No.739143

ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』

piguzam]さん

イカれた吸血鬼になど、誇りある我が名を教える必(ry

2014-11-24 00:59:27 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7068   閲覧ユーザー数:6098

前書き

 

最近、中々執筆が出来ません。

 

この時期の仕事が忙しくて死にそうですからwww

 

 

そしてコナン編はミステリーなだけにどうやって定明の活躍の場を無理やり作るかで凄い時間が掛かります。

更に文章の量もとんでもない事になるので……今回も謎解きの部分はコナンの顔面にスパーキィーングッ!!!

 

 

要は丸投げ省略www

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程、この館の住人である寅倉麻信が何者かによって殺害され、コナン達と別行動を取り始めた定明。

何時ものやる気の無さを現す様なダルイ目付きは成りを潜め、周囲に気を配るその瞳は、狩人を思わせる程に鋭い。

彼は一連の殺人事件と、夜の一族の生き残りにして、1年前から女性を惨殺している月村祐二との関連の無さを再確認した後、事件から手を引く決意を固めた。

周囲の目が有り過ぎて、自らのスタンド能力を思う様に使用する事が出来ない自分等、本物の名探偵達の足手纏いになると考えた末の結論だった。

それに、これから彼等は恐らく全員で行動を共にするだろう。

ならば、そこに居る人間からは犠牲者は出ないかもしれないという考えもあっての事である。

しかし……。

 

「……やっぱり、屋敷には誰も不信な人間は居ない、か……それに」

 

それは、集団で固まって各々が互いに見張り合うという状態に居る者達のみの安全である。

現在、そのルールから外れているのは、調理場の近辺に居る蘭と和葉。

そして食堂で逆さにぶら下がっていたこの館の主人、寅倉拍弥を目撃した現場に居なかった、寅倉守代の3人である。

周囲を警戒しながら歩く定明の傍らには、ドルルンというプロペラ音を響かせて彼に追従する様に飛行するスタンド、『エアロスミス』の姿があった。

ラジコン飛行機の様に飛行するこの『エアロスミス』にはCO2を探知する事が出来るレーダーが備わっている。

周囲の生命反応を捜索したり、自らの近辺を警戒する等といった生命の居場所を把握する事に長ける『エアロスミス』は、定明が多用するスタンドの一つでもある。

エアロスミスの能力で作られた、片目に装着されるプロペラ付きのバイザーで呼吸反応を調べ、定明は溜息を吐く。

 

「あの守代とかいう婆さんの呼吸も『無い』……考えたくはねぇが……もう、手遅れかもな」

 

そう絞り出された声はハリが無く、寧ろ疲労の色の方が強く感じる程だった。

この館の隅から隅に至るまで呼吸反応を調べたが、寅倉守代という人物と寅倉拍弥の呼吸を感知出来ない。

それはつまり、その二人がこの館から姿を消しているか……既に呼吸が出来ない状態にあるかという二択でしかないという辛い現実なのだ。

 

「……兎に角、俺のやる事は変わらねぇ……早く来てくれよ、イレイン」

 

定明は自分の為すべき事を決め、今も厨房に残る蘭と和葉の元へと向かう。

明日、トンネルの復旧と同時にこの館へ戻ってくる伯父の迎えに乗って、皆で生きて帰るという未来を掴む為に。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

一方その頃。吸血鬼騒ぎですっかりと怖がってしまい、ニンニク料理作りに没頭してしまった蘭と和葉はというと――。

 

「あっ。あったで蘭ちゃんッ!!ニンニクやッ!!」

 

「わぁ、凄い。こんなにいっぱい……ッ!!」

 

食料庫の中で奥の方に仕舞われていたニンニクを掘り出して大喜びしていた。

吸血鬼の格好をした寅倉拍弥の姿と、過去にあったという吸血鬼騒ぎの殺人事件で萎縮していた二人の取った行動。

それは吸血鬼の苦手なモノを用意して備えるという行動である。

吸血鬼の苦手なモノとして尤もポピュラーな物といえば、まずは太陽。

そして身近な物ならば聖書にニンニク、そして十字架だろう。

細かく掘り下げれば聖水や流水、に白木の杭なども挙げられるが、二人が思い至ったのがニンニクだ。

 

「こんだけあったら……あっ、アカンわ」

 

「え?」

 

「ほら、このニンニク芽が出てもうてるやろ?」

 

しかし、やっとお目当てのニンニクを見つけたは良いが、既にニンニクには芽が出始めてしまっていた。

これでは食べられないと嘆く和葉だが、そこに蘭が笑顔で待ったを掛ける。

 

「大丈夫だよ。芽を落としちゃえば、ちゃんと食べられるから。ウチでもコナン君とお父さん、普通に食べてるし……それより、ニンニクだけで大丈夫かな?」

 

この世に割りとファンタジーな生き物が居るという前提で話が進んでいるが、これにはHGS患者の存在が大きい。

世間的に認知されてるHGS患者の能力は、その殆どが能力使用の際にフィンが見られる事でその人間がHGSだと判別出来る。

そういった特殊能力を持つ人間も居るという事で、本来の世界観よりもファンタジーに対して未だ存在するのでは?と言われているのだ。

コナンや平次は逆にリアリストだからこそ、側に居る蘭や和葉はファンタジーに大らかな認識を持っている。

そして肝心の蘭の心配に対して、和葉はあるものを掲げながら笑顔で振り返る。

 

「これがあるから大丈夫や♪」

 

「じ、十字架ッ!?」

 

「せや。銀のナイフとスプーンで作ったから、最強やで♪」

 

和葉の持っていた物に驚きながらも、蘭はそのお手製の十字架を手に取る。

見た目はお手製全開の代物だが、形はちゃんと十字架の体を成している元食器。

 

「でも、こういうのって信心深いクリスチャンじゃないと効かないって言わない?」

 

「大丈夫やって。蘭ちゃんもクリスマスやってるやろ?毎年キリストはんの誕生日祝ってんねんから、効くに決まってるやんか♪」

 

「……う、うん……そだね」

 

当然の疑問を挟んだ蘭に対して、和葉は自信満々の笑顔で答え、蘭はその答えに苦笑してしまう。

蘭が唱えた疑問の答えになってるかは怪しい所だったが、余りにも輝かしい笑顔で答えたので蒸し返す事も憚れた。

そういった珍事を重ねながら、二人はニンニクの入った袋から幾つかのニンニクを取り出す。

 

「と、とりあえず、これだけあったら沢山作れそうだね」

 

「うん。ニンニク食べてちゃんと予防しとかんとな」

 

二人は袋からニンニクを取り出しながら笑顔で会話しつつ、倉庫へ戻ろうと腰を上げ――。

 

――ザッ。

 

「「ひッ!!?」」

 

背後、つまり倉庫の入り口から聞こえた何者かの足音に驚き、振り返りながらお手製の十字架を前に掲げた。

最初は怖さから目を閉じてしまった二人だが、直ぐに目を開けて前を見る……。

 

「……何やってんスか、二人共」

 

そして、ドアの前で呆れた表情を浮かべてこちらにそう問いかける定明の姿を確認した。

額を指で掻きながら、呆れ以外にも気まずそうな表情を浮かべる定明の態度に、二人は羞恥で顔を赤くしてしまう。

小学3年生の少年に、吸血鬼に怖がってお手製の十字架を結構本気で構える姿を見られた女子高生。

情けない所を見られた程度の話では済まなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

さて、二人が心配で探しに来たんだが……何か、凄え間の悪い所に来ちまった。

そう思う俺の目の前で十字架を構えたポーズのままに顔を真っ赤に染める蘭さんと和葉さん。

二人の足元には数十個のニンニクが無造作に転がってる。

どうやらニンニクを探しに来てたみたいだな。

 

「……さ、定明君じゃない。ど、どうしたの?」

 

「な、何でここに来たん?」

 

どうしたもんかと考えていたら、二人は愛想笑いをしながら十字架っぽいモノを背中に隠して会話を振ってきた。

どうやら今までの下りを無かった事にするつもりらしい。

 

「んにゃ、お二人が何してんのかな~と思って探しに来たんスけど……っつうか、そっちこそ何してんすか?そんな手作りの十字架っぽいモン翳して?」

 

「あっ、え、えっと、ニンニクを探してて……ね、ねぇ和葉ちゃん?」

 

「せ、せや!!ちょっとお腹空いたから餃子でも拵えよう思てな。そ、それでニンニクを取りに来てん」

 

「へー?……あぁ、怖いんスね?」

 

「な、何言っとるんやッ!!べ、別に吸血鬼なんて怖く……」

 

「ほ、ほら!!早く厨房に戻ろっか!!(和葉ちゃんッ!!それ自白しちゃってるからッ!!)」

 

もう合わせるのも面倒になって適当に返事してると、二人は素早くニンニクを拾って俺を倉庫から押し出す。

何が何でもさっきまでの事を無かった事にしたいらしいので、俺も深くは追求せずに一緒に厨房に戻った。

まぁ、一々藪を突いて怒られんのも嫌だし、俺もさっきの事は忘れるとすっか。

二人がせっせとニンニクの皮取りや芽の切り取りをする中、俺は隅っこに座ってボケっとその作業を見つめる。

 

「……ね、ねぇ。定明君?あの、旦那様は見つかったの?」

 

「そういえば、あれから何も聞いてへんけど……やっぱり、あん時見えたのって、私等の見間違いやったんかなぁ?」

 

