story32 衝撃の事実
そうして戦車道の練習を終えて如月と武部は生徒会室にやって来た。
「いやぁ~冷えてきたねぇ~」
「北緯50度を超えましたからね」
「次の会場は北ですからね」
「試合会場をルーレットで決めるのも、やめてほしいもんだ」
生徒会室の中央に生徒会メンバーとポニーテールから髪を下ろしてストレートにした二階堂がコタツに入っており、その上にガスコンロが置かれ、ぐつぐつと煮えている鍋があった。
その光景に如月と武部は呆然と見た。
「あ、あの、大事な話しって言うのは?」
「まぁまぁ。とにかくコタツに入りな。お前達だけ立って居るって言うのもなんだし、それに冷えるしな」
二階堂は手招きをして如月と武部を招く。
その後二階堂と角谷会長の向かい側に如月と武部がコタツに入った。
「コタツ、熱くない?」
「あ、はい。大丈夫です」
「えぇ。それより、本題に入りたいんですが・・・・」
「まぁまぁ。それより先にあんこう鍋を食べて食べて!」
「そ、そうですね。話は食べながらでも。会長が作るあんこう鍋は絶品なのよ?」
と、角谷会長が鍋奉行をして小山が箸と小皿を全員に配る。
(確かにさっきからいいにおいはするな)
あんこう鍋自体滅多に食べないが、それでも食欲をそそるいいにおいだった。
話が気になるも、とりあえず割り箸を割るも思い切ってずれて割れてしまい、ムッと顔を顰めながらも鍋の中よりあんこうを摘まんでポン酢を入れた小皿に付けて口に運ぶ。
「!おいしい!なにこれっ!お出汁が、すっごく出てる!」
隣で先に食べた武部が声を上げる。
「確かに。これは中々」
如月も驚きを隠せれない旨さだった。
「おっ、分かる?まず最初にね、あんきもをよく炒めると良いんだよ」
ニッと角谷会長が笑みを浮かべる。
「そこに味噌を入れて・・・・。この味噌がまたポイントなんだけどさ~」
「あ、あの」
「鍋の作り方はいいですから。本題に入りませんか?」
如月が角谷会長に本題を切り出そうとするも、会長と小山、河島、二階堂は黙り込む。
どうもまだ何か引っ掛かると言う感じだった。
(なんだ?この違和感は・・・・)
「あ~、それでさ、このコタツは小山が予算をやりくりして買ったコタツなんだよな。あと他に冷蔵庫とかホットプレートとか、色んな物買ったな」
すると角谷会長は話題を変えて口を開く。
「結構買っているんだな」
鍋から取った白菜を食べながら二階堂は呟く。
「まぁバザーとかで安く売っているやつばかりだけどね」
「・・・・・・」
「それはともかく・・・・・話を――――」
「それに、体育祭や合唱際、学園祭の前には、ここでよく寝泊りしましたね。去年はカレー大会とかもしましたし」
と、一旦コタツから出た河島がドテラを持ってきて口を開く。
「それ覚えてます」
「そういえば、去年そんな事があったな」
去年の中頃だったかな。
生徒会主催の元、全校生徒によるカレー大会が行われた。
まぁ生徒会の気まぐれと言うのはよくあった事だが、その時は驚きを隠せれなかった。
その時の私は・・・・・・まぁ当然の如く周りには人が居なかった。と言うか寄り付かなかった。
一定の人数で組んで大会を行うのだが、当然私と組もうとする人は居なかった。
しかしそこで武部が私と組みませんか、と言う申し出があり、物好きなやつと思いながらも武部と組む事にした。
とは言うものも、私と武部以外は誰も組まなかったので、私と武部で大会に参加する事になった。
そこで武部とシーフードカレーを作り、意外とそれが評判で人気が高く、そこで五十鈴が「おいしいです!」と言いながら何杯もおかわりした。それで五十鈴とも知り合いとなった。
そして私達が作ったシーフードカレーは一番人気で優勝し、生徒会より景品で食堂の食券一か月分を貰った。
まぁそれで武部と五十鈴と知り合いになったが、その時まで武部は名字の方で呼んでいた。
