No.732247

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-10-24 13:09:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:497   閲覧ユーザー数:482

 

 

 story35 明かされる事実

 

 

 

 しばらくして試合開始のブザーが鳴り、照明弾が上げられると両校は一斉に動き出す。

 

 

 

 

 

 大洗の戦車隊は林がいくつもある道を突き進む。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 車内は外よりも冷え込んで、防寒してもかなり寒い。

 

 如月は砲弾ラックより砲弾を取り出すが、砲弾がいつもより重く感じられて何とか装弾機に載せ、砲尾のスイッチを押して薬室に装填する。

 

(思うように力が入らない。くそっ)

 

 内心でぼやくと、もう一発の砲弾を装弾機に乗せ、キューポラの覗き窓を覗く。

 

「・・・・・・」

 

 さっきの嘔吐で気分の悪さはなくなったが、代わりに頭痛が更に激しくなって、車内が揺れる度に頭痛が酷くなり、顔を顰める。

 

 

 

「うぅ。ざっぶい゛」

 

 坂本は震えた声で身体を震わせる。

 

「確かにこれは・・・・早めに決着を付けた方が正解かもしれないわね」

 

「これだけ寒いと、確かに・・・・」

 

 冷えた手でギアを一段上げながら早瀬は呟く。

 

 

 

「・・・・ねぇ、早瀬」

 

 と、小声で坂本が口を開く。

 

「どうしたの?」

 

「いや、ほらさ。最近の如月さんって、何か様子がおかしいよね」

 

「・・・・おかしいってレベルじゃないよ」

 

 真剣みを帯びた声で口を開く。

 

「いつもならすぐに反応してくれるのに、二回以上呼ばないと反応しなくなっているし、何より常にピリピリとしているし。あんな如月さん見た事が無い」

 

「・・・・・・」

 

「どうも、何かに怯えている・・・・そんな気がする」

 

「如月さんが・・・・怯えている?」

 

「あくまで私の憶測だけど。如月さんがこうなったのも、生徒会に呼ばれてからだよね」

 

「そういえば、次の日からあんな感じになったような。一体何を聞かされたんだろう」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 しばらく雪道を突き進むと、目の前に大きな雪溜まりが現れ、Ⅳ号を先頭に戦車隊は停車する。

 

「大きいな」

 

 キューポラハッチを開けて上半身を外に出す。

 

 五式より高く積もった雪溜まりで、少なくとも体当たりして退かせる量ではない。

 

「どうする、西住?」

 

『何とかしてみます』

 

 西住に聞くと、Ⅳ号の砲塔が少し左に旋回し、轟音と共に砲弾が主砲より放たれ、雪溜まりに埋もれる。

 

 

 すると直後に爆発が起き、雪が吹っ飛んで道が出来る。

 

 

「榴弾で雪溜まりを飛ばすなんて、西住隊長もやる事が派手ですねぇ」

 

 早瀬はそう呟くとアクセルを浅く踏んでⅣ号の後についていく。

 

「でも、こんな事をすれば敵に居場所を教えてしまいますよ?」

 

「それが狙いなのだろう」

 

 如月は車内に戻り、ハッチを閉める。

 

「敵と遭遇できなければ、向こうが見つけてもらえばいい。そういう考えだろう」

 

「でも、もし全車両で攻めて来られたら・・・・」

 

 

「心配は無い。返り討ちにすればいいだけだ」

 

 いつも通りに聞こえる声も、かなりピリ付いている。

 

「・・・・・・」

 

 横目で鈴野も心配そうに見ていた。

 

 

 

 そして西住の狙いは的中し、前方にプラウダのT-34が見えてくる。

 

『前方に敵戦車!各車警戒!』

 

 西住の指示で各チームの戦車は左右に散り、ルノーはフラッグ車である八九式の前に来る。

 

 

「三輌だけ?外郭防衛線かな」

 

 西住が呟いた瞬間T-34三輌が砲撃を始める。

 

 

 

「どうやら気付かれたな。早瀬、鈴野!」

 

『はい!』

 

 如月の号令と共に早瀬はブレーキを踏んで停止し、その瞬間に鈴野が引き金を引き、砲弾が放たれると一直線にT-34の砲塔基部に直撃し、白旗が上がる。

 

