story30 自分だけの戦車道
如月たちが白いティーガーと戦っている間、ウサギチームとタカチーム、カバチームはT28を必死に押さえて時間を稼いでいたが、途中でM3が撃破され、その後は撃破には至らなかったがⅢ突と九七式で時間を稼いでいた。
ちなみにその間にチャーチル・ガン・キャリアーと履帯を修理したヘルキャットが四式撃破に移動していたが、霧と発煙筒による白煙で不意を付いて背後から四式より砲弾を命中させられて二両とも返り討ちに遭った。
「一同!礼!」
『ありがとうございました!!!』
最初挨拶した場所で大洗と神威のメンバーは礼を交わした。
直後に観客席より拍手喝采が起こる。
「しかし、本当に信じられません」
「うん。あの神威女学園に勝てるなんて」
「多少の運があったかもしれないけど、それでも勝てたのは、ちょっと信じられないね」
早瀬達は未だに神威女学園に勝てた事が信じられない様子だった。
「・・・・・・」
見れば神威女学園の生徒も拍手をして私たちを祝っていた。
無表情だが、神楽も拍手を私達に向けている。
「・・・・・・」
しかし如月は正直どう感じて良いのか、分からなかった。
――――――――――――――――――――
その後砲弾が掠った痕が多く残り、履帯が外れた五式と誘導輪が吹き飛ばされたⅣ号、車体後部が焦げた38tと三式、正面装甲が焦げたルノーと八九式、副砲塔上部が吹き飛び、正面装甲が焦げたM3が学園艦へと運ばれて行く。
その後を四式と九七式、Ⅲ突が走行して続く。
「・・・・・・」
その光景を如月はただ見つめていた。
「無茶を・・・・・・させたな」
最後尾で運ばれていく傷だらけの五式を見つめながら、ボソッと言葉を漏らす。
「あ、あの」
と、西住が如月の所にやって来る。
「・・・・・・」
如月は眼帯が取れた左目があった場所に痛々しく残る深い傷痕を見せないように髪で隠しながら後ろを振り返る。
「如月さん。一つ聞いても良いですか」
「・・・・・・」
西住の表情は真剣そのものだった。
「今回の行動。やはり、無茶が過ぎます」
「・・・・・・」
「たったの一輌では、苦戦を強いられるのは分かっていたはずです」
「・・・・・・」
「勝てたからいいとしても、本当に無茶だけはしないでください」
(西住・・・・)
「・・・・・・助けてもらったのは嬉しいです。でも、あんな無茶をして、もし下手をすれば・・・・・・あの時の様に・・・・」
と、表情に影が差す。
「あの時とは、違う」
「・・・・・・」
「・・・・だが、すまなかったな」
如月は頭を下げる。
「・・・・・・」
「さすがに今回は無茶をしたと思っている。今後は控えるようにする」
「如月さん・・・・」
「翔、西住みほ」
と、如月と西住の元に、まだパンツァージャケット姿の神楽がやって来る。
「早乙女さん」
「・・・・・・」
早乙女が来たことに、如月は一瞬警戒する。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらく沈黙が続くが、早乙女が口を開く―――――
「・・・・完敗ね」
帽子を脱いだ神楽はさっきまで真剣な表情だったが、微笑を浮かべる。
「やっぱり、あなたを見込んでよかった」
「・・・・・・」
如月は目を細める。
「別に早乙女流に入らないかって言う勧誘じゃないわ。ただの評価よ」
「・・・・・・」
「単騎で挑んだのは予想外だったわ。まぁフラッグ車を守ると言う行動理由であれば納得はいくけど」
「・・・・・・」
一瞬西住が如月を見る。
「廃村を使った地形戦略も中々ね。それに私の裏を更に掻いた、もしくは私の掻きすぎと言う見方もあるけど、私のティーガーの後ろを取ったのは、評価に値する」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それに、あの時のあなたの行動で、確信を得た」
「・・・・・・」
思わず息を呑む。
「あの時、撃破出来るチャンスを捨ててまで仲間を助ける事を優先した。しかも、自分が代わりにやられる可能性だってある中でも、構わずに突っ込んできた」
「・・・・・・」
「自己犠牲精神と言うのは、あまり好ましいものではないわ」
「そう、だな」
「でも、撃破より仲間を助ける事を優先にした行動は・・・・早乙女流としても十分に、通ずるものだった」
「・・・・・・」
「認めるわ。あなたの強さを。そしてその信念をね」
「・・・・・・」
「それと、西住みほ」
「は、はい」
思わず西住は声が上ずる。
「去年の全国大会。あなたの行動を良く見ない者が多い試合結果だったけど、私はそうとは思わないわ」
「・・・・・・」
「あなたの行動は正しいわ。何においても、命より大切な勝利など無い」
「・・・・・・」
「あなたはあなたらしい、戦車道を信じればいい。西住流とは違う、自分だけの戦車道を」
(自分らしい・・・・・・戦車道)
「・・・・あなたは、いい友達を持ったわね」
早乙女は優しい微笑みを西住に向ける。
「早乙女さん」
「・・・・・・」
「準決勝・・・・あなた達の健闘を祈るわ」
早乙女はそう言うと後ろに振り返り、如月達の元を離れる。
『・・・・・・』
如月達はその後ろ姿をただ見送った。
「・・・・早乙女さん」
早乙女の後ろ姿が見えなくなって、西住は言葉を漏らす。
「言っただろ。お前の考えを理解してくれるやつは居ると」
微笑を浮かべて如月は西住の肩に手を置く。
「・・・・・・はい!」
西住も笑みを浮かべる。
「そ、それはそうと、さっきの早乙女さんの言い方だと」
西住はある事に気付き、如月は少し反応する。
「・・・・すまない。あれは・・・・私の私情による行動だ」
「・・・・・・」
「もちろん、お前達を守る為、でもある」
「如月さん」
一瞬厳しい表情になるも、「はぁ・・・・」とため息を付く。
「今回だけですよ。次は・・・・」
「・・・・あぁ。分かっている」
如月は軽く縦に頷く。
(それに、自分らしい戦車道、か)
ふと、早乙女の言葉が脳裏に浮かぶ。
(そうだな。私は私らしい戦車道をやればいいんだ。早乙女でも、斑鳩でもない。私の戦車道をやればいい)
その言葉が大きく如月の心に響いた。
(自分で西住に言っておいて、他のやつらから言われたら自分に響くとは、変な話だな)
思わずフッと声が漏れる。
「どうしたんですか?」
それを聞いた西住は怪訝な表情で私に問い掛ける。
「・・・・何でもない」
如月は照れ隠しとして学園艦に向かう。
「あっ!待ってください!」
西住は慌ててその後を追う。
――――――――――――――――――――――
「・・・・・・」
観客席の上で、焔は腕を組んで柱にもたれかかっていた。
(ふん。早乙女も所詮戦車道の邪道流派でしかないな。あんな弱小高に負けるなど)
鼻で笑うと組んでいた腕を解き、真っ直ぐに立つ。
(だけど、これはこれで面白い事になったな)
と、口角が邪悪に釣り上がる。
(早乙女の野郎に借りを返せれなくなるが、その代わりにあの汚れた血をぶっ潰せれるチャンスがあるんだからな。駆け上がって見せろ。そして私に潰されるがいい)
頭の中で想像が膨らみ、自然と意識していなくても悪い笑みが浮かびながら、焔は観客席を後にする。
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『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。