No.740579

朝からはろいん!

理緒さん

ここのつ者のいつどこゲームです。
【朝】【どこかの民家の軒先で】【砥草鶸が】【(狼男の恰好で)酒を飲んでいた】【理緒】
さて、朝から砥草さんがお酒を飲むシチュエーションとは……?
という事で楽しく書かせていただきました。
登場するここのつ者:砥草鶸 犀水陽乃 (名前だけ:蒼海鬼月 茶毒蛾鶸)

2014-11-30 11:11:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:530   閲覧ユーザー数:518

 

 天高く、馬肥ゆる秋。秋と言えばカボチャ、カボチャと言えば……そんな連想ゲームのごとく、いつものように茶屋の掲示から始まったハロウィン。本来は夜になってから提灯片手に家々を回ったお菓子をもらうお祭りだが……。夕方という時間が短いこの季節、その上近頃物騒だから夜道を子供に歩かせるのは危ないという理由で、今年のハロウィンは寝坊助も起きるくらいの朝の遅めの時間からから始まっていた。

 しかし。

「朝からハロウィンですか…なかなか、違和感というかなんというか……時間が違うだけで別のお祭りみたいになりますね」

ハロウィンと言えば仮装。砥草は狼男の仮装を選び、耳と尻尾、それに毛羽立った上着を羽織っていた。夜で細部や互いの顔が良く分からないような時間なら多少の気恥ずかしさもましなのだろうけれど。こんな東の空に太陽がさんさんと輝く日差しの下では、恐怖の仮装も少々間抜けだ。店主が用意した衣装を渡された仲間たちの一部は苦い顔をしていたから、自分たちは比較的ましな方かもしれない。

それでも、楽しそうにはしゃぐ子供たちを見ていると、これもいいか、と思える。

子供というのはこういうお祭りごとでははしゃぐもの。しかし悪戯にはしゃぎすぎて怪我をしたり迷子になったりしないようにと、ここのつ者何人かで引率役を請け負い、カルガモ親子のように街を練り歩く事となったのだ。かく言う砥草も、たまたま茶屋を通りかかったところ陽乃共に茶屋の店主、茶毒蛾久に掴まり、「あんたたち、どうせ暇してるんだろ?楽しい人助けがあるんだよ」の一言で快諾したために一緒に引率役をしているのだった。なんだかうまい具合に扱われている気がするが、気のせいと思うことにしよう。

気になる物を見つけてはあっちへフラフラ、友達をふざけ合ってこっちへフラフラと奔放に動き回る子供たちをまとめていると、引率の狼男というよりも牧羊犬になった気分だ。

「だ、大丈夫ですか?砥草さん」

 ふらふらと歩いてきた白い布の塊。ゴーストの仮装として白い布をすっぽりかぶった陽乃だが、子供に引っ張られでもしたのか布に書かれた顔の位置がずれてしまっていた。頑張って直そうとしているのか、被り物が不規則に内側へ引かれたりして形を変えている。ふと、砥草の脳裏に夏に忍社で行われた肝試しの顛末をほうふつとさせた。鬼月に聞いたことだが、多分こんな感じの物を見た子供が泣き出したのだろうが、なるほど、これは夜に見たら子共は泣くだろう。現に数人の男児は後ずさっている。

陽乃の問いには大丈夫ですよと返し、被り物をそっと直してやる。回る予定の家々は漸く折り返し地点。もうひと踏ん張りだ。

 枯れ草の目立つ畑のあぜ道を渡りつつ子供たちの引率役として家々を回っていると、なるほど。楽しみにしていたのは子共たちだけではないと分かる。

 村で祭りと言えば、村人たちの一番の楽しみ。歌って踊って騒いで。その気概はたとえなじみの無い西洋の祭りに対しても同じらしい。民家の軒先では数人の村人が集まり酒盛りを始めていた。朝っぱらから酒盛りなんて、と渋い顔の女性陣の目線も素知らぬふりで楽しそうに騒ぐ働き盛りの男達。ここまでの家でも見られて来た光景だが、子供たちからは「ぼくたちは大きくなったらちゃんとした大人になろうね」という言葉がきかれていたから、もしかしたら反面教師としては有効なのかもしれない。もちろん「たまにしかない機会だから、大人だって楽しみたいんだよ」とのフォローは入れたが。

