No.729375

IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜

終わる祭り。残る傷跡。

2014-10-11 17:40:18 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1220   閲覧ユーザー数:1189

「だぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

一夏の裂帛の気合いが乗った雪片弐型の斬撃がエミーリヤのランスに止められる。

 

「もらったぁっ!」

 

そこに瑛斗がビームブレードで斬りかかる。

 

「甘いわねぇ!」

 

しかしエミーリヤは空中で縦に一回転してそれを躱した。

 

「二人まとめてぇっ!」

 

エミーリヤは背後にアクア・ナノマシンを展開し、瑛斗達へ向かって水の弾丸を雨のように降り注ぐ。

 

「なめるなっ!」

 

一夏は左手の荷電粒子砲《雪羅》を使って弾幕に穴を開け、そこをくぐってエミーリヤへ肉薄する。

 

「はぁぁっ!」

 

「やるじゃない? でもぉ」

 

エミーリヤは更なる斬撃をいとも容易く受け切った。

 

「もう一歩、たりないんじゃなぁい?」

 

「くっ…! どうして楯無さんを襲うようなことをした! こんなことをして何になる!!」

 

エミーリヤとの力比べの中、一夏は怒鳴るようにして問う。

 

「愚問ねぇ! 知らないわけじゃないんでしょ!?」

 

「国家代表になれなかったことが、そんなに悔しいのか!?」

 

「悔しい? そんな言葉じゃ表せないのよぉ!!」

 

「だったら!」

 

数秒遅れて瑛斗も一夏へ加勢する。

 

「どうしてエリナさんとエリスさんを巻き込んだっ! 二人をそうした理由は何だっ!?」

 

「うざったいわねぇっ!!」

 

エミーリヤが瑛斗と一夏に背を向けて遠ざかる。

 

「待てっ!」

 

「逃がすかぁっ!」

 

追いかけよう動く瑛斗と一夏。

 

「かかったわねぇっ!」

 

しかしそれはエミーリヤの罠であった。

 

 

ザバァッ!!

 

 

海面から飛び出したアクア・ナノマシンに、二人は包まれてしまった。

 

「なんだ!?」

 

「あいつのアクア・ナノマシンか!」

 

「最初からまともに貴方達の相手をする気なんてないのよぉ! そこで見てなさぁい! 私の目的の達成をねぇ!」

 

エミーリヤは二人へ突進し━━━━横を通り過ぎた。

 

「なっ…!?」

 

「しまった!!」

 

二人は肌が粟立つのを感じた。

 

「更識楯無ぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

そう。エミーリヤの目的は楯無。それは瑛斗達を相手にしていた時も変わらなかった。

 

「くそっ!!」

 

一夏が水の壁に雪片弐型を振り下ろす。しかし斬られたところへ水が流れてすぐに埋めてしまった。

 

「そんなっ!?」

 

瑛斗は水壁の向こうのエミーリヤ、そして楯無を見た。

 

(このままじゃ楯無さんが…!)

 

 

━━━━大丈夫。私を使って━━━━

 

 

「…っ! やらせるかぁぁぁぁっ!!」

 

G-spiritが金色に輝き、ボルケーノモードへ変化する。

 

「瑛斗っ!?」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

ゴォッ!!!!

 

 

ボルケーノブレイカーを水の壁へ突きつけると、僅かな振動の後、ボルケーノブレイカーが飛んだ。

 

射出されたボルケーノブレイカーが水の壁に激突すると瞬間のぶつかり合いの後、壁を貫通した。

 

 

バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

エミーリヤはボルケーノブレイカーによる背後からの熱と衝撃に悲鳴を上げる。

 

「やった!?」

 

一夏が声を上げる。

 

「こっ…んな…っ! こんなことでぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

だが、それでもエミーリヤは止まらない。

 

「まだ動くのかよ!?」

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

エミーリヤの怒号。

 

「……ふ…」

 

「!?」

 

一瞬だったが、楯無が笑っているように見えた。

 

「ミス…トル……テ…イン…ッ!」

 

 

ドオォォォォォォォォッッッ!!

