第52話 第二幕、開戦
アスナSide
――ぐおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!
〈
その姿はドラゴンのようであり、それでいて魚にも見える。
頭はドラゴンと同じ大きな口と鋭い牙を持ち、眼光もまた鋭さを放っている。
体は“竜”というよりかは日本の“龍”のようで、だけどそれらドラゴンという種族とは違い、
前脚も後脚も無い代わりに翼のような形をした鰭が左右に2枚あって、強いて言うなら海蛇と言ってもいいかもしれない。
首の付け根から尻尾に向けて背鰭が付いていて、特に尻尾の尾鰭は刃物のように鋭い光を放っている。
体の大きさは広間を埋め尽くすほどで、その体によって広間に居た全てのMobが潰されてしまい、一瞬で敵が全滅した。
「……HPゲージが9本、ボスの中でも最高クラスというわけか。ならば、雑魚程度は全て一撃で仕留められるか」
「というか、私達よく無事で済んでるわね…」
ハジメ君が感心したように言う一方で、シノのんが呆れと驚きを含みながら呟いた。
確かに、私達の居るところだけは隙間が出来ているから大丈夫なんだよね。
「でっかい龍?蛇?だね、クー君!」
「お前はビックリできればなんでもいいのか?そうなのか?」
リンクちゃんはホントにマイペースだけど、クーハ君は慣れたような見事なツッコミだね。
「リーファ、このでかい生物に関して知ってることはあるっすか?」
「えっと、『
ゲームとかだとドラゴンの姿が多かったはずだよ」
私も知ってるけど、大体がリーファちゃんと同じ程度のことだね。
「ユイちゃん。時間が空いている時で良いから、神話のバハムートとベヒモスについて調べておいてもらえる?」
「分かりました」
「それとバハムートは味方、で良さそうかな?」
「はい、それは大丈夫のはずです。
カーソルも味方の物ですし、システム的にバハムートさんはオーディン軍に設定されているようです」
「うん、ありがとう」
なら、これで一先ずは安心かな。でも、まだクエストクリアはされていないわね。
「妖精達よ、良くぞ余の目覚めを手助けてくれた。
巫女も己が役目を果たせたことを満足し、お主らに感謝の念を抱いていた。
巫女とお主らが居なければ、余の身も危うかった」
そこでバハムートの口が開いて声が聞こえてきた。澄んだ声色で若い男の人の声、青年と言っていいくらいの声の感じかな。
「いえ、私達は手伝えることをしただけですから…」
「謙遜することはない、この礼はここを出てからさせてもらう。
まずは卑しきクラーケンの眷属から葬り去ろう……お主らもこのまま連れて行くぞ」
バハムートがそう言うと私達を空気の膜のような物が纏めて覆って、ゆっくりと鰭で包み込むと…、
「では、行くぞ!」
一気に加速して泳ぎだした、やっぱりこうなるのね。
「「は、はやい~!?」」
「「「は~や~い~ぞ~!」」」
私とシノのんはかなりの速さのせいで空気の膜の中で座り込むけど、
リーファちゃんとリンクちゃんとユイちゃんは凄く楽しそうなんだよね。
一方で男の子達は平然としているけど、なんで大丈夫なんだろう?
