千早「私は……いいわ」
春香「なんでっ?!マージャン、すっごく楽しいんだよ!やってみれば、千早ちゃんもきっと」
千早「ごめんなさい。私はその、色々あって……ギャンブルに関する遊びはしないって決めているのよ」
春香「色々って……あっ!ひょっとして、お家の」
千早「家族がああなっちゃったときに、そういう方面に走った時期もあって。麻雀も、やってたから」
春香「ご、ごめん。まさかそんな事情があるなんて」
千早「いえ、私こそごめんなさい。せっかく誘ってくれたのに、こんな」
春香「ううん、そんな……あっ、じゃあ事務所でもあんまりマージャンしない方がいいのかな」
千早「それはいいの。気を使ってるわけじゃなくて、みんなが遊ぶのは本当に平気。自分でやることに抵抗があるだけだから」
春香「本当に?」
千早「ええ。あの頃の私は『絶対にああはならない』って、強く思っていて……もう乗り越えられたから、ただの過去」
春香「わかった、千早ちゃんの言うことを信じるよ。でも、残念だなあ。千早ちゃんなら、私よりもずっと上手くなりそうな気がしたのに」
千早「えっ?じゃあ誘っちゃダメじゃない」
春香「えっ!な、なんで?」
千早「だって、もし春香の思い通りになっていたら、私は春香に勝ってしまうじゃないの」
春香「ああ、確かにそうなるね」
千早「もう。自分から強敵を増やしてどうするのよ」
春香「あはは……まあ、うん。いいんじゃないかな?それでも」
千早「どうして?ゲームなんだから、勝ちにいった方が楽しめるでしょうに」
春香「もちろん勝つつもりだよ。頑張って、考えて、全力で勝ちにいく」
千早「でも、相手が上ならそれでも負けちゃうわ」
春香「そうだね。でもまあ、オーディションだってさ、全力で負けたらもう相手を褒めるしかないよね。で、精一杯悔しい思いをする」
千早「その思いを、次に活かすのね。春香は麻雀でもそうしたいってわけ」
春香「そう!やるからには上を目指したいもん。どんどん悔しい思いをして、どんどん上手くなって、目指すは打倒・プロデューサー!」
千早「ふふ。まったく、春香らしいわ」
春香「とはいえ、やっぱりゲームだからね。楽しければ負けても勝ちだと思うんだ」
千早「そうでしょうね」
春香「でも、勝てたらもっと嬉しいからねっ!勝負はいつも真剣だよ!」
千早「はいはい。わかってるわよ。そもそもあなた、手を抜けるような性格をしてないじゃない」
春香「あ……」
千早「どうかした?」
春香「えへへ。さすがは千早ちゃんだね。伊織に同じ話をしたら『アンタめちゃくちゃじゃない!』って怒られちゃった」
千早「私には同じことを繰り返しているように聞こえたわ」
春香「むぅ。やっぱり千早ちゃんには勝てそうにないなあ。私の考えていること、全部当てちゃいそうなんだもん」
千早「ふふっ。そんなことないわよ。ああ、なんだか春香となら、麻雀だって楽しくできそうな気がするなあ……」
春香「そう?なら、千早ちゃんも」
千早「でも、本格的に遊ぶのは無理。少なくとも、まだ……だから、春香と一緒のときに、ちょっとずつ慣れていこうかしら」
春香「うん!じゃあこの春香さんが、千早ちゃんにマージャンのなんたるかをどんどんお教えいたしましょう!!」
千早「あら、やる気ね。じゃあさっそく講義をお願いしようかしら」
春香「えっ?」
千早「ほら早く。麻雀ってどんなゲームなの?まずは牌が配られたらどうすればいいのかしら」
春香「え、えーと……配られるっていうか、山からとってくるんだよ。それで、まず手を見て何を切るか考えて」
千早「方向性は決めなくていいの?ステージではテーマを決めたりするけれど、麻雀は大丈夫なのかしら」
春香「ああ、えっと、そうだね。こうなればいいなーっていう感じとか、あがれそうかなーあがれなさそうかなーとか考えるかな」
千早「判断の基準みたいなものはあるのかしら?歌では自分の音域で判断したりするじゃない」
春香「えー例えばシャンテン数が……あ、シャンテン数ってのはあと何枚でテンパるかで、それが3とか4とか形がどうとか」
千早「よくわからないわ。そもそも麻雀牌って何枚あって、種類はいくつあるの?トランプは52枚で4種類。数字は13だけど」