「凄い!急停止状態でも命中した!」

 

「質は悪いけど、これほど命中率が上がるものなのね」

 

 新たに搭載されたスタビライザーの凄さを感じていると、Ⅳ号とⅢ突が放った砲弾がT-34に直撃し、白旗が揚がる。

 

 

『凄い!一気に二輌も!』

 

 

『やった!』

 

 

『昨年の優勝校の戦車を撃破したぞ!』

 

『時代は我らに味方している!』

 

 

『これは行けるかもしれん!』

 

『この勢いでゴーゴーだね!』

 

 

『うっし!このまま行くぞ!』

 

『おぉ!!』

 

 

『Wow!!絶好調ネー!』

 

『私達を舐めて掛かるからこうなるんだ!』

 

 無線越しに各チームの士気が上がっているのが分かる。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 しかし如月は喜びの一片を見せない。

 

 冷えた車内のせいかさっきより頭が冷え、頭痛も少しだけ治まったので冷静になり状況を把握する。

 

 

 監視か防衛線かは別として、プラウダは一度に二両も簡単に撃破される。

 

 

 去年の優勝校ともあり、こちらを舐めているという考えも浮かぶも、全て振り払う。

 

 

 しかし、脳裏に一瞬嫌な予感が過ぎる。

 

 

 

 簡単すぎる・・・・と・・・・・・

 

 

 

 すると残った一両が砲撃をしながら方向転換してそこから逃走する。

 

『全車両前進!追撃します!』

 

 西住の指示と共に全車両が逃走するT-34を追跡する。

 

 

 

 

 しばらく追跡をすると、前方に数量の車輌が確認される。

 

『っ!フラッグ車を発見しました!』

 

 ウサギチームの澤より無線が入り、如月はキューポラハッチを開けて立ち上がり、双眼鏡で確認するとその数輌の中にフラッグ車がいた。

 

『千載一遇のチャンス!よし!突撃だ!!』

 

『いけぇぇぇっ!』

 

『アタック!!』

 

 全車両が一気に前進し、フラッグ車へ砲撃を始める。

 

 その内Ⅲ突が放った砲弾がT34-85に着弾し、白旗が揚がる。

 

 直後に五式より放たれた砲弾がT-34の砲塔基部に着弾して白旗が揚がる。

 

「やった!」

 

「これで四輌目!これは幸先が良いですね!」

 

 早瀬と坂本はガッツポーズを取るも、鈴野と如月は目を細める。

 

 

 

 すると近くの雪溜まりより何かが飛び出てくると五式の砲塔左側面を掠る。

 

『っ!?』

 

 車内に神経を逆なでる音が響き渡るも、とっさにキューポラの覗き窓を覗く。

 

 すると雪溜まりの中より一輌の戦車が出てくると、主砲より砲弾を放ち、Ⅲ突の天板を掠る。

 

「あれって・・・・『T-43』じゃないですか!?」

 

「そこそこレアな戦車ですね」

 

「・・・・・・」

 

 如月は装弾機に乗せた砲弾を装填させると、鈴野はT-43に狙いを定めて引き金を引き、砲弾を放つ。

 

 

 

 

 するとT-43は車体の向きを変え、角度を付けて砲弾を弾く。

 

「っ?」

 

 直後に四式と三式より砲弾が放たれるも、T-43はすぐに車体の向きを変えて砲弾を弾く。

 

 

 T-43の主砲より砲弾が放たれ、四式の砲塔右側面を掠る。

 

「くそっ!」

 

 青嶋はとっさに引き金を引いて砲弾を放つも、T-43は車体を動かし、砲弾を弾く。

 

「なんだ!?あのT-43の動きは!?」

 

「まるでこちらがどこに撃つかを分かっているかのように車体の向きを変えている!」

 

 と、直後にT-43が放った砲弾が四式の砲塔天板を掠る。

 

「くっ!精度が悪いで知られているソ連製の戦車であそこまでの精度とは・・・・!」

 