「ねぇ、3人はなんで大丈夫なの…?」
「……葵さんの運転の方が鬼ちk……激しいからだ」
「葵さんの運転は鬼t……無茶ゲーっすから」
「母さんの運転が鬼……無理なせいで慣れた」
「あぁ、うん、納得した…」
そんなことをしている間、バハムートは
私達が来る時に使った水の膜の扉に入り込んだ。
そして、水の膜の扉を抜けた先は海底遺跡の外部、
以前クラーケンと戦った時に奴が居た場所に水の膜による円が出来ていて、そこから飛び出したみたい。
空気の膜に守られていた私達は鰭から降ろされて、バハムートはリヴァイアサンの結界の外へ出た。
「クラーケンの眷属共よ、海の藻屑となるべく散るがいい!」
バハムートの口に光が集束するとそのままレーザーのように放たれて、遺跡を取り囲んでいたMobを一斉に薙ぎ払った。
その一撃で敵の約4分の1が壊滅したんじゃないかな。
「バハムート様、御無事でしたか」
「ああ、妖精達と巫女の機転により事無きを得た。あの者らへの礼の前にまずはこの者共を片付けるぞ」
「承知した」
そんな会話のあと、バハムートは海中を泳ぎ回りながら敵を葬っていき、リヴァイアサンはその手に持つ三叉槍で薙ぎ払う。
さすがにこのまま見ているだけなのが申し訳なかったのか、それとも本人達が暴れ足りないのか、
男の子3人は結界を飛び出してMob掃除をしに行きました。あれだね、まるで小さな台風みたいだったよ。
バハムートとリヴァイアサン、そしてハジメ君とルナリオ君とクーハ君の活躍で遺跡の結界を覆っていたMobは全滅した。
クラーケンの眷属であるモンスター達が居なくなったからか張られていた結界は消えて、
リヴァイアサンが神殿とこの場所を繋いでいた水の門の上に降り立ち、
バハムートが遺跡を囲むようにしてから大きな頭をリヴァイアサンの隣に顔を寄せて来て、男の子達も私達のところに戻ってきた。
「妖精達よ、良くぞバハムート様を目覚めさせてくれた。礼を言うぞ」
「余からも改めて礼を言おう。感謝するぞ、妖精達。これはせめてもの礼だ、受け取るがいい」
『Congratulations!!』というクエストクリアのウインドウが表示され、
報酬として私達に結構な量の
ふぅ、取り敢えずはこれで一段落ってところかな。
「しばしの後、余とリヴァイアサンは神々と共にロキの軍勢に戦を仕掛ける。
お主らも戦が激化する前に戻った方が良い、トゥーレの島まで送り届けよう」
あ、この展開はもしかすると。
「わぁ、またクジラさんに乗せてもらえるんですね♪」
クラーケンの眷属であるMobと戦っていた白いクジラさんが再び私達の許にやってきた。
さすがに戦いの最中だけど、あの時の感動がまた味わえるのは嬉しいかな。
「さっきまではクエスト前の集中力で考えてなかったけど、私ちょっと楽しみかも…」
「……状況が状況でもあるが、忙しくなる前だから少しくらいは楽しんでもいいだろう」
「そうっすね、頑張ったのはボク達っすから」
「またよろしくね、クジラさん」
「行きは考えられなかったけど、いまはワクワクが止まらないよ!」
「ま、いまはそれに賛成だな」
みんなは口に出しながらクジラさんの背中に乗って行き、私とユイちゃんもその後に続いていく。
「それじゃあ、よろしくね」
「よろしくお願いします、クジラさん」
私達が背中に乗り終えるとクジラさんはゆっくりと動き出して、
バハムートとリヴァイアサンに見送られる形でトゥーレ島へと戻ることになりました。
クジラさんの背に乗せられて送られた私達は無事にトゥーレ島へと辿り着けて、翅を展開して飛行し、
レコン君達シルフ部隊が待つところへ戻ってきました。
「みなさん、お帰りなさい」
「クエストの方はどうでした?」
「ただいま、クエストの方は無事に終わったよ。
味方に2体のNPCが加わるから、クラーケンの方がなんとかなるかもしれないわ」
ルクスちゃんとレコン君に迎えの言葉を貰ってから今回の成果を簡単に伝えて、
2人だけでなく他の5人もその結果に喜んでくれた。
とはいえ、クエストが無事に終わったと言っても終わらせるのに30分近い時間を使ってしまったわね。
移動時間などを含めて、ここまでの時間で40分ほどが経ったから、もう少しでロキ軍の再侵攻が行われる。
