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真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第53話

葉月さん

初めての人も、お久しぶりな人もこんにちは、葉月です。

前回の投稿から約半年も経ってしまいました。
すでに、忘れられた存在となっていそうですが……
それでも待っていてくださる人たちがいると信じて投稿します!

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2014-10-19 01:25:19 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:8598   閲覧ユーザー数:6301

 

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第53話

 

 

 

 

【認められない理由】

 

 

 

《焔耶視点》

 

「くそ……私が、あんなやつに負けるなんて……」

 

桃香様たちとの戦の翌日。私は、廊下を歩きながら一人ぶつぶつと呟いていた。

 

事の発端は、昨日あいつとの手合わせだ……

 

………………

 

…………

 

……

 

「ほ、本当に全力で行ってもいいの?」

 

「くどいぞ!私がお前なんかに負ける訳がない。それとも、負けた時の言い訳にでもするつもりか?」

 

「そう言う訳じゃないけど」

 

「ならこれ以上。ぐだぐた言うな!私は認めないぞ。お前みたいな男を!」

 

対峙するあいつに向かい。私は、宣言するように得物をあいつに向け言い放つ。

 

私の勘違いとは言え、根付いてしまった印象をそう簡単に拭い去ることはできず、私は、あいつを、北郷一刀を認められずに居た。

 

「ねえねえ、これって勝負にならないんじゃないの?ご主人様が本気を出したら瞬殺でしょ?」

 

「うむ。私も未だご主人様の本気の手合いは、数合しか耐えられないからな」

 

「あ、愛紗で数合なの!?それじゃ、蒲公英なんて一合も耐えられないんじゃ……恋は、どうなの?」

 

「……負ける。ご主人様、強い」

 

「れ、恋が負けるって……ご主人様ってどれだけ規格外なの?」

 

「外野うるさいぞ!少しは黙っていろ!」

 

関羽、馬岱、呂布が話しているのを私は、止めさせた。

 

「なにさ、落とし穴に落ちて気を失ったお間抜けの癖に生意気!」

 

「う、うるさい!落とし穴を使わないと勝てないようなやつに言われたくはない!」

 

「はいはい。言い訳、ご苦労様。用は、勝てればいいんだもんね♪」

 

「~~~~っ!後で見て居ろよ、馬岱め……」

 

けらけらと笑う馬岱に肩を震わせ我慢する私は、あいつに向き直る。

 

ふん。一瞬で一万もの賊を倒すなんてこと出来る訳がない、今ここで化けの皮を剥いでやる。

 

「そろそろ始めるが良いか、焔耶」

 

「はい。桔梗様、私はいつでも」

 

審判役を受けてくださった桔梗様に向かい頷く。

 

「お館様も、よろしいですかな?」

 

「ああ。俺もいつでも良いよ」

 

先ほどまでと打って変わり、真剣な眼差しを私に向け、視線を逸らす事無く頷くあいつ。

 

「……」

 

「……」

 

「……はじめっ!」

 

「はぁぁああああっ!」

 

幾何かの沈黙の後、桔梗様の合図とともに地面を蹴り、あいつ目掛けて攻撃を仕掛けた。

 

「……」

 

私は、あいつに向かい距離を詰めるがあいつは、動くことも、獲物に手さけ掛けずただ呆然と立ち尽くしていた。

 

ふん。動くこともできないのか。やはり噂は、所詮、噂だったと言う事だ。

 

一歩もその場を動かないあいつに、私は、勝ちを確信した。

 

「でやぁぁあああっ!!」

 

距離を詰め、もう少しであいつに攻撃が当たる、その瞬間だった。

 

「……え?」

 

私の目の前に広がっていたのは、雲一つない、青空と宙に浮いているような浮遊感だった。

 

(どすんっ!)

 

「かはっ!」

 

そして、浮遊感の後に来たのは、背中を走る痛みだった。

 

なんだ……何が起きたんだ?

 

状況が飲み込めず、私は呆然と空を見上げていた。

 

「ご、ごめん。怪我とかしてない?」

 

「……あ、ああ。大丈夫だ」

 

あいつに話しかけられ、私は素直に頷きながら差し出された手を取り、起き上がった。

 

「……」

 

負けた、のか。

 

あまりにもあっけなく終わってしまったからなのか、負けてしまったという実感が沸いて来なかった。

 

「大丈夫か、魏延よ。どう負けたかわかっているか?」

 

「いや。気がついた時には、一面に広がる空と、そのあと背中にくる痛みだけで、一体、何をされたのかすら分からなかった」

 

話しかけてきた関羽に今の気持ちを伝えた。

 

「簡単に言うと、投げられただけだ」

 

「な、投げられただけ、だと!?」

 

関羽の言葉に私は驚きの声をあげた。

 

私は、一合も打ち合わずに投げられたというのか……

 

確かに、あんなやつに負ける訳が無いと慢心していたかもしれない。しかし、だからと言って、油断をしていたわけでもない。

 

「あれがご主人様の強さだ。まあ、あれでも本気ではないであろうがな」

 

「なっ……」

 

苦笑いを浮かべながらあいつを見て話していた関羽は、とんでもないことを口にした。

 

あれで、本気じゃないだって!?

 

打ち合う所か、得物を交える事無く私を投げ飛ばし、しかも本気でやったわけじゃ無いことに驚くしかなかった。

 

「分かったか焔耶よ。実力は、見た目で決めるものではないということに」

 

関羽と話していると、審判役をしていた桔梗様が話しかけてきた。

 

「はい。あれほど、桔梗様から教えていただいていたことなのに、恥ずかしいです」

 

「まあ、これも勉強だと思って、糧にすることだ」

 

「はい」

 

「では、お館様の元へ行くぞ」

 

勘違いだったとは言え、あんな酷い言い方をしてしまったからな、やっぱり謝った方が良い……よな。

 

「お、おい……」

 

「ん?どうかし――」

 

あいつに謝ろうと声を掛けたその時だった。

 

「やっぱり、一刀君は強いね~!私、惚れ直しちゃったよ~♪」

 

「うわっ!?ゆ、優未!?」

 

「……」

 

あいつは、背後から近づいてきた太史慈に抱きつかれ戸惑っていた。

 

「なんで、抱きついて来るんだ!?」

 

「ん~?さっき言ったよね?『後で一杯甘えるからね♪』って♪」

 

「い、言ってたけど、今じゃなくても!」

 

「今じゃないとだ~め!一刀君成分が無くなっちゃったから補充するの♪」

 

「おい、優未!何を抱きついているんだ!ご主人様から離れるのだ!ご主人様も早く離れてください!」

 

訳の分からない事を言ってあいつから離れようとしない太史慈に関羽が抗議してきた。

 

「ふふ~ん。うらやましいからって一刀君を責めるのは違うんじゃないかな~?愛紗だって本当はこういうことしたいんじゃないの?」

 

「んな!?そんな恥ずかしい事、あるわけがないだろ!」

 

「鈴々はしたいのだーーーっ!」

 

「ちょ、そんな勢いで来たら……ぐふっ!?」

 

あいつの止める言葉を聞かず、張飛は、あいつの腹に体当たりするように抱き着いた。

 

「お、おい――」

 

「よ~し!雪華、蒲公英たちも行くよ!」

 

再度、話しかけようとしたが、今度は馬岱に邪魔された。

 

「ふぇ!?あ、あの、蒲公英さ、ひゃ~っ!?」

 

戸惑う姜維の手を無理やり取り、馬岱はあいつの元へと走って行った。

 

「お、おい、蒲公英!ご主人様が困ってるだろ!」

 

「え~、そんなことないよ。ね、ご主人様?」

 

馬超が馬岱を注意しているが、それを無視するかのようにあいつに同意を求めていた。

 

「も、もしかして、お嫌でしたかな?」

 

「うぐ……そ、そんなことないぞ」

 

「ふぇ……えへへ♪」

 

上目使いで不安そうに見上げる姜維にあいつは頭を撫でてやると恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにしていた。

 

「ご主人様はああいってるけど?」

 

「う……か、母様も何か言ってやってくれよ!」

 

(わたくし)は良いのではないかと思いますよ。むしろ、羨ましいですわ」

 

「か、母様まで!?」

 

馬超は、母である、馬騰に同意を求めようとしていたが、当の本人は、羨ましそうにあいつに抱き着く奴らを見ていた。

 

「……お」

 

「ずる~い!私もご主人様に抱き着く~」

 

「うぇ!?と、桃香!む、無理無理!もう抱き着く場所なんて!」

 