 高峯が装填すると当時に青嶋は引き金を引いて砲弾を放つも、T-43は後方へ下がって砲弾をかわし、直後に主砲より砲弾を放つ。

 一直線に砲弾は五式の車体側面を掠る。

 

「・・・・・・あの精度では・・・・こちらを撃破する事など容易いはず・・・・なのに、わざと外している」

 

 と、極めて珍しい事に、高峯が口を開いた。

 

「あの野郎!おちょくりやがって!」

 

 拳を握り締める二階堂をよそに、T-43も含む戦車隊が後方へ後退する。

 

『逃がすか!!』

 

『追え追え!!』

 

『ブリッツクリーク!!』

 

『ストレート勝ちしてやる!!』

 

『ぶっ潰せー!!』

 

『待ちやがれ!!』

 

『これでfinishネー!』

 

『ちょっと待ちなさいよ!!』

 

 と、他のチームは次々と後を追いかけていく。

 

「ちょっと、待ってください!!」

 

 西住は制止を呼びかけるが止まる気配は無い。

 

 

「早瀬!我々も追うぞ!」

 

「りょ、了解!」

 

 早瀬はすぐにアクセルを踏み込み、ギアを一段上げて五式の走行速度を上げて後を追う。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・・・・」

 

 ナヨノフはクラッチを踏んでギアを一段上げ、残った数輌を引き連れて窪地へ入る。

 

「大洗の連中。餌に食いついたようだ」

 

「そうか。うまく掛かった」

 

 砲手の報告を聞き、ナヨノフは無線機を取る。

 

「カチューシャ隊長。大洗はうまく餌に引っ掛かりました」

 

『当然。このカチューシャが立てた作戦だもの。事は思い通りに進んでいるわね』

 

 声に喜色がある隊長の声がヘッドフォンから耳に伝わる。

 

「では、予定通りに」

 

 と、T-43を操縦しながらナヨノフはカチューシャへ連絡を入れる。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 フラッグ車を追撃して西住達は窪地へと入っていき、フラッグ車へ砲撃を行う。

 

 

 次々と砲弾が飛んで行くも、フラッグ車であるT-34は巧みな動きで砲弾をかわしていく。

 

『フラッグ車さえ倒せば!』

 

『勝てる!』

 

 

(そうだ!勝利はすぐそこに!)

 

 装弾機に砲弾を載せて砲尾のスイッチを押し、砲弾を装填させるとキューポラの覗き窓から周囲を警戒する。

 

「っ!」

 

 その瞬間後方の家の陰よりT-34二輌が出てくる。

 

「西住!6時の方向に敵戦車二輌!」

 

 如月が叫ぶとキューポラハッチを開けて立っていた西住は後ろを向いてそれを確認し、とっさに周囲を見回す。

 

『東に移動してください!急いで!!』

 

 すぐさま空いている3時の方向へ移動するように命令を下す。

 

 

 しかしその瞬間その方向にある家の陰よりT-34-85とT-43が出てくる。

 

『っ!南南西に方向転換!』

 

 西住は後ろ左斜めを見るも、凹んだ場所から『IS-2』が出てくると、家の陰から『KV-2』と『KV-1S』が姿を現す。

 

 気付けば西住達はプラウダの戦車隊に完全に包囲されていた。

 

 

「囲まれてる・・・・だと?」

 

『周り全部敵だらけだよ!?』

 

『罠だったのか』

 

『っ!?』

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、如月は自らの行為を後悔した。

 そしてメンバー全員は己の失策に気付くのであった。

 

 

 いつもなら、こんな見え透いた戦術など、見抜いていたはずだったのに――――

 

 

 だが、勝利へ固執していた為に、周りが見えていなかった。

 

 

 

 

 そしてプラウダの全車両が一斉砲撃を始め、次々と大洗の戦車の周囲に着弾する。

 

『What!?何て砲撃戦なんデスカー!?』

 

『ヒエェェェェェェェ!?』

 

『くそったれっ!!』

 

 

 その直後にT-43が放った砲弾がM3の主砲身を吹き飛ばす。

 

『こちらウサギチーム!主砲身が吹っ飛びました!!』

 

「くそぉっ!」

 

「このままじゃタコ殴りですよ!?」

 

