No.732253

IS‐インフィニット・ストラトス‐黒獅子と駆ける者‐

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-10-24 13:57:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:911   閲覧ユーザー数:866

 

 

 

 story36 生徒会の考え

 

 

 

「ど、どういう・・・・事なんですか?」

 

 あまりもの衝撃の事実に西住は動揺しながら角谷会長に聞き返す。

 

「・・・・・・」

 

 角谷会長は深呼吸して、ゆっくりと吐く。

 

 

「・・・・突然、学園艦教育局ってとこに呼ばれてね~。行ってみたらいきなり『学園艦は維持費も運営費もかかるから、全体数を見直す』って言われたの。

 それで成果の無いうちみたいなとこが統廃合されるんだってさ。それも来年度には」

 

 角谷会長の声だけが、廃墟の中で静かに染みた。

 

「でも、何か実績が出来れば、廃校は避けられるかもしんない。例えば・・・・・・昔盛んだった戦車道を復活させて、優勝でもしちゃえば、ね」

 

「・・・・それで、戦車道を復活させたんですか」

 

 ようやく西住は状況を理解した。

 

「実際、都合が良かったんだよねー。戦車道をやれば、連盟から助成金が出るって聞いたし。それを学園運営費に回せるしさ~」

 

「じゃぁ世界大会の話は嘘だったんですか!?」

 

「それは本当だ。事実、我が校にもその通達は一応来ている」

 

 ウサギチームの一人が声を上げるも、すぐに河島が否定する。

 

 

「でも、いきなり優勝なんて無理ですよ!」 

 

 いつも強気で熱血な磯部が弱気な言葉で反論する。

 

「自分達は根性で、ここまで来ました!でも、他の学校はきっと同じぐらい、いいや、それ以上の努力はしている!だからこそ優勝は尊く、簡単に手が届くものじゃないんです!!」

 

「・・・・・・」

 

 バレーボール部再建の為に、仲間達とがむしゃらに頑張って来ている彼女だからこそ、言える言葉なのだろう。

 確かに、優勝など簡単に取れるものではない。

 

「そりゃ、分かってるよー。ここまででも、よくやって来たって思ってる」

 

 その頑張りを知っているからなのか、角谷会長は何も反論しない。

 

「アテは外れるもんでさ。昔盛んだったんなら、もっといい戦車があると思っていたんだけど・・・・・・予算が無くて、良いのはみんな売っちゃったらしんだよねー」

 

「じゃぁ、ここにある戦車は!?」

 

 秋山は激しく動揺しながら聞く。

 

「うん。みんな売れ残ったやつなんだよねー」

 

「そ、そんな!?八九式も、M3も、チハタンと愛されてる九七式も、Ⅲ突も、ルノーも、三式も、四式も、五式まで!?」

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!」と声を上げながら髪を掻きまくる。

 

 

「だが、むしろ五式と四式、それにあの超重戦車は売れるはずではないのか?貴重さではあの三輌は高く売れるはずだが・・・・」

 

 三式は・・・・・・まぁ四式と五式と比べれば貴重さでは・・・・まぁね・・・・

 

「五式と四式は・・・・大洗にとっては象徴的な戦車だったんだよね」

 

「象徴的な・・・・?」

 

 如月は首を傾げる。

 

「僅かに残った戦車道の資料には、大洗女子学園にとって学園の歴史上名誉ある勝利を収めた事があるんだよ」

 

「名誉ある・・・・勝利」

 

「その勝利の立役者となった戦車って言うのが・・・・・・五式中戦車と四式中戦車だったらしいんだ」

 

「・・・・・・」

 

「そんな戦車を、売る事などできないと先代は反対してね、その二輌が再び日の光を浴びる日がやってくると信じてその二輌を隠したそうだ。次の世代に遺す為に」

 

「なるほど・・・・」

 

「だから、あそこに隠していたのか」

 

 五式と四式が隠されていた場所を思い出す。

 と言うより、もっとマシな隠し方は無かったのか・・・・スクラップの中といい、山奥の小屋の中といい・・・・

 

 

「だったら、あの戦車はどうなんだ?」

 

 倉庫の中で蜘蛛の巣だらけになっていた超重戦車の事だ。

 

「あれはただ単に、あそこから運び出せなかったみたいだねー。あの重さじゃそこそこの船舶だと沈む恐れがあるし、かと言って大型となれば金が掛かるし、分解にも金が掛かるし、結局放置する事になったみたい」

 

 なんとも言えん理由だ。

 

 

 

「だが、どっちにしてもそんな寄せ集めの戦車では、到底優勝など不可能では?」

 

 コートの上にマントを重ね着しているカエサルがぼやいた。

 

「そんなのは、分かっている。分かっている・・・・。だが、他に方法が思い付かなかったのだ。古いだけで、何の特徴も無い学校が生き残るには・・・・・・」

 