それを考えると早いところイグシティに戻らないとね。
まずはレコン君達を送り届ける為にシルフ領へ戻り、
サクヤさんにお礼を言ってから用意してもらった『転移結晶』を使用してイグシティに帰還した。
「ユージーン将軍、ただいま戻りました」
「ああ、無事なようだな。成果は既にメッセージで聞いたが、さすがだな」
「いえ、みんなの力ですよ」
「ふっ、そうだな。それよりも、いまは武器の調整やアイテムの補充をした方が良い。2時まで僅かだぞ」
「はい、そうさせてもらいます」
本部の人達にこの場を任せておいて、私達はルナリオ君のお店へと向かって武器のメンテナンスをしてもらい、
アイテムの補充を済ませた。
そして、武器の調整とアイテムの補充を終えて作戦本部に戻った時、ついに時刻は午後2時を迎えた。
「キリト君、キミの言う第二幕が幕を開けるよ…」
私の呟きと共に《月光鏡》を通して各地から一斉に報告が上がってくる。
でも、そのほとんどの報告がキミの戦略だなんて、予想できるわけがないよ…。
アスナSide Out
No Side
――アルヴヘイム・アルン高原『北方階段』
アルン高原の北部にあるヨツンヘイムと繋がる階段。
そこを防衛……否、いまとなっては監視するべき箇所となっており、
上がってくるであろう敵に備えて防衛部隊は迎撃部隊に成り代わっていた。
その階段がいま、地鳴りを起こして揺れており、部隊の中に緊張が奔る。
そこで一度地鳴りは止み、直後に階段を封じていた扉が粉々に砕け散った。
「あのような狭き階段を破壊しながら進むのは中々に面倒だったが、これで心置きなく戦えるというものだな、ハティ!」
「我らは元より心置きなく戦っているではないか、スコル! だが、最早余力を残す必要もあるまい!」
〈
この2体によって階段は破壊され、ヨツンヘイムとアルヴヘイムはまた違う意味で繋がったと言える。
また、2体に続くように狼型のMobも出現し、世界樹へ向けて進軍を開始した。
その時、アースガルズへと続いていたはずの虹の橋『ビフレスト』が高原へと繋がった。
そして、そこから騎士の甲冑に身を包んだ戦士達や甲冑に身を包む翼を持つ美しい女性達が舞い降りて進軍を阻んだ。
「そこまでですよ、スコル、ハティ」
「ここから先、押し通りたくば我らを打ち倒してからにしてもらおうか」
彼らの行く手を阻んだのは太陽の女神〈
月の神〈
ソールは“早起き”の意を持つ『アールヴァク』という名の馬が引く馬車に乗り、
マーニは“快速”の意を持つ『アルスヴィズ』という名の馬が引く馬車に乗り、
プレイヤー達と共にロキの軍勢の前に立つ。
「いいだろう、ソールよ! いまこそ貴様を喰らい尽くしてくれよう!」
「やれるものならばやってみなさい!」
「マーニ、貴様を噛み砕くのが我の役目だ! 精々足掻くがいい!」
「貴様らの思い通りにさせると思うな!」
一触即発の雰囲気。太陽を喰らいし狼と月を喰らいし狼、太陽の女神と月の神、彼らの因縁はここで決着となる。
それを彩るのはプレイヤー達とNPCとMob、面子は様々と言えよう。例えば彼女達。
「ライさん、またスコルとハティですね」
「ウォンッ!」
「それを分かって私達は志願したんじゃない。頼りにしているわよ、リオちゃん、ハク」
先の北方階段戦でスコルとハティを相手に戦った彼女達はある程度の戦い方を承知しているため、
再び北方での部隊編成に志願してこの場にやってきた。
今度こそあの2体を倒すために。
だが、援軍は彼女達だけではない。
「『風魔忍軍』の
「ここで攻め手を緩めるわけにはいかないし、いっちょやる気を出すとするか」
「相手が相手ですから、押していきましょうよ」
全身を黒ずくめの忍者装束で包んだスプリガンの男、SAOからのギルドである『風魔忍軍』のリーダー、『コウシ』。
中華服に身を纏い、
そして、肩に掛かるほどに伸ばした黒髪に165cmほどの身長の男で種族がスプリガンの『クルト』。
さらにその他のロキ軍プレイヤー達。
彼らはロキ軍のプレイヤーとしてこの場に現れたのだ。
しかし、一体何処からこの場に辿り着いたのか、それはこの場に居る者達は解っていた。
だが、それを言及する必要もない。なぜなら、戦いの場にこれ以上の言葉が必要ないからだ。
オーディン軍とロキ軍が再び衝突を始める。