 車内に混乱が広まるが、すぐに周囲を見渡すと、廃墟となった教会が目に飛び込む。

 

「っ!西住!南西の方向に教会がある!あそこに立て篭もるぞ!」

 

『っ!はい!全車両!南西の教会に向かってください!あそこに立て篭もります!』

 

 西住の指示ですぐにチームは教会へ向かう。

 

 最初にフラッグ車である八九式が入り、次々と入っていく。

 

「急げ!早く!!」

 

 教会の入り口付近で五式、四式、三式が砲弾を放ってT-34一両を撃破する。

 

 

 しかしT-43が放った砲弾がⅢ突の履帯と転輪に着弾して破壊する。

 

『履帯と転輪をやられました!!』

 

「っ!」

 

 T-34二輌が動けなくなったⅢ突へ砲塔を向けるが、直後にⅣ号が後退しながらⅢ突の車体後部にぶつかり、T-34へ砲弾を放つ。

 しかし砲弾はT-34の車体の傾斜装甲によって上へと弾かれ、その瞬間にT-34が砲弾を放ってⅣ号の砲塔側面に着弾し、砲塔側面が凹む。

 

 そのままⅣ号はⅢ突を押して教会の中へ入るのを確認し、牽制していた五式と四式、三式はすぐさま教会へ向かう。

 

 

「撃てっ!」

 

 如月の合図と共に五式の主砲より砲弾が放たれ、T-34の近くに着弾すると白い煙が立ち上がる。

 

 直後に四式と三式からも砲弾が放たれ、別々の方角へ砲弾が飛んでいって地面に着弾し、白い煙を上げる。

 

 そのまま三輌も教会内へ逃げ込むと、その瞬間教会が大きく揺れる。

 

 

「っ!」

 

 次第に砲撃音が大きくなっていく―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――と思われたが、ふと砲撃が止む。

 

 

「あ、あれ?」

 

「砲撃が・・・・止まった?」

 

「・・・・・・」

 

 キューポラハッチを開けて如月は立ち上がって外へ出る。

 

(どういう事だ・・・・)

 

 

 

 

「っ!戦車が来るぞ」

 

 と、四式から降りて外を警戒していた二階堂が叫び、メンバーは身構える。

 

「・・・・?いやまて!白旗を持っている?」

 

(なに?)

 

 私はすぐに戦車から降りて教会の出口から外を見ると、砲塔を横に向けたT-43の車体後部に白旗を持ったプラウダの生徒が乗り、こちらにやって来る。

 

「特使か・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 教会の前でT-43が停車すると、車体前面のハッチが開き、プラウダの隊長と副隊長の補佐官であるナヨノフが出てくる。

 

(あいつか・・・・あのT-43を操縦していたのは)

 

 二階堂は試合開始前の戦線布告にやってきた時に、ナヨノフと目が合った事を思い出す。

 

「こちらはプラウダ高校の特使です。カチューシャ隊長より伝言を預かって参りました」

 

 ナヨノフはT-43から降りた白旗を持つ生徒と共に、入り口で立ち止まり、口を開く。

 

 

「『全員降伏しなさい。土下座すれば許してあげる』との事です」

 

「っ!」

 

「何だと!ナッツ!!」

 

「・・・・・・」

 

 挑発的な伝言に誰もが苛立ちを覚え、如月はガリッと歯軋りを立てる。

 

 

「カチューシャ隊長はシベリア平原並みに心が広いとおっしゃって、三時間は待ってくれるそうです。では、懸命な判断を」

 

 と、ナヨノフはT-43に乗り込んで操縦席のハッチを閉め、白旗を持った生徒はT-43の車体後部に上がり、そのまま信地旋回して教会から離れていく。

 

 

 

 

「誰が土下座なんか!」

 

「全くだ!全員自分より低く見せたいのだな!」

 

「徹底抗戦だ!」

 

「戦い抜きましょう!隊長!」

 

「このままあのチビに好き勝手やらせるか!」

 

「まだ私たちはやれます!!」

 

 全員さっきの挑発的な降伏条件で士気は下がらず、むしろ怒りで上がっている。

 

 

 

「・・・・でも、こんなに囲まれては・・・・。一斉に砲撃されたら、怪我人だって出るかもしれない」

 

