No.742617

真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第六十一話


 お待たせしました!

 それでは今回より再び本編に入ります。

続きを表示

2014-12-09 20:28:52 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:5437   閲覧ユーザー数:3917

 

「五胡が?でも、先の戦の時に友好関係を結んだ部族との交易は順調に進んでいる

 

 と聞いていたけど…」

 

「その交易相手の部族からの知らせだそうじゃ」

 

 俺の疑問に命はそう答える。

 

「…なら、主戦派の連中がまた息を吹き返してきたという事か?」

 

「その知らせによれば、その主戦派の息がかかったと思われる者達による交易に対

 

 する妨害が増えてきているとの事です。一部では小競り合いにまで発展した物も

 

 あると…」

 

「摩利からの知らせでは、益州の方にも同様の輩が出没していると…今の所はまだ

 

 何とか鎮圧出来ているようですが、それなのに段々とその規模は大きくなってい

 

 くばかりとの事です」

 

 月の報告に鈴音が苦々しげな顔でそう付け加える。

 

「しかし、主戦派の連中は先の戦に負けてそれまでよりさらに北の地にまで逃げて

 

 いったはず…この短期間にまた此処まで舞い戻ってくるとは、彼奴らにそこまで

 

 の力を付けた何者かがいるという事か?」

 

「しかし報告によると、かの軍勢はどうやら今まで五胡の連中が使いもしなかった

 

 陣形や戦術を使用していたとの事。しかも、それは我らの物に近いとも…ならば、

 

 奴らの裏にはこちらの人間がいるという事になりますが?」

 

 義真さんの疑問に樹季菜さんがそう付け加えると、その場の誰もそれ以上の言葉

 

 を続ける事が出来なかったのだが…。

 

「まさか、父…劉焉が?」

 

 

 

 鈴音がそう呟くと、皆の顔に驚愕の色が走る。

 

「劉焉じゃと!?しかし、あやつめは先の戦の時に五胡の連中に殺されたと聞いて

 

 おったが?」

 

 命の言う通り、五胡の主戦派が撤退した後で友好関係を結んだ部族の長から劉焉

 

 は彼を庇護していた部族長の手で殺されたという報告を受けていたのであった。

 

「しかし、主戦派のやり口から考えると裏に劉焉がいるとしか…『おそらくですが、

 

 劉焉が殺されたという情報自体が意図的に流された虚偽の物…さらに言えば殺さ

 

 れたのは劉焉ではなく部族長の方という事も考えられます』…まさか、そんな」

 

 鈴音はさらに疑問を投げかけようとするが、輝里のその意見を聞いた瞬間に絶句

 

 してしまう。そして、それは他の皆も同じであった。

 

「確かにそれは考えられるな…あやつめがそう簡単に殺されるとは思わん」

 

 そう言ったのは、遅れて入ってきた空様だった。その後ろには及川も来ている。

 

「及川、何か掴めたのか?」

 

「五胡の連中が使い始めたっちゅう陣形がこれや」

 

 そう言って及川が広げたのは一枚の絵図であった。

 

「これは…間違いありません。劉焉が益州に赴任した直後に反対勢力を駆逐した時

 

 に使っていた陣形です!前に摩利から教えてもらった事があります!」

 

 それを見た鈴音がそう声をあげる。

 

 

 

「鈴音がそう言うのであれば間違いないという事か」

 

「しかしどうやって五胡の連中を此処まで従えたのでしょう?こちらの人間が上に

 

 立つ事には反発も強いはずですが?」

 

 月のその質問に答えられる者はいなかったのであった。

 

 ・・・・・・・

 

 一方その頃、漢の遥か北方の地にて。

 

「慎重派の連中はどうしている?」

 

「はっ、我々が動き出した事を漢の連中に伝えた後で防備を固めてこちらの動向を

 

 探っている様子です」

 

 玉座に座っている兜を目深に被った長らしき男はその報告を聞いてニヤリと唇の

 

 端を上げる。

 

「ふっ、結局その程度か。そうして時間を稼いで向こうの援軍を待とうとでもいう

 

 のだろうが…そんな程度の考えを見破れないとでも思っているなら大笑いだな」

 

「ならば…?」

 

「ああ、全軍に通達!明日早朝に奴らの陣に攻撃をかける!漢に魂を売り渡したよ

 

 うな惰弱な者どもに我らの怒りを思い知らさせろ!!」

 

 長の指示を受けて部下の男は天幕を飛び出す。それを見ながら長は満足気に笑っ

 

 ていた。

 

(此処まで従わせるのに思った以上に時間がかかったが…今度こそ、この劉焉が中

 