グランド・クエスト[神々の黄昏]
『侵攻側クエスト[太陽と月を追う者達]:スコルとハティと共にソールとマーニを討て』
『防衛側クエスト[駆ける太陽と月]:ソールとマーニに協力してスコルとハティを討て』
――アルヴヘイム・アルン高原『南方階段』
北方階段に続き、こちらでもボス2体を筆頭にMob達が続々と出現していた。
「階段を破壊しながら進むのも中々愉快だが、やはり戦いでなくてはな!」
「さて、我らの前に立ち塞がるのは誰か……まぁ、奴らだろう」
〈
ガルムが階段を破壊しながら進み、スィアチはそのあとに続いて部下達を率いてきた。
現れるMob達は邪神型と狼型とアンデッド型である。
そんな彼らの前にもビフレストが繋がり、オーディン軍が到着する。
「ふん、相も変わらず血に汚れた姿だな、ガルム」
「私の妻であるイズンを狙うのはやめていただきますよ、スィアチ」
右腕が無いものの左腕に剣を持つ勇敢な軍神〈
長い髭を蓄えたハープを持つ詩歌の神〈
この2柱の神々が甲冑の戦士であるエインフェリア達と戦乙女であるワルキューレ達を率いてきたのだ。
それに並ぶように迎えるのはプレイヤー達迎撃部隊とヨツンヘイムでガルムとスィアチを相手に戦った援軍部隊。
その中には当然というべきか、この2人の姿もある。
「先程はしてやられましたが、今度はやらせはしません!」
「ま、同感だよな。こっちもやられてばかりは性に合わねぇんだ」
ガルムを相手に戦った【烈火の戦姫】メラフィ、スィアチを相手に戦った【鮮血の鬼神】ロスト。
雪辱を晴らすべく、今度こそガルムとスィアチを止めるためにこの場に立った。
無論、この2人の前にも立ちはだかる者達が居る。
「いやはや、いいねいいね~。【烈火の戦姫】に【鮮血の鬼神】、それに神様が2柱、相手にとって不足はないさ」
「相手がなんであろうと関係無い。ただ、斬るだけだ」
右眼に眼帯を付け、フード付きのロングコートで身を覆うインプの男を『ゼウス』、
黒髪に赤い甲冑と陣羽織を纏うサラマンダーの男は『シラタキ』という。
2人の後方からは様々な種族のプレイヤー達が出てくる。こちらもまた、開戦の時である。
グランド・クエスト[神々の黄昏]
『侵攻側クエスト[戦禍の番犬]:ガルムと共にテュールを討て』
『侵攻側クエスト[黄金林檎の巨人]:スィアチに協力して黄金の林檎を奪え』
『防衛側クエスト[隻腕の軍神]:テュールと共にガルムを討て』
『防衛側クエスト[神門導く詩人]:ブラギと協力してスィアチを討て』
――アルヴヘイム・アルン高原『西方階段』
西方、こちらの階段の扉も破壊され、ロキ軍が姿を現した。
「焼き尽くしながら進んだが無事に着いたようだな」
「意味が少々違うような気もしますが、着いたというのは正しいですね」
〈
炎の
一方で彼らに相対するのはビフレストを渡り来たアース神族の同盟者達。
「この時をどれほど待ちわびたことか……スルト、キミと戦える時を私は心待ちにしていたよ」
「ええ、兄様。わたくし達はどれほどこの時を楽しみにしていたことでしょう」
眉目秀麗な容姿な男性、豊穣の神にしてアルヴヘイムの真の主〈
美しい女性は全ての美徳と悪徳を内包する北欧の女神にして太母〈
ヴァン神族が誇る最高神の双子の兄妹神である2柱がエインフェリアとワルキューレを率いてこの地に降り立った。
それだけではなく、フレイの傍には黄金の毛を持つ猪『グリンブルスティ』が居り、
“血にまみれた蹄”の意を持つ名が与えられている馬の『ブローズグホーヴィ』に跨っている。
フレイヤの傍にも猪が居り、こちらは“戦いの家猪”と“戦いの猪”の意を持つ『ヒルディスヴィーニ』という。
そして、プレイヤー達もその後方にて陣を取る。
「スルトもシンモラも今度こそぶちのめそうか」
「だな……と、簡単にはさせてもらえないみたいだぜ」
「ん?お、そうみたいだな」
ヨツンヘイムでスルトとシンモラを相手に戦ったトキトとタクミは、
相手方のプレイヤーに見知った姿を見つけて笑みを浮かべる。
それに気付いたのだろう、そのプレイヤーも笑みを浮かべる。
「おい、フカヒレ。あそこにトキトとタクミが居るぜ。いや~、運が良いなぁ俺達」
「だから今のオレはシャークだ!……って、いまだけはそんなことどうでもいいっての!
