真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-
第百伍拾捌話 ~ 郷愁に舞いし想いは胸の中に ~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)
習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術
神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、
(今後順次公開)
一刀視点:
……。
……多分、眠っていたんだと思う。
……短いながらも、まだまだ体が身体を癒すために睡眠を要求しているのだと、俺にその事を自覚させる。
それでも俺は、こうして目を覚ました。
偶然なのか、それとも俺の想いがそうさせたのかは分からない。
だとしても、こうして目が覚めたのが事実ならは、それは必然なのだろうな。
ちゃり。
地面に転がる小さな砂利が鳴る音に……。
風と共に流れてくる彼女の香りに……。
なにより見知った気配に……。
「……ん」
「呼び立てて悪かったね」
「ふるふる。……恋、一刀に会いたかった。だから礼を言うのは恋。
……恋に会ってくれてありがとう
……それと、一刀に酷い事をして、ごめんなさい。
恋、止めようとした。でも止められ・」
「君は悪くない」
呂布の言葉を遮るようにして、俺は言葉を発する。
彼女を庇う訳でもない。 ただ単にアレは彼女のせいではないと、俺は知っているだけのこと。
だから謝る必要なんかない。 俺はそう言うつもりで彼女の言葉を遮ったんだ。
なぜなら、謝るとしたら、それはむしろ俺の方だからだ。
「君が俺に会いたがっている事は、
それなのに今日まで、君を待たせたことは本当に申し訳ないと思う。
其処は、此方の体調が悪かったためと理解してくれると助かる」
言葉を選びながら、彼女に必要以上に気を遣わせないよう言葉を紡ぐ。
彼女のためと言うより、俺が俺を擁護しようとする汚い考えからなのかもしれない。
「何か俺に話があるとか」
「……こくり。……恋、聞きたい。
一刀は、最初から恋に教えていた。
ふるふる……ちがう。恋をアレから助けようとしてた。
なんで、恋を助・」
「それについては、まずは俺から君に謝らせてくれ」
失礼だと思いつつも、俺は再び彼女の言葉を遮るかのように彼女に宣言する。
あまり、長い時間起きてられる自身が無い。それゆえの焦りもあるけど、呂布からしたら、彼女の言わんとする事は当然の疑問だろうな。
「美羽」
「ん? なんじゃ主様」
「悪いが席を外してほしい」
「そ、それは…、その…」
「美羽が心配してくれる気持ちは嬉しい。
でも、此れは本当の意味での北郷流の話になる。悪いけど聞かせられないんだ。
これは北郷流をある程度身に付けている者同士の話だからね。 …頼む」
「…わ、……わかったのじゃ」
俺の言葉に、とぼとぼと項垂れて、俺の言葉のままに席を外してくれる美羽の姿に、呂布が心配げに……いいの? と聞いてくるが、構わないとだけ答えながら心の中で美羽に謝罪する。
美羽が、翡翠達から俺から目を離さないように指示をされているのは、容易に想像する事ができる。
呂布の件だって、本来は霞なり思春なりが立ち会ってと言う事になっていたけど、俺が美羽に無理を言って連れてきてもらったんだ。きっと美羽は美羽なりの想いがあって、この場に残っていたかったと思う。
それが分かっているからこそ、俺も彼女にそう言うのは正直辛かった。
でも、それは仕方ない事。皆にはまだ知られたくないからね。
「待たせたね。
まずはさっきも言ったように謝らせてもらいたい。
呂布、俺はあの戦いで、君を見ていなかった。
君が、アレを出してまで俺に向かってきてくれたのに、俺は君そのものを見ていなかった。
それが君のような誇りある武人に対して、どういう事なのかは分かってはいるつもりだ。
だから、まずはその事を誤らせてほしい。 すまない」
怪我が無ければ、本当は土下座をしてでも謝りたい。