調理する二人を見ながら時間を潰していたんだが、唐突に二人からそんな質問が飛んできた。

あんなに怖がってたのに何でだ?と思ったが、それでも何も情報が入らないのは不安なんだろう。

……実際は旦那さん処か、1人お亡くなりになっちまってるけどな。

ともあれ、それを二人に正直に伝えるのも余計怖がらせるだけだし、麻信さんの事は黙っておいた方が良いだろう。

 

「いえ、蘭さんと和葉さんが旦那さんを見たってのは間違い無いっすよ。あの後、岸治さんが現像した写真にバッチリ写ってましたから」

 

「えぇッ!?」

 

「ほ、ほんならやっぱり、旦那さんって……ッ!?」

 

「き、吸血鬼……ッ!?」

 

俺の言葉を聞いた二人は恐怖に顔を染めて、肩を震わせ始めた。

まぁ、ここだけ聞けば直に旦那さんを見た二人にとっては旦那さん=吸血鬼ってなるわな。

ふむ……まだ確定した訳じゃねぇけど、蘭さん達を安心させる為に少し嘘をついておこう。

 

「只ね?どうもアレってトリックだったっぽいんスよ」

 

「え?……ト、トリック……?」

 

「現像した写真にゃ、旦那さんの顔が鏡の中だけに写ってたんで、もしかしたらあの鏡がマジックミラーかもしれないって事っす」

 

「マジックミラーって……ドラマとかで良く見る、警察の取調室とかにある……」

 

「反対側から見たら只の鏡やけど、反対は普通に窓になっとるっていう、アレ?」

 

「そうッス。蘭さんと和葉さんが見た旦那さんって、首から下は見えなかったんじゃないッスか?」

 

震える二人を刺激しない様に言葉を選びながら説明すると、二人は少し落ち着きながら話を聞いてくれた。

俺の言葉でその時の事を思い出しているのか、二人は首を傾げて唸る。

 

「んー……確かに……」

 

「あの時は怖かったから驚いちゃったけど、言われてみたら……体は見えなかった……かも」

 

「かも?」

 

「だ、だって、あの時は気が動転してたし……」

 

「それに、羽川さんと守代さんの体が影になってて、ちょうど二人の顔の横に顔だけ見えただけやったから」

 

「あぁ。なるほど……まぁ兎に角、そういうトリックかもって話になって、今服部さんとコナン達が見に行ってる頃だと思いますよ?」

 

「そ、そうなんだ」

 

「せやったらあたし等が棺桶で見たんも、旦那さんの悪戯やったんかもな」

 

「そうだね……あんまり良い趣味とは思えないけど」

 

二人の話を聞きながら、俺は事態が良い方向に向かってる風を装って話を締めた。

それを聞いて、二人は安堵の表情を浮かべて大きく息を吐いて会話を始める。

どうやら少しは気を紛らわせる事は出来たみてえだ。

実際はその後で旦那さんが逆さ吊りで現れるわ麻信さんは殺されるわでそれどころの騒ぎじゃねえけどな。

しかも俺的には月村裕二が俺達……正確には蘭さん達を襲わないか気が気で無い。

一年前に起きた事件もこの館のすぐ近くの森らしいし、気が抜けない処だ。

 

「なぁ定明君。暇やったらやってみぃひん?餃子作り」

 

「え?」

 

「あっ、良いかも。定明君も今の内に料理の勉強しておいたら、自分でご飯も作れて便利だよ?」

 

と、ボケッとしていた俺に気を使ってか、和葉さんが俺を料理に誘い、蘭さんもそれに同調する。

……料理、か……好きって訳でもねえけど、暇潰しにゃあなるか。

このまま二人の調理風景を見ておくだけってのも暇だしな。

 

「そうっすね。丁度暇だし、教えてもらっても良いスか?」

 

「うん。良いよ」

 

「ほんならまずは手洗いして、それからやな」

 

暇潰しも兼ねて二人の誘いに乗り、和葉さんの指示通りに手洗いをサッと済ませる。

そしてお立ち台を借りて足りない身長差をカバーして、準備は完了だ。

すると、隣に立つ和葉さんから薄く伸ばして円形にした餃子の皮を手渡された。

 

「じゃあ、いくで?まずは、皮に餃子の餡を乗せて……」

 

和葉さんは説明を交えながら、目の前で器用に餃子を作っていく。

生地の両端に水を着けて両端を合わせてから、餃子のシンボルとも言える羽を拵えていく。

それであっという間に餃子が一個完成だ。

俺も今の工程をしっかりイメージしながら餃子を作ってみる。

案外簡単なモンだな。

 

「そうそう。上手だよ定明君」

 

「ホンマやなぁ。一回見ただけでちゃんとした餃子作れてるやん」

 

「つってもまぁ、俺の手で作ったから結構ちっちゃくなっちまいましたけどね」

 

蘭さん達は手放しで褒めてくれたが、俺の作った餃子は二人のより一回りぐらい小さい。

中身の餡が少なめだったし、羽も大きくし過ぎたな。

 

「そんな事無いよ。ちゃんと一口サイズくらいだし、コナン君なんて何枚餃子の皮を破っちゃった事やら」

 

「平次なんか餡入れ過ぎて、一枚の皮で包めれへんかったで」

 

「……不器用、なんスね」

 

稀代の高校生探偵が二人揃って料理下手かよ。

っていうか殆どの事はそつなくこなすあの二人でも、やっぱ料理は練習してなかったのか。

やっぱそういう面には興味が無かったんだろうな。

俺の苦笑いしながらの言葉を聞いた和葉さんは、額に手を当てて困った風に息を吐いた。

 

「英語とか喋れて勉強も出来る、運動神経も抜群やのに家事が出来へんってどうなんやろうか」

 

「そうだよねぇ。新一も外国語喋れたり、バイクとか車の運転は出来るのに料理とか洗濯は全然出来ないもん」

 

「スペックが突き抜けておかしいってのに、何でそんな家庭的なスキルが壊滅的なんスか?幾ら何でも偏り過ぎでしょうに」

 

「ホンマ、平次がマトモに作れるんなんか精々が玉子かけご飯とかやで?あんなんで将来一人暮らしでもしたらどないすんねやろ」

 

「そん時は和葉さんが飯を作りに行ってあげたら良いんじゃ無いっすか?そしたら正に通い妻っすね」

 

「かぁッ!?か、通いッ!?」

 

「ちょ、ちょっと定明君ッ!?何でそんな言葉を知ってるのッ!?」

 

「ソースは伯父さんが今度見るって言ってたドラマっすね。題名がそれでしたけど?」

 

「そ、そういえば……沖野ヨーコさんの新しいドラマがそんな題名だったっけ……教育に悪い……かなぁ?」

 

俺の言葉を聞いて頭を抱える蘭さんと真っ赤になってアワアワ言ってる和葉さんを放置して、どんどん餃子を量産していく俺。

っていうか作ってて思ったんだが、どう考えても餡も皮も作りすぎじゃね?

多分この人達の事だからこの館の人達の分も考えて作ったんだろうけど……凄い量になるぞ、コレ。

 

「さっきからせっせと作っちゃいましたけど、コレ全部いっぺんに焼くんスか?」

 

「ブツブツ……。ハッ!?そ、そんな事せえへんよ?皆の分焼いたら、残りは冷凍庫にでも入れといてもらおう思てるから……」

 

さっきから通い妻の件でボソボソ何か言ってた和葉さんだが、俺の質問で正気に戻って俺の質問に答えた。

成る程、初めから余らせるって事も考えてたのか。

 

「あっ。でも、確かこの冷凍庫って鍵が掛かってるんじゃ……」

 

「あぁ、せやった……ッ!?う、上の方は?」

 

「えっと……」

 

と、ここで目の前の冷凍庫が使えない事を思い出したらしく、二人は「しまった」て表情を浮かべる。

俺も初めて知った事なので冷蔵庫を見てみる。

確かに冷凍庫には鍵が付いていて、多分和葉さん達はあのコックさん達に聞いたんだろう。

もしかしたらって感じで蘭さんが上の棚を開くが、そこにはギッシリと冷凍食材が入っていて、とても餃子を入れられるスペースは無さそうだ。

 

「駄目だね……じゃあ、焼いた後でメイドさんかコックさんに冷凍庫の鍵を借りに行こっか」

 

「うん、そやね。そしたら私等で焼いていくから、定明君はそこの棚からお皿出してくれへん?」

 

「うーっす」

 

「ほんなら蘭ちゃん。焼こっか」

 

「うん。後でコナン君達にも食べさせなきゃ」

 

ねー、と楽しそうに笑いながら、蘭さんと和葉さんは餃子を次々と焼いていく。

ジュウゥという餃子の焼ける音を聞きつつ、皿を出してから俺は窓の外へと目を向けて辺りを見回す。

……このまま月村祐二が動く事無く、この館からおさらばできればそれに越した事は無い。

今もこっちに向かってるであろうイレインに任せておけば、それでサッと片が付く。

そもそも月村祐二が蘭さん達を狙うかもなんて、俺の考え過ぎかもしれねえし。

……どうにも身内の事になると、俺は神経質過ぎるのかもな。

 

「よしっ。定明君。焼けたから、一つ食べてみてくれるかな?」

 

「ん?あぁ、りょーかいッス」

 

