story41 集結する新戦力
「・・・・・・」
重い目蓋をゆっくりと開け、如月は目を覚ます。
「・・・・・・」
一瞬身体中の感覚が無かったが、すぐに感覚が戻ってくる。
最初に視界に入ったのは病室の天井だった。
(・・・・病院・・・・?・・・・そうか。私はあの時―――――)
西住たちがやって来るのを確認した時に、力が抜けて視界が暗くなった所から先は全く覚えていない。
恐らく無理をしたツケが回ってきたのだろうな。
記憶を整理しながら半身を起き上がると、足元に違和感を覚える。
「・・・・・・?」
左の太股辺りに、上に何かが乗っているような感覚がして見ると、西住が身体を預けて静かな寝息を立てて眠っていた。
「・・・・みほ」
見ればベッドの横に設置されている台にはいくつかみほの私物と思われる物が置かれていた。
「(そうか。私が起きるまでずっと、看病をしてくれていたんだな)・・・・ありがとう」
内心で呟きながらみほの髪を優しく撫でる。
「・・・・・」
と、みほの近くに一通の手紙が置かれている。
如月はそれを手にして紙を開くと―――――
『相変わらず無茶をするものだな、翔。だが、それもお前らしいがな。お前が無茶をする時は、いつもみほが関わっていたな。
その様子では、どうやって聞いたのかは言わないが、みほの勘当の事を知ったんだな』
(まほか・・・・)
送り主は書かれてないが、癖のある書き方に文面から、相手はすぐに頭に浮かぶ。
『・・・・私もみほの事が心配だ。あの場ではあぁして厳しい事を言ったが、みほは私にとっては大切な妹だ。お母様から勘当の話を聞かされた時は、不安が過ぎったさ。
だが、西住流の後継者としての立場上、私情を出せないで居る』
「・・・・・・」
文面から、まほの心境と葛藤が伝わってくる。
西住流の後継者として、その汚点であるみほへの厳しさ。そして姉として妹への心配。二つの想いが交差しているようにも思える。
(悩んでいるのだな、あいつも)
親友であるので、手に取るように分かる。
『・・・・こんな事を言うようでは、姉としては最低で、失格だ。それでも・・・・・・みほの事を頼むぞ、翔』
「・・・・・・」
『だが、次の決勝戦では、お前達が相手でも本気で行かせてもらう』
それを最後に文は終わっている。
「あいつらしいな」
言葉を漏らしながら手紙を折り畳み、こそっと台の中にある棚に置く。
「・・・・ん」
と、西住は目を覚ました。
「起きたか、み・・・・・・西住」
一瞬名前の方を言いそうになるも、名字で呼ぶ。
「え・・・・?」
西住は如月の声を聞くとすぐに顔を上げる。
そこには頭に左目があった箇所にある傷痕も含めて包帯が巻かれた如月が起きて西住を見ていた。
「あ・・・・あ・・・・」
すると西住は涙を流す。
「き、如月さんっ!!!」
そしてその場から如月へ跳び付くと抱きしめる。
一瞬ズキッと身体から痛みが走って如月の表情が歪む。
「良かった!目を覚まして・・・・よがっだ・・・・」
如月の胸の中で、西住は涙を流しながら泣きじゃくる。
「・・・・西住」
如月は優しく彼女の髪を優しく撫でる。
「本当に、無茶だけはしないでください。もし、もし如月さんの身に何かあったら・・・・」
「・・・・さすがに、今回は無理をし過ぎた。すまなかった」
あの時もそうだったが、私はいつもみほに迷惑や心配ばかり掛けているな。
「今度こそは、本当に無茶はしないでください!!」
泣きながらも怒りの色が浮かぶ表情で如月を睨む。
「あぁ。もう無茶はしない。約束だ」
「本当ですか?」
「本当だ」
「本当に、本当ですか?」
「本当に本当だ」
「本当に、本当に、本当にですか?」
「疑り深いな、おい」
それほど私の無茶はしないは信用が無いのか。いや、自分でやっておいて文句を言うのもなんだが・・・・
「・・・・人生に掛けて約束する。これでいいか?」
「はい!信じていますから!」
「あ、あぁ(次は無いって意味が含んでいるように感じるのは気のせいか)」
内心で少し呟く。
その後西住から聞いて話では、私が起きたのは試合が終わってから丸々二日経っていたようだ。
頭を強く打ったせいで額が切れて、しかも傷も深い事もあって縫われ、傷は残ってしまうと言う。それと左目があった場所にある傷痕からも出血をしていたらしく、二箇所からの出血で貧血になっていたそうだ。
それから様子見として一日病院で過ごし、次の日からすぐに学校に通う事になった。
