No.739109

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-11-23 23:36:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:588   閲覧ユーザー数:576

 

 

 story49 疑い

 

 

 如月はマンションの自室に戻ると、西住を自分のベッドに寝かせて、鞄を近くに置いて床の座布団に座り込む。

 

「みほ・・・・」

 

 ベッドに横になって眠っている西住を見ると、深くため息を付く。

 

(くそ・・・・斑鳩め。まさか直接仕掛けに来るとはな)

 

 何か行動を起こす事は頭の隅に留めておいたが、まさかこのタイミングで現れるとは思っていなかった。

 

(だが、あそこまで徹底的にやるとは・・・・。外道が・・・・)

 

 思い出すだけでも、あの時止める事が出来なかった自分に苛立ちが募り、右手を握り締める。

 

(あれが人のやる事だと言うのか・・・・)

 

 怒りが込み上げてくるも、何とか押し殺す。

 

 

 

(・・・・だが、あいつの言う事は・・・・・・悔しいが、正しい)

 

 認めたくは無かったが、認めざれない事に、如月は奥歯を噛み締め、歯軋りを立てる。

 

 勝負の世界では勝者が絶対。いくら西住が人の命を助けた所で、それで負ければ何の意味も成さない。

 戦車道は戦争ではない。しかし、戦車道は武道であって、勝負の世界である事に変わりは無い。

 

 最も、これが戦争であれば、西住の行動は部隊を危険に晒し、全滅を引き起こしかねない。

 

 結果的に斑鳩の言う事は、様々な視点から見ても正しくなる。

 

「・・・・・・」

 

 悔しくも、認めないといけない現実に、ただ如月は苛立ちを募らせるばかりだった。

 

 

 

「ん・・・・・・」

 

 と、西住はくぐもった声を漏らし、目を覚ます。

 

「西住・・・・」

 

 如月はすぐに立ち上がり、西住を見る。

 

「き、如月、さん」

 

 死んだ魚のような目で、西住は如月を見る。

 

「・・・・大丈夫か?」

 

「・・・・は、はい」

 

 力が無い声で返事を返す。

 

「そうか」

 

 あまり良い状態とは言えないが、少なくとも反応しないまで心が折られていないだけでも幸いだった。

 だが、逆に言えばこの状態が一番危険ではあるが・・・・

 

(完全に心を折るより、あえてその寸前にしていると言うのは、精神的にジワジワと苦痛を味わせる為か・・・・)

 

 斑鳩がとことん潰しに掛かって来ているのが分かる。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 ゆっくりと西住は半身を起き上げると、周囲を見る。

 

 顔色は良くは無く、青ざめている。

 見るからに生気が感じられないような雰囲気であった。

 

(この状態は、危ういな)

 

 西住の状態は極めて良くは無く、如月は顎に手を当てる。

 

(明日は練習が休みだったのが幸い、と言った所か)

 

 本来なら決勝戦に向けて練習をする予定だったが、明日自動車部と整備部によって全戦車の大幅なメンテナンスを行うと言う事で、練習が出来ない状態となり、あまり良くは無いが、練習は休みとなった。

 

 

「・・・・・・」

 

 如月は時計と窓の景色を見ると、西住に目を向ける。

 

「西住。今日はもう遅い。今晩はここに泊まっていけ」

 

 時間はもう六時半過ぎで、外は真っ暗だった。

 

「だ、大丈夫ですよ。部屋は、すぐ、隣ですし・・・・」

 

「一人ぐらい増えたところで困る事は無い」

 

「でも、如月さんに、迷惑が、掛かります、から・・・・」

 

「心配するな。それに――――」

 

 西住の状態を見ながら、如月は言葉を続ける。

 

「・・・・今の状態のお前を、一人にさせるのは少し危険だからな」

 

 今の西住は例えるなら今にも倒れそうなジェ○ガな状態だ。ちょっとした事で精神が崩壊しかねない。何より、この状態では何をするか分からない。

 

「で、でも・・・・」

 

「遠慮するな。お前の事を心配して言っているんだ」

 

「・・・・・・」

 

 西住は申し訳なさそうに、ゆっくりと縦に頷く。

 

「で、でも、如月さんは、どこで寝るん、ですか?」

 

「私は下で良い。お前は私のベッドで寝るといい」

 

「・・・・・・」

 

「食欲はあるか?」

 

「あ、は、はい。少しは・・・・」

 

「それは良かった」

 

 少しでも食欲があるだけでも幸いと言った所だろう。

 

「少し待ってろ。軽く雑炊を作る」

 

 

 如月はすぐに台所に向かうと、シンプルに味付けした雑炊を作った。

 