武部が私の事を名前で呼ぶようになったのはそれから数週間後のことで、武部と五十鈴が大洗町で不良に絡まれた所を私が介入し、不良を撃退した事から武部は名前で呼ぶようになった。
「その前は仮装大会もしたし、夏には水かけ大会も。泥んこプロレス大会なんかもしたねぇ」
「え?そんなのもあったんですか?」
「そいつはお前達が入学する前にやった行事だな。こいつらは一年の時から生徒会をやっているんだ」
と、二階堂は後ろからアルバムを取り出す。
「ほら見ろよ。河島が笑っているぞ」
「そ、そんなもの見せないでくださいよ!」
アルバムを広げると角谷会長と小山、河島の一年時代の写真があり、隅にはまだ留年する前の二階堂の姿があった。
しかし制服姿の二階堂がなぜか新鮮だった。
「この時まで俺は生徒会長だったからな。まぁ途中で杏に生徒会長の座を明け渡したが」
「そうなんですか。
そういえば、この時から二階堂先輩って眼帯しているんですね。どうしてなんですか?」
角谷会長が一年と言うのでこの時の二階堂は三年である(最も今でも三年だが・・・・)
「あぁこいつか?まぁちょっと厄介な病気があって付けているんだ」
と、二階堂が右目を覆う眼帯を上にずらす。
「・・・・・・」
眼帯の下には、左目と瞳の色が違い、金色の瞳であった。
「オッドアイってやつだ。だが、生まれた時はなんとも無かったんだけど、中学の辺りから右目が痛み出して、その原因は紫外線にあったんだ」
「・・・・・・」
「普通のじゃ光を遮られねぇから、こいつを付けているんだ」
「じゃぁ、今は大丈夫なんですか?」
「紫外線だけが影響を及ぼすみたいだ。蛍光灯の光には害はねぇから大丈夫だ。まぁ厨二病とかよく言われたがな」
「そうなんですか」
と、武部は如月の方を見る。
「なぜ私を見る」
「あ、いや、ちょっと似ているかなぁって」
苦笑いを浮かべながら言葉を漏らす。
如月は目じゃなく腕だ。
「本当に、楽しかったな」
懐かしそうにアルバムをめくるも、どこか悲しげな雰囲気があった。
「そうですね」
「うん」
「えぇ」
他三人も懐かしそうも、どこか悲しげな雰囲気だった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「でも・・・・・・。もう、それも出来なくなってしまうな。俺達の後輩に託したくても、無理だからな」
「え?」
「・・・・・・」
二階堂の言葉に如月と武部は目をぱちくりとさせる。
一瞬意味が分からなかった。そして同時に嫌な予感が過ぎる。
「いいか、如月、武部。これは、今のところは他言無用だ」
「・・・・・・
「・・・・・・」
「如月ちゃん、武部ちゃん。あのね・・・・・・。この大洗女子学園は―――――
―――――今年度いっぱいで廃校になっちゃうかも、なんだ」
「え・・・・・・」
「・・・・・・」
武部は呆然となり、如月は浅く俯く。
この予感は当たって欲しくない。そう思っていたのだが、現実は甘くは無い。
冗談であって欲しかったが、四人は悲しい表情を浮かべている。
「え、えぇぇぇぇぇぇ!?!?」
そしてようやく状況を飲み込めた武部は声を上げる。
「は、廃校って、そんなっ!?ぜんっぜん知らないですよ、それ!!」
「・・・・・・」
如月も廃校の件は一切知らなかった。
「地方新聞には『統廃合の可能性が』と言う記事が載っていた事もあるんだ・・・・・・。学園艦は維持費も運営費もかかるから、全体数を見直すって。
生徒の大半は寮生活だから、新聞を読まない者が殆どだろうから、知らないはずだ」
ポツリと河島が肩を震わせながら言う。
「二階堂先輩も、気付いていたんですか?」
「最初は知らなかったさ。だが、突然の戦車道復活に少し怪しく思って、中島に調べさせた所、分かったのさ」
「・・・・・・」
「それに、目立った成績が無い学校から廃校にするみたいだ。そしてその廃校の第一候補にうちが挙がっているなんてことも。しかも来年度には、って話で・・・・・・。も、もうダメだよ、柚子ちゃぁぁぁぁんっ!!」
