No.731595

真・恋姫†無双 拠点・曹仁5

ぽむぼんさん

拠点・曹仁最終話です。
この後、結局誰が一刀の供として蜀へ向かう事になったのか。
短いお話ではありましたが、お楽しみいただけたのならとても嬉しいです。
この先はどうなっていくのでしょうか。
おそらく萌将伝のような外史になるのでしょう。あのような世界に新しい武将達がいてくれたら、とても楽しくなると思います。

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2014-10-21 03:15:30 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3261   閲覧ユーザー数:2563

 

 翌日、華侖は一刀と共に評定の間へと足を運んだ。昨日までの悩みも吹き飛び、向かうところ敵なし、といったような機嫌(テンション)だ。

 「おや、一刀に華侖か。おはよう」

 「ふふん、私の方が早く起きたようだな!」

 評定の間に入る前に秋蘭と春蘭に出会う。二人は満面の笑みを浮かべて華侖の横を通り間へと入る。その瞬間に

 

 「上手くいったようだな」

 「はい!ありがとうございます」

 「私の考えた作戦だからな。失敗するはずがなかろう!」

 

 作戦の結果について軽い報告をするのだった。

 

 「……やっぱり、春蘭も一枚噛んでたんだな」

 「うっす。惇姉ぇに洪姉ぇの衣装を作ってもらったっす」

 「なるほどね。春蘭って手先が器用だからな。平和になったから、仕立屋の仕事もすればいいのに」

 「でも、貰ったみしんはぶっ壊してたっすよ?」

 「あー、いや。やっぱりやめといた方がいいな。怪我人が出るかもしれない。嫌だぞ?警邏で春蘭を捕まえることになるなんて」

 「惇姉ぇを捕まえるなんて無理っすねー。あ、虎豹騎を出せば」

 「街中で出すわけにはいかないよ!?」

 

 

 

 「――ちょっと、なによあれ」

 ほんの数日前と距離感が明らかに違う事に気付いた桂花は不機嫌になる。

 「おぉ、お兄さんったら。これは華侖ちゃんがめろめろになっちゃってますねー。いったい何をしたのでしょうか」

 「男が女にヤル事っていったら、一つしかないだろう?ナニをやったんだよ」

 「宝慧。そこに気がつくとは……むむむ、やるのです」

 「なにがむむむよ!昨日、華侖と一刀に何があったのよ……!私の知らないところでぇ!!」

 「桂花ちゃん。だから、ナニ」

 「そんな事聞いてるんじゃないわよぉ!」

 「……朝からそんな会話はやめてよね。まったく、ボクには理解できないよ」

 一刀と華侖、二人の間に何があったのか話しあっている二人の後ろから、喜雨が間へと入る。

 「あらぁ。いいじゃない?朝から元気な証拠よ?私もナニかして欲しいわ」

 その後ろから大きな胸で喜雨の頭を挟み、燈も入る。

 「もう、やめてよお母さん!」

 頭を振り、胸から頭を取る。男からすれば夢のような朝の挨拶だったが、喜雨にとってはこの挨拶は嫌なものでしかなかった。

 「朝からそんな話をするのはあんたと風くらいよ。私はいたって真面目に、真剣に考えてるのだけれど」

 「あら、そうなの?ごめんなさいね。あなたってほら、いつもその。変態的だからてっきり」

 「だ、誰が変態的ですって!?」

 「ちょっと、怒らないでよ。本当のことじゃない!」

 「そんな無駄に大きい乳丸出して歩いてるあんたの方が変態的でしょ!」

 「仕方がないでしょぉ?大きいから、収まらないのよ。あー、分けてあげたいくらい」

 「あんたは今、三国の貧乳たちを敵にまわしたわ。見なさい。香風も怒ってるわよ」

 「あら?本当?」

 桂花が指をさした先には、太陽の光を浴びながら立って寝そうになっている香風の姿があった。

 「ほえほえー……お日様が気持ちいい~……」

 「空気読みなさいよ!って、そんな話じゃなくて!今は一刀の話よ!」

 桂花が一刀を見る。華侖がべったりと一刀にもたれかかっていて、まるでそこの空間だけ別の世界(外史)のようだった。どことなく漂う桃色の空気。ときおり、んちゅーと言いながら一刀の頬に口づけをしている華侖。それを嬉しそうに、笑いながら受け入れる一刀。

