No.73730

十三番目の戦獣士 5

みぃさん

十二支のお話です。
今回はものすごくドキドキの展開!! (のはずです…)
ぜひ1からみてください。

2009-05-15 12:15:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:717   閲覧ユーザー数:699

「神様が魔物だったって…?」

晶(アキ)が大きな目をより一層大きく見開いた。

 

 

 

この十二支国は、人間の生活を脅かす魔物に溢れていた。

魔物は人を襲うことを生業とし、人と見ると手当たりしだい襲い掛かってくる。

そんな魔物から身をお守りくださる大きな力を持つ偉大な存在として、神は昔から崇められてきたのだ。

だからこそ、接見できる者は限られていた。

『十二支戦』の勝者、12名のみだ。

ところが、長い間民が敬ってきた神が魔物だった、というのは、寝耳に水の話だ。

 

「…私も、まだどういうことなのかはよくわかってないんだけど…」

鈴花(リンファ)が宴会の様子を語り始めた。

 

 

 

*

 

 

接見といっても、同じ宴会場に居合わせるだけで、神は簾のかかった上座におわし、素顔を知る十二支は一人もいなかった。

そんな神が、宴も酣というときになって、話を切り出した。

 

「十二支たちよ、我に力を貸してはくれぬか」

 

神の望みなら、誰もが喜んで首を縦に振る、はずだった。

ところが、次の言葉に、十二支全員が動揺した。

 

「この国を、我らのものとしようではないか」

 

 

 

静かに宴会場に響いた声が、冗談ではないことを物語っていた。誰もが返答に困る中、口火を切ったのは千(セン)だった。

 

 

 

「国は特定の人間のものではない、住まうみなのものであるべきです」

 

 

 

この言葉に、その場にいたすべての者が驚いた。

千は元々口数も少なく、十二支や、同じ『子』の紋章の一族でさえ仲のよいといえる者もいなかった。真っ先に迷いのない声をあげたことが衝撃だったのだ。

17歳の少女でありながら、その凛とした声は、間違いなく獣士の頂点を極める者の貫禄があった。

 

 

 

*

 

 

 

「それで、どうしたんだ!?」

刻路(コクジ)は思わず、鈴花の両肩を掴んだ。しかし、後ろに一瞬の影を感じた刻路は、鈴花をそのまま押し倒した。

 

「刻路!?」

晶が叫んだ瞬間、黒い影が刻路の頭すれすれをビュっとかけぬけ、地面に突き刺さるように消えた。そこからあふれ出すように、黒い物体が入道雲のようにむくむくと膨れ上がった。

刻路はバッと体勢を変え、かばうように、自分の腕で鈴花を隠した。

物体はまだムクムクと大きくなっていく。

「魔物!?」

鈴花は怪我をした足をかばいながら叫んだ。

 

 

「ハハハ、魔物、カ」

 

 

高いような、低いような、キンと頭に響く音がその物体から発せられた。

3人は思わず頭を押さえる。十二支が消えた後に響いた、神の声と同じだった。しかし、発せられている場所が近いためか、痛みはそのとき以上にひどいものだった。頭が割れそうだ。

物体に弓なりの模様が多数浮かび、口のように動いた。

3人は頭を押さえた。

 

 

「酷イモノダナ、オ前ハ、我ヲ、神ト呼ンデイタデハナイカ」

「…神だと!?」

 

 

頭を押さえながら、刻路は鈴花の前で立ち上がった。

 

 

「馬鹿ナ者タチヨ。愚カナ鼠ノ言葉ニ流サレオッテ。我ニ従イサエスレバ、国ヲ自分タチノモノニデキタトイウニ」

 

 

「千も言ったんだろ? 国は特定の人間のものじゃないんだ」

刻路は、千の刀の先端を物体に向けた。

 

 

「ホウ、ソレハ鼠ノ剣デハナイカ。猫ニ扱エル代物デハナイ筈ダガ?」

 

 

刻路はうっと顔をしかめた。ついさっき、魔物にまったく歯が立たなかったことを思い出したのだ。

 

 

「オ前モ鼠ノヨウニナリタイノカ」

 

 

「千のように?」

刻路が剣を両手で構え直すと、鈴花の後ろから声を出した。

「切られたわ」

「え?」

晶も物体に向けていた顔をハッと鈴花に移した。

「十二支全員が千に同意したと認めた瞬間、神様は私を一番に攻撃してきたの」

それはきっと、私が十二支で一番弱いから。

鈴花はそう確信していたが、口には出せなかった。

「でも、千がかばってくれたのよ」

 

 

今の刻路のように鈴花の前に立った千は、神に向かって刃先を神に向けた。

そして、千は…

 

 

「切られた…って…」

刻路が呟いた瞬間、黒い物体の一部が刃物のようになって刻路に向かった。刻路は鉤爪で身を守ったが、鉤爪は簡単に砕けてしまった。

 

 

「くっそ…千を…千をどうした!?」

 

 

*

 

 

鈴花をかばい、自分に剣を向けた千を神はあざ笑った。

「馬鹿な鼠よ、我が恐ろしくないのか」

 

千は体勢も表情も変えずに、静かに答えた。

 

「…恐いさ。恐いに決まってるだろう」

 

当たり前のようにそう答えた千を、十二支は見守っていた。

 

「ほう、素直じゃないか」

神は、今度はフッと鼻で笑ったが、千は気にせず言葉を続けた。

 

「でもな、その恐いものから大切なものを奪われることより恐いものはない。恐いから戦うんだ。その恐いものに大切なもの、奪われたくないからな」

 

*

 

 

鈴花が千の言葉を代弁し終わった瞬間、刻路に向かって再び物体が飛び込んだ。

刻路は今度は剣で払い落とす。

 

 

「で?」

 

 

刻路は下を向いた。

「千は?」

 

「猪ガ言ッタダロウ? 切ッテヤッタ」

「どう切って、どこへ飛ばしたんだ?」

 

刻路は体勢を変えずに呟いた。

そんな刻路に、物体は高笑いした。

 

 

「奴ノ利キ腕ヲ切リ、我ノ群レニ突キ落トシテヤッタワ!! 鼠(ヤツ)ハ何モデキズニ泣キ叫ビナガラ死ニ逝クコトダロウ!!」

 

 

言い終わるか終わらないかのうちに、今度は大量の物体が刻路を覆うように襲った。

 

 

「刻路―――!!」

 

 

抵抗するでもない刻路を見て、晶と鈴花は叫ぶことしかできなかった。


 
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