No.738024

真恋姫無双幻夢伝 小ネタ8『夜更けの裏話』

章は変わりませんが、話の展開の切れ目となりますので、小ネタをはさみました。
華雄の初体験にまつわる話です。ご覧下さい。

2014-11-18 20:39:11 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1843   閲覧ユーザー数:1704

  真恋姫無双 幻夢伝 小ネタ8 『夜更けの裏話』

 

 

 雲が空を覆っていて、月星は一切見えない夜だった。

 暖炉と蝋燭が数本灯る部屋の中央、椅子に縛られた者がいる。その周りを6人の人間が取り囲み、ジッと立っていた。

 その中の一人が、口を開いた。

 

「華雄。ちゃんと白状しいや」

「お前ら、いい加減にしろ!!」

 

 椅子をガタガタ動かしながら、華雄が激怒する。寝ていたところを急に連れ出されて、こんなふうに椅子に縛られたのだから、当然のことである。

 三羽烏はその怒りにビクビクとしていたが、霞は気にすることなく質問を続けた。

 

「はよ、せんかい!」

「だから、なにをだ?!」

「アキラとの馴れ初めや!しっかり言うてもらうで!」

 

 華雄の顔が、暖炉の火よりも赤くなる。こんなの羞恥以外なにものでもない。

 周りを取り囲む中に、意外な顔ぶれを見つけた。

 

「月さま!詠!お前たちまで!」

「ご、ごめんなさい、華雄さん。でも、ちょっと興味があって」

「悪いわね。言っておくけど、ボクは月の付き合いだからね」

 

 華雄ははあ、と一息大きく吐くと、今度はキッと三羽烏を睨み付けた。

 

「ち、ちがうの!これは霞さまに命じられただけなの!」

「なにを言うてんねん。提案してきたの、お前らやん」

「なっ!そんな!ここはかばって下さいよ、霞姐さん」

「大体、お前らはもう抱かれただろう。なんで、こんなことを今更……」

 

 ピシリと空気が固まる。霞たちの表情が暗い。

 首を傾げる華雄に、凪が不満をぶちまけた。

 

「まだ、まだ抱かれてないんですよー!!」

 

 声が部屋中に轟く。この分だと場外まで聞こえているかもしれない。華雄は目を丸くする前で、必死な形相の凪が思いの丈を述べる。

 

「この前は覚悟を決めて隊長を連れ出しました!でも、途中で逃げられてしまって……。私だって、こんな私だって、隊長に愛してもらいたいのに!!そして、出来れば隊長の方から求められる方が……」

 

 彼女は素面である。顔が赤いのは恥ずかしいだけであって、酒は入っていない。この様子に、華雄は思わず心配になる。

 

「お前、最近おかしくないか?」

「でも華雄、凪がここまでアキラを慕っているのはホンマやで。月やって知りたいって言うとるし。なあ、頼むわ。恥ずかしいとは思うけど、この通りや!」

 

 手を合わせる霞。全員、月までも、頭を下げて頼み込んだ。グルリと見回した華雄は、腕が自由なら頭を抱えていたであろう。

 先日の出来事を振り返っておくと、華雄がアキラに抱かれたことを聞いた霞と三羽烏の4人は、アキラを拉致した。ところが、ちょっと目を離したすきに、彼は逃げてしまったそうである。這う這うの体で探し回り、やっとの思いで探し当てた頃には、夜が明けていたらしい。フラフラになった彼女たちが見つけたのは、遊女を2人両脇に抱えて、ぐっすり寝ていた彼の姿であった。

 こんなことがあって、はっきり言ってしまえば欲求不満な凪たちの熱意ある頼みと、月らの興味ある眼差しは、やがて華雄の羞恥心を上回った。

 

「……分かった」

 

 華雄は観念した。

 

「言ってやるから、これを外してくれ」

 

 

 

 

 

 

 再び華雄を取り囲む形を取る。今度は華雄を含めた全員が椅子に座り、彼女の方に耳目を傾けている。

 

「今さら逃げたらあかんで」

「分かっている。じゃあ」

 

と咳払いをした華雄は、やっぱり恥ずかしそうに顔を赤くしてはいたが、ゆっくりと語り始めた。

 

「きっかけはだ、あいつの遊郭通いだ。みんなも知っているとは思うが、あいつの遊女好きは目に余る。君主たる人間がすることではない。そこでだ、私は懲らしめてやることにしたんだ」

「懲らしめる?」

「驚かすといった方が良いかもしれないな。ここまでやれば、これに懲りて遊郭通いを止めると思ったのだ」

「それで、なにをなさったのですか?」

「その、言いにくいのだが、遊女のふりをしたんだ……。遊郭に頼んで、ああいう格好になって、あいつの部屋に入ったのだ。顔を隠してな。抱こうとした時に私だと気付けば、きっと驚くに違いないと……」

 

 凪の問いかけに、か細い声で答える。段々と、その時の感覚を思い出してきたのかもしれない。しかし興味津々な周囲は、話を急かした。

 

「そ、それで?」

「ところがだ、あいつは蝋燭を消してしまって、そのまま私の手を引っ張って……」

 

 いつもなら二人ぐらいを呼んでいるアキラであり、なじみの遊郭だったらそうした事情は心得ているはずであった。しかしその時は一人しか来なかった。首をひねった彼ではあったが、まあいいかと考え、いつもの按配で蝋燭の火を吹き消した。そして驚く間も与えずに、彼女を組み伏せたのだった。

 

「隊長、終わった後に驚かなかったの?」

「驚いていたさ。朝、揺さぶられて目覚めると、これでもかというくらい目を丸くしたあいつが、こっちを見つめていた」

「それから、あいつとはそういう関係ってわけね」

「……ああ」

 

