No.733310

魔法少女と変身ヒーローと悪の科学者の物語

銀空さん

60分で書くお話

※小説家になろうでも投稿中

2014-10-28 22:52:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:409   閲覧ユーザー数:409

第二話「飛蝗の怪人はベルトの玩具を手にしていた」

 

 

 

 

 

「そうでしたか。気絶した間にそんなことが」

 洋菓子店「天の道」。そこは地元の人が知るちょっとした洋菓子店である。そこのレジで翔介とノワールは二人して並んで立っていた。

 翔介は慣れた手つきでケーキを箱に詰めてお客に渡す。対するノワールはおっかなびっくりでケーキを梱包していた。

「ノワールちゃん慌てないでね」

「は、はいぃ」

 息を吸うように返事しているため、見ている翔介は不安そうだ。

「母さん俺が全部やるよ?」

「練習にならないじゃない。それにもう二桁はいったわ」

 翔介は小さく「そこまで」と顔を抑える。

 今回は無事に終わり、お客は上機嫌に店を後にした。

「最初は力加減を間違えてぺっちゃんこ。次は衝突事故ね。その次は――」

「ああ、お母様おやめください。恥ずかしいです。お仕置きなら後で」

「やだわ。起こってないわよ」

 彼の母親は「潰れたら美味しく食べてもらうし」と気前よく笑っている。

 翔介の家から十数メートル離れたところにあるお店。ノワールを家に泊めておく以上、家のことが手伝ってもらおうと、ノワールは働いていた。

「ケーキ屋さんで働いてケーキ食べるの夢だったんです」

 ノワールは目を星のように輝かせて、商品棚のケーキを眺めた。翔介はそんな彼女を横目に、店内に客がいないことを確認して口を開く。

「そんなにケーキ好きなんですか?」

「はい。世界征服したら一生ケーキを食べて生きるつもりでした」

「そうですか。――あれ? でも今うちでケーキは実質食べ放題」

「ですね。もう世界征服する理由が消えちゃいました。永久就職です」

「え、えー。そんなので改心しちゃうんだ」

 最後の彼の言葉は、彼女には聞こえていなかった。鼻歌交じりにケーキを眺めては口を半開きにしてよだれを口元に貯めている。

 美人が台無しだ。とは、翔介の心の声である。

「そろそろ一人で大丈夫だから二人は先に帰ってなさい」

「片付けは?」

「いいのよ。それより、ノワールちゃんと仲良くね♪」

 翔介の母親は意地悪く笑う。

(ノワールを連れて帰ってきた時に、父さんは反対したのに対して母さんは喜んだんだよなー)

 

 

 

 話は遡ること、昨夜。

 なんとか変身を解いた翔介は、家に帰宅してすぐに事情を説明。父親は警察に突き出すべきだと猛反発。しかしそれを彼の母親が一喝して黙らせる。

「翔ちゃんのお嫁さんだわ」

「母さん何を言っているの?」

「年頃の子が異性を連れ込むなんて……機能不全かと思ったけどそのへんは大丈夫そうね」「き、機能不全……。違うよ俺は魔法少女に――」

「あーはいはい。聞き飽きたわ。ということで私が認めます」

 ちなみにこの会話をしている後ろで、翔介の父親は猛抗議していた。のだが、最後の言葉の直後に強烈な打撃音と共にそれは止んだのである。

 

 

 

(困ったもんだ)