少しアンニュイな気分を切り換えようと思ってた俺に、蘭さんが餃子を一つ差し出してくれたので、少し冷ましてから頂く。

うん、ちゃんと皮も肉も火が通ってるし、何より美味い。

そのまま蘭さん達に感想を伝え、二人が餃子を焼いてる間に俺はひかるさんに冷凍庫の鍵を借りに行って欲しいと頼まれた。

俺としても二人が焼くのを見てるだけってのは少し居心地の悪さを感じていたので了解して、また厨房から移動する。

何処に居るか探していると、コナンと服部さん、そして執事の古賀さんを除いた面子は全員食堂に集まっていたので、簡単に見つかった。

3人は屋敷の中を調べに行って、ここに居る人達はここで待つ様に言われたらしい。

それで事情を話すと、ひかるさんは快く冷凍庫の鍵を貸してくれた。

 

「はいコレ。大事な鍵だから無くさないでね?」

 

「うっす。あぁそれと、他の人達も腹減ったら厨房に来て下さいって言ってたッス」

 

「あら?私達もお呼ばれして良いの?」

 

「そうッスね。寧ろ結構な量拵えてたんで、来てくれないと困るんじゃねえッスか?」

 

「ふふっ。それじゃあお腹が空いたら行かせてもらうわ」

 

「まぁ、知らないからそんな事してられるんだろうけど……今はその気遣いがありがてぇな」

 

蘭さん達からの伝言を聞いて、実那さんはにこやかに返事を返してくれた。

岸治さんも呆れてる感じで頬杖を突いていたが、何処か安心した様な言い方をしてる。

 

「ぐすっ……う、うぅ……ッ!!」

 

そして、この場に居る人間の中で涙を流していたのは、旦那を失った瑠璃さんだ。

時折嗚咽を零しながら目から流れる涙を拭き取る姿はとても痛ましい。

俺は身内の人間以外の事なら極力関わりが無い限りはどうでも良いと思えるが、さすがに今の瑠璃さんは不憫に思える。

訳も分からない内に自分の旦那の命を……自然死や事故では無く、悪意を持って奪われた。

そんな人間を許せる筈も無いだろうし、理不尽な不幸に見舞われた瑠璃さんの心中は推し量れない。

未来が真っ暗になったとか、まだ経験していない俺にはそんなチープな表現しか出来ないがな。

俺みたいなガキの言葉なんかで、この人の涙を止めるなんて無理だ。

用事も終わった俺は何も言わずに瑠璃さんの背後を通って静かに食堂を後にする。

 

「う、うぅ……麻信さん……」

 

「瑠璃……ん?瑠璃、その胸ポケットの……」

 

「ぐすっ……な、なに?……え?……」

 

「ラベンダーの花か?お前そんなのポケットに入れてたっけ……?」

 

「い、いえ。入れてなかったけど……」

 

「マジかよ?……気味悪いし、捨てちまえば良いんじゃないか?」

 

「……」

 

「瑠璃?」

 

「……いいえ……持っておくわ……この香り……ちょっとは落ち着くから……」

 

だがまぁ、ちょっとした俺なりの心遣いだけしておこう。

麻信さんの敵は、コナンと服部さんの二人がとってくれるだろうからな。

食堂から聞こえていた啜り泣く声が少し和らいだのを感じながら、俺は再び厨房に戻った。

そしてひかるさんから借りてきた鍵を手渡し、蘭さん達が餃子を焼いてるのを眺める事、10分くらい。

 

「うん。これだけ焼いたら充分やろ」

 

「どう考えても焼き過ぎだと思うのは俺だけッスかね?1人何皿計算だよって話ッスよ」

 

「あ、あはは……ま、まぁ、お代わりが沢山出来るよって事で」

 

「せ、せやで。大は小を兼ねる言うしな」

 

それって物の大きさの諺じゃ無かっただろうか?

満足そうな和葉さんにツッコミを入れて、俺は調理場の皿を数える。

一皿6個入りの餃子が19皿もある光景は圧巻を通り越して何とも言い難い光景だ。

その時、一瞬の稲光の後にガシャアンッ!!と強烈な雷鳴が轟いた。

結構近いな、と呑気に考えていた俺と違い、蘭さんと和葉さんはその強烈な音に身震いする。

やっぱりまだ例の吸血鬼騒ぎがかなり尾を引いてるんだろう。

 

「ごっつい雷やなぁ……」

 

「うん……怖いよねぇ……でも、餃子いっぱい焼いたし」

 

「せやせや。ニンニクパワーで乗り切るでぇ♪」

 

「そんじゃあ早速、そこの人にニンニクパワー注入してあげて下さいよ」

 

「「……え?……そこの人?」」

 

架空の存在に負けない様にと気合を入れる二人に、俺は入り口を指差して言葉を掛ける。

その言葉に首を傾げながら二人がそちらに目を向けると――。

 

 

 

「フー、フウゥー……ッ!!」

 

 

 

そこには、涎を垂らした息の荒いひかるさんが――。

 

 

 

当然、驚いた蘭さんと和葉さんは「きゃああああッ!?」と大声で悲鳴をあげた。

まぁ気持ちは分からんでも無い。

今のひかるさんって涎垂らしながら目が少し血走ってたし。

 

「和葉ッ!!どうしたぁッ!?」

 

「大丈夫、蘭ねーちゃんッ!?」

 

と、そこにナイスタイミングで現れた二人の名探偵。

悲鳴を聞きつけたにしては早過ぎる気もするが、それを口に出す暇も無く、事態は進行していく。

蘭さん達が驚きながら見てる先で、ひかるさんが何やら必死に何かをしてる。

服部さん達からしたら背中しか見えないだろうから、ひかるさんが何をしてるか分かってないだろう。

 

「おいアンタ――」

 

だから、服部さんは大股でひかるさんに近づいて肩を掴んで動きを止める。

 

 

 

「ハグハグハグハグハグ……ッ!!!……んむ?」

 

「「――え?」」

 

 

 

一心不乱に餃子を食するひかるさんの動きを。

 

 

 

「「……餃子?」」

 

目が点になってる服部さん達を見て、ひかるさんは口に半分咥えていた餃子を飲み込む。

 

「ん……ゴックン……私、お腹が空いてて、餃子の匂い嗅いだら我慢出来なくなっちゃって……ごめんなさい、勝手に食べちゃって」

 

ひかるさんの行動が予想外だったのか、二人は表情と一緒に体の動きも硬直させてる。

そんな二人から視線を外して、ひかるさんは蘭さんと和葉さんに「上手に出来ましたね」と褒め言葉を言う。

まぁさすがの名探偵二人もこんな展開は予想外だったに違いない。

俺だってひかるさん腹減ってるんだなぁ、とか分かってても動きがドン引きモノだったし。

まぁそれに気付かずに詰め寄る服部さんとコナンの姿には笑わせてもらったが。

そんな事を考えてると、ジト目で俺を見るコナンと目が合った。

 

「……定明にーちゃん、知ってたでしょ?」

 

「んー?そりゃまぁ、俺の位置からなら丸見えだし?」

 

「し、知ってたんならはよ教えろや……ッ!!」

 

「別に良いじゃないっすか。あんな事があった後なんだから、面白いモン見て気分転換したかったんスよ」

 

「……え゛?」

 

「あ、あんな事?」

 

これぐらいのお茶目は勘弁で、と言葉を続けるが、さっきまで半笑いだった蘭さんと和葉さんが表情を引き攣らせながら俺を見てくる。

いけね、そういえば二人には説明してねーんだった。

そうは思うが、既に口から出た言葉はもう無かった事にする事も出来ない。

表情を引き攣らせながら俺を見る蘭さん達としまったって顔をする俺の間に漂う微妙な空気。

そんな空気の中でコナンと服部さんは何故かひかるさんに質問しながら、何故か餃子の残りが入っている冷凍庫の中を見てる。

おーい。幼馴染みより、生の餃子の方が気になるのかー?

 

「あー、その……聞きたいッスか?」

 

「聞きたない聞きたない……ッ!!」

 

「……ッ!!(コクコクッ!!)」

 

仕方なく苦笑いしながら二人にそう問うが、二人は耳を塞いで何も聞かないと言い出す。

まぁ知りたくも無いだろうな、実は上の階で一人亡くなっているだなんて。

 

「まぁ、大丈夫や。今日ここで起きた怪奇現象の半分は解けたさかい」

 

「え?」

 

「ホ、ホンマなん平次?」

 

「そうは言うても、この坊主が一つはトリック解いてる分も合わせてやけど」

 

「お?って事は、俺の考えはドンピシャ?」

 

「うん。定明にーちゃんの言った通りだったよ。あんな簡単に気付くなんて、ホントに凄いよねー」

 

どうやら例の鏡のトリックは俺の予想で当たってたらしく、コナンは俺に嫌味の無い賞賛を向けてくる。

この分ならこの事件も直ぐに、この稀代の名探偵二人の頭脳で解決するだろう。

とりあえず心配事の半分は何とかなりそうなので、俺も少し気が楽になった。

 

「えぇッ!?じ、じゃあ、さっき定明君が言ってたマジックミラーのトリックって……」

 

「あぁ。この坊主が現像された写真見て、いっちゃん初めに気付きよったんや」

 

「だから、蘭ねーちゃんと和葉ねーちゃんが見たのは吸血鬼なんかじゃ無くて、普通の人間だったんだよ。まだ説明してないけど、他の皆もそれが分かったら安心してお腹も減るんじゃないかな?」