背中には太史慈。腹には、張飛。そして、両腕には、馬岱と姜維が抱き着いており、劉備様の抱き着く隙間はないように見えた。

 

「うぅ~……っ!いいな~」

 

「桃香様、はしたないですよ」

 

「でもでも、愛紗ちゃんも羨ましいと思ってるんでしょ?」

 

「そ、それは……ええ、まあ」

 

躊躇しながらも、頬を染め、劉備様に同意する関羽。

 

「……」

 

一体どうなっているんだ。この連中は……

 

この状況についていけず、ただ呆然と成り行きを見守っていた。

 

「うぅ~!」

 

「……あ、あの桃香様。よかったら替わりますか?」

 

「えっ!い、いいの?」

 

「はい。私は、もう十分ですから……蒲公英さんも、愛紗さんに替わってあげよう?」

 

「え~……まあ、雪華がそう言うなら……」

 

羨ましそうに見ていた劉備様を見て姜維は、抱き着いていた腕から離れ、劉備様に譲っていた。

 

馬岱も姜維に言われ、渋々腕から離れていた。

 

「ぬっふっふ~……そ・れ・な・ら……私が雪華ちゃんに抱き着いてあげる~~~~♪」

 

「ふ、ふぇぇえええ!?な、なんで、そうなるんですか!?」

 

「それはもちろん、私が雪華ちゃん成分も補充するためだよ~~~ん♪」

 

太史慈はいつの間にかあいつの背後から姜維の背後にまわり、抱き着いていた。

 

だが、そんなことは問題ではなかった……

 

「えへへ~♪」

 

「~~~っ!」

 

視線をあいつに戻すと、先ほどまで姜維と馬岱が抱き着いていたあいつの腕には関羽とあろうことか、劉備様が抱き着いていた。

 

「……」

 

「えへへ~♪ご主人様~♪」

 

「にゃはは~♪」

 

「うぅ~、は、恥ずかしい……」

 

「……」

 

私はその光景を見ているうちに、、なぜだか腹立たしくなってきていた。

 

「……っ!」

 

(つかつかつか)

 

「おい。お前……」

 

「え?あ、なにかな、魏延」

 

「……んぞ」

 

「え?今なんて?」

 

私の言葉が聞き取れなかったのか、あいつは、聞き返してきた。

 

危険を察知したのか、いつの間にか両腕に抱き着いていた関羽、劉備様。そして、張飛は、あいつから離れていた。

 

「……っ!私は、お前のような女たらしの男を認めるものかーーーーーっ!」

 

「えっ!?あ、ちょっ!」

 

(どすっ!)

 

私は、思いの丈を拳に乗せ、あいつの腹に一発お見舞いしてやった。

 

「ぐはっ!……な、なんで……」

 

(ばたっ!)

 

「「「ご、ご主人様!?」」」

 

「はぁ、はぁ……ふん!」

 

さっきの手合せと違い。あいつは、私の攻撃を避ける事ができず、腹に受けて、その場に倒れた。

 

「あらあら……」

 

「やれやれ……お館様も、罪作りなお人だのう」

 

踵を返して、桔梗様の元へ戻ると、紫苑殿と二人して苦笑いを浮かべていた。

 

………………

 

…………

 

……

 

「……しかし、あいつの実力は私よりも遥かに上だ。それは、認めざるを得ない事実……だが、なんであいつなんだーーーーーっ!」

 

私はまだあいつを、北郷一刀を認めていない。いや、あんなやつを認めるわけにはいかない。

 

「桃香様と言う、素晴らしい女性がいるにも係わらず、その他の女性に色目を使うあんなやつを認めるわけにはいかない!」

 

聞けば、愛紗を含め、ほぼ全員があいつに惚れている状態らしい。

 

「まったく……桃香様も、桃香様だ。なぜ、あのような男を主と慕うのか……」

 

私には、あいつの何処が良いのかまったくわからない。

 

いつもヘラヘラと笑い、実力があるのに部下の攻撃をまともに受け、かつ、攻撃をした者に何のお咎めも無しだ。

 

「あいつは、上に立つには相応しくない」

 

そうとも、やはり、上に立つ者は、桃香様のようなお方でなければ。

 

「ん?あそこに居るのは、桔梗様と愛紗か?何をしているんだ?」

 

廊下を歩いていると、庭で桔梗様と愛紗が卓を囲み話し合っているのを発見した。

 

「桔梗様、何をしているのですか?」

 

「ん?おお、焔耶か。いやなに、先の戦いで見た愛紗の技がどうしても気になってな、こうして聞こうとしていたところだ」

 

「だから何度も言っているではないか。あれは、技ではないと」

 

「だったら、もったいぶらずとも良いではないか」

 

「……いや、これを言うのは……え、焔耶からも何とか言ってくれ」

 

「桔梗様の攻撃を打ち破った技は、私も気になっていたところだ」

 

「え、焔耶までもか」

 

「これは心強い援軍が来たの。ほれほれ、そろそろ観念したらどうだ、愛紗よ」

 

「うぅ……」

 

味方を得た桔梗様は、愛紗に詰め寄る。

 

「……はぁ。分かった、話すから離れてくれ」

 

「やっと話す気になったか。よし、では……(どんっ)っと、準備は良いぞ。はじめてくれ」

 

「……桔梗様。昼間からまた呑むのですか?」

 

桔梗様は、どこに隠していたのか。酒瓶を取り出し卓の上に置いた。

 

「まあ、固いことを言うな。折角、面白い話が聞けるのだ、肴にするにはもってこいではないか……んっんっ……ぷはぁ」

 

にやりと笑い酒瓶を手にお酒を呑む桔梗様。

 

「……はぁ……後悔しても私は知らないからな」

 

愛紗は、ため息を吐き忠告をすると話し始めた。

 

<愛紗視点>

 

「まったく……一体、どこへ行ってしまわれたのだ。まだ政務は残っていると言うのに」

 

文句を言いながら廊下を歩く。もちろん、文句の相手は他ならぬご主人様だ。

 

「ん?あそこに居るのは……雪華!」

 

「ふえ?あ、愛紗さん、どうかしましたか?」

 

丁度、先の廊下の角から姿を現した雪華に声を掛けると、パタパタと小走りで近づいてきた。

 

うむ、やっぱり、雪華は、可愛らしいな、小動物のようで癒される……ではない!目的を忘れるところだった。

 

危うく、和んでしまいそうになってしまった。

 

「ああ、実はな、ご主人様を探しているのだが、見かけなかっただろうか」

 

「ご、ご主人様ですか?……え、えっと……どうかなさったのですか?」

 

ご主人様の事を聞くと、なぜか雪華は、おどおどと少し落ち着きが無くなった。

 

「実はな、政務をサボり、また執務室から居なくなってしまったのだ」

 

「そ、そうですか……ふぇぇ」

 

……これは、ご主人様の居場所を知っているな。

 

雪華の態度を見て、私は、そう確信した。

 

「知っているな、雪華。ご主人様の場所を」

 

「えっと、その……はい」

 

隠し切れないと思ったのか、小声ながら頷いてくれた。

 

「大丈夫だ。ご主人様にはお前から聞いたとは言わないでおく」

 

「……わ、わかりました。実はですね――」

 

躊躇しながらも雪華は、ご主人様の居場所を教えてくれた。

 

こうして、私は、ご主人様の居場所を聞き、逃げ出したご主人様の下へと向かった。

 

………………

 

…………

 

……

 

「よし!来い!」

 

「絶対に空振りにして見せるんだからな!」

 

「御遣い様、がんばれー!」

 

「御遣い様に尻もちつかせてやれー!」

 

「なにお!?よし!絶対に打ってやるぞ!」

 

雪華から聞いた場所に向かうと、子供たちの声に交じり、ご主人様の声が聞こえてきた。

 

「……何をしておいでなのですか、ご主人様」

 

「え?……っ!」

 

声を掛けると、ご主人様は、顔を上げて、私と目が合うと驚き、動きを止めた。

 

「えい!」

 

ご主人様が動きを止めたと同時に、ご主人様と対峙していた子供はご主人様に向け、何か丸い物を投げた。

 

(バシンッ!)

