皆が寝静まった頃、一人の青年―――アスベルは静かに星空を見上げていた。これから先の事を考えると、既に打った手では足りなくなることが予想できた。その理由は、
「帝国内部に起こりうるであろう“戦い”……何が起きても不思議じゃないってところか。」
10月末……11月からの帝国に起こるであろう内戦。“革新派”と“貴族派”、つまりは正規軍と領邦軍の戦いとなる。その為の楔の一つとして、シュバルツァー男爵家を侯爵位に上げて領地を得る形にしたこと。元々変わり者と言われたシュバルツァー家であるが、<五大名門>という肩書はそれを一層際立たせる。そして、その二つの派閥に対して一方的な肩入れは行わないという不干渉の意思表明を行っているに等しい。皮肉なことだが、力というものが大きければ大きいほどに存在感も比例して大きくなる。オリヴァルト皇子に対する『粋な計らい』もその一つである。
実質的なタイムリミットまで半年………それまでにどれだけの手を打てるか。アスベルはもとい、他の“転生者”には閃の続編の情報など一切ない。つまりはもう一方の情報―――同時間軸で進行する『碧』の情報を頼りにするしかない。だが、その上で腑に落ちない点が一つ。
(圧倒的物量を持つ正規軍と、“新兵器”で互角以上に持ち込む領邦軍……互いに勝利を呼び込もうと躍起になるはずだ。だが、最短でもたった二ヶ月で解決できる問題か?)
元々対立の根が深い二者の戦い―――ギリアス・オズボーンによって生み出された“12年”という深い溝をたった二ヶ月で埋められるほど浅くはない。これを本気で埋めようとするのならば………いや、それでは共和国の台頭を許す結果にもつながる。それは、あの御仁の望む結果ではないだろう。となると、彼が遊戯盤に打つ手は――― 一つだけある。
『碧き零の計画―――そして、幻焔計画。結社の計画を利用する手段』
“ハーメル”はともかくとして、一昨年の蒸気戦車の一件は間違いなく『結社』との取引があったとみるべきだ。そして、クロスベルでの一件を引き金にする形で、共和国で経済恐慌が起き、帝国で内戦がおこる……共和国側がどれぐらいで収束するかは不透明だが、少なくとも年をまたぐ形での収束はしたくないであろう。誰だって年明け位はゆっくりと迎えたいものだ。
(………結論からすると、これは貴族派側に『内通者』か『協力者』がいないと出来ない。それなりに格式が高く、そして人格的にも問題ない人物だとすると………『あの人』の可能性が高い、か。)
別に疑いたくはないが、だが『彼』がその中核にいるということとなれば、最早確定的だ。“外敵”に意識を向けさせ、二つの派閥を融合させる。あわよくば、『結社』すらもダシに使うというところだろう………そして、年明けと同時にクロスベルへの侵攻を行い、占領する。これが、『鉄血宰相』の描く“結果”の一つ……尤も、推測の域は出ないが。
ターニングポイントはいくつかあるが……四ヶ月後に開かれるであろう通商会議。この先の流れがすんなりいく保証はないが、その為に出来ることはすべてやっておく。
「さて……寝なおしますかね。」
そう言ってアスベルが踵を返し、宿の中に戻っていった。そして、次の朝……アスベルが起きると、他の面々はまだ眠りについている時間だ。すると、ベッドの一つから起き上がる寝間着姿の女子―――アリサの姿が目に入るも、アスベルは目を背けた。
「あれ?………アスベル、起きてたの?おはよう……」
「お、おはよう。いや、ついさっき目を覚ましたばかりでな。」
「ねぇ、何で明後日の方向を向いてるのよ?」
「……お願いだから、察してくれ。」
そこまで言われてアリサは自分の寝巻がはだけた状態に気付く。慌てて身なりを整えた後、アスベルの方に近づく。ちゃんと身なりを整えたことを横目で確認した後に向き直る。とはいえ、流石に女子の寝間着姿なので緊張しているが。
「アスベルも意外に初心なのね……二人とは色々あったのに?」