春香「えっと、9まであって……あ、でも字牌だけは特別なの。マンズとピンズとソウズって種類があって……う、うわーん!」
千早「どうやったらゲームが成立するの?ゲームの終わりはいつも同じなのかしら。普段は点数だけを考えていればいいの?」
春香「ぷ、プロデューサーさぁーん!」
千早「行っちゃった……ごめんね、春香」
小鳥「麻雀を、そういうことに使わないでほしいなあ。せっかくみんな、楽しもうとしているんだから」
千早「あ、音無さん……恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
小鳥「距離が近くなると、急に恥ずかしくなるのは悪い癖よ」
千早「言わないでください。自分でもわかってはいるんです。後でちゃんと謝らないと……」
小鳥「わかってるならいいの。千早ちゃんも、いつか気兼ねなく打てるようになると良いわね」
千早「はい……あ、でも。春香があの調子だと、しばらく先になってしまうかもしれません」
小鳥「そうなの?春香ちゃんと一緒なら、わりと早く遊べそうだなって思ったのに」
千早「気持ちの面では、そうですね。私も長くかかるとは思っていません」
小鳥「他にも何か問題があるの?」
千早「春香が私の疑問にすらすらと答えられるようになるまでは、ちょっと時間がかかりそうなので」
小鳥「あら。あの質問って、本当に知りたいことを聞いていたのね。てっきり、照れ隠しでいじめているだけかと」
千早「違います!話を聞きながら、疑問に思ったことを聞いてみただけです」
小鳥「でも、春香ちゃんが即答できるとは思っていなかったんでしょう?」
千早「それはっ……まあ、そうです。でも春香の説明をちゃんと聞いてしまうと、頭に浮かんだ疑問が消えてしまうので」
小鳥「答えられないのはわかっていながらも、気になるのでやってみた、と。つまり、本当に麻雀を学ぶつもりはあるのね」
千早「当然です。みんなも楽しく遊んでいるみたいだし……春香と一緒なら、色んなしがらみも忘れられそうなので」
小鳥「でも、ここままじゃあ千早ちゃんの疑問はしばらく宙ぶらりんのままね」
千早「仕方ありません。他に気軽に聞ける人もいなので、春香の実力向上を待とうと思います」
小鳥「それじゃ時間がもったいないわよ。私でよければ答えられるけど、どうしても春香ちゃんじゃないとダメ?」
千早「えっ?でも……春香に、一緒にやろうと言ってしまいましたから」
小鳥「それはそれ。一緒にやればいいの。でも疑問に関しては、すぐに答えちゃう私にぶつけるのが効率いいと思わない?」
千早「確かにそうですけど、でも」
小鳥「ちなみにだけど、春香ちゃんと学んでいく過程でも、新たな疑問がどんどん出てきちゃうわよ」
千早「あっ……」
小鳥「それに、みんなは先に覚えちゃってるからね。一人だけ実力で取り残されちゃうのって良くないのよ」
千早「……そうですね。確かに、音無さんの仰るとおりかもしれません」
小鳥「でしょ?」
千早「音無さんには、こうして一部始終を見られちゃったわけですから事情もわかってくれているし……甘えさせてもらってもいいですか?」
小鳥「ええ。麻雀の疑問なら、いつでもぶつけてね。ただ、私って麻雀に関しては甘くはないんだけど、それでもいいかしら?」
千早「はい。せっかくですからスパルタでお願いします。私が成長すれば、春香のためにもなるでしょうから」
小鳥「私もそう思うわ。じゃあ、まずはさっきの疑問に関してやるわよ。全部答えていくから」
千早「あ、でも、もう内容を覚えていないのですが」
小鳥「私が覚えているわ。ああ、そうだ。春香ちゃんの件の罰として、一気に行くわよ。聞き逃さないでね?」
千早「えっ?」
(以下蛇足)
小鳥「牌配を取ってからじゃなくて、取っている最中にはもう思考を開始しているのが望ましいわ。麻雀の配牌は、4人がそれぞれ4牌ずつ、3回取っていくところからスタートするの。だから4牌の時点で先を考えて、次の4牌でさらに深く考えて。次の4牌、つまり12牌の時には配牌の9割以上がそろっているわけだから、もう配牌時に思考するべきことについてはほぼ終えることが出来るはずよ。そして最後の1牌で微修正する。これで第一ツモを受け入れる準備が整うわけ。たまに13牌全てを伏せて取ってから起こす人がいるけれど、そういう人で麻雀が強かったことがないわね。やめたほうがいい習慣の一つだと思うわ。準備と思考が一歩遅れてしまうから。