 

「ああっ!?しまった!」

 

ご主人様は私に気を取られ、子供の投げた丸い物、球はご主人様の後ろで座っていた子供の手の中に納まった。

 

「やったー!御遣い様から空振り三振とったぞーー!俺たちの勝ちだーーーっ!」

 

「御遣い様に勝ったーーーっ!」

 

「勝ったーーーっ!」

 

子供の手の中に納まった球を見て、周りに居た子供たちが喜びだした。

 

「い、今のはなしだ!も、もう一回!」

 

「「えーっ!なんで!?」」

 

ご主人様の言葉に子供たちが非難の声を上げた。

 

「だ、だって、今のは、話しかけられたから……」

 

「何事にも集中しないとダメだって言ったのは御遣い様だよ」

 

「う゛……しかし」

 

「男に二言はないんでしょ。御遣い様?」

 

「う゛ぅ~~~……はぁ、わかった。集中力を切らした俺がいけないんだから、今日は、俺の負けだ!」

 

「「わーーーーいっ!!」」

 

諦めるご主人様と喜びまわる子供たち。

 

「も、もしかして、何か勝負の最中でしたか?」

 

「ん?いや、いいんだよ。どうせ、遊びの勝負だからね」

 

いや、遊びでも、勝負は勝負だと思うのだが……

 

「御遣い様~~っ!」

 

「様~~~っ!」

 

「約束、覚えてるよね?」

 

「約束~~」

 

「ああ、わかってるよ」

 

子供たちは、ご主人様の服の袖を引っ張りながら、何かを期待しているようだった。

 

「約束とはなんですか、ご主人様?」

 

「ああ、俺が負けたら、みんなに、団子を奢るって約束したんだよ」

 

「なっ……あ、あなたという人は……」

 

私は、呆れてしまい額に手を当てて首を振った。

 

「まったく……政務を放り出し、どこへ行ったのかと探しに来てみれば、子供たちに交じって遊び、さらに賭け事をしているなど……少しは、我らの主としての自覚をですね」

 

「ま、まあまあ、子供たちも喜んでるんだし、良いじゃないか」

 

「それは、そうですが……はぁ、わかりました。私も半分出します」

 

喜ぶ子供たちを見て、これ以上何も言えなくなった私は、ご主人様に提案をした。

 

「えっ、いいのか?」

 

「ご主人様が負けたのは私のせいでもありますし」

 

「ありがとう、愛紗」

 

「い、いえ。これくらい……ですが!子供たちに団子を買ってあげたあとはちゃんと仕事に戻っていただきますよ!」

 

「う゛……わ、わかったよ」

 

ご主人様の笑顔のお礼に一瞬忘れそうにってしまったが、なんとか気を引き締め直して、釘を刺した。

 

「ところで、先ほどの遊びはなんだったのですか?」

 

「ん?野球のことか?」

 

「や、きゅう?」

 

聞きなれない言葉に首を傾げる。

 

「まあ、簡単に言うとボール……球を投げてこの木の棒。バットって言うんだけど、これで打ち返して、点の取り合いをするんだ。本当はもっと大勢でやるんだけどね」

 

「なるほど……相手の攻撃避けるのではなく打ち返す……子供のうちから訓練をしているのですね。流石は、ご主人様」

 

「い、いや。愛紗?これは、遊びだからね?」

 

「ええ。分かっています。遊びを通じて鍛錬しているのですよね」

 

「いや……ま、まあいいか」

 

「?」

 

なぜか苦笑いを浮かべるご主人様。

 

私は何か可笑しなことを言っただろうか?

 

「そうだ。愛紗もやってみないか?」

 

「え?わ、私ですか?」

 

「ああ。どうだ?」

 

「そうですね……では、少しだけ」

 

ご主人様に誘われ、私も野球というものに挑戦してみることにした。

 

「……こ、こうですか?」

 

ご主人様に教えてもらった通りに木の棒を構える。

 

「そうそう。様になってるぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ご主人様に誉められ少し照れくさくなってしまった。

 

「よし。それじゃ、投げるから球を打ち返してくれ」

 

「わ、わかりました」

 

「お姉ちゃん、がんばれー!」

 

「ばれ~!」

 

「う、うむ!」

 

子供たちの声援を受け、私は、ご主人様を見据えた……

 

こんな遊び、私には造作もないこと……

 

「いくぞ~……そりゃ!」

 

「っ!……ええい!」

 

(ぶんっ!)

 

ご主人様の投げた球を私は、木の棒で力いっぱい振り当てた……はずだった。

 

(ばしんっ!)

 

「……あ、あれ?」

 

木の棒に当たった感覚はなく、代わりに違う音が聞こえてきた。

 

「……愛紗、思いっきり空振りだよ」

 

「え、ええ!?そ、そんなはずは!」

 

しかし、実際に球を当ててない以上、それが現実。

 

「お姉ちゃん、へたー」

 

「へた~」

 

「うぐっ!」

 

子供たちに下手と言われ、何も言えなくなってしまった。

 

「ご、ご主人様!も、もう一球。もう一球お願いします!」

 

「わかった。それじゃ、行くぞ!」

 

「はい!」

 

「……」

 

「え、えっと……どんまい」

 

「慰めは不要です……」

 

あれから何度となくご主人様に『もう一球』とお願いしたが一度も当てる所かかすることもなかった。

 

「……お姉ちゃん。本当に武将様なの?」

 

「なの?」

 

(ぐさっ)

 

「はぅ!」

 

子供の一言に私は膝をついてしまった。

 

こ、この一言はきつい……きつすぎる……

 

「愛紗。何を思って振ってる?」

 

「え?そ、そうですね……当てなければ、っと。子供たちに恥ずかしいところは見せられないと」

 

「なるほど……それじゃ、今度は、違うことを思って振ってみたらどうかな?」

 

「違うこと、ですか?例えば、どのようなことでしょうか?」

 

「そうだなぁ……誰かに自分の想いを届ける、とかどうかな?」

 

「自分の想いを、届ける……」

 

私の思いを届けるなんてたった一人しかいないではないか……ご主人様はわかっていて言っているのですか?

 

「どうかな?」

 

わ、わかっていないだろうな……鈍感ですからね、ご主人様は……

 

「……そうですね。それでやってみます」

 

ご主人様の提案に微笑みながら頷く。

 

(くい、くい)

 

「御遣い様~」

 

子供の一人が、ご主人様の服を引っ張り呼んでいた。

 

「ん?どうかしたのかな?」

 

「お団子まだ~?」

 

「まだ~?」

 

「ああ、ごめんな。もう少しだけ待っててね。これが終わったら直ぐに行くから」

 

「「は~い!」」

 

痺れを切らし始めた子供たちを宥めるご主人様。流石というべきか……

 

しかし、それが、女の子だということに、やはり、ご主人様は、垂らしなのだなと実感せざるを得なかった。

 

「よし!それじゃ、行くぞ!」

 

「はい!いつもでどうぞ!」

 

再度、ご主人様に対峙するように立つ。

 

「……そりゃ!」

 

誰かに自分の想いを……ご主人様に自分の想いをこの一振りに!

 

「……でりゃぁぁああああっ!」

 

(かーんっ!)

 

「「おおおおっ!」」

 

当たった……

 

「ぐはっ!」

 

「え?」

 

子供たちの喜びの声とは別に、どこからかくぐもった声が聞こえてきた。

 

「な、ナイスだ、あ、愛紗……げふ」

 

「ご、ご主人様!?ど、どうなさいましたか!?」

 

なぜか、膝をつき、お腹を押さえるご主人様がいた。

 

「すっげー!お姉ちゃんが、御遣い様を倒した!」

 

「かっこいーっ!」

 

「え?え?ど、どういうことだ?」

 

「どういうことって、お姉ちゃんが御遣い様の投げた球をそのまま御遣い様に打ち返したんだよ」

 

「な、なんだって!?ご、ご主人様!平気ですか!?ご主人様!」

 

「も、もう、俺はだめだ……愛紗……後のことは頼んだぞ……がく」

 

「ご主人様ーーーーーーーーっ!!」

 

<焔耶視点>

 

「と、まあ。こんな次第だ」

 

「な、なんということだ。ワシは子供の遊びで負けたというのか……」

 

愛紗の話を聞き、桔梗様は衝撃を受けておられた。

 

「だから言ったではないか。後悔しても知らんぞ、と」

 

た、確かに子供の遊びで負けたとあっては自分も立ち直れないだろう。

 

「し、しかしじゃ!あれだけ、空振りをしていたのにお館様を想っただけでなぜ当たるのじゃ」

 

「それは私にもわからん。それと、この話には続きがある」

 

「続き、だと?」

 

「ああ……たぶんこれを言うとまた桔梗は落ち込むと思うが……」

 

「ふ、ふははは。これ以上落ち込むことがあってたまるか……良いだろう。聞いてみようではないか」

 

「き、桔梗様。お止めになったほうが」

 

「何を言う。ワシがそう簡単にへこむわけがないではないか」

 

いや、先ほど思い切りへこんでいたではないですか。

 

