Side 黒峰
「…………ふぅ。ようやく終わったか」
僕、黒峰水月は現在揚州呉郡にある呉の城の一室で竹簡を片付けている。
この地(世界?)に来て早数日、すでに仕事を任されるようになったのは喜ぶべきなのかな?
「ヤッホー♪水月。頑張ってる~?」
「やぁ雪蓮。君は相変わらずの職務放棄かい?炎蓮(イェンレン)さんに怒られるよ?」
「へーきへーき。問題ないわよ」
軽いテンションで入ってきたのが、僕を保護した恩人?の孫策。真名が雪蓮。出会って早々に真名を預けるという大胆な女性だ。あとサボり魔でもある。
炎蓮さんは雪蓮の母親、すなわち江東の虎と名高い孫堅である。炎蓮さんが僕をここに置かせてくれなかったら死んでた可能性が非常に高かった。
「ふーん。じゃあ雪蓮の後ろにいる冥琳の許可は貰ってるんだね?」
「…………え?」
「随分と楽しそうだな、雪蓮。余程仕事をしたくないようだから、炎蓮様に稽古をつけてくださるように頼んだところ、快く引き受けてくださった。喜ぶといい」
「うぇえええ?!ちょ、冥琳!?」
うわ~、炎蓮さん訓練でも容赦ないからな~。まぁ雪蓮にはいい薬になるだろうけどね。因みに冥琳とは周瑜の真名だよ。
「黒峰も何を他人事のような顔をしているんだ。お前もだぞ」
「はい?!な、なんで僕もなのさ!!」
「炎蓮様が折角だからお前も一緒に鍛えるそうだ。ほら、わかったら行くぞ」
そう言いながら、冥琳は既に逃げ出そうとしていた雪蓮の首根っこを掴んでいる。仕事早いなー。
「はぁ……ちょっと待ってて。パスとケータロス用意するから」
そう言いつつ、ここにきたときから持っている『ライダーパス』と『ケータロス』を机の上からとって、冥琳に着いていく。…………炎蓮さんと戦うの嫌だなぁ。
<キングクリムゾン!
………なんか時間が消し飛ばされたような気もしたけど、気にしないでおこう。
今居る場所は城にある訓練場。僕は目の前の常軌を逸した光景を見ながら、ストレッチをしている。
その光景というのが、
「オラオラオラオラァ!!どうした雪蓮!動きが鈍って来てるぞ!!」
「ちょ…っと、母さ…ん!気合い…はい…り過ぎでしょ!!」
人間離れした速度で繰り広げられる、炎蓮さんと雪蓮の模擬戦。
「ハッハッハッ!策殿も強くなって来たとはいえ、まだまだ堅殿にはかなわんようじゃのう」
「仕方無いでしょう。雪蓮は獣じみた直感を駆使して戦っていますが、炎蓮様はその直感に加えて、自らが鍛え上げた技術を使っているのです。雪蓮が勝てる通りがないですね」
「姉様も母様も私とは違って、遥か高みにいるわね……私に追い付けるのかしら?」
「生憎ですが蓮華様。蓮華様が目指す先はあのお二方とは違ったものになります。あまり上を見すぎて、今を見失わないようにしてください」
「そうですね〜思春ちゃんの言う通りだと思いますよ?蓮華様〜」
「行け!雪蓮!そこだ!!…あー違う!そうじゃないって!!」
「……ふふ、酒の肴にしてはまぁまぁね〜」
何時の間にか呉の武将が殆ど揃っていた。
話していた人は上から、
黄蓋さん、(真名は祭さん)
冥琳
孫権(真名は蓮華)
甘寧(真名は思春)
陸遜(真名は穏)
太史慈(真名は梨晏(リアン))
程普さん(真名は粋怜(スイレイ)さん)
今ここにいないのは周泰(真名は明命)と孫昭さん(真名は雷火さん)、それと孫尚香(真名は小蓮)位だ。
……というか皆仕事はどうしたんだろうか?
僕よりも格段に量が多い筈なのにもう終わらせてきたのかな?
