No.728708

かくてその剣は生きる。

チャイムさん

「ファンタジー作品で、ミスリル・オリハルコン・アダマンタイトを合体させた武器を見ないのは何故だろう?」
という疑問から発した一編。
もしかすると、こんな理由があったのかも。そんなお話です。

2014-10-08 12:26:32 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:486   閲覧ユーザー数:486

古の昔。

神々が地上に住み、竜が天に舞い、

悪魔もまた地上を闊歩していた頃。

 

悪魔の中より、彼らを統べる者が現れた。

魔王である。

その魔王を葬り平和を取り戻すべく、

神々の加護を受けた聖騎士と白竜が旅立った。

 

しかし如何に加護を受けようと、悪魔に対するには充分とは言えなかった。

悪魔達は魔王の指揮の下、武装していた。

その武装たるや、

岩を打ち砕き、鋼を切り裂き、しかして己が身にはかすり傷一つ残らぬという代物だった。

彼らはアダマンタイトの大鉱脈を掘り当て、

同じくアダマンタイトの欠片を用いて荒削りし、それを纏い武具としていたのだ。

彼らの乗騎となり手を貸す赤竜、黒竜もまたそれを纏った。

 

かたや聖騎士と白竜の武具は、

オリハルコンを混ぜいれた鋼に過ぎず、幾度となく切り裂かれた。

神々より授かった守護の印と治癒の秘儀、そして日々の鍛錬の賜物たる力と技が、

辛うじて彼と白竜、そして彼の出会った幾多の民を守り、悪魔達を葬った。

しかし魔王の軍勢とその武具は、前途を阻むには充分過ぎた。

遂には竜の恐るべき膂力により、疾風の如く天を駆ける戦車までもが現れた。

 

彼は魔王の軍勢を押し止める為、神々の助力を得て巨大な結界を張った。

そして一路、鍛冶氏族の市へと向かった。

鍛冶氏族は、地上が幾重もの氷の大河に覆われていた頃から、

石を掘り、金属を取り出し、星の数ほどの鋼を生み出した一族だった。

その姿たるや悪魔さながらの恐ろしさだが、

悪魔と幾度と無く相対してきた聖騎士と白竜は微塵も恐れなかった。

恐れよりも、使命を成就し平和をもたらさんとする意志が勝っていた。

神々の与えた印と秘儀をもって、

聖騎士は己が身の上とそれに課せられた使命を示し、

鍛冶氏族の長に謁見した。

 

彼の望みは一つ、悪魔に勝る武具を生み出す事。

その為に、彼は道中自ら数々の鉱石を集めた。

曇りなきミスリル。

炎の如く輝けるオリハルコン。

そして並ぶものなきアダマンタイト。

その一つ一つが大地の奇跡と称される鉱石を合一し、

唯一無二にして無敵の武具を生み出して欲しいと。

 

しかし長は大いに悩んだ。

彼は知っていた。何故それらを合一した無敵の武具が無いかを。

一つ一つは極めて強靭とはいえ、鉱石に過ぎない。

故に鍛冶氏族の炉でも、いや彼ら以外の炉でも充分に鋳溶かし鍛えられる。

しかしその全てを合一するには、

太陽と溶岩の灼熱が混じり合い形を成した、燃素のみを火種とする特別な炉が不可欠だった。

炎の化石たる燃素は、ひとたび石の眠りより解き放てば、遥か天に浮かぶ雲すら焼き払う程に荒れ狂う。

故に未だかつて、そのような炉を作り上げる事は出来ていないのだ。

鍛冶氏族の最も巨大で頑強な炉さえ、一かけらの燃素に耐えるのがやっとだった。

 

だが、神々の使命を一身に背負った聖騎士の願いを、無下に断る事など出来ない。

鍛冶氏族は、最も巨大で頑強な炉をもって、聖騎士と白竜の武具を鋳溶かし鍛え直す事を始めた。

秘儀にて傷は塞がれていれど、疲弊している事に変わりは無い。

そして聖騎士が持ち寄ったオリハルコンの半分を混ぜ入れれば、より強靭な鋼となる。

更に満月の下で精錬したミスリルをもって、武具の表面を薄く、しかし隙間無く覆い尽くす。

これで悪魔の魔術により強く耐える上、印や秘儀の効力をいや増す事ができる。

仕上げに急所となる箇所に、アダマンタイトの覆いを被せる。

混ぜ合わせる事は出来ずとも、重ね被せる事ならできる。

こうして、新たな武具が完成した。

聖騎士も白竜も、鍛冶氏族に大いに感謝した。

しかし、長の心は合点がいかなかった。

聖騎士の本来の願いは、三種合一の無敵の武具。

それを生み出せぬ現状が、どうにも我慢ならなかった。

そして、伝令鳥の知らせを受け旅立たんとする聖騎士と白竜に告げた。

どうかもう一度訪れてくれ、無敵の武具を必ず生み出して見せると。

聖騎士は必ず戻ると誓い、いち早く破られんとする結界の境目へと向かった。

 

