No.733490 【小説】オワリトハジマリ【スマブラX二次創作】2014-10-29 21:21:00 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1959 閲覧ユーザー数:1956 |
かつて「神」と呼ばれていたマスターハンドは、声も上げずに泣いていた。
かつて「神」と呼ばれていたマスターハンドは、涙も流さずに泣いていた。
今、自分がいるのは…
〜終点〜
そこは“世界の果て”であり、そして“絶望”とも言える場所。
そして“彼ら”は、決して辿り着いてはいけない“ここ”に辿り着いてしまったのだ。
終点と呼ばれるステージの縁に座ったまま、彼は遠くを見つめていた。
銀河核……またの名を“世界の中心”と呼ばれる場所。
その更に向こう側を見つめていた。
……いや、違う。
彼は“この世”を見ている訳ではなかった。
焦点がボヤけたその目は、己の心の中の“思い出”を見つめているのだ。
最初は、何も無かった。
本当に、何も無かった。
最初は本当に何も存在しなかった。
大地も空気も、星すらも。
そこに世界を構築していったのは、他ならぬ自分自身だ。
星や大地や空気を生み出し、そこから更に沢山の“偶像”を生み出し、そうして“世界”を作っていった。
誰の為でも何の目的も無く、ただ、彼自身が本能的にそうしたかっただけなのだ。
その“偶像”達の姿を、マスターハンドは思い出していたのだ。
心の奥底では理解していた。 “彼ら”を止める事は出来ないのだ、と。
最初のうちは、彼らの戦いぶりを楽しげに見つめていた。
なのに、それが“危機感”に変わったのはいつからだろう?
崩落していく迷宮を、再構築する術は無かった。
彼にはそんな力は既に残されておらず、ただ、思い出に浸りながら消えて行く事しか出来ない事を十分に分かっていた。
「……楽しかったよ……」
彼は、その言葉を弱々しく吐くのが精一杯だった。
皮肉でも何でもない、純粋な思いを口にして……
そしてそれが、彼の最後の言葉となった。
*・ ゚゚・*:.。..。.:*・ ゚*・ ゚゚・*:.。..。.:*・ ゚
「こう言う場合って、一応葬式とやらをやるんだよな?」
そう呟きながら、ヨタヨタと、終点に立ち入って来た一つの“影”……それは、右手であるマスターハンドの対の存在であり、周囲からは影の存在と呼ばれている左手のクレイジーハンドだ。
彼はきょろきょろと辺りを見回し、終点の縁に座っていたマスターハンドの“残骸”を見つける。
……あくまで“座っていた”だ。
脱ぎ捨てられた手袋のように、ふにゃりと力を無くし、皮と言うか布しか残っていないそれを、クレイジーはズルズルと終点の中央にまで持って行く。
本来『神』と呼ばれる彼らは“死”と言う概念を持たない。
何故なら『神』は精神体であり、肉体が無い。
肉体が無いのだから、当然死ぬ事も無い。
あくまで普通の環境下にいれば、の話だ。
だが、この世界は既に普通の環境では無い。
崩壊してしまっているのだ。
壊れた世界からは精神的エネルギーを得る事が出来ない。
だからマスターハンドは“消滅”してしまった。
こいつはもう、二度と目を覚まさない。
クレイジーには、それは充分分かっていた。
そして自分自身も、いつ力尽きてもおかしくない。
それも充分分かっていた。
だから彼自身、いつものように茶化して暴れて立ち回る元気も残っていなかった。
光と呼ばれた片割れの亡骸を、彼は柄にもなく紳士に受け止めていた。
だから、葬式と言う仰々しい所まで行かなくても、それっぽい事くらいはし
てやろうと思いついたのだろう。
花でも供えてやれば良いのかも知れない。
だが、この世界には、もうそれすらも存在しない。
今、この世界に残っているのは、終点と呼ばれる世界の果て…ここだけなの
だ。
見事なまでに、ここにはそれ以外、何も残っていなかった。