「何か言いたそうだな。焔耶よ」

 

「い、いえ。なんでもありません」

 

「……そういうことにしておいてやろう。さあ、愛紗よ。ワシをへこませてみろ!」

 

桔梗様は、じっと私を見た後、愛紗に向き直り胸を張り言い放っていた。

 

「分かった。では、話すが……あの後、何度かご主人様と野球をやったのだ」

 

「ほう。それでどうだったのじゃ?」

 

「ああ。全部打ち返した……打ち返したのだが……」

 

「なんだ。歯切れが悪いではないか。打ち返せたのであれば良いことではないか」

 

「そこだけを聞けばな」

 

「?どういうことだ?」

 

愛紗の言葉に桔梗様は聞き返していた。

 

「打ち返した球、全てがご主人様に向かってしまうのだ」

 

「「……は?」」

 

思わず、桔梗様と声がそろってしまった。

 

「だ、だから、球が全部ご主人様の元へ向かってしまうのだ」

 

「ち、ちょっと待て!愛紗の愛はようわかった」

 

「あ、愛!?な、何を言い出すのだ桔梗!」

 

桔梗様の言葉に戸惑う愛紗。

 

「全てお館様の元へ向かうなど、愛のほかに何があるというのだ」

 

「い、いや、しかしだな……」

 

「そんなことよりもじゃ!全てお館様の元へ向かってしまう欠点がありながら、なぜあの場で使ったのじゃ」

 

「……言わなければだめか?」

 

「ここまで来て何を言っているのだ。さっさと言わぬか」

 

ここに来て、躊躇する愛紗に桔梗様は先を促した。

 

「はぁ……わかった」

 

「初めから素直に言っておれば良いのだ」

 

ため息を吐き、諦める愛紗に桔梗様はやれやれといった風に肩をすくめた。

 

「……桔梗の後方、そこにご主人様の本陣があったのだ」

 

「……な、なに?今なんと言った?」

 

愛紗の言葉に聞き返す桔梗様。

 

いや、私も正直、聞き返そうとしてしまったんだが。

 

「だ、だから、桔梗の後方にご主人様が率いる部隊が待機していたといっているのだ」

 

(ごとっ)

 

「ば、ばかな……あの対峙はそんな単純な理由で行われていただけだ、と……」

 

酒瓶が手から落ち地面に膝をつく桔梗様。

 

「だ、だから言いたくなかったのだ。こうなることが分かっていたから」

 

「え、えっと……き、桔梗様?大丈夫ですか?」

 

「……ぞ」

 

「え?何と言ったのですか、桔梗様?」

 

嫌な予感しかしなかったが、ここで聞かないと後でさらに恐ろしいことが起こりそうな気がし、恐る恐る聞いてみた。

 

「今から、調練するぞ、焔耶ぁあああっ!」

 

「は、はぃい!?」

 

いや、今まさに恐ろしいことが起きた。

 

「い、いや、私はこれから用事が……」

 

「……鍛錬以外に大事な用事があるじゃと?」

 

やばい、やばい、やばい、やばい!

 

こうなった時の桔梗様の鍛錬は尋常じゃない。何度死に掛けたことか!な、なんとかここ逃げなければ……そ、そうだ、愛紗は?

 

「わ、私は、桃香様と今後のことについて話さなければいけなかったのだ。そ、それではな!」

 

愛紗はいつの間にか離れたところから大きな声でこちらに話しかけ、逃げるようにして行ってしまった。

 

に、逃げた……桔梗様の殺気をいち早く察して愛紗はこの場から逃げてしまった。

 

「え~~ん~~~や~~~~~っ!!」

 

「ひっ!き、桔梗様!そ、その……ごめんなさーーーーーーーーいっ!」

 

「待てぇえええっ!」

 

「ひぃいいいいっ!」

 

私は、脱兎のごとく桔梗様から逃げ出した。

 

「これも……これも、あいつのせいだ……全部あいつがいけないんだ!覚えていろよ、北郷一刀ーーーーーーっ!」

 

今、ここには居ない、憎き男の名を叫びながら私は全力で走った。

 

「どこに行ったえ~~ん~~~やぁ~~~~~~っ!」

 

「はぁ、はぁ……」

 

物陰に隠れ桔梗様をやり過ごす。

 

「……そこか?」

 

(びくっ!)

 

桔梗様は、私が隠れている草陰目掛け歩いてきた。

 

も、もうだめだ!桃香様、先立つ不孝をお許しください……

 

「あれ?桔梗じゃないか。こんな所でどうしたんだ?」

 

諦めたその時だった。思いもよらぬ人物の声が聞こえてきた。

 

「お、お館様……お館様こそ、こんな所で何をしておいでですかな?確か今は、桃香様と政のはずでは」

 

突然現れた北郷一刀に桔梗様は戸惑っておられた。

 

「え?いや~、ちょっと、煮詰まっちゃったから、気分転換に庭を散歩してたんだよ」

 

桔梗様の疑問に苦笑いを浮かべて答える北郷一刀。

 

あれは嘘だな……まったく、桃香様に迷惑を掛けるなど言語道断だ!やはり、あいつは上に立つ人物として相応しくない!

 

「それで、桔梗は、なんでこんなところに?」

 

「そ、それは、その……そ、そうだ!お館様。焔耶を見ませんでしたかな?」

 

「焔耶?」

 

「あやつ、私の鍛錬から逃げ出しての、探しておったところだったのだ」

 

「ああ、だからあの殺気……ごほんごほんっ!いや、俺は見てないけど……」

 

「……っ!」

 

あいつは、桔梗様に見ていないと告げると、なぜかちらりとこちらに目線を向けた。

 

私がここに隠れていることがばれている?いや、そんなはずはない……あんな男が私の隠れている場所がわかるはずが……

 

「そうですか……あいつめ……どこに行きよったんじゃ」

 

「ここら辺にはいないと思うよ」

 

「ふむ……お館様の探知能力は大陸一と愛紗が言っておったからのそれは確かなのでしょうな」

 

「た、大陸一って……誉めても何も出ないぞ?」

 

「はっはっは!謙遜なさるな。紫苑からも聞いておるからの、囚われた璃々を助ける為に大活躍だったとな」

 

「あは、あははは……」

 

桔梗様に、何度も背中を叩かれ、あいつは苦笑いを浮かべていた。

 

「ここには焔耶もおらんことが分かったことだし、さて、どうしたものか……(にやり)」

 

桔梗様は、悩む素振りを見せた後、あいつを見て何か思いついたのか悪い笑顔を浮かべていた。

 

「っ!そ、それじゃ、俺は、政務に戻らないと!じゃ、じゃあな、ききょっう!?」

 

「待て待て、お館様よ。まだワシの話は済んでおりませんぞ」

 

「いや、仕事が……」

 

「なに、ちょーーーーっと、憂さ晴らし、おっと、気分転換に付き合ってもらうだけですぞ。さあ、行くとしましょうか、お館様」

 

「ちょ!い、今、憂さ晴らしって言ったよね!聞き間違いじゃないよね!」

 

「聞き間違えですな。さあ、行きますぞ、朝まで呑み明かしましょうぞ!」

 

「ま、待て!気分転換でなんで明日の朝まで付き合わないといけないんだ!?」

 

「男がぐちぐちと……お館様。男なら女の願い事の一つや二つ、笑顔で引き受けられよ」

 

「いやいやいや!?限度ってものがあるよね!?」

 

「さー、酒がワシらを待っておりますぞ!」

 

「ちょ!襟引っ張らないで!く、苦しい!自分で歩く、歩くから!」

 

「はっはっはっ!そう言って逃げるおつもりなのでしょう?そうは行きませんぬぞ、お館様」

 

桔梗様に引っ張られ連れて行かれる北郷一刀。

 

「……あいつ、やっぱり、私を庇ってくれたのか?」

 

桔梗様に連れて行かれる瞬間、あいつは、またこちらを見て、笑顔を見せていた。

 

「……ふ、ふん!気のせいに決まっている!気のせいだとも!」

 

私は、勢い良く立ち上がり、自分に言い聞かせるように何度も繰り返しながら、この場を離れた。

 

ま、まあ、桔梗様から助けてくれたことには、か、感謝はしてやるがな!

 

「さて……これからどうするか……っ!?」

 

無事に桔梗様から逃げおおせた私は、これからどうするかを考えながら歩いていた。

 

(どしーーーんっ!!)