 原の覇者となる番ぞ)

 

 もはや言わずとも分かっていたとは思うが、この男は劉焉である。先の戦の折に

 

 部族長を殺してその兜を被って成りすましたまま北方に逃げた五胡の主戦派の者

 

 達を此処までの時間をかけて制圧していたのである。

 

(ちなみにその間ずっと人前では兜を被ったまま顔を見せる事は無く、素顔を見て

 

 しまった者はその場で始末してしまっていたので、此処まで正体がばれる事は無

 

 かったのであった)

 

 

 

 そしてその矛先は漢との友好関係を築いている部族、そしてその先にある漢その

 

 ものへと向いていたのであった。そして此処までは破竹の勢いで進み、このまま

 

 漢の援軍が来る前に全部族を制圧して漢との全面対決をも目論んでいたのだが…。

 

「…漢の援軍が既に到着しているだと!?」

 

 次の日の早朝、奇襲をかける為に進軍していた劉焉の眼の前の陣に翻っていたの

 

 は『馬』・『華』・『公』・『劉』の四つの旗であった。

 

「昨日の間者からの報告にはそのような事は…」

 

 部下の男も予想外の出来事に驚きを隠せずにいた。

 

「くっ、あのような物はおそらくこちらを惑わす為の策だ、構うな!!」

 

 劉焉はそう号令をかけて攻撃を仕掛けようとするが、

 

「わざわざ遥か北方より死にに来たか、この愚か者どもが!!ならばこの馬寿成の

 

 槍を冥土の土産に喰らっていけ!!」

 

「漢に仇なす者どもよ、この華雄の戦斧の錆となれ!!」

 

「此処から先はこの公孫伯珪と白馬義従が相手だ!!」

 

「皆、五胡の奴らから漢を守るよ…愛紗ちゃん!!」

 

「はっ!五胡の者どもよ、この関雲長いる限りお前らの好きにはさせん!!」

 

 そこにいたのは間違いなく馬騰・華雄・公孫賛・劉備の軍勢であり、その攻撃を

 

 受けた劉焉達は一時撤退を余儀なくされたのであった。

 

 

 

「皆さん、良くぞ此処まで敏速に動いてくれました。おかげでこちらも態勢を此処

 

 まで整える余裕も出来ました」

 

 数日後、最前線に到着した俺達を出迎えたのは五胡との緒戦に勝ちを収めた葵さ

 

 ん達であり、総大将として来た月も安堵した様子でそう声をかけていた。

 

「何の、全ては狼煙と半鐘を整えた一刀の功績だ」

 

 葵さんがそう言うと、皆が俺の方を見ながら一様に頷くので、何だかくすぐった

 

 い感じだ。

 

「最初に北郷から狼煙台と半鐘台の設置計画を聞いた時は、本当に必要なのかって

 

 思ったけど…実際活用してみると、もしあれが無かったらこっちの態勢を此処ま

 

 で整える事が出来ていなかったんじゃないかと私も思う。さすがは天の御遣いと

 

 いう事だな」

 

 そう真っ先に褒めてくれたのは公孫賛さんだった。諸侯の中でも良識派な彼女に

 

 そこまで言ってもらえるのはなかなかに嬉しいものだ。

 

「まさか奴らも、こちらが狼煙の煙の色と半鐘の鳴らし方で何が起きたのかを迅速

 

 に後方に伝えるという方法を構築しているなどとは夢にも思っていないだろうか

 

 らな…今頃は大慌てだろうな。まさに北郷が奴らを出し抜いたという事だな」

 

「でも本当に凄いですよね~、幽州より北で起きた事が平原に伝わるまで二日とか

 

 からなかったですし…本当に北郷さんの大手柄ですよ」

 

 華雄さんや劉備さんにまで褒められると何だか妙な感じだ。俺としてはただ単に

 

 戦国大名みたいに狼煙とか半鐘とかで遠くの出来事を瞬時に伝えるように出来れ

 

 ば楽じゃないかなぁと思っただけなのだが。こんなにうまくいく事が証明出来た

 

 わけだし、早く洛陽にまで建設を進める事にしようか。

 

 

 

 その頃、北方の五胡の陣では…。

 

「長、先程の戦闘での死傷者は全軍のおよそ一割程…今は残った兵を再編制してい

 

 る所です」

 

 部下からのその報告を劉焉は沈鬱な顔で聞いていた。

 

「漢の奴らはどうしている?」

 

「既に洛陽より援軍が到着しております。旗印は『董』・『曹』・『孫』・『皇』

 