後、残っていると言えるのは、マスターの亡骸と、いつ力尽きてもおかしくない自らの存在、そして、マスターが“大好き”だと言っていた沢山の“偶像”。
終点に無事辿りついた“もの”
終点に辿り着く前に力尽きた“もの”
世界が崩壊する直前、クレイジーはそれらを回収し、マスターの元に持って来て、本当なら“最後のはなむけ”としてマスターにくれてやりたかったのだが……
「ちょいとばかり、回収に時間が掛かりすぎちまったようだ…
普段のように立ち回れれば、そんな事ぁなかったんだろうによ……」
既に動かないマスターの周りに、クレイジーは軽くため息を付きながら、既に動かなくなった“偶像”を並べて行く。
“偶像”…
またの名を“フィギュア”達。
これだけを見せて、この手のひらサイズのフィギュアが人間と同じようなサイズになり動く事が出来た…なんて話した所で、誰が信じるだろう。
こいつらを生み出したのはマスターの方だ。
最初は子供のママゴトの延長、お遊び程度のノリだったらしいがな。
奴らは自由に動き回り、マスターの手から離れ、世界を探求し、切磋琢磨
し、そして……
そして……
「いわゆる“自然の摂理”だ。仕方の無い事だ」
マスターもクレイジーも、全てを理解していた。
これすらも、いわゆる通例的な出来事に過ぎないと。
そうして主のいない世界の中心に、クレイジーは黙々と“偶像”を並べ始める。
脱ぐと色々な意味で凄かったサムス姐さん。
力強い剣術がウリだったマルスとアイク。
本当の兄弟のように仲が良かったネスとリュカ。
肉体美では誰にも負けなかったファルコン。
多彩な技で相手を翻弄したリンクやゼルダ兼シーク、ガノンドロフにトゥー
ンリンク。
強さを可愛さを兼ね備えたピカチュウやプリン、そんなポケモン達を束ねる
トレーナーと、不思議な雰囲気をたたえたルカリオ。
何でも食べてしまうヨッシーと、パワーでは誰にも負けなかったクッパ。
可愛さでは誰にも負けなかったピーチ姫と、お下劣だが憎めなかったワリ
オ。
ドンキーとディディーのコンビネーションの良さは誰にも負けなかった。
彼らを通してマスターは何を見ていたのか、クレイジーには計り知る事が出来ない。ただ、彼らに愛着を持ち、全ての“偶像”の事を最後まで気にかけていた事は知っていた。だからこそ、クレイジーは全てのフィギュアをここに集めて来たのだ。最後くらい会わせてやりたかった一心で……
レトロな世界観から呼び出されながらも、違和感無く戦い抜いたアイスクライマー、Mrゲーム&ウォッチ、そしてロボット。
カービィやデデデ大王のノンビリした雰囲気とは真逆のメタナイト…でも、彼らも同じ世界から生み出された“偶像”……
ピットはこの世界に来てから随分と飛躍したよな。その飛躍っぷりはマスターも驚く程だった。
オリマーやピクミンは、一番最近になって作り出された“偶像”だ。勝手が分からない世界でよく頑張って来たなと、やっぱりマスターが言っていたな。
ソニックは……取り敢えず、大迷宮の入り口を海のど真ん中に作って悪かっ
たなと言っていたな。マスターはソニックが泳げない事を素で知らなかったら
しい……
そう言えば、スターフォックスの連中やスネークは、この世界の外側にも仲
間がいて、たまに通信している事があったが、彼らもやはり、この世界と運命
を共にしてしまうのだろうか……
そして、最後に手元に残ったフィギュア達を、改めてクレイジーは見つめる。この“果てしない遊戯”が始まった時、最初にマスターが作った、どのキャラよりも思い入れがあるフィギュア……
緑の帽子のルイージと…………
「あ…れ?」
そこまで来てようやく、クレイジーは自分が持って来たフィギュアに違和感を覚える。
一番肝心のキャラクターが抜けている事を。
マスターが一番最初に作り出した、一番思い入れのあるキャラクターが抜けていると言う事実を。 「一枚足りない〜……って、俺はお岩さんじゃねぇ!!」
それ以前にまだ幽霊でもねぇ!!って今の俺が言っても洒落に聞こえねぇ!!
