侍女「お帰りなさいませ、旦那様。呂布様も旦那様のお帰りをお待ちしております」
一刀「だから旦那は辞めて欲しいってのに……」
三羽烏や義勇兵を率いて桂花の屋敷に帰還した一刀は、帰宅する度に恒例となっている侍女一同による旦那様コールでの出迎えを受けていた。もちろんこれは桂花の母である荀緄からの指示であるが、その事を知らない三羽烏は衝撃を受けていた
凪「隊長…桂花様と夫婦になったんですか!?」
真桜「魏の種馬と肌馬の結婚、案外お似合いの組み合わせやな」
沙和「お祝いするのー!」
最も、真面目に衝撃を受けているのは凪だけで、真桜と沙和は一刀をからかいにきていた
一刀「だから違うって。あの男嫌いの桂花が俺を屋敷に連れて来たら・・・家の人達どう思う?」
小さい時から男は滅びべ、汚らわしい、存在してるだけで罪と言い放っていた男嫌いの桂花が一刀を家に連れて来たのだ。その時の反応は容易に想像出来た
凪「ありえないとは思いますが、家に連れて来たので思い人だと思います」
真桜「あかん、桂花の母親が泣いて喜んでる光景しか想像できん」
沙和「沙和もなんだか涙が出てきたの」
その時の母親の心境に感情移入したのか、真桜と沙和は目頭に涙が浮かんでいる。
凪は親に隊長を紹介……と小声で呟いた後に顔を真っ赤にして頭から湯気が出ていた・・・凪もなかなか妄想少女であった
恋「にぃに帰ってきた」
風「おぉ!?恋ちゃんの頭の触角が立ってるのですよ」
稟「触角って。あなた他にまともな表現あるでしょうに」
改めて侍女の案内を受けようとした時、廊下の向かい側から猛スピードで一刀に駆け寄る恋がやって来た。それに遅れる形で風と稟も姿を現した。風と稟はそれぞれの使いの役目を果たし、一刀より先に桂花の屋敷に帰還していたのだ
風「むむむ、お兄さんが風達に内緒で女の人を引っ掛けてきた匂いがするのです」
どんな匂いだ!とその場にいた全員から突っ込みが入るが、風は眠たそうに細めている目を更に細めて一刀に疑いの目線を向ける。そんな風の態度を見て、まさか本当に引っ掛けてきたのかと疑いの目が一刀に向けられる。
向けられている一刀は全く身に覚えがないのだが、悩んでいると一つの可能性に行き着いた
一刀「もしかして…風の言ってる女の子って凪達の事?」
まさかな~と答えた発言だが、どうやら正解らしく風はコクと首を縦に振った
稟「風…あなた凪達にまで嫉妬してどうするんですか。凪達にまで嫉妬していたらこれから先、身が持ちませんよ」
親友である風の嫉妬深さに呆れ半分の稟は嫉妬するだけ無駄と風に説く。天然ジゴロである一刀はこれから先も女の子を引っ掛けるに決まっている。ならば今のうちから慣れていた方が懸命だと風に伝え、風もそれに納得したようだ
一刀「風が落ち着いてくれたのはいいんだけど、なんか納得いかない…」
真桜「それは隊長の日頃の行いのせいやない?」
沙和「自業自得なの~♪」
傷心の一刀を慰める所か、楽しそうにトドメを刺しに来る真桜と沙和。これには一刀も黙ってられず
一刀「真桜と沙和にはカラクリとお洒落に金を使わせん。私財はすべて俺が管理する」
自分の生きがいとも言える趣味にお金をつぎ込む事の禁止を言い渡された二人の顔からは、この世の終りと言わんばかりに絶望に染まっていた。
今下手に介入すれば、自分にもとばっちりが来るかもしれない……そう恐れた風達は心の中で真桜と沙和に合掌を送っていた
凪「ところで風様、隊長の腕にくっ付いている人物はもしかして…」
絶望に打ちひしがれている親友を放置して、凪の興味は一刀の左腕にピッタリくっ付いている恋に向いていた
風「そういえば凪ちゃん達は初対面でしたか。あの子がかつて天下の飛将軍と謳われた、呂布奉先こと恋ちゃんです」
凪は恋の名前を聞いてやっぱりか…と思うと同時に、じゃれ合う一刀と恋を見て動揺が広がっていた
稟「凪?体が震えてますが、どうかしたんですか?」
凪「いえ、なんでもありません・・・」
凪はなんともないと言い張るが、落ち着き無くおろおろしている状況が続く
(真桜ちゃん、凪ちゃんがおろおろしてるの)
(あ~きっとあれやろ。隊長の傍に呂布がいて、自分の居場所がない犬の心境やないか?)