「アイツらに聞いたのか。俺だって恥ずかしい時ぐらいあるよ。それはそれ、これはこれってことだ……あれ?アリサ、ステラは?」
「え?……変ね。確か、私よりも先に寝たはずなのに。」
ふと、アスベルはステラがいたであろうベッドがもぬけの殻になっていることに気づき、尋ねてみるとアリサも解らないようで首を傾げた。エリオットは普通なので問題は無いし、アスベルが真夜中に戻って来た時点では、ステラはシングルベッドで静かに眠っていた。ソファーにも机にも姿はなし……ふと、アスベルがリィンとラウラの眠っているベッドを見てみたところ、明らかに何かがおかしい。
「なぁ、アリサ。俺の目にはダブルベッドで三人寝ているような様相に見えるんだが……」
「安心して。私にもそういう風にしか見えないから……」
近づいて確認すると、三人分の膨らみ……それを見て、アスベルとアリサは顔を見合わせ、一言。
「そっとしておくか。」
「そうしましょうか。」
触らぬ神に祟りなし……エリオットを静かに起こし、各自制服に着替えた後……静かに一階に下り、それから二十分位経った後、出てきた三人の様相は様々であった。
「な、何で俺が……」
「ご、ごめんなさい!つい、うっかり……」
「ステラの寝ぼけ癖がここまでとは、正直予想外だった。」
今度は右頬に紅葉がうっすらと残るリィン、軽く泣きそうな様相のステラ、そして今朝の出来事を内心驚いていたラウラであった。さくやはおたのしみでしたね、というのにはまだまだ早いようだ。
説明すると、アスベルが寝た後にステラが少し起き、寝ぼけていたためか間違えてリィンとラウラの寝ている場所に潜り込み、気が付いたらリィンにしがみついていたらしい。それに気づいたステラが左手でリィンに……その結果が今の様相であった。
「あはは……災難だったね。」
「はぁ……何でだろうな。」
リィンのスキルに関しては、手の施しようがないだろう。ある意味声補正とも言える。
それはともかく、朝食を済ませて今日の実習課題を受け取ったところで、この店のウェイトレスをしているルイセが息を切らしながら店の中に飛び込むように入ってきた。
「ルイセ、遅いじゃないかい。」
「す、すみませ~ん……そ、それよりも大変なんです!」
彼女の話によると、昨日の騒動の当事者である商人らの屋台が壊され、商品が盗まれたとのことだ。マゴットからは実習の方に集中するように言われたが、昨日の事に関わったからには見て見ぬふりというのも癪に障る。そういう訳で六人は大市の方へ顔を出すことにした。
「と、まぁ……実際に来てみたはいいが……双方共完全に血が上ってる。」
「元締めの説得にも耳を貸さないし……いざとなったら、実力行使もやむを得ませんね。」
「そ、そういうことをサラッというと怖いよ……」
ステラの言葉には納得できる部分もあるが、どうしたものかと様子を見ていると……突如聞こえる『何だこの騒ぎは!』という第一声ともに姿を見せたのは、領邦軍。その隊長は元締めから一通りの事情を聴いた後、何と突拍子に
「おい、二人とも連行しろ。」
という言葉だ。これにはマルコとハインツも驚愕した。自分たちは被害者だというのに、何故加害者扱いされなければならないのか……だが、その隊長は文句があるのならば望み通り逮捕するとし、そうされたくなければこれ以上事を荒立てるのを止めろという一方的な論理を言い放ち、我々は忙しいという言葉を去り際に吐き、その場を去った。
「こ、こんなのって……ひどくない!?」
「無茶苦茶な論理よ。」
「これが、領邦軍だというのですか?」
……言い分も解るが、まずは壊れた屋台の後片付けを行うこととなった。その際、アスベルは元締めと会話して、一区切りついたところでリィンに合流して後片付けの手伝いを行うことにした。その後、元締めと改めて話をすることになった。