 

「凄いよ定明君ッ!!直ぐにそんなトリックに気付けるなんてッ!!」

 

「さすがは『眠りの小五郎』の甥っ子ッ!!もしかしたら小五郎のおっちゃんと同じで、名探偵になれるんとちゃうッ!?」

 

((あのおっちゃんが名探偵?無い無い))

 

「只の思い付きッスよ。それを言い出したら蘭さんの方が素質あるでしょ?実の娘なんだし」

 

手放しで褒めてくれる蘭さん達の言葉に肩を竦めながら返事をする。

正直、スタンド能力のお蔭で分かった事だから大きな顔で威張れる事じゃないからな。

とりあえず余り出歩くなと俺達に言い含めた服部さんとコナンは親族の人達に幾つか分かったトリックを伝えに行った。

今の状況では固まっていた方が、何処かで息を潜めてる殺人犯に狙われる事も無いからな。

皆にトリックの事を離してバラけない様に呼び掛けるそうだ。

ひかるさんも餃子を満足行くまで貪ったので、二人と一緒に食堂に向かう事に。

三人が出て行った後、キッチンの上には空になった餃子の皿が7つほど……一人で良く食ったなぁ、ひかるさん。

 

「いっぺんに無くなりましたね。まさかあんなに一人でバクバク食うとは……」

 

「よ、よっぽどお腹が空いてたんだね……」

 

「まぁ作った側としては嬉しいんやけど」

 

呆れた食欲で餃子を平らげたひかるさんに対して3人で苦笑いしてしまう俺達。

それからは特に何事も無く、時間が只ゆっくりと経過していった。

あった事といえば、蘭さんと和葉さんの話に偶に相槌を返して、二人が餃子を時々摘むのを見ているぐらい。

時々俺も餃子を摘ませてもらったから、腹も良い感じに膨れてきてる。

まぁ二人の護衛の為に何時でもスタンドを使える様に気を張ってたから、あまり時間が過ぎた感覚は無いけどな。

そうやってノロノロと過ごしていたら、ひかるさんが一人で厨房に戻ってきた。

 

「あっ。まだこちらにいらっしゃったんですね」

 

「はい、ちょっと話し込んじゃって……」

 

「ひかるさんはどないしはったんですか?」

 

「私は、岸治さんに頼まれてお酒を取りにきたんですけど……他の方達もお部屋に戻られましたから、貴方達も戻られた方が良いですよ?多分もう誰も餃子は食べに来られないと思いますので……」

 

「は?皆もうバラけて部屋に戻ったんスか?あんな事があったつぅ、こんな時に?」

 

((だからこんな時って何!?知りたくないけど!!))

 

戸棚からワインの瓶を取り出しながらこっちに話を振ったひかるさんの言葉に、俺はキョトンとする。

人が殺されたってのにバラバラに行動するなんて一番アウトな選択だ。

正に自分から孤立して狩ってくれと言ってる様なモノ……あの二人がそんな間抜けな行動を由とする訳無いだろう。

だっていうのに個人行動を許したって事は、もしかして事件が解決したって事か?

色々と考えながら首を捻ってると、ひかるさんは苦笑いしながら屈んで、俺の耳元に口を寄せてくる。

 

「……実はね?私もそうなんだけど、皆さんあの色黒の子が刑事だと思ってたから、指示に従ってたの。でも、あの人は刑事さんじゃなくて探偵だって言い出して、しかも世間が持て囃す自称の探偵だって分かっちゃったから、皆さん『子供の指示になんて従えるか!!』って、怒って部屋に戻られちゃったのよ」

 

「……OH,NO」

 

何とも馬鹿らしく、それでいてそりゃそうだよなと思える発言に、俺は何とも言えなくなってしまう。

まぁあの親族の人達の言いたい事も分からなくは無い。

普通は偉そうに指示してくるのが子供なら、『年下の癖に何を分かった気でいる』って反発する。

自分達よりも年齢が低い場合、特定の職業……例えば警察の人間だっていうなら従うだろう。

しかし探偵という職業で尚且つ国が認めたライセンスも持たない……言い方は悪いが『頭が良い』だけの高校生(自称探偵)には従う気にもならねぇか。

どれだけ実績が過去にあろうとも、年齢が若いとそれをマグレで片付けちまう人間だって居るのは事実だ。

多分、服部さんもコナンもまさか刑事だと勘違いされてたとは思わなかったんじゃねえかな。

それで話にズレが出て刑事じゃないと暴露すれば、今度は子供の言う事には従えない、と……アホらしいぜ。

 

「それに……あの後、守代さんも……」

 

「ッ!?……マジ?」

 

「うん……」

 

どうやら事態は俺の楽観視してた時よりも酷い事になってるみたいだ。

驚いて聞き返したら重々しい表情で頷いて肯定するひかるさんから視線をズラし、俺は浅く溜息を漏らす。

つまり、麻信さんに続いて、予想してた通りに守代さんも殺されたって訳だ。

あの守代って婆さんも殺されたとくれば……こりゃ遺産問題に間違い無いだろ。

殺されてるのは拍弥さんの遺産相続権を持ってる親族の人間だけに限定されてるし。

 

そしてひかるさんはなるべく早く部屋に戻る様にと言い残して、ワインとグラスを持って厨房を後にした。

 

ひかるさんが居なくなると、さっきまで話してた蘭さん達の声が止んでいる所為でシンと静まり返ってしまう。

振り返って二人に視線を向けるが、二人は震えながら俺に視線を見ていた。

……まぁ、何も知らないのに他の奴等が「あんな事があったのに」なんて連呼されちゃあ不安にもなるか。

でも、だからといって話そうにも二人は聞きたくなさそうだしなぁ。

 

「……とりあえずどうします?部屋に戻るなら送るッスよ?」

 

「えッ!?え、えーっと……(部屋には一人用のベットが一つしかなかった……つまり)」

 

「(寝る時は一人になるっちゅう事や……ッ!!平次もコナン君もどーせ事件に夢中やろうし……)さ、定明君はその後どうするん?」

 

「俺ッスか?俺は……このまま部屋に戻っても、ベットに寝転がったら寝ちまうんじゃないッスか?」

 

((つまりその後は部屋で一人っきりッ!?無理無理無理ッ!?))

 

とりあえず部屋の前まで着いていこうかと提案したんだが、何故か俺がその後どうするかと聞かれて普通に答えたら、二人とも首を激しく横に振り始めた。

何事か分からず疑問に思っていると、何故か二人はかなり必死な表情で俺に詰め寄って肩に手を置いてくるではないか。

……え?マジで何なのこの状況?

 

「ま、まだ眠くないし、もう少しお姉さん達とお話しよ、定明君ッ!!」

 

「ほ、他の人が食べへんねやったら、あたし等で餃子残り片付けなアカンし、定明君もまだお腹減ってるやろッ!?」

 

「は、はぁ?……まぁ、別に俺は良いッスけど」

 

かなり必死な様子でこの場に引き止めてくる二人の様子に引き気味だが、俺もこの場に残る事で話を纏める。

正直、部屋まで送るのもダルイし守る対象が固まっててくれんなら、その方が楽だ。

だから俺はもう一度椅子に座り直して、二人が冷凍庫から出した餃子を解凍するのを見ながら英気を養う事に。

……こっちの殺人犯もそうだが、月村祐二の方は帰れる様になるまでは油断出来ねぇ。

今夜はこのまま徹夜になるだろうな……クソ面倒くせぇけど……。

その後も今までと変わらず、二人が話を振ればそれに返すのくり返しで時間が過ぎていった。

そして、日もてっぺんを越して幾ばくかの時が流れた時――。

 

 

 

「あっ、電話……平次からや(pi)もしもし平次?どないしたん?」

 

 

 

遂に、この殺人事件もフィナーレを迎えた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

和葉の携帯に平次からの連絡が入って1時間程過ぎた。

既に草木も寝静まった夜中、この館のメイド服に身を包んだ桧原ひかるが廊下を静かに歩く。

まるで誰にも悟られない様にする静かな動きで彼女が目指したのは、この寅倉家にある部屋の中で一際異質な物置。

 

その名も、『南蛮部屋』と呼ばれる部屋であった。

 

吸血鬼に纏わる噂が絶えない当主、寅倉拍弥の納める寅倉家。

しかしそれは彼自身のみにあらず、この寅倉家の先祖代々にまで及ぶ話なのである。

遡る事江戸時代の頃、この辺りを治めてたのが、この寅倉家の先祖の当主であった。

当時、彼はこの地の領民に慕われてはいたが、子宝にめぐまれず家督を弟君に譲るのではと噂されていた。

しかしその噂が登り始めた頃、殿様は大変美しい側室を迎え入れ、遂に待望の世継ぎが生まれる。

これで家督を譲らずに、これからも家は安泰だ、目出度し目出度し……普通ならこう話は締め括られるだろう。

 

――が、ある嵐の夜に事件が起きた。

 