 ・『朱』・『盧』・『袁』、そして『十』。兵の数はおよそ五十万余りかと」

 

「既に到着している者達も含めるとほぼ全ての諸将が揃ったという事か…こちらは

 

 どれだけの兵がいる?」

 

「こちらの総数は今の所およそ六十万程…しかし思った程各部族の反応が無い為に

 

 動揺の色が見えております。やはり緒戦で負けたのが大きいようです」

 

 それを聞いた劉焉は苦い顔になる。

 

「…ちっ、弱気な奴らめが。まあいい、次で漢の奴らを打ち破りさえすればそのよ

 

 うな物は幾らでも取り返せる。まずは奴らの背後の攪乱じゃ…益州の方の首尾は

 

 どうだ?」

 

「あちら側の部族に依頼はしたのですが…」

 

「どうした?俺が言った通りにすれば問題は無いはずだが?」

 

「最初の内はうまくいきかけていたのですが、益州側からも干渉があったようで…

 

 半分近くが劉璋に従ってしまい、現在は膠着状態に近くなっております」

 

 それを聞いた劉焉の顔はますます険しくなる。自分の邪魔をしているのが他なら

 

 ぬ実の娘だから当然と言えば当然だが。

 

 

 

「くっ…しかし、こちらに靡く者もいるのであればそこから何とか進めよ。南方の

 

 方はどうじゃ?」

 

「そちらはまだ報告待ちですが、先の定時報告では上々の滑り出しだったとの事な

 

 ので期待して良いかと…『申し上げます!南方に放っていた者が戻って来ており

 

 ます』…なっ!?」

 

 そこに連れられてきたのは、満身創痍に近い状態の男であった。

 

「も、申し訳ございません…南方の方は既に孫策によって鎮圧されました。こちら

 

 に合力を約束した者達は全て…」

 

「孫策だと!?ならばこちらにある『孫』の旗印は何だ!?」

 

「おそらく一部の者達が従軍しているだけという事の可能性が…あちらに来ていた

 

 のは間違いなく孫呉の主力でした」

 

 ・・・・・・・

 

 その頃、その南方にて。

 

「雪蓮、どうやら五胡に与しようとした奴らの鎮圧はほぼ終わったようだ」

 

「そう、それは上々…でもあんまり強くなかったから張り合いも無かったわよね~」

 

「そもそも我らが此処に現れた事が奴らには予想外の出来事だったみたいだ」

 

「確かに私達も驚いたからね~。狼煙って凄いわよね」

 

「ああ、最初はただ煙を出すだけの物に何の意味があるのかと思っていたのだがな。

 

 燃やす物を変えて色をつけたり本数を変えたりする事で、おおよそ何が起きたか

 

 をすぐに察知出来るこの仕組みは素晴らしいな。北郷様に頼んで領内にもっと多

 

 くの狼煙台を設置出来るようにしよう」

 

 

 

 雪蓮と冥琳の会話の通り、北方だけでなく南方も変事に備える為に揚州の何か所

 

 かに狼煙台を設置していたのである。一刀がそれを提案した時は命を始め皆の反

 

 応は良い物では無かったのだが、今回の事によってその有用性がはっきりと示さ

 

 れたのであった。

 

「こっちはもう大丈夫だし、後は北方ね…蓮華達はもう着いた頃かしら?」

 

「数日前に立っているはずだから、もう少しかかるだろうな。だがそういう時の為

 

 の小蓮様と粋怜殿だ、向こうに付けていた兵は八百余だが孫呉が素早く漢の為に

 

 動いたと見せるには問題無い」

 

 ・・・・・・・

 

 そして数日後。

 

「孫仲謀、孫伯符の代理として遅ればせながらただ今参上致しました」

 

「孫権殿、あなたの働きにも期待していますよ」

 

 俺達の陣に江東より兵を率いてきた蓮華が到着する。それに従ってきたのは思春

 

 ・亞莎・明命・穏であった。

 

「蓮華姉様~、久しぶり♪」

 

「シャオも元気そうね…粋怜、あなたの働きは雪蓮姉様も高く評価していたわ。今

 

 回も洛陽常駐の兵達の態勢をすぐに整えて従軍させてくれた事で、我ら孫呉が漢

 

 の為に素早く対応出来るという事を一気に喧伝出来たしね」

 

「もったいなきお言葉…この程徳謀、これからも漢の為、孫呉の為に尽くす所存で

 

 ございます」

 

 

 

「さて、孫呉の軍も加わり兵の数も増えたのは良いとして…今後の作戦とかはどう

 

 なっているんだ?」

 