(つまり凪ちゃんは、隊長という飼い主を、取られちゃっておろおろしてるのお?)
いつの間にか復活していた真桜と沙和が冷静に凪の状態を観察し、その心境を見極めていた。
2人の言う事は当たっており、自分の居場所を失ったと思っているのだ
(隊長の傍に居続けた凪ちゃんと、新しく隊長の傍に居続ける呂布さん……面白くなってきたの!)
一刀「ん?凪どうかしたか?」
凪「な、ななんでもありません!」
外野が勝手に面白がり始めた頃、凪が大人しい事にようやく気が付いた一刀が凪に話しかけるも、気が動転して話しを続ける機会を自ら潰してしまった
(そこで引くなー凪ーー!)
(真桜ちゃん静かにするの!凪ちゃんの頑張りに期待するの!)
真桜も何かと世話焼きな面もあり、争奪戦を仕掛けようとしない凪に助言を言いに行こうとするが、ここは凪自身から傍に行かないといけない場面だと考えてる沙和が引き止める。両者の主張は違えど、凪の事を思う考えは共通していた
恋「にぃに...もっと撫でて?」
一刀「恋の頭を撫でるのも久しぶりだな。こうでいいかな?」
恋「ん...♪」
踏み出せないでいる凪を他所に、恋はして欲しい事を恥ずかしがらずに一刀に強請りに行く。
ここで凪と恋の違い、大胆さの差がはっきりと浮き彫りになる
凪「…………隊長」
沙和(凪ちゃんの周りがどんよりしてるの!)
風(さすが鈍感お兄さんですね)
真桜(なぁ…流石に凪の所に行ってもええか?可哀想に思えてきた)
凪からはドヨーンと擬音が聞こえてくる程、負の感情が流れて空気が淀んできている。
嫉妬深い風もこれには凪に同情するように一刀の鈍感ぷりを嘆いていた
負の感情を抑える為にも、凪に一刀との触れ合い満足してもらわないといけない。そう考えた風はボーと気を抜いている凪の背後に音を立てずに近づき、ドンと一刀と恋の居る方向に向かって押し出す
凪「わ、わっと」
一刀「おっと、凪転んだのか?気をつけないとだめだぞ?」
凪「は、はい・・・」
急な出来事だったにも関わらず、一刀は空いてたいた片腕で凪をがっちり抱きしめた。一刀は転んだと思っているが、無防備な状態だった凪を風が力を込めて押したため、抱きしめた一刀には少なからず衝撃があったはずだが、それをおくびにも出さず凪の心配を第一にした言動で凪の心を鷲掴みにしていた
恋「にぃに…凪は大事な人?」
一刀と凪が自分とはまた違う形で強く結ばれてる事を本能で察知した恋が一刀に問いかける
一刀「俺の部下で……長年会う事が出来なかった大切な子達だよ」
凪「大切・・・隊長が私のことを大切と・・・」
(凪のやつ…さりげなくうちら除外したな)
(真桜ちゃん、今日は見逃してあげるの)
凪は大切の言葉にジーンとしているが、さりげなく自分達を除外して喜んでいる凪に親友達は文句を言いつつも、
幸せに浸っている凪の邪魔をする気は一切ないようだ
恋「にぃに、恋も大切?」
一刀「当たり前だろ?恋は俺の家族じゃないか」
恋「………ポ」
凪「隊長!私も大切ですよね!?」
凪が一刀にとって大切な人ならば、自分はいらない子になるのかな?と不安を感じた恋が一刀に自分も大切かどうかを聞くが、一刀が即答で家族だから大切なのは当たり前っと返事を貰えて不安は杞憂で終ったのだが…
そんな恋に対抗意識を持った凪が今度は私はどうですか!?と詰め掛けた。
一刀はあれ、さっき言ったよね?と聞き返すが、何度でも聞きたいんです!と凪の勢いに押され、抱きしめていた力を強め、耳元で『凪も恋も…俺にとって大切な女の子だと』と呟く。