何と世継ぎを産んだその側室が崖から転落して、木の枝に胴を貫かれた状態で発見されたのである。

この余りにも不自然且つ悲しい出来事を不審に感じた殿は、側室の側近たちを南蛮から取り寄せた器具で拷問した。

そして、常々世の中に蔓延る様な醜い真相が明らかになった。

若君が森に入ったまま戻らないと、ある男が側室を騙し、側室を森に行かせた事で、側室は非業の最期を迎えてしまったのだ。

側室を謀ったのは勿論、若君が生まれなければ家督を継いでいたであろう、当主の弟である。

これに憤怒した殿は、弟やその企てに加担した者達を側室と同じ様に串刺しにして、森の中に並べた。

それ以来その殿は、『串刺し大名』と呼ばれる様になった。

これはドラキュラのモデルとなったヴラド三世が反逆者を串刺しにした事で呼ばれる事となった『串刺し公』という異名と瓜二つである。

しかし江戸時代にその様な歴史が日本に伝わっていた筈も無く、模倣された訳でも無いのに重なるこの異様な類似性。

それこそが、この寅倉家を『吸血鬼の末裔』と呼ぶ者が居る理由である。

 

そして現代にまで残る串刺し大名の使った拷問器具を保存している部屋こそ、ひかるが目指す南蛮部屋の正体であった。

 

何故、只のメイドに過ぎないひかるが夜中にコソコソとその南蛮部屋を目指したかと言えば、全ては彼女が受け取ったメールにある。

彼女は先程、現在も行方知れずであり、今夜の殺人事件の犯人という可能性が尤も高い寅倉拍弥に呼び出しを受けたのだ。

内容は今朝、話しそびれた重要な話を南蛮部屋に聞きにきて欲しいとの事である。

しかも今朝と同じで誰にも気づかれる事が無い様に来て欲しいという怪しい内容であった。

夜中に1人で、しかも目下犯人として一番疑わしい相手からの呼び出し。

彼女はその呼び出しに対して応え、南蛮部屋へと赴いたのである。

 

「旦那様?ひかるです……メール見て来ましたよー?旦那さまー」

 

暗い南蛮部屋の扉を開けて、ひかるは小さい声でそう呼び掛けながら部屋の中へと足を踏み入れる。

保管されているのが拷問器具という事もあって、この南蛮部屋には電気が取り付けられていない。

夜の暗さも相まって廊下から照らされる灯りのみを頼りに部屋の中心へ進むひかるだが――。

 

 

 

――ガチャ。

 

「ッ!?」

 

 

 

突如、扉が閉まって廊下の光を閉ざされてしまう。

これに驚いたひかるが背後、つまり入ってきた入り口へと視線を向けると――。

 

パッ!!

 

「ッ!?」

 

扉の後ろに隠れていた何者かが、ひかるに向けて懐中電灯を照らす。

人間は一度暗闇に目が慣れた時に突然光を認識してしまうと、体がそれについていけずに硬直する事がある。

それが自身の網膜を直接照らそうとしている場合、反射的に目を覆って光から目を逸らす。

刑事ドラマ等で卓上ライトを向けられて目を背ける事と一緒だ。

ひかるもその例に漏れず、突如背後から向けられた光に驚いて目を手で隠してしまう。

 

――それこそが、『犯人』の狙いであった。

 

ひかるに向けられるライトの光以外に照らす物が何も無い中、正体のハッキリ見えない何者かは口にナイフの鞘を咥えて、ライトを持たない手でナイフを振り上げる。

口元を吊り上げた醜い笑みを浮かべ、何者かは心中で歓喜していた。

これまでに二人の人間を殺害した殺人鬼という名の鬼は、誰に言うでも無く心の中で叫ぶ。

 

 

 

『これで最後だ』――と。

 

 

 

ドガァッ!!

 

しかし、次に鳴った音は、ナイフが肉を裂く音では無かった。

遮断されていた部屋に光を運び込むそれは、閉じた扉が強引に蹴破られた音なのだから。

 

『ッ!?』

 

「フッ!!――せやぁッ!!」

 

『(ドスゥッ!!)ぐほぇッ!?』

 

短く吐かれた呼吸の後、鍛えられたしなやかな足が伸び、振り返った殺人鬼の水月を鋭く射抜く。

人体に於いて鍛える事が困難であり、急所の一つでもある水月を狙って繰り出される前蹴り。

ブーツを履いて繰り出されたその技は、プロレスに於いて反則技とされていた事もあるトウキックだ。

ひかるを襲おうとした何者かに対し、夕食を吐き出させそうな程に強烈な蹴りを食らわせた乱入者――蘭は蹴り足を戻して半身の構えを取る。

空手の都大会等で優勝経験を持つ蘭の蹴りは、その成績に違わず強烈な威力を誇る。

 

『がっ!?……うぁッ!!』

 

しかし、口から唾液を垂らしながら最早死に掛けといっても過言ではない程にフラつく殺人鬼だが、それでも執念は凄まじいモノだった。

気を抜けば倒れそうな状態にありながら、殺人鬼は振り返りざまにナイフを背後に居るひかるへ目掛けて振るう。

空手を習っている蘭とは違い、武道の経験が無いひかるでは、この一撃は対処出来ないであろう。

 

「――んッ!!(パシッ!!)」

 

『なッ!?』

 

――但しそれが、『本物』の桧原ひかるならば。

 

「ふっ――せいッ!!」

 

『(ガァンッ!!)うごあッ!?』

 

薄暗い南蛮部屋に、固いものが地面に落ちた時の様な痛々しい派手な音が鳴り響く。

次に聞こえたのは、ナイフを振るった筈の殺人鬼が床に叩き伏せられた際に漏れた悲鳴である。

ひかる――否、ひかるに成り済ましていた少女に頭上から振るわれたナイフ。

少女はそのナイフが到達する前に相手の手首と肘を両手で掴み、力を外側に流して体勢の崩れた所を『投げた』のだ。

日本に古来から伝わる護身術、合気道の突き小手返しを応用した技。

ヘアピンで髪の毛をひかると同じ様に上げてメイド服を着てひかるになりすましていた少女――和葉は、相手の力を利用する合気道の二段持ちだ。

加えて幼馴染みの服部平次と共に事件に巻き込まれた経験も相まって、彼女は護身の合気道を上手く活用していたのである。

床に投げられてナイフも落とした殺人犯に対して、和葉と蘭は構えを崩さずに警戒する。

 

「あ、あのぉー……大丈夫ですか?」

 

「ッ!?出てきちゃ駄目ッ!!」

 

「アンタが協力するのは声だけでええねんッ!!」

 

「は、はい……ッ!?」

 

しかし、警戒する二人の背後、つまり部屋の入り口から聞こえてきた声に、二人は殺人犯から視線を外して注意する。

入り口からこちらに体を半分だけ出して声を掛けてきたのは、和葉と交換しか服を着たひかる本人だった。

その後ろにはひかるを心配してか、一緒に居る執事の古賀の姿もある。

二人はこの事件の謎を解いた平次とコナンに、犯人が次に狙うのはひかるだと聞かされ、二人の出した作戦に協力したのである。

ひかるが拍弥からのメール……に『偽装された』殺人犯からの呼び出しに素直に従った様に見せかけ、入れ替わった和葉と後を尾ける蘭の二人で追い込む為に。

二人は入り口から顔を覗かせるひかる達に注意して直ぐに、床に伏せる犯人に目を向けるが――。

 

「あれッ!?居なくなってるッ!?」

 

「え?……ホンマや……消えてもうた……でも、これも平次の言った通りやな」

 

「うん。私達はここで、相手が戻ってきたら止めないとね」

 

しかし、そこに犯人の姿は無く、影も形も残されていない。

後一歩の所まで犯人を追い詰めていたのに……と、二人は悔しがりはしなかった。

何故なら、犯人がこの部屋の『隠し通路から逃げる』事は平次から聞かされていたからである。

しかもこの先には平次達が待ち構えているのだから、もう犯人も逃げる事は出来ない。

これでこの事件も終わる、もう誰も死ぬ事は無い、と安堵する二人。

 

 

 

 

 

だからこそ、二人は――いや、この館の誰もが気が付かなかった。

 

 

 

 

 

自分達を守る為に、力を振るう少年の戦いが行われているという事に。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……ッ!!……クソッ!!何なんだッ!?」

 

寅倉家の正面に聳える森、その奥深く。

館の前に立つ門番達では声すらも認識出来ないであろう場所。

その森の中で、身綺麗な服に身を包んでいた月村裕二は声を荒らげて目の前を忌々しく睨む。

旅行者達から奪ってきた現金で手に入れたブランドスーツは、既に血だらけで見る影も無かった。

血が止まる様子も無い事から、相当に傷が深い事が分かる程だ。

極上の女を迎えに行くならば、それなりの格好をし迎える……それが月村裕二なりのこだわりである。

例えその女にそぐわぬ陵辱を犯し、果てに血を吸い尽くして殺してしまうというのに、彼はそのこだわりだけは捨てなかった。

何故なのかと問われれば、それが『自分の礼儀だから』と平然と答えたであろう。

洋食に於いてフォークとナイフを外側から使うのが普通だと言う様に。

相手からすれば自分の身を穢し尽くした後で、その生命すらも蹂躙する吸血鬼でしか無いというのに、月村裕二は何時もデートに向かう様な心境でいたのだ。

自身の躰を犯し、穢し尽くされてさめざめと涙を流す女に一方的な愛を語り、最期は催眠で心を操りながらその血を吸い尽くす。

 

それが月村裕二の『愛情の表現』なのである。

 

これが、限界まで血を吸えない環境で生まれてしまった歪みなのかは分からない。

 

 

 

そしてこれからも誰一人、その真相を知る者は現れないであろう。

 

 

 

