一刀「さて俺達の仕事は劉備軍が到着するまでの時間稼ぎだ。沙和が鍛えてくれた兵士達がいるとはいえ、数の差は覆せない」
沙和「隊長ったら弱気なの~!沙和が鍛えたふちゃちん共が、びちくそ野郎共に遅れを取るはずがないの!」
兵力の差が顕著との一刀の言葉に対し、沙和は自信満々に言い切る
沙和は記憶を取り戻してからは、以前一刀が作成した罵倒語録と同じ物を作成し、再び調教を施した結果・・・今では自ら罵って欲しいと志願してくる者、自ら沙和の怒りを買ってお仕置きを受ける者など、様々な変態が誕生してしまっていた。
そんな変態の集まりではあるが、ひとたび戦に出れば勇猛果敢に戦場を駆け巡る戦士の顔つきに変貌する。その実力はかつて精強を誇った魏親衛隊に劣らないほどだ。そんな兵士たちの頑張る理由は、愛すべき教官からご褒美を頂戴したいと欲に塗れていたりするが・・・
真桜「うちも沙和のに同意見や。沙和が鍛え上げたのは前みたいな新兵達の実力やない、魏の親衛隊に匹敵する強さや」
真桜も沙和の鍛えた兵士達に太鼓判を押す
それを証明するかのように、十文字を掲げた兵士達は一気呵成に黄巾党の獣たちを屠り続ける。その凄まじさに、黄巾党はすっかり腰が引けてしまっていた
一刀「なる程…多少なりとも傷は負ってるものの、致命傷は誰一人負っていない。確かに凄まじい錬度だ」
兵士の頑張る理由を知らない一刀は、沙和の鍛え上げた兵士の勇猛さを垣間見て驚きの表情を浮かべている
凪「隊長、賊は予想外の猛攻を受け流れはこちらのものです。一気呵成に攻め込みましょう」
戦に限らず、勝負事には”流れ”が存在する。
それらは実力で優位に立つ、精神的で優位に立つなど、ちょっとしたことで流れが変化したりする生き物のようなもの。
自分達が相手を押し込め続けば良い流れと感じる一方で、戦況不利が続けば悪い流れとなり一気に士気が下がる原因にもなりえる
現在の状況に当てはめて見ると、良い流れは間違い無く義勇兵側に有る。ならばこの流れに乗じて賊を討つ!凪の意見に沙和、真桜が同調し、一刀が決断する
一刀「凪、沙和、真桜!前言撤回だ。劉備軍が到着する前に躾のされていない獣を狩りつくせ。ただし無理だけはするな」
一刀の激からは三羽烏ならやり遂げられる、そんな意志が込められていた。一刀直属の部下として、1人の女のとして敬愛する一刀からの激を受け、凪達の戦意が急激に上がり我先に戦場へと飛び込む。
凪の気弾が道を切り裂き、真桜の螺旋槍が道を広げ、沙和の双剣による連撃が2人の邪魔をしようとする敵を次々と粛清する。そんな主人達に負けじと兵士達も自らの得物で縦横無尽に暴れまわる。最早戦とは呼べず、一方的な蹂躙と化している戦場に止めを刺す存在、劉備軍が到着する
劉備「急いで駆けつけたんだけど・・・この展開は予想外だよ」
張飛「あのお姉ちゃん達強いのだ、鈴々も戦ってみたいのだ!」
韓当「これ鈴々、今は黄巾党を追い払う方が先じゃぞ」
戦場に到着した劉備軍の将達は凪達が率いる義勇兵の強さに触れていた。将軍である張飛は自分も戦ってみたいと猛り、保護者代わりの韓当は張飛を嗜めつつも、自分も手合わせしたいと心に秘めていた。
最も衝撃を受けたのは軍師である諸葛亮と龐統の2人だ。少数であろうと敵を破る策を持っている2人ではあるが、戦の基本は敵より多くの兵を集めること、数の暴力という言葉があるように、敵より多くの兵を集めることでより優位な戦況を作り出すことが出来る。
しかし、黄巾党は義勇兵の何倍もの兵力を持ちながら、一方的に蹂躙されている。いくら訓練を積んでいない賊相手とはいえ、自分達はあそこまで一方的に戦えるかと問われれば答えは否だ。兵法を極めた2人は義勇兵の異常っぷりによる怯えからくるのか寒気に襲われていた
将軍、軍師がそれぞれの反応を見せる中、君主の劉備はというと
劉備「呂珂さんの知り合いは規格外の人が何人いるんだろ?規格外に人を惹きつける魅力でもあるのかな?」