俺は自ら仕掛けた真剣勝負の場で、自分の全てを賭けて挑む相手を見ていないと言う冒涜を働いたんだ。
これはこの世界の武人からしたら、赦す事の出来ない無礼な行為だと言う事は、思春や霞を見ていれば良く分かる。
だから、まずは何よりもこの事を謝罪したかった。
「………それは、別にいい。
恋には恋の理由があるように、一刀は一刀の戦う理由があった。……それだけ」
呂布の言葉に、……いや、彼女の無辜の瞳が語る想いに、彼女の紡いだ言葉以上に彼女の想いを知る。
純粋で、相手を思いやる想いが。
そしてそれは同時に、彼女が歩んだ来た道の辛さの証明している。
「そっか、……君は俺が思い浮かべていた以上に優しい娘なんだな」
「……恋、優しくない。 一刀に酷い事…した」
「違うんだ。さっきも言ったけど、その事に君の罪は無い」
だから、彼女の悲しい誤解の言葉を否定する。
本当に君のせいではないと。そしてそれを説明する必要があって、俺は美羽を遠ざけたんだ。
……といっても、美羽は隠れているつもりなんだろうな。さっきから廊下の角に身を隠しているのが丸分かりだったりする。何というか、頭隠して尻隠さずと言うか、美羽の長くて綺麗な髪が丸見えだし、それ以外にも服の裾とか。……まぁ、あの距離なら話を聞かれる心配はないから、それで美羽の気が済むならと思い放っておくけど。
「順番に話をしようか。
自分の力。アレがどう言う物か、君は既に分かったと思う」
「こくん………、アレは怖いもの。恋を喰らう」
「俺の一族、北郷流舞踊術と言うちょっと変わった舞踊を伝える一族だったりするんだけど。表向きの流派はともかくとして、本家と宗家にしか伝わっていない舞踊があるんだ。それが本来の北郷流舞踊でね。その起源は神楽舞から来ていると伝わっている」
だから、彼女が求めている事を話そうと思う。
少し長い話になるかもしれないし、此処まで磨り減ってしまった彼女に理解できるかもわからないけど。
それでも彼女に話そうと思う。君の持っている力が何なのかを。
……そしてあの時、君の身体を動かしていたモノのことを。
「その辺りはどうでもいい話だから理解してくれなくていい。
ただ肝心なのが、その起源や北郷流の発端になった時に色々な血を取りこんだんだ」
実際、どういう手段で血を取り込んだのかは想像したくはない。
彼女のような異端な力を持つ人間と言うのは、大抵は迫害されるか、祭り上げられるかのどちらかだからね。
どういう扱いを受けていたかなんて言うのは当時の歴史の紐を梳けば、簡単にその一端を想像する事が出来てしまう。
北郷流に伝わっている伝承にしたって、どこまで真実を含んでいるのか怪しいものだ。 なにより伝承って言うものは、自分達に都合よく脚色されているのが大半だからね。
「その中には、君のような力を持った人もいたらしい」
「……恋みたいな?」
「ああ」
実際は、そうそう都合よく、血と言うか能力を引き継ぐ事なんてできるわけもなく。かなり苦労したらしい。
それでも何世代、もしかすると何十世代も掛けて、何とか自分達の目的とする舞踊と言う形に取り込む事が出来るようになったものの、その力は比べようも無いほど弱いものとなっていたらしいけどね。
そして、その後はその力の使い方と継承に力を入れてきたみたいだけど、途中で戦や政に巻き込まれて、裏舞踊と言う形で、血と技術を伝承した事も在ったみたいだ。 今、こうして俺がこの世界で生き残っていられるのは、その人達のおかげなのかもしれないと思うと、苦笑しか浮かばない。
なんにしろ、血を取り込みながらも、受け継がれてきた北郷流舞踊術だけど、大きな問題もあった。
その継承過程で多くの人間が狂い。……そして廃人と化す者があまりにも多かった事。
当然だろうな、あんなモノを己が身体に通すんだ。対策と保険なしではそうなって当り前だと言う事を、俺は身を持って知っている。
結局、その対策を見つけるまでに江戸時代の中頃まで、かかったらしいけど、それまでにどれだけの一族が犠牲になったかなんて言う事は、残された伝承には書かれていなかった。 ……ただ多くの子供達としか。