「何なんだ……何なんだよ――何なんだよお前はぁあああああああああッ!!?」

 

 

 

今夜で月村裕二は、裁かれて(壊されて)しまうのだから。

 

 

――そう。

 

 

 

「……」

 

 

 

両手をポケットに入れて仁王立ちする、守るという『覚悟』を決めた少年に――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

地面に膝を着いて俺に叫ぶ月村裕二を前に、俺は注意を逸らさずに立っていた。

奴の体にダメージを与えてはいるが……腹の虫が収まりそうにねぇ。

月並みな感想だけどよぉ……コイツだけは許しちゃいけねえんだ。

怒りに震える月村裕二に対して、俺は奴を再起不能にする為に意識を戦闘に割り振った。

 

 

 

何故、俺が森の中に居て、月村裕二と対峙しているのか……それは一時間前の、和葉さんにきた電話に関係してる。

 

 

 

服部さんから和葉さんにきた連絡で、和葉さんは囮作戦でひかるさんの役をやる事になった。

この殺人事件の犯人を炙り出す為に、最期の犠牲者としてターゲットにされたのがひかるさんだったらしい。

その話を『ハーヴェスト』で盗み聞きしていた俺は、蘭さんと和葉さんに促されて宛てがわれていた客室へと戻る事になった。

さすがに囮作戦をやるとは思わなかったが、どうやら服部さんとコナンは真相に辿り着いた様だったので、俺は一安心出来た。

これで残るは、明日の迎えが来るまでに月村裕二が現れないかという事だけだったんだが……俺の不安は的中してしまう。

蘭さん達が部屋を出てから館の中を色々物色して戦闘の準備を整え、屋敷の屋根の上に立って森を『スタープラチナ』で見張っていたら、五分もしない内に見えてしまった訳だ。

 

 

 

夜闇に紛れて走る、狂気の笑みを浮かべた月村裕二の姿を。

 

 

 

しかも奴は、この屋敷へと一直線に向かってきていたので、この館の女性がターゲットなのは丸分かりだ。

だから、俺は波紋の呼吸を整えて身体能力を強化しつつ、森の中を走った。

門番の監視は『アクトン・ベイビー』という姿を透明にするスタンド能力を使用して誤魔化したが。

『アクトン・ベイビー』は第四部に出てきた赤ん坊(後にジョセフ・ジョースターの養女となった)静・ジョースターのスタンドだ。

物体や生物を透明化させるスタンド能力で、保護色を纏って擬態する『メタリカ』と違い、純粋に物を透明に出来る。

しかも俺が解除しない限りは透明のままなのだ。

話を戻すが、『アクトン・ベイビー』の能力を使って自身の姿を消しながら門番の目を掻い潜って、奴が館の側に来る前に足止め出来たって訳だ。

奴が来る進路上で姿を表し、俺は奴と接触した。

……まぁ、接触した瞬間に、この男は氷村遊と同じ類の下種野郎だと理解出来たがな。

 

「ん?……何だ小僧?」

 

「……」

 

「ふんっ。まぁ良い……僕は今から麗しいお嬢さん達を迎えに行かなければならないんだ。そこをどきたまえ」

 

何も喋らずに見つめる俺を迷子か何かと勘違いしたのか、月村裕二はそう言って俺に道を譲れと言う。

しかしそれにも反応を示さない俺を見て、奴は目尻を吊り上げた。

 

「……聞こえなかったか?優しく言ってる内に消えろと言ってるんだ。僕はとても忙しくてね?例えるならそう……何気ない日常の中で運命の相手を見つけ、違う電車に乗ってしまいそうな彼女に一目でも良いから自分を見てもらいたいという思いで、電車の扉が閉まる前に愛しい彼女に話し掛けようと全力疾走している……そんな心境なんだ。今の言葉を聞けばどんなバカにでも分かるくらいに、僕は急いでる」

 

「……」

 

「そんな人間を邪魔する相手に送る言葉は何か知ってるかい?『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて』ってヤツさ……お前の様な路傍の石ころ程度に構ってる暇なんてな――」

 

「……コ」

 

「ん?」

 

何やらどうでも良い事をゴチャゴチャ言ってる馬鹿を放置して、俺はスタンド能力を発動させる。

夜の一族の人間であろうとも、俺のスタンド能力は見えない事は忍さんやスタンド能力を得る前のすずかで分かってる。

本音としちゃ、あの二人とコイツを比べるなんてのは有り得ねえんだけど。

俺の発現したスタンド能力によって、俺の左腕に『数字の書かれた座標ブロックのような装置』が取り付けられた。

それと同時に、俺の足元からヤツの足元までの地面に腕と同じ『X,Yの座標とマス目』が走る。

 

さぁ、準備は万端だ。

 

「……(シュルルルル)」

 

「はぁ?……おいおい小僧。何だそのボールは?まさかそれを僕に当てようとでも言うのかい?いや、そんな訳無いよなぁ?そんな事が無理だという事くらい、幾ら子供の君でも分かる事で――」

 

「……オラァッ!!!」

 

奴の嘲りを無視して、俺は回転させた鉄球を奴の顔面目掛けて投げる。

しかし奴はそれを面白く無さそうな顔で眺めながらヒョイと射線から横に躰を動かし――。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

ドグシャァアアッ!!!

 

 

 

「――え?」

 

 

 

『頭上から落ちてきた鉄球』によって、左肩の骨を砕かれた。

一体何が起きたのか全く理解していない間の抜けた面を晒す月村裕二。

しかし肩を、人体の一部を砕かれてそんな反応で済むのは、脳が起きた現象を理解してないからだ。

やがて、状況を理解した脳は活発に動き――。

 

「――ぎ――ぎゃぁああああああッ!?」

 

痛覚という刺激信号を持って、その異常を人体に伝える。

圧し砕かれた肩を抑えて汚ねえ悲鳴をあげるクソ野郎を冷めた目で見つめながら、俺は次の道具を取り出す。

……精々味わいな……テメエに『食料』として殺された人達の恨みってヤツを……ッ!!

屋敷の倉庫から拝借してきた五寸釘を6本持ち、それを目線の高さまで掲げてから、地面の『マス目』に落としていく。

そして、釘が地面に落ち切る前に、奴の足がはみ出した位置のマス目と『同じ記号が彫られた腕のブロック』を指で押し――。

 

ピッ。

 

ドスドスドスドスドスッ!!!

 

「あぁあああああああああああああああああああッ!?」

 

奴の足に五寸釘を突き立ててやった。

余りの痛みにのたうつ事すら出来ず、絶叫するしかない月村裕二。

普段ならその絶叫と涙に攻撃の手を緩めていたかも知れないが……今の俺にそんな優しさは無い。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

肩が砕けて投げ出された左腕に、エニグマから取り出した真っ赤に熱したパチンコ弾の雨を。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

五寸釘で傷だらけになった足に、煮えたぎる熱湯を。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

右腕と肘の繋ぎ目に、回転させた鉄球を。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

うずくまる背中に、ガラスの破片や尖った石の礫を。

 

 

 

ピッ。

 

 

 

地面の土を握り締める右の手のひらに、鎌を。

 

 

 

最早考えつく限りの拷問染みた攻撃を加え続けた俺に対して叫ぶ月村裕二。

……俺がここまで執拗な攻撃を加え、奴を苦しめる理由はちゃんとある。

それは奴には見えなくて、俺にだけ見えている『彼女達』の存在だ。

目に見える膨大な彼女達の姿……その全てが、悲しみに暮れて紅い血の涙を流している。

そう、彼女達とは月村裕二の手によって非業の死を遂げた、吸血されて殺された女達の幽霊だ。

スタンド使いである俺は、性質上幽霊という存在を認識出来る。

だから、例え見たくなくとも、彼女達の姿と悲しみや嘆き――怒りという感情が伝わってきちまうんだ。

 

『助けて……助けて……』

 

『許さない……許さないぃ……』

 

『お父さん……お母さん……助けてよぉ……』

 

「ッ!!……」

 

あちらこちらから止む事の無い悲しみや怒り、恨みのコーラス。

これが俺の感情を荒立たせ、奴に苛烈な攻撃を加えている理由だ。

こいつは一体……何人の人間を食料として殺しやがった……ッ!!

