「これなんかどうかな?」
そう言って瑠菜さんは試着した服を俺に見せる。
「とても良くお似合いですよ」
「…一刀、さっきからずっと同じ返事ばかりなんだけど。もうちょっと具体的な感想みたい
なものは無いのかしら?」
瑠菜さんはそうむくれた顔で文句を言うのだが…正直、既に試着の回数が十回を超えてい
るので何がどう違うのかこういう事に疎い俺にはさっぱり分からないというのが本音だっ
たりする。それを口に出したら何だか恐ろしい事になりそうなのでやめておくが。
ちなみに言うまでもなく此処は服屋であり、瑠菜さんが自分の着る服を買うから付き合え
というのでてっきり荷物持ち辺りかと思えば、さっきから瑠菜さんが試着した服を見せら
れては感想を聞かれるというのを繰り返しているという状況である。
瑠菜さんは同じ感想ばかりだとは言うのだが、実際の話として瑠菜さんは美人でスタイル
抜群だし、何を着ても一流モデルばりの着こなしになるので文句のつけようも無いという
のも事実ではなるのだが。そしてそれを裏付けるかのように瑠菜さんが試着室から出て来
る度にギャラリーも増え続けていて、既に十数人程が集まっているという状況でもあった
りする。そして、瑠菜さんが着たのを見て余程良く見えたのか、それと同じ服を買う人も
いて、店側もある意味ファッションショーみたいな状態になっているこの状況を止めよう
ともしない。実は、張三姉妹と及川も店にいたのだが、瑠菜さんの試着に客が集まるのを
見て及川が三人にファッションショーを舞台でやる事を提案してそれにのった三人が猛ダ
ッシュで店を出て行ったという一幕もあったりする。
「ふふ、良い買い物が出来ました。これも一刀が来てくれたおかげね」
それから一刻後、買い物を終えた瑠菜さんと俺は茶店で休憩をしていた…本当に女性の買
い物ってもっと短くならない物なのだろうか?
「でも俺は瑠菜さんの助けになるような感想なんかほとんど言ってなかったんじゃないかと
思うのですけど?」
「こういうのはね、誰かに見てもらうというのが重要なのよ。特に異性に見てもらうってい
うのがね。本当に具体的な感想が欲しいなら樹季菜か沙和にでも来てもらうわ…でも」
「でも?」
「何を着て出ても『お似合いです』の一言だけというのはさすがにいただけないと思うわよ」
「そう言われても…そもそも俺はあんまり服とか今まで気にしてこなかったもので」
「確かに男の子ならそういう事もあるのでしょうけど、女性に対してもそれではダメよ」
ううむ…なかなかに難しい話だな。確かに前にじいちゃんが『女性の細かい変化に常に気
付いてそれを褒める事が出来る心配りを持つ事が重要なのじゃ』とか言ってたけど…瑠菜
さんの言っている事もそういう事なのかな?
「さて、それじゃ…次に行きましょう」
「次?まだ何処かに行くんですか?」
「一刀は私と一緒はもう嫌?」
「嫌では無いけど『なら行きましょう』…はい」
はぁ、どうやらまだまだ解放はされないという事か…仕方ないな、今日は瑠菜さんに付き
合うって決めた以上は肚をくくるとしましょうか。
それからしばらく瑠菜さんの買い物に付き合い(というか此処からはほとんど荷物持ちだ
ったのだが)、瑠菜さんの屋敷に戻って来たのは夕刻近くになってからであった。
「さあさあ、上がって上がって。遠慮なんかいらないわよ」
瑠菜さんに言われるまま屋敷に入るが…前に瑠菜さんの使用人としていた頃とほとんど変
わっていないな。とはいってもあれからそんなに凄く日が経っていたわけでも無いから当
然なのかもしれないが…でも、凄く前のような気もするし、不思議な気持ちだな。
「荷物はそこに置いてくれたら良いから。今お茶を出すから後は適当に座っていて」
俺は言われた場所に荷物を置いて近くに椅子に腰を下ろす。奥の方から瑠菜さんがお茶の
用意をする音だけが聞こえてくるのだが…あれ?