 

 

楯無とエミーリヤのちょうど中間点で爆発が起こる。

 

《ミストルテインの槍》。

 

防御に使っているアクア・ナノマシンを攻撃に転用するミステリアス・レイディの最大火力を誇る武装。

 

極めて小規模であっても、人を吹き飛ばすことなど造作もない。

 

「た、楯無さんっ!」

 

爆発の衝撃によって破砕された岩と共に海へと投げ出された楯無。

 

「ちくしょぉっ!!」

 

水の牢から解放された一夏は楯無を抱き上げた。ミステリアス・レイディも限界を迎え、展開が解除されていた。

 

「あいつは? エミーリヤは!?」

 

一夏は左右に首を振るがエミーリヤは確認出来ない。

 

「ふふふ…あははははははははっ!!!!」

 

ふいに上から高らかな笑い声が聞こえてきた。

 

「マジかよ…!」

 

一夏は額から汗を一筋流した。

 

上空に、僅かにダメージを受けているが健在のエミーリヤがいたからだ。

 

「ちょっとびっくりしたけど、わからないのかしらぁ? 更識楯無のアクア・ナノマシンは私には効かないのよぉ!?」

 

「そんな…! 楯無さんのあの距離からの攻撃が…」

 

「防御用のアクア・ナノマシンを攻撃に使う……こういうことかしらぁっ!!」

 

プリンツェサの装甲のアクア・ナノマシンがランスの先端へ集中し、激しく渦を巻く。

 

「まさか、楯無さんの真似を!?」

 

「ふふっ…! 諸共吹き飛びなさ━━━━!」

 

しかし、渦巻いていたアクア・ナノマシンは瞬く間にただの水のようになって、海へと落ちた。

 

「な……何よ!? まさかエネルギー切れ!?」

 

「当然だ」

 

狼狽するエミーリヤに、瑛斗が言い放った。

 

「ISのエネルギーを奪うボルケーノブレイカーをモロに食らって、その上《ミストルテインの槍》の衝撃も受けたんだ。エネルギーが切れない方がおかしい」

 

黄金に光る右腕の装甲が海面を飛び出して瑛斗の右腕に再度装着された。

 

「桐野瑛斗…!」

 

「どうする…? まだやるか!?」

 

「………ちぃぃぃっ!!」

 

エミーリヤは獣のような呻きの直後、垂直に上昇して瑛斗達の前から離脱した。

 

「逃げてくれたか…」

 

G-spiritをノーマルモードに戻して、瑛斗は長く息を吐いた。

 

「どうする瑛斗」

 

「いや、追わなくていい。それよりも楯無さんがやばい。早く手当てをしないと!」

 

一夏の腕の中の楯無は、ぐったりとして動かない。

 

「わ、わかった。急いで戻るぞ!」

 

一夏は楯無を抱きながらIS学園の方向へ飛び立つ。

 

「あ、ま、待てよ!」

 

瑛斗もすぐに後を追おうとしたが、視界に映った自分の右腕に意識が注がれた。

 

(さっきのは一体……)

 

確かに聞こえた声。それは、エリナとの交戦中に聞こえたあの声だった。

 

そしてその声の後に、ボルケーノブレイカーの撃ち出し方が即座に理解出来た。

 

(何か、関係があるのか?)

 

考えかけたが、一夏の姿がみるみる遠ざかるのを見て、思考の中断を余儀無くされた。

 

 

『かくして、儀式の日がやって来ました』

 

録音してあったナレーションの声とともに、暗転した舞台に明かりが灯る。

 

「ふふふ、気分はどう? お姫様?」

 

「…………………」

 

魔女になりきるマドカに、姫役のラウラは檻の中で何も言わずに目を伏せている。セリフが飛んでいるわけではなく、こういう演技なのだ。

 

「もうすぐあなたを生贄にして儀式を始めるわ。もうあなたに逃げる術は無いのよ?」

 

「彼らは来ます。必ず助けに来ると、そう言っていました」

 

「お姫様!」

 

そこにシャルロットが、シャルロット『だけ』が現れた。

 

「今度こそ助けに来ました!」

 

「あらあら? あなただけなの?」

 

(むう…)

 

舞台袖から様子を見ながら腕を組んでいた箒は内心に焦りを感じていた。

 

(あの二人、一体どこへ行ったのだ…!)

 

あの二人とは、飛び出した瑛斗、そしてそれを追いかけて未だ戻ってこない一夏である。

 

しかし舞台を中止することなど出来ず、唯一幸いだったのは、抜け出したタイミングが二人の出番が無いシーンが始まるところであったことだ。

 

だがそのシーンも終わり、現在のシーンは、ついに魔女との最後の戦い。つまりクライマックスである。

 

しかし、肝心の勇者役の瑛斗がまだ戻って来ていない。

 

「勇者はどうしたのかしら? まだ修行中? それとも怖気付いて来てないの?」

 

「そ、そんなことあるもんか! 勇者は必ず来る!」

 

脚本では勇者は先に魔女のところへ行った勇者の親友の後から遅れてくることになっているので、ある意味脚本通りなのだが、舞台袖に瑛斗が控えていないという、舞台も舞台裏も大ピンチな状況であった。

 

「へぇ、必ず来る…? どうかしら?」

 

マドカがセリフを言いながら箒に目で『戻って来た?』と問いかけるが、箒は首を横に振ることしか出来ない。

 

「し、仕方ないわね! ならばまずあなたから始末してあげる!」

 

いよいよやむなくアドリブで行くしかなくなった。

 

(何をやっているのだ瑛斗!)