一刀の規格外っぷりを見てきている劉備は配下達とズレた感想が生まれていた。一刀・恋・愛紗達と接する機会が多かった劉備はどこか感覚が麻痺しているのかもしれない
劉備「おっと、義勇兵さん達の猛勇さに呆けてる場合じゃなかった。みんなー!わたし達も行くよ!この領地で好き勝手すればどうなるか、その身に覚えさせるよ!」
劉備の出陣命令を受け、義勇兵の動きに見惚れていた張飛や韓当達が一斉に戦場に飛び込む。
前からは義勇兵、後ろからは劉備軍。かろうじて戦意を保っていた黄巾党も劉備軍の乱入ですっかり戦意を喪失し、蜘蛛の子を散らすように1人、また1人と逃げ出す。そんな逃げ惑う黄巾党を逃がす気がないのが諸葛亮と龐統だ
2人は持ち前の頭脳から黄巾党が逃げ出すであろうと地点を予測し、部隊を自分の手足の如く動かし1箇所を除くすべての退路を封じ込め、鶴翼の陣による包囲殲滅に取り掛かっていた
凪「凄い、戦場に現れたばかりの劉備軍が黄巾党の退路を封じ込めている」
沙和「それでいて沙和達を援護する動きも採ってくれてる!」
一刀「しかも、わざと逃げられるように1箇所道を空けてるな。流石伏龍、鳳雛の指揮を言うべきか」
真桜「なんや、隊長なんかしたんか?うちの知ってる劉備軍の姿やないで」
劉備軍が義勇兵の働きに驚くと同時に、かつて劉備軍と覇を争った凪、沙和、真桜も劉備軍の錬度に驚く。
以前のように五虎将である関羽、黄忠、馬超、趙雲といった豪傑が在籍していないのも関わらずこの強さ・・・劉備陣営同様に、敵に回したくないと実感させられていた。
その後の戦の展開は変わる事なく、復活した北郷隊の猛攻、張飛、韓当の背後からの挟撃による攻撃で混乱の極みに達した黄巾党は瓦解し、逃げ遅れた者は討ち取られ、運良く逃げ延びた者はごくわずか。
わざと逃げ道を開けた目的は2つ、幽州に攻め入れば同じ目に合うと仲間に教え込む事と、退路をすべて断ったと知れば、敵は死を恐れずに攻め込んでくる、そうなれば味方の被害も増す。、”窮鼠猫を噛む”これを防ぐのが大きな理由だった。
琢郡に攻め込んだ黄巾党の姿が1兵も居なくなった事を確認し、義勇軍と劉備軍は矛を収め怪我人の確認を急がせる。周囲の警戒に当たっていた一刀もようやく落ち着いて話せる環境になった
一刀「さて…3人とも怪我ないか?」
沙和「隊長ったら相変らず心配性なの。蜀、呉と大戦を繰り広げた沙和達があの程度の相手に怪我なんてするハズがないの!」
沙和と同意見の真桜が『うんうん』と頷いていた
凪達の実力は誰よりも知っているが、別れを経験した一刀はかなり過保護というか心配性になっていた
凪「お前達、隊長が心配してくれてると言うのになんだその態度は!」
凪だけは自分の身を心配してくる一刀の姿勢に感動し、隊長大好きっ子の面を全面に出していた
一刀「3人の関係も変わらないね。そういえば、3人はいつ記憶を戻ったんだ?」
凪「私は3年ほど前でしょうか、鍛錬を積んでる時にふと思い出しました」
真桜「うちと沙和も凪と同じ時期やな。凪はまるっきし気が付く気配が無かったけど」
沙和「沙和があめりかんの海兵隊式訓練をやってたんだから、気が付いても良いと思うの」
凪「それはその……思い出してから隊長の事で頭がいっぱいになってその……」
顔を真っ赤にさせ、最後のほうはボソボソと小さい声で呟く凪を見て、真桜と沙和は純情乙女は健在だなとホッコリしていた
凪「私の事はいい!真桜も沙和も、思い出してたならなんで私が隊長を捜しに行くのを止めたんだ」
記憶を取り戻してからまず凪が取った行動は、風同様に一刀を捜す旅に出る事だったのだが、旅に出る直前に親友達にバレて引き止められてしまっていたのだ
真桜「なんでもなにも、凪の為に感動の再会を計画にしてたに決まっとるやん」