それから方向性の決め方だけど。半荘を制するために各々が大事にしている判断基準を基にして、局が始まる前から方針を決めておくのよ。そして、牌配を取ったらその方針に沿った形を目指すわけ。だから、そうね。ライブを一局だとしたら、コンセプトに該当するのは『半荘を制するためにその局をどうしたいのか』という意味での方針だと思うから、牌配の前に決めるものだわ。同じようにライブを半荘だとしたら、『その日を制するためにどう戦うのか』という意味での方向性だと思うから、半荘が始まる前から決めておくわね。つまり『どうしたいのか』というのは、もう一つ大きいくくりの、そうね。例えるなら戦略を行使するための戦術ってことなのよ。でも、そういうのはある程度打ちなれた人じゃないとできないことだから、まずは目先のことね。牌配を取った後なら状況が何もなければツモ次第。もちろん、ある程度の想定はしてほしいわ。でも、こんな風になりそうだ、とか。こんな風になったらしいな、とか。そういうレベルでいいの。最初から何か方針を決めて打つのは、状況があってからの話。親や、点数の状況や、状態の偏り等々。そのあたりは考慮して手作りしてもらいたいところね。だから点数計算は必須よ。6300点差のオーラスで子だったとして、タンピンをテンパったらどうするかって、そりゃリーチなのよ。ツモって5200。相手の支払いが1300点だから6500点差はひっくり返すことができるの。出上がりで裏一じゃなくて、あくまでツモを狙う。この姿勢の違いはけっこう大切だと思ってるんだけど、今は置いておくわね。
で、麻雀牌は136牌よ。種類は4種類。マンズ・ピンズ・ソウズの3種類が1から9まで4牌ずつあって、字牌だけがちょっと特殊。東南西北の風牌と白發中の三元牌がそれぞれ4牌ずつ。9が4牌が3種類で108牌。7つが4牌で28牌。合わせて136牌。で、ゲームは半荘単位が基本。東場と西場が4局づつ。8局が基本単位ね。ちなみに昔は一荘と言って、西場と北場までやるのが通常だったみたい。でもそれじゃあ初心者はゲームを終えるのに四時間くらいかかっちゃうから、半荘がちょうどいいくらいの単位だと思うわ。慣れれば南四局を終えるまで、手積みでも40分を軽く切れるようになるからね。私の最速は23分くらいかな。あ、それから点数がなくなったら打ち切るルールも一般的に普及しているから注意してね。765プロでもそのうち導入するかもしれないわ。
それから普段考えることについては、点数だけじゃまるで足りないわ。例えばね。相手の表情や仕草、口調や視線なんかを追っていれば、その後に開けられた手と合わせれば癖が見抜けるわよ。ああ、あの人はテンパると一度視線を上げるんだなあとか。テンパると急に盲牌をやめるんだなあとか。オリた時は後ろに体重をかける感じになりやすいとか。人間は無くて七癖と言われるように、これだけ長い間座ってやるゲームなんだから、絶対に癖を持っているのよ。それを見抜けば、千早ちゃんならきっと有効に突くことができるでしょうね。おススメよ。他にも色々、麻雀は考えることだらけなの。ずーっと頭を使っているゲームだと思ってくれていいわ。だから本気で打つと、終わった後に頭の中がジーンとするような重さを持つようになるの。すごく集中しちゃうから、家に帰ったら集中が持続しちゃって眠れなくなるか、集中が切れてものすごく眠くなる場合がほとんどだったわね。でもそれが心地いいのよ。私は終わった後で頭が疲れていない麻雀は手抜きだって断言したいわね。まあ打ち方次第なんでしょうけど、私はそう思ってる。さて、他に聞きたいことは何かある?」
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春香が千早を麻雀に誘っているようなのですが……
(閑話です。前・中・後編それぞれ、流行に出遅れている人が出ます)
注1:『一』は一マン、『1』は一ソウ、『(1)』は一ピンです
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