 

箒は心の中でじだを踏んだ。

 

と、その時。

 

「すまん。遅れた」

 

「えっ?」

 

勇者の姿をした瑛斗が箒の横を駆け抜け、舞台へ躍り出た。

 

「……待たせたな。もう大丈夫だ」

 

「え、えい……勇者!!」

 

本当に名前を呼びそうになったが、そこは瑛斗が現れたことによって観客席から起きた大きな歓声がそれを隠してくれた。

 

「姫様っ! あなたをお救いするため、再び参上いたしました!!」

 

「勇者様…! あなたを信じていました!」

 

姫役のラウラのセリフは、瑛斗が間に合ったことの安堵から今まで以上に感情が篭っていた。

 

「や…やっと来たようね! 今度は楽しませてくれるのかしら?」

 

「今の俺は、あの時お前に負けた俺ではない! 覚悟しろっ!」

 

作り物だが精巧に作られた剣を構える瑛斗。

 

「な、なんとか間に合ったか……」

 

胸を撫で下ろす箒の後ろから、駆け足の音が聞こえた。

 

「よかった! ギリギリセーフだな」

 

一夏だ。

 

「よかったではない! 危うく大惨事だぞ! 馬鹿者!」

 

外には聞こえない程度の声でなじると、一夏は申し訳なさげに後頭部を掻いた。

 

「ご…ごめんごめん。瑛斗は簡単に見つけられたんだけど、その後が思った以上に手間取って」

 

「何をわけのわからないことを言っているのだ!」

 

「あ、後でちゃんと話すから、とにかく今は劇だ。ラストシーンも近いんだしさ」

 

舞台では魔女と勇者の戦いが終わり、魔女へとどめを刺そうとする勇者を姫が止めるシーンだった。

 

「おやめください勇者様!」

 

「なぜですか! この魔女は姫様を攫い、生贄にしようとしたのですよ!?」

 

「お願いします! 彼女は優しい人なんです! それでも殺すと言うなら、私も…!」

 

「姫様!? くっ…!」

 

勇者は剣を収め、膝をついている魔女に背を向ける。

 

「ど、どうして…助けたの?」

 

「あなたのお弟子さんから聞きました。あなたの昔のことを」

 

「えっ…」

 

「…! そう言えば、ここに来るまでに魔女の手下共がいなかった!」

 

「勇者様達が来る前に、あらかじめ彼女が逃がしていましたよ」

 

「魔女が…逃がした?」

 

「最初から儀式をするつもりなどなかったのです。忌み嫌われ、忘れ去られた自らの存在を世に知らしめるために、私を攫い、生贄にする儀式を行うと触れ回っていたのです」

 

「お姫様…あなたは知っていて……知っていて魔女付き合っていたの…!?」

 

勇者のお供の問いに姫は頷く。

 

「ふ…ふふ…ふふふ………バレちゃったわね。そうよ。私はただ、知ってほしかっただけよ!」

 

魔女は独白を始めた。

 

「ほんの少し…ほんの少し人と違うというだけで! 暗い山の奥に放り込まれて! 長い間その存在を封じられてきた!! 私が何をしたっていうの!? そっちが勝手に怖がってただけじゃない!」

 

魔女はその思いの丈を叫び、うなだれる。

 

「私はただ……私がいるってことを知ってほしかった………それだけなのよ…!」

 

勇者が魔女の横を通って檻を開けて、姫を檻の外へと出す。

 

「姫様、遅れて申し訳ありませんでした」

 

「いいえ。もういいのです。それよりも…」

 

姫は座り込む魔女へ近づき、話かけた。

 

「…よろしければ、城に来てください」

 

「城…?」

 

「あなたのことを誤解している人々へ、本当のことを話します。私の言葉なら、人々は信じるでしょう。お父様には私からお話しします。ですから…」

 

「…………………」

 

魔女は姫から目をそらして顔を伏せる。

 

「…行きましょう。姫様」

 

勇者が姫の手を引いて、お供を連れて舞台袖へ消え、照明がゆっくりと消えた。

 

「…瑛斗」

 

舞台袖に戻った直後、瑛斗はラウラに手をキュッと強く握られる。それだけで瑛斗はラウラの『後でちゃんと話せ』という意思を直感的に理解した。

 