 

「痛っー……な、なんだ?何が起こったんだ?」

 

考え事をして歩いていると、突然足元が無くなり落ちてしまった。

 

『なんだかんだの声を聴き』

 

『光の速さでやってきた』

 

『風よ!』

 

『海よ!』

 

『お、大空よ』

 

『大陸に届けよ愛の唄』

 

『ご主人様に伝えよ自分の気持ち!』

 

『天女かお化けかその名を呼べば!』

 

『誰もが震える可愛い響き!』

 

『蒲公英!』

 

『優未!』

 

『しぇ、雪華でにゃ、にゃーす』

 

『時代の主役はあたしたち!』

 

『我ら無敵の……』

 

『北郷軍!』

 

『な、なのです!』

 

「……」

 

「ん~!今回の口上も良い感じだね!」

 

「そうだね。でも、もう少し台詞を変えた方がもっと良くなるような気がするな」

 

「あ、やっぱり?蒲公英もそう思ってたんだね。雪華はどう思う?」

 

「ふぇ!?あ、あの、私は恥ずかしいので、あまりやりたくないのですが」

 

「何言ってるの!雪華ちゃん。すごく可愛いよ!ね!蒲公英!」

 

「そうだよー。可愛いよ雪華。ね、ね!もう一回、にゃ~って言って!」

 

「に、にゃ~?」

 

「いや~~ん♪それ反則だよ雪華ちゃん!もう私を悶え殺す気でしょ!」

 

「ふぇ~」

 

「……おい。お前たち……」

 

私を無視して勝手に盛り上がる二人を睨みつけながら声をかける。

 

「あれ?なんだ、落とし穴に落ちたの、また焔耶なんだ。そんなに穴が好きなの?」

 

「なわけあるかーー!いいからここからだせ!」

 

「えー、自力で上がってきなよ。自分で穴に入ったんだからさ」

 

「入ったんじゃない。落ちたんだ!お前たちが掘った落とし穴にな!」

 

「えー。蒲公英たちが掘ったって証拠。どこにもないのに決めつけるのは良くないよね?」

 

蒲公英の小馬鹿にするような、言葉に怒鳴りながら反論するが、白々しくとぼける蒲公英。

 

「す、すみません。直ぐに縄を下しますね」

 

雪華は、慌てながらも用意していたのか、縄を穴に落として私を助けてくれた。

 

なんで雪華はこんな奴らと一緒にいつもいるんだ?おどおどとしているが、この二人より、遥かにまともで素直な良い娘なのに。

 

「あー、今。私と蒲公英のこと馬鹿にしたでしょ?」

 

「ああ、したとも。それに、雪華が可哀想だとも思ったぞ。こんな奴らに無理やり連れ回されているのだからな」

 

「あーっと……それちょっと、かちんって来ちゃったかな?それに無理強いなんてしてないんだけどなぁ~」

 

笑顔で答える優未だったが、それは上辺だけだと言うのはすぐに分かった。

 

「そうだよ。それに、雪華は、嫌なら嫌ってはっきり言える子なんだから」

 

「ふん。どうだかな」

 

「ほんと、むかつく子だな。なんで一刀君はこんなやつ仲間もしたんだろう。弱いくせに」

 

「なんだと!誰が弱いだって!」

 

「ふぇ……あ、あの喧嘩はダメですよ。仲間どうしなんですから」

 

「だから焔耶、あんたのことだって。ほかに誰がいるのよ?」

 

仲裁を試みる雪華だったがそれを遮るように優未が挑発的なことを私に言ってきた。

 

「なんだと!?」

 

「だって、あんな大見得きったくせに一刀君に一太刀も浴びせることなく負けておいて何言ってんのさ」

 

「うぐっ!」

 

痛いところを突かれてしまい、思わず後ずさってしまった。

 

「あ、あれは油断していただけだ!最初から本気を出していれば!」

 

「はぁ……だから負けたんでしょ」

 

「なっ!」

 

呆れたため息とともに両掌を上にあげ、投げやりな言葉が返ってきた。

 

「あ、あの優未さん、少し、言い過ぎでは……」

 

「雪華ちゃん。こう言うのはね、はっきり言わないと本人の為にならなんだよ」

 

「そうだよ、雪華。優未の言う通りだよ」

 

「で、ですが……」

 

仲裁しようとする雪華だったが、優未も蒲公英も聞き入れるつもりはないらしい、まあ、私もあそこまで言われて黙って引き下がるつもりはない。

 

「良いだろう。なら、私の本気を見せてやる!」

 

「面倒だからいや」

 

「な、なんだと!?」

 

あれだけ人を挑発しておいて、優未は手をひらひらと振りめんどくさそうに断ってきた。

 

「ああ、でも、一つだけ忠告しておくよ。一番強いのはもちろん一刀君だけど。一刀君は、絶対に私たちには本気を出してはくれないよ。まあ、理由はよくわからないけどね」

 

「……それのどこが忠告だ」

 

おどけて答える優未に私は少し不機嫌そうに答えた。

 

「まあ、慌てない慌てない。今のは、前置き、忠告はこれからだから……っ!」

 

「っ!?」

 

体の言うことが聞かない!?わ、私が恐れているだと……

 

優未が一睨みした瞬間、その場から動くことができなくなった。

 

「私、あんたが一刀君の仲間になるときに一刀君を馬鹿にしたこと、まだ許したわけじゃないからね……もし、これ以上、一刀君のことを馬鹿にするようなら……殺すぞ」

 

本気の殺意。

 

今まで戦場で何度となく殺意をこの身に受けてきたが、それらが赤子の産声ではないかと思うほど、今まで感じたことのない殺気を優未は私にぶつけてきた。

 

「……(ごくん)」

 

殺される……私の脳裏を横切ったのはそんな言葉だった。

 

「……さて!それじゃ、私たちはもう一度口上の練習でもしようか!ほらほら、行くよ、蒲公英、雪華ちゃん♪」

 

「え?あ、う、うん……ああ、ま、待ってよ、優未!」

 

「ふえ!ま、待ってください!あ、あの、それでは失礼しますね。焔耶さん!」

 

さっきまでの殺気が無かったかのように優未はぽんっと手を叩き、笑顔で蒲公英と優未を連れて行ってしまった。

 

「……はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

 

私は、膝をつき、無意識に止めていた息を吸い込んだ。

 

「な、なんてやつだ。あの殺気……一体どれだけの修羅場をくぐってきたというんだ」

 

あれほどの殺気。生半可なことでは身につくものではない。

 

そして、私では優未に指一本触れることすらできないほどの力の差があると思い知らされた。

 

「ふむ……中々の殺気だったのう。優未が本気を出したら、ワシでも勝てないであろうな」

 

「き、桔梗様!?いつからそこに居られたのですか!」

 

突然私の横から桔梗様の声が聞こえ、驚き飛び退いた。

 

「ん?お前が落とし穴から出てくるところからずっと見ておったぞ」

 

「さ、最初の方からずっとじゃないですか!と、言いますか。桔梗様、あの男を連れてお酒を呑むのではなかったのですか!?」

 

「はっはっは!やはり、あそこに居たのだな焔耶よ」

 

「し、しまったーーーーっ!」

 

墓穴を追ってしまい、叫びながら頭を抱えた。

 

「安心せい。もう無理やり鍛錬という名のいびりはせん。お館様に言われてしまったからの」

 

「……あの男から何を言われたのですか?」

 

いびりという言葉よりもその考えを改めた理由の方が私には気になった。

 

「ん?気になるか?では教えてやろう。お館様は、こう言いよったのだ『事情は良く分からないけど、焔耶は大事な仲間なんだ。だから、あまり無茶なことはさせないでくれよ?もちろん、桔梗も無理だけはしないでね』っと言われてしまった。お館様にそう言われれば従わぬわけにはいくまい。どうじゃ」

 

「この乱世で甘い考えとしか言いようがありません」

 

「かもしれん。だが逆にそれだけわしらを信用してくれているとは思わないか?」

 

「た、確かにそうですが……」

 

「それにお館様の周りには、お館様の事を好いておる手強い猛者がたくさんいることだしのう」

 

「それは先ほどの優未でよくわかりました」

 

優未だけではない。桃香様を筆頭に愛紗に雪華、それに小憎らしい蒲公英もあいつを、北郷一刀のことを好いている。

 

「……それが、この軍の北郷軍の強さなのだろうさ」

 

「桔梗様?」

 

「上に立つ者には必要なものがある。それが何か分かるか?」

 

「もちろん桔梗様のような力を持った者ですよね」

 

当然のように私は答えた。だが、桔梗様は少し苦笑いを浮かべ、話し始めた。

 

「うむ。確かにそれも主としての在り方の一つだ。だが、焔耶よ。ただ力があるだけの者に不利な状況下の中、『死ににいけ』と言われれば死ににいくか?」

 