「これで終いだ!雪蓮!!」
「きゃん!?」
わざわざ刃を寝かせて、雪蓮の頭に模擬刀振りおろしてる。………ホント容赦無いなぁ。雪蓮あまりの威力に目回しちゃってるし。
「冥琳!梨晏!そこの獣娘退かせとけ。………さぁ本命だ。来いよ、黒峰水月。稽古つけてやる」
炎蓮さんがこちらを向く。……その目は餌を前にしてお預けを食らっている動物の様に目がギラギラしていた。…………嫌だなぁ。あの目見覚えがあるよ、零児がたまにあの目してたもん。戦闘狂の目だよあれ。
「はーい、少々お待ちを」
ストレッチを終え、炎蓮さんの方へ近付きつつ、あるものをイメージする。
「お待たせしました、炎蓮さん。……始めましょうか」
そう言いつつ、腰に出現した『デンオウベルト』を身に付け、ベルトについている赤いボタンを押す。
その瞬間、ベルトから音楽が流れ出す。それを聞いた炎蓮さんの目がさらにギラつく。超怖い。
「ほう……今日は『それ』で来るのか?」
「最初は、ですよ。どうせ全部使わなきゃ善戦すらできないんですから。…というわけで、変身!」
〈sword form〉
ベルトのバックル部分の『ターミナルバックル』にパスをセタッチする。その瞬間僕のオーラをフリーエネルギーに変化させ、僕の体を包む鎧を構成していく。
「僕、参上!……ってね」
僕の体は赤い鎧を身にまとう戦士へと変貌していた。
この世界どころか、僕たちのいた世界ですら『空想上の代物』であるこれをなぜ僕が持っているのかすら分からないけど、使えるのなら使った方がいい。………と言うか使わないと話にならない。
「確か……電王、とか言ったっけそれ。生身のお前じゃ全然楽しめねぇが、その状態のお前なら楽しめるからいいねぇ」
そう言って炎蓮さんは模擬刀を構えなおす。………そう、今の僕は『仮面ライダー電王 ソードフォーム』に変身している。………というかなんでホントにこれがあるの?目覚めた時に服の内側にケータロスと一緒に入ってたから使っているけど、やっぱ可笑しいよね〜。
「おいおい、何突っ立ってんだ?」
「へ?………って危なっ!!?」
ライダーパスがなんであるか考えてたら、既に炎蓮さんが近付いて、剣を振るって来ていた。ギリギリ避けれたけど本気で危ないんだけど?!
「ちょっと炎蓮さん!!まだ開始の合図かかってないでしょ!?」
「ああん?お前賊に対しても同じこという気か?あれだ、不意打ちに対する訓練だよ訓練」
「絶対今考えたでしょその理由!!」
「あ〜もう、うるせぇな〜。いいからとっととかかってこいよ」
「理不尽過ぎる……!」
まぁ短い期間とはいえ、何度もこんなことがあったからもう慣れちゃった自分が怖い。………だって文句言ってる間に、ベルトの両腰にあるパーツ組み立てて『デンガッシャー・ソードモード』にして構えてしまっているんだから。
「何だよ、文句言いながらも準備バッチリじゃねぇか」
「普段から不意を突かれることが多いせいか、身体が勝手に対応するようになっちゃってるんですよっ!」
「ハッ!いい傾向じゃねぇか。じゃ次は真っ当な斬り合いと行こうか!!」
「本音は嫌ですけど逃げられないから付き合いますよ!!」
炎蓮さんから怒濤の勢いで繰り出される剣閃をデンガッシャーでなんとか受け止める。
うわ〜、炎蓮さんの目がさらに輝きを増してるよ。………零児相手にしてるみたいで本当に嫌だ。
「何だ!!前はこれで沈んだのにもう受け止めることが出来るのかよ!!」
「受け…止めるだけ…で精一…杯です…けどね!!」
「上等だ!!……もう少し本気で行っても大丈夫そうだなぁ!!」
「うぇえええ?!ちょ、炎蓮さん待っ……!」
「戦場でそんなこと言って待つ奴がいる訳ねぇだろうが!!」
更に炎蓮さんの攻撃速度が増してきた。
正直こんなこと考えてる暇もないくらいにキツイ。
「いい…加減にして…くださいっ!!」
連撃の僅かな合間を縫って、炎蓮さんの剣を弾き、バックステップで距離をとる。
「おっ…と、やるなぁ〜あれで沈めるつもりだったのに抜け出されちまったよ」
「ハァ……ハァ…僕にも男の意地が…ありますからね」
「女みてぇな顔してるくせに言うことはいっちょ前だな」
「…………人が気にしてることをよくもまぁ堂々と口にしますねぇ……!」
確かに零児や一刀にもよくからかわれてたけどさ!!