「その中で、ときどき先祖がえりする人間もいるんだ。
俺の妹がその典型でね。少しばかり情緒不安定な所があったかな」
別に精神科にかかるような特段おかしいと言うわけじゃなかった。
小さい頃は俺に反発してばかりだったし、憎まれ口ばかりだったけど、俺にとっては可愛い妹でしかない。
なんというか少しだけ人より対抗心が強かったんだと思う。まだ小さい頃から、必死になって俺を負かそうとしていたからね。
それでも、俺は妹をそれなりに可愛がった。 あの頃はその甲斐も無く、噛まれたり、引っ掻かれたり、階段から蹴落とされたりと、散々だった気はするけどね。
「でもね。ある時、ちょっと不幸な偶然が続いたんだ」
親や爺っちゃん達が、子供の成長力って言う物を見誤ったとは思わない。
もしかすると、妹の北郷流舞踊の成長速度が異常だったのかもしれない。
とにかく、一番気を付けないといけない時期に、大叔父も爺っちゃんも、運悪く急用でいなかったんだ。
そして妹は、負けん気も強くてね。爺っちゃん達がいなくても大丈夫。そう思ったんだろうな。
妹は見よう見まねだけで、アレを取り込んだんだ。制御方法も学んでいないうちにね。
その結果、呂布のように力を暴走させたんだ。
「君のあの力って言うのはね。
周りの人間の深層意識や”氣”そのものなんだ」
他人や動物のそれに自分を繋ぐ事で理解する。
そう言えば聞こえは良いけど、そんな都合の良いものを人間が使いこなせるわけがない。
他人の意識や”氣”と言うものは毒でしかない。
そんな毒でしかないものをそのまま自分の中に取り込めば、自分が他人と言う意識と”氣”に犯され浸食されるだけだ。
だから呂布の言う『本気の本気』 それは相手の動きが”氣”を通して全部分かると同時に、相手の生命の源の一つである”氣”を取り込み、己が身体の内に貯め込んでゆくものなんだ。相手が多ければ多いほど、器となる人間のキャパシティーが大きければ自分のものとなる。
でも、さっきも言ったように、他人のそれは、そのまま取り込めば毒でしかない。
彼女のあの獣のような強さは、諸刃の剣。
自分が消える苦しみの元である周りの人間を、消そうともがき苦しんでいる状態なんだ。
そして、その制御方法を知らなければ、毒に犯され続けるようなもの。
"氣"や意識を侵され続けた先にあるのは、自我の消失。言わば心の死だ。
「………アレはやっぱり一刀が原因」
「ああ」
呂布が言っているのは、彼女がアレを制御して見せたように感じた事。
結局あの力が他人を、……いや、何かを理解しようとする力ならば、その力を逆流させてやればいいだけの事。
だから俺はあの時、俺の感覚を彼女に繋いだんだ。
北郷流裏舞踊・仕舞い
本来は、繋ぐ事で相手の感覚を狂わしながらも、相手の動きと思考をリアルタイムに瞬時に掴みとるもの。
相手がどれほど自分よりも強くても、倒す可能性を限界まで引き上げる舞い。 どんな相手でも終わらせる事の出来る北郷流裏舞踊の終曲の舞い。
彼女のそれと俺のそれは似て非なるもの。
でも逆を言えば限りなく同じ部分があると言う事。
彼女は生けとし生けるものを。
そして北郷流はそれを含めた世界を構成するすべてを。
だから、妹の時と同じように出来ると思ったんだ。
問題は、当時まだ幼かった妹と、目の前の彼女では、比べ物にならないくらいほど強いと言う事だったんだ。
だからみんなの力を借りた。……いや利用したんだ。
妹と同じ道を歩もうとしている呂布を助ける為に。
「……一刀は、妹を助けたかった?」
「ああ、君の中に妹を幻視したんだ」
言い訳かもしれないけど、虎牢関の時は俺自身が自分の事で精一杯で、そんな事を思う余裕が無かった。
今も決して余裕はないけど、それでも明命達のおかげで、あの時より周りが見えるようになってきたんだ。
そして、そんな明命達の想いを、俺は自分勝手な理由で利用したんだ。
自分勝手な理由に、皆の命を晒したんだ。……俺は。
「まだ話は途中だったね。続きを話そうか」
「……ん」