「ゆっくりで良いからな」

 

「は、はい。ありがとう、ございます」

 

 西住は如月より雑炊が入った小皿と蓮華を受け取り、雑炊を見る。

 

 少し見つめていると、蓮華ですくい、口に運んで食べる。

 

「・・・・おいしい、です」

 

 少しだが、顔色の血色が良くなり、それからはゆっくりのスペースで食べる。

 

「・・・・・・」

 

 彼女の様子を見ながら、如月も一緒に小皿に入れた雑炊を蓮華ですくい、ゆっくりと食べる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後西住を連れてシャワーを浴びせて、自分のパジャマを貸して着させた(しかし案の定サイズが合ってなく、少しぶかぶかだった)

 

 

 西住をそのままベッドで寝かせ、如月は座布団を四枚縦に並べ、その上に横になって毛布を被って寝る事にした。

 

 

 

 

 

 しかし、夜中に何度も西住は悪夢を見ていたのか、くぐもった声を漏らして魘されていた。如月はその度に起きて彼女を宥めた。

 結局如月は一睡も出来ず、寝不足となった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・・・・」

 

 物凄く眠い中、イチゴジャムを塗った食パンを食べながら如月は西住の様子を窺う。

 

 一応食欲はあり、ゆっくりではあったがマーガリンを塗ったトースト一枚を食べている。

 

 しかし、西住の様子は昨日と何ら変わりは無かった。

 

(・・・・どうすればいいのだ)

 

 内心で如月は呟き、静かに唸る。

 

 

 武部達を呼ぶべきかと考えたが、逆にそれが危ういと勘が察した。

 

(今のみほには、何もかもがマイナス要素でしか聞こえないかもしれない)

 

 斑鳩にあれだけの精神攻撃をされて、辛い現実を知ってしまった以上、励まそうとしても、彼女にはマイナス的な言葉にしか聞こえず、逆に傷付く恐れがあった。

 そうなってしまえば、手も足も出せない。

 

(頼るべき者にも頼れないとはな・・・・。やつは徹底的に叩き潰しに来ていたのか)

 

 斑鳩のえげつなさを改めて思い知らされる。

 

「・・・・・・」

 

 しばらく如月は彼女の様子を観察して何とか解決策を考える。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 その頃、所変わって――――

 

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

 その空間だけが、異常に張り詰めた空気となり、両者は威圧感を醸し出す。

 

 

「わざわざお呼び立てとは、どうかしましたか、隊長?」

 

「用件は分かっているはずだ」

 

 白々しい態度を取る焔に、まほは目を細める。

 

「お前は昨日、大洗に向かったそうだな」

 

「えぇ。次の相手校の情報収集の為の偵察行動として、赴いていました」

 

「・・・・ではなぜ、エリカはお前が大洗の生徒と接触していた、と言ったのだ?」

 

「さぁ。何かの見間違いでは?」

 

「・・・・・・」

 

「そういうも副隊長はなぜ大洗に?」

 

「偵察行動の為だ」

 

「おや。目的が被ってしまったみたいですね。それでしたら一緒に行ければよかったですね」

 

「・・・・・・」

 

 

「集めた情報は後ほど提出します。他に何か?」

 

「・・・・・・いや、無い。練習に戻れ」

 

「了解しました、隊長殿」

 

 敬礼をまほに向けると、焔はその場を離れて行った。

 

 

 

(・・・・やはり、何か隠しているな、狸が)

 

 焔が立ち去った後、まほは腕を組む。

 

(やつには不穏な動きがあると噂があったが・・・・・・どうやら私の予想以上だな)

 

 西住流と斑鳩流は昔から交流があったが、どうも最近斑鳩に不穏な動きが見られる。互いに疑い、様子を窺う。そんな状態だ。

 

(エリカの報告ではやつはみほと翔に接触し、何かを喋っていた。その後にみほが座り込んだとの事だが)

 

 偵察と言ったが、実際は逸見が昨日大洗に行くと言ってヘリの使用許可を申し立てて来た。

 最初こそは断るつもりだったが、事前に斑鳩が大洗に向かうと言う情報が入り、最近怪しい噂が立ち始めた焔の監視をすると言う事で、特別に許可を出した。

 

 そこで妹がそんな状態になるとなれば、斑鳩は何かしらの事を喋った事になる。

 

(斑鳩流の本質を考えれば、みほにあの事を喋ったのか)

 

 長らく交流があったからこそ、相手の流派の本質を把握している。

 そうなれば、去年の全国大会と、その後の事件、そして西住流の事を話し、精神的に痛めつけたと考えれる。

 

