No.733379

欠陥異端者 by.IS 第二十七話(襲撃)

rzthooさん

・・・

2014-10-29 10:48:59 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1120   閲覧ユーザー数:1095

 

学園祭二日目・・・・・・の午前5時。

 

零「ふぁあああ・・・」

 

何でこんな時間に学園長室に訪れなければならないのだろう?

昨日の内に、左の瞼の応急処置は済ませた。

しかし、止血程度の処置なので、眼帯を外せばあの忌まわしい瞳が露わになる。

 

 [コンコンッ]

零「落合です」

 

轡木「入りたまえ」

 

ん? 何か、前に会った時より口調に重みが・・・。

 

零「失礼しま・・・す?」

 

轡木「やぁ」

 

千冬「・・・」

 

織斑先生が、いつもと変わらぬ佇まいで、学園長の隣に立っていた。

 

零「あの、これは一体・・・?」

 

轡木「それは織斑先生から。じゃあ、よろしく」

 

千冬「はい・・・落合。昨日の13時以降、どこで何をしていた?」

 

零「っ・・・」

 

織斑先生が告げた時刻は、私が昨日、オータムに襲撃された時間帯だ。

・・・バレたのか。いや、華城先生が何とか"誤魔化してくれる"とは言っていたはず。

 

零「ほ、保健室です・・・」

 

千冬「そうだ。その通りだな・・・華城先生がそれを証明してくれている」

 

零「・・・」

 

千冬「・・・」

 

しばらく先生との睨み合いが続く。

 

千冬「はぁ・・・お前が口を閉ざす理由は把握しているつもりだ。だが言え。あの時・・・第3アリーナの更衣室で何があった?」

 

零[ビクッ]

 

一層強くなった睨みに、背筋が凍った。

 

零「・・・」

 

千冬「言わないのであれば、私が言ってやろう。お前は、『亡国機業』のエージェントの襲撃に遭った。違うか?」

 

零「・・・知っているくせに、わざわざ私に言わせようとしていたんですね」

 

千冬「こういうのは、相手から言わせた方がいいからな。特に、貴様は。それで? 私の言った事は事実か?」

 

零「さぁ?・・・ただ、一夏さんをしっかり監視した方がいいです」

 

千冬「何故だ?」

 

零「彼は、男性IS操縦者だけでなく、第四世代型兵器を積んだISを保有しています。その『亡国機業』とやらがIS学園に来たとなれば、狙いは"一夏さん"の可能性が高いです」

 

千冬「まるで聞いてきたような口ぶりだな」

 

零「別に」

 

千冬「・・・」

 

零「・・・」

 

学園では普通に接しているが、私は目の前の人物が嫌いだ。

知っているくせに知らないフリをし、全てを自分で清算・解決をする・・・臨海学校で先生がいち早く立ち回っていれば、一夏さんが傷付くこともなかった。

 

轡木「まぁまぁ」

 

張り詰めた空気を解かそうと学園長が割って入る。

 

轡木「私としては、このまま学園祭を終わりにしたくはない。三年生にとっては最後の祭りだからね・・・君にとっても、この行事に何かを懸けているみたいだし」

 

零「ええ、まぁ」

 

轡木「だが、襲撃されている事は事実なのは明白。我々の目は誤魔化せないよ。私としては、更衣室のカモフラージュが何者かによって行われたかについて知りたかったのだがね」

 

微笑む学園長だが、その目は笑ってはいない。

 

轡木「一応、保険として国連と"特警"から救援が来る。いざって時には頼りになるだろう。だが出来れば、生徒会や風紀委員会で収まる騒動であってほしい」

 

零「なら、学園祭は───」

 

轡木「勿論、続ける・・・だけど、状況によっては中止せざるを得ない。それは理解しておいてくれ」

 

零「はい」

 

轡木「それともう一つ。事実を隠ぺいしようとしたのは事実だね?」

 

学園祭続行を聞かされたので、私は素直に頷く。

 

轡木「その処分は追って連絡をする。言っておくが、相当重いものになると覚悟しておいてほしい」

 

零「分かりました」

 

