story39 激闘!プラウダ高校!
特使が去った後、メンバーはそれぞれの戦車に乗り込み、作戦開始を待つ。
「本当に良いんですか?」
「あぁ」
「任せて」
西住は38tに乗り込む生徒会メンバーに心配そうに問い掛ける。
次の作戦は、カメチームにその重い任を背負わせる事になった。
何でもみんなを今回の件に巻き込んだと言う生徒会の責任として、今回の作戦の要を担ったと言う。
そして各戦車の車長には、それぞれのチームの役目を伝えられている。
「じゃぁ行くよー!」
角谷会長の言葉で全員が気を引き締め、西住は車内に入ろうとする。
「西住ちゃん!」
と、入る前に呼び止められて、西住は角谷会長を見る。
「・・・・あたし達をここまで連れて来てくれて、ありがとうね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
如月は砲弾を装弾機に乗せて薬室に装填すると、次の砲弾を装弾機に乗せ、砲弾ラックより砲弾を取り出して抱える。
「今回の作戦の要は、カメチームと、ネズミチームですね」
「あぁ」
如月は軽く返事を返す。
カメチームが先陣を切り、敵戦車を数輌撃破するというかなりの難題である。
ネズミチームは次の作戦にはある役目を持って別行動をするようになっている。
最もネズミチームの働き次第で、本作戦の成功に関わっている。
『それでは、これより敵包囲網を突破する「ところてん作戦」を開始します。パンツァー・フォー!!』
――――――――――――――――――――――――――
その頃プラウダの包囲網部隊は大洗の戦車隊が出てくるのを待ち構えている。
「あえて包囲網にゆるい所を作ってあげたわ。やつらは必ずそこを突いて来る。突いたら挟んでお終いよ」
戦車のキューポラから立ち上がり、カチューシャは待ち構えている。
「・・・・うまく行けば良いのですがね」
隣で副隊長であるノンナが皮肉る。
「カチューシャの立てた作戦が失敗するわけないじゃない!それに第二の策として、もし万が一フラッグ車を狙いに来たとしても、その時は隠れているKV-2がちゃんと始末してくれるわ。
用意周到のカチューシャ戦術を前にして、敵の泣きべそ掻くが姿が目に浮かぶわ!」
自信ありげに語るも、なぜか不安要素が漂ってばかりだった。
「・・・・・・」
カチューシャが指定した場所にナヨノフ、クリューク、ベルディエフが乗るT-43はKV-1SとT-34を率いて待機していた。
(包囲網を突破するには薄い所を突いて突破するのが定石。大洗がそこを突き、包囲して撃破するカチューシャ隊長の考えは最も。
だけど、相手もそれは警戒しているはず)
隊長の命令は絶対だが、幾多の戦いを経験してきたナヨノフに疑問は残る。
(あえて厚い所を突き、こちらの意表を突くと言う戦術もある。となれば、大洗はカチューシャ隊長がいる地点を通るはず)
長い経験からの勘がそう語る。
(すぐに移動する準備はしておいた方が得策か・・・・)
すぐに無線を取るとスイッチを入れる。
「各車に通達。敵が教会から出てきたら、すぐさま移動する」
『よろしいのですか?カチューシャ隊長からはここにやって来る大洗の戦車を撃滅しろとの命令ですが?』
「戦場は憶測通りに進むものではない。それに指揮しているのは西住流の者だ。必ず裏を掻いてくるはずだ」
『りょ、了解!』
無線のスイッチを切り、元の場所に掛ける。
(さて、どう出る)
そう考えた瞬間、大洗の戦車隊が教会から一気に出てくると、一斉に砲撃は始まる。
「・・・・・・」
大洗の戦車隊は真っ直ぐこちらに向かってくる――――――――――
――――――――と思った瞬間針路を右へ変え、あえて分厚い所へ向かっていく。
「やはり、か」
ナヨノフはアクセルを踏み、その場から一気に走り出すと、後に後続車が続く。
そのまま追撃を行おうとするが、ふと違和感を覚える。
大洗の戦車は全部で10輌居たはず。しかし、一瞬ではあったが、一輌足りない。
「(まさか・・・・!)Стой(ストーイ:止まれ)!!」