(勝つためには手段を選ばない。だが、いくらなんでも、これはやり過ぎだ)

 

 いくら次の決勝戦の相手とは言えど、自分の妹がここまでされるとなれば、姉として何もしないわけにはいかない。

 それに、戦車道として、あまりにも行き過ぎた行動だ。

 

(・・・・やつは敵より厄介な存在だな)

 

 敵に回すと恐ろしい存在であるのはもちろんだが、味方に付けても気が抜けれない存在でもある。

 

(味方であっても、気が抜けないとはな)

 

 下手をすれば、自分も標的にされる事も無いとは限らない。

 

 

(試合中に何かしらのアクションを取るとなれば、警戒しなければならない)

 

 さすがに裏切る行為をする事は無いだろうが、それに近い事をしでかしかねない。

 

(・・・・やはりやつを調査するには、彼女の協力が不可欠となるか)

 

 まほの脳裏に、一人の人物が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 所戻って大洗―――――

 

 

「・・・・・・」

 

 呆然と座り込んでいる西住を見て、如月はどうすべきかと腕を組む。

 

 

 時間は正午になったが、未だに西住の状態に変化は無い。

 

 

(武部達に相談しても、どうにもならないか)

 

 一応事情と現状を説明して、武部達に連絡を入れたが、すぐにはどうとは言えなかった。

 

(・・・・何も出来ないのか。目の前で友人が苦しんでいると言うのに)

 

 悔しさ紛れに、如月は奥歯を噛み締める。 

 

(私はいつも・・・・いつも・・・・!)

 

 

 

「・・・・如月、さん」

 

 力が無い声で、西住が口を開く。 

 

「ど、どうした?」

 

 如月は片膝をつけてしゃがみ、西住の声に耳を傾ける。

 

「・・・・私、今まで、間違って、いたんでしょうか・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・私の戦車道って・・・・何だった、のでしょうか・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 如月はどう言って上げればいいか分からず、黙り込む。

 

「・・・・やっぱり、戦車道って、勝たないと、意味が無いんですよね・・・・」

 

「それは・・・・」

 

 違うと言いたかったが、言えない状況とあり、口を閉ざす。

 

「・・・・私の戦車道って・・・・・・何なの、でしょうか・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・助けたかった人も、助けられず、むしろ苦しませて・・・・自分でも、なにがしたいのか・・・・・・もう、何も、分からない・・・・」

 

 西住は震えながら、涙を流す。

 

「・・・・みほ」

 

 如月は握り拳を作り、歯を噛み締める。

 

 

「・・・・私が、生きていても・・・・・・何にも、ないですよね。むしろ、邪魔なだけです、よね」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・だったら・・・・・・生きている意味なんて・・・・・・無いです、よね」

 

「・・・・・・・!」

 

 如月はその言葉で吹っ切れ、西住の胸倉を掴む。

 

 

「如月、さん?」

 

 西住は状況が飲み込めなかったが、如月はお構いなしに胸倉を掴んだまま立ち上がり、西住を無理矢理立たせる。

 

「・・・・みほ。お前・・・・・・今何を言ったのか、分かっているのか」

 

「・・・・・・」

 

「生きる意味が無い?それが何を意味しているのか、分かって言っているのか」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・そこまで、やつの言葉が響いたと言うのか」

 

「・・・・・・」

 

 

「・・・・確かにやつの言う事は、悔しいが、認めたくは無いが・・・・・・正しい」

 

 喉に引っ掛かった言葉を、搾り出すように口から出す。

 

「勝負は勝者が絶対。例え人の命を救おうがしまいが、負ければそれで終わりだ」

 

「・・・・・・」

 

「だが、お前は言ったはずだ。『勝ち負けより大切な事がある』と」

 

「それは・・・・・・」

 

「・・・・それすらも、分からなくなったと言うのか」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

 一瞬引っ叩いてやる、と考えたが、なぜにそう考えてしまったのかを後悔した。

 

(暴力を振るったところで、何が解決できる。それでは、斑鳩と同じだ)

 

 これも、自分の身体には斑鳩の血が流れていると言う事なのだろうか・・・・

 

 

(・・・・そういえば)

 

 ふと、如月はある事を思い出す。

 

 今回とは根本的に事情は異なるが、以前にも似たような時があった。

 その時に行った事が脳裏に過ぎる。

 

(・・・・試してみる価値はあるな)

 

 

 

「・・・・みほ」

 

「・・・・・・?」

 

「・・・・少し付き合ってもらうぞ」

 

 と、如月は西住と共に出かける準備に取り掛かった。

 

 

 

 


 
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