サラの陰謀?によって旧校舎の地下に落とされた(わざと落ちた者もいるが)一行の行き先は、薄暗いが広めの空間に降りてきたようだ。先に落ちた面々に続いて、アリサを抱えたアスベル、それに続いてラウラ、ルドガー、フィーも無事に着地した。え?ラッキースケベハプニング?そんなの簡単に起きたら因果律を感じざるを得ません………と思いきや、
「………ラウラ」
「正直すまない……」
リィンの上に覆いかぶさるようにしている女子生徒……まぁ、解りやすく言えば、女子生徒の胸に顔を埋めた状態だ。原作に忠実という奴です。どうやら、ラウラの放っていたオーラで一瞬気が緩み、滑り坂の途中にあった僅かな段差に躓き……結果、そうなった。すると、女子生徒の方が先に目覚め、そのような状況になっていることに気づき、慌ててリィンを起こした。
「そ、その、ごめんなさい!!」
「いや、謝るのは俺の方なんだが、その、」
「「ごめんなs」」
その刹那、二人の頭がゴッツンコした。そして額を抑えて蹲る二人。一種のギャグと言っても差し支えないというか、意思疎通取れ過ぎです。周囲は完全に付いていけていなかった。あのアスベルとルドガーのふたりでさえも、である。
その流れを断ち切るかのように鳴る着信音。空気を読んだのか読んでいないのかはともかくとして、ここにいる全員に、入学式の案内書と共に送られてきた機械……導力器(オーブメント)のカバーを開くと、聞こえてきたのは先程ここにいる面々をこの地下に落とした張本人―――サラ・バレスタイン教官からであった。
『ハロー、聞こえてるかしら?それは特注の“戦術オーブメント”よ。』
通信機能持ちの戦術オーブメント……これにいろいろ驚く面々。とはいえ、そういったものを使いこなしているアスベルと、身近にオーバースペック疑惑の技術を肌で感じているルドガーにしてみれば慣れたものである。別に慣れたくて慣れたわけではないのだが。そんな状況などお構いなしにサラの説明は続く。
『そこにはご存知の人もいるけれど、それは第五世代型戦術オーブメント“ARCUS(アークス)”……ラインフォルト社とエプスタイン財団が主導で共同開発したものよ。まぁ、純帝国産ということではないのだけれどね。それじゃ、受け取って頂戴。』
その言葉とともに灯る光……各々の台座には、門で預けた荷物と小さな箱。サラの説明に不信感を抱く生徒もいるが、何はともあれ自分の荷物が置かれた台座に向かい、小さな箱から出てきた宝玉のようなクオーツ―――『マスタークオーツ』をARCUSの中央部に填め込むと、オーブメントから不思議な光が発せられた。そして、開かれる扉。どうやら、その先には魔獣が徘徊しているとのことだ。
『―――それではこれより士官学院・特科クラス”Ⅶ組”の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎1階まで戻ってくること。文句があったらその後に受け付けてあげるわ。何だったらご褒美にホッペにチューしてあげるわよ♪』
「そんなにしたいんなら、彼氏にでもしてあげてください。」
『あら、つれないわね~。そういう謙虚なアスベル君には二倍増しで……』
「全力で遠慮させていただきます。」
女性からのキスが嬉しくないわけじゃないのだが、何が悲しくて表向き未婚者のキスを貰わねばいけないんだ……これにはルドガーも同意見だったようで、アスベルの肩に手を置いて頷く。何はともあれ、12人の生徒が向き合ってこれからどうするかという時、先程の金髪の男子と眼鏡の男子―――ユーシス・アルバレアとマキアス・レーグニッツが独断での行動となった。そこに残されるのは10人の生徒。
「とりあえず、男女で分かれればいいかな。実力的なバランスからもその方がいいだろう……フィーにしてみれば、複雑だろうけれど。」
「仕方ないかな……めんどくさいけれど、そんなことを言ったらアリスに怒られちゃうから、頑張るけど。」
ともかく、アリサ、ラウラ、フィー、眼鏡の女子に先ほどリィンと衝突事故(頭突き的な意味で)を起こした金髪の女子生徒が先行し、男子の面々が残った。これには、ルドガーに対する配慮も込みである……そうなっているかは甚だ疑問であるが。
「さて、自己紹介だな。アスベル・フォストレイト……リベール王国出身だ。とは言っても、ここにいる面子全員顔見知りなんだけれど。というか、久しぶりだな。トーマたちは元気でやってるか?」
「ああ。まさか、再会出来るとは思ってもいなかった……ガイウス・ウォーゼルという。よろしく頼む。」
「僕はエリオット・クレイグ。よろしく、ガイウス。」
「リィン・シュバルツァーだ。よろしくな。」
「ルドガー・ローゼスレイヴだ。名字が長いので、名前で呼んでくれ。」
簡単に自己紹介を済ませ、互いの得物を見せ合うこととなった。ガイウスの十字槍、エリオットの魔導杖、リィンの太刀……そして、アスベルとルドガーの番となった。最初にルドガー。