あの2人が相手とか絶対に無理!? いや、その前になんで神様の援軍が居て、しかもあんなに一杯いるんだよ!?
フレイヤさんは美人だから是非ともお友達になりたいけどさ、それ以外は無理! というかイケメンフレイは爆発しろ!」
「はいはい、じゃあお前は中衛か後衛に回って援護でもしてくれ」
「分かった」
「即答だな、おい…」
そんな風に話すのが青色を基調とした軍服を着たシルフの青年『レオ』と、
黄色の貴族服を着用している眼鏡を掛けた青年のフカヒレこと『シャーク』、
トキトとタクミの友人兼知人である。
「なんだか楽しそうね……でも、そういう場合じゃない気がするんだけどなぁ…」
緑よりの黄緑のロングヘアに蒼眼、身長が165cmほどのシルフの女性『セイン』だけは、状況を良く分かっているようだ。
とはいえ、彼女も最前線に配置される猛者、戦いの高揚くらいは感じ取っている。この地での戦も始まる…。
グランド・クエスト[神々の黄昏]
『侵攻側クエスト[炎滅の黒き者]:スルトと共にフレイを討て』
『侵攻側クエスト[炎殻の魔女]:シンモラと共にフレイヤを討て』
『防衛側クエスト[妖精の支配者]:フレイと共にスルトを討て』
『防衛側クエスト[自由を往く太母]:フレイヤに協力して彼女の目的を為せ』
――アルヴヘイム・アルン高原『東方階段』
こちらはいままでとは違い、地鳴りの後に扉が吹き飛ぶという生易しいものではなく、
扉を吹き飛ばしながらそのままブレス攻撃を行い、黒い竜が空へ飛び出てから黄金の竜が跳び出て、
東方の迎撃部隊が攻撃を受けたほどだ。
「世界樹の根など齧り飽きた、今度はそのまま喰らいついてみせるぞ!」
「我は世界樹に興味などない……ただ、奴らの思う通りにはさせる気はないがな」
〈
黒き竜と黄金の竜が扉を突破したことで、狼型とアンデッド型、邪神型のMob達がそれに続いて出現する。
それに対抗すべく、現れる者達もまた居るということだ。
「させると思うか、ニーズヘッグよ!」
「ファフニールよ、いまこの場で貴方を討ち取らせていただく!」
「シグルズ、私も貴方と共に戦います!」
世界樹より飛来した白き大鷲はニーズヘッグの天敵〈
白銀の甲冑に身を包み彼の魔剣を握る青年は英雄〈
シグルズに付き従う紅き甲冑に身を包んだ戦乙女〈
それに追随するのは他のエインフェリア達とヴァルキリー達であり、
オーディン軍のプレイヤー達も迎撃部隊として展開している。
「さっきやられた分はここでやり返さないとね、ヤタ」
「カァッ!」
「やられたらやり返す、いいじゃねぇか!」
ニーズヘッグを相手にしたファルケンとその相棒のヤタ、ファフニールを相手取ったガルム。
彼らもやられた借りを返す為にドラゴン達と戦うことを決めた。
だが、それに介入しようとするのがロキ軍のプレイヤー達である。
「レイナ、準備はいいか?」
「大丈夫ですよ、ガイ。ね、ファム?」
「キュクル~!」
スプリガンである黒髪の青年は『ガイ』、彼と共に在る黒髪の女性は『レイナ』、
彼女の隣で飛んでいる赤く小さな仔竜は〈フレイムリドラ〉の『ファム』。
各々が思いと願い、目的を以てして戦いが始まる。
グランド・クエスト[神々の黄昏]
『侵攻側クエスト[終末の黒き龍]:ニーズヘッグと共にフレースヴェルグを討て』
『侵攻側クエスト[黄金の抱擁]:ファフニールと共にシグルズとブリュンヒルデを迎撃せよ』
『侵攻側クエスト[終焉の火葬]:シグルズを討て』
『防衛側クエスト[死者喰らいの鷲]:フレースヴェルグと共にニーズヘッグを討て』
『防衛側クエスト[剣の英雄]:シグルズと協力してファフニールを討て』
――アルヴヘイム・ウンディーネ領
ウンディーネ領の近海にて留まっていたこの者も進軍を開始した。
「神々に従いし羽虫共めぇっ、これより叩き潰してくれようぞぉっ!」
〈
ついにウンディーネ領の三日月湾の入り口へと迫ってきた。
しかし、それを阻むように彼の前に三叉槍が投擲され、目の前で突き刺さった。
「それ以上の行いはやめてもらおうか、古き友……いや、深淵の王」
クラーケンの行く手を阻んだのは〈