聖騎士が発つやいなや、一族を挙げての大作業が始まった。

まず、最も巨大で頑強な炉を、より頑強に、より巨大に鍛え直す事。

その為に、聖騎士が残した地図を元に、

鉱石を集めたという場所を夜を徹して調べ、鉱脈を掘り出した。

そして聖騎士の武具に用いたのと同じ手法で、

オリハルコンを潤沢に含む鋼を作り、それを満月の下で精錬したミスリルで覆った。

更に魔術に秀でた者を集め、炉に幾重も守護の印をしるす。

月光を浴びたミスリルの力で、印の力はいや増した。

仕上げに脆い箇所にアダマンタイトを被せ、新たな炉が完成した。

それは鍛冶氏族の市の中で、最も巨大な建造物となった。

 

そして遂に、燃素をもって火を燈す時が来た。

掘り出した塊のままの燃素を、大砲をもってぶつけ合わす。

途端に炉は太陽の如く輝き、その表面が熱波に包まれ、天に向かって炎が立ち昇る。

しかし、それでも尚どこも溶け出さず、またひび割れる事も無かった。

市の全てが歓声に包まれた。遂に究極の炉が出来たのだ。

 

かくて本願の、三種合一の武具の製造が始まった。

だが、思いもよらぬ事態が起きた。

炉の熱は、三種の鉱石を混ぜ合わせるのに充分だった。

しかしその熱では、鉱石も燃え出してしまうのだ。

鉱脈の全てを使って辛うじて作り出せたのは、

武具の中の一つ、槍の刃先となるはずだった部位を用いた大剣だけであった。

これが一族の限界だと、長は悟った。

しかしその大剣は、これまで作り上げたいかなる武具よりも神々しい輝きを放っていた。

せめてこの一振りだけでも、あの聖騎士に渡したかった。

そして、聖騎士と白竜が戻ってきた。

聖騎士は片腕を失い、鎧兜もひび割れた悲壮な姿だった。

白竜もまた武具の全てが砕け、

翼も傷と穴だらけと化し、もはや飛ぶ事もできなかった。

その姿に、出迎えた者の全てが息を飲んだ。

しかし聖騎士と白竜の目からは、輝きは失われていなかった。

そう、彼らは勝ったのだ。魔王の軍勢に。そして魔王に。

 

長の下に訪れた聖騎士と白竜は、跪き礼を告げた。

一族を挙げて作り出された武具を纏う事で、自分達は武具に込められた想いを感じ取った。

そして新たな力を得られた。勇気という、何者にも勝る力を。

そのお陰で生き延び、そして勝つ事ができたと。

長は何も言わず、約束の品を、大剣を差し出した。

聖騎士と白竜は感嘆し、そして改めて礼を言った。

 

聖騎士と白竜は故郷に戻る前に、最後の頼みをした。

己が得た力の全てをこの大剣に込めた、あずかって欲しいと。

魔王には打ち勝ったが、完全に滅びた訳では無い。そして魔王だけがこの世の脅威ではない。

いずれまた大いなる災厄が訪れたその時、この大剣をもって世界を救えるようにして欲しいと。

そして聖騎士と白竜は去っていった。

鍛冶氏族はその願いを聞き入れ、市の最も深き地の岩に、それを突き立てた。

幾千年もの年月が過ぎた。

聖騎士と白竜は星となり、

神々も悪魔も地上を去り、

鍛冶氏族とその市もまた歴史の闇に消えた。

しかし大剣は朽ちる事無く、かの地に直立し続けた。

 

そしてかの地に、巨大な都市ができる。

その都市を、大いなる災厄が襲う。

逃げ惑う人々の中、一人の少年が駆ける。

地響きが轟くと共に、少年の目の前の大地が裂け、何かが現れる。

それは、あの大剣だった。

少年は戸惑いながらも、

宙に浮かぶその剣を取り、眼前より襲い来る災厄に向かっていった。

愛する者を、助け出す為に。

 

剣は、その想いに応えた。

 

 

かくて伝説は受け継がれ、紡がれる。

勇気ある者達の、想いと共に。


 
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