story42 思わぬ相手
「・・・・・・」
如月は倉庫の前に並べられ、自動車部と整備部十五人全員によってポルシェティーガーとフェルディナント、オイ車を整備しているのを遠くから見つめる。
隣では生徒会と、みほも同じく三輌を見つめている。
(これで戦車は十三輌。たった三輌と思うが、戦車自体が今までのよりかなり上のやつだ)
性能では黒森峰の戦車と対等かそれ以上に戦えるほどはある。
しかし、数と言う点では、やはり不足している。
(せめて後一輌と言いたいが、欲を言ってももう戦車は無い)
そう思っていると――――
「すまんが、良いか」
「・・・・?」
すると声を掛けられて私は声がした方を見ると、弓道衣を身に纏う四人の女子生徒が居た。
「あなた達は?」
「やぁやぁ、篠原~」
私が聞くと角谷会長が前に出て先頭を立っている篠原に声を掛ける。
「この間の話を受けてもらって感謝するよー」
「・・・・我々だけで解決するつもりだったが、仕方が無い」
少し納得が行かない様子だったが、篠原は角谷会長と握手を交わす。
「弓道部の知名度を上げる為にも、戦車道に参加しよう」
「感謝するよー」
「会長。そちらの方は?」
頃合いを見計らって私は角谷会長に聞く。
「うん。弓道部部長の篠原だよ。篠原。こっちはうちの隊長の西住ちゃんと副隊長の如月ちゃんだよ」
角谷は篠原を紹介すると私とみほを紹介した。
「弓道部部長の篠原雫だ。新参者だが、宜しく頼む」
篠原は右手を差し出す。
「は、はい!こちらこそ!」
西住は戸惑いながらも篠原の右手を取って握手を交わす。
「副部長の瑞鶴沙良です。よろしくお願いします」
次に瑞鶴がやって来て西住と握手を交わす。
「後右でおにぎりを食べてるのが赤城祥子って言って・・・・っつか食うな!」
と、どこからか出したハリセンで赤城の頭を叩く。
「オゥ。何するんですか!」
「こっちの台詞よ!っつか朝も五つも食っていたでしょ!」
「お腹が空きました!」
「開き直るな!」
「・・・・・・」
軽く如月は咳払いをすると、ハッとする。
「・・・・で、小さいのは原田瑞鳳って言うの」
「ちっちゃくないですよ!!ってかまともな紹介の仕方は無いんですかー!!」
瑞鳳は両腕を上げて文句を向ける。いや、言っちゃ悪いが、小さいだろ。
内心で突っ込みながら四人の名前と顔を覚える。
「参加してもらうのは助かるのだが・・・・・・しかし、もう肝心の戦車が」
今の所戦車は無く、今から探すとなると次の試合までに間に合わない恐れがある。
「・・・・・・」
すると篠原は顎に右手を当てる。
「・・・・いや、もしかしたら、それらしいものを山で見たような」
「なに?」
篠原の口よりまさかの言葉が出てきて一瞬反応が遅れる。
―――――――――――――――――――――――――――――――
その後如月は西住と篠原と共に篠原が言った山を登る為、タカチームより拝借した九七式に乗り込んで山道を登っていた。
ちなみに安全対策のため、九七式の主砲は外され防楯に木の板が挟み込まれている。
「しかし、なぜこんな山奥に?」
エンジンの回転数に合わせてシフトレバーを一段上げながら如月が篠原に問う。
「弓道をやっていると、時より雑念が混じり、集中出来ない事がある。そうなれば、いくら矢を放っても的には一本も当たりはしない。
だから、精神統一のために山を登ってその奥で静かにするのだ」
「そうなんですか(だからと言って普通に山奥に登るのか)」
内心で突っ込みながら次の右の道へ九七式を旋回させる。
そうしてしばらく山道を登ると、篠原が言った場所に到着する。
「・・・・・・」
砲塔キューポラハッチを開けて西住、篠原、如月の順で外に出ると、周囲を見渡す。
周りは林が多くある場所である。
って、本当にここが船の上であるかを忘れるかのような光景だ。
「それで、戦車らしき物を見た場所と言うのは?」
「あぁ。こっちだ」
篠原が歩き出し、二人はその後に続く。
