トールズ士官学院の特科クラス<Ⅶ組>……その発足というか、発起に至ったのは一人の人間の存在であった。
その人の名はオリヴァルト・ライゼ・アルノール。
エレボニア帝国の現皇帝、ユーゲント・ライゼ・アルノールの長子にあたるが、母親が平民であるために皇位継承権を持たない皇族。“天才”と自負しており、思考の柔軟さや思慮深さは帝国人たる“質実剛健”からかけ離れている。されど、その力を如何なく発揮したのは一昨年のリベールにおける一連の事件。
元々皇位継承権から離れており、貴族からすれば自身の発展や出世には中々縁がないと思っている輩が多く……だが、彼にしてみればそれが己の自由闊達さを磨く機会となった。その分周囲の身内の気苦労が増えたことも事実であるが。
その中で彼が出会った多くの人間……その出会いが、彼の帰国後の行動に繋がった。その出だしとなった彼の帝都帰還。本来ならば『アルセイユ』での帰還となるはずだった……帝国政府も情報局もその方向で調整を進めていた。
だが、そこにオリビエらしいインパクトを与える意味で、リベールからの粋な計らい―――アルセイユ級Ⅳ番艦『カレイジャス』を伴っての帰還。しかも、一時的ながらもその艦長には“光の剣匠”ヴィクター・S・アルゼイドを据える形で。これにはその企みの一端を知るオリビエですらも驚くほどであった。
これだけではなく、リベールの国家元首であるアリシア・フォン・アウスレーゼ女王陛下の帝国来訪……そして、『百日戦役』後に初めて実現したリベール王国とエレボニア帝国の首脳会談。この時、帝国政府代表のギリアス・オズボーン宰相はクロスベル方面での非公式会談のために不在であり、代理としてカール・レーグニッツ帝都知事が務めることとなった。この会談の中で話し合われた経済交流の促進……『百日戦役』でリベールに割譲された領地の取り決め……その仲介役としてオリビエもといオリヴァルト皇子が立役者となった。
『―――白隼と黄金の軍馬の邂逅!』
次の日の紙面はこんな見出しで始まり、帝国はおろか西ゼムリア地方はこの話題で持ち切りとなった。そんな帝国時報の紙面をひとしきり目を通した後、椅子に座るその当の本人が口を開いた。
「いやはや……リベール恐るべしというか、この場合はブライト一家恐るべしかな?」
「あれでいて、まだ切り札を残しているようだからな……というか、一躍時の人になったお前が他人事のように言うんじゃない。」
「流石に現実味がなくてねぇ。今まで自由に動いていた分のツケが回って来たかな。」
「あっさり認めたな。もう少し否定するかと思っていたが。」
そこは否定しない、とでも言いたげな表情を浮かべるオリビエ。目の前にいる親友―――ミュラー・ヴァンダールの言うことも解ってはいる。そう言われるのも無理はないことだ……ということも。
「確かに僕は彼等のお蔭で“土台”と“足がかり”を得たわけだ。とはいえ、あの御仁の強大さは簡単に揺らぐものでもない。セリカ君のお蔭で正規軍にも味方は出来たけれど、それでも大半は彼の影響が大きい。」
現実味がないということは当の本人が一番よく解っていることだ。だが、ここまでのお膳立てがあったとはいえ、打倒すべき“敵”の強さは未だに健在。幸いというべきか、早くも中立派の貴族や平民の支持を貰っていても盤石とはいいがたい……この先は自分次第なのだと。
「いっそのこと、彼を社会的に抹殺できればとても楽なのだがね……」
「さらっと恐ろしいことを言うな。この場にお二方がいたら絶対に引く発言だぞ。」
「とはいえ、だ。折角の立場もあるわけだし、ここは是非活用しないとね……てなわけで、一仕事頼めるかい?…………ということで。」
「正気か?確かに、年齢で言えば彼等に近いが。」
「何ものにも縛られないやり方をするとなると、これぐらいは生温い方さ。帝国らしからぬやり方でなければ、変えることもままならない。彼らがいい見本だからね。」
何かを考え付いたオリビエ。そして……時は流れて年が変わり、七耀暦1204年1月。
トールズ士官学院の学院長室。その部屋に入ってくるのは一人の教官。名前はサラ・バレスタイン。元々は帝国の遊撃士協会支部のエースであったが、ある事件を機にリベール王国の所属となり……そして、今は士官学院の戦術教官を勤めている。
「失礼します、学院長。って、オリヴァルト皇子殿下もいらっしゃってたのですか。」
「サラ君、ここは公ではないのだから“オリビエ”でも構わないのだがね。」
「い、いや、それは流石に……身内がアレですから。」
サラが皇族に対してここまで畏まる理由……それは、彼女の身内関係。彼女の戦いを指導してきたのはなんと皇族の人間。しかも、オリヴァルト皇子の叔母に当たる。命の恩人に等しい彼女繋がりもあってか、流石に畏れ多い態度は取れないのだ。別の意味で言えば染みついてしまった反応とも言える。