さらに、彼に続くように海中より巨体が現れる。
「余らがこれ以上の暴挙を許すはずがなかろう」
アスナ達が目覚めを手伝った海龍〈
そのあまりにも長く大きな体、鰭を翼のように震わせることで宙を飛ぶ様はドラゴンと同じであり、
まさしく『海と空を統べる御子』に相応しい。
「ちぃっ、御子を覚醒させたかぁ…だが、儂らの怒りと憎しみを止められると思うなぁっ!」
「ならばよかろう、我が止めてみせるとも!」
「余は海からの敵を阻ませてもらうぞ!」
海の底を治める【深淵の王】、海を治める【海の王】、そして海と空を統べる【生物の皇帝】が一触即発の空気を散らす。
その様子にウンディーネ領の領主であるアリアは心強い援軍の到着にホッと一息吐いた。
「安心するのはまだ早いですぞ」
「ここは戦場だ、常に警戒してねぇとすぐにやられちまうぞ」
「っ、嘘……どうして、ロキ軍がここまで…!?」
だが、その安心も一瞬のことだった。
彼女の近くに現れたのはロキ軍のプレイヤー達、しかもかなりの数の部隊であり、その半数はウンディーネである。
「本当なら種明かしをする必要も無いのですが、もはや対策を打つことは手遅れだと判断するのですぞ。どうです?」
「まぁ構わないんじゃないのか? キリトも構わないって言ってたし」
「ということなので簡単に説明すると、三日月湾と海を繋ぐ海中の道を通ってきたのですぞ。
そちらに部隊が配置されていなかったのはキリト殿の予想通りだったようなのです」
「普通は何時間も海中に警戒用の部隊は置かないからな、当然っちゃ当然だけどな」
「なるほど、それはやられました……さすがはキリトさんというところですね…!」
アリアに語りながら笑みを浮かべる2人のウンディーネに、彼女は歯痒い思いをする。
油断していたわけではないが、相手にもウンディーネが居ることを忘れさせられていたのが仇となったのだ。
「では、そろそろミケ達も戦いますぞ」
「おう、ここを落とすのが俺達の任務だからな」
子供のように小さな体を持つウンディーネの少女を『ミケ』、
ロングコートとスーツが合わさったような服に身を包む青年のウンディーネを『トキヤ』。
そして、この2人が率いてきた部隊が、アリア率いるオーディン軍ウンディーネ部隊と戦闘を開始する。
グランド・クエスト[神々の黄昏]
『侵攻側クエスト[生命の頂点]:バハムートを討て』
『侵攻側クエスト[深淵の王者]:クラーケンと共にリヴァイアサンを討て』
『防衛側クエスト[大海の王者]:リヴァイアサンと協力してクラーケンを討て』
――アースガルズ・ミーミルの泉
突然のように彼らは現れた。
「さて、到着だ。ここからは別行動だけど、一応みんなの健闘を祈っているよ」
「ふっ、父上こそ。はしゃぎ過ぎないよう気を付けてもらわねば」
「父さんも、兄さんも、頑張ってね」
ロキ軍の総大将にして邪神と形容される美しき男神にして巨人〈
ヨツンヘイムで暴れ回ったロキの息子にして長男である〈
同じくロキの息子にして次男である世界蛇〈
この3体が邪神型Mob、狼型Mob、蛇型Mobと共に移動してきたのだ。
彼らの足元には円形の紋様が浮かんでいる、魔術と言えば解り易く、中にはルーン文字が刻まれているものもある。
一方、ヨルムンガンドに関しては別であり、
彼はミーミルの泉と繋がっているニブルヘイムにある泉『フヴェルゲルミル』を通ってきたのである。
「便利な転移魔法だが、これで後には退けなくなった……みんな、覚悟はいいな?」
そう告げるのはロキ軍の総参謀にしてもう1人の大将、キリトである。
「キリトさん。さっきも聞いたが、もう一度聞くってのは野暮ってものですよ」
「我々はキリト殿の御力になれることを喜びとしております! これほど嬉しいことはありませんよ!」
「御力になれるのであれば、壁にでもなりますしなんでも致す所存です!」
「「「「「「「「「「幾らでもご指示を!」」」」」」」」」」
キリトの問いかけに答えたのはSAO生還者の者達であり、SAO時代からキリトの活躍を知る者達。