「悪い。心配かけたな。さぁ、次はいよいよラストシーンだ。締まっていこう!」

 

準備が整い、合図が送られる。演者達は再び舞台へと出向くのだった。

 

………

 

……………

 

…………………

 

………………………

 

そしてラストシーンが終わり、カーテンコールとなった。

 

瑛斗達が頭を下げ、観客席から割れんばかりの拍手が送られる。

 

「意外といい話だったわね」

 

拍手を送りながら、鈴はそうつぶやく。

 

「うん…よかった」

 

「みなさんとっても素敵でした!」

 

「…いい劇。魔女にも、救いがあった」

 

簪、蘭、梢も鈴に賛同する。

 

「父さんもそう思ったでしょ?」

 

「ああ。劇はあまり見たことはなかったけど、いいものだったね」

 

幕が下りきって、顔を上げた瑛斗達はほっと息を吐いた。

 

「無事に終わりましたわね。一安心ですわ」

 

心持ち晴れやかな表情のセシリア。

 

「一時はどうなるかと思ったけど上手く出来たね!」

 

マドカも満足したようで、声を弾ませる。

 

「…それで、一体何があったのだ?」

 

ラウラの問いかけに瑛斗は一夏をチラと見やってから、意を決して口を開いた。

 

「実はな…」

 

 

医療室の扉を開けると、スーツ姿の織斑先生と山田先生がいた。

 

そして、二人が見るベッドの上には、目を閉じた楯無さんがいる。

 

「……千冬姉」

 

「おう、お前ら。来たか」

 

「あら? 織斑くんと桐野くんだけなんですね?」

 

ここに来たのは着替えを済ませた俺と一夏だけ。箒達は一般生徒達に勘付かれないようあえて来させていない。結城さんや御堂さんにも、他言無用を頼んでいる。

 

簪にさえ、教えていない。

 

「まったく、次から次へ怪我人を運んで来てくれる。対応するのも大変なんだぞ?」

 

「…それで、楯無さんの容態は?」

 

「身体中…主に前面に怪我をしていて……応急処置はしましたけど、かなり危険な状態です」

 

前面、と言われて楯無さんがエミーリヤに至近距離で《ミストルテインの槍》を使ったあの瞬間を思い出した。

 

(でも、前に見た時よりも小さかった。威力をセーブしてたってことか…)

 

「エミーリヤ・アバルキン…千冬姉は何か知らないか?」

 

「いや、初めて聞く名前だ」

 

「あ、私少しだけ知ってます。以前ネットニュースの記事で見ました」

 

山田先生が小さく挙手した。

 

「エミーリヤ・アバルキンは、ロシア国家代表IS操縦者となるはずでした。ですが、直前でその話はご破算になって、現在は軍でテストパイロットをしているとか…」

 

「今のロシア代表は更識……なるほど。目的は━━━━」

 

「復讐…ですよ」

 

下から声が聞こえた。見れば、楯無さんが目を覚ましていた

 

「楯無さん、気がついたんですね!」

 

「二人が助けてくれたのね…あは……おねーさんとしたことが、不覚を取ったわね…!」

 

そう言って楯無さんは起き上がった。

 

「ちょ、ちょっと楯無さん!?」

 

「ダメですよ更識さん! まだ動けるような状態ではないんですよ!?」

 

一夏と山田先生が慌てて楯無さんを止めようとするが、楯無さんはそれを手で制した。

 

「平気平気。自分のことは自分が一番わかっているものよ。この後は後夜祭でしょ? 私がこんなんじゃ示しがつかないわ」

 

「ですけど…」

 

「それに、瑛斗くんには早く行ってあげなくちゃいけない人がいるでしょ?」

 

エリナさんのことだ。確かにエリナさんも心配だけど…

 

「……いいだろう」

 

「織斑先生!?」

 

「千冬姉!?」

 

「本人が平気と言ってるんだ。問題無かろう」

 

先生は簡単に、しれっと言ってのける。

 

「そんなの!」

 

反論しようと口を動かした時、楯無さんは既に動き出していた。

 

「ほらほら、いつまでもそこにいるとおねーさんが着替えられないわよ? それとも…見たいのかしら?」

 

着ていた治療用の貫頭衣を脱ごうと手をかけている!

