No.731109

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-10-19 11:04:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:466   閲覧ユーザー数:455

 

 

 

 story33 異変

 

 

 私達はかなり追い詰められていた。

 

 目の前には多くのプラウダの戦車がこちらにジリジリと迫り、砲撃を続ける。

 

 抵抗を続けるが、私の周りで一人、一人と、次々と仲間達の戦車がやられていく。

 

 絶望しかない状況の中、私は諦めず、砲撃を続けた。

 

 負けない。負けるわけには行かない!

 

 西住の為にも、私は負けるわけには行かない!!

 

 

 砲弾を放ち続けてプラウダの戦車を撃破していく。

 

 勝てる!このまま行けば!

 

 

 

 しかし私の乗る五式は突然衝撃に襲われ、行動不能に陥る。

 

 

 その直後に、西住が乗るⅣ号が直撃を受け、白旗が揚がる。

 

 

 っ!

 

 

 それによって、私達の敗北が決定した。

 

 

 そん、な・・・・

 

 

 目の前の光景が、信じられなかった。

 

 

 嘘だ・・・・嘘だ・・・・嘘だ・・・・嘘だ・・・・!!

 

 

 

 周りでプラウダの勝利を祝う声がする中、私は否定する。

 

 

 だが、どんなに否定しても、確定された事実を覆すことは出来ない。

 

 

 嘘だ・・・・こんな・・・・こんな結末・・・・

 

 

 

 そして、私の目の前が、真っ暗になる。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――― 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 目を見開いて如月はベッドから起き上がる。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

 荒くなる息を整えながら、舌打ちをして顔に右手を付ける。

 

(何て夢だ。試合前でこんな縁起の悪い夢を見るとは)

 

 ふと、手が湿っている事に気づく。

 

「・・・・・・」

 

 それどころか、全身が濡れている。

 

 酷く寝汗を掻いており、下着どころかパジャマがびしょ濡れで、布団も寝汗で濡れ、髪が肌に引っ付いて気持ちが悪い。

 

 時間を見ればいつもより三十分近く早かった。

 

(シャワーでも浴びるか)

 

 と、足を床につけてベッドから立ち上がる。

 

 

「っ?」

 

 すると体がふらつき、バランスを崩しかけるも何とか踏みとどまる。

 

「何だ・・・・?」

 

 頭がぼー、とし、身体が妙に熱く、いつもより身体がだるく感じられた。

 

(・・・・気のせい、だ)

 

 首を振って考えを振り払うと、ふらついた足取りで風呂場に向かう。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 シャワーを浴びた後、身体がだるい中制服に着替えてマンションを出る。

 

 

「・・・・・・」

 

 ふらついた足取りで如月は学校へと向かう。

 

(今まで、こんな事は・・・・)

 

 

 

 

 

「――――さん。如月さん!」

 

「っ!」

 

 後ろから声を掛けられて後ろを振り返ると、西住が居た。

 

「西住か」

 

「どうしたんですか?さっきから何度も呼んだのに」

 

「そ、そうか。それは・・・・すまなかったな」

 

 いかんな、と呟く。

 

「あれ?如月さん」

 

 と、西住はある事に気付く、

 

「ん?」

 

「なんだか、顔が赤いですよ?」

 

「そ、うか?今日は少し暑いからだろう」

 

「いや、肌寒いぐらいなんですけど」

 

「・・・・・・」

 

 どうも、西住と私が感じているのは、異なるようだ。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 隣に並んで西住と一緒に学校へと歩く。

 

(昨日・・・・・・あんな事があったって言うのに・・・・それを表に出してないな)

 

 みんなに心配を掛けさせないようにしているのだろうな

 

(・・・・言いづらいな)

 

 昨日の廃校の件を言うにも、かなり戸惑う。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 結局廃校の件を言えずのまま、数日が経って試合が明日に控えた日の放課後。

 

 

 メンバー全員は倉庫に集められ、生徒会より防寒グッズを受け取っている。

 

「こんなにいるの?」

 

 武部は段ボールにたくさん詰められたカイロを見て驚く。

 

「戦車の中って普段は暑苦しいけど、鉄の塊だから冬場はかなり冷え込むの」

 

「そうなんだ」

 

 カイロを手にしながら周囲を見渡す。

 

 

 

「タイツ二枚重ねにしよっか?」

 

「レッグウォーマーもした方がいいよね」

 

 一年メンバーはソックスやタイツを手にしてはしゃいでいた。

 

「それよりリップ、色の付いたのにした方がよくない?」

 