サラマンダーの青年『リョウトウ』、ウンディーネの若者『コマンダー』、プーカの男性『サージ』、
そしてこの3人と同じギルドに所属するギルドメンバー達。
「オレは強者と戦う為に参戦しただけだが……
「構わないさ。アンタは俺の考えを理解してくれている分、指示を出さなくても理想の動きをしてくれる。頼むぞ、ベリル」
「OK、今回は坊やに乗ってやるよ」
ゴーグルに似た形状の仮面を付けるプーカの男は『ベリル』。
最強と言われるキリトに対してこの言い様、キリトを尊敬している上記の者達からしてもあまり好い気な物ではないかもしれない。
だが、彼の実力は本物であり、故にキリトも認めて手を組んだ。
キリトが決めた以上、ここに付いてきたプレイヤー達は反論しない。
「行くぞ……出陣だ!」
「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」
キリトの号令にプレイヤー達が応じ、各員が飛び立つ。
ロキは鷲に変身して大門に向かい、フェンリルは平原へ向けて駆け抜け、ヨルムンガンドも兄を追って大地を揺らし移動する。
グランド・クエスト[神々の黄昏]
『侵攻側クエスト[黄昏の邪神]:ロキと共にヘイムダルを討て』
『侵攻側クエスト[神殺しの狼]:フェンリルと共にオーディンを討て』
『侵攻側クエスト[世界蛇の猛毒]:ヨルムンガンドと共にトールを討て』
――アルヴヘイム・イグドラシルシティ『オーディン軍作戦本部』
「各領地より報告!海から無数の黒い船が押し寄せてきます! 『ナグルファル』と思われます!」
「配置している部隊での迎撃を行ってください!
ここからの戦い、指示は現場での判断が最優先とされます! 各員、奮闘してください!」
次々とくる報告をアスナは聞きながらも準備をしていた、自身も赴く為に。
そして、準備を終えるとその場で告げる。
「これより、私もアースガルズに出向いて【漆黒の覇王】を迎撃します。
ユージーン将軍、貴方の持つ『魔剣グラム』が東方階段側で必要になるはずです、貴方も向かってください」
「ああ、キミの情報通りならそうするしかない……みな、この場での動きも大変だと思うが、奮起してくれ!」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
アスナとユージーンの出撃に伴い、この場の指揮官は事実上居なくなるが、このような情報が錯綜している場合では最早必要無い。
ならば自分達はなるべく適切な判断をして必要な情報を送るべきだと、連絡員達は考えて気を引き締める。
アスナは作戦本部のテントを出て、アースガルズの主都である『ユーダリル』へ向けて転移結晶を使用した。
第二幕の開戦である。
No Side Out
To be continued……
あとがき
おそくなりましたが、なんとか今日も投稿に間に合いました・・・しかも長い・・・。
さて、みなさん読んでいただけた通りに今回で第二幕が開戦いたしました。
ロキ軍側のみなさんのアバターも活躍し、オーディン側のみなさんのアバターも再登場です。
ボスだらけのオリキャラだらけ、異常な光景かもしれませんが物語や戦いの方を楽しんでいただければ幸いです。
勿論、この話の中にもフラグ自体は色々立っていますので、どんなものか予想していてください。
それからロキ軍のみなさんのアバターの説明は簡易的なものになっていますが、
各戦闘回になる時に詳しい説明を書きますので安心してくださいね。
アニメ『ソードアート・オンライン』の最新話はユウキの登校&告白回でしたが、
林○閣っk・・・ではなく京子さんとの和解話でもありましたので最後の方は感動しました。
アニメの次回が第24話目であり、タイトルが『マザーズ・ロザリオ』ですから最終回かなとも思いましたが、
25話目まで続いたりするのでしょうかね~?
ともあれ、次回から各場所での戦闘になるのでお楽しみに!
それでは~・・・。
Tweet |
|
|
15
|
5
|
追加するフォルダを選択
第52話です。
ついに第2回目の戦いが始まります・・・今回はかなり長いです。
どうぞ・・・。