「ねぇ、瑠菜さん?使用人の人達は誰もいないの?」
「今日は皆にお休みをあげたから屋敷にいるのは私達だけよ」
えっ…この屋敷にいるのが俺達だけ?幾ら洛陽の治安が良いからといっても将軍職にある
者の屋敷の警護が皆無ってそれは問題な気がするのだが。
「大丈夫、警護の者達にはちゃんと屋敷の周りにいてもらっているから。休みなのは屋敷の
内で働いてもらっている人達だけ」
俺がそう懸念していたのを察したのか、お茶を運んできた瑠菜さんがそう言ってくる。
「なら良かったんだけどね」
「本当は、そういうのも無しで一刀と二人っきりでいたかったのだけどね」
瑠菜さんはそう言いながら俺の横にピタっとくっついてくる…此処で『お茶が飲みにくい』
とか言ったら殴られそうだな。
それから特に何か話すというわけでもなく、ただお茶を飲んでいただけであったのだが…
段々と瑠菜さんが密着してきている気がするのは気のせいか?
「ねぇ、一刀?やっぱり私みたいなおばさんは嫌い?」
「へっ!?一体それはどういう…?」
しばらくして瑠菜さんが唐突にそう聞いてくる。
「だから、やっぱり一刀はもっと若い女の子の方が好きなのかなぁって…だって、さっきか
らずっと私がこうくっついているのにまったく知らない顔だし」
確信犯っすか、これ…知らない顔などというのはまったくの見当違いなんですけど。既に
俺の心臓はバクバクいきっぱなしだし、冷静な思考などもはや因果地平の彼方へ飛んで行
ってしまっているのだが。
「で、でも何で俺にそんな…」
「前にも言ったわよね『私は何時でも良い』って。だから何時か一刀が私にって思ってずっ
と待っていたのよ。夢様や空様とはあんなによろしくされているのに…だから私みたいな
おばさんじゃダメなのかなぁって」
えっ…前にって、そういえば初めて瑠菜さんからキスされた時にそんな事を言っていたよ
うな気がする。そうだったのか、それじゃずっと俺の事を…そこまで言ってもらえて何も
感じないわけがない。
「そ、そんな事無いですよ。今だってこうやって瑠菜さんとくっついているだけでドキドキ
しているんです」
「本当に?それじゃ、ちょっと確認するわね」
瑠菜さんはそう言って俺の服のボタンを二個程外して、その手をその隙間から差し入れて
くる。うわぁ…瑠菜さんの手の感触と温度が伝わってくるみたいだ。当然そんな状態で俺
の心臓と下半身の一部が通常状態なはずはなく…しかもそれは完全に瑠菜さんに筒抜けの
状態でもある。
「あら…ふふ、どうやら私みたいなおばさんでもちゃんと反応してくれるようね」
そう呟く瑠菜さんの顔を声は何だかうっとりとした感じになっていた。
「瑠菜さんがおばさんだなんて、とんでもない事です…瑠菜さんはとても若くて綺麗ですよ」
「あら、嬉しい事言ってくれるわね…それじゃ」
瑠菜さんはそう言うとそっと眼を閉じる…これはもはやいく場面だろう。っていうかもう
止まらないからな!!
俺は瑠菜さんと唇を重ねる。そしてしばらくそうしていると瑠菜さんの手が俺の股間に伸
びてきて怒張しまくったそれをズボンから出すと柔らかく包み込むかのようにそれをさす
り始める。
その感触と俺の口の中でうごめく瑠菜さんの熱い舌の感触と甘い唾液の味に俺の頭の中は
完全に真っ白になっていた。
正直、そこからの記憶ははっきりとしていない。ただ、瑠菜さんの吐息の熱さと甘い声と
豊満な身体の感触だけは俺の中にしっかりと残っていたのであった。
・・・・・・・
「うん…あれ、朝…かな?」
「ええ、朝よ。おはよう、一刀」
へっ!?…あれ、此処って、そうだった。
「おはよう、瑠菜さん…で良いのかな?」
「それで良いんだけど?変な一刀♪」
瑠菜さんはそう言って微笑んでいたのだが…全裸でいるのが何だか恥ずかしくなってきた
んですけど。しかも何か忘れているような…そうだ!
「俺、此処に泊まるって誰にも言ってない!」
そもそも瑠菜さんの屋敷に荷物を置いたら帰るつもりだったから、北郷組の面々にも何も
言っていない…まさか今頃慌てて捜されてたりとかするんじゃ!?