そのうちにお菓子をもらいに来た一団に気付いた男性が徳利片手に砥草に近寄り、陽気に声をかけた。

「おうおう兄ちゃん。兄ちゃんも飲んでいくかい?」

「今日はにぎやかですね。俺はまだ引率があるので、一口だけで勘弁願いますね」

こうしてお酒を勧められたのは何度目か。下手に断るより、少量を勢いよく飲んでいるように見せれば相手は満足してくれると察してからはこうしている。少々酒精の強い酒ではあったが、少量なら酔うようなものではなさそうだ。男性は既に幾分酒は回っているようだが、まだ目はしっかりしている様子。あまり飲みすぎないようにと伝え、陶器の杯を返した。

「ほーれ悪ガキ共! 一人一個づつだぞ!」

「お焼き、皆の分あるから。順番ね?」

ザルに乗ったお焼きに群がる子供たちからは歓声が上がり、配っている村人たちも一様に笑顔を見せている。

「なんのお焼きー?」

「ばかおめー、はろいんってのはカボチャの祭りなんだろ?カボチャに決まってるだろ」

「栗は―?」

「サツマイモは―?」

「他の家であるかもしれないからそこで貰ってきな!ないなら今度作るの手伝いな!」

 いつもはここのつ者や茶屋の常連とのやり取りだけだが、街で実際に行うと、お互いの生活を知っているからかやり取りが現実的で面白い。

そんな様子を少し離れたところで見守っていた砥草だが、後ろからふと、こんな声が聞こえてきた。

「そこの白いのも、ほら飲んでけ!」

声の方を見やれば、後ろ方でゴーストの被り物をしていた陽乃が差し出された杯に戸惑っていた。白い布がもぞもぞと動いているから身ぶりで断っているようだが……それを遠慮と取ったか村人は遠慮しなさんなと言って陽乃の手(と思われる部分)に杯を持たせている。

 言わずもがな陽乃は酒に弱い。加えて初対面の相手の好意を断り切るだけの押しの強さも持ち合わせていない。先ほど鶸が飲んだ酒と同じものなら酒精の強い蒸留酒のはずだ。ある程度の耐性があるのなら問題ない量だが、この後も引率として付き添うならきっと途中で酒がまわって気分を悪くしてしまう。

 オロオロと杯を見つめる様子から、ゴーストの被り者の下で困っているであろう陽乃が容易に想像できた。困った顔も可愛らしいがあまり困らせたくないとも思う、この相反するくすぐったいものは何だろう。

 しかし、女性というものは安堵したり、微笑んで和らいだ表情の方が、その何倍も可愛らしいものだ。

「すみません。こちら、幽霊さんなのでお酒は飲めないんですよ」

適当な理由を並べて村人と陽乃と村人との会話を遮る。論理的な理由ではないが、こういうときは理にかなった言葉よりも勢いの方が有効なのだ。陽乃の手を包むようにして杯を受け取ると、布越しに陽乃の視線を感じた。

「二杯目で恐縮ですが、俺がいただいても?」

応えを待たずに飲み干すと、その飲みっぷりに満足したのか村人は無理に勧めたことを陽乃に詫びて軒先に集まっている近隣の人々のもとへ戻って酒盛りを再開した。

「すみません、砥草さん……」

「大丈夫ですよ。これでもお酒には強いですから」

布を撒くって顔出した陽乃は申し訳なさそうに眉を下げていた。対して砥草は対して酒の回ってなさそうな顔で微笑んで見せる。

「それにしても、朝から堂々とお酒を飲むなんてそうそう無い体験ですね。……無いと思いますが、もし途中で潰れたら介抱、お願いしますね」

そう冗談めかして言えば、使命感に満ちた声で即答された。

 そうこうしている間にお菓子をもらい終えたのか、子供たちはわらわらと二人の足もとへ集まってきた。口にする内容は一様に、早く次のお菓子、もとい家に向かいたいとのこと。

ませた女の子から「お兄ちゃんとお姉ちゃん二人で分けてね」と言って渡されたお焼きを口にしながら、子供たちに急かされた狼男とゴーストは少し駆け足に引率へと戻る。

 さぁ、一日は始まったばかりだ。お祭り騒ぎといこう

 


 
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