沙和「そうそう、真桜ちゃんと一緒に隊長が窮地に陥った時に沙和達が登場し、颯爽と隊長を助ける!そして助けた凪ちゃんと隊長はそのまま勢いで……きゃーーーー!」
凪「隊長と……あ……あ」
沙和の言葉を聞いて何を想像したのか・・・凪は頭から湯気が出る程真っ赤になり、ボン!と音が聞こえ気絶する
劉備「呂珂さん!ここにいらっしゃいましたか、お怪我はありませんか?」
この流れも懐かしいなと一刀が三羽烏を眺めていると、軍をまとめた劉備が一刀の下にやって来ていた
一刀「俺は見ての通り問題ないです、あいつらも同様に無事です。劉備さんがトドメを刺してくれたので助かりました」
劉備「いえいえ、本来であればわたし達が先頭に立って戦う所を助けてもらったんです。お礼を言いたいのはこちらです」
劉備は自分の領地から黄巾党を追い出すために戦ってくれた義勇軍に向けて『ありがとうございました』とお礼を述べる。勿論お礼の言葉だけじゃなく、恩賞の用意も進めていた
劉備「それにしても、呂珂さんの周りには凄い人が集まるんですね。人を率いてる身として自信が無くなっちゃいます」
劉備も燕人張飛、伏龍鳳雛、正史では孫家四天王の程普と韓当を配下に加えており、人材では他勢力に引けを取らない。しかし、一刀に仕える三軍師、恋、愛紗、明命や今回の3人と比べると、どうしても自分の人を惹きつける魅力が劣ってると思ってしまうのだ。
一刀の下に規格外が揃うのは色々と反則技ではあるので、劉備の懸念は的外れなのだが・・・そんな事を劉備が知る由がない為に少し落ち込んでしまっている。
一刀「何言ってるのさ。その凄い人に劉備さんも入ってるんだからね?」
劉備はまさか自分が凄いと言われると思っておらず、え?え?と目をぱちくりさせて驚いていた
一刀「劉備さんは民の為に善政を行い、民の生活を知るために自ら民と一緒に仕事に従事し、生活の改善点などを導き出している。言うのは簡単だけど、継続して行うのは難しい。それを嫌な顔一つせずに行い続ける劉備さんだからこそ、劉備さんを慕う民が次々幽州にやってくるんだ。それは劉備さんにしか出来ない事だから、俺は劉備さんを凄いと思うんだ」
劉備は同世代の男からここまで真っ直ぐに褒められる事に慣れてなく、褒められた事を嬉しがりながらもどう反応していいか解らずに、あたふたと動揺を隠せずにいる
沙和「隊長・・・魏以外の人にも手出すなんて・・・流石種馬なの!」
真桜「いくら隊長が種馬でも、劉備さんにまで手出すのはどうかと思うで」
凪「隊長、不潔です」
一刀「今のは俺のせいなのか?」
一刀と劉備がいい雰囲気になりそうな空気を察した3人が話しに入り込む
三羽烏としては、一刀が無自覚に女の人を口説くのを阻止するのと、自分の言葉の放つ破壊力を理解して欲しいのだが……無駄な努力に終りそうだなと諦めムードが漂っていた
真桜「隊長ももうちっと自重して欲しいんやけどなあ」
沙和「真桜ちゃんダメダメ、隊長に期待するだけ無駄なの」
凪「隊長ですし」
一刀「劉備さんと話してただけでなんでここまで言われてるんだろ・・・凪達にご褒美上げようと思ったけど、辞めようかな」
天然ジゴロなのがいけないのだが、その原因に気が付かない一刀はせめての反撃としてご褒美無しと告げる。
真桜と沙和は隊長のけち~と言ってるだけだが・・・
凪「・・・・・・・・・・・・」
真桜「凪?凪!?凪が真っ白くなってるで!」
沙和「なぎちゃーーん!抜け殻になってるの!」
案の定凪が大打撃を受け、ぽかーんと開いている口から魂が出てしまったようだ
これは流石に不味いと感じた一刀は慌てて訂正する。一刀の訂正を聞いてようやく凪の顔に生気が戻ってきた
凪「っハ!?隊長は私のこと捨てないですよね!?ずっと傍に置いてくれますよね!?」
一刀「どっからそうなったの凪!?」
どうやら隊長大好きっ子の凪は自分が捨てられると勘違いしていたようだ。どこをどう聞いたらそう勘違いしてそうなったのか不思議だが・・・