ナヨノフはすぐに無線を取って連絡を入れるが、その瞬間教会の中より砲弾が飛び出ると、一直線にKV-1Sの砲塔基部に着弾し、白旗が揚がる。
「ヒャッハァァァァァァッ!!!」
教会の中よりネズミチームの四式が飛び出てくると、砲塔を旋回させて主砲より砲弾を放ち、T-34の砲塔後部を掠り、砲塔の形を歪めて旋回不能にする。
「っ!Огонь(アゴーニ:撃て)!!」
「ちょいさぁっ!!」
ナヨノフは砲手の名を叫び、すぐに主砲は四式に向けられ、轟音と共に砲弾を放つも、四式は急停止して砲弾をかわす。
直後に主砲がT-43に向けられ、砲弾を放つも、ギアを入れ替えてアクセルを踏み、急速後退して回避する。
「・・・・残ったT-34は追撃部隊と合流!後で我々も追いかける!」
『Да(ダー:はい)!!』
無線で残ったT-34一輌に指示を出し、そのままT-34は追撃を再開する。
「・・・・・・」
「よし。何とかアイツだけに出来たな」
「えぇ」
「はい」
「・・・・・・」コク
キューポラの覗き窓を覗き、T-43を見つめる。
「三枝。避けまくれよ」
「お任せください」
「青嶋。砲弾を撃ち切るぐらいまで撃ちまくれ。少なくともやつをフラッグ車追撃に向かわせるはおろか、後に来る隊長達へ向かわせるな」
「了解!」
「中島は常時通信で本隊と連絡を取れ!」
「了解っす!」
「高峯!装填は早くしな!」
「・・・・・・」コク
そして両者は同時に動き出し、轟音と共に砲弾を放つ。
砲弾がそれぞれの砲塔側面を掠り、そのまま車体側面を掠らせて火花を散らし、そのままそれぞれ右へ旋回すると同時に砲塔も旋回させ、同時に主砲より砲弾を放つ。
「っ!」
三枝は左レバーを引いて左へ旋回し、T-43の前へ立ちはだかるように四式を向かわせる。
直後に主砲より砲弾が放たれるも、T-43は車体を右へ旋回させて斜めにし、砲弾を弾く。
T-43より砲弾が放たれるも四式は後ろに下がってかわし、そのままT-43へ向かって走行する。
ナヨノフはそのままアクセルを踏んで前進させ、こちらに向かってくる四式に車体を向ける。
直後に三枝は左へ旋回させ、広場に出るとT-43もその後に続く。
「よしっ!奴さんを引き付けれた!」
「後はどこまで私達が時間を稼げるかに掛かっているっすね!」
「おうよ!野郎共気引き締めて行くぞ!」
『オォ!!』
「・・・・・・」ビシッ
車内で声が上がり、T-43の砲撃をかわしながら四式も反撃しながらT-43を引き寄せていく。
――――――――――――――――――――――――――
『こちらネズミチームっす!!T-43を何とか引き付けれたっす!』
『了解!出来るだけ長く引きつけてください!』
『了解っす!』
ネズミチームの報告をヘッドフォンから聞き、前に向き直る。
『前方敵四輌!!』
西住の言う通り、前方には四つの発砲炎が確認される。
『こちらからも四輌付いて来ています!それ以上かも!』
一番後ろを走行しているルノーの園より報告が入る。
『挟まれる前に十一時の方向に旋回してください!』
『正面の四輌を引き受けたよ!うまく行ったら後で合流ね!』
ここからカメチームは単騎で前方の四輌へ突撃を掛ける。
キューポラハッチを開けて立ち上がり、双眼鏡で覗くと、T-34が二輌に85が一輌、そしてIS-2が一輌と確認できた。
38tでは手に負えない戦車が一輌居るが、それ以外は当たり所次第ではなんとか撃破できる。
『西住ちゃん!良いから展開して!!』
『分かりました!気をつけてください!』
『そっちもね!』
そして38t以外は左へ旋回して離脱していく。
「・・・・・・」
如月は走り去る38tを見送り、陸軍式の敬礼を向けると。
(武運を祈る)
内心で呟くと、車内に戻る。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その後38tが撃破されたアナウンスが流れる。
『いやぁごめん。二輌しか撃破出来なかった上にやられちゃった。後は宜しくね』
『頼んだぞ、西住』
『お願いね!!』
生徒会メンバーより無線が入ると、息を呑む。
(先ほどネズミチームの報告と合わせれば、相手は残り七両。ここからが本番だ)