 

「楯無さん!?」

 

「わ! わーっ!? ななな何してるんですか更識さん! ふ、二人も見ちゃダメですよぉ!」

 

アタフタする山田先生に押されて、俺と一夏は部屋から出されてしまった。

 

「い、意外と元気だったな。楯無さん」

 

「まだわからんぞ。山田先生も言ってたけど、危険な状態なんだ」

 

「そっか…そうだよな。それで、瑛斗はどうするんだ?」

 

「エリナさんのところに行くよ。ちょうど隣の部屋らしいからな」

 

「わかった。俺は箒達に楯無さんは大丈夫そうだって言ってくるよ」

 

「頼む」

 

一夏の背中を見送ってから、俺は隣の部屋へと移動する。

 

「………………」

 

一度深呼吸してから扉を開けると、先客がいた。

 

「イーリスさん…」

 

「ん? やっと来たか」

 

ベッドの中で眠るエリナさんへ視線を向ける。

 

「命に関わるようなことは無いが、ひどく衰弱してるらしくて、いつ目を覚ますかはわからないそうだ…」

 

「そうですか……」

 

エリナさんの顔色は悪い。どれだけ辛い目に遭っていたのか、想像が出来ない。

 

「くそっ! エリナをこんな風にしやがって…! 許せねぇ!」

 

イーリスさんは自分の掌に自分の拳を打ち付けた。

 

「はい。許せません…」

 

俺も同じ気持ちで、拳を握る。

 

「………なぁ、桐野瑛斗、ところでなんだがよ」

 

「何ですか?」

 

「エリナのIS…どこにやった?」

 

「ヴァイオレット・スパークですか?」

 

「ああ。エリナのヴァイオレットの待機状態はネックレスだ。けどそれが無い。運んでる時に気づいたんだが、その時に聞く余裕が無くてな」

 

「……わかりません」

 

「わかりませんって、あのなぁ…」

 

「でも、ヴァイオレットは、G-soulの中にあるんだと、思います」

 

「どういうことだ?」

 

「G-soulのワンオフ・アビリティーのG-entrusted…ISのエネルギーを吸収、変換するだけだと思ってました」

 

ブレスレットになっているG-soulに視線を落として、俺はイーリスさんに説明する。

 

「でもそうじゃなかった。ヴァイオレットのエネルギーを吸収しきった後、今度はヴァイオレットの装甲が吸い込まれていったんです」

 

「吸い込んだ? ISをか?」

 

「はい…」

 

あの時の光景はそうとしか説明が出来ない

 

「それに、声が聞こえたんです。『ありがとう』って、聞いたことのない女の人の声が」

 

「言い訳だとすると、下手過ぎるな…」

 

「そんなんじゃありません!」

 

あれは幻覚じゃない。確かに起きた現象なんだ。

 

「わかってるから安心しろ」

 

イーリスさんは苦笑する。俺はもう一つ、ヴァイオレットを吸い込んだ後の話もすることにした。

 

「…それに、そのすぐ後…エミーリヤとの戦いで、G-soulの右腕が飛んだんです。ヴァイオレットのロケットパンチみたいに…」

 

「そうだ、そのエミーリヤはどうした?」

 

「逃げられました。楯無さんも危険な状態で、早く手当てをしなきゃいけなかったから追えませんでしたけど…」

 

「そうか。そりゃしゃーねぇ。しかしロケットパンチか…。今思えば、あの時、お前とやり合った時に襲ってきたアイツが、エリナだったのかもしれないな」

 

「イーリスさんも…そう思ってたんですね……」

 

あの時セフィロトで受け止めた鉄の拳。俺も心のどこかではもしかしたら、と思っていた。でも、確信を持つことが出来なかったんだ。

 

「へっ…軍を抜けてから何年経ったと思ってやがんだ。軍にいたころから使ってたもんを、今だに使ってるとはよ」

 

エリナさんはアメリカ軍にいた過去を持っている。俺もそれは知ってる。でも俺はそれ以上のことを、エリナさんの昔のことを、何も知らない。

 

「あの…イーリスさん」

 

「ん?」

 

「エリナさんって、どうして軍をやめたんですか?」

 

「なんだ? 知らなかったのか?」

 

イーリスさんは意外そうな顔をする。

 

「けどな…これはアタシが話していいもんじゃねぇ。エリナが目を覚ましたら、直接自分で聞いてみるんだな」

 

「…………………」

 

「どうした? 話してもねぇのに驚いた顔しやがって」

 

「いや…イーリスさんって、深く考えてる人だったんだなと思って」

 

口の悪さなんかがオータムに似てるから、結構話すもんだと思ったぜ。

 

「ハハッ、これでも国家代表なんでな」

 

「そ、そうですか…」

 

お、怒られるかと思った…。

 

「そうだ、アタシもしばらくここにいさせてもらうぜ」

 

「え?」

 

イーリスさんは唐突にそんなことを言い出した。

 