一刀「俺を追いかけてここまで来てくれたんだろ?それに…俺が凪を捨てるはずないじゃないか」
凪「隊長・・・」
さっきの空気はどこに行ったのか・・・一刀と凪は桃色の空気をかもし出していた。真桜と沙和は参加せずに、自分達の親友が幸せでよかったと思うと同時に、桃色すぎる雰囲気にお腹いっぱいだった
劉備「あの・・・いい雰囲気を邪魔して申し訳ないんですけど、今回の一件のお礼をしたいので一緒にお城に戻ってくれませんか?」
黄巾党が自分の本拠地付近まで現れたとなれば、早急に軍を動かして討伐したいと考える劉備は怖ず怖ずと一刀と凪に話しかける。これで自分を無視して続けれればどうしようもないところだったが、”今回”は劉備の言葉で正気に戻った
一刀「あ、すみません劉備さん。ご好意は嬉しいのですが、事態は急を要するようなので一旦冀州に戻ろうと思います。お礼は黄巾党をすべて打ち倒した後に頂きます」
太守がお礼をしたいというのを受け取らずに断るのは失礼に当たるのだが、今回の一件であまりのんびりしてられないと感じた一刀は黄巾党が終結した後に頂く事にした
劉備「解りました。ならせめて義勇兵達の兵糧は持って行ってください。このままでは道中餓えてしまいますので」
一刀と明命だけで交渉に来ていた一刀にとって、この申し出は一刀にとって渡りに船だった。
一刀「細かい気遣いありがとうございます劉備さん。それでは本日はこれで失礼いたします。後日戦場で落ち合いましょう」
劉備軍から予備兵糧を受け取った一刀達と義勇軍とは劉備軍と別れ、桂花の屋敷へと急ぎ向かう。明命は一刀の伝言を風と稟に伝えるために一足速く冀州へと向かったため、この場に居るのは一刀と三羽烏だけとなった
凪「隊長、あの方が本当に劉備様なのですか?以前と印象が全く違いましたが」
真桜「違和感が凄いあるで」
沙和「沙和も驚いちゃったの」
この感想は初めて琢郡を訪れた一刀と風、荊州で出会った稟も同じ印象を抱いていた。
かつて華琳の下で戦った将は全員同じ印象を劉備に抱くかもしれない
凪「それにしても…わたし達だけじゃなく、桂花さまや風さまや稟さまも記憶を持っていたのですね」
沙和「風ちゃんはともかく、稟ちゃんが隊長の下に留まってるのも驚きなの」
真桜「姐さんは天水やし、後は隊長の妹立場のボクっ子と流琉の居場所が解ればいいんけど」
沙和「あとあと~張三姉妹も一緒じゃないとダメ寂しいの!」
一刀から記憶を取り戻してる人の話しを聞き、3人は思ったことを口にする
新兵の訓練や日常生活で付き合いが深かった季衣と流琉の事を思い浮かべる。その2人の居場所は未だ掴めていない。本音を言えばちびっ子達と争いたくはない、早く見つけ出さなければといのが共通の見解だ
一刀「季衣や流琉、それに天和や地和に人和は必ず見つけ出す。そのためにも黄巾党を叩き潰さないと」
もし張三姉妹が一刀達と接触を図るために興したならば既に何らかのアクションを起こしてるはずだ。それがなんの連絡も無い点を見ると、彼女達が関わってないのか、連絡を取れる状況じゃないのだと考えられる
凪「先ほども言いましたが、私達は隊長に忠誠を誓う身です。私達の力は必要ならば、遠慮無く申しつけ下さい」
真桜「うちらにとっても、ちびっ子や張三姉妹は大切な存在やからな」
沙和「捕らわれたりしてたら必ず取り戻すの!」
何も言わずに居なくなってしまったにも関わらず、こうして自分を信じて慕ってくれる事が何よりも嬉しかった。
一刀は慕ってくれる部下達に向かって小声で呟く
頼りにさせてもらうよ。凪、沙和、真桜!
北郷隊再結成と劉備軍との共闘でした
今後全部で6話予定している黄巾党編に本格的に入ります。
とは言いましても、戦闘回はそれほど多くありませんが・・・
次回タイトルは『恋と凪』2大忠犬の出会いと騒動になります
Tweet |
|
|
39
|
4
|
追加するフォルダを選択
2016/2/8更新