もちろん病院からは戦車道の練習は出来る限り止めた方がいいと言われた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「恐らく、相手の戦車の構成はティーガー、パンター、ヤークトパンター、ティーガーⅡ・・・・」
生徒会室で西住は紙に次の決勝戦の相手校にして、かつて居た黒森峰の戦車の構成を予想で描く。
「・・・・やはり、今の戦車だけでは、戦力の差が」
「しかも大戦時中最強と謳われた戦車ばかりだ。それに対してこっちは・・・・うーむ」
左目があった傷痕も含め、頭に包帯を巻いている如月は静かに唸る。
決勝戦では20輌まで参加可能となり、黒森峰は必ず20輌投入してくる。それに対してこちらは十輌と、倍だ。
砲の威力は一部を除けば良いとして、何よりティーガーやパンターを前にしては、装甲は当てにはならない。
特に日本の戦車である五式、四式、三式、九七式、八九式の装甲など、悲しいがドイツ戦車の前では紙に等しい。
「はぁ。どこかで戦車の叩き売りしていないでしょうか」
思わず小山が言葉を漏らす。
「色んな部活やこの学園艦に住んでる人たちから義援金は来ているんだけど、さすがに戦車を買うのは無理かなー」
「その点は今の戦車の改造、または強化に使用しましょう」
「それが一番か」
最も、付け焼刃の様な強化が通じる相手とは思えんが・・・・
「そういえば、以前見つけた88ミリと105ミリはまだ完成しないのか」
「散らばっていたパーツを自動車部と整備部が組み立てている」
「そうか。だが、あれが完成すれば、黒森峰と対等に戦える!」
確かにあの二輌がいれば戦力の大幅な増強は可能となる。
最も、あの戦車が戦力に加われば、それは相当な戦力増強に繋がる。
すると小山の携帯が鳴り始め、ポケットより取り出して電話に出る。
「はい。・・・・・・!分かりました」
一瞬表情に驚きが見えると、携帯をポケットに戻す。
「レストア終了です!」
「よしっ!」
噂をすればなんとやら・・・・と言うやつだな。
――――――――――――――――――――――――――――――――
裏山に来ると、その戦車が姿を現す。
「凄い!」
「カッコいい!」
「強そう!!」
一年チームはその戦車を見て興奮する。
「これは・・・・」
「・・・・・・」
「うーん」
「・・・・オップ」
「エー・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しかし、生徒会とみほ、如月、途中で合流した早瀬達の反応は微妙だった。
ちなみに隣では眼を輝かせている秋山がいる。
「これ、レア戦車なんですよね!!」
「・・・・『ポルシェティーガー』」
ボソッと河島がその戦車の名前を漏らす。
それはティーガーの正式採用としての二つの試作車の一つで、様々な問題点から不採用となった(その大半は時代を先取りしすぎた)。今でも一部の者からは人気のある戦車である。
「マニアには堪らない一品ですよ!」
まぁレア中のレア戦車だからな。しかし、よくこんな物があったもんだな。
「・・・・まぁ、地面にめり込んだり――――」
するとポルシェティーガーは履帯が空回りして地面にめり込み始める。
「加熱して――――」
次に車体後部にあるエンジンルームより煙が上がる。
「炎上したり――――」
そしてエンジンルームより炎が上がる。
「壊れやすいのが難点ですが」
「駄目だこりゃ」
秋山の後に坂本が思わず言葉を漏らす。
「あちゃ!またやっちゃった!おーいホシノ!消火器消火器!!」
中より自動車部が出てきてすぐに消火器で火を消火する。
「戦車とは呼びたくない戦車だよね」
「で、でも!足回りは弱いですが、88ミリ砲は強力ですから!」
「・・・・・・」
「それで、もう1輌は――――」
するとポルシェティーガーに続き、もう1輌の戦車が姿を現す。
「こっちも強そう!!」
「角ばってる!!」
と、一年チームが声を上げる。
ポルシェティーガーと同じジャーマングレーをしており、車体は同じ形状だが、車体後部に戦闘室を設けており、ポルシェティーガーより大きな主砲を持っている。
「『フェルディナント』だ!ヒャッホォォォォッ!!」
秋山は腕を上げて跳び上がる。
「エレファントじゃないのか。だが、105ミリ砲の威力はポルシェティーガーより強力だな」
それに加えて戦闘室と車体の硬さはドイツ戦車の砲にも耐えられる。
「これさえあれば、黒森峰と対等に戦える!」
「いいや。それ以上に戦えるよ」
と、フェルディナントの戦闘室上部のハッチが開き、整備部の佐藤姉妹と黛、秋月が出てくる。
「どういう事だ?」
「フフン。驚かそうと思って、あえて教えてないのよ」
「・・・・・・」