『この窪地から脱出します!全車あんこうに付いて来て下さい!!』
『はい!』
「了解!」
『Yes!』
――――――――――――――――――――――――――――――――
観客席では大洗を応援する声が次々と上がる。
(あの包囲網を、相手の意表を突いて突破するとは・・・・。やはり西住みほは見所がある)
モニターに表示されている状況を見て、内心で呟く。
(さて、プラウダは一気に車輌を失ったけど、まだ油断は出来ない)
火力の高い砲を持つKV-1Sは先ほど撃破されたが、まだKV-2とIS-2が残っている。
(ここが正念場ね)
「やるじゃねぇか」
焔は腕を組み、モニターの様子を見る。
(これは大穴の予感だな。ここまで勝負の結果が気になるのは、久しぶりだな)
口角を吊り上げ、胸が高鳴るのを感じる。
―――――――――――――――――――――――――――
「何やってんのよ!あんな低スペック集団相手に!全車で包囲!!」
作戦が失敗し、逆にこちらに被害を被られた事にご立腹なカチューシャは怒鳴りつける。
『こちらフラッグ車。・・・・フラッグ車もすか?』
「アホか!あんた達は冬眠したヒグマ並に大人しくしていなさい!」
『りょうかーい』
そう怒鳴りつけると無線周波数を変えさせてナヨノフに繋げる。
「ナヨノフ!あんたはどこで油売ってんのよ!」
『現在大洗の戦車と交戦中。フラッグ車に近づけないようにしています』
「そんな低スペック戦車なんてさっさと倒してこっちと合流しなさい!」
『了解です』
無線が切れると、ギリギリと歯軋りを立てる。
―――――――――――――――――――――――――――――――
『あんこう二時!展開します!フェイントが入って難易度高いです!頑張って付いて来て下さい!!』
『了解ぜよ!』
『了解ネー!』
「了解した!」
あんこうチームのⅣ号を筆頭にじぐざぐに蛇行し、相手を惑わす。
「っ!」
すると後方から発光する無数の弾丸が飛来する。
「敵の曳光弾です!」
「位置がバレたな。だが、好都合だ」
目的はあくまでも敵の主力を誘導させる為。本命はこの後だ。
『カモさん!追いかけてきているのは何輌ですか!』
『えぇと・・・・全部で三台です!』
『フラッグ車は居ますか!』
『見当たりません!』
『カバさん!あんこうと共に隠れ、敵をやり過ごしてください!主力が居ない内に敵フラッグ車を叩きます!ウサギさん、カモさん、アリクイさん、クマさん、タカさんはアヒルさんを守りつつ敵を引き寄せて!
この暗さに紛れる為、出来るだけ発砲は避けてください』
『了解!』
西住の指示を聞き、戦車隊は窪地から脱出し、そのまま四号とⅢ突は左右に分かれて身を隠すと、残りはそのまま直進する。
敵はⅣ号とⅢ突に気付かぬまま直進して追撃し、少ししてⅣ号とⅢ突が再び窪地へと入り、フラッグ車が潜んでいるであろう村へ向かう。
―――――――――――――――――――――――――――
「っ!」
プラウダのT-34と85は次々と砲弾を放ち、フラッグ車の近くに着弾する。
「各車!フラッグ車をやられたら元もこうも無い!盾になってでも守り通せ!」
『了解!』
五式、三式、ルノーB1、九七式、M3の順で八九式の後ろに並ぶ。
「っ!」
すると八九式の近くに砲弾が着弾するとさっきまでより大きな爆発が起こる。
「っ!IS-2。厄介のが来たな」
キューポラの覗き窓から覗くと、曳光弾を放つ追撃隊の中にIS-2が居た。恐らく先ほどの砲撃はIS-2によるものだろう。
「これで追いかけて来ているのは四両・・・・」
直撃を受ければ確実に撃破されるのは目に見えている。
「とにかく逃げ続けろ!少しでも多く時間を稼ぐ!」
と言った瞬間、M3の車体後部にIS-2が放った砲弾が着弾して一瞬浮かび上がると、白旗が揚がって列から離脱する。
『ウサギチーム走行不能!』
「!大丈夫か!」
『大丈夫です!!』
『メガネ割れちゃったけど大丈夫です!』
『如月副隊長!後はお願いします!』
「・・・・了解した!」
『ここは任せるネー!』
と、タカチームの九七式が列から離脱すると、砲塔を後ろに向ける。