しかも俺の目に見える彼女達の幽霊は、その誰もが衣服を乱雑に破かれたあられも無い姿を晒してる。

俺でも簡単に想像が出来て……尚の事、俺の怒りが膨れ上がる。

だが、何時迄もこの男を嬲る事に時間を掛け過ぎると、俺が部屋を抜け出してる事がバレてしまう。

故に、コレ以上は時間を掛けられない。

 

「何なんだ……何なんだよ――何なんだよお前はぁあああああああああッ!!?」

 

ここで時間は冒頭に戻る訳なんだが……クソ以下であるコイツに対して、俺はそろそろトドメを決める。

彼女達の無念も、俺には痛いぐらい伝わった……だから、俺は使うつもりも無かった物を使う事にした。

両手をポケットから取り出し、予めポケットに入れておいた紙を持つ。

俺はそれを開かずに、睨みつけてくる月村裕二に視線を向けて口を開く。

 

「……『チョコレート・ディスコ』」

 

「ハァ、ハァ……ッ!?…………な、何?」

 

「……俺のこの能力のスタンド名だ。『チョコレート・ディスコ』……只のそれしか言わない。以上で終わりだ。それだけ(・・・・)

 

「な、なんだそれは?スタン、ド?」

 

いきなり話し出したかと思えば、自分の理解の及ばない事を言われて聞き返してくる月村裕二。

しかし、俺はそれ以上は語る気になれない。

 

「他には無い……俺のセリフは終わり……テメーに解説してやる事柄はな……」

 

「ッ!?や、やめ……ッ!?」

 

何も話すつもりは無い、とだけ言って、俺は両手に持った紙を地面に向けて広げる。

もう何度も俺が物を投げる度に自身に降り注いでいるからか、奴は怯えながら後ずさって逃げ始めた。

しかし、奴が居るのは『チョコレート・ディスコ』のマス目の中間地点。

そこから幾ら逃げようとも、俺の攻撃から逃げる事は出来ない。

いや、逃してやる必要も無え。

逃げようとする月村裕二を見据えながら、俺は紙を空中で広げ――。

 

 

 

煮え滾った油を、ヤツの体に降らせた。

 

 

 

「――がぁあああああああああああああああああああああッ!!?」

 

瞬間、奴の体の至る所から沸き上がる煙と、ジュウゥというチキンを揚げた時の小気味の良い油の音が辺りに充満していく。

しかも着ているスーツに染み渡っていく所為で、油から逃げる事も出来ずに、痛みを誤魔化したいが為に地面を転がる。

そうする事で今までに受けたダメージの数々が再び蘇るという悪循環へと陥っていた。

体中に奔る激痛に悶える月村裕二の姿。

それを見たお蔭なのか、少しづつ周りに浮かぶ女性達の顔の悲しみや怒りが薄れていく。

だが、まだまだ血涙を流して恨み辛みを吐く人達の姿は消えない。

……テメェが苦しむ事で、彼女達の恨みが薄れるなら……それで少しでも償いが出来るなら良かったじゃねえか?

もう戻る事の無い彼女達の命を貪った代償を、その身で少しでも支払いやがれ。

 

「……『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』」

 

俺は『チョコレート・ディスコ』を解除し、『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の触手で奴の足を絡めとる。

そのまま奴を吊り上げ、付近の大木へ一振り。

 

「(ドグシャァッ!!)ぐげぇッ!?」

 

「……」

 

「(バゴォッ!!)ごはぁッ!?(ドゴンッ!!)おぐうぇッ!?」

 

バゴ、ズドン、と連続して月村裕二を叩きつける音が、辺りに木霊する。

地面や大木、突き出た岩にぶつけて肉や骨を叩く。

それを数度繰り返してから吊り上げると、奴は逆さまの状態でプラプラと空中で揺れながら、小さく呟いた。

 

「……こ……殺す……絶対……」

 

逆さに吊られているというのに、奴の目は俺を捉えて離さず、口からは呪詛が零れる。

……これだけ叩きのめしても、まるで反省の色無しか……なら、もっと嬲って欲しいって事だよな。

まだまだ生きの良さそうな月村祐二を掴んだまま、『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』は触手を伸ばして思いっ切り振るう。

すると、掴まれてる月村祐二もそのまま投げ飛ばされ、10メートル程先の大地に叩き伏せられる。

更にそれで終わらず、俺は『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の触手をパワー全開で引き戻させた。

 

「グッ……グギッ……」

 

痛みに呻き声をあげる月村祐二を、宙に身体が浮く程の速度で手繰り寄せながら、俺の傍に『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の本体を呼び寄せる。

俺の隣に現れた『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』は、両手の平を突き出した構えを取り、ドボドボと緑色に輝く液体を滴らせる。

 

 

 

……この先は、俺からの利子分だ……とっておきやがれッ!!

 

 

 

「エメラルド・スプラッシュッ!!」

 

ドバババババババババババババババババババババババババババババババババババババババッ!!!

 

法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の手から撃ち出される破壊のビジョン。

エメラルドに輝く拳より大きな宝石を高速で撃ち出すのが、このエメラルド・スプラッシュだ。

遠距離操作タイプのハイエロファントが持つ切り札にして、破壊力の低さをカバーする必殺技である。

触手で奴を引き寄せながらエメラルド・スプラッシュを浴びせるこのコンボからは逃げる事はできねえ。

 

「――が……」

 

「『スタープラチナ』ッ!!!」

 

『オラァッ!!』

 

飛来する宝石に身を撃ち抜かれながら俺に向かって引き寄せられる月村裕二の体。

既に引っ張られた力のみで俺に向かってくる奴を眺めながら、ハイエロファントを戻して『スタープラチナ』を呼び出す。

 

 

 

そして、俺は俺の定めた法律に則って――。

 

 

 

「――ブッ飛びなッ!!!」

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアアッ!!!』

 

奴を、裁いた。

 

「ぷぎゃぴぃいいいいいいいいいいいいッ!!?」

 

何とも汚え悲鳴を上げながら、奴は木々をブチ抜いて飛んで行く。

やがて30メートル程吹き飛んだ場所にあった大岩にぶつかって、地面にべチャリと音を立てて沈む。

俺はそれを確認しつつゆったりとした足取りで野郎に近づいた。

 

「ぐ、ぴ……」

 

「……成る程。忍さんが言うだけあって、耐久性は不死身に近いってか。フン」

 

ピクピクと気持ち悪く痙攣する月村裕二を見ながら、俺は鼻を鳴らす。

これだけやっても死なねえってのは、正直驚いてるがな。

 

「定明ッ!!!」

 

と、呆れながら足元のナマモノを見下ろしていた俺の背後から、少しばかり緊迫した声が響く。

振り返ってそちらに視線を向けると、そこには何時ものメイド服に身を包んだイレインの姿があった。

右手に日本刀を持ち、左手にはあの電撃を生み出す鞭が備わっている。

イレインはロングスカートのメイド服を着てるとは思えない俊敏な動きで俺の側に走り寄ってきた。

 

「イレイン?お前どうやってここまで来たんだ?確かトンネルはまだ復旧してる途中だったんじゃ……」

 

「馬鹿ッ。そんなもん向こうに車置いて山を超えてきたに決まってんだろうがッ」

 

「おいおい……普通にとんでもねえ大きさの山だぞ?」

 

少しばかり驚きながら質問すると、イレインはさも当然という様に答える。

しかし、あの山を超えてきたってのを当たり前の様に答えるとは思わなかった。

さすがに最強の自動人形なんて呼ばれてるだけはあるって事だな。

そのスペックの高さに呆れる俺から視線を外して、イレインは鋭い眼光で足元の月村祐二を睨みつける。

 

「コイツが……月村祐二……なんだな?」

 

「あ?まぁ、そうだけどよ。お前忍さんから相手の顔くらい教えられてんだろ?ターゲットの顔も知らねえなんて、どんなヒットマンだよ」

 

何とも間抜けな発言をしたイレインに呆れた目を向けるが、何故かイレインから送られるのはジト目だ。

 

「お前の所為だっての。こんだけボッコボコに腫れてんのに顔なんて判別出来る訳無いだろ。寧ろこれで生きてる事実に引くわ」

 

俺に対して苦言を漏らしながら、イレインは瀕死の月村の髪の毛をムンズと掴んで俺の目の前にその顔を晒す。

見た目美女が平気な顔で瀕死の相手の髪の毛引っ掴んで顔を起こす方が、俺的にはドン引きだわ。

そんな事を思ってたら、イレインによって強引に引き起こされたクソ野郎の顔面ドアップが、俺の視界を覆い尽くす。

目の前に差し出された顔は確かに元の3~4倍は膨れ上がってて、誰かなんて判別は出来ない。

唇もタラコみたいに膨れてるし、目なんて青タンできてるし……ってか。

 

「うぉい。気色わりぃモン近づけんじゃねえ」

 

『ドラァッ!!』

 

「(ドゴォッ!!)げぷうッ!?」

 

近づけられた顔が余りにもNGだったので思わず『クレイジーダイヤモンド』で殴り飛ばしてしまった。

しかし、ここで俺が忘れてたのは、月村がイレインの手で引き起こされてる真っ最中だという事で……。

 

ブチブチッ!!

 

「あ」

 

「うわッ!?お前何て事しやがるッ!!アタシが掴んでるのに殴ったりするから、髪の毛がアタシの手に絡んで残っちまってるじゃねーかッ!!あぁーッ!!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いッ!!」

 

「あ~……悪い」

 

さすがに悪いと思ったので、手に残った毛を必死になって振り落とすイレインに謝る。

それ自体は俺が悪いというのは分かってるんだけど、早めに手を振るの止めた方が良いんじゃね?