「そ、それは……」

 

桔梗様の問いに私はすぐに返答ができなかった。

 

「うむ。それが答えだ焔耶よ。力だけでは、将はおろか、兵ですら主の言うことを聞かんであろうな。まあ、力に溺れる輩は、その力を振るい恐怖で言うことを聞かせようとするだろう。だが、そんな陣営は長くは持たん。暗殺、はたまた裏切りにあいそれまでじゃ」

 

「では、桔梗様は、上に立つ者には何が必要だとお思いなのですか?」

 

「まあ、色々とあるが……そうじゃな。いくつか教えてやろう」

 

「お願いします」

 

「ああ、まずはその者は、絶大な力を持っておる。だが、その力は武力だけではない。知力、武力両方を兼ね揃えた力を持ち、さらには、その知識から先を見通す力すら持つ者だ」

 

「そ、そんな完璧な人が居るというのですか!?」

 

「ああ、この乱世に一人だけ、だがな」

 

「それは誰なのですか?」

 

「お前も聞いたことくらいあるであろう。『曹孟徳』という名くらいは」

 

「は、はい。確か、今は洛陽に拠点を固めているという人物ですよね。確か、魏と名乗っていましたよね」

 

「そうじゃ、今一番の力を持っている陣営でもある。兵の練度、忠誠度共に高い。戦うと一番厄介なところじゃな」

 

曹孟徳、か……文武両道で良い政策をしていると、間諜からの報告で上がってきているが……一体どんな人物なのだろうな。

 

「まったく、どうしてくれるのかしら?」

 

「も、申し訳ありません、華琳様。どうかお許しを」

 

「いいえ、許さないわ。……ふふ。そうね、これはお仕置きが必要かしらね?」

 

「っ!ど、どうぞ。お仕置きしてください!いいえ、どうか、お仕置きしてください!ダメは私を!どうか!」

 

「ふふふ、可愛いわね桂花。いいわ、たっぷりとお仕置きしてあげる」

 

「あぁあ~、華琳さまぁ~~~!」

 

「さて、次は。その者は、何より血を大事にする者たちじゃ」

 

「血、ですか。戦闘狂の集団ということですか?」

 

「……違うわ馬鹿もんが。血というのは、血縁。つまり、家族と言うことじゃ」

 

「家族、ですか」

 

「うむ。前王、孫堅の後を継ぎ、孫策が今は呉の王なのは知っておるな?」

 

「え、えっと……は、はぁ」

 

「……」

 

答えが分からず生返事をすると、桔梗様は何も言わずに私を睨みつけ、拳を握りしめた。

 

「す、すみません!勉強不足でした!だから、拳骨は許してください!」

 

「……はぁ、今回だけは許してやろう。だが次はないぞ」

 

「は、はい」

 

ほっ……助かった。

 

「さて、なんじゃったか……そうじゃ、そうじゃ、呉の話じゃったな」

 

「はい。今は、孫策が王となっている。ということですよね」

 

「うむ。そして、次期王は、孫権とも言われているな。こうして代々、子、孫、ひ孫と受け継がれていく」

 

「?ですが、それと、今の話と何が関係があるのですか?」

 

「わからんか?代々続く家系は、同じく代々仕える家系も少なからずいる。そしてそういった家系は信頼にも熱いため、国の重鎮に召し抱えられることが多い。そして、言い換えれば強い絆で結ばれているとも言えなくはない。故に謀反も起こりにくいというわけじゃ」

 

「なるほど……そう言えば、呉には、黄蓋と言う。孫堅から仕えている将が居ましたよね」

 

「うむ。まさに今ワシが話した通り、黄蓋は孫堅の代から仕えておるな。孫堅だけではない、あの地の殆どの豪族は皆、孫堅を讃え、仕えておった。そして、娘の代、孫策に替わってもそれは変わらず続いておる。曹操もそうじゃが、ここも敵に回すと厄介な相手じゃ」

 

「それほどまでですか……」

 

桃香様は、そんな化物のような人物とこれから戦っていくというのか……

 

「へくち!」

 

「ん?雪蓮風邪でもひいたか?」

 

「ん~、そんな感じじゃないわね。誰かが私の噂話でもしているのかしら?ちょっと、探しに……」

 

「そう言って、仕事から逃げるつもりなのだろ。あと少しで終わるんだ。大人しく座って仕事を終わらせてから探しに言ったらどうだ?」

 

「ぶーぶー!冥琳の意地悪!」

 

「意地悪で結構。文句を言う前に、筆を動かしなさい」

 

「は~い……はぁ、それにしても良いわよね~。私も優未と一緒に一刀の所に行きたかったな~」

 

「はぁ……ただでさえ、優未を行かせるのは私は反対だったのだ。それなのにお前が……」

 

「はいはい、わかりました~。大人しくお仕事しちゃいますよ~」

 

「まったく……」

 

「最期じゃが……」

 

「っ!桃香様の国ですよね!」

 

「……まあ、そうなんじゃが……ちと、落ち着け焔耶。顔が近い、そして、鼻息も荒すぎじゃ」

 

「す、すみません」

 

桔梗様に顔を鷲掴みにされ、ぐいっと遠ざけられてしまった。

 

「さて、では、桃香様がなぜこれほどまでに将に恵まれておるか、焔耶よ、わかるか?」

 

「ふふん!そりゃもちろんですよ!それはですね、あのお美しい桃色の髪!あんなサラサラで艶やかな髪は見たことがありません!」

 

「……」

 

「それに、あの物腰!痩せてもなく、太っていてもなく、絶妙な肉付き!まさに、魅惑の体!」

 

「っ……」

 

「そして何より、あの笑顔です!あれはまさに天女の微笑み!いえ、それ以上です!」

 

「~~~~っ」

 

「故に!桃香様のお美しさに魅了された将が集まるのです!」

 

「~~~~っ!この、戯けが!一度、死の世界へ行ってこんかーーーーーーっ!」

 

(どすっ!ボクっ!ずばーーーーんっッ!)

 

「ぐはーーーーっ!!」

 

ああ、空から天女様、いや、微笑む桃香様が手を差し伸べて来ている……

 

(ドスッ!)

 

「がはっ!……こ、ここは?」

 

天女姿の桃香様の手を掴みそうなった時、背中に強い衝撃を受け、我に返った。

 

「まったく、お前というやつは……」

 

桔梗様は額に手を当て、呆れた様子で首を振っていた。

 

そうだ、桃香様の魅力について話していたところ、桔梗様から、腹に一発、頬に一発、最後に顎に一発入れられて。

 

「お前は、桃香様の外見しか見ていなかったのか?」

 

「そんなことがありません。もちろん、桃香様の考えに賛同して、配下となったのですから」

 

「……ワシには、惚れて軍門に下ったように見えたがのう?」

 

「は、ははは、嫌だな~、桔梗様。そんなことあるわけないじゃないですか~!はは。はははははっ!」

 

図星だった溜め、苦笑いを浮かべながら、誤魔化す。

 

「まあ良い。桃香様にこれほどまでに将が集まるのは、人柄じゃ」

 

「人柄、ですか?」

 

「うむ。では一つ、お前に問題じゃ」

 

「は、はい」

 

「頭ごなしに命令する主と、事あるごとに頭を下げ、お礼を言う主。お前ならどちらに仕えたい?」

 

「そりゃ、出来ることなら、お礼を言ってくれる主の方ですかね。労われたらまた、頑張ろうって気になりますから」

 

「うむ。桃香様はそれを自然とこなしているお方だ。もちろん、策略も打算なしにじゃ。それに必要なことなら、兵どころか、民にさえ首を垂れ、協力を仰ぐお人じゃ。それに、見ていて心配になるからの、だから逆に協力したくなるのじゃ」

 

「やはり、桃香様は、すごいお方だったのですね」

 

「うむ。だが、もっと凄いのはお館様じゃ」

 

「はぁ!?な、なんでですか!?あんな男のどこがすごいというのですか!?」

 

桔梗様の桃香様に対する評価に頷いていた私だったが、あの男の方が凄いと言われ、思わず反論してしまった。

 

「まだわからぬか……やはりお主の目は、曇っておるな」

 

「ど、どういう意味ですか。桔梗様」

 

「お前、どれだけ、お館様を殴った?」

 

「え゛……え、え~っと……覚えていません」

 

「だろうな、それだけ、殴っておるのじゃからな。だが、お館様は、お前を咎めようとはせん。普通なら、極刑じゃぞ」

 

「う゛っ……」

 