「!何をする気だ!」
『決まってマース!一方敵にやられっぱなしには行きまセーン!』
「馬鹿か!発砲は避けろと西住が言っただろ!」
砲撃を行えば発砲炎でこちらの位置を正確に掴まれてしまう。
それこそIS-2の格好の的になるだけだ。
『だから、こうするのデース!』
すると九七式は一気に速度を落とし列から大きく離れていく。
「っ!」
大きく離れ、追撃隊とかなり近い距離まで来た直後に、大きく蛇行しながら九七式が発砲する。
「自ら囮に!?」
「何て無茶な・・・・」
「・・・・・・」
「っ!」
比叡は両手のレバーを倒したり引いたりして左右にジグザグに蛇行し、敵の砲弾をかわしていく。
「さすがに揺れる・・・・!」
霧島は砲身を安定させる為に肩当てを左肩に当てて何とか砲身を安定させ、引き金を引いて砲弾を放ち、T-34に着弾させるも、火花を散らして弾かれる。
「この状態だとしても、新砲塔チハの砲でもT-34も撃破出来ないとは!」
「ワタシタチの目的はあくまで時間稼ぎネー!撃破が目的ではない!
榛名!榴弾を装填してくだサーイ!」
「はい!」
榛名は榴弾を抱えて薬室に押し込んで装填する。
「霧島!撃破出来なくても、せめて動きを封じる為に履帯をBreakするネー!」
「了解!」
車体が揺れる中、何とか身体を張って砲身を安定させながら追撃してくる戦車の履帯に狙いを定める。
「比叡!全てはあなたの操縦に掛かっていマース!回避任せるネー!」
「お任せを!お姉さまが乗っているこのチハに露助の砲弾は一発たりとも命中させません!」
「よろしい!ここで私達艦部の見せ場!大和魂を見せてやるデース!!」
『了解!!』
次々と飛んでくる砲弾を比叡は左右に九七式を蛇行させてかわし続け、霧島は狙いを定めて引き金を引く。
放たれた榴弾は一直線に跳び、T-34の砲塔右側面に着弾するも、弾かれる。
「次弾装填!」
榛名はすぐに榴弾を装填し、左右に車内が揺られる中霧島は狙いを定めて引き金を引く。
しかし榴弾は下に逸れ、IS-2の前に着弾して爆発する。
「くっ!」
直後にIS-2より放たれた砲弾が九七式の少し離れた所に着弾して車体が揺らされるも、霧島は狙いを定め、引き金を引いて榴弾を放ち、T-34の目の前に着弾して破裂する。
榛名が素早く次弾を装填し、それと同時にT-34と85が放った砲弾が九七式の近くに着弾するも、霧島が狙いを定め、引き金を引いて砲弾を放つと、一直線にT-34の左側履帯に着弾して破壊し、動きを止める。
「Wow!!これで残りは後三輌ネー!!」
「このまま、押し切ります!」
霧島は次弾が装填されると、狙いを定め、引き金を引いて榴弾を放つもT-34-85の目の前に着弾して爆発する。
T-34-85より砲弾が放たれ、九七式の近くに着弾して車体を揺らされるも、比叡は何とかバランスを保たせる。
「霧島!!」
「これで!!」
榛名が榴弾を装填し、その間に霧島が狙いを定め、引き金を引いて榴弾を放つと、一直線にT-34-85の左側履帯に着弾し、破壊した。
「やった!!」
「これで残りは――――」
しかしその瞬間九七式の左の近くにIS-2が放った砲弾が極めて至近に着弾して爆発し、その勢いで車体左側が一瞬浮かび上がり、更に履帯が衝撃で外れる。
「ヒェェェェェェェッ!?」
比叡の叫びが上がる中、IS-2とT-34-85が九七式に迫る。
「・・・・ここまでデスカ」
二輌の戦車が迫る中、金剛は覚悟を決める。
しかしIS-2とT-34-85は九七式の両脇を通り過ぎていく。
「What!?」
「「「はい!?」」」
まさかのスルーに金剛達は驚愕する。
「ワタシタチは無視デスカー!!」
キューポラを開けて立ち上がり、声を上げる。
「しかし、よろしいのですか。撃破しなくても」
狙いを付けながらノンナがカチューシャに聞く。
「あんなブリキの戦車を撃破したって何の得にもならないわよ。それよりフラッグ車よ!」
声を上げると同時にT-34-85より砲弾が放たれる。
(くそぉ・・・・。あのブリキ戦車のせいで二輌も走行不能にさせられるとか、やってくれるじゃない!)