轡木「では、君は初めての学園祭を楽しんで。織斑君も、オフの時間は大切に」

 

千冬「はい」

 

これで、私の査問会は終了した。

 

 

 

 

 

 

簪「落合さん?」

 

零「っ、あ、ああ、すみません、ボ~としてて」

 

現時刻、午後2時過ぎ。

簪お嬢様と私は、校舎の屋上に設置されたベンチで、売店で買ったチョコバナナを食べている。

周囲には、母、又は父と一緒に食事を取る生徒がいるが、人気(ひとけ)は少ない。

 

簪「そういえば、会わせたい人がいるって言ってましたけど」

 

零「もうすぐ来ると思います・・・あっ、来た来た」

 

出入り口から走ってくる人影。

相変わらず、歩いたほうが速いのではないか? と思わせる本音さんだった。

 

簪「え? 本音?」

 

私に目配せをしてくるお嬢様の目は、何かを訴えてきている。

その間に、本音さんはポワポワとした足取りで、お嬢様に飛びついてきた。

 

本音「かんちゃ~ん!」

 

簪「わっぷ!?」

 

胸に埋まったお嬢様は、えへへ~とヒマワリ顔の本音を引き剥がしにかかる。

 

簪「む~~~~!!」

 

本音「ふへ? あっ、ごめんなさ~い」

 

簪「っぷ・・・はぁ、はぁ」

 

苦しそうに息を荒げるお嬢様。

その視線は、本音さんの胸に向けられており、訝しげに眺めている・・・別に、お嬢様もあるっちゃあるんだが・・・いや、これは触れないでおこう。

 

零「三人で回ろうかと思ったんです。せっかく、本音さんも暇ですし」

 

本音「えへへ~、それほどでも~」

 

簪「いや、褒めてない・・・って、本音が来るなんて、聞いてない、です」

 

零「サプライズですから」

 

本音「ね~!」

 

簪「・・・」

 

零「さっ、行きましょう」

 

簪「あっ・・・!」

 

無断で手を握る。

すると、先ほどまでしかめていたお嬢様の表情が、ボッと赤くなった。

私がお嬢様を引き、その後ろをどう寸法を間違えたらそこまで長くなるのかと疑問に思ってしまう袖を、ふりふりさせて付いてくる本音さん。

特に当ても無く、ぶらぶらしていると三年生教室が並ぶ廊下まで来た。

 

本音「お姉ちゃんだ~! お~い!」

 

虚「あら・・・簪お嬢様もご一緒とは」

 

簪「・・・」

 

複雑な表情をするお嬢様とは逆に、にっこりと笑う布仏先輩。

後から知った話だけど、二人がこうして顔を合わせるのは半年ぶりらしい。

 

零「ここはお化け屋敷、ですか?」

 

虚「ええ、そうだけど・・・入っていく? 言っておきますけど、かなりの自信作ですから」

 

本音「おお~、お姉ちゃんがそこまで言うとは~・・・れいちん、れいちん入ろっ?」

  [むぎゅっ]

 

簪「ちょっと、本音!」

 

自然な動きで私の腕に腕を絡める本音さんに、簪お嬢様は何故か声を荒げる。

だが、言われた本音さんは何のそのって顔で、にへら顔を浮かべていた。

 

虚「では、三名様。黄泉の館へようこそ」

 

ムンクの仮面をつけた先輩に促され、私達三人は黒いカーテンに仕切られた教室に入った。

 

簪「ひっ・・・」

本音「うぅっ・・・」

 

入ってみると、そこは墓地をイメージした装飾やオブジェが配置されていた。

先輩の言う通り、レベルが高い。整備科のクラスだから、こういう事は得意なんだろう。

それにしても───

 

簪「ひぅっ!?」

本音「わぁっ!?」

 

むにゅっと両方の腕に柔らかい感触が、妙に敏感に感じる。

私だってそれなりに怖いのだが、飛び出してくるお化け役の人達よりも、二人の体温やら感触やらが気になってしょうがなかった。

そんな数分間が流れ、教室を一周してゴールした。

 

本音「うへぇ~、怖かった~!」

 

簪「うぅぅ・・・想像以上だった」

 