「さて、俺のメインはこれだ。銃や鎚なんかも使うから、どの距離の戦闘もこなせる。」
「片刃剣の二刀流……」
「見るからにかなり使い込んでいるようだな。だが、切れ味は鋭そうだ。」
「ま、余り過度な期待はしないでくれ。さて、トリの番だぞ。」
「オチ担当みたいに言うな。俺の武器だが、これだ。」
そう言って取り出したのは、一本の太刀。それは、アスベルがこの世界に来た際に貰った物ではなく、真新しい太刀であった。
「リィンと同じ得物のようだな。」
「うちの国には優秀な職人がいてな。その人が入学祝ということで貰ったんだ……時価換算で数十万ミラ相当らしい。」
「そ、そんな代物を貰えるって……アスベルって何者?」
「リベール王国に住む一市民ですが、何か?」
「(それダウトに近いだろ)」
言いたいことは解るのだが、ルドガー……お前が言っても説得力無い。
何はともあれ、扉の先……旧校舎地下での魔獣の戦闘なのだが、こちらに手練れがいることにはいるのだが、この中では戦闘経験が乏しいエリオットの経験を積ませようということになり、これにはリィン等も同意した。多少なりとも経験があるアスベル、ルドガー、リィン、ガイウスの四人はともかく、基本的に魔獣との遭遇がない場所で過ごしてきたエリオットにとってはこのオリエンテーリングだけでも大変な経験になるであろう。現に、
「はぁ~………四人は余裕そうだね。」
「いや、流石の俺も三人には及ばないようだ。」
「そんなことはないけどな。エリオットだって、十分頑張ってると思うぞ。」
「……おや?誰か来たようだ。」
体力的な面では大きな差があるが、それを差し引いても戦闘のセンスはあると思う。彼の父親が父親なだけにというのもあるが、彼自身の資質も悪くはない。ここまで立て続けに戦闘だったので、疲れの色は見られるが。すると、向こう側から一人の男子生徒が来た……先程、ユーシスと口論になったマキアス・レーグニッツの姿であった。
「その感じだと、少し頭は冷えたようだな。」
「あ、ああ。先程はみっともない姿を見せてしまったみたいだな。いくら相手が傲慢な貴族とはいえ、冷静さを失うべきじゃなかった。すまない、謝らせて欲しい。」
「いや、気にしては無いよ。」
「入学式の案内書には書かれていないことを聞かされたら、困惑しても仕方ないと思う。」
「そうか……」
どうやら、他の面々が気になって引き返してきたようだ。自分らが最後に出発をしたということを伝えると、同行を申し出てきた。ここまでは予想できる範疇の内だ。で、マキアスは自己紹介の時に……
「……その、身分を尋ねてもいいか?」
その質問に悩んだのはアスベルとリィンの二人だ。リィンのほうは言わずもがなというか、名字を聞いた時点で聞いてくると思いきや、尋ねてこなかった。アスベルの方はというと、表沙汰に出来ないという自分の出生がある。
「僕の家は平民だよ。」
「俺の故郷では身分というものがないから、良く解らないな。」
「う~ん……俺なんて平民か貴族かなんて解らんからな。その問いには上手く答えられそうにない。」
「そ、そうだったのか……で、君たちは?」
「正直に言うけど……うちの家系、平民と貴族の家系。そう言った意味では両方の血を引いてる。ま、貴族というよりは平民そのものの生活だし。うちの国、殆どが平民だから。」
「貴族の血は引いてないかな……俺は肩身が狭いんだが。」
「まぁ、養子だからな。リィンは。というか、自己紹介の段階で気付くと思ったんだが?特にリィン絡みは。」
「え………確か、シュバルツァー……アイツと同じ、<五大名門>の息子!?」
やっと気づいたか……という表情を浮かべるリィン、アスベル、ルドガー。驚きを隠せないエリオット。そして首を傾げるガイウスと六者六様の様相を呈していた。そこに放たれたのは、アスベルの言葉であった。
「ま、嫌っても構わないけれど……単純に血筋、身分だけを見て本質を見ないのか?貴族だったら、自らの出生と身分を捨てろというのか?それは、その人は“人ではない”といわれるに等しいぞ。」
「……その、努力はするよ。」
「それでいいさ。」
その後、ユーシス・アルバレアとの遭遇で一波乱あり、双方を嗜める事態になったのは言うまでもない……やっぱ、実際に対峙すると厄介事って大変なんだと改めて実感したのであった。
現在、閃Ⅱの第一部(ノルドあたり)をまったりプレイ中です。小説をまったり書きつつ遠征管理してゲームプレイするって大変だわー(自分のせい)
アスベルの家系設定は『前作』を踏襲しています。
そういえば、星杯騎士が二名ほど帝国にいるとのことですが……その辺りがちゃんと判明したら、設定調整します。
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第6話 色眼鏡