「呂布! 半分ずつという約束だろう!?」
一人で袁紹軍を押し戻し、戟を無造作に持ったまま立ち止まっていた恋に華雄が追いついた。
「……早い者勝ち。……それに、月を傷付ける奴は、殺す」
「……それには同感だがな。雪辱を果たす機会が早くも訪れたのだ、これからは私も殺らせてもらうぞ」
「……(コクッ)」
「では、いざっぷ!!」
勇ましく前進しようとした華雄の顔面を恋の戟が強打した。
「な、何をする!」
「……あれ」
抗議の声には反応せず、恋が指を指したのは左右の崖から落とされようとしている岩の塊。
それは昨夜、目が覚めた華雄が己の不甲斐なさをぶつけた結晶。抉られた岩石を想愁が一晩掛けて転がりやすく球形に整えたものだった。
「落石後に再度一当てだったか……」
「……策もだいじ」
やがて斜面を滑り落ちる岩石は袁紹軍を飲み込んでいく。真っ直ぐに落ちた袁紹軍の横から、崖にある出っ張りで不規則に跳ね上がった岩石は真上から兵達を強襲した。
前方を塞ぐようにして積み上がった岩石に袁紹軍が途方に暮れていると、再度彼らの背後に対して同じような大きさの落石が続いた。
これにより道を塞がれた袁紹軍と、殿を彼らになすりつけようとし撤退をし始めていた袁術軍の両軍は落石により身動きがとれない状況に陥っていた。
「狙い通り袁家両軍とも連合軍からの孤立を果しました。恋殿、華雄殿も健在です」
ひとまず作戦の第一段階は成功したか。思ったほど袁術軍に対して打撃を与えられなかったのが残念ではあるが、ここで時間を掛けるわけにはいかない。迅速に次の行動に移ろう。
「じゃあ俺達も出るか。恋達と合流次第、一当てするぞ」
「はっ!」
二人の返事を聞き、残っていた数名の兵とともに虎牢関を出陣した。
恋達のもとに合流したときにはすでに陣が整えてあった。一緒に来た兵には末席に加わるよう、詳しい配置に関しては茉莉に任せ、俺は最前線へと向かった。
「……やっときた」
「遅いぞ!」
「……これでも作戦通りに動いてるんだがな」
まるで友人との待ち合わせ時刻ギリギリに待ち合わせ場所に来た奴みたいな、そんな既視感を抱くやりとりだな。
「……兵の配置、完了しました。敵の数は膨大だというのに士気は高いままで、作戦への支障はなさそうです」
遅れて茉莉がやってきた。士気の高さは俺も感じた。これも皆、月を慕っているからだろうな。
「では早速行こうではないか!」
「……いっても、いい?」
いつの間にかに騎乗を済ませ、もはや止めても無駄な雰囲気を纏った恋が、辛うじて(?)最終確認を取ってきた。もちろん止める理由もない。存分に力を発揮してもらおうじゃないか。
「最初の一撃、月の為に頼む!」
「……わかった」
恋の頼もしい頷きに反応するように、恋の騎乗していた馬が前足を大きく上げて嘶いた。
恋に続くようにして華雄も兵を鼓舞する。
「我らはこれより袁紹、袁術の両名を討ち取る! 奴らは袋の鼠、我らが全力で当たり、負けることなどあり得ん! 全力で突撃し、奴らを蹴散らすぞ!!」
連合軍全体に比べれば十分の一にも満たない少数でありながら、鼓舞された兵達の雄叫びは地響きのように鼓膜を震わせた。
「全軍、我に続け!」
「…………行く」
ものの数秒でトップスピードになった恋達に遅れないよう、俺達も陣の中ほどから追随していく。
かなりの機動力で突撃を開始したが、恋と華雄はさらに速度を上げていく。
このまま行けば俺達は自らの罠に突っ込んでしまう。そうならないように彼女達は先行したのだ。
「……どけ」
「邪魔だぁあ!」
あろうことか、恋は馬を走らせたまま馬上に立ち、踏み台にするようにして跳躍。その勢いのまま岩の塊三つを薙ぎ払い、破片を袁紹軍側へと撒き散らしながら再び馬上へと着地した。
華雄は接触直前に金剛爆斧を振り下ろし前方の道を開け、通りぬきざまに左右の岩を破壊し後続への道を作った。
俺と想愁は恋、茉莉と愛李は華雄に続くよう部隊を二つに分断し、彼女達が開けた道に向かっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
袁術軍、本陣。それも最後方に位置する場所で二人の少女がいた。
見た目も幼き少女はこれでもかと震えながら隣にいる少女へと抱きついていた。
抱きつかれている少女は多少困った顔をしつつも、抱きついてくる少女の様子を見て時折顔を歪めている。それはもう、悦に浸っているという言葉が最もしっくりくるほどである。
幼き少女の名は袁術。此度の反董卓連合軍の総大将である袁紹とは異母姉妹の関係にあたる。
そして、そんな彼女に抱きつかれている者の名は張勲。袁術の身の回りの世話から袁術軍の政治、軍略、開墾など、その全てをそつなくこなす如才ない人物である。
「な、ななな、七乃~! どどど、ど、どうするのじゃ! 後ろも塞がれてしまったのじゃ!」