具体的には、天井から血糊まみれのマネキンが五体も落ちてきたり、僅かな照明も落とされた後に無限の眼球が映し出されたり、と随分お金が掛かっていた。

 

虚「お疲れ様でした。・・・落合さん? 顔が赤いですけど、どうかしましたか?」

 

零「べ、別に・・・/// じゃ、じゃあ私達はこれで」

 

簪「ぁ・・・///」

本音「ふぇ?」

 

二人の手を取って、誤魔化すように退散する。

 

虚「簪お嬢様」

 

簪[ビクッ]

 

呼ばれたお嬢様は、一瞬体を震わせて逆に私を引っ張るように去ろうする。

止めようと思えば出来るのだが、まだ先輩との接触を焦る必要はない。

だから、為されるがままに引っ張られると・・・。

 

本音「か、かんちゃ~ん、速いよ~っとっと~!?」

 

当然、普段からノロノロした本音さんが、足をつっかえる。

 

簪「あ・・・ご、ごめん」

 

我に返ったお嬢様が動きを止めると、「ふひぃ~・・・」と本音さんは慣れない歩調に付かれた息を吐いた。

その後は、大した当てもなく、ぶらぶらと校舎内を、出来る限り一夏さんや会長に会わないように回った。

最終的に学食に展開されたカフェテリアで、お茶をする事になった。

 

簪「・・・懐かしい、ですね」

 

ポロッと洩らした感想に、私は何も言わずに頷く。

本音さんはというと、私が奢ったショートケーキをおいしそうに頬張って、聞いてもいなかった。

 

簪「もう、口元にクリームが・・・こっち向いて」

 

本音「んむ? んんっ・・・ありがと~♪」

 

この光景は、私がまだ更識家に従者として働きだした頃と比べて、何ら変わりがない。

ついついそれを見て微笑んでいると、お嬢様は恥ずかしそうに顔を背けた。

 

零(それにしても、昨日の今日だというのに、騒ぎの一つも起こっていないのは、逆に怖くなる)

 

実際に起こってもらっても困るのだが、先ほどから気が気じゃない。

そう思って辺りをチラチラと窺っていると───

 

オータム「・・・」

 

零(なっ!?)

 

何でのうのうと学食を素通りしているんだ、アイツはっ!?

いや、何かの罠か?・・・でも、そんな事をするほどの知性は無いと思ったんだが。失礼だけど。

 

零(だけど、ほっとけない・・・)

 「すみません。少し、席を外しますね」

 

簪「ぇ・・・はい・・・」

 

本音「ふぁ~いぃ」

 

たぶん、トイレだろうぐらいと想像をつけているんのだろう。

何の疑問も持たれず、その場を離れてオータムを追う。

 

零(普通に追いかけてちゃ、昨日の二の舞だ・・・先回りをしながら尾行しよう)

 

あと、会長にも連絡しないと・・・。何かあってからじゃ遅いから。

 

 

 

 

 

シャルロット「・・・」

 

一夏「どうしたんだ、シャル?」

 

シャルロット「ぇ───な、何でもないよ! あはは・・・」

 

夢にまで願った一夏と二人っきりの学園祭・・・だけど、僕の心は華やかじゃない。

それもこれも、義兄の思わぬ登場があったからだ。

学園祭の二日前の事・・・突如、携帯からのメールに届いた一通、フランスへの"帰還"命令。

一夏や他のみんなには黙っていたけど、これまでにも週に一通ずつ来ていた。

でも、IS学園にいる間は安全だから気にしないでいたけど───

 

シャルロット「何で、ここに入れたの・・・?」

 

一夏「ん? 何だって?」

 

シャルロット「あ、ううん! こっちの話、こっちの!」

 

一夏「?」

 

ダメダメッ! 今は一夏と二人っきり・・・そう二人っきり・・・

 

シャルロット「~~///」

 

そう、二人っきりだ。

僕の状態を気にかけてくれた一夏が、こうやって一緒に───

 

シャルロット(これってチャンスだよね? チャンスなんだよねっ!?)

      「えへ、えへへ~」

 

一夏(シャルの奴、暗い顔したかと思ったら、急に笑って・・・一体、どうしたんだ?)