「大丈夫よ、陛下の警護の事で少し遅くまで引き止めちゃったから今日は此処に泊まるって
使者は出しておいたから」
何と!?っていう事はまさか…。
「ご名答♪最初からこういう事をスるつもりで一刀を引っ張り込んだのよ」
ははっ…最初から瑠菜さんの掌の上って事っすか。
「大体、そもそもは一刀が悪いのよ。こういうのはちゃんと男の子の方から導いてあげない
といけないの。皆が空様みたいに平気で実力行使に出る娘ばかりじゃないんだからね」
ええーっ、そこで俺が悪者ですか?でも此処まで関係を持った全員が向こうからのアプロ
ーチなのも事実だな…やはりこういうのは男からのリードというのが大事なのか?確かに
このままじゃ甲斐性なしみたいな感じになりそうな気もする。
俺がそう考えていると、不意に瑠菜さんが俺の頬を軽くつねってくる。
「痛っ、突然何を…」
「色々考えるのは後でも出来るでしょう?今は…ただ私だけを見て」
瑠菜さんのその言葉に俺はクラクラするような衝撃を感じる。そして、どちらかという事
もなく顔を近付け唇を重ねる。すると昨晩あんなにシたはずなのにまた俺のアレが元気に
動き出してくる。そしてそれを瑠菜さんが見逃すはずもなく…。
「ふふ、若いって凄いわね…もう一回する?」
その言葉を俺が拒否するわけもなく、結局それから二回ばかりシたのであった。
それからしばらくはこれといってなにも無かったのだが(瑠菜さんとはさらに何回かヤッ
ていたりするだけで)…。
「一刀、瑠菜、ちょっと良いかの?」
ある日の朝議の後、俺と瑠菜さんが命に呼び止められる。
「どうした?何かあったのか?」
「何かあったというのか…これからもあるというのか…少々気になる事があって、の」
気になる事…一体何だろう?
「オッホン!一刀、ここ最近随分と瑠菜の屋敷に通っておるようじゃが、一体何をしておる
のじゃ?」
えっ、ここ最近っていったら…どうしよう、あれしか思い浮かばん。でもそうだと言って
しまって良いのか?別に悪い事をしているわけじゃないのだが…この、そこはかとない罪
悪感は何だろう。
「何をと仰られますが、私と一刀は共に陛下の御身辺の警護の責任者ですので、それについ
ての打合せで来てもらっていただけですけど?こちらがその報告書となります」
瑠菜さんはそう言うなり一冊の冊子のような物を命に差し出す。
そういえば確かに瑠菜さんの屋敷に行ってヤッていただけというわけでも無く、事実この
仕事に関する打合せもしていた。まあ、その後でそのまま…って事が多かったのも事実で
はあるのだが。
しかし、こういうような事態になった時って女性の方が強いって聞いてはいたけど…瑠菜
さんの顔色はまったくといって良い程に普段と変わりが無い。俺だけだったら絶対うろた
えまくった挙句に瑠菜さんとヤッた事がばれる展開だっただろうな。
「そ、そうか…うむ、この報告書は受け取っておく。また後日改めて内容について質問する
かとは思うが、その時はまた改めて呼び止めるでな」
命のその言葉に俺と瑠菜さんは揃って頭を下げる。
その時、チラッと瑠菜さんの顔を見るとこっちに向かってウインクしていた。どうやら瑠
菜さんは、命がこう言ってくるであろうことを見越して対応出来るようにしていたようだ。
ははは…もはやお見事と言う以外に無いな、これは。
「ならばもう一刀は仕事に戻って良いぞ。瑠菜は他にも聞きたい事があるからもう少し此処
に残れ」
瑠菜さんだけ残るって…まさか瑠菜さんに改めて俺との事を聞くのか?でも俺が残っても
多分足手まといになるだけだろうし…仕方ない。
俺は何も起こらない事を祈りつつ部屋を後にしたのであった。
・・・・・・・
「な、なあ、瑠菜よ。本当に一刀とは仕事の打合せ…だけだったのか?」
一刀が部屋を出て数分経った後、ようやく口を開いた命が瑠菜にそう聞いてくる。
瑠菜はそれを聞いた瞬間は少しきょとんとした顔をしていたのだが、内容を理解するなり
プッと吹き出していた。
「な、何がおかしいのじゃ!?」
「いえいえ、私だけを残すから何事かと思えば…でも、本当にそれだけをお聞きになりたい
のであれば、私ではなく一刀を残した方がご都合がよろしかったのではないのですか?」
「本当はそうしたい所じゃったが…そうなれば絶対お主は何だかんだと理由をつけて自分も
残るであろう?」
「さあ、それはどうでしたでしょうね?もしかしたら私が一刀を見捨てて逃げていたかもし
れませんよ?」
しれっとした顔でそう言ってくる瑠菜に命は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「じゃが…お主がそう言ったという事は、やはり、その、そういう事なのか?」