あの技はとても危険な技だったんだ。 実際、爺っちゃんにもそう言う技もあると話は聞いていただけで、使ってはいけないと厳命されていた。
でもね。その技の根底の部分と言うのは、結局は北郷流の基礎となり核となるものなんだ。 だから周りを取り込み己が感覚とするのなら。北郷流同士の場合、相手のその力に合わせてあげれば、互いの感覚を共感させる事でアレの制御方法を知らせる事が出来るんではないのか。当時まだ子供だった俺には、そんな方法しか浮かばなかったんだ。
結果だけを見れば、運よく妹を助けられたけど、俺自身は三日三晩。 ある意味、廃人に近い状態だったらしい。
当然だろうな。アレの制御方法を知らない者でも、本能が危険なものとしてアレに必死に抵抗する。
でも、自らの感覚を全て相手に渡すと言う事は、その本能的な抵抗すらも自ら放棄すると言う事なんだ。
だから、北郷流裏舞踊に置いても終曲の舞いとして位置づけられていた。相手と共に自分をも終わらせる舞いとして…。
「一応、俺なりに対策はしたつもりだったんだけどね。その辺りはどうでもいい話だったね。
話を君の事に戻そうか。君が謝ろうとした事。アレは正真正銘君の意識じゃない。
俺が君の取り込んだ周りの意識、それが俺の制御し損ねた部分が、君の右腕を勝手に動かしてしまったんだ」
呂布には言わないが、おそらく、彼女を見守っている者達。君に負けて欲しくない、勝ってほしいと言う意識が、呂布の右腕を動かしたんだ。
そもそも呂布にはアレを本能的に制御する以外の技術を持っていない。
ましてや俺と呂布は繋がっていた。つまりあれは正真正銘、俺の迂闊さが原因なんだ。
その証拠に、俺はあの攻撃に反応して見せた。
咄嗟に折れた左腕で糸を張ったんだ。そのおかげで、呂布の戟の柄を直接受ける前に、俺は張った糸によってはじけ飛ばさせれたんだ。呂布の戟の柄の部分が俺の身体を襲ったのはその一瞬後の事。
そうでなければ彼女の一撃をまともに受けて、普通の人間でしかない俺が生きていられる訳ない。
「アレの恐い事はね。」
「いい。そんな話、恋、どうでもいい」
今度は呂布が俺の話を遮る。
どうであろうと、俺を吹っ飛ばしたあの一撃は自分の責任だと彼女は言う。
俺が、勝手に彼女の中に妹を見て、呂布を見なかった事も、関係ないと言う。
「……一刀、笑った」
「……」
「……アレは確かに恋に向けてた。
……恋の中にいる一刀の妹、違う」
「……」
「……一刀、恋に微笑んだ。
……恋、酷い事したのに。
……一刀が、恋を見てなくても、一刀、恋を助けた。
……恋にアレは凄く怖いものだと教えてくれた。
……一刀、強くない。普通の人。
……でも恋を救うために恋に立ち向かった」
魂が磨り切れかけている彼女は、それでも言葉少なに必死になって俺に訴える。
自分の思っている事を、考えている事を、言葉にする事の出来ない想いを俺に必死成って訴える。
でも、結局は最初に戻ってくる。それが彼女の中で一番強い想いだから。
「……一刀、確かに恋に微笑んだ。
……なんで? 笑える?」
……そうだな、確かに君の言うとおり、あの時だけは君を見ていた気がする。
そう思える反面、正直、あの時の事は意識が朦朧としていてあまり覚えていない。
それでも言える事はある。何より彼女の言葉足らずな必死な想いに応えれる事はある。
「……多分。君を助けれたからだと思う」
最後に明命の剣、”魂切”に込められた彼女の想いに助けられながら振るった一振り。
あの一振りで、呂布の中に繋がっていた彼女が掻き集めた他人や動物の意識や”氣”を斬り離した。
むろんあくまでそれは例えで、彼女の感覚を一気に全て俺のものに繋げる事で、切り離したように思えただけの事。
あの一振りはあくまで囮。 呂布の武人としての誇りを表層に押し上げさせることで、彼女の制御しきれないアレとの接続を弱めるためのもの。
多少、変わった特技は持ってはいても、所詮はただの人間でしかない俺に、剣の一振りで何かを叩き斬るような真似なんてできるわけがない。そんな真似が最初からできるなら、斬魔剣とか名付けて浮かれているに決まっている。