 西住は戦車を見て言葉を漏らす。

 

「・・・・・・」

 

 見らずとも、西住の心配するのは・・・・分かる。

 

 

 一両も失わなかったのは不幸中の幸いだったが、M3は主砲を失い、Ⅲ突は転輪が破壊されており、Ⅳ号は先の攻撃で砲塔が故障し、旋回不能となっている。

 相手は五輌失っているので、戦車の数に差は無いが、性能と火力は向こうの方が上。しかも囲まれているとなれば、状況はこちらが不利。

 

 

 

「隊長は西住さんです」

 

 と、五十鈴が口を開く。

 

「わたくしは、その判断に従います」

 

「華さん・・・・」

 

 

「初出場で準決勝まで来れたんだ。それだけでも上出来だろう」

 

 と、冷泉はそう言うと、二階堂達以外は頭から血が下がったのか、静まる。

 

 

 

 

 だが、このまま降伏するのは、それは学校の廃校に繋がる。

 

 

 何より、西住が―――――

 

 

 

 

「駄目だ!!」

 

 突然河島は大きな声を上げる。

 

「負けるわけにはいかん!負けるわけにはいかないんだ!!」

 

 凄く真に迫っており、他のメンバーは唖然となる。

 

「降伏など絶対にしないぞ!!最後の一兵になるまで戦うんだ!!」

 

「桃ちゃん・・・・」

 

 小山は河島を制止させようとするも、構わず続ける。

 

「勝つんだ!絶対に勝つんだ!!勝たなければならないんだっ!!」

 

「ど、どうしてそんなに・・・・」

 

 何も知らない西住はキョトンとする。

 

「冷泉さんも言っていましたが、初めて出場してここまで来れただけでも凄いと思います。戦車道は戦争ではありません。勝ち負けより大切な事があるはずです」

 

「勝つ以外に何が大切なんだ!!」

 

 勢いを衰えず河島は必死な形相で反論する。

 

「私・・・・この学校に来て、みんなと出会って、初めて戦車道の楽しさを知りました」

 

 西住はゆっくりとメンバーと戦車を見る。

 

「この学校も、戦車道も大好きになりました」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 いつもであれば、西住の言い分に納得が行く。いや、その変化に嬉しく思っただろう。

 

 

 だが、今の私はそう思えなかった。

 

 

(なぜだ。なぜなんだ、西住。お前は・・・・それでいいのか)

 

 納得が行かず、拳を握り締める。 

 

(負ければ・・・・お前は勘当されるんだぞ。家族とは、血の繋がった他人になると言うのに・・・・一人になるというのに・・・・!)

 

 すぐにでも言葉にしたいが、みんなに知られてはならない為、歯を食いしばって言葉を抑え込む。

 

(お前は・・・・それでいいのか!?)

 

 

 

「だから、その気持ちを大事にしたまま、この大会を終わりたいんです!」

 

 かけがえない、大切な仲間を傷つけたくは、失いたくは無い。それが、西住の優しさだった。

 

 

 だが、尚更その言葉が、私の胸に突き刺さる。痛みを感じるほどに――――

 

 

 

「・・・・何を言っているんだ?」

 

 ふら付きながらも河島は西住を見る。

 

「負けたら・・・・負けたら・・・・・・我が校は―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――無くなるんだぞ!!!」

 

 

『っ!?』

 

 河島が言い放った言葉に、角谷会長と小山、二階堂達、武部、如月以外のこの場に居るメンバー全員が目を見開く。

 

(・・・・言ってしまったか)

 

 最悪な事に、こんな状況で・・・・・・明かす事になってしまった。

 

 

 

「が、学校が・・・・なく、なる?」

 

 西住は一瞬頭の中が混乱し、自分の耳を疑う。

 

 

「・・・・・・」

 

 河島は俯くと、両手を握り締める。

 

 

「・・・・河島の言う通りだ」

 

 と、角谷会長が前に出る。

 

「・・・・この大会で優勝しなければ・・・・・・我が校は廃校になる」

 

「・・・・・・」

 

 この場に居る者全員、衝撃の事実に、ただ呆然となるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 


 
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