休日の日、3人で買い物に行こうとメールで約束していたら、当日の朝寝ぼけた目を
擦りながら枕元に置いていた携帯に目をやると、通知の反応があったので確かめてみる。
「唯ちゃんからだ~…」
普段より少し遅めの起床だから、朝早くっていう表現はまずない。
そんな時間帯に来たメールを覗くと、眠たかった意識が一気に覚醒してしまった。
とても悪い意味で…。
「ってことがあってさぁ、唯ちゃん来られないって~」
「えぇぇ~、楽しみにしてたのに」
『ねー!』
ほぼ同時に同じように言うと、縁ちゃんがプッという可愛らしい笑い方の後に
いつもの楽しげな笑いを浮かべていた。
「あははは~。ぴったり揃った~」
「えへへ、ほんとだね」
「ね~」
いつも通りの雰囲気が漂ってる中でも、やっぱりあのツッコミが入らないと
ちょっと締まりが悪かった。
「いこか?」
「うん」
縁ちゃんの笑いが収まってきたら私は笑顔を浮かべて縁ちゃんに手をさし伸ばして
言うと、可愛らしく微笑みながら縁ちゃんは私の言葉に応えて頷いてくれた。
二人でそのまま予定の買い物と映画を見にいくことになるのだけど。
これって…デートって感じじゃないかい!?
口元がつい緩んでチラッと縁ちゃんの方を見ると露出の少ない服装だけど
風が吹いて揺れる中で見える足とか鎖骨の部分とか見てちょっとドキッとしていた。
手繋ぎたいなぁ~。させてくれるかなぁ。多分いつも通りに頼めばしてくれるのだろう
けれど今の私は友達と仲良く!って感じの気分じゃないからどこか変な風になりそうだ。
我慢するしかないのかな…。
とちょっと、悩んでいる素振りが外に出てしまったのか。
それに気づいた縁ちゃんが私の顔を覗き込んできた。
「どうしたの、ゆずちゃん?」
「わっ!」
完全に不意打ちをくらったような反応をして一瞬体が仰け反っていた。
その後も心配そうに私を見つめる縁ちゃんはにこっと笑って。
「やっぱり唯ちゃんいないと寂しい?」
「そ、そんなことないよ。ただ…」
「ただ?」
「縁ちゃんの手とつないでみたかったかなって」
そんなどうでもいいほど簡単なことができないほど今日の私は意識していた。
縁ちゃんは特に他意などなく私の言葉に軽く「いいよ~」って言ってくれた。
一度意識をしてしまうと普通の状態にはなかなか戻れないものである。
手を繋ぎながら一緒に歩いていて縁ちゃんの横顔をチラッと見ると
睫毛が長いなぁとか、髪綺麗だなぁとか。肌の手入れどうしてるんだろうなとか。
そんな細かいことにいちいち気にしてしまう。
いつものように、いつものようにしなくちゃって思って浮かんだのが
私が落ち込んでいたときに私に言ってくれた縁ちゃんの言葉が自然と口にしていた。
「愛してるよ」
「え?」
「な、なんでもな…」
言ったことが恥ずかしくて誤魔化そうとしたら私の言葉が言い終わる前に縁ちゃんは
微笑を浮かべて言ってきた。
「わたしも~」
天使のような笑顔に私は釣られながらも同じような言葉を返した。
私から言ったのに一見したら変なやりとりかもしれないけど、今はそれがとても
楽しく感じられた。
手をなるべく繋いでいる状態で唯ちゃんと3人で行く予定だった博物館や
金魚をメインにしたアートの展覧会を巡っていつもと同じように、普通に過ごしていった。
笑顔や驚きの声、笑い声、話し声。周りにいる人たちの声がわずかに感じるくらい。
二人の世界がそこにはできていた。
楽しいなぁ、このまま時間が経たなければいいのに。そんな非現実的なことが浮かぶ
くらい今が楽しすぎて浮かれていた。
でもそういう時に限って時間が経つのは早くてあっという間に日は傾き、帰りの途中。
それぞれの分かれ道にたどり着いて私たちはじゃあね、と手を振って別れた。
別れる予定だった…。
「ねぇ、縁ちゃん!」
「なぁに、ゆずちゃん?」
「その…家まで送っていこうか?というか、送らせて!」
「どうしたの、今日のゆずちゃんあまえんぼさん?」
「あう…」
自覚はしていなかったけれど、そう言われるとそんな感じがする。
今の私は縁ちゃんを欲していて少しでも長い時間一緒にいたいだけなのだと痛感していた。
そこに縁ちゃんは私に手を伸ばしてきた。いつもの笑顔のままで。
「行こう」
「え?」
「家まで送ってってくれる?」
「う、うん!」
不思議ともやっていた気持ちが少し晴れたみたいで、私は差し出された縁ちゃんの手を
取って一緒に歩き出した。ゆっくりと噛みしめるように。
「後で唯ちゃんにも連絡しておかないとね~」
「唯ちゃん後でうらやましがるだろうね、ゆずちゃんとこんな楽しく遊んだよぉって」
縁ちゃんの手の温度が心地良くて心がホッと落ち着くようだ。こんな子と一緒にいたら
家の人たちや親戚の人たちもそりゃ甘やかしたくなるだろうなぁって思える。
私が同じ立場だったら当然そうしている、と強く言えるくらいだ。
「後でメール、楽しみだねえ!」
「ねー!」
これだけ唯ちゃんの話をしているのに、あまり頭の中で唯ちゃんの顔が浮かばなかった。
それどころか、話せば話すほど縁ちゃんのことにしか意識が向いていない。
縁ちゃんは?
