」

  「なんでためらっちゃうのだ?」

  「・・・もう、2年も経つんだ。何も言わないで、勝手に居なくなってから2年が経つんだ。

  今さら・・・、どんな顔して会えばいいのか、分からないんだ?」

  思わず、言ってしまった・・・。こんな事、言った所で、どうにかなる事でもない、そう思っていると。

  「こんな顔、なのだ♪」

  「・・・・・・。」

  言葉を失う・・・。一瞬、だが長い間が生まれる。

  「ぷっ・・・。」

  その間を切ったのは、

  「ははははははははははっ・・・・・!!!」

  俺の笑い声だった。

  「そうですよ、鈴々ちゃんの言うとおりですよ、北郷さん♪理由は何であれ、笑って会いにいけば

  いいんですよ。」

  「そうなのだ!そうなのだ!」

  2人に言われて、自分が悩みが大した事じゃなかったのにやっと気付く。少し落ち着いて、息を整える。

  「ありがとう、張飛ちゃん、諸葛亮ちゃん。」

  「「えへへへ・・・。」」

  2人は顔は、ちょっと照れくさそうだった・・・。

 

  「おーーい、張飛ちゃーーーん!!!」

  あれから数刻・・・、山菜採りに夢中になってしまっていたのか?

  「諸葛亮ちゃーーーーーん!!!!」

  いつの間にか、俺は一人・・・森の中で迷子なってしまった・・・。

  2人の名前を呼ぶが、返ってくるのは、木霊のみだった・・・。このままじゃ山を下りられない。

 でも、変だ・・・。2人と、はぐれないように注意していたんだけどなぁ・・・。

  「参ったな。せめて、この森から出られたらな・・・、ん?」

  そう言っていると、周りは大分開け、前方に光が見える。

  「やっと森から出られそうだな。」

  そう思い、その光へと進む。だが、そこに道は無かった。

  「うわわわっ!?」

  前に出した右足を辛うじて左足より後ろに戻す。目の前に崖が広がっていた・・・。そういえば、

 諸葛亮ちゃんが言っていたな、この辺りは崖や谷間があるから気を付けろみたいな事を・・・。

 おそらくこれだろう。恐る恐る崖の下、谷間を覗いてみる。底が見えず、暗闇に覆われている。

 川が流れているかどうかなんて全く分からないぞ・・・。

  「うう・・・、怖い怖い。こんな所からは落ちたくないな。」

  「だが、貴様はそこから落ちる事になる。」

  意外な返答に驚いた俺はその声がした方向に体を向ける。そこには何処かの宗教の信者が着てそうな

  白装束を身に纏った1人の少年が立っていた。

  「だ、誰だ、お前は?!」

  「北郷一刀、お前を・・・曹操に合わせるわけにはいかない。ここで死ね!!」

  俺の質問に答えず、いきなり死ねって・・・唐突すぎだろう。そんな事を考えていると、少年は俺に

 蹴りを放ってきた。

  「うわッ!?」

  何とかそれをかわして、崖の方から離れ、すぐさま態勢を整える。

  「ちょ、いきなり何するんだ!落ちたらどうする?!」

  「元からそのつもりだ。はあっ!!!」

  「くッ!」

  ブンッ、ブンッ!!廻し蹴りを連続で浴びせられる。その速さは凪と同等か、それ以上か?それでも

 かろうじて致命傷を貰わない程度に受け流す。

  「答えろ、一体どうしてこんな事をする!?」

  「それが貴様の運命だから!!」

  「そんな運命知るかって!」

  いまいちかみ合わない会話を挟みながらも、少年の攻撃をいなしていく・・・。そして、タイミングを

 計る。彼が蹴りを放ち、態勢が崩れた所に、カウンター気味の一撃を加えるが、彼はそれを難なく回避する。

  「くそ、手こずらせやがって!!」

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・。」

  息が上がる・・・。このままではこちらが先に倒れてしまう。張飛ちゃん達が助けに来てくれる気配

 はない・・・。ならば、せめて竹刀か木刀・・・いや、木の棒だってこの際構わない。

  「小手調べはここで終わりだ。誰かが来る前に片を付ける。」

  「???」

  彼は、両足を広げ、身を少しかがめる。

  「はああぁぁぁ・・・・っ!!!!」

  「ッ?!」

  ブワアァーーッ!!!彼を中心に突風が起こる。その突風は俺にも当たる。飛ばされないように、体重を

 地面を伝わらせるよう、重心を落とす。だが、その行動がまずかったと後悔する。

  「フンッ!」

  「しまっ・・・!」

  俺の目の前に構えた状態の彼がいた。急いで、かわそうとするが先に拳が俺の溝内に叩き込まれる。

 意識が飛びそうになった。そのまま崩れ落ちる。が彼はそれを許さず、右横腹に左廻し蹴りを叩き込まれる。

  「グハぁ・・・!」

  激痛で言葉にならず、その一撃に吹き飛ばされる。吹き飛ばされた方向にはすでに、彼はいて蹴りを叩き込む

 構えが出来ていた。

  「はあぁっ!!!」

  ダゴォンッ!!!綺麗に決まった直蹴りでさらに吹き飛ばされる。

 俺は、何とか受け身を取ろうと態勢を変え、地面との激突に備えた。だが・・・。

 

 

  そこに地面は無かった。そのまま地面より下に落ちていく。谷間に落ちてしまったのだ。俺は崖の方に目

 

 をやるとそこにいるのは、自分を谷に突き落とした少年・・・。ただ無表情に、俺を見続けていた。

  

  「うおおあああああああぁぁぁぁーーーーー・・・・・!!!」

  

  悲鳴に近い叫び。俺はなす術もなく暗闇へと落ちていく。

 

  ようやく帰ってこれたのに・・・!やっと皆に会えるのに・・・!会う覚悟が出来たのに・・・!

  

  「華琳ーーーーーーーーーーー・・・・・!!!!」

  

  愛しき女性(ひと)の名を呼ぶが、それに答える者はおらず、谷間の奥底の闇に虚しく響くだけであった。

  

  「落ちていけ、それが貴様の背負う運命なのだ。北郷一刀。」

  少年は、そう言い終えると、姿を消した。

 

  「北郷のにいちゃーーーん・・・!!!」

  「北郷さーーーーん・・・!!」

  二人の少女は、少年の名を呼ぶ。もうじき日が沈む、夕刻の森の中・・・。その呼びかけに答える

 少年はすでにここにおらず、ただ木霊のみが返ってくるだけであった・・・。曹孟徳が成都に

 到着する半刻前の出来事であった。


 
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