「なりふり構っていられないので、これで行きます!」
ベルトの紫のボタンを押し、パスをセタッチする。
〈Gun form〉
鎧が一旦外れ、再構成される。
『仮面ライダー電王 ガンフォーム』、僕が一番戦いやすいフォームだ。フォームが変わったのと同時にデンガッシャーも形状が変わる。
『デンガッシャー・ガンモード』になったデンガッシャーを右手に持ち、炎蓮さんの方へと向ける。
「何だよ、もう斬り合いはおしまいかよ」
「そんながっかりした声で言われても……」
気のせいかもしれないけど、炎蓮さんの目の輝きが少しだけ鎮静化したように見える。……そんなに斬り合いが好きなんですか。
「ちょっと意地でも勝ちたくなったんでこの距離から一方的に攻撃させてもらいますね!!」
「やだ」
「答えは聞いてません!」
一言で拒否されたけど無視して撃つ。
銃口から僕のフリーエネルギーを変換した銃弾が放たれる。かなり威力が高いから、普通なら人に向けて撃たないんだけど………
「ふんっ!そんなチンケなもんが効くかぁ!!」
炎蓮さんにかかれば簡単に弾ける程度のものでしかなくなるのだ。………と言うかここ(呉)の武将で避けられないの蓮華とシャオ(小蓮からそう呼べって言われた)位なんだよね。ここの人達本当に何者なんだろうね、怖いや。
「その程度ならあっという間に終わっちまうぞ!!」
炎蓮さんが銃弾を弾きながらこちらへと向かってくる。もう何回もされてるけど相変わらずすっごい怖いんだけど!
「近づかれる前にこれで終わらせる!」
パスを取り出し、再びセタッチする。
〈Full charge〉
パスを仕舞い、右手に持っていたデンガッシャー・ガンフォームを両手で構え直す。
デンガッシャー・ガンフォームの銃口に両肩にある『ドラゴンジェム』からエネルギーが集まる。
「くらえぇぇえええ!!」
エネルギーが溜まった瞬間に引き金を引く。炎蓮さんとの距離もあと2、3歩で剣が届く位置まで来ていたから細かい狙いをつけられなかったけどこの距離なら外れない!!
「甘ぇんだよ!!黒峰ぇぇええ!!」
「ウェイ!?」
マジで何なの!?この人!こっちに突っ込んできた勢いそのままでエネルギー体避けた!?