苛立ちながらも無線に怒鳴りをつける。
「ナヨノフ!!いつまで手こずっているのよ!!さっさと来なさい!!」
『申し訳ございません。かなり手強い相手ですので・・・・・・合流出来そうにありません』
「はぁ!?何寝言言ってんのよ!!この間に何かあった日には――――」
『カチューシャ隊長!!こちらフラッグ、発見されちゃいましたどうしましょう!?そちらに合流できますか!っていうかさせてください!!』
と、無線よりフラッグ車からの連絡が入り、「はぁ!?」と思わず声が上がる。
「Нет(ニェート)!!単独で雪原に出たらいい的になるだけよ!!」
「ほんの少し時間さえいただければ、必ず、仕留めて見せます」
と、言うなり、IS-2より砲弾が発射され、逃走するルノーの車体後部に着弾させ、撃破する。
「と言う事だから!チャカチャカ逃げ回って時間稼ぎをして!頼れる同志の前に引き釣り出しても良いんだから!」
『カモチーム撃破されました!クマチーム、アリクイチーム、アヒルチームの皆さん!健闘を祈る!!』
カモチームより無線が入り、如月は息を呑む。
「残るは私達とアリクイチームですか・・・・」
「タカチームによって二輌の履帯を破壊して、追撃隊は二分の一まで減りましたが・・・・それでも厄介なのが残っています」
「ソ連戦車で、しかも大口径で精度が悪いIS-2であそこまでの精度ですから、やられるのも時間の問題ですね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
如月はキューポラハッチを開けて立ち上がり、双眼鏡でIS-2を見る。
(やつを倒さなければ、我々に逃げ場はない。先ほどフラッグ車を発見したと言っているが、このままでは先にやられる)
厄介なT-43はネズミチームが引き付けているので、プラウダのフラッグ車はⅣ号とⅢ突が追撃しているも、逃げ足が早く中々撃破に至らない。
いづれにしても、T-43がフラッグ車に合流されるのも時間の問題になりかねない。
(T-43に妨害される前に、こちらを片付ければ・・・・)
IS-2より砲弾が放たれ、三式の近くに着弾する。
「やるか・・・・」
如月はすぐに車内に戻ると、薬室の薬莢排出レバーを下ろし、装填済みの砲弾を装弾機に戻す。
「如月さん?何を?」
突然の行動に鈴野は驚きを隠せれない。
「このままでは、やられるのは目に見えている。ならば、賭けに出る」
砲弾を砲弾ラックへ戻し、榴弾を取り出すと装弾機に乗せ、薬室に装填する。
「早瀬。列を離れ、IS-2に突撃を掛けろ!」
「え、えぇっ!?」
「IS-2にですか!?」
「あぁ。やつを倒さない限り、私達に勝ち目は無い」
「・・・・・・」
「撃破出来なくても、刺し違えてでも戦闘不能までにすればいい」
「如月さん・・・・」
「鈴野。榴弾は五式が一度に連続して撃てる三発しか無い。それで、決められるか?」
「・・・・・・」
少し間を置くも、軽く縦に頷く。
「確実に、とは行きませんが、やってみます!いえ、必ず成功させてみせます!」
「よし。坂本。副砲を撃ちまくれ。当たらなくて良い。牽制しろ!」
「了解!」
坂本は副砲の尾栓を開け、砲弾を取り出して装填し、尾栓を閉める。
「早瀬。砲弾をかわしつつ、IS-2へ特攻を仕掛けろ!」
「特攻って・・・・・・分かりました!こうなれば、ぶつける覚悟でやってやりますよ!!」
「アリクイチーム。何があっても、フラッグ車を守り通せ」
『了解です!』
如月はアリクイチームに伝えると、榴弾を装弾機に乗せ、もう一発を抱える。
「行くぞ!」
『はい!!』
早瀬は左のレバーを引き、列を離れて大きく迂回しながらIS-2へ向かっていく。