「エリナはいろいろと知ってそうだからな。目を覚ましたら聞かなきゃいけないことが山程あるんだ。ブリュンヒルデにも話はつけてあるから心配すんな」

 

「はぁ…俺は構いませんけど、どうするんです? まさか、どっかの誰かみたいに新任教師に? 騒がれませんか?」

 

「そこんとこも問題無い。任せとけ」

 

イーリスさんは不敵に笑う。どうやらやりようはあるみたいだ。

 

『2年1組、桐野瑛斗くん。2年1組、桐野瑛斗くん。生徒会長がお呼びです。生徒会室に駆け足で来なさーい!』

 

「楯無さん…」

 

スピーカーから楯無さんが俺を呼んでる声が聞こえた。明るい声だ。本当に元気なのか?

 

「ほら、ラブコールされてんぞ。行ってやれ」

 

イーリスさんに背中を叩かれる。

 

「わ、わかりました。ちょっと行ってきます。……あ」

 

「どうした?」

 

「イーリスさん、行く前にちょっとお願い聞いてくれませんか?」

 

 

「楯無さん…大丈夫なのか?」

 

後夜祭の会場となった第二アリーナ。その壇上に上がった楯無を、後ろから見つめる一夏。

 

壇上に上がるまでは笑顔さえ見せていたが、やはり心配は残る。

 

「…そう言えば、瑛斗は何してたんだ?」

 

「うん? あー、ちょっとな」

 

一夏の隣にいる瑛斗はポリポリと頬を掻いて視線を逸らす。

 

「それよか、これから俺達が入ることになる部活動が決まるんだろ?」

 

「そ、そうだな。どうなるんだ…」

 

二人が固唾を飲み込んだところで、壇上の楯無が口を開いた。

 

『えっと…みんな、まずはお疲れ様! 学園祭は大成功に終わったわ! これもみんなの頑張りのおかげよ!』

 

「「「「「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」

 

会場に集まった女子達が歓声を上げる。

 

『はいはい、静かに! …さてと、みんなもソワソワしてるから早速本題行っちゃいましょうか。男の子二人の今後について!』

 

待ってましたと女子達の声が一層色めき立つ。

 

「……ごくり」

 

「……ごくり」

 

瑛斗と一夏は表情にわずかに緊張を走らせた。

 

『二人の今後はぁ〜……!』

 

壇上の背後に、ババンッ!! という音と共に大型投影ディスプレイに二つの文字が映し出された。

 

 

その二文字は、『未定』。

 

 

『そう! 未定よ!』

 

「「「「「…………え?」」」」」

 

瞬間、会場にいる楯無以外の生徒達の頭に『?』が浮かぶ。

 

『実は集計前にちょっといざこざがあってね。それでまだちゃんとした集計が出来てないのよ。だからもう少しだけ待っててくれるかしら?』

 

続いた楯無の言葉に、安堵の息が広がった。

 

『みんなもの分かりがよくておねーさん助かるわ。男の子二人の今後は後日みんなで決めるとしましょ。それじゃあ、今日は打ち上げ、各自盛り上がっていこー!』

 

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」

 

再び上がった歓声を背に、楯無は壇上から降りるために脚を動かす。

 

「また勝手言ってくれちゃってー。振り回される身にもなってくださいよ」

 

「まあ、俺としては助かった気がするけどな」

 

壇上から降りてくる楯無に一夏と瑛斗が声をかける。

 

「………っ」

 

しかしそんな二人に答えることなく、楯無は段から足を滑らせて、ぐらり、と前に倒れかけた。

 

「楯無さん!」

 

瑛斗が咄嗟に支えて、転ぶことは回避できた。

 

「おいおい…本当に大丈夫なんですか?」

 

一夏も近づいて楯無の身を案じる。

 

「やっぱり休んでた方がよか━━━━」

 

不意に瑛斗は違和感を感じた。楯無に触れている右手が、ほのかに温かい何かに濡れている。

 

「………………!?」

 

瑛斗の手が、楯無の身体から滲み出た血によって赤く染まっていた。

 

(傷が…開いてやがる……!)