胸の下あたりだったから屈んでも絶対に避けることはできない筈なのに!身体を限界まで低くした状態にすることで掻い潜るなんて無茶苦茶過ぎる。
「おらよっ!!」
「ガハッ……!!」
突っ込んできた勢いを利用した切り上げをくらい、二メートルほどかち上げられる。力が抜けてたところに一発食らったから超痛い。しかも変身まで解けたよ。
「痛っ……本当に、規格外、ですよね、炎蓮さん…」
「あ?こんなもん普通だ普通。お前が貧弱なだけだ」
「ハハハ………」
もはや苦笑いしかできないよね。仮面ライダーってスペックの単位tなのにそれを貧弱って言うんだもん。
「ま、今日はこれで終いだ。お疲れさん」
「あ、ありがとうございました、炎蓮さん」
「おう、じゃあな〜」
炎蓮さんは疲れた様子を微塵も見せずに訓練場から出ていく。本当に規格外だなぁ……あの人。2連戦してるのにピンピンしてるもん。
「お疲れ様、水月。母様相手によくあそこまで持ったわね」
そう言って近付いて来たのは蓮華と思春だった。
「ん?いやいや、善戦すらできてないよ蓮華。あれは確実に遊ばれてた」
「…………あれで、なの?」
「そうだよ、炎蓮さんがその気なら最初の打ち合いで吹き飛ばされてたよ。ね?思春?」
「そうだな、先程の炎蓮様は二割ほどしか実力を出していないだろうな」
「あれで二割か……まだまだだなぁ」
「そう簡単に追いつけるような方ではない。せいぜい日頃の鍛練に励むんだな」
「助言ありがとう、思春」
「………これも呉のためだ、感謝されるようなことではない」
微笑みながらお礼を言うと、思春はそう言いながら、そっぽを向く。
「もう、思春ったら、照れてないでお礼くらい素直に受け取りなさいよ」
「れ、蓮華様!」
………あれってやっぱり照れてたんだ。
「ま、鍛練は頑張らないとね。一刀はともかく、零児だけは本気でやばいからね…」
「………?その一刀と零児というのは?」
「あれ、説明してなかったっけ?」
「ああ、私も初耳だ」
「うっかりしてたなぁ………じゃ二人には、今説明しちゃうね」
他の皆は炎蓮さんとの試合が終わった瞬間に蜘蛛の子を散らすように何処かに行っちゃったし。
「ええ、お願いね」
「了解、まあ早い話僕以外の御使いだよ。確か占いで仁、智、武の三人が降り立ったんだよね?」
「ええ、確かそう伝わってきているわね」
「で、僕の推測になるんだけど、仁の御使いは一刀、智の御使いは僕、…………そして武が零児になると思ってるんだよ」
「……その根拠は一体どこから来ている」
思春がいつも通りの険しい顔で尋ねてくる。
「ん〜一刀に関しては、3つのうちで一番相応しいのが仁になるんだよね、馬鹿みたいに優しいし」
「そ、そうなの……?」
「そうなの。で、零児が武だと思う理由。これは簡単、…………強いから」
「強い?どの位?」
蓮華が首を傾げる。……なんか小動物みたいで可愛い。
「本気で戦ってるところ見た事無いから、本当の実力はわかんないんだけど………少なくとも、生身で雪蓮さんに善戦出来るんじゃないかな」
「「…………な!?」」
二人して驚いているけど正直な感想だ。
「……そして、ほぼ間違いなく、僕と同じ『仮面ライダー』の力を持っているはずだ。それも含めて考えると……炎蓮さんと互角に戦えると思う」
「………本気で言っているの!?か、母様とご、互角……?!」
「にわかには信じられんな……」
「あくまで推測だから。……でもそのくらいで考えてた方がいいと思うよ」
そう、この推測は『この大陸に来るまでの零児』を元に立てている。実際に相対する時はもっと強くなっている可能性が無茶苦茶高いんだよね……
「ありがとう水月。………これは皆に伝えないといけないわね…」
「雪蓮さんと炎蓮さんは喜びそうだけどね」
「………その姿が想像容易に想像出来る自分が嫌だわ…」
「………仕方ないです、蓮華様」
「あはは、まあ今は僕たちに出来ることをしようよ、ね?蓮華、思春」
「ええ、勿論」
「……お前に言われるまでもない」
僕は決意を新たにする。………覚悟してよ?零児、一刀。
僕はこの呉の皆と君たちに挑むよ。
どうも~ようやく完成した続きです。水月が変身するライダーは電王でした。ケータロスを既に持っていますが、クライマックス、ウイング、超クライマックスには変身できません。ライナーだけです。そして、英雄譚から孫堅さんこと炎蓮さん、太史慈こと梨晏、程普さんこと粋怜さん、孫昭さんこと雷火さんが登場しました。魏以外の武将は二、三人になるとか言っときながら四人も出ちゃいました。……管理しきれるかな?
あと炎蓮さんと梨晏の武力について、まず梨晏は雪蓮とほぼ同じですが、少しだけ下くらい、炎蓮さんは恋に一歩及ばないくらい、つまりほぼ敵なしという形になっております。
さて、次は本編、零児サイドへと戻ります。一刀のライダーは董卓連合編までお待ちくださいませ。
では今回はここまでとします。
それでわ~
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閑話 黒峰水月の呉の日常