 「なによ、あれぇ!?本来ならあそこの場所には私がいるはずでしょ!?あの世界は私と一刀で生み出す物じゃないの!?どこで何が狂ったのか分からないわ!」

 「あそこに桂花ちゃんがいたかどうかはさておき、これは由々しき事態なのです。ですが、今はまだ動くべきではないと風は思うのですよー」

 情報が欲しいのですと言いながら眉をしかめる。

 「でも、あれはなんとかしないと。人前であんな事をされるのは鬱陶しいし、稟が見たらどうなるか……言わなくても分かるよね」

 「おや、皆で固まって一体なにをしているのですか?今日のことでなにかありましたか?」

 「あ、稟ちゃん」

 皆より少し遅れて稟や真桜といった魏の将たちがやってきた。

 「はぁ。ボク、掃除は専門外だよ」

 喜雨がため息を漏らすと同時に、朝一番の血の噴水が皆に降り注いだ。

 

 

 「昨日、蜀と呉へのつあー計画を提出してもらったわ。この計画通りに進む事になるから、つあーに参加する者は見ておくようにね」

 

 稟の鼻血を慣れた様子で風が奇麗に片付けると、数分遅れて評定は始まった。

 まず書簡を持って蜀と呉へ連絡。これで良いか否か、返事を貰ってまた計画を練り直すことになる。蜀への使者には一刀、呉への使者は桂花が選ばれ、翌日には魏を離れることになった。

 

 

 「えへへへへー」

 「ふふっ。どうしたのかしら華侖?ここ数日元気が無かったようだけれど、今日はとても機嫌がいいのね」

 評定が終わり、華琳は春蘭に秋蘭。さらに華侖と喜雨を誘って庭でお茶を嗜んでいた。

 「華琳様。華侖の元気が無かったのは悩みがあったからです。そしてその悩みも昨日で解決しました」

 「あら、その言い方だと秋蘭。あなたが解決してくれたのかしら」

 「正確には、姉者と私の二人です」

 「なら、私のかわりに可愛い従妹の悩みを解決してくれた褒美を取らせないとね。礼を言うわ。二人とも。今夜は私の部屋にいらっしゃい」

 美味しい茶を飲み、甘いお菓子を齧る。緩やかに時間は過ぎ、平和を満喫する。戦をしていた時もお茶を嗜む事はあったが、こんなにゆっくりと時間を費やす事はなかった。

 「ふふふっ」

 「さっきから笑ってばっかりだよね。聞いてもいいかな?どんな悩みだったの?」

 気になったのか、喜雨が華侖の悩みを聞こうとする。

 「こら、人の悩みを無理やり聞くもんじゃないぞ」

 「だって、こんなに笑ってるんだよ?気になるでしょ」

 「じつは、兄ぃに一番愛されてるのは洪姉ぇかと思ってたっす。だからちょっと元気がなかったっす」

 「へぇ、そんな悩みだったのね。――でも、一刀はそうじゃなかったでしょ?」

 華琳は優しく笑いかけてお茶を一口含む。果物を使ったお茶で、その芳醇な香りが鼻をかすめて幸せを感じていた。

 「はい。兄ぃは、『俺は華侖が一番好きだよ』って言ってくれたっす」!」

 

 

 

 瞬間――時が止まった。

 

 

 髪を撫でていた風は止み、鳥が囀る声すらも聞こえない。無音の世界。本当に時が止まっていたわけではないが、そう感じさせるだけの迫力がこの場には確かに存在していた。

 「――なんですって?」

 鳥はあまりの気迫から気を失い、木から落ちる。幸せな空間は消え失せ、戦場のような緊張感が支配した。この庭に立ちいるものがいるならば歓迎されるだろう。ようこそ、お茶会(乱世)

 そんな生き物の呼吸を止めてしまいそうな怒気を孕み問いかけるが、私、今世界中で一番幸せ!と顔に書いてある華侖はそんな怒気には気がつく事なく言葉を続ける。

 「昨日、兄ぃに抱きしめてもらってー……そ、その後は……いやー!!恥ずかしいっす!」

 

 ピシッ!!