私と同じ気持ちでいてくれる?
そんなこと聞けるわけがないから適当な話を出してボケの応酬をしていた。
笑いながら、いくつ同じような展開の話を持ち上げただろうか。
良くも悪くも私はこういう話の持っていきかたは得意だったから話が尽きるという
ことはなかった。そんなことをしているうちに大きな塀を通って大きな門が見えてくる。
「あーあ、着いちゃった」
とは縁ちゃんの口から出た言葉。すっかり周りは暗くなってきて外灯が照らす
縁ちゃんの唇が濡れて光っていて綺麗に見えた。見惚れていた。
これ以上変な気持ちになる前に撤退しなければと思い、縁ちゃんの手を離そうと
した時。思いもしないくらい強い力で縁ちゃんは私の手を離さなかった。
「ゆずちゃんの鈍感…んん、それとも私と同じなのかな?」
「え、それはどういう…」
ちょっと拗ねたような顔をしていた縁ちゃん。
外灯のせいなのか少し顔が赤らめてるように見えたのは気のせいなのか。
でも気になるのは言葉の意味。
もしかして縁ちゃん…。
私が縁ちゃんの意図を考えようとした瞬間。
ふわっ…。
絹に包まれたように優しく柔らかくて暖かい。そんな感触が私の体を包み込んでいた。
それは縁ちゃんが私にハグをしてきたから、というのが一瞬遅れて理解できた。
小さい範囲を照らす外灯の下で二人抱き合っていて、縁ちゃんはくすっと笑いながら。
「ゆずちゃんも同じくらい気持ちいいよ~」
「私も…」
肝心の言葉は交わさずともこうやって触れ合うだけで落ち着くことができる。
穏やかな気持ちになれる、今はそれだけでも良しとすることにした。
それになんだか…私と縁ちゃんは同じような気持ちでいてくれる気がしたから。
確信する材料はないけれど何となくだけどそんな感じがしたんだ。
「じゃあね」
どちらからともなく言って振り返って歩きながら帰路に着いた。
家に戻ってからは風呂の準備が出来ているのを見て親に言われる前にお風呂場に向かって
シャワーで軽く流した後湯船に浸かった。
少しの間しかなかった夢心地な時間が湯船の中でゆっくり考えていると徐々に顔が
熱くなってボーっとしてきた。別にお風呂が熱くてなっているのとは違う感じ。
改めて思い返すと少しこそばゆい気持ちになるかも。
口元までお湯の中に沈めてから、ちょっと恥ずかしくてもそれでもさっきまでの事を
なぞるように思い出しては小さく笑いながら、なんだか…幸せな気持ちに浸っていた。
「ふへへ…」
天井に立ち上っていた湯気が雫になって頬に当たって冷たい感触がしてびっくりするが
それさえも幸せな想いを楽しませてくれる一つになっていた。
**
「あ、おはよう。昨日はドタキャンして悪かった」
「いいよいいよ、もう」
「ね~、唯ちゃんが羨ましがるくらい楽しんだんだからね!」
次の日の登校の時、珍しく先に縁ちゃんと私が顔を合わせて一緒に学校へ向かっていた。
いつも唯ちゃんと時間を合わせている縁ちゃんが私に合わせてくれたんだろうなって
何となく感じていたのを黙って受け入れた。
縁ちゃんにとってはいつも通りの反応が嬉しく感じてくれるだろうから。
私たちの様子を見て唯ちゃんは一瞬驚くもすぐに笑って背中を向けて歩き始める。
とはいってもいつも通りに私たちと並ぶように、でもちょっとだけずらして歩いていた。
「今日お前ら仲いいな~」
「えへへ、良いでしょ~」
そういつもと違うことに気づいた唯ちゃん。
それは私たちが手を繋ぎながら登校してきたことについて感づいているようだ。
決して特別な行動をしているわけではないけれど、私たちにとっては大事な一歩。
それを理解してくれている唯ちゃんが大好きだ。だから…。
「えへへ、唯ちゃんだいすき~」
「だいすき~」
「ちょっ、おいやめろ。こんなとこで!」
二人で揃って唯ちゃんに抱きついて大好きを連呼してからの唯ちゃんのカミナリ。
このやりとりでテンションをいつも通りにさせて学校の中へ入っていった。
唯ちゃんは好き。親友として。そして縁ちゃんは…親友から一つ抜けて恋心へと
進んでいった。これが片想いか両想いかまだわからないけれどこの気持ちを大切に
しながら縁ちゃんと接しようと思うのだった。
終
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話が被るかも~って感じながらの投稿。
前書いたのは読み返さない性質なのでだめだめですねw
今回はくっつくかくっつかないかっていうとこの感情の
行き来を表したつもりですがどうですかね。
人によってはグダグダかもしれません。
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