さっきから鞭の付いた手を振り回してる所為で、足元の月村に振り回した鞭がビシビシ当たってるし。

傍から見たら女王様と奴隷……いや、ドマゾな主人とサドなメイドの図にしか見えん。

まぁ痛い思いしてんのはクソ野郎だから別に良いか。

さっきまでのシリアスな空気が消えて、何故かSMプレイ真っ只中の図から目を逸らし、俺は辺りを見回す。

あれだけ辺りを漂っていた筈の幽霊達は、今や何処にも見当たらない。

それが、もう殺人は起きない事で安心して成仏したのか、それともイレインが現れたから居なくなったのかは定かじゃねえ。

……でも……安心して成仏して欲しいと願うより、俺には出来る事は無い。

そんな風に考えていた俺だが、そろそろ戻らないとマズイだろう。

俺が一人で屋敷から抜け出してるのがばれたら面倒な事になる。

 

「イレイン。俺はそろそろ戻らねぇとマズイんだけどよ。とりあえずコイツはどうする?」

 

「ふぅ……あぁ。コイツは夜の一族の会議に掛けるから、アタシが連れて帰るつもりだったんだけど……」

 

手に残った毛を全部落として一息ついていたイレインに問い掛けると、彼女も真面目な顔で俺に視線を合わせてきた。

俺が指差すのは、最早ボロ雑巾って言えるほどに全身ズタボロな月村祐二。

しかし何故か言い淀んでいたのでどうしたのか聞いてみると、ここに来る時に置いてきた車に積もうにも、何も持って来て無いらしい。

 

「トンネルが崩落したのは、お前からメールで聞いた忍が教えてくれたんだけど、さすがに山を超えるなら急がないとって思って、コイツを放り込むつもりだったアタッシュケースも置いてきちまった」

 

「マジかよ……しゃーねえ。俺がコイツを月村家に運ぶか」

 

「え?いや、別にそこまでしてくんなくても、暫く身を潜めてトンネルが復旧したら車まで引き摺って行くぞ?」

 

「確かに普段ならそれでOKだって俺も思うけどよ……今日ばかりはそうもいかねえんだ……実は――」

 

首を傾げるイレインに、俺はこの先の館で殺人事件が起きた事を説明する。

俺は忍さんには、過去に吸血鬼が犯人だと騒がれてる事件があった森の近くの屋敷に泊まるとしか説明してなかった。

だからイレインも近くの館で別の殺人が起こってるという事は知らないって事だ。

案の定説明すると、イレインはとても驚いた顔になる。

 

「だから、トンネルの復旧が完了すると同時に警察がこの辺りで捜査をすると思う。さすがにその状況でイレインがこいつを車に積んで海鳴に行くのは難しい筈だ」

 

「そ、そうだったのか……まぁ、アタシと初めて戦った時も堂々としてたし、別に大丈夫だよな」

 

「あ?だから警察が……って……もしかしてお前?」

 

「ッ!?な、何でもないよッ!!べ、別にアタシは……」

 

「俺の心配してくれてたのか?」

 

「だ、だから違うっつってんだろッ!?あ、あたしは、ほら、その……こ、この最強の自動人形たるアタシに余裕で勝っといて、只の殺人犯程度に怯えてたら許さないってだけだよッ!!誰がお前みたいな奴の心配なんてするかってのッ!!…………ま、まぁちょびっとは、その……アレ、だったけど」

 

もしかしてと思って聞いてみただけなんだが、当のイレインは俺の言葉に耳まで真っ赤にして怒鳴り散らしてきやがった。

何やら支離滅裂な言い訳をした後でプイッとそっぽを向いてしまったが、それでも心配はしてくれてたんだろう。

それがまぁ、多少捻くれてるとはいえちゃんと伝わったから、俺はちゃんと礼を言う。

 

「そっか……ありがとな、イレイン」

 

「……フン……何に対しての礼だか……で?結局コイツはどうするんだい?」

 

そっぽを向きながら鼻を鳴らすイレインだったが、時間が無い事も承知してるので、再び話を戻す。

俺はその事については既に考えは付いているのだが。

 

「あぁ。まずは『天国の扉(へブンズ・ドアー)』で『誰にも攻撃、吸血は出来ない』、『身体能力80%封印』、『異能は使えない』、『月村家の人間の命令には逆らえない』を書き込んで……」

 

言葉にしてイレインに説明しながら、俺は対人でお馴染みとなっている『天国の扉(へブンズ・ドアー)』を使用。

これだけ書き込めば、もうコイツは誰に対しても危害を加えられなくなる。

俺は書き漏らしが無い事を確認して、『天国の扉(へブンズ・ドアー)』を解除し、『クレイジーダイヤモンド』を呼ぶ。

そのまま月村祐二に『クレイジーダイヤモンド』の能力を使用して、身体の傷を治していくが……。

 

「100%は治さず、所々を歪ませて治す。そうすりゃあ逃げようとする事も出来ねえだろ」

 

「……なるほどなぁ。確かに、触ってみると骨の継ぎ目がズレてたり、神経が圧迫されて無理に負荷を掛けて動かすと激痛が奔る様に治されてる。これなら普通に動くだけで精一杯だろうね」

 

「あぁ、これなら最悪、忍さん一人でも簡単に取り抑えられるだろうぜ」

 

イレインが横で感心した様に月村祐二の身体の内部を診断してるが、触っただけでそこまで見抜ける方が凄いと思う。

まぁ、これならトイレとかの日常生活には差して困らねえだろう。

そうじゃねえと忍さん達がこの屑の世話をする事になっちまうし、そうなったら今度こそこいつは恭也さん辺りに切り刻まれる事になるだろーな。

 

「良し。後は……ちょっと場所移動するぜ。ここじゃ目的のスタンドが使えねえからよ」

 

「ん。分かった。アンタに任せるよ」

 

そして、俺はこのクソ野郎を月村家に運ぶ為にトンネルのある方までクソ野郎を担いだイレインと共に向かう。

館の門番の視界の範囲は、出た時と同じ様に『アクトン・ベイビー』で俺達全員を透明にして素通り。

だが足音は消せないので静かに移動しつつ、目的の『電話ボックス』の前に来た。

次にイレインに携帯で忍さんに電話してもらい、今から俺のスタンドで月村祐二を送るから、その準備をして欲しいと頼んでもらう。

さすがに事前連絡無しだと、向こうが混乱しちまうからだ。

イレインが忍さんと電話している間に、俺は電話ボックスに繋がってる電線をスタンドで切断し、準備を整える。

 

「おう、じゃあ始めるぞ、忍……定明。向こうの準備が出来たってよ、やってくれ」

 

「あいよ……行け、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』」

 

バチチチチチッ!!!

 

「う、うぐ……」

 

未だに気絶から回復しない月村祐二を、電気のスタンド『レッド・ホット・チリ・ペッパー』で掴んで、奴も電気に変える。

『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は物質や人間すらも電気に変換して、電線の中に引きずり込む事が可能だ。

この能力を使って奴を電気に変換し、海鳴の月村家の電話線ポートを経由して、向こうに送り出す。

これなら誰にもバレる事は無いし、イレインも安全に海鳴に帰れるな。

やがて、奴を連れ込んで数分ぐらい経ち、俺は『レッド・ホット・チリ・ペッパー』が月村家に到着したのを感じ取った。

そのまま電話線から月村祐二を元の姿に戻して吐き出し、チリ・ペッパーをここで呼び戻す。

そういえばイレインはトンネル手前の休憩所(自販機が沢山並んだセルフサービスエリア)に車を置いて来たって話だったな。

このままイレインもそこに送り届けてやるか。

 

「……ん、そうか……あぁ分かった。伝えておくよ……あぁ、それじゃ(PI)おい定明。忍から伝言だ」

 

「ん?忍さん、何だって?」

 

「無事に奴は向こうに着いたそうだ。それと今日は時間が無いから、また海鳴に帰って来た時に改めてお礼をするってよ。だから楽しみにしてて欲しいってさ」

 

忍さんからの伝言を伝えてくれたイレインはそう締め括ると、何故かニヤニヤした笑みを浮かべ始める。

……こういう話って、大概は俺にとって面倒くせー事になるんだよな。

理屈じゃなく第六感が訴える面倒事の警報。

もはやそれに対して追求するのも面倒なので、俺は適当に相槌を打ってイレインをトンネルの向こうに送り届ける。

破壊した電線を治せば、これで今回の事件は完全に終了だ。

向こうの事件もコナンと服部さんが終わらせてるだろうし……もう危険は無いだろう。

全部が終わって気が楽になり、俺は背伸びをしながら大きく深呼吸をする。

 

「スゥ……ハァ~……さて、帰って寝るか……もう二度と、こんな面倒事はご免被るぜ」

 

張り詰めさせてた神経を緩めて頭をボリボリ掻きながら、俺は透明になりながら部屋を目指して静かに歩く。

もう眠くて眠くて仕方無えぜ……。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

定明が消えて、後に残されたのは静寂と電話ボックスの小さな灯り。

 

 

 

そして――。

 

 

 

――ありがとう。

 

 

 

透明になって夜闇に消えた定明に手を振る、半透明の少女達の幽霊だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――狂気の吸血鬼、月村裕二。

 

 

 

体中を継ぎ接ぎにされた上に、能力を封じられ――。

 

 

 

   () () () () 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 

やっぱり中々文章が煮詰まりませんな……作中で説明しなかったので、ここで説明をば。

 

 

 

『チョコレート・ディスコ』

 

第7部、スティール・ボール・ランにてディ・ス・コが使用していたスタンド。

 

X、Y座標を指定することで物質や同じものをその座標位置へ落下させる事ができるスタンド。

腕に座標ブロックのような装置が付いており、何かを放り投げた瞬間に腕の装置で座標を指定すればその座標位置に物が瞬間移動し落下することになる。

相手の攻撃でも射程距離内であればスタンドの特性で跳ね返す事が可能だが、本体からの攻撃方法自体は武器や道具を用いるしかない。

自身の足元から伸ばすことのできる座標内が射程距離であるが、自身の肉体表面上にも座標を移動させる事ができる為、ある程度応用がきくものと思われる。

作中で相対したジャイロが評す通り「かなり無敵」な能力。

 

 

 


 
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