 

 『あぁ、華琳様の杯が!取っ手しか握っていないのに杯が半分に割れてしまった!』

 

 “……不味い”

 

 秋蘭は危険を感じる。あれはいつの事だったか、嫉妬で一刀に八つ当たりをし、

 『俺は……華琳のものだよ……』

 と言わせた事を瞬時に思い出したのだ。

 

 “危機感を感じているのは華琳様と華侖を除いた我ら三人――”

 

 「……一番は華侖だと……」

 

 “じゃぁなかった!姉者!姉者もそっち側か!”

 

 見れば春蘭は震えながら握りこぶしを作っていた。その手からチラとのぞいているくしゃくしゃの紙屑のような物は、先程まで飲んでいた陶器の杯である。

 

 “なんと、杯があんな形になるとは。流石は姉者――じゃなかった。ここは私と喜雨でなんとかしなくてはならんな。おそらく、華侖『も』一番好きだよという言葉と間違えたのだろう”

 

 なんとか協力しようと目配せ喜雨に送る。一人でどうにか出来る問題ではない。

 「……」

 表情は変わっていないが、小刻みに震えて目が潤んでいる。

 

 “――あぁ、お前もか。喜雨”

 

 これは、無理だ。秋蘭は諦めて華侖の話を聞きながら一刀の命が助かる事を祈り始めた。

 

 

 時刻は遅く。日が沈み今日が終わろうとしている時、女たちの戦いが始まろうとしていた。

 場所は評定の間。一刀と栄華、それに華侖を除いた魏の主な武将が緊急で招集されている。

 「明日は一刀が蜀へ向かう事になっているわ。そして、供に香風と柳琳だったのだけれど――中止するわ」

 華侖の発言を皆は黙って聞いている。発言したら間違いなく殺される。そんな迫力だったからだ。この威圧感の中で発言出来る奴がいるとすれば、阿呆か自殺願望者か処刑願望者だけだろう。

 「けれど、蜀へは使者が行かなくてはならないわ。故に、一刀には予定通りに使者としての仕事を頼むわ。中止にするのは、香風と柳風を供につけることよ」

 香風は少しだけ目を開き、柳風は肩を落とす。

 「供には――この私が行くわ」

 「お、お待ちください!華琳様!」

 果敢にも反論する人間がいた。あぁ、死んだなこいつは。と思われた人物は郭嘉奉考である。

 「一国の王が使者で参るなど、普通では考えられません!やはりここは華琳様には魏にいていただいて、別のものが供につくのが良いかと……」

 「稟」

 「は、はい!」

 「――よく考えてみなさい。このつあーは、三国が平和になったということを証明することでもあるのよ。ならば、王が別の国へとおもむき、直接言葉を交わす事こそが何よりも平和の証拠になるのではないかしら?」

 「し、しかし!その場合ですと、蜀へは魏王が使者として行ったのに呉へは魏王が使者として行かなかったと軋轢を生んでしまいます」

 「えぇ。それは大変ね」

 華琳はにっこりと笑い、その場の武将全員に向けて言った。

 「なら、稟の言う通りに私と一刀は呉へも使者として行くことにするわ」

 

 “これが目的か!”

 

 その場の武将全員が同じ事を思った。自分から言い出すのではなく、他人から言われた意見を尊重して取り入れるといった形を取る為にわざわざこの場を設け、反論の余地を与えないような威圧感を出していたのだ。

 この場を作ったのはその為に。『一刀と二人きりで蜀と呉へ旅行する』為に!

 

 「お、お言葉ですが華琳様!」

 やらせるか、とばかりに声を発する桂花。

 「なにかしら桂花」

 「いくら乱世が終わったとはいえ、たった二人で蜀と呉へ向かうのは危険じゃないかと。まだ各地では山賊もいると思われます」

 「そうでしょね。でもね桂花。さっきも言った通りこのつあーの目的は平和になったことを証明してみせる事よ。――二人きりで長い旅が出来たとすれば、それは平和になったということにならないかしら?」

 「華琳様。ですが、それでもし山賊に囲まれてお兄さんが人質に取られてしまう。そんなこともあるかもですよー?」

 風も発言する。これは、女の戦い。華琳はなんとしても二人きりで一刀と旅行し、一番にのし上がるつもりである。対して、軍師たちはそれを阻止したい。あわよくば一刀と一緒に旅行したい。

 「……確かに。そのような危険もあるかもしれないわね――霞、凪、秋蘭」

 「え!?ここでウチ!?は、はっ!」

 「はい!」

 「はっ」

 名前を呼ばれた三人に視線が集まる。この三人が供に選ばれたのだ。羨む視線が突き刺さる。

 「あなたたちは部隊を率いて、私と一刀が進む道の山賊を討ちなさい。降伏させ、農地を与えて我が国の力として吸収するのよ」

 「はっ!……え、供ちゃうの?」

 「それに、農に詳しい人間がいた方がいいわね。喜雨と風も手伝ってあげて」

 「むむむ……はーい」

 「……はい」

 

 “――これは風たち全員に仕事を与えて、『使者として行けるのは華琳様だけ』という状況を作ろうとしているのです”

 

 「し、しかし!勝手に蜀の領に入り山賊を討つというのはあまりよろしくないのではないでしょうか」

 「そうね。なら、蜀の国境まできたら、近くの蜀の兵に私と一刀が二人で蜀へ行くからと伝えてちょうだい。きっと諸葛亮や龐統なら私たちの考えを見抜いて行動してくれるはずよ。伝えたら、魏へと引き返して引き続き普段の仕事をしてもらうわ」

 「へ、兵站の問題も……!」

 「二人で行くのだから、兵站は必要ないわ。いるものは馬と金銭、それに竹簡ね。荷物が少ないから一頭の馬に二人で乗るのも悪くないと思うわ」

 

 「え、えーっと……じゃ、じゃあ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、一刀は栄華に字を教えてもらい、華侖はそれを眺めながら笑う。

 「あははははは!兄ぃ!字がきったねーっす!」

 「う、これでもだいぶ上達したんだぞ!なぁ栄華!」

 「えぇ。そうですわよ。ほら、ご覧なさい華侖。死にそうな蚯蚓から、いまにも踊りだしそうな蚯蚓になっていますわ。気持ち悪い」

 「結局汚いってことか!?」

 「当然ですわ。字は一日で上達するものではありませんもの。こ、これから暇がありましたら私が教えて差し上げます」

 「本当か?助かるよ。栄華は教え方が上手いから、すぐに上達するよ」

 「な、なななんのつもりですの褒めるだなんて!嫌ですわ!何か企んでいらっしゃるのね?」

 

 同じ時、別の場所で女たちの争いが起こっている事などこの三人は知らず、楽しく談笑していた。

 

 

 

 

 「兄ぃ!大好きっすよ!」

 「人の部屋で愛の告白なんてやめてくださいます?」

 「あぁ、俺もだよ華侖」

 「そして答えないで!?」

 「洪姉ぇの事も、兄ぃはあたいと同じくらい大好きなんすよ」

 「ちょ……や、やめてくださいませんこと」

 「勿論栄華のことも同じくらい好きだよ」

 「もう!これだから男は嫌ですの!別の女に愛を囁いた後に愛を囁くだなんて!……こう、二人の時に……」

 「栄華?ごめん、最後の方何て言ったか聞こえなかったんだけど」

 「なんでもありませんわよ!」

 「洪姉ぇ、顔赤い!」

 「ううううるさいですわっ!」

 


 
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