リィンらが旧校舎での探索を終えて出てくると、其処に丁度通りかかったのはアスベル。見ると、彼の手には袋が握られていた。
「お、お疲れ。みんな。」
「アスベルか。っと、済まない。今日は声をかけるべきだったな。」
「気にするな。あの場所は色々気になるが……ひょっとして、また変わったのか?」
「ああ、そうみたいだ。」
「そっか……ああ、そうだ。部活で作ったんだが作り過ぎてな……良かったら食べてくれ。」
その言葉を聞いてアスベルが少し考え込むが……ともあれ、労う意味でアスベルはその袋をリィンに手渡した。リィンが中身を確認すると、どうやらクッキーのようだった。
「……クッキーみたいだな。」
「そうみたいだね。うーん……とりあえず、他の人にも配ろうか。」
「それなら、寮に帰ってからの方が良さそうだな。」
そう話すのはリィン、エリオット、ガイウスの三人……一方、今日の探索に加わったアリサ、ラウラはアスベルから渡されたクッキーを見て憂鬱そうな表情を浮かべた。別に変な要素が入っているわけではなく、少しアレンジはあるもののプロ顔負けの出来栄えであった。これには、以前アスベルのつくったものを試食することとなったユーシス曰く『公爵家の料理人顔負けだな』と評するほどだ。なので、味に関しては問題ない。
「はぁ……お菓子作りが上手いって、何だか悔しいわよね。」
「うむ……解ってはいるのだがな。本人にも悪気はないということに。」
「?えと、アスベルさんの作ったものに何か問題が?」
「いや、まぁ、何というか……食べたらわかるわ。」
「???」
揃ってため息をつくアリサとラウラ。それに対して疑問符を浮かべるステラは事の次第が理解できなかった。世の中には知らなくてもよいことがある様に、知ることに対する覚悟が必要だということも。そのようなことに対してそれだけの覚悟を持つ必要があるのか?……と言われればそれまでなのだが。
「納得いかない……」
一方、男子はともかく女子に対して何でそんな評価になるのかよく解らないアスベルであった。その夜の第三学生寮の一室……勉強も一段落して、ルドガーに詫びの品も渡してきたところで一人紅茶を嗜んでいると……ノックが聞こえてきたので、入室を促すと姿を見せたのはアリサであった。
「アリサか。珍しいな、こんな時間に。」
「ええ……お邪魔だったかしら?」
「丁度休憩中だったから問題は無いかな……紅茶だけど、良かったらどうだ?」
「それじゃ、お言葉に甘えようかしら。」
アリサはアスベルの招きで紅茶を飲みつつ菓子類をいただいたのだが……ここまでの手際の良さには、何というか周りの女子生徒よりも女子力が高い印象を強く受けた。
「はぁ……何というか、シルフィとレイアには同情しちゃうわね。あなた、調理部に入ってから磨きが掛かってない?」
「う~ん……好きでやってるようなものだからな。別の言葉で言えば染みついた性分なんだけれど。そこまでなのか?」
「女性として負けた気分になっちゃうのよ。貴方、主夫にでもなるつもり?」
「そういう道は目指してないが……単純に、リベールにいた時は食事当番が持ち回りだったから。今でも似たようなものだけれど、それが苦だとは思ってないかな。」
シルフィ―――シルフィア・セルナートとレイア―――レイア・オルランドの二人も料理に関してはそれなりに出来る。それと、“第四位”の彼女もリベールでの生活を経て自炊位は出来るまでに成長している。彼女らに負担を負わせるのは男として如何なものかと思ったので、自発的に協力している。
「料理や菓子作りは精神を鍛える意味でも俺にとっては大切なものなのさ……それに、それがあるからこそ、大切なことを忘れることがないように出来ている……かな。ちょっと湿っぽい話になっちゃったな。済まない。」
その菓子作りは、アスベルが転生前に得たことの一つ。“裏の剣術”も含め、転生前のものを持たない彼にとって、かけがえのないものであるということ。例え自らの領域が人ならざるモノに到達したとしても、アスベルがアスベルらしく在るための“証”であること。『初心忘れるべからず』の言葉がある様に、常に『挑戦者』としての心構えを忘れないために。
「………」
「え……アリサ?」
「無理なんてしてほしくない……きっと、二人も同じことを思ってるはず。頼りになるのは確かだけれど、あなた一人に苦労は負わせない……必ず、貴方の隣に追いついて見せるから。」