何の事か、メンバーは一瞬分からなかったが、次の瞬間如月はピンと来る。
「まさか・・・・!」
「そのまさかだよ~」
と、佐藤(妹)はニコニコしながら腕を振るう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そしてしばらくして、遠くより巨大な影がこちらに向かって来ていた。
「ふ、ふおぉぉぉぉぉ・・・・!!!」
秋山はこれまでにないほどに興奮し始め、瞳を輝かせながら顔を真っ赤にしていた。
「これが・・・・」
「す、凄い・・・・」
「・・・・ふ、ふははははは!!」
角谷会長も驚きを隠せれず、小山も思わず声が漏れ、河島に関してはなぜか静かに笑い出す。
「・・・・・・」
「これほどとはな」
さすがの如月もこれには驚愕し、みほも何度も瞬きをしている。
『・・・・・・』
同時に早瀬達も驚きのあまり言葉が無く、陸に上がった魚の様に口をパクパクとさせている。
ポルシェティーガーとフェルディナントよりも巨大な車体を持ち、車体前部に小さな砲塔と砲身を持つ、巨大な砲塔に主砲を持つ巨大な超重戦車であった。
「これも整備部全員で日に日に努力し、代用パーツを多く使ってようやく大掛かりなレストアが終了したわ。旧日本陸軍が開発した超重戦車・・・・『大型イ号車 120t型』!」
佐藤(姉)が大型イ号車、通称オイ車に指差す。
「すっごい!?!?」
「大きい!!」
「山みたい!!」
「ちょーでかいー!」
一年チームもその大きさと威圧感に興奮したり驚いていた。
「改めて全体を見ると、でっかい」
坂本はその巨大さのあまり呆然と立ち尽くす。
「超重戦車に相応しい姿ね」
「う、うん」
鈴野と早瀬も呆然としていた。
「す、凄過ぎます!!あの幻の超重戦車オイ車の動く姿をこの目で見られる日が来るなんて!!」
顔を真っ赤にして秋山は興奮しまくりだった。
「私!戦車が好きで、生きていて良かったです!!ヒャッホォォォォォォォォ!!!!最高だぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
今までにないほどにテンションが上がりまくり、ピョンピョンと跳び上がる。
「・・・・程々にな」
「ハッ!?」
如月の言葉で秋山は我に帰り、「すいません!!」とその場で土下座する。
「しかし、改めて全体を見ると、デカイな。旧日本陸軍はこんな物を作っていたのだな」
見上げるほどの大きさを持つオイ車に少なからずまだ衝撃が残っている。
「これだ!!これさえあれば、我々は勝てるぞ!!黒森峰など、敵ではないわ!!」
オイ車を見て河島も興奮状態にあり、高笑いを上げる。
そりゃこれだけ巨大な戦車を目の前にしたら、そうなるか。
「だが、これで戦力は揃った」
二十輌までとは行かないが、これだけで十分なぐらいだ。
その後動かなくなったポルシェティーガーをフェルディナントが牽引してグラウンドにある倉庫へ運ぶと、すぐにメンテナンスが行われる。
ちなみにオイ車は倉庫に入らない為、今のところ倉庫の外に設置され、しばらくすればオイ車があった蜘蛛の巣だらけの巨大倉庫に置かれる予定である。
ポルシェティーガーには自動車部が乗り込み、『レオポンチーム』として決勝戦に参加する事になった。何でも故障が多い癖の強い戦車とあって、それを整備していた自動車部が『素人には扱えない戦車だから』と言って自らが志願したと言う。
フェルディナントには整備部の佐藤姉妹と黛、秋月が乗り込み、『ゾウチーム』と名付けられた。その名前となった理由は『改造後の名前がエレファントだから』と言う事らしい。
部隊マークの絵は整備部が着ている紺色のつなぎを着て帽子を被っている象が右手にスパナを持って上に上げていると言う感じである。
オイ車には双海姉妹を筆頭に、残りの整備部メンバー全員と、計十一名によるチームで乗り込み、『クジラチーム』と名付けられた。理由は言わずとも、その巨大さからである。
部隊マークの絵は噴水を上げる鯨がシャチホコの様に尾を上に上げている、と言うシンプルな感じである。
ちなみにオイ車は劣化パーツを色々と交換しており、史実とは異なる仕様となっている上に装甲以外で性能が向上しており、特に主砲はオリジナルの砲身寿命が尽きていたとあり、今はスクラップ置き場に良好な状態で放置されていた強力な『55口径12.8cm Pak44』に交換している。
これにより、オイ車は大洗のみならず、他校においても強力な戦車へと生まれ変わっている。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。