と言いかけた時、終点の縁に座っている一人の男を見つける。
マスターが倒れていた場所と180度逆の方向に座っていたので、マスターに気を取られっぱなしだったクレイジーは気付かなかったのだ。
一柱(※神様は一柱ニ柱と数える)で大騒ぎしているクレイジーには目もくれず、終点に広がる星々のずっと先を見つめるかのように、黙ったまま遥か遠くを見つめている。
しかもその男は、恐ろしい程に気配を消している。神様のクレイジーが気付かない程に。
それもその筈だった。
その男は既に、半分、普通の人間ではなくなっていた。
「おい…」
クレイジーは“彼”をこちらに呼ぼうとしたが、その姿を見た瞬間、彼が既に動ける状況でない事を悟る。
「悪いね。僕はもう見ての通り動ける状態じゃないから、悪いケド、用があるならそっちから来てよ」
その一人の男…赤い帽子に青いオーバーオールを着た男、マリオはか細い声でクレイジーを呼んだ。
それは“彼らしくない対応”だったが、それも仕方がなかった。
第一、この状況下でまだ人間の姿を保ち、言葉を話せるだけでも奇跡だった。
けれども、左腕は既に硬直し、その重さで彼は身動きが取れなくなっていたのだ。
「説明されなくても、大体自分の置かれてる状況は分かるよ。仲間達の行く末を散々見て来たからね」
ヤケに冷静に、顔色一つ変える事なくマリオはそう言った。
「そう、最終的には、この身体全てが硬直し、そして一気に縮小する。
僕たちは“死ぬ”のでも“消える”のでもなく、“元あった姿に戻る”。それだけなんだよ」
誰に言われる訳でも無く、何故かマリオはそこまで把握していた。
「お前、どうして……」
「さあね…分からない」
マリオは軽く首を振った後に話を続ける。
「左腕が固まって動かなくなった時に、何者かの意識が流れ込んで来るのを感じたんだ。僕の身体の中に、別の何者かの存在を……」
何者かの意識……
それがマスターハンドだと言う事は、言われなくてもクレイジーには分かっ
ていた。
彼が、一番最初に作った“偶像”。
彼が、一番最初に意識を与えた“偶像”。
“彼”から全てが始まった…
そう言っても良いだろう。
そして、たまたまマスターが力尽きる時に、一番近くにいたのだろう。
「だから、か…」
誰に言うとも無く、クレイジーはそう呟いた。
マスターは消えた。
なのに世界は…終点だけとは言え、まだ残っている。
それはおかしいとクレイジーは思っていた。
恐らく、マスターの力はまだ消えちゃいない。
その最後の力の半分を、マリオと俺に分け与えて世界の延命を計ったんだ…
そんな事をしたって無駄だ。
そうクレイジーは言いたくなったが、敢えて言葉を飲んだ。
言った所でどうにもならない事を、彼が一番知っていたからだ。
「その別人の意識がさあ、凄い情報量でさぁ、左腕は重いわ頭はクラクラする
わで、僕リアルに死にそうなんだけれど…」
そう言いながらマリオはニコニコ笑っている。事の重大さを分かっているの
かいないのかと言われれば、恐らく前者だろう。どんな逆境にも屈しない、彼
はそんなキャラクターだから。
その言葉をきっかけに、マリオは怒濤のように話し始めた。
マスターハンドにしか語り得ないような世界の創世の話を……
*・ ゚゚・*:.。..。.:*・ ゚*・ ゚゚・*:.。..。.:*・ ゚
本当に最初はママゴトの延長のような出来事だった。
幼い子供が、強い勇者や怪獣を真似て戦いごっこをするようなノリだった。
マスターハンドは窮屈で狭苦しく、何も無い世界から抜け出したいばかり
に、爆発的に世界を広げる所から事を始めた。
そうして、他の世界から、どこかで見たようなキャラクター達の“偶像”を作って遊んでいた。
そのうち本格的に“どこかで見たような世界”を構築し“どこかで見たようなキャラクター達”を生み出したんだ。
それでも、マスターハンドは満足しなかった。
誰だって好奇心や探究心「もっともっと高みへ進みたい」と言う欲求があるだろう?僕たちはいつの間にか、そのマスターハンドの“欲望の追求”に答えるように、自らの意思で動き、自らの意思で戦うようになっていた。
何故、山に登る?
そこに山があるから。
それと似たような理由で……
何故戦う?と問われれば
“そこに強い相手がいるから”
としか答えようがなかった。
多分、僕たちはそこまで深く考えるように作られてなかったんだと思う。
そして、この世界で最も強い相手……その相手を倒したいと思うようになっ
てしまった。最も強い相手……そう、生みの親であるマスターハンドにね。
理由なんて、あって無かったようなものだった。
ただ、強い相手と戦いたかった。それだけだったんだよ。
でも、この世界はマスターハンドの力によって構成され、存在している場所だ。
彼が倒されれば、この世界は消えて無くなり、僕らは“偶像”に戻ってしまう……
それを事前に知っていれば良かったんだろうけれど、本当に僕たちの頭の中には“自分より強い相手と戦う欲求”しか無かったからね。
だから、マスターハンドは大慌てで『亜空軍』と言う“物語”を作り出し、その行く先に『大迷宮』を作り出した。