た、確かに、普通の君主なら殴った瞬間に殺されても文句は言えない。

 

「で、ですが、それは、あいつが軟弱だからで……」

 

「では、その軟弱なお館様は、どうやって黄巾党を一人で倒したというのじゃ?」

 

「そ、それは、何か卑怯な手を使って……」

 

「戦に卑怯もあるか。前にもワシは言ったと思うが?」

 

「……」

 

桔梗様の言葉に、私は、何も反論ができなかった。

 

「まったく……お前は、もう少し、お館様の行動を見て考えを改めた方が良いぞ。なんせ、お館様は、お前に無視されるたびに、辛そうに微笑んでおるからの」

 

「あいつが?」

 

「お館様にとって、仲間と思っている焔耶に無視されるのは、辛いのじゃろう。それに、愛紗たちとも最初は険悪な雰囲気だったのに最近では、それほどでもないであろう?あれは、お館様が、お前に嫌な思いをさせない為に、愛紗たちに普通に接してあげて欲しいと、頭を下げていたのじゃ。こんな部下思いな主など、中々居ないぞ?」

 

「……」

 

なんとなくではあったが、愛紗たちの態度が、最初の頃よりは柔らかくなっていたのは、私も感じていた。まあ、優未みたいな例外もいるが……それが、あの男のおかげだったと言うことが衝撃だった。私は、あいつにどれだけ嫌な思いをさせたかわからない。だが、あいつはそれでも私を気にかけ、少しでも愛紗たちと打ち解けられるように頭を下げていた。どれほど、お人よしなのだ、あいつは……

 

「まあ、少しづつでよい。お館様に心を開いてみてはどうじゃ?では、ワシはいくぞ。菫と紫苑と酒の約束をしておるのでな」

 

「……桔梗様!い、今すぐには無理かもしれませんが、私なりに頑張ってみます!ありがとうございます!」

 

「……」

 

私は、背を向け、遠ざかる桔梗様にお礼を言うと、こちらを見ず、手だけを振り、どこかへ行ってしまいました。

 

「しかし、頑張ってみるとは言ったものの……何をどう頑張れば良いのか……」

 

桔梗様と別れた後、私は腕を組み、悩みながら廊下を歩いていた。

 

(どんっ!)

 

「「うわっ!」」

 

悩みながら歩いていたせいで、曲り角から出てくる人影にぶつかり、しりもちをついてしまった。

 

「す、すまない。考え事をしていて、気が付かなかった」

 

「こちらこそ、俺も、前を見ていなかったから」

 

「「……ん?」」

 

聞いたことのある声と、お互いが思ったのか、私と相手は、同時に疑問の声を上げた。

 

「あ、焔耶だったのか」

 

「お、お前は!」

 

な、なんで、今ここで出会うのだ。北郷一刀!

 

ぶつかった相手は、今まさに、どう接しようか考えていた人物、北郷一刀だった。

 

「大丈夫?立てるか?」

 

「だ、大丈夫だ、自分で立てる」

 

微笑みながら差し出してきた手を払いのけ、自力で立ち上がる。

 

「それで、何に悩んでたのかな?俺で良かったら、力になるよ」

 

「き、貴様の力などいらん!」

 

言えるか!お前との接し方に悩んでいたなど、本人に言えるわけがないだろうが!

 

「そっか、それじゃ、俺に手伝えることがあるようだったら、何でも言ってくれ、力になるから」

 

「か、考えておく」

 

「うん。それじゃ、これから、仕事だから。またな」

 

笑顔で手を振り、遠ざかるあいつ。私は、あいつに小さな声で告げた。

 

「……き、気をつけろよ。その……お、お館」

 

「……え?」

 

あいつが、振り向こうとした瞬間、私は全力でその場から離れた。

 

わ、私は、今何を言ったのだ!?気をつけろ?お館!?お、お館~~~~~~~っ!?

 

自分の口から出た言葉に、混乱する。

 

「あ、焔耶さ、ん?」

 

走っている途中で、雪華に話しかえられたようだったが、今はそれどころではなかった。

 

とにかく、気を静めるため、このまま走り続けよう!うん、それがいい!

 

「うぉおおおおおおおおっ!お館の、馬鹿やろーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

叫びながら走っていた私は、自分の発した言葉を自覚していなかった。

 

「なんだったの今の?」

 

「さ、さあ、でもなんだか焔耶さん。慌てているようでしたね」

 

口上の練習をしていた所、目の前を全力疾走で走り抜ける焔耶を見て、呆然とする雪華、蒲公英、優未。

 

「む~~~……なんか、また恋敵が増えた予感がする」

 

「え?それはどういうことですか、優未さん」

 

「あの顔はどう見ても、照れてる顔だったんだよね、もしかして……」

 

「あいつのことだから、桃香様に何か言われて浮かれてただけじゃないの?考えすぎじゃない?」

 

「蒲公英の言うと入りだといいんだけど、私の勘って雪蓮の次くらいに当たるからな~」

 

「それより、口上の練習しようよ。雪華ももっと堂々とさ!」

 

「ふぇ!?む、無理ですよ~」

 

「ああん♪そんな照れた雪華ちゃんもかわいぃ~♪おっもちかえり~♪」

 

「ふぇ~~~~~!?や、やめてくださ~い、優未さ~~~~ん!」

 

<桔梗視点>

 

『うぉおおおおおおおおっ!お館の、馬鹿やろーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!』

 

「ぶっ!げほげほ!……あ、あの馬鹿、何を屋敷内で騒いでおるんじゃ」

 

焔耶の大声に思わず酒を吐き出し、むせ返ってしまった。まったく、酒が勿体無いではないか。

 

「あらあら、元気ね、焔耶ちゃん」

 

「元気があることは良いことですね」

 

紫苑と菫は焔耶の声に微笑ましく笑っていた。

 

「これでは、静かに酒も呑めんではないか」

 

「ふふふ、そう言いながら、顔は満更でもないみたいね、桔梗?」

 

「ふん……そんなことあるか」

 

「もう、焔耶ちゃんと一緒で素直じゃないんだから。もう少し、素直になったらどうなの?」

 

困った口調ながらも、笑顔で、おせっかいを焼いてくる紫苑。

 

「戯け、ワシは素直じゃぞ。もちろん、お館様の腕の中だけじゃがの。それに、ワシならお館様を気持ち良くして差し上げられるからの」

 

「……あらあら、それは聞きづてならないわね。(わたくし)の方が気持ち良くして差し上げられるわ」

 

「そうですね。その件に関しては、(わたくし)も引かずにはいられませんね」

 

仕返しとばかりに、紫苑と菫に挑発的なことを言うと、二人の装いは普段通りの笑顔だったが、笑っているのは表情だけなのはすぐに分かった。

 

「ほう、なら。一勝負と行こうではないか」

 

「そうね。何がいいかしら」

 

「そうですね……お互いが得意な得物ですと、(わたくし)が不利になってしまいますし、お二人は、弓で(わたくし)は槍。それに、(わたくし)弓はそれほど得意ではありませんし、一人負けになってしまいますわ」

 

「なに、もっと簡単な方法があるではないか」

 

「え?」

 

「それは、なんですか、桔梗」

 

「ふっふっふ。それはじゃなの――」

 

ワシは二人に、考えていた提案をした。

 

くっくっく、覚悟しておられよ、お館様!

 

「~~~~~っ!?な、なんだ?急に寒気が……」

 

「風邪ですか、ご主人様?」

 

「いや、風邪じゃないと思うんだけど」

 

「風邪の前兆かもしれませんね。今日は暖かくして寝た方が良いかもしれません」

 

「そうだな。朱里の言うとおり、今日は、暖かくして寝るよ。心配かけてごめんな、愛紗、朱里」

 

「とんでもありません。ご主人様の身を心配するのは家臣として当然ですから」

 

「愛紗さんの言うとおりです。少しでも体がおかしいと思ったらすぐに行ってくださいね」

 

「ああ、そうするよ」

 

でも、今の寒気は、風邪とかじゃなく、もっと身の危険みたいな感じだったんだよな……まあ、愛紗たちの心配事を増やすわけにはいかないから言わないけど。それに、気のせいかもしれないしな。

 

《To be continued...》

葉月「お、おひざじぶりです」

 

愛紗「みな、元気にしていたか、愛紗だ」

 

葉月「あ、あの、あ。愛紗、さん」

 

愛紗「……なんだ」

 

葉月「そ、そろそろ、おろじでください。あ、頭に血が……」

 

愛紗「投稿が遅れた罰だ。今日はそのまま進行を続けろ」

 

葉月「そ、そんな……あ、い、意識が……」

 

愛紗「はぁ、仕方ない……はぁ!」

 

(ぶちっ!)