その言葉を向けられ恋と凪は破壊力に耐え切れず、完全にフリーズしてしまった
(お兄さん必殺の女落としが発動しましたね~一度刺されればいいのです)
(隊長は自分の放つ言葉の威力をもっと自覚するべきなの)
(純情の呂布と凪には耐えられへんかったみたいやな)
いきなり固まってしまった恋と凪をどうすればいいか解らず、オドオドし始めた一刀に一同からは自然と溜息が漏れていた
稟「…そろそろ本題に入りたいのですが、一刀殿よろしいですか?」
一刀「あ、あぁ。すまない、進めてくれ」
未だ固まっている凪と恋の事は気になるが、連合して動く事が決まっているため、自分達の行動の採択を早急に採る必要があった。一刀は稟に仕切り役を任せると、では…と緩んだ空気を一度仕切りなおして今後の展開を話し合いに進んだ
稟「私と風の交渉で、一刀殿が計画されていた曹操、袁術との連携の約束を取り付けました。一刀殿の方も劉備と盟を結べたと聞きましたので、これで我々、曹操、袁術、劉備の主力連合が結成される事になりました」
風「お兄さんが幽州で劉備さんと乳繰り合ってる間に、荀緄さん協力の下、1万の兵を集める事に成功しました。凪ちゃん達の義勇兵を含め合計で1万5千。これだけ集まれば充分行動を起こせるかと」
一刀「本当に予想以上に集まったな…二人共お疲れ様。それと風さん、そろそろ機嫌直してくれませんか」
風は稟に続くように諸将に現状を伝えるが、チクリと一刀への毒を吐く事を忘れない。
稟「私達の目的は黄巾党殲滅と同時に、行方が解っていない張三姉妹の捜索です。戦闘よりも捜索に重きを置いて行動する予定です」
凪「張三姉妹の捜索は理解出来ますが、隊長に大勢の兵士を養うだけどの地盤はありません。ここは討伐の戦功を挙げ、恩賞を頂く方が良いのではありませんか?」
硬直から復帰した凪は疑問に感じた事を口にする。凪達は加入したばかりで、董卓から天水の地を譲り受けている事をまだ知らないのだ
風「そういえば凪ちゃん達に言ってませんでしたねぇ。お兄さんが天水を治める儚げな美少女の董卓さんを”誑しこんで”天水の地を譲り受けてるんです」
真桜「ってことは…隊長は既に太守様で、董卓は代行って事かいな」
三羽烏は一刀が太守になってる事に驚きこそしたが、風の誑しこんでの説明で合点がいったようだ
一刀「いま風が重大な事を言ったんだけど…なんでそんなに落ち着いてるんだ」
”太守を譲り受けた”
普通ならばこの出来事はかなりの衝撃を受けるだろうが、3人からは『まぁ隊長だし』との台詞が聞こえた。
しかも女性関係での出来事ならば、前科が有り過ぎて驚けと言う方が無理なのだ。
そんな三羽烏の態度に、一刀は色々と反論したそうにしているが、脱線して稟の機嫌が悪くなる恐れを考慮して大人しく引き下がる
稟「風が言った通り、我々には天水の地があります。勿論戦闘は全力で行いますが、敵陣の偵察などにかなり人員の割り振りを行いますのでそのつもりでいてください」
荀家の人脈を生かした捜索は続いているが、張三姉妹に加え流琉、季衣の居場所は掴めていない。流琉や季衣の居場所も気になる所なのだが、今回の相手は黄巾党。以前の外史で黄巾党の首謀者だった張三姉妹の情報を入手できる確率が高い。その為、明命らの身軽な将や隠密、内偵者を多数送り込む腹積もりだ
捜索に多数の人員を割けば本隊の戦力は低下する恐れがあるが、数多の豪傑を抱える自軍にそんな心配は無用。張三姉妹と関わる機会が一刀に次いで多かった三羽烏も絶対に見つけて保護してみせる!とやる気に満ちてた