「あ、あはは~。だ、大丈夫ですよお嬢さま。私達が身動きできないっていうことは、つまり相手も同じってことなんですから。ここは大人しく孫策さんが助けに来るのを待っていれば問題ないと思いますよ♪」
主人である袁術の言葉に軽い返事をする張勲。それでも、最も信頼している者からの言葉だからだろうか、あれほど慌て、喚いていた袁術に多少の落ち着きが戻っていた。
「でも、もう一回落石がきたら、私達ぺちゃんこですけどね」
「ぴぃ!?」
自分が落石に押し潰される想像でもしたのか、袁術は謎の奇声を発した後、動かなくなってしまった。
そんな袁術の様子を見て、満足そうに頷く張勲。
「……まぁ、見た限りこれで終わりみたいですし、そんな心配はしなくても大丈夫だと思いますけどね~」
袁術に聞こえていないことを理解しつつ、まるで周囲にも聞こえるように言い放つ張勲。
自分と袁術のやり取りを聞いていた者達が、にわかに騒ぎ出すことを防ぐためであり、最初からそんな例え話をしなければいいのではと思うが、それ以上に袁術の反応を見たいという私欲のための行動であった。
彼女の主への愛は、とても歪んでいるのである。
「でも、本当にどうしましょうか。早めに孫策さんが来てくれるのが一番ですけど……」
張勲は感じた嫌な感覚を振り払うように考えを巡らせ始めた頃、自分達よりも前方の、前曲で進軍していた袁紹軍のほうから、突如として轟音が鳴り響いた。
「で、伝令ー!」
「は~い。こっちですよ~」
必至の形相で駆けてくる伝令に手を上げて誘導する張勲。その額には走ったわけでもないのに汗がついていた。
「こ、虎牢関側より敵軍襲来! 袁紹様の軍をものともせず進軍してきました!」
「え~っと、虎牢関のほうも落石で道が塞がっていたはずですよね?」
「そ、それが……突如として岩が弾け飛び、人が二人飛び出してきました! あ、あれは、確かに……深紅の呂旗でした!!」
「!!」
深紅の呂旗。その旗を掲げる者は大陸広しといえども一人しかいない。
飛将軍呂奉先。その武勇はもはや生きる伝説とまで噂され、有力な情報の一つに、たった一騎で黄巾党三万の兵を滅ぼした、というものがある。旗はそのときの黄巾党の血を吸ったために深紅に染まったとさえ云われている。
「では、呂将軍は袁紹さんのところの人達に時間稼ぎをしてもらいましょう。あと出来るだけ一箇所に人をまとめて……将軍が来たら必ず三人以上で相手をしてくださいね。くれぐれも時間を稼ぐことだけを考えるように、ですよ?」
絶望的とも言える状況から主人のために出来うる最善を尽くすべく、彼女の脳はフル回転で動いていた。
いつもならとっくに騒いでいてもおかしくない状況で妙に静かだと思った彼女が下を見ると、袁術が気絶したまま転がっていた。
「……もうちょっとだけ寝ててくださいね、お嬢さま」
もういっそのこと兵達で梯子を作り、自分と袁術だけを先に岩の外側に逃がそうか、そんな考えが頭をよぎった時、声が聞こえた。否、聞こえてしまった。
「……袁術、どこにいる?」
【あとがき】
オハヨウゴザイマス。
九条デス。
此度は董卓軍→袁術軍へと第三者の視点が変わっています。
ちょっと前に視点が変わる時、そこで一旦話を区切って、次の話として書くつもりです! みたいなことを書いた気がしましたが、あれは嘘だ。
今回、区切ってしまうと1500字とか、めちゃくちゃ少ない字数になってしまったので、急遽次の話用に書いていた袁術軍の話を盛り込みました。
ネタ作品を除くと1週間ぶりですか……まぁ、よくやったほうじゃないでしょうか(遠い目
華雄さんはこの作品では残念キャラまっしぐら(元々ですね)
とりあえず恋ちゃんカッコかわいい。
ちなみにネタ作品に関してですが、あまりにも支援数が多いので消すのも勿体無いかと思い始めており……
(なんで本編以上に支援数を稼いでいるんですかね。あやつ、全然影など薄くないではないか!)
突然ではありますが、閲覧して頂いた皆様に作品を残すか、一旦削除し本編終了時に再度投稿するか、どちらかを選択していただきたいと思います。
●対象作品●
・思いつきの恋姫ネタ ①及び②
●アンケート方法●
・コメントに一言「残して欲しい」「削除していい」
●???●
・残す場合、本編を最初から読みなおす場合、対象作品が混ざり一気読みしづらくなる
・削除する場合、対象作品を再度投稿するまで読むことが出来ない。
(小説家になろうで短篇集という形で、即座に投稿することは可能)
・支援数が14だったので、14コメぐらい来るといいな……。多数決に慈悲はない。
以上。コメントをお待ちしております。
それでは次回まで、(#゚Д゚)ノ[再見!]
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一章 反董卓連合編
第七話「天然悪人、非常時善人」