「今はまだ睨み合いね…向こうの士気があまり高くは無いらしいとは聞いてはいる

 

 けど数はまだ向こうの方が上、下手にこっちから攻撃を仕掛けたら損害が大きく

 

 なるだけだし」

 

 俺のその質問に詠がそう答える。

 

 睨み合いねぇ。確かに、こちらから戦端を開くのは避けるべきではあるだろうか

 

 ら現状ではそれがベストとまで行かなくともベターな選択という事だろうけど…。

 

「だけど、そればかりではこちらとて遠征軍である以上、士気の緩みが出る可能性

 

 もあるんじゃないのか?」

 

「それ位言われなくても分かっているけど…なら一刀には何か良い考えでもあるっ

 

 ていうわけ?」

 

「そうだな…なら、こういうのはどうかな?」

 

 ・・・・・・・

 

「漢の連中に動きが?」

 

 所変わって、再び五胡の陣。劉焉は斥候よりもたらされた報告に驚きの声をあげ

 

 ていた。

 

「はっ、どうやら軍をいくつかに分けて模擬戦を行っている者達と…何やら一つに

 

 集まって盛り上がっている者達がいるようです」

 

「模擬戦だと!?敵を眼の前にして…しかもその集まって他の事で盛り上がってい

 

 る連中など言語道断だ!そのような我らを愚弄している輩を放っておく事など出

 

 来るか!!」

 

 

 

 劉焉は怒りのままに軍を動かすが…。

 

「ようやっと来おったか~。恋と模擬戦やっとったら何や血が騒いで仕方なかった

 

 んや!行くで、お前ら!!」

 

「…月の敵は死ね」

 

 模擬戦の方に向かった軍は、その当事者である霞と恋の攻撃を受けて散々に打ち

 

 破られており、もう一つの集まりの方に向かった方は、

 

「皆!敵がちぃ達を狙っているわ!!」

 

「「「皆、あんな奴らやっちゃってぇ~~~!!」」」

 

『ほわっ、ほわぁっ、ほわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!』

 

 そこに慰問ライブに来ていた張三姉妹の檄を受けてテンションの上がった将兵の

 

 攻撃に成す術も無く追い散らされていたのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「一刀さん、どうやら模擬戦と慰問らいぶとかいうので随分と兵達の士気も戻った

 

 ようです。しかもそこに現れた敵をも圧倒する程の力まで見せたとか…さすがは

 

 一刀さんですね」

 

 報告を聞いた月はそう言って喜んでいたが…俺は単に模擬戦で感覚を忘れないよ

 

 うにと考えたのと、戦場にいるという緊張感を少しでも和らげようとしただけな

 

 のだけど…何だか俺が意図した方向とちょっと違ってるような気もするのは気の

 

 せいという事で良いのだろうか?まあ、結果的に成功したのならそれで良しとし

 

 ておこう。

 

 

 

 

 

 一方、劉焉はというと…。

 

「おのれ…まさか全てが我らをおびき寄せる為の作戦だったというのか!」

 

 自軍の失敗を聞き、そう言って歯ぎしりする程の怒りを見せていたのであった。

 

「くそっ、このままではまた我らがじり貧になるだけだ…何か良い手は無いのか?」

 

「長、一つだけ耳よりな情報が…」

 

「何じゃ?」

 

「どうやら荊州の襄陽を治める劉表の病がもはや治癒の可能性も無く、後継もまだ

 

 決まっていないとの事」

 

「ほぅ…確か奴には二人の子供がいたはず。しかし本来後を継ぐはずの劉琦は聡明

 

 だが病弱、庶子の劉琮を伯父である蔡瑁が担ぎ出そうと前々から色々やっておっ

 

 たな…使えそうじゃな、ふっふっふ。よし、蔡瑁に遣いを送れ!劉弁が干渉する

 

 前にこちら側に引き込むのだ!!これでようやく洛陽の後ろを攪乱する事が出来

 

 るぞ…はっはっは!!」

 

 劉焉は笑いながら、そう指示を送っていたのであった。

 

                                  続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 ようやく何とかこれだけ書けました…どうもうまく文章が

 

 まとまりません。

 

 とりあえず今回は再び現れた耄碌じじいが緒戦は失敗した

 

 けど、まだ諦めようとしないというお話でした。

 

 そして次回は荊州の御家騒動に劉焉が首を突っ込もうとす

 

 る所から始まります。普通に考えて、命がその状況を知ら

 

 ないわけ無いのですが…果たして?

 

 

 それでは次回、第六十二話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 今年中に最低でも二話は投稿したい所ですが…この

 

    調子だと自信が持てません。

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
37
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択