「無謀だったかもしれないけどさー。でも、後一年を泣いて学校生活を過ごすより、少しでも希望を持ちたかったんだよ」

 

「・・・・・・」

 

「みんな、黙っていて、ごめんなさい」

 

 小山が深く頭を下げる。

 

 

 

 嘘であってほしい。誰もがそう思っているだろう。

 

 

 

 だが、どんなに願っても、非情な事が現実である事もある。

 

 

 

 

「ごめん、みぽりん。会長さんたちが言った事、全部本当なの」

 

「・・・・あぁ。すまんな、西住。武部と私は・・・・・・その事を聞かされていた」

 

「沙織さん、如月さん?」

 

 西住は二人を見る。

 

「頼まれていたの。頃合いを計って、隊長であるみぽりんに教えてって」

 

「まぁ、こんな最悪なタイミングになってしまったが・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

「みんな。杏たちは学校の為に、出来る限りの事を尽くしたんだ。黙っていた事を許してくれとは言わないが、分かってやってくれ」

 

 二階堂はメンバー全員で、頭を下げる。

 

「二階堂先輩・・・・」

 

 いつもでは見れないような姿に、西住は何も言葉が浮かんでこない。

 

 

 

「バレー部復活どころか、学校が無くなるなんて・・・・」

 

 磯辺を筆頭に、バレーボール部メンバーは肩を落とす。

 

 隣では歴女チームが呆れてたり、うなだれたりしていた。

 

「Oh my god!?こんなIncredibleな事があるんデスカー!?」

 

「お姉さまと築き上げた艦部の存続どころか、無くなるなんて!?」

 

「そんな。こんなのって・・・・」

 

「これは・・・・想定外すぎます」

 

 俯くと霧島はメガネを上げる。

 

 

 

「単位習得は、夢のまた夢、か」

 

「・・・・・・」

 

 あんこうチームは気を落とし、カモチームは何も言わずに黙り込み、一年チームは涙を流す者が殆どだった。

 

 

 

「何で・・・・こんな」

 

「・・・・・・」

 

「うっ・・・・うっ・・・・」

 

 早瀬は俯き、鈴野はガリッと奥歯を噛み締め、坂本は身体を震わせながら泣きじゃくる。

 

 

 

 

 

「まだ、試合は終わってません」

 

 不意にそう言ったのは、西住だった。

 

 

「だって、まだ負けたわけじゃありませんから」

 

「西住・・・・」

 

「みぽりん」

 

「・・・・・・」

 

 誰もが、一瞬沈黙する。

 

「頑張るしかないんです。だって、来年もこの学校で戦車道をやりたいから。みんなと一緒に」

 

 みんなを見ながら、そう言葉を漏らす。

 

 

 いつしか、俯いたり、泣いたり、落ち込んでいたり、目を瞑っていたメンバーは西住を見ていた。

 

 

「わ、私も、西住殿と同じ気持ちです!!」

 

「そうだよ!やれるところまで、とことんやろうよ!!」

 

 秋山と武部が続く。

 

「諦めたら、何もかも終わっちゃうよ!!恋も、戦車も!!」

 

「まだ戦えます!!」

 

 武部に続いて五十鈴も両手を握り締める。

 

 

 

「降伏はしません!最後まで戦い抜きます。ですが、怪我人が出ないように、冷静に判断しながら行きます!」

 

『おぉ!!』

 

 全員声を上げて右腕を上へ突き上げ、その様子を角谷会長達は静かに見守る。

 

「では、壊れた戦車の修理をしてください!Ⅲ突は足回りを。M3は主砲を。Ⅳ号は砲塔を。あと、寒さでエンジンのかかりが悪くなっている車輌は、エンジンルームを暖めてください。

 時間はありませんが、落ち着いていきましょう」

 

『はい!』とメンバーが返事をし、河島は泣きそうになるも堪える。

 

「・・・・西住を招き入れて、良かったな」

 

「あぁ。少なからず、まだ希望はあるって事かな」

 

 二階堂の言葉を聞き、角谷会長は微笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 教会内で黙々とメンバーは作業をしていた。

 

「いいか?いくぞ!」

 

『せーの!!』

 

 三枝と左衛門座がⅢ突の転輪を持ってⅢ突に取り付ける。

 

「よし!これで篭城せずに済みそうだ」

 

「文明開化は近い!」

 

 そう言いながらも次は中まで引っ張ってきた履帯を付ける作業に入る。

 

 

 

 バレーボール部は八九式の足回りを点検し、高峯がエンジンルームを見ている。

 

 

 

「痛そう・・・・」

 

「これ、どうしようもないね」

 

「包帯巻いておく?」

 

「いや、意味無いから」

 