少し歩いて、三人はとある林の前に着く。
「あれだ」
篠原が指差す方に二人は視線を向ける。
『・・・・・・』
二人は目を凝らして林を見ると、何か別の大きな物が林の中に、薄っすらと見えた。
「確かに、戦車と言えば、それっぽく見えなくも無い」
「そうですね」
林の狭い隙間から覗く物から、戦車っぽいものが確認できる。
「やけに砲塔がデカイような・・・・」
「・・・・・・」
「それに比べると、車体は・・・・小さいですね」
目測で見ると、九七式とほぼ同じぐらいに見える。
「と言うより、砲塔じゃないな。大砲か?」
より近くに近付くと、少しずつその戦車の外見が分かり始める。
砲塔に見えたそれは、よく見れば大砲の砲尾その物だった。
「・・・・・・!」
そして如月はその戦車が何かであるかを、察した。
「どうしたんですか?」
その様子に気付いたのか、西住が聞いてくる。
「・・・・こんなものまであるのか。先代は浪漫好きが多かったのか」
「え?」
一体何の事なのか、西住は首を傾げる。
「戦車と言うより、自走砲と言うより、移動砲台と言うか、どれに当てはまるのか」
どうも分類がよく分からない戦車で、さっき言った三つのどれかと言うのも曖昧なのだ。
一般的には自走砲らしいが・・・・
しかしこの戦車が持つ砲は確かに今の大洗の戦車の中でトップクラスだが、色々と問題が多い。
何より砲塔はオープントップどころか、フルオープン(つまり砲塔は無いに等しい)となっており、現段階では試合のレギュレーションを満たしていないが、連盟側が規定した改造を施す事でこういう一部の装甲が無い戦車でも試合に参加可能となっている。
「まぁ、これはこれで戦力の増強は大きい」
そうして如月はスカートのポケットよりスマホを取り出し、生徒会に連絡を入れる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後如月達が見つけた戦車は自動車部と整備部によって回収され、試合に間に合うように大急ぎでレストアと同時進行で大幅な改装を始めた。
この戦車はタカチームが使用する九七式中戦車チハの車体を用いて砲塔の代わりに『十年式十二糎高角砲』を搭載した自走砲である(移動砲台と言う見方もある)。
篠原率いる弓道部はこの自走砲に『キツネチーム』として乗り込む事になった。
部隊マークの絵は弓道衣を身に纏い、弓の弦に矢の末端を当てて弦を引っ張って発射体勢を取り、日の丸が描かれた鉢巻を頭に巻いたキツネ、と言う感じである。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぅ・・・・」
戦車道の練習も終わり(外からの見学をしながら他のチームの指導だったが)、如月は家への帰路についていた。
(これで十四輌。何とか黒森峰に対抗できる程になってきたな)
性能の差は一目瞭然となるが、少なくとも真正面から戦わなければ、同等に戦える。
(あとは作戦次第か)
ある程度構想を練り、西住との話し合いで二人が構想した作戦を基に作戦を立てるつもりだ。
そうして如月はマンションの入り口に到着し、中に進む。
「ん?」
ふと、壁に取り付けられているポストに一瞬何か見えたので、戻って確認する。
見れば如月の所のポストに一通の封筒が入っている。
(手紙?今までこんなものは)
学園から通知として来るもの以外は全く郵便物は来ない。
それ以外だと初めてだ。
如月はポストから封筒を取り出す。
(封筒の材質が和紙?いよいよ分からんな)
疑問に思いながら封筒の裏を見る。
「っ!!」
裏に書かれていた送り主の名前を見て、如月は目を見開く。
「どういう、事だ?」
思わず震えた声で言葉が漏れる。
なぜならば、手紙の送り主は――――――
―――――――早乙女神楽であったからだ。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。