ついに河島は泣き出して小山に抱き付き、小山は河島の髪を撫でる。
「まだわかんないよ」
「あぁ」
しかし二人、角谷会長と二階堂は表情を引き締める。
「その為に、戦車道を復活させたんだから。西住ちゃんと如月ちゃんが居ればきっと、優勝できるよ」
「いいや。優勝しなければな。でないと廃校の決定は覆せれない」
フッと不敵な笑みを浮かべる。
「だって、まさか優勝校を廃校には、しないよね?~」
単純な考えだが、確かにこれ以外に方法は無い。
「え、いえ、そうかもしれません。だけど・・・・」
武部は疑問に思う。
「ど、どうして、私に言うんですか!?わざわざこんなあんこう鍋まで用意して!?だって、打ち明けるなら、翔さんならまだしも、私なんかより、みぽりん・・・・・・西住さんとかの方が適任でしょうし!」
「・・・・・・」
「そりゃ、まぁね。ほんとは西住ちゃんに伝えるべきなんだけどねー。でもほら、彼女は転校してきたばかりだから・・・・中々ね」
「・・・・・・」
「絶対に言わなきゃいけない事、なのは間違いないんだけど。でも、いきなり重荷を背負わせて、萎縮するより、ノビノビと試合をして欲しいからさ~」
「あ・・・・・」
(そういう事か)
如月は角谷会長の意図を察する。
こんな重大な事を打ち明けられたら、西住は恐らく動揺する。無茶をしかねないし、悩みに悩んで塞ぎ込むかもしれない。
全ては西住の為の、配慮だった。
「だから、武部ちゃんにしたの」
と、角谷会長は武部に指を差す。
「ほら、武部ちゃんってさ、なーんとなくあんこうチームのムードメーカーっぽいしょ?でさー、頃合いを見計らって西住ちゃんに話しておいてくれない?うんうん、じゃぁ頼んだ!」
丸投げすぎるし、これはあまりにも酷い・・・・
「で、私にも伝えたのは・・・・?」
武部だけならまだしも、なぜ私までこの事を告げられたのか。
「ほら、如月ちゃんって何事にも冷静でいるし、感情的にはならないと思ったから」
「・・・・・・」
「俺が見込んだ上で、この事を伝えたんだ」
「・・・・私も買い被られたものだな」
少し納得が行かないが、聞いてしまった以上引き下がれない。
「だからさ、如月ちゃんは副隊長として、西住ちゃんを支えてやってね」
「・・・・・・」
どうもしまらないが、了承して軽く縦に頷く。
――――――――――――――――――――
その後あんこう鍋を堪能し、如月は家路につく。
(廃校、か。かつての仲間達と再会し、新たな仲間達が出来たと言うのに・・・・・・またバラバラになるのか。
・・・・・・また、私は一人になるのか)
一瞬そんな考えが過ぎるも、すぐに頭を振るって考えを振り払う。
「何を弱気になっている。大丈夫だ。普段どおりにやれば、大丈夫だ。そうだ、だからこそここまで来れたんだ」
弱気になった自分が情けない。事に絶対は無いが、それは同時に勝利と敗北も絶対ではない。
そうして自分に言い聞かせて気を保つ。
「・・・・へっぶしっ!」
と、思い切ってくしゃみが出る。
「・・・・本当に冷えてきたな」
肌寒くなり、少し鳥肌が立っている。
「・・・・・・」
すぐに近くにファミレスに立ち寄って中に入る。
――――――――――――――――――――
「はぁ・・・・」
席に座り、温かいココアを一口飲んで一息つく。
中は暖房が効いて、温かいココアを飲んだので体がポカポカだった。
(たまの贅沢も悪くはないな)
お金はかなりの量があるが現状では有限であるので、あまりこういう飲食店に立ち寄る事は無い。
(さてと)
と、如月が立ち上がろうとしたが、ファミレスに二人が入ってくる。
「・・・・?」
どこか聞き覚えのある声がして、顔を声がした後ろに向ける。
(西住?それに――――)
入ってきた二人の内一人は西住で、もう一人は和服を着た女性であった。
(菊代さん?どうしてここに?)