 

葉月「ぐへっ!ひ、ひどい……意識を失いかけてるところに追い打ちをかけるなんて……」

 

愛紗「意識を戻す手間を省いたんだ。さて、聞いても無駄だと思うが、遅れた理由は、どうせ仕事とかいうのだろ」

 

葉月「どうせとか言わないでください。仕事しないと生活できないんですから。それに、この物語は自分の趣味の範囲でやっているわけで、誰かに強要されるものではありません!」

 

愛紗「ぐっ!せ、正論を……まあいい。それで、今回の話は、桔梗と焔耶が主役か。まあわ私の恥ずかしい話もあったが……」

 

葉月「そうですね。まあ、どちらかと言うと、焔耶押しの話でしたけど」

 

愛紗「で、あの雪華たちの口上はなんだったのだ。前にもあっただろ」

 

葉月「ああ、あれは某アニメのR団の口上をちょっと恋姫風にアレンジしてみました。なんせカタカナ言葉や英語が使えませんからね」

 

愛紗「また雪華を無理やり付き合わせたのか」

 

葉月「まあまあ、固いこと言わずに、それに、今回のもちゃんと録音してありますよ(ピッ)」

 

雪華『しぇ、雪華でにゃ、にゃーす』

 

愛紗「っ!?ぐぐ……し、仕方ない。今回は大目に見てやろう……(あ、あとで、複製を頼むぞ)」

 

葉月「(了解です)……さて!そろそろ、次回のお話に移ろうかと思いますが……愛紗、聞いてますか?」

 

(ピッ)

 

雪華『しぇ、雪華でにゃ、にゃーす』

 

愛紗「ふ、ふふふ……」

 

愛紗「あ、あの~」

 

(ピッ)

 

雪華『しぇ、雪華でにゃ、にゃーす』

 

愛紗「あ~♪」

 

葉月「も、もどってこ~い!」

 

愛紗「はっ!な、なんだ?」

 

葉月「何だじゃないですよ。次回の話しですってば。それに、録音して渡すってさっき」

 

愛紗「わーっ!わーっ!わーーーーーーっ!」

 

(どすっ!ボクっ!ずばーーーーんっッ!)

 

葉月「ひ、ひどい……」

 

愛紗「お、お前が余計なことを言うからだ!」

 

葉月「なら、そうなる前に、人の話を……」

 

愛紗「……なんだ?」

 

葉月「な、なんでもありません……」

 

愛紗「まったく……それで、次回はどうなんだ?」

 

葉月「次回はですね。まあ、大体の人はもうお分かりだと思いますが、北郷軍が誇る三熟女による一刀責めです」

 

愛紗「な、なんだと!?それはどういうことだ!聞いていないぞ!」

 

葉月「そりゃ、今発表しましたからね。それに、原作でもあったじゃないですか、紫苑と桔梗が一刀を責めてる場面が、まあ、最終的には一刀に責められていましたけど」

 

愛紗「な、なんてことだ……ご主人様をお守りしなくては!」

 

葉月「は~い。愛紗、まだ話は終わっていませんよ」

 

愛紗「放すのだ!私は、ご主人様をお守りしなければ!」

 

葉月「これを聞いてもですか?ではでは、久々の、人気拠点投票開催でーーーす!」

 

(ぴたっ)

 

愛紗「なんだ、と……」

 

葉月「もう大体の人は、ルールを知っていると思いますが、告知させてもらいます。下記がルールになります」

 

 

<ルール説明>

 

1.参加者は一人五票を所持(五票以上を入れたコメントは無効票とします)

 

2.参加者は見たい拠点の武将の番号をコメントに書き込む

 

3.票の振り分けは自由(例:1.桃香に5票。2.愛紗に2票、4.朱里に1票、5.雛里に1票、7.雪華に1票。など...)

 

4.集計をしやすくする為に、[番号:名前]で書き込んでいただけると助かります。

 

 

葉月「以上です」

 

愛紗「ひ、久しぶりの拠点投票だな」

 

葉月「まあ、話数的には、全然離れていないんですけどね」

 

愛紗「拠点投票をしたのは……何年前だ?」

 

葉月「えっと……約2年ですね」

 

愛紗「どれだけ、作品をさぼっていたかということがわかるな」

 

葉月「だ、だから仕事で……はぁ、延々ループになりそうなのでもういいです。では、これも恒例、投票参加者の紹介と意気込みでーーーす!」

 

 

『はわわ!?第五回、拠点争奪!人気投票参加者』

 

1.桃香「前回同様、上位に入れるよう、みんな、よろしくね!」

 

2.愛紗「今回も上位の座は、譲るわけにはいかん!皆の一票を待っているぞ」

 

3.鈴々「いい加減、鈴々も拠点書いてもらいたいのだーーーーっ!」

 

4.朱里「ぜ、前回はもう少しだったから、今回こしょは!はわわ!か、かんじゃいました」

 

5.雛里「前回は朱里ちゃんに負けちゃったけど、今回は勝てるといいな……あ、でも、やっぱり一人じゃ怖いから一緒が良いな」

 

6.星「前回は惜しくも入れなかった……だがしかし!華蝶はまだ死んではいない!今回こそは、見事に羽ばたいてみせようぞ!はーーはっはっは!」」

 

7.雪華「あ、あの……ふぇ~。な、何を言ったらいいかわかりません……え?これを読めばいいんですか?えっと……『私に一票入れてくれたらにゃんにゃんしてあげるにゃん♪』……ふぇぇえええ!?な、なんですかこれ!?」

 

8.月「へぅ……前回はありがとうございました。今回もよろしくお願いします」

 

9.詠「まあ、前回は月が上位に入ったから良いってことにしてあげるわ。でも、前回も言ったけどボクは負けるのが嫌いなんだからね、いい加減票入れなさいよね」

 

10.白蓮「うぅ……良いんだ。私の意気込みなんてどうせ普通なんだ……どうせ、今回も同じこと言われるんだ。」

 

11.恋「…………………………(もぐもぐもぐ)」

 

12.音々音「れ、恋殿ーーーーーっ!食べてないで何か喋って欲しいのです!」

 

13.翠「んー、なんも思いつかないんだよな。え?無いなら、これを読み上げて欲しい、だって?どれどれ……『沢山お茶を飲んで、もら』って、何言わせるんだよ馬鹿!」

 

14.蒲公英「脳筋には負けたくないから、たんぽぽに一杯票頂戴ね!」

 

15.菫「まったく、翠も蒲公英……あとで、お仕置きかしら……あらあら、お見苦しいところを見せてしまいましたね。皆様の一票をお待ちしておりますわ」

 

16.美羽「前回はひどいありさまだったのじゃ、じゃから、今回は妾直々に一言いうのじゃ!皆の者!妾に全票入れるのじゃ!」

 

17.七乃「相変わらずの上から目線、その人を人と思わぬ態度に惚れちゃいますー」

 

18.優未「よーし!今回こそは上位に入れるようにみんな、よろしくね!」

 

19.紫苑・璃々「今回はちゃんとした枠で参加ですわね。みなさん、一票をよろしくお願いします」「よろしくおねがいしします!えへへ♪」

 

20.桔梗「紫苑には負けられぬな。ワシに紫苑より一票でも多く票を頼むぞ!」

 

21.焔耶「まったく、なんで私がこんな茶番に付き合わねばならんのだ……まあ、蒲公英に負けるのは癪だからな。参加してやる」

 

 

葉月「こ、こんなに多くなんていたとは……」

 

愛紗「うむ。私も改めてみてそう思っていたところだ。しかし、まだあの二組が居るであろう?」

 

葉月「……え?あ、あ~……いましたね。おバカ軍と猫軍団が」

 

愛紗「ひどい言われようだな」

 

葉月「もう考えから抜けてましたよ。本当に北郷軍は人が多すぎですって」

 

愛紗「確かにな。だがそれも、ご主人様と桃香様の人望があってこそだ」

 

葉月「まあ、そうですけど……あっと、大事なことを忘れていました。投票期間は二週間です。それ以降の投票は無効となりますので注意してくださいね」

 

愛紗「しかし、これだけ間をあけて、見てくれている人は居るのだろうか?」

 

葉月「うぐっ!そ、それは言わないお約束です!」

 

愛紗「はぁ、まあ、やってみないとわからんことだしな。みなの投票を待っているぞ!」

 

葉月「では、みなさん。また次回、お会いしましょーーーーーー!」

 

 
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