一刀「出立は半月後を予定している。それまで各自準備を進めてくれ」
一刀の閉めの言葉で会議は終了し、風や稟などは残っている仕事の処理、沙和と真桜は兵士達の訓練に、愛紗と明命は自己鍛錬を行う為に訓練場へと歩みだす。凪は愛紗に手合わせ願おうと後を追いかけようとするが……その途中でピタと動きが止まる。
恋が一刀の傍に寄り添い、眠っているのだ
凪「隊長……恋と何をしているのですか」
一刀「帰ってきたら恋とお昼寝するって約束したからね、いまから庭に行くところだよ。その前に恋が寝ちゃったんだけど」
恋は眠気でトロ~ンとしている目を手て擦りながら凪を見つめていた。凪を見つめる目からはお昼寝の邪魔をするなと訴えかけている。飛将軍と謳われるほどの武力を持つ少女の目力は凄まじく、実力が劣るものならばたちまち退くかもしれないが、隊長をこのまま奪われてなるものか!と凪の犬属性に火がついた
凪「隊長!私も昼寝に同行するのをお許し下さい!」
一刀「ん、凪も昼寝は珍しいな。愛紗との鍛錬楽しみにしてたのに」
幽州からの帰り道で、自軍に愛紗が居る事を知った凪の興奮は激しく、是非手合わせ願いたいと猛り立っていた程だ
凪「大丈夫です!手合わせの機会ならこれからいくらでもありますので!」
凪がそこまで言うならと、お昼寝の同行を許可され、一刀には見えないように小さくやったとガッツポーズをとった。しかし、そこまで無言を保っていた最強の武が動き出す
恋「お前…にぃにとのお昼寝の邪魔をするな」
突然恋から発せられた殺気、その殺気を浴びた周囲の兵士達は怯え腰を抜かす者や、気絶する者が続出した。その殺気を向けられている凪も苦しそうに顔を歪ませているが、その殺気に怯えずに恋と対峙している。
恋の殺気を感じ、訓練場に行ったはずの愛紗と明命が一刀の下へ急いで駆けつける。愛紗と明命は大事が起きたに違いないと慌てて戻ってきたのだ。一刀に事情を聞き、なんだ人騒がせな…で終ると思いきや、恋と凪の対峙になんと愛紗と明命も加わる。
恋は方天画戟
凪は閻王
愛紗は青龍偃月刀
明命は魂切
それぞれ愛用の武器を構え、四竦みの状態へともつれ込む
日にちを変えてそれぞれ一人ずつ昼寝すればいいのだろうが、今の彼女達にそんな考え方は存在しない。自分が一刀と一緒に昼寝する!それしか頭にないのだ
一刀の制止を余所に、4人は一斉に飛び出し戦闘を開始する
最強の武を持つ恋に対抗出切るのは愛紗だけかと思われたが、凪と明命も恋に食らい付き互角の勝負を繰り広げている。本来であれば対抗出来ないだろうが、今は大好きな一刀と2人きりで過ごせるかもしれない…という欲が2人から限界以上の力を引き出しているのだ
1刻(約2時間)戦い続けても決着はつかず、4人とも疲れからその場にペタリと座り込む
一刀はようやく終ったかとほっと息を吐くが、4人が戦っていた場所は桂花の屋敷内。かなり広い部屋とはいえ、部屋の中は4人の戦闘でボロボロ。中には高価な掛け軸なども破れてたりしている
それらの物を弁償するだけの私財が無い一刀達は、出陣するまでの間、荀緄の屋敷でせっせと働く姿が目撃される事となる
ついでだが、戦っていた4人よりも先にお昼寝で一刀の隣をちゃっかり獲得していた風であった
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恋と凪、2大忠犬の出会いと騒動
2016/2/13 修正OK