「やれやれ……さて、実は<Ⅶ組>に入学させたい生徒がいてね。これがそのリストだ。」
「拝見します……って、この三人ですか!?」
「サラ君には因縁がある相手だな……」
「何の嫌がらせですか、コレ。というか、よく先方が納得しましたね?」
渡されたリストを見て驚きを隠せないサラ。というのも、リベールからの留学生としてアスベルとラウラ、そしてルドガーのリストであった。実力的には申し分ないということ(そのうち2名は学生離れのレベル)をよく知っているだけに、彼等の<Ⅶ組>入りというのは驚きという他なかった。
その2日後、トールズ士官学院の会議室にはヴァンダイク学院長、理事長を務めるオリヴァルト皇子、そして3名の常任理事―――帝都知事を務めるカール・レーグニッツ、貴族派の有力人物でありオリヴァルト皇子に負けず劣らずの話題性を持つルーファス・アルバレア、そしてラインフォルト社の会長を務めるイリーナ・ラインフォルトの合わせて5名が集まっていた。
「さて、常任理事の皆さんにご足労願ったのは他でもなく、特科クラス<Ⅶ組>に関してだ。」
「この時期となると、後は細かな調整位でしょうが、我々が出てくるような案件は特にないと思うのですが。」
「確かに、4月の『特別実習』も既に段取りは決まっています。」
「ARCUSについても、既に最終調整を残すのみですが……理事長、本題の方をお願いできますか?」
特科クラスのテスト運用も既に完了し、後は入学生に対しての細かい事務手続き程度位しか残っていなかった。それだけで彼らが呼ばれるという理由には程遠い……理事たちの疑問に答えるように、オリヴァルト皇子が述べた。
「こればかりは皆さんの同意を得なければならないことでね……昨年の首脳会談で取り決められた『留学制度』。これを使って、トールズ士官学院に入学したいという志願者が2名出た。ここまで言えば、大方の予想はつくと思うが、その2名の生徒を<Ⅶ組>に編入させたいという。そして、もう1人の編入生を加えた3名を<Ⅶ組>入りに考えている。」
「ふむ……ですが、それだけではなさそうですね?」
「流石、察しがいいね。実は、これに合わせて紹介したい人がいる……っと、丁度到着したようだね。入ってくれて構わないよ。」
皇子の説明にルーファスは何かを察し、それに対して笑みを浮かべたオリヴァルト皇子……そして、入ってきた人物は帝国の服装ではなく、リベール王国の正装を身に纏った人物である。その人物というのは、
「お初にお目にかかります。シュトレオン・フォン・アウスレーゼと申します。若輩者でありますが、オリヴァルト皇子の要請に応じ、四人目の常任理事に就任いたしました。」
「見たところお若いですが……お歳は?」
「今年で18です。」
「これは驚いた……リベールの後継者はクローディア王太女殿下だけと思いきや、貴殿のような者もいたとは。」
「娘と変わらない歳の方が常任理事とは……大丈夫なのですか?」
「その点は心配しなくてもいい。彼は幼いころから政務に携わっていて、経験で言えばここにいる皆さんと同等の力を持っている。それについては、私が保証しよう。」
色々驚きを隠せない常任理事の3名……その後、常任理事と編入生の承認も滞りなく行われ、カール、ルーファス、イリーナの3名が帰った後、学院室に移動したヴァンダイク学院長とオリヴァルト皇子、そしてシュトレオン・フォン・アウスレーゼ……かつてシオン・シュバルツと名乗っていた少年であった。
「しかし、いいのかい?本名を明かして。」
「今更だし、あの御仁ならとっくに気付いているだろうからな。隠すってことはいつかバレることになるわけだし。だが、苦労するのはアスベルにルドガーの2人だな……ある意味とんでもない爆弾だぞ。お前、何するつもりだ?」
「彼等には“突破口”になってもらうのさ。どちらにせよ、彼等も帝国に関わりがあるわけだからね。」
(間違ってねーというのがなぁ……)
アスベルの出生に関してはある程度知っており、またルドガーの関わりについても知っているのだが……どちらにせよ、リィンのみならず2人も苦労する羽目になるというのが見て取れ、シオンは苦笑を浮かべた。これにはヴァンダイク学院長も苦笑いを浮かべる他なかった。
てなわけで、『前作』のシオン、本名名乗ります。これには本人なりの意図もあります。
閃Ⅱは黙々とレベリング。とりあえず例の○○○○○を何もさせずに粉砕してきます。該当者が多い? ヒント:この話のメインに出てきた人絡み
Tweet |
|
|
5
|
2
|
追加するフォルダを選択
幕間 Ⅶ組の運命が変わるきっかけ