 主砲を失ったM3を一年チームが見つめる。

 

「とにかく、副砲で頑張るしかねぇな。仮に修理できても、設備が無いんじゃお手上げだ」

 

 一年チームと一緒にM3の主砲を見ていた青嶋が言葉を漏らす。

 

 

 

 ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!と金属を叩き付ける音がⅣ号から放たれる。

 

「さてと、これでいいはずだ。試してみろ」

 

「はい」

 

 ハンマーを手にして袖で額の汗を拭うと、五十鈴が砲塔旋回ハンドルを回すと、少し鈍いが砲塔が旋回する。

 

「何とか回ったな」

 

「はい!」

 

「よし」と呟くと二階堂はⅣ号より出てくると次にルノーの方に向かう。

 

 

 

 

「問題は、この包囲網をどう抜けるかだな」

 

「・・・・あぁ」

 

 如月は頭痛に耐えながら話に参加している。

 

「はい」

 

 廃墟にあったテーブルの上に紙を広げ、現状を描いて表している。

 しかし、教会に立て篭もる中で見たものだけである為、詳細はハッキリしない。

 

「敵の配置が分かれば、戦術を立てやすいのだがな」

 

 現状では教会の前方の車輌しか判明しておらず、全体までは分からない。

 

「偵察を出しましょう」

 

「そうだな。多少のリスクは生じるだろうが、敵の配置が分かれば包囲網突破の糸口が見えて来る」

 

「だが、誰を出す?」

 

 

 

「それでしたら、私が行きます!」

 

 と、秋山が名乗り出る。

 

「私もグデーリアンと共に偵察に出よう」

 

 次にエルヴィンが名乗り出る。

 

「二人共戦車の知識に長けているが、それが偵察に向くかどうかはさておき。この中で一番視力が良いのは?」

 

 如月がメンバーに聞くと、冷泉と園が挙手する。

 直後に二人は目を合わせる。

 

「よし。二人で組んで行ってくれ」

 

「あぁ」

 

「何で冷泉さんと」

 

 

 

「では、私も行きます」

 

 次に鈴野が挙手する。

 

「偵察なら中島も長けている。一緒に行ってやれ」

 

「了解っす!」

 

 二階堂に言われて中島は陸軍式の敬礼を向ける。

 

 

 そうして三人一組として、二組の偵察が教会の外へ向かった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・・・・」

 

 その頃教会から離れた場所にT-43が停車し、外の景色を見ながらナヨノフは焚き火で温めている鍋に入っているボルシチをゆっくりと混ぜる。

 

「しかし、カチューシャ隊長はなぜ大洗に猶予を与えたんだ?いざとなりゃ私が全て狙い撃ってやるっていうのに」

 

 T-43の整備をしていた砲手が車内から出てくる。

 

 金髪ショートヘアーの碧眼をしており、背丈はナヨノフと頭一つ分上であろう。頭には戦車兵が被る帽子を被っている。

 

「隊長には考えがあるのだ。まぁ、それはあくまで前立てだがな」

 

「と、言うと?」

 

「ただ単に仮眠の時間を稼ぐためだ」

 

「なんだそりゃ?相変わらずだな、うちの隊長は」

 

 女子はナヨノフの向かい側に座る。

 

「だが、この寒さだ。寒さに慣れている私達でもこたえるものだ。大洗にとっては、恐らく私達以上に寒さを感じている」

 

「余計に時間があるのは、精神的に攻めているという事か」

 

「そういう事だ」

 

 そう言いながら皿を持ってボルシチを手にしているスプーンですくって皿に注ぎ、女子に手渡す。

 

「我々はとにかく、時間まで待機だ。戦車の整備は怠るな」

 

「了解!」

 

 女子はポトフを食べ、身体を温める。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・・・・」

 

 頭痛に苦しむ中、如月は机に広げている現状を描いた紙を一瞥し、全体の様子を窺う。

 

 寒さと空腹をしのぐ為に、毛布が全員に配られ、スープと乾パンを口にしている。

 二階堂達は自前で用意したカップラーメンを食べている。

 

(・・・・あと二時間か)

 

 ポケットに入れているスマホの時計を見て、残り時間を確認する。

 

(それまで、現状が維持できるか・・・・)

 

 スマホをポケットに戻し、一気に来る頭痛に襲われて右手を頭に当てる。

 

 

「・・・・・・」

 

 如月は机の上に置いているカップを手にし、スープを飲み干すと再度机に置き、ふらつく中、西住の元に向かう。

 

 

 

「・・・・西住」

 

「・・・・?」

 

 如月に呼ばれて外を見ている西住は振り返る。

 

「どうしましたか、如月さん?」

 

「・・・・・・少し、話しがある」

 

「え・・・・?」

 

 思わず声が漏れる。

 

 

 

 


 
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