 

「た…楯無さんっ!?」

 

瑛斗の叫びと同時に、楯無は瑛斗の腕の中に崩れ落ちた。

 

 

瑛「インフィニット・ストラトス〜G-soul〜ラジオ!」

 

一「略して!」

 

瑛&一「「ラジオISG!」」

 

瑛「読者のみなさんこんばどやぁー!」

 

一「こんばどやぁ」

 

瑛「エミーリヤ・アバルキン…手強い相手だったな」

 

一「まだ倒せてないけどな。多分、きっとまた戦うことになる」

 

瑛「楯無さんも心配だ。ぶっ倒れるなんて、相当無理してたんだよ。楯無さんが早く元気になることを祈りつつ、今日の質問行こうか」

 

一「そうだな。それじゃ、竜羽さんからの質問! 更識&布仏姉妹に。更識に布仏以外の分家ってあるの?あったらほかにも同年代の幼馴染とかいるのですか?」

 

瑛「さあ! というわけで今日のゲスト!」

 

本「どもども〜。布仏本音で〜す」

 

虚「こんばんは。布仏虚です」

 

簪「よいしょ…よいしょ……」

 

瑛「か…簪、それなんだ? テレビ?」

 

一「またやけに古いやつ持ってきたな。ブラウン管のやつって」

 

簪「ちょっと待って……これを…こうして」(カチッ、ブゥン…)

 

楯『やほー! おねーさんよ!』

 

瑛「わあ!?」

 

一「た、楯無さんっ?」

 

本「わ〜、会長がテレビの中〜」

 

虚「ど、どういうことですか?」

 

楯『今ちょーっとそっちに行けないから、おねーさんはこうしてテレビで顔だけだして参加するわね。簪ちゃんにも協力してもらったわ』

 

簪「重かった…」

 

楯『ありがと、簪ちゃん♡』

 

簪「うん」

 

瑛「そ、それじゃ質問の方行きましょうか。更識の分家って話ですけど」

 

一「のほほんさんや虚さんの家の他にもあったりするんですか?」

 

本「うん〜? 私は知らないなぁ〜」

 

虚「私もそのような話は聞いたことありませんね」

 

簪「私も、知らない。お姉ちゃんは…?」

 

楯『………どうかしらねぇ』

 

一「な、なんか含みのある感じの言い方だ」

 

瑛「やっぱりある系? ある系なんですか?」

 

楯『あるかもしれないし、ないかもしれないわね』

 

瑛「な、なんですかそれ」

 

楯『結構シークレットな部分なのよね。読者さんからの質問だとしても、深く答えられないわ』

 

一「でも、いないって否定してないよな…」

 

瑛「こりゃいる方向だな」

 

楯『うふふ、想像を膨らませる分にはいいわ。今後の本編に期待しましょ』

 

瑛「なるほど…。それじゃあ次だ。グラムサイト2さんからの質問! 瑛斗に質問です。今IS以外の設計図を描いて作るとしたら、何を作りますか? お、俺に質問だな」

 

一「IS以外って言われると、流石の瑛斗も難しいか?」

 

瑛「ふっふっふ…」

 

本「きりりん?」

 

瑛「俺がいつまでもISだけだと思ったら大間違いだぜ? 前々からこういうののアイデアは作ってたのさ」

 

一「お、強気な発言」

 

楯『どんなものを作るつもりなのかしら?』

 

瑛「やっぱり人の役に立つものを作りたいよな」

 

一「ほうほう」

 

瑛「そこで面倒な『掃除』というものを楽に出来る画期的なアイテムを作ってみた」

 

虚「ちょっと期待しちゃいますね」

 

瑛「まず、あらゆるゴミを吸い込める吸引力! これは大事だな」

 

一「掃除機なのか?」

 

瑛「ただの掃除機だと思うな? なんと人工知能を搭載してる! 自力で動いてどこにゴミがあるのかを探すハイテクっぷり!」

 

本「わぁ〜、すご〜い!」

 

瑛「充電式で、エネルギーが無くなれば自分で充電スペースに戻る!」

 

一「……ん?」

 

瑛「そして狭いところにあるゴミも吸えるように平たく、なおかつ家具等を傷つけないよう丸みを帯びたボディを採用した!」

 

簪「瑛斗…それ、もうあるよ」

 

瑛「何ぃっ!?」

 

一「ル○バだな」

 

楯『ル○バね』

 

本「ル○バだね〜」

 

虚「ル○バですね」

 

瑛「な…なんてこった…! もう、あるのか…!!」

 

楯『逆に無いと思ってたのかしら…』

 

一「ま、まあ、IS専門ってところもあるし、瑛斗にしては、頑張ったんじゃないか?」

 

瑛「なんだその謎のフォローは! …くそぉ…今度はもっとすごいの考えるぞ。吸引力の変わらない掃除機なんてどうだろう……」

 

一「またどっかで聞いたことある感じのやつだな……」

 

簪「瑛斗は真剣。そっとしておこう」

 

楯『でもこのままだと進行に支障が出るわね。おーい、瑛斗くーん』

 

瑛「……はっ!? い、いかんいかん。我を忘れていた…」

 