 

楯無「やぁやぁ♪ やっと見つけたよ、二人とも」

 

一夏「楯無さん・・・?」

 

シャルロット「うっ・・・」

 

楯無先輩が来たって事は"例"の・・・出来れば、今じゃない方が良かったなぁ・・・

 

一夏「どうしたんです、ここで?」

 

楯無「詳しくは後で、ね♪ 今は来て」

 

自然に一夏の手を取って連れていく楯無先輩・・・ああ、あんな風に僕も握れたらな~。

だが、先輩の懐からバイブ音が鳴ると、握っていた手を離した。

 

楯無「落合君からだ・・・もしもし?・・・もしもし? あれ? 切れちゃった」

 

一夏「何かあったんですかね?」

 

楯無「分からない。念を入れて、教員と警備の人達に探してもらおうと思う」

 

一夏「それが良いと思います」

 

シャルロット「・・・」

 

二人の世界に入っているようで少し気に食わなかったけど、二人の言っている事には賛成。

だって、昨日は実際に落合君は襲われていて───

 

シャルロット(それを報告しない僕は・・・)

 

落合君本人の希望でもあったけど、友達が危険な目に遭うかもしれないって時に───

 

シャルロット(最低・・・)

 

その後の参加型演劇『白雪姫』は、ハラハラはしたけど落合君の安否が気が気じゃなかった。

 

 

 

零「・・・シャルル・デュノアさん、でしたね」

 

シャルル「ええ・・・一度は、義妹に託した名前だが」

 

オータムが再び、アリーナに向かったのを校舎の窓から確認したのだが、私はデュノアさんの義兄に声を掛けられた。

その瞬だけでオータムを見失ってしまい、会長への電話コールを途中で切らなければならなかった。

 

零(でも、会長の事だから何らかの動きをしてくれていると思うけど)

 「それで、僕に何の用ですか?」

 

シャルル「そうだね・・・なら、単刀直入に言おう。僕の妹であるシャルロットをフランスに連れていきたい。その協力を君にしてほしい」

 

零「断ります」

 

そんな事する訳がない。

それは言った本人も分かっているはず。

 

シャルル「まぁそうだろうね・・・なら、ここからは僕自身からのお願いだ」

 

シャルルは、スーツのボタンを外す。

これは、腹を割って話すって意味なのだろうか・・・?

 

シャルル「フランスに来てほしい。君ひとりで」

 

零「なに?」

 

シャルル「詳しく言うと、父上に会ってほしいんだ」

 

零「何でです?」

 

シャルル「実は、僕がここに来たのは、シャルロットをフランスに強引にでも戻すため・・・だけど、年若い女子を無理やり連れ去るのは紳士的じゃない。でも命令だからやらないといけない」

 

つまり、命令通りにデュノアさんを連れ戻せなかった失態を埋めるため、私をフランスへ招待する約束を取り付けたい・・・そういう事か。

 

シャルル「君なら、僕が言わんとしている事・・・分かるね?」

 

零「・・・」

 

ここは受けるべきだろうか・・・というか、何で私がデュノアさんの事情に振り回されているのだろう?

昔の私だったら、ここで大いに悩んだ・・・。

 

零(でも・・・一夏さんなら迷わず───)

 「分かりました。あなたの要件、飲みます」

 

シャルル「そうか! それは助かるよ! それじゃあ、お披露目会用の"新装備"、楽しみにしてるy───」

 

[WARNING! WARNING! WARNING!]

 

零「な、何だ?」

 

廊下中央に出現した緊急事態を伝える空中投影ディスプレイ。

 

シャルル「異常事態、のようだね」

 

零「はい」

 

廊下の蛍光灯が消え、赤い非常灯の明かりが点る。

窓は強固なシェルターに落ちた時と同時に、校舎内から女子達の悲鳴が木霊した。

 

零(簪お嬢様・・・! 本音さん・・・!)

 

私は全力足で駆けだした。

すぐに動悸が激しくなり、吐き気も催すが、一層足の運びが速くなった・・・。

 

シャルル「・・・さてさて。僕は退散しようかな」

 

 
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