 二人は家路につく。といっても十数メートル離れた所なのですぐだ。

「翔介さん。晩御飯はケーキがいいです」

「却下です。ケーキばかりだと、明日のケーキを美味しく食べられなくなってしまいますよ」

「それは困ります」

 彼は「でしょ?」と告げた所で、違和感を覚えた。

「家につかない?」

「これは……結界!」

「閉じ込められた?」

「その通りだ!」

 そこに三人目の声が響く。二人は声のする方へと顔を向けた。

 電柱の上に腕を組んで立っている存在がいる。夕日をバックに立っているため、凄くヒーロー然としたように見えた。

「貴方はホッパーアーク!」

 飛蝗怪人である。青いマフラーを巻いているのは、某ヒーローへのリスペクトだろう。腰には有名玩具会社が販売している変身アイテムを装着している。

 かっこよくポーズをとったときに、ベルトのボタンを押してしまい。かっこいい音がが鳴り響く。

 それを恥ずかしがるような、誇らしげるようにしていた。飛蝗怪人は咳払い一つする。

「久しぶりだなノワール。魔法少女に一回浄化される前以来だな。まさかお前が裏切るとは」

「再生怪人という汚名をかぶりましたか!」

「るっさいわ! そうでもしなければ我らが悲願を達成出来ないからな!」

「やーい瞬殺怪人」

「それ以上はやめろ! 再生怪人は対策知られているから、簡単にやられるとかそういうの言わなくていいから! くっそ勝てる気がしない」

 夕日を真っ二つに遮るように手が伸びる。翔介だ。

「あの……そもそも、俺は対策知らないんですけど」

「あっ」

 二人の時が止まる。わずかに早く反応したのはホッパーアークだ。強く握りこぶしを作ってガッツポーズを取る。

「お前が、スパイダーアークのコ・アークを倒したやつか! その様子では私の恐ろしさはわからんようだな! 私の勝利は確実だ! いけ、コ・アーク!」

 全身黒タイツを着込んだ大の大人のように見える。その全身黒タイツの集団が一気に百を超えた。

 ノワールは咄嗟にブレスレットを投げる。それを受け取った翔介は即座に変身。その一連の動きにノワールは違うと叫ぶが、彼は聞かない。

「もえ。もえ。もえー」

「なんだ? あれ鳴き声?」

「はい。コ・アークは――もえ――と鳴くのです」

「そうなんだ」

 直後に彼の視界に影が差す。咄嗟に飛び退くと、衝撃と破壊音が響く。緑の体躯の怪人が強烈な飛び蹴りを打ち込んだのだ。

 彼は迎撃しようと拳を振るうが、素早い動きと高いジャンプ力でそれを避ける。

「コ・アーク!」

 飛蝗が叫ぶと、全身黒タイツの集団は銃を構える。球状の銃口から稲妻が走った。

「あ」

 狙いは翔介ではなくノワールだ。

「悪いが、最初からお前だけなんだよ」

「ケーキ……」

 彼女は迫る稲妻をただ呆然と眺めるだけしか、出来なかった。

 漏電した電線から鳴り響くかのような音と、火花が飛び散る。

 ノワールは恐る恐る目を開けると、目の前に一角獣の戦士が立っていた。彼が電撃を全身で受け止めて防いだのだ。雄叫びのような絶叫で、電撃に耐えている。

「翔介さん!」

「は、早く逃げ……」

「無理! 無理です。ここは結界の中。ホッパーアークを倒さない限り、それは無理です」

 ホッパーアークは高らかに笑う。

「少年。そんな性悪女などかばって死ぬなど、人生を無駄にしたな。せめてもの手向けだ。一瞬で楽にしてやる」

 飛蝗の怪人は腰に巻いてある玩具に手を伸ばす。ベルトのボタンを押すと、先程より大きな音が鳴り響く。某ヒーローのように必殺技を繰りだそうとしているのだ。

「翔介さん! 逃げてください。私はどうなっても――」

「いいから、そこから動かないで」

 電撃を受けた翔介は思うように動けないでいた。地面に膝をついて肩で息をしている。ただ、視線はホッパーアークを迎え撃つように見据えていた。

 足を開き、腰を低く落とす。力をためるように、下半身に力を込める。

「ですが……」

「信じて。俺は変身ヒーローですから」

「それでも人間です」

 足の筋肉が隆起し、地面のアスファルトが砕け散る。

 音がさらに高くなり、終わりの時が来た。

「トドメだ!」

 ホッパーアークは告げるより、早く駆け出す。一直線に翔介めがけて蹴りを放つ。蹴りが直撃――

「この時を待っていた!」

 ――する瞬間、翔介は叫んだ。両腕のアンカーランチャーを左右の外壁に撃ちこむ。腰を落として腕をクロスして構える。

 激しい衝突音。

 蹴りは確かに入った。しかしそれは両腕で受け止められてしまったのだ。

「な、なにぃ?」

 彼は足を掴む。雄叫びをあげて、敵を振り回す。コ・アークたちは攻撃できずに眺めるしか無い。自身の生みの存在を攻撃してしまいかねず、呆然と眺めるしかないのだ。

「おりゃあああああああ!」

 そのまま遠心力を利用して地面に叩きつける。マウントポジションをとって顔面を殴る殴る。痙攣して動けなくなった。

「今です。必殺技です!」

「ヒーロースペシャルパンチ!」

「ださい!」

 必殺技を受けたホッパーアークは、ベルトを外して全てのギミックを確認する。最後に必殺技のボタンを押して、叫ぶ。

「これは……いい……」

 爆発と共にホッパーアークはその生涯を終えた。

 

 

 

 

 

~続く~

 


 
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