楯「放送中だから、ちゃんと司会しなくちゃダメよ?」

 

瑛「さ、さーせん…えーと、次! カイザムさんからの質問! シャルロットに質問です!!日本の漫画ではよく18世紀頃のフランスが舞台となってる作品があるのですが、もしもシャルロットが18世紀のフランスに生まれてたら、どのような人生を歩んでたと思いますか?」

 

簪「シャルロットへの質問…」

 

瑛「というわけで今日二回目のゲスト!」

 

シャ「こんばんは。シャルロット・デュノアです」

 

瑛「18世紀のフランス…結構昔だな」

 

一「結構って言うか、かなり昔だぞ」

 

瑛「そんな昔にシャルが生まれたらってわけだが。シャル、どんなことしてるんだ?」

 

シャ「ど、どうなんだろう…僕にもちょっとよくわからないや…」

 

簪「…宿屋」

 

本「かんちゃん?」

 

簪「シャルロットは、宿屋の看板娘なんて、いいと思う」

 

瑛「その心は?」

 

簪「シャルロットは面倒見もいいし、料理とかも上手。イメージ的にはドラ○エみたいな感じで、やってほしい」

 

瑛「おー! 確かに! シャルならしっくり来るかも!」

 

一「久振りに来たなー、ドラ○エネタ」

 

シャ「そ、そうなの? イメージ通りなの?」

 

楯『シャルロットちゃんはどう? 実際言われてみて』

 

シャ「そ、そうですね…敢えて楯無さんの状況には触れないで答えると……瑛斗」

 

瑛「うん?」

 

シャ「も、もし僕が、その、宿屋さんをやってたら、来てくれる?」

 

瑛「そりゃ行くさ。もちろん!」

 

シャ「う、うん! わかった! 僕もそれがいいかなって思ってたんだ!」

 

簪「シャルロット…ちょっとズルい……」

 

瑛「……ん? おや、もう時間か。それじゃあエンディング!」

 

流れ始める本家ISのエンディング

 

瑛「今日はそこで会った五人に歌ってもらったぞ」

 

一「あの女の子達か」

 

シャ「一人だけちっちゃい子がいるね」

 

瑛「学年が違うそうだ。そうそう、それよりも何よりも」

 

本「どったの〜?」

 

瑛「あの五人な、なんでも不思議な力が使えるらしい」

 

簪「不思議な力?」

 

瑛「時間を止めたり、五大元素を操ったり、空間を作ったり、あるべき姿に戻したり、とか」

 

一「マジで? 全然そんな風には見えないぜ?」

 

瑛「俺も実際のところは見てないけどな。あと一人俺らと同じくらいの男子がいて、文芸部をやってるらしい」

 

簪「本当なら、是非見たい」

 

瑛「おお、簪が目をキラキラさせてる。…おっと、時間が。それじゃあ!」

 

一&シャ&簪&楯&本&虚「「「『「「みなさん!」」』」」」

 

瑛&一&シャ&簪&楯&本&虚「「「「『「「さようならー!」」』」」」」

 

???「おーい! みんなー!」

 

???「あっ! やっと来たわね!」

 

???「待ちくたびれちゃったー」

 

???「遅い…」

 

???「みんな待ってたんですよ」

 

???「まあまあ、いいじゃない」

 

???「ご、ごめんごめん。それじゃ行こうか」

 

一「なんか、俺らくらいの男子が来て連れてっちゃったぞ」

 

瑛「あー、彼だよ。もう一人の文芸部の男子」

 

一「へぇ! じゃあどんな不思議な力使えるんだ?」

 

瑛「全然熱くない、ぬるい黒い炎を出せるらしい」

 

一「え」

 

 

後書き

 

お待たせしました! ちょっと色々あって更新が遅れてしまってごめんなさい!

 

今回お送りいただいて、紹介されなかった質問コメントは、近々やるラジオISGスペシャルにて使わせていただきますので、ご安心を。

 

さて、今回の話を。エミーリヤとの戦いの中で、瑛斗は新しい力を手に入れました。エリナのヴァイオレット・スパークの能力と似ているのは偶然ではなさそうですね。エミーリヤは退けることは出来ましたが、まだ戦いは続くことでしょう。

 

そしてみなさん気になっている楯無は、後夜祭開始直後に倒れてしまいました。やはり無理が祟ったのでしょう。次に目覚めた彼女は何を思うのか。

 

次回は学園祭後の夜、そしてその後の話を書こうと思います。どれくらい後までいくかはまだ決めかねてます…。

 

次回もお楽しみに!

 

さりげなく、イーリスがレギュラー入り?


 
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