世界の果て…〜終点〜には、“その先へと進んではいけない、その先には絶望しか無いんだ”と言うメッセージを込めて、自分のエネルギーの全てを費やして『タブー』なんて怪人まで生み出してみたケド、まさかそれまで倒されてしまうとはね……
*・ ゚゚・*:.。..。.:*・ ゚*・ ゚゚・*:.。..。.:*・ ゚
「あの戦いは俺もずっと頭上から観戦してたよ。しかしおっさん、よくあのタ
ブーの波動砲を避けたよなぁ」
「アレかぁ、アレはメタちゃんがぶっ飛ばされた時に見切ったよ。しかしあれ
は本当にタブーと言うか何と言うか、普通に戦ってたら避けられる訳無いだ
ろ…って、マスターに一言文句言いたかったんだがなぁ」
「……てか、メタちゃんって誰だよ!?メタナイトの事か!?」
「うん、僕、人に勝手にあだ名つけるの好きだからね」
クレイジーの問いに、マリオは軽くため息を吐きながら右手であごを付き、相変わらず宇宙空間を眺めながら答える。
今まで自分達が行き交っていた世界が、大迷宮が、崩落し、星屑になっていく様子を眺めているのだ。
そんな光景を見せられても尚、マリオには悲観的な雰囲気は無く、物事を淡々と受け止めているように思えた。
その様子に、クレイジーの方が驚いた。
普通、世界が崩落すると言ったら、もっと動揺する筈だ。
だが、マリオは分かっていた。
マスターハンドの意識が流れ込んできた時に気付いた…
いや、思い出したのだ。
「クレイジー、そんなに悲観するような出来事でも無いんだよ、これは……」「……」
「まあ、僕が説明しなくても君は知っているかもね。僕たちは何度も何度も、この戦いと消滅を繰り返して来た。まるで風船のようにね」
「……風船……って、もぅちょっとさ、カッコいい比喩は無いのかよ!?」
「じゃあ何か考えてよ」
「ぅえ!?神様の俺に向かって命令する気かよ!?」
「なら風船に決定ね」
「……はいはい、もういいや風船で……」
そう、この世界は風船と同じなんだ。
風船が一番小さい時に、息苦しさを感じたマスターハンドの手によって僕たちの偶像が造られる。
そうして僕たちの意思で動き、膨張し、破裂寸前になった所で空気を抜く…
それはつまり、いままで大きくしていた世界を一度破壊すると言う事。そうする事で、風船から空気を抜く=永遠の死を迎える事を避け、再生の機会を与えられるんだ。
破壊と、構築……
全ての終わりが、全ての始まり……
「だからもう一度言うよ。クレイジー、これは、そんなに悲観するような出来事じゃない。恐らく、再生された時、僕の中には記憶は残っていないだろうけれど、マスターは覚えているみたいだから」
そう話すマリオの表情は妙にスッキリとしていた。
「…お前は、怖くないのか?記憶が無くなるのと死ぬのとは大差無いんじゃないのか?消えていなくなると言う点では……」
「そうかも知れないね。でも本当に死んでしまって何も出来なくなるよりは、再生出来る方に僕は賭けたいんだ。今のように、マスターの意識が流れ込んで、全てを思い出す事が出来るかも知れないからね」
世界は壊れる。
いや、萎縮する。
僕たちは全て真っ新な偶像に戻り、記憶も無くなる。
そして限界まで世界が小さくなった時……
窮屈さに堪え兼ねたマスターが、再び世界を作り出すんだ。
「マスター、いや、マリオ……そのサイクル、今まで何度繰り返して来たんだ?」 「……知らない。多分マスターもいちいち数えてないんじゃないかな?
まぁいいじゃん、そんな細かい事。
仲間達が先に行ってしまって、僕は一人でその瞬間を迎えるんだなと漠然と思っていたけれど、話し相手がいてくれて良かったよ」
マリオはクレイジーに向かって屈託なく笑顔を見せる。
「…人から礼を言われたのは初めてだなぁ」
クレイジーの方は、どう対処して良いのか分からずにオドオドしている。
「だろうねぇ、だって普段の君は、もっと話が通じない相手だからねぇ」
「てめぇらの話を聞かずに暴れるのが、普段の俺の“役割”だからな」
相変わらず屈託なく笑いながら、マリオは右手をクレイジーの方に差し出す。そんな話をしている間にも彼が硬直している範囲は少しずつ広がっており、今のマリオは辛うじて首から上と右腕だけが動かせるような状態だった。
「また次の世界でも、宜しくな」 「ああ……」
二人は手を取り合い、再会の約束を交わす。
恐らく、次に会った時には互いにその記憶が無くなると分かっていても……
その瞬間、世界の崩落は世界の果てにある終点にも及ぶ。
台の中央、マスターハンドの亡骸が安置されている場所から徐々に大きなヒビが走り、少しずつ、そして急速に広がって行く。崩れゆく終点の中、クレイジーは活動する力を失い、抜け殻のように手袋だけを残し、マリオもまた急速に“偶像”へと姿を変えて行く。
そうして世界は再び萎縮し、深い眠りにつく。
そして数年後…
世界は再び“展開”される。
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こちらは2014.8.24に発行した小説「オワリトハジマリ」の推敲Verです。
マリオとマスターとクレイジーしか出ない地味な小説です。
舞台はスマブラのXとなってます。
★同人誌Verとの違い
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