結局、俺に出来るのはハッタリと、北郷流と言う手品で皆の目を誤魔化すくらいの事だ。
だからかな。誰かと戦う事で誰かを傷つけるのではなく。
戦う事で、戦った相手を助けられた事が嬉しかったのかもしれない。
……でも、やっぱり、一番最初に脳裏に浮かぶのは、女の娘を一人助けられた事。
「……多分そんな所だと思う。
ごめんな天の御遣いだなんだって持ち上げられてはいるけど、実際はこのとおり何も考えていない馬鹿だからさ。
君の満足いく答えは出せれなかったかもしれない」
「ふるふる……一刀は、恋の望むものに応えてくれた」
「そっか。呂布、君は本当に良い娘なんだな」
霞が教えてくれたように。
七乃が俺に聞かせてくれた情報のとおりに。
いや、それ以上に彼女は、純粋で、そして優しい娘だ。
そう感じいる俺に、呂布は珍しく不満げな顔をし…。
「……それ、嫌。……恋、恋でいいと言った」
「もしかして、真名の事?」
「こくり」
「いや、でもとくに理由も無いのに真名と言うのも変じゃないか?」
「……理由…必要?」
戸惑う俺に恋は、何やらうんうんと頷きながら。
「……一刀、最初に謝った。恋のせいでは無く一刀が原因だと。
……だから恋の事、恋と言う。……それで問題ない?」
「それはつまり俺が謝罪した事について、真名で呼べば赦してやるって事? と言うか何で疑問形」
たぶん呂布に、深い考えがあっての事じゃないとは思う。
ただ、俺に真名を呼ぶのに理由が必要と言われて、理由を一生懸命探しただけなんだろうな。
「いや、確かに謝ったけど。それはなんか違うと言うか」
「ん……、なら、もう一度勝負?
前は一刀からだったから、今度は恋の番」
「無理っ! 勝てる訳がないし、そもそも俺は怪我人っ!
と言うかそれ以前に、武人のつもりも無いの。だからそう言うのは一切なし。
分かった。分かったから。 真名で呼べばいいんだろ?」
「……こくり」
彼女のとんでもない申し出に、さすがの俺も悲鳴をあげながら、全力でお断りをする。
たぶん今の恋は、アレの本当の意味での恐さを知った上、下手にアレの制御方法を体感した事で、真の北郷流舞踊術の初歩。 アレを軽く身体に通り過ぎさせる事が出来る程度だと思う。それは、北郷流を知る俺からすれば、今の彼女を一目見て分かる。
霞や明命達が言っていた、俺が倒れた後の強さは、いわば俺が彼女のアレを制御していた時の名残。
幾ら彼女自身が稀代の武人であると同時に【森の巫女】と呼ばれる存在だとしても、アレの制御方法を簡単に身に付ける事なんてできやしない。
それでも、彼女は間違いなくこの大陸で一番強い存在だろう。
真正面から戦って、俺に最初から勝ち目なんてものは一欠片もありはしない。
この間のは皆の力を借りた挙句に、色々小細工を用意した上に、彼女を倒す気では戦わなかったからこそ、あそこまで戦えたように見えただけだ。
さっきも言ったけど、俺に出来るのは所詮はハッタリと手品で相手の目を誤魔化す事。……そして舞う事ぐらいだ。
だからあの時も俺は舞っただけ。戦ったわけじゃない。
「………じぃー」
「えーと、まだ何か?」
「ふるふる。 ……じぃー」
「もしかして、今、真名を呼べって事?」
「……こくり」
眠気も冷めそうな呂布の飛んでも提案から、やっとの思いで自分を納得させる俺に呂布は無辜の瞳で俺を待ち続ける。
なんというか無表情なのに、その無辜の瞳からは、まだかまだかと俺の言葉を期待している事だけはみしみしと伝わってくる訳で……。
そんな純粋な瞳に見詰められ続けると、彼女に悪いと言う自覚がある俺に逆らえるわけも無く。
「わかった、恋。 此れからはそう呼ばせてもらう。これで良いかい?」
「……ん。 それでいい。 恋も、一刀の事、おにぃと呼ぶ」
「ぶっ! あの、恋さん、なんでそうなるんですかっ!? っててててっ」
先程に引き続き、恋の突拍子もない宣言に、俺は思わず吹き出す。
いや吹き出しただけでなく寝椅子から一気に起き上がろうとして、また肋骨を痛めつけたわけだけど。
