命日和3
【瞳魅】
最初は一目惚れだった。
マナカと暮らすことになって引っ越したマンションでようやく落ち着けるかと
思いや、会社側から支店の建て直しとして転勤させられる羽目になった。
マナカの気持ちもまだ不安定な状況だったから正直最悪だと思えたんだ。
だけど初日。借りたマンションから会社に向かう初日に歩いていると途中で
今まであった子より比べ物にならないくらい美しい人が求人雑誌を手にしていた。
まるで上等な金で出来たような髪に宝石のように碧い瞳。
高身長なのにも関わらず美しいと可愛らしい雰囲気が漂っていた。
それが命だったのだと後でわかった。
ある休日、部下である萌黄と一緒に仲睦まじく歩いている子が私が見惚れた子だった。
ちょうど来たばかりで落ち着ける住居がなかった私はマナカを連れて色々条件を命に
突きつけて強引に命と萌黄の家に住み着くことになった。
私は一度夢中になるとそのことしか考えられなくなる癖があるから性質が悪い。
しかも私の眼の力もあってお互い不幸なことにしかならないから猛省していたはずなのに。
こうもすぐに惹かれてしまい、そして拘ってしまうのだから最悪だ。
私は何も学んではいなかった。また過ちを繰り返そうとしているのだから。
だけどその後に私が予想だにしない展開が起こった。私の眼がもつ不思議な力が
命には効かなかったのだ。平然と私と向かいあってる彼女を見ていて安心したのか
それ以降、彼女の傍にいると心が落ち着くことが多くなった。
そして人間不信になっていて心を閉ざしていたマナカも私と同じように命に懐いている。
一緒に過ごしている内にどんどん命に惹かれていってどうしても自分のものに
したいという気持ちが強かったけれど、命は萌黄と付き合っているし。
二人の絆、想いが私では引き剥がせないほど強いのを見ていて感じていた。
惜しいけど仕方がない…私は命を手に入れたい以上に彼女の幸せそうな顔を
見るのが好きだと感じていたから、私が無理に二人を引き離そうとしたら
その一番大事な部分がなくなってしまうから。
たまにでいい。私のことも見てもらいたいと萌黄の目を盗んでこっそり
命に甘えにいったりするのもそんなに悪い気はしなかった。
心も体も私のモノにはできないけれど、ちょっとしたこういう時間なら
許されるよね…?
ちょっとした罪の意識も抱えつつ、大事な人たちに囲まれて過ごす平和な時間が
とても愛おしい。最近に関してはいっそこの関係のままでも良い気がしていた。
「瞳魅さ~ん」
「あぁ、今いくよ」
振り返っていた意識が元の世界に戻ると、爽やかな風が髪を揺らして子供のように
喜ぶ命の姿が目の前にあった。そして少し離れた場所にマナカと萌黄が。
無邪気に微笑むその姿を見ながら私は最初に見たときのように目を細めて
その光景を愛でていた。この一時がずっと続けばいいのにと思いながら
丘の頂上でレジャーシートを敷いた上で横になって目を瞑った。
可愛らしくも美しい彼女のその姿を脳裏に焼き付けるように。
命の癒される声を聞きながら仕事疲れと重なって私は心地良い風が吹く中
再び眠りに就くのだった。
また幸せな夢が見れるといいな。
お終い
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命と瞳魅の出会い、瞳魅視点(命視点は本編にあります)
一目惚れで理由はないけれどずっと目で追っていた。
報われなくても傍に居たい。
そういう彼女の性格にしては珍しい反応が内面にはあります。
人間、外と中では違っていたりするものなのですよ。