「お前さん達のお蔭で大市もすばやく再開することが出来た。感謝しておるぞ。」
「いえ、けが人も出なくて何よりですが……それにしても、此度の事からするにケルディックの問題は根が深いようですね。」
「そのようだな。領邦軍が来てもまともに取り合わないとは。」
「解決すらしていないものね……商人たちだって、気が気でないだろうし。」
「うむ。わしらが増税への陳情を取り下げない限り、まともに対応する気が無いようじゃ。」
各々が先ほどの問題から見えてくるもの…昨日のトラブルで揉めた二人の商人の屋台が壊されたこと……唐突に出てきて強引なやり方で『なかったことにしようとする』領邦軍……リィンは考え、元締めに提案をした。
「お願いがあります。今回の出来事、俺達に調べさせてもらえませんか?」
「ええっ!?」
これにはアリサ、エリオット、ラウラ、ステラが驚き、元締めは『お前さん達が気に病むことではない』と言ったが……これにはアスベルも賛同した。
「それには賛成かな。このままだとあの商人たちを困らせることとなる……それに、サラ教官だって言っていたことだろ?『せいぜい悩んで、何をすべきか自分たちで考えて行動するように』って。」
「成程……確かに、帝国人として見過ごすことはできませんね。私も協力します。」
「そうね。こういったことも実習の一環なのかもしれない。」
「流石に僕達で出来ることは限られてきそうだけれど……」
「義を見てせざるは勇無きなり、か……私も協力させてもらおう。」
「アスベル、それにみんな……」
「というか、リィンは一昨年の“妹”の付き添いで気苦労を背負っているわけだしな。」
「はは……」
リィンは一昨年でのリベールにおいて、アスベルの妹―――彼女も遊撃士なのだが、その協力員ということでリベールの各地を回り、その延長上で『結社』とも戦った経験がある。その経験がこういった形で生きることになろうとは思っていなかっただけに当のリィンも苦笑を浮かべたが……
何はともあれ、事件を調べることとなるのだが……アスベルは五人を先に行かせて、元締めと二人になった所で改めて、
「今回の事は流石に俺自身も看過できません……内密という形ではありますが、今回の事件の調査をギルドで請け負います。できれば、犯人の逮捕もするという方針でいきます。」
「そなたがいれば百人力じゃのう。よろしく頼む。」
「そこまで買いかぶれられるほど大層な人間ではありませんが……出来ることはやろうと思います。」
どうやら、一度染みついた性は変えようがない……士官候補生として、S級遊撃士として……開き直りとも言えるだろうが、アスベル・フォストレイトとしてそう決めたからにはやり遂げる。ただ、それだけなのだと。
いつから、寝ぼけイベントは一度だけだと勘違いしていた?……という塩梅のネタですw
アスベル絡みのイベントはイメージ元のゲームから引っ張ってきました。イメージ元から引っ張るとアスベル=クロウなんですが、使ってる武器はアスベル≒リィン……リィン+クロウ=アスベル……ないな。
本文から察することは出来ますが、この時点である程度の予測を立てています。とはいえ、全ての事象を予測できているわけではないので、犠牲も少なからず出ることとなりますが……その辺は後々わかると思います。
プレイの方は、後日編の回廊でアイテム集め中。
あと……エリゼですが、とある章にてサブメンバーとして出てもらいます。少なくとも、第二章以降です。
10/24追記)えー、アルフィン絡みのイベント(Ⅰ・Ⅱ)なのですが、ステラが加わる形で変更点が多少あります。ステラのポジションはアリサ+アルフィン……何が言いたいのかは、お察しくださいw勿論、アルフィン本人のポジションはあります。彼女がいてこそアルノール家が輝くのですから(ぇ
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第17話 紫炎の性(さが)