 実は、彼女がわざと端折った話がある。彼女の顔を確認したアキラは、服に着替えた後、ベッドでシーツに包まる起き抜けの彼女に誠心誠意、謝罪したのだった。

 

『こんなことになって申し訳ない』

『いや、私が罠をはって、自分が嵌っただけだ』

『それでも、気付かなかった俺も悪い』

『もういいから。事故みたいなものだ』

『二度と、お前にこんなことはしない。安心してくれ』

『………』

 

 華雄の沈黙を不審に思い、下げていた頭を上げたアキラが見たのは、なんとも“寂しげな”顔をした彼女の姿であった。今度はその理由を必死に考える彼に、華雄は言うのだった。

 

『……責任を取ってくれ。時々で良いから、私も愛してほしい』

 

 結局、この後も何度か抱かれることになり、それが凪たちの羨望の的となっていた。

 しかしこの話は言う必要はないだろう。これで話し終えたとばかり考えていた彼女ではあったが、まだ追及の手は止まなかった。

 

「それで?」

「それでとは?」

「アキラはどんな感じで抱いてきたって聞いているんや」

「お前!私はそこまで「華雄さん」

 

 月の懇願する視線に、困惑してうな垂れる。しかし集まる視線に断ることが出来ず、ボソボソと語り始めた。

 

「わ、わたしも、初めてだったのだが、まさかあんな感じだとは」

「あんな感じって?」

「しびれるというか、なんというか、その、大地が震えるような感覚が体を貫いてきて、最後には」

「さ、最後には?」

「あいつの胸の中で、体が蕩けてしまいそうに……」

「アキラは、ど、どうだったの?」

「あいつは、こう、とても熱くて、とても優しかった」

 

 赤裸々に語った華雄の話に、聴衆の口からは感嘆の声が漏れ、ぞくぞくっとした感覚に襲われる。そして彼女たちの中には、当然、羨ましく感じる者もいた。

 

「はあ、ええなぁ。ウチもそんなふうに……」

「私も、せめて接吻ぐらいは……」

「はい、あれは良かったですよ……」

「へえ…………うん?」

 

 バッと全員の視線が月に集まる。自分の失言に気が付いた彼女は、両手で口を押えたが、もう遅かった。

 

「ど、どういうことや、月?」

「したことがあるの?!」

「へぅ、ご、ごめんね、詠ちゃん」

「ちょっと!そんなことを言ったら!」

「詠さまもなさったことがあるのですか?!」

「うぐっ」

 

 月の二度目の失言で、詠もキスをしたことがあることをばらされてしまった。今度は攻勢に回った華雄が、笑みをうかべて追及を始める。

 

「さて、今度はそちらの番だぞ。詠、ちゃんと話せよ」

 

 詠は月を睨んではみたが、小さくなっている彼女を見てひとつため息をつき、結局自分から話すことに決めた。

 

「あいつってね、あんまり人前だとお酒に酔った態を見せないのだけど、部屋に帰ってくると、ぐでんぐでんに酔っている時があるのよ。一応はわたしたち、給仕の仕事をしているから、そういう状態のあいつの介抱もするのよ。その時にね」

「その時に、なんやねん?」

「接吻されたって言っているのよ!全部、言わせないでよ!」

 

 顔を真っ赤にして怒る詠ではあったが、華雄は尚も言わせようとした。

 

「それで、どんな感じだったのだ?」

「な、なにを言わせる気?!」

「私だって話したのだ。お前が話したくないのなら、今度は月さま、お話いただけますな」

「はぅ」

 

 小さな手で赤面した顔を押さえる。だが、期待の眼差しを感じ、彼女の元来の責任感の強さもあって、ぼつぼつと語り始めた。

 

「……私が最初にされたのですけど、急に顔をつかまれた時は、びっくりして体が固まってしまいました。そのまま唇を当てられて、そしてすぐに舌が入ってきて……」

「舌、ですか?!」

「ええ……それで、最初はあまり気持ちの良いものではなかったのですけど」

「ですけど?」

「だんだんと体が熱くなってきて、そのうち、ふわぁと」

「ふわぁ?」

「空に浮かんでいっちゃうみたい…でした……」

 

 先ほどの華雄の話と同じように、出席者全員から感嘆のため息がもれた。彼女と同じ経験をした詠は、唇を指でなぞっている。

 

「ああ!ええなぁ!」

 

 霞が大きな声を挙げた。それに三羽烏が強く頷く。

 

「うちらもやるで!アキラに好きだって言わせるんや!」

「「「えい!えい!おー!」」」

 

 掛け声とともに、勢いよく四人は部屋の出口へと向かって行く。

 

「ちょっと待て」

 

 その足を、怖い顔の華雄が引き止めた。

 

「な、なんでしょうか」

「やはり、どうにも納得がいかない。寝ていたところを叩き起こされたことも、縛り上げられたこともな」

 

 つかつかと歩み寄ってくる華雄に、ひえ~と怖がる四人は壁の方へと追い詰められた。彼女らに、華雄は悪そうな笑みを浮かべた。

 

「鍛錬してやろう、夜通しでな」

「「「よ、夜通し!?」」」

「幸いにも目はすっかり覚めた。さあ、訓練場に行くぞ!」

 

 華雄は三羽烏を追い立てる。一方で、喜んで付いて行こうとする霞にはこう言った。

 

「お前はおあずけだ」

「なんでやねん?!」

「お前はこちらの方が嫌がるだろう」

 

 そんなぁ、と霞は天を仰いだ。肩を落とす彼女を放っておいて、華雄は泣き顔の三人をずるずると引きずって行った。

 月と詠は顔を見合わせる。

 

「寝ようか、詠ちゃん」

「そうね」

 

 訓練場で悲鳴が度々上がる。汝南の夜はこうして更けていった。

 


 
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