女性は西住の家に仕える家政婦で、時より西住の家に行った時に会う事が多かった。
しかし何より、どうして西住家の家政婦である菊代さんが学園艦に居るのかが疑問だった。
「・・・・・・」
如月は座り直して、左斜め後ろに座った西住と菊代さんの話に耳を傾ける。
(あまり盗み聞きは趣味ではないが・・・・)
どうしても気になるので、その場に留まる事にした。
「菊代さん。いつも手紙ありがとう」
「いえ。みほお嬢様もお元気そうで安心致しました」
二人の会話はそれから始まる。
「・・・・・・」
「最近のみほお嬢様のご活躍・・・・・・拝見しております」
「・・・・・・」
まぁ、大洗は今大会の注目校として一目置かれている。当然と言えば、当然・・・・・・
「・・・・菊代さんが来たのは、その事ですか?」
真剣みを帯びた声で西住が聞くと、菊代さんは一瞬動きを止める。
「はい・・・・」
少しして手にしているカップを受け皿に置く。
ドクン・・・・
一瞬心臓の鼓動が高鳴る。
「今日私が来た事でお分かりかと思いますが・・・・・・。今回の大洗でのみほお嬢様の件――――――
―――――既に奥様もご存知です」
「・・・・・・」
すると西住の表情に影が差す。
「・・・・やっぱり」
表情に影が差すも、事実を受け止める。
「・・・・・・」
しかし、如月はこれまでにない、嫌な予感に襲われていた。
「この様な事を私などが申し上げるのも、はばかれるのですが・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
心臓の鼓動は次第に高まり、額には冷や汗を多く掻いていた。
嫌な予感を覚えた瞬間如月の脳裏には、すぐにその答えが出てきた。
これほど、予測が当たって欲しくない事は無い。
「もしも、今回の準決勝。みほお嬢様がプラウダ高校に負けることがあれば―――――」
「・・・・・・」
(やめてくれ・・・・)
息を呑み、ダメ元でも、当たらない事を祈り続ける。
「みほお嬢様は西住家から―――――
―――――勘当されます」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
だが、現実は甘くは無い。
当たって欲しくは無い答えが待っていても、非情にもそれが現実である事もある。
「・・・・・・」
如月はふらつきながらも立ち上がり、会計を済ませてファミレスを後にする。
―――――――――――――――――――――
「・・・・・・」
如月はふらきつながら、歩みを進める。
明らかに動揺をしており、視線が泳いでいる。
(西住が・・・・・・勘当、される?)
未だにその現実が受け入れられなかった。
(・・・・なぜ、こんな)
激しく動揺をしている自分にハッとして、頭を振るう。
「・・・・な、なにをあ、焦っているんだ、わ、私は!」
平常心を保とうと声を出すが、声は震えている。
「こ、これは、に、西住の問題じゃないか。わ、私には関係な事だ!」
動揺のあまり頭の中は真っ白である為に、何も考える事が出来ず、かなり他人事の様に言ってしまっていた。
「そ、そうだ。西住が、私の様に一人になるだけ―――――」
一人・・・・一人・・・・一人・・・・一人、とその言葉が胸に突き刺さる。
ドクン・・・・!
一瞬心臓が飛び出るかと思うように鼓動が高く鳴る。
(一人?西住が・・・・一人になるの、か?私の様に・・・・)
更にその言葉が頭の中を飛び交い、胸に突き刺さると胸が痛み出すような感覚に襲われる。
「・・・・・・」
一瞬目の前が暗くなり、瞳のハイライトが消えて虚ろになり、ふらつきながら家へと向かう。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。