「あら、おかしな事を仰られますね。前にも申しましたよね、私と命様のどちらが先に一刀
の子を身籠るか勝負だと。だから私にそれを躊躇する理由など何処にも無いのですけど?」
「そ、それは、そうなのじゃが…」
そこで何やら口ごもる命の顔をじっと見つめていた瑠菜が、
「命様、もしかしたらとは思ってはいましたが…まさか、夢様にお子が出来たから安心され
ておられるとかいう事はございませんよね?」
そう聞いてくると命はハッとしたような顔になる。
「やはりですか…確かに夢様にお子が出来た事によって、漢の血筋は継承される事にはなり
ましょう。漢の社稷を守るという事では既にそれで目的は達成されてはいます。さらに言
えば、劉家の血筋のお子がこれ以上増えなければ余計なお家騒動が起きる事も無い…そう
お考えになられたが故に、一刀への接近を躊躇されておられるという事ですね?」
瑠菜にそう言われ、命は完全に言葉に詰まっていた。
「…確かにそうなのかもしれん。夢が一刀の子を身籠ったと聞いた当初はこれでもかとばか
りの嫉妬が湧き出て来たのじゃが…時間が経つにつれ、このまま妾が一刀の子を身籠る事
が無い方が漢の為には良いのかもしれないと心の何処かで思うようになってきてしまって
いたのじゃ。そして一刀には夢の婿として皇族に入ってもらえばと…でもそれとは別の何
かが妾の中でそれを拒むのじゃ。じゃから一体どうすれば良いのか妾にも段々分からなく
なってきてしまっておるのじゃ」
「ふん、一体何を悩んでいるのかと思えば…馬鹿馬鹿しい」
そう言って入ってきたのは…空であった。
「母様、馬鹿馬鹿しいとはどういう意味ですか!?」
「馬鹿馬鹿しいにそれ以上もそれ以下も意味があるか!単にお前のその悩みが馬鹿馬鹿しい
と言っただけだ」
「如何に母様とはいえ、そのお言葉は過ぎましょう!妾は皇帝として漢の行き先を考えた上
で悩んでいるのです!」
空の言葉にさすがに命も怒り心頭の眼差しで睨みつける。
「それで、その年で全てを諦めて国の為にその身を捧げますとか言うのか?何時からお前は
そんな頭でっかちな人間になったんだ?はっきり言うが、お前にはそんな事は似合わない
し、そんな事で皇帝を続けていた所でそう遠くない内に破綻するだけだからやめておけ」
「なっ、それはどういう意味ですか!?」
「お前のような即行動な人間がそんな事をし始めた所で成功せんと言っている。もし夢が皇
帝ならば今のお前のような考えでいっても問題は無いだろうがな。劉弁という皇帝は何よ
りもまず行動あるのみだろう?それは政でも色恋沙汰でも何ら変わる事は無い」
「そうですよ、姉様。私に気を遣う必要など無いのです。姉様に子が出来ればその子が次代
皇帝となるのです。私の子は皇族としてそれをお支えするのみですから」
そこに夢が大きくなったお腹を労わるようにゆっくりと入ってきてそう言葉をかける。
空と夢の言葉を聞いた命はしばらく何事か考え込んでいるような感じであったのだが…。
「そうか、ならば妾はもう迷わんぞ。瑠菜、勝負はまだまだこれからじゃ」
「ふふ、私とてまだまだこれからですよ」
二人はそう言って笑いあっていた。しかし…。
「ならばその勝負、私も加わってやろう」
空がそんな事を言い出したが為にその場の和やかになりかけた雰囲気が再び一変する。
「なっ、母様!?母様までって、しかし…」
「私とて既に一刀とはわりない仲だぞ?十分にその権利はあるだろう」
しれっとそう言い放つ空に命と瑠菜は少々警戒を強めた表情で見つめていた。
「やれやれ、大変な話ですね。まあ、一刀なら責任はちゃんと取ってはくれるでしょうけど
…でもあなたのお父上はなかなか罪作りな人ですね~」
夢は一人お腹をさすりながらそう呟いていたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回は、ようやく瑠菜さんがお手付きになったという
お話でした。そして後半には少しばかり命の心情も絡
めてみました。さてこれから一刀も大変ですね(笑)。
とりあえず次も拠点です。と言ってもいきなり
命の話になるかどうかは未定ですが(エ。
それでは次回、第五十七話にてお会いいたしましょう。
追伸 ちゃんと命とのそういう話はありますので、もう
しばらくお待ちください。
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お待たせしました!
今回も拠点…ていうか瑠菜さん編です。
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