そんな俺の様子などお構いなしに。
「………おにぃ。恋の中に妹みた。 ……なら、それでいい。
……恋、おにぃに助けられた。 おにぃも、恋の中の妹を命懸けで助けた。
……なら、恋、おにぃの家族。……だから」
なんというか支離滅裂だけど、恋の短な言葉と必死な瞳から、恋の強い想いはしっかりと伝わってくる。
たぶん恋は小さな頃から不安だったんだと思う。周りが自分と違う事に。そして自分が回りと違う事に。
だから、自分に近いものである北郷流を知る俺に惹かれているんだと思う。
なら仕方ないか。恋はきっと、あの時の賭けを受けるつもりだ。恋達がこれからも孫呉にいるつもりなら、その理由はあってもいいと思う。少なくとも賭けに負けたなんて理由より、家族がいるからと言う理由の方がいいに決まっている。
だから…。
「ああ、わかった。今日から恋は俺の義妹な。
それで恋が納得するなら構わないさ」
「……ん」
ほとんどやけ気味にそう納得して、言葉の意味を示して見せるように恋の頭に手を置いて撫でる。
美羽の時とは違い、少し乱暴気味だったかもしれないけど、ゴシゴシと優しく撫でてやる。
何だろうな。何かまた一波乱があるような気がするけど、まあいいか。
俺には心強い仲間がいるんだ。何とかなるさ。
……何とかしてみる……さ。
ふはぁ……、いかん流石に眠くなってきた。
……起きて…いるのも……限界かな。
……そう言えば、妹が妙に俺に懐くようになったのも、確かあの後からだったよな。
つづく
あとがき みたいなもの
こんにちは、そしてお久しぶり、筆者こと【うたまる】です。
第159話 ~ 郷愁に舞いし想いは胸の中に ~を此処にお送りしました。
あとがきとしては、十数話ぶりですが、気持ち的には一年以上ぶりとなります。
この話まで読んでいただいている読者の皆様には、此処まで待たせてしまい本当に申し訳ないと思います。
話を読んで頂いてお分かりのように、この呂布と武威五将軍とのお話は、この外史特有の設定に深く絡ませてあるお話だったため、色々と槌妻合わせというより、プロットに文章力が追い付かないために途中で、何度挫折しかけた事やら。 ……決して、ゲームにうつつを抜かしていた訳じゃ………ないですよ。 ですから、【異議ありっ!】とか【艦娘】なんて言葉は知らないです。 お気に入りの設定の【時雨(男の娘)×提督】とかに嵌っていた訳では無いですからね。
と、冗談はさておき。まずは最初に、いつも絵を拝借させていただいている金髪のグゥレイトゥ!様、本当にありがとうございます。氏の神絵の御力のおかげで、脳内の恋姫が活き活きとし。彼女達がこの外史を紡ぐ手伝いをしてくれているおかげです。この外史が此処まであるのは氏のおかげと断言しても良い程で、この場を借りましてお礼申し上げたいと思います。
さて、此処まで書いておいてなんですが、一つだけ宣言を。
皆様の予想を大きく裏切る事になるかもしれませんが、呂布および武威五将軍とその仲間達は、孫呉には降りません。えーっ!と思われるかもしれませんが、そう言う物です。御納得ください。
一応、此処までのお話は、多少細部で修正はあったものの、当初に作り上げたプロット通りにお話が進んでいます。タイムスケジュールは、此れでもかーと言うぐらい遅れてますけどね。 映画会社だったら、とっくに潰れているでしょ上ねぇ。と言うかプロの小説家なら、連載中止にされた上に仕事を干される遅さなんだろうなぁと思いつつ。
暫くは、一刀達につかの間の戦後の平和を楽しんでもらおうと思っています。
では、頑張って書きますので、どうか
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『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
恋は求める一刀の言葉を…。
そして一刀もまた恋に言葉を伝えん。
己が罪業を……。
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