「!・・・・敵がこっちに突っ込んできます」
列から離れた五式がこちらに向かって来るのをノンナはスコープを覗きながら確認する。
「はぁ!?何考えてるのよ!?だったら返り討ちよ!!」
T-34-85とIS-2より砲弾が放たれ、五式は左右に蛇行して砲弾をかわす。
「っ!」
鈴野は引き金を引き、榴弾を放つと同時に閉鎖機が横に動き、空薬莢が排出されると同時に私は砲尾のスイッチを押して次弾を装填する。
榴弾はIS-2の砲塔の曲面部に着弾して弾かれ、空中で爆発する。
85から放たれた砲弾が五式の砲塔右側面を掠るも、五式の車体副砲より砲弾が放たれてIS-2に着弾するも弾かれる。
直後にIS-2が放った砲弾が一直線に五式の砲塔上部のキューポラに着弾して吹き飛ばす。
「くぅ!」
「構うな!撃て!!」
鈴野は狙いを定め、引き金を引いて榴弾を放ち、一直線にIS-2の砲身を掠り、砲塔に着弾して爆発するも、撃破には至らない。
IS-2が轟音と共に砲弾を放ち、五式が左へ避けると砲弾は一直線に三式の車体後部に着弾し、行動不能となって白旗が揚がる。
「アリクイチームが!」
「くそっ!!」
坂本が副砲を放つも、砲弾はIS-2の近くに着弾する。
「くっ!行きます!」
早瀬はアクセル全開で五式を走らせ、如月は最後の榴弾を装弾機に乗せ、薬室に装填する。
(頼むぞ、鈴野・・・・!)
全てを彼女に託した。
(この一撃に・・・・全てを賭ける!)
鈴野は全員の期待に応えるべく、全神経を研ぎ澄ませて狙いを定める。
IS-2も確実に仕留める為か、砲身を上げ下げして微調整する。
どんどん二輌の距離は縮まっていく。
その一瞬一瞬が、遅く感じられた。
IS-2は五式が特攻を仕掛ける事に気づき、すぐさま右へ転進するも五式もその後に続く。
そして次の瞬間、近距離で五式、IS-2、T-34-85の三輌の主砲より同時に砲弾が轟音と共に放たれる。
T-34-85より放たれた砲弾は五式の砲塔左側面を掠り、IS-2から放たれた砲弾は一直線に五式の砲塔正面に着弾し、そのまま五式はIS-2の左側面へ正面から衝突して、五式の車体後部が一瞬浮かび上がり、同時に五式の砲身がIS-2の砲塔にぶつかり、先端が折れる。
その衝撃で車長席にしがみ付いていた如月だったが、前へ吹き飛ばされ、砲手席の背もたれの裏側にある金具に強く額をぶつける。
衝突したまま、五式とIS-2は停止し、直後に五式の砲塔天板より撃破判定の白旗が揚がる。
そしてIS-2は――――――
――――――撃破には至らず、白旗が揚がらなかった。
しかし、IS-2の長い砲身の先端は、バナナの皮を剥いたかのように破裂していた。
――――――――――――――――――――――――――
「・・・・ふ、はははは」
二階堂は砲塔内に仰向けに倒れていたが、静かに笑いを上げる。
四式の右側履帯が破壊され、砲塔天板からは白旗が揚がっていたが、近くでは砲塔が故障したのか主砲の位置が固定され、砲身が真ん中から折れているT-43が四式の近くで停止している。
「やられちまったな」
「そうっすね」
「えぇ」
「・・・・・・」コク
メンバーはやられたと言うのに、悔しい様子を見せなかった。
「だが、俺達の役目は果たした」
二階堂達の目的はあくまでT-43を出来る限り長く引きつけている事だ。撃破ではない。
『プラウダ高校フラッグ車、走行不能!よって・・・・・・大洗女子学園の勝利!!』
そして、大洗の勝利を告げるアナウンスが流れる。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。