すると、アスベルに抱きつくアリサ。少し緊張しつつも、アリサの背中に手を回す。そして紡がれた言葉……そのための努力が並大抵なことでは叶わないということも、彼女には理解していた。それが解っているからこそ、アスベルは『出来ない』とは言わない。自分だってできたことに、彼女が出来ないという保証なんてどこにもないのだから。
「はは……シルフィといい、レイアといい……逞しいな。……そこまで言うんなら、俺も男として責務を果たさないといけないな。まぁ、あっち方面のほうは人目もあるから難しいが……」
「ま、まぁ、そうなるわよね……」
誘惑があるのは否定しない。裏技を駆使すれば出来ないこともない。だが、曲がりなりにも学生である以上は節度を守るべきであろう。アスベルの場合はそれに対して理解者が多いので助かっているが……他の人に関しては、自身で解決すべき問題だ。酷なことだが、余計な横槍は野暮というものだ。
「そういえば……あの二人って今はどこにいるの?てっきり、貴方と一緒に入学してくるものだと思ってたから。」
「……ま、詳しいことは伏せるが……あの二人はこっから東の方面―――クロスベルにいる。とは言っても、シルフィのほうは完全に裏方の様なものだけれど。」
遊撃士としての肩書が目立つレイアはともかくとして、シルフィアの方は彼女の姓である“セルナート”の影響で表沙汰にはできない。なので、教会の目を掻い潜るために港湾区にある“とある商会”の伝手で偽名を名乗り、商人として情報収集にあたっているとのことだ。その情報は逐一こちらに流れており、その交換条件ということで帝都方面の情報を流している。
「……アリサ。来月の自由行動日なんだが、もし予定が空いていたらクロスベルに行ってみないか?」
「クロスベルに?私の方は確認してみるけれど……調理部の方は問題ないの?」
「ああ。基本的に放課後の活動が多いからな……あんまり長居してるとマルガリータの“
「確か、ドレスデン伯爵家の令嬢よね……この前、貴族クラスの上級生を追っかけていたけれど。」
これには心の中で無事を祈る他あるまい。その人には逞しく生きてほしいものだ。というか、その人の妹は、アリサが所属している部活の同輩にあたるのであるが。
「とはいえ、もし行くのであれば早めに出た方がいいな。面倒事にならない程度に。」
「そうね……私もそんな気がしてきたわ。」
別に秘匿するわけではないのだが、節度をわきまえるという意味でそうすることにした。何故だか尾行しようとする輩が出てきそうだと感じたので。まぁ、その前に“中間考査”があるのでそちらに集中するのが大事なのだが。
流石に一ヶ月後なので色々あるのだが……双方共に確認した所、問題は無いということであった。それを知ってか知らずか、ルドガーがアスベルにチケットを渡してきたのだ。
「これって、アルカンシェルの……良く手に入ったな。」
「ダチがクロスベルから送ってきやがってな。まぁ、俺にとっては無用の産物というか……二人に絞ったら、俺が狙われかねない。お前なら問題ないだろう?」
「……ルドガー宛に帝国歌劇場のチケットあたりなら届いてそうだけれど。」
「この前、カンパネルラが置いていった。心なしか顔がはれていたようだったが……」
「マジか……」
敵という概念を改めて考え直さなければいけないような気がしたのは……二人の間に一致した共通認識であった。
アスベルが菓子作りをやっている“理由”……転生して生きているということを忘れないためという理由です。で、第三章はちょっとオリジナル展開込みです。
アスベルとアリサのやり取りもやりましたが……さて、ここからどうパワーアップさせたものか(汗)愛でパワーアップするなら苦労しないのです(汗)
そして、ルドガーも第三章にて“とある展開”込みで……前作で繋がりのある人物の登場です。
やっぱ、デュバリィは可愛い(真理)
補足ですが、
アスベル:菓子系・飲み物系で独自料理
ルドガー:千万五穀を使う料理で独自料理
みたいな感じです…だいたいこんな概念で書いてます…うん、チートですよ(汗)
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第23話 かつての絆と今の絆