「準決勝ってギャラリー多いだろうしね」

 

「チークとかも入れちゃう?」

 

 

 盛り上がっているのは、一年チームだけではない。

 

 

 

「どうだ?」

 

 と、左衛門座はちょんまげのかつらを頭に被る。

 

「私はこれだ」

 

 カエサルは月桂樹を頭に被ると、いつもどおりな歴女チーム。

 

 

 

「盛り上がってきたな。よぉし野郎共!次も頑張っていくぞ!!」

 

『おぉ!!』

「・・・・・」ビシッ

 

 と、白く塗装された四式の砲塔上に二階堂が立ち、右腕を上に突き上げて他のメンバーも声を上げながら右腕を上に突き上げる。

 

 

 ピピィー!!!

 

 

「あなたたち!メイクは禁止!仮装も禁止よ!」

 

 と、風紀員の園が笛を吹きながら一年と歴女チームに注意を呼びかける。

 

「いちいちうるさいぜよ」

 

「あぁ全くだ」

 

「これは授業の一環なのよ!!規則は守ってもらうわよ!!」

 

「別にこれくらいいいだろう。パァッと派手に行こうぜ!」

 

「あぁ。自分の人生は、自分で演出するものだ」

 

「何言っているのよ!そもそもあなた達制服で居る姿を全く見ないんだけど!!」

 

 そういえば二階堂率いるメンバーって、あの特攻隊風な服装以外の姿で見たことが無いな。昨日のアルバムには制服姿はあったが・・・・

 

「おうよ!これが俺達にとっては制服みたいなもんだ!」

 

 ドヤァと二階堂は園を見る。

 

「何ドヤ顔で言ってるのよ!大体あなた達髪を染めるのも校則違反よ!」

 

「だぁ!!これは地毛だって何度も言ってんだろ!!」

 

「だったら黒く染めなさいよ!」

 

「断固拒否する!!」

 

 

 

「今度はけっこう、みんな見に来ますよ」

 

「戦車にバレー部員募集って、書いて張っておこうよ!」

 

「いいね!これで部員が集まれば、不完全チームからサヨナラだ!」

 

 二階堂と風紀員が言い争っているのを尻目にバレーボールチームはいつもどおりだった。

 

 

 

「次の試合も頑張っていくネー!My Sisters!!」

 

「はい!お姉さま!」

 

「次も試合に勝ちましょう!悲願の艦部存続の為にも!!」

 

「そして準決勝と言う場を利用し、艦部を大いに宣伝しましょう!」

 

 隣で艦部チームも部活存続に賭けた情熱を語っている。

 

 

 

「次も頑張るずら!」

「頑張るなり!」

「頑張るっちゃ!」

 

 と、ネトゲーチームはなにやら謎のやり取りをしていた。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 頭がボーとするも、如月はそれぞれのチームを見る。

 

(知らないと言うほど、幸せな事はないな)

 

 如月と武部、生徒会と二階堂と中島(恐らく他のメンバーも知っているはず)以外は廃校の件を知らない。

 そして西住の勘当の事も、知らない。

 

 武部は廃校の件で悩んでいるだろうが、如月はそれに加えて西住の事で悩まされている。

 

「・・・・・・」

 

 

 

「――――さん。如月さん!!」

 

「っ!」

 

 左から声を掛けられて、左を向くと早瀬が居た。

 

「早瀬か。どうした?」

 

「あ、いえ。さっきから呼んでいるんですが、全然返事をしないので」

 

「そうか。それは、悪かったな」

 

 ますますいかんな、と小声で呟く。

 

 今日の授業でも何度も先生に呼ばれる事が多かった。

 いや、ここ最近ずっとそればかりだ。

 

「それで、どうした?」

 

「はい。今回の試合会場は雪上と言う事もあるので、五式をネズミチームの四式と同じく白く塗っておきました!」

 

 早瀬が指差す先には、四式と同じく白く塗装された五式があった。

 

「白い五式か」

 

 深緑色の五式から白い五式だと、新鮮だった。

 

「次の試合会場は雪上戦になりますから。

 まぁ気休め程度なんですが、何もないよりマシですからね」

 

「そう、だな」

 

 如月は白い五式を見上げる。

 

「・・・・・・」

 

 しかし視界が少しぶれて、若干見づらかった。

 

 

 

(悩んだところで、何も意味は成さない。勝たなければ・・・・絶対に・・・・何があっても)

 

 固く決意を胸に刻み、気を引き締める。

 

 

 

 

 

 


 
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