No.736813

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-11-12 23:18:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:607   閲覧ユーザー数:596

 

 

 story44 神楽の過去

 

 

 

「どういう事だ?お前が早乙女家から一度勘当されているだと?」

 

 如月は全く分からなかった。

 

 勘当されている身で、なぜこの地位を得ているのかが、全く理解できなかった。

 

 

「・・・・事の始まりは、今から三年前になるわね」

 

 と、静かに神楽は語り始める。

 

「私のお母様とお父様は陸上自衛隊で戦車乗員を育成する教官だったのよ。本来であればお母様が当主と師範を受け継ぐはずだった」

 

「・・・・・・」

 

 

「・・・・そんなある日、戦車の運搬作業中に事故が起きた」

 

「・・・・・・」

 

「お母様とお父様は、その事故に巻き込まれて、亡くなった」

 

「・・・・・・・」

 

「それから私は、戦車を憎むようになってしまった。両親を奪った存在として」

 

「・・・・・・」

 

「でも、しばらくして、当時早乙女流の師範であり、早乙女家の当主だったおじいさまは、私に勘当を言い渡した」

 

「・・・・戦車を避けたから、か」

 

「えぇ。早乙女家は戦車と共にある家系。戦車を否定すると言う事は、早乙女家の生き方を否定するのと同じ事」

 

「・・・・・・」

 

 

「勘当されてからは、家政婦から密かに支援を受けながら一人で暮らしていたの。その後バイトをしながら、入学当初は戦車道が無かった神威女学園に入った」

 

「・・・・・・」

 

「でも、私が入った年に、一度は廃止になっていた戦車道は復活したの」

 

「突然の復活とは、大洗に似た状況だな」

 

「でも、復活した条件は、大洗とは異なるわ」

 

「知っていたのか?」

 

「情報が伝わるのは早いのよ。神威女学園が戦車道を復活させたのは、過去の栄光を取り戻すとかそんな前立てによるものだった」

 

「前立て?本来の目的があると言うのか?」

 

「えぇ。でも、その戦車道を復活させた張本人である当時の生徒会長だった八神さんは、その真の目的を言う事は無かったわ」

 

「・・・・・・」

 

「でも、後で卒業後の副会長より聞いたのよ。『会長は学校の為に戦車道を復活させた。しかし、その真意は私にも聞かされていない』って」

 

(結局真相は闇の中、という事か)

 

 廃校を避ける為に、戦車道を復活させたように思えるが、何か異なるように見える。

 

「まぁ戦車を憎んでいた私がなぜ戦車道に参加したかっていうのは、今思えばあそこで運命が分岐していたかもしれないわね」

 

「と、言うと?」

 

「・・・・いつまでも逃げ続けている自分に、どこか違和感を覚えていたって言うか、何と言うか。よく分からなかったわ」

 

「何だそれ?」

 

 いつもの神楽からはらしからぬ曖昧な発言に如月は呆れる。

 

「まぁとにかく、もう一度初めから戦車道をやり直してみようって思ったのよ。それで、何かが変わるかもしれない」

 

「何かが変わる、か」

 

 

「とは言っても、復活させても戦車を探さないといけないとか、踏んだり蹴ったりな開始だったわ」

 

「そこまで大洗と似ているとはな」

 

「そうなの?」

 

 神楽は怪訝な表情を浮かべる。

 

「こっちも戦車を探す所から始まったのだ」

 

「そう。偶然って言うのは、恐ろしいものね」

 

「全くだ」

 

 

 

「まぁその後色々とあったけど、その年の全国大会に出場し、三位を得たわ」

 

「初出場で三位とは凄いな」

 

「決勝まで進んだあなた達ほどじゃないわ」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、そこまで来れたのも、白いティーガーのお陰だったわね」

 

「白いティーガー・・・・」

 

 噂の範疇だけでも鬼神の如くの強さを誇っている白いティーガー・・・・。

 何より変な噂が多い気がするが・・・・

 

 

「しかし、なぜあのティーガーは白いのだ?普通だと目立ってしょうがないはずなんだがな」

 

 しかし霧の中から幽霊の如く現れるので、むしろ白い方が目立たないのかも。いや、それでは限定的過ぎるか

 

「・・・・資料によれば、神威女学園が戦車道を廃止する前に、『白虎隊』って呼ばれる小隊があったらしいのよ」

 

「白虎隊?」

 

「その名の通り、白く塗装されたティーガー五輌で構成された特別小隊。かつて神威女学園は全国大会の連勝記録を持つほどの強豪だったのよ。その立役者って言うのは、白虎隊だったみたい」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・その後、財政的な問題で戦車道を廃止しなければならなくなったのでしょうね。戦車道で使われた戦車の大半は資金を得る為に売却された。白虎隊のティーガーも含めてね」

 

「・・・・・・」

 

「ただ一輌だけ、学園艦の奥底に残されていたのよ。白虎隊唯一残った、ティーガーが」

 

「唯一、か」

 

 

 

 

「・・・・話がずれたけど、それから一年後の全国大会で、準決勝にて黒森峰と対戦したわ」

 

「去年のあの試合か。黒森峰を圧倒的に追い込んだそうだな」

 

「圧倒的って、結構大々的に上げられているわね」

 

「ん?違うのか?」

 

「大きな間違いよ。むしろ追い込まれたのは私達の方だった」

 

「・・・・・・」

 

「黒森峰の戦車に次々と味方の戦車が撃破され、エレファントとヤークトティーガーをこちらの重戦車が刺し違えて撃破し、私達だけになっていたのよ」

 

「そこからの逆転だと言うのか」

 

「そうなるわね。考えられるだけの策を立てて、次々と黒森峰の戦車を撃破していった。そんな中で、斑鳩流の乗る戦車と戦い、撃破には至らなかったけど、戦闘不能までに追い込んだわ」

 

「・・・・・・」

 

「そして最終的には、西住まほと西住みほの乗るティーガー二輌と対峙したの。西住まほのティーガーは行動不能にしたけど、無茶な動きでティーガーのエンジンにトラブルが発生して、そのまま行動不能となって、白旗が揚がってしまったのよ」

 

「なるほど」

 

 展開は噂通りでは無かったが、一輌からの逆転と言うのは凄いとしか言いようが無い。

 

 

 

「でも、その後に私の人生を決める事が起きたの」

 

「・・・・・・」

 

「私のおじいさまが、早乙女家当主にして師範が、去年亡くなったの」

 

 表情は今まで見た事が無いほどに、悲しさが漂っている。

 

「・・・・そう、だったのか」

 

 

「元々おじいさまは病弱な身体だったんだけど、本当に突然に体調を崩して、そのまま亡くなったらしいの」

 

「・・・・・・」

 

「次期当主と次期師範を誰にするかで早乙女家内で話し合いが行われたのだけど、私は勘当されている身だから、受け継ぐはおろか、話し合いに参加する事すら論外だった」

 

 普通であればそんな者が当主として、師範として受け継ぐ資格は無い。

 

「当初はおじいさまの親戚のおじさんが候補に上がったんだけど、年の関係で決まる事はなかった」

 

「・・・・・・」

 

 

「でも、そんな中で、おじいさまが遺した遺書が家政婦の口から明かされた」

 

「・・・・・・」

 

「遺書には、私に早乙女家全権を受け継がせると、そう書かれていた」

 

「どういう事なのだ?」

 

 勘当させた本人が、勘当した者に当主と師範の座を譲り渡す?普通ではありえない事だ。

 

「当然早乙女家の者達はその遺書の内容を受け入れようとはしなかった」

 

(そりゃそうだ)

 

 

「でも、家政婦がおじいさまから遺書の事と内容を当の本人から聞いたと言ったの」

 

「・・・・・・」

 

「遺書には、私の勘当を解く事も書かれていたから、その時点で私は再び早乙女家の一員となり、周りも納得がいかなかったのだろうけど、前当主の遺言となれば、それを拒むわけには行かない。

 そうやって私は当主と師範の座を受け継ぐようになったの」

 

「そうだったのか」

 

 あまりもの衝撃に、如月は唖然となった。 

 

「まぁ最初こそ戸惑ったのよ。なぜ私なんかに、受け継がせたんだろうかって。最初は分からなかった」

 

「・・・・・・」

 

「でも、家政婦の口から、おじいさまが私に受け継がせた理由を聞いたの。

 それで、おじいさまの考えが理解できたような気がする」

 

「・・・・・・」

 

「おじいさまは・・・・・・私を試していたみたい」

 

「試す?何を?」

 

「もし私があの時、戦車から完全に目を背けていたら、それで終わりだったんだろうけど、あの時私は戦車から目を背けず、新しく前を向いたことで、おじいさまは私を試していたの。

 勘当したのも、それを見極める為だった」

 

「・・・・・・」

 

「早乙女流そのものを具現化した戦術を駆使しての私の試合を多く見て、おじいさまは決めていたみたい。『早乙女流を次ぐのに相応しいのは、神楽だ』とね」

 

「・・・・そうか」

 

 あえて試練を与えて、神楽自身を試していたのだろう。彼女が本当に全てを継ぐに相応しい人材であるかを。

 

 

 

「まぁ、当主と師範になって、色々と戸惑ったり、悩んだりしたけど、おじいさまが私を見込んだ上で受け継がせたのだから、私はそれに応えるだけ」

 

 神楽は微笑みを浮かべた。

 

「・・・・・・」

 

 如月は視線を下に落とし、内心でため息を付く。

 

(・・・・私以上に苦悩の日々を送っていたのだな。まぁ、私は自分が一番だとは思っては無いが、ここまでとはな)

 

 内心で呟き、視線を上げる。

 

 

 

「少し湿った話になったわね」

 

「いや、私から聞いたのだ。お陰で多く知る事ができた」

 

「そう。そうなら、良かったわ」

 

 心なしか安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

「あっ、そうだった。今日はあなた以外にもう一人お客を招いているのよ」

 

「もう一人?」

 

 如月は一瞬首を傾げる。

 

「もうそろそろなはず」

 

 と、時間を確認すると、襖が開く。 

 

「すいません、早乙女さん!遅れてしまっ・・・・・・て?」

 

「ん?」

 

 中に入ってきた人は如月を見ると固まり、如月は一瞬唖然となる。

 

 赤い髪はツインテールにしており、相変わらず目つきは鋭いと、あの時の面影が色濃く残っていた。服装は今時の女子によく見られる服装だった。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 二人の間には一瞬沈黙が漂うが、その直後に『はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?』と声を揃えて叫ぶ。

 

「な、な、な、何であんたがここに居るのよ、翔!?」

 

「それはこっちの台詞だ!!」

 

 それはあまりにも唐突な、